雪状炭酸圧抵法の真皮ノラノサイトにおよぼす作用...

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日皮会誌:94 (5), 583-598, 1984 (昭59) 雪状炭酸圧抵法の真皮ノラノサイトにおよぼす作用の研究 -C57BLマウス陰嚢皮膚を用いての研究- 1)C57BL-・ウス陰嚢皮膚には真皮乳頭層より上層 にかけて真皮ノラノサイトが多数存在している.従っ てこの陰嚢皮膚は真皮タラノサイトによる色素斑に対 する雪状炭酸圧抵法の機序を研究するモデル皮膚と,し て用いることが出来る. 2)光顕上,雪状炭酸圧抵後30分ですでにメラニソ穎 粒の真皮内拡散がみとめられ,ついで2時間後にー・ス ト細胞穎粒の拡散が顕著となった.圧抵後6時間で単 核球,白血球の浸潤がみられ,24時間後にそれらによ る貪食像がみとめられた.リンパ管内にもソラニンを 貪食した細胞がみとめられ,この貪食細胞の数は3日 目に著しく多かった. 3)電顕上,雪状炭酸圧抵後30分で膠原線維間に遊離 のメラノソームを多数認めたが圧抵後60分でほぼ消失 した.光顕上拡散した微小なメラニソ穎粒はこの真皮 内に遊離したメラノソームに相当すると考えられる. 圧抵後60分で局所リンパ節にノラニソ穎粒の増加がみ られ,又,マスト細胞内にメラノソームを多数みとめ た.しかし,圧抵後2時間でノラノフェージ,メラノ ソームを貪食したマスト細胞の細胞膜は完全に消失 し,タラノソーム,マスト細胞穎粒は再び真皮中に遊 離の状態で存在した.6時間後,多核白血球,単核球 が遊走して来,ノラノソーム及びマスト細胞穎粒を多 数貪食している像がみとめられた. 4)圧抵局所皮膚の経時的なSHプロテアーゼの活 性化は著しくなかった.又,プラスミソの活性化はみ とめられなかった. 5)雪状炭酸圧抵を繰り返すことにより真皮中のノ 近畿大学医学部皮膚科(主任 手塚 正教授) Hiroyuki Yamazaki: The investigation on the mechanism of the dry ice treatment for the der- mal melanocytosis. The effectsseenin the scrotal skins of C57BL mice 昭和59年1月5日受理 特掲 別刷請求先:(〒273)船橋市本町4 -43-15 山崎 紘之 ラニソ色素が減少する理由は,タラニソ穎粒が,a)痴 皮中に含まれて外界に去ること,b)リンパ節へ運ば れることにより減少するためである. はじめに 太田母斑に雪状炭酸圧抵を行った際,圧抵後30分で 電顕的に担タラノソーム細胞の膜は不明瞭になり,一 部のノラノソームは真皮中に膜に囲まれず遊離の状態 で存在していた.しかし圧抵後3日又は5日目ではこ のような遊離のyラノソームは全く認められず,真皮 中に観察されたノラノソームは全て細胞内に存在し, しかもこれらの細胞の大部分は空胞変性に陥入ってい た.同時にマッソソフォソタナ染色標本下で観察され た真皮ノラニソ量も無処置対照に比較して著しく減少 していたことを先に報告1)した.そこで本論文では,以 下の点につき検討した. ①真皮タラノサイトが存在する皮膚のモデルとし てC57BL -・ウス陰嚢が適当であるかどうか. ②太田母斑に雪状炭酸圧抵後生じた変化,即ち,真 皮中に遊離タラノソームが出現することがC57BLマ ウス陰嚢でも雪状炭酸圧抵後みとめられる変化である かどうか. ③遊離のyラノソームが出現するとして,この遊離 のメラノソームの消失するまでの時間とこれらのyラ Fig. 1 C57BLマウス.皮膚は陰嚢のみ着色

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日皮会誌:94 (5), 583-598, 1984 (昭59)

雪状炭酸圧抵法の真皮ノラノサイトにおよぼす作用の研究

      -C57BLマウス陰嚢皮膚を用いての研究-

           山 崎  紘 之

          要  旨

 1)C57BL-・ウス陰嚢皮膚には真皮乳頭層より上層

にかけて真皮ノラノサイトが多数存在している.従っ

てこの陰嚢皮膚は真皮タラノサイトによる色素斑に対

する雪状炭酸圧抵法の機序を研究するモデル皮膚と,し

て用いることが出来る.

 2)光顕上,雪状炭酸圧抵後30分ですでにメラニソ穎

粒の真皮内拡散がみとめられ,ついで2時間後にー・ス

ト細胞穎粒の拡散が顕著となった.圧抵後6時間で単

核球,白血球の浸潤がみられ,24時間後にそれらによ

る貪食像がみとめられた.リンパ管内にもソラニンを

貪食した細胞がみとめられ,この貪食細胞の数は3日

目に著しく多かった.

 3)電顕上,雪状炭酸圧抵後30分で膠原線維間に遊離

のメラノソームを多数認めたが圧抵後60分でほぼ消失

した.光顕上拡散した微小なメラニソ穎粒はこの真皮

内に遊離したメラノソームに相当すると考えられる.

圧抵後60分で局所リンパ節にノラニソ穎粒の増加がみ

られ,又,マスト細胞内にメラノソームを多数みとめ

た.しかし,圧抵後2時間でノラノフェージ,メラノ

ソームを貪食したマスト細胞の細胞膜は完全に消失

し,タラノソーム,マスト細胞穎粒は再び真皮中に遊

離の状態で存在した.6時間後,多核白血球,単核球

が遊走して来,ノラノソーム及びマスト細胞穎粒を多

数貪食している像がみとめられた.

 4)圧抵局所皮膚の経時的なSHプロテアーゼの活

性化は著しくなかった.又,プラスミソの活性化はみ

とめられなかった.

 5)雪状炭酸圧抵を繰り返すことにより真皮中のノ

近畿大学医学部皮膚科(主任 手塚 正教授)

Hiroyuki Yamazaki: The investigation on the

 mechanism of the dry ice treatment for the der-

 mal melanocytosis. The effectsseen in the scrotal

 skins of C57BL mice

昭和59年1月5日受理 特掲

別刷請求先:(〒273)船橋市本町4 -43-15 山崎

 紘之

ラニソ色素が減少する理由は,タラニソ穎粒が,a)痴

皮中に含まれて外界に去ること,b)リンパ節へ運ば

れることにより減少するためである.

          はじめに

 太田母斑に雪状炭酸圧抵を行った際,圧抵後30分で

電顕的に担タラノソーム細胞の膜は不明瞭になり,一

部のノラノソームは真皮中に膜に囲まれず遊離の状態

で存在していた.しかし圧抵後3日又は5日目ではこ

のような遊離のyラノソームは全く認められず,真皮

中に観察されたノラノソームは全て細胞内に存在し,

しかもこれらの細胞の大部分は空胞変性に陥入ってい

た.同時にマッソソフォソタナ染色標本下で観察され

た真皮ノラニソ量も無処置対照に比較して著しく減少

していたことを先に報告1)した.そこで本論文では,以

下の点につき検討した.

 ①真皮タラノサイトが存在する皮膚のモデルとし

てC57BL -・ウス陰嚢が適当であるかどうか.

 ②太田母斑に雪状炭酸圧抵後生じた変化,即ち,真

皮中に遊離タラノソームが出現することがC57BLマ

ウス陰嚢でも雪状炭酸圧抵後みとめられる変化である

かどうか.

 ③遊離のyラノソームが出現するとして,この遊離

のメラノソームの消失するまでの時間とこれらのyラ

Fig. 1 C57BLマウス.皮膚は陰嚢のみ着色

584 山崎 紘之

ノソームの運命について検討した.

 ④凍結にひきつづいて組織中に活性化される蛋白

分解酵素があるかどうか.もし認められるとして,真

皮担メラニソ細胞にみとめられた変化とどのように関

係しているか検討した.

      実験動物ならびに実験方法

 1)実験動物

 真皮メラノサイトを有する皮膚モデルとして生後5

週のC57BLマウスの陰嚢を用いた(Fig. 1).このマウ

スの陰嚢皮膚は外見的に黒く,後述するごとく組織学

的に,真皮乳頭層から真皮上層に多数のメラノサイト

が存在するが,基底細胞層にノラニン色素を殆んど欠

く特徴を有している

 2)実験方法

 マウスの陰嚢皮膚を予め脱毛クリームで脱毛後,雪

状炭酸を7秒間圧抵し,皮膚が常温に戻ってから再度

7秒間圧抵を行った.圧抵後30分, 1, 2 , 6 , 12時間,

1, 2, 3, 5, 7日後に生検を行った.生検標本は光顕

用に採取後直ちに10%ホルマリン水で固定,常法通り

゛ラフィソ包埋し,4μのパラフィソ切片を作成しヘマ

トキシリソエオジソ染色,ギムザ染色及びマッソン

フォソタナ染色,一部の標本にオルセイソ染色を行っ

た.又,処置前の陰嚢,リンパ節,および雪状炭酸圧

抵後30分, 1,2,6, 12時間後1, 2, 3, 5, 7日後の

所属リンパ節の標本をマッソソフォソタナ染色した.

又,無処置の陰嚢からクリオスタットで4~6μの標本

を作成し,DOPA反応を行った慌電顕観察用に陰嚢皮

膚を1m�に細切後, 2.5%グルタールアルデヒドで

4℃,2時間固定後1%オスミウム酸で1時間後固定

し,常法通り脱水, spurrレヂソに包埋した.超薄切片

は酢酸ウランと硝酸鉛で染色後Hitachi 12A電子顕

微鏡で観察した.酸性フォスファターゼ染色には生検

した陰嚢皮膚をOCT compoundに入れ液体窒素で凍

結後,クリオスタットで6μの切片を作りBowen3)の方

法に従って染色した.プロテアーゼの測定には10匹づ

っを一組とし,雪状炭酸圧抵後30分1, 2, 6, 12時間,

1, 2, 3, 5日後の陰嚢皮膚,及び無処置の陰嚢皮膚を

切除し液体窒素で凍結し直ちに凍結乾燥した. Willy

mm(Thomas社製)で粉末にし秤量後, 1/15M phos-

phate saline で抽出.抽出後Udakaら4)の方法に従っ

て陰嚢粉末中のSHプロテアーゼの活性値を14C-カゼ

インを基質として測定した.イソヒビターとしてSH

プロテアーゼに特異的なモノヨード酢酸5)を用いた.

プラスミソ活性の測定にはRobbinsの方法6)を用い

てI4Q.カゼインを基質として測定した.プラスミソの

特異的措抗剤としてロイペプチソ" (duplicateで行い

1試験管あたり4μg,14C,カゼインは0.5μci)を使用し

た.又,カリグレインの活性が生じているか否かを特

異的措抗剤であるトラジロール6)(各試験管2,000単位

づつ)を用いて14C-カゼインの分解に影響がみとめら

れるか否か検討した.

          結  果

 1) C57BLマウスの陰嚢皮膚真皮中の黒色穎粒を有

する細胞が真皮メラノサイトであるか否かの検討につ

いて

 a)光学顕微鏡所見

 HE染色標本で無処置のマウス陰嚢皮膚の真皮乳頭

層から真皮上層にかけて黒褐色の穎粒を有する細胞が

密に集合しており,それらは真皮メラノサイト様に細

長い細胞と比較的丸い細胞の2種類からなっていた

(Fig. 2-A).これ等の細胞中の黒色色素穎粒はマッソ

ソフォソタナ染色で黒色に染まったのでメラニソ穎粒

と考えられた(Fig. 2-B). しかしDOPA反応は陰性

であった.

 b)電子顕微鏡所見

 電顕的に見ると真皮内担jラノソーム細胞は2種類

見られ,その大部分はFig. 2-Cに示すような細胞で,

stage IVの成熟したメラノソームが細胞質内に弧立

性に散在しており,一部にstage Ill のメラノソームも

みとめられた(Fig. 2-E).又,この細胞は樹枝状に突

起を出し,その突起中にもノラノソームが認められた.

しかしこの細胞の周囲にはbasal lamina様構造8)9)は

認められなかった.このjラノソーム含有細胞はメラ

ノソームの分布様式と細胞の形態および生後1.5日の

同マウス陰嚢部皮膚に存在する担メラニン樹枝状細胞

はDOPA反応陽性であったので,真皮メラノサイトと

考えられる.もう一種類の細胞はFig. 2・Dのごとく細

胞突起を有せず丸い細胞で,メラノソームが塊状に集

合しメラノフェージと思われる細胞であった.した

がって光頭上認められた担jラニソ細胞の大部分は真

皮メラノサイトで一部メラノフェージが混じってい

る.井上1o)によれば太田母斑でも真皮担メラニソ細胞

は真皮jラノサイトとノラノフェージの混合である.

従って,この動物の陰嚢皮膚は浅在性に真皮yラノサ

イトを有する皮膚モデルとして使用出来ると考えられ

る.

 2)雪状炭酸圧抵による真皮メラノサイトの変化

 a)光学顕微鏡レベルでの変化

雪状炭酸圧抵法の機序

Fig. 2 A:マウス陰嚢皮膚,HE染色.B:マウス陰嚢皮膚,マッソソフォソタナ染

 色.C:担メラノソーム細胞電顕所見, stage Ill,IVメラノソームが弧立性に散在.

 basal lamina様構造はみとめられない.D:一部の担yラノソーム細胞はメラノ

 ソームが集塊をなしている.メラノフェージと思われる.E:Cの・一部(□)拡大.

 stage Illのメラノソームが認められる.

   (A,B:×175,C: X6,000,D:×9,000,E:×24,000)

 圧抵後30分では真皮上層の浮腫,毛細血管(↑)と

リンパ管(介)の拡張を認める(Fig. 3-A).真皮ノラ

ノサイトにはあまり変化は見られないが一部ではノラ

ニソ穎粒が真皮内に拡散しているのが認められた

585

(Fig.5-A↑,マッソソフォソクナ染色).圧抵後60分

では軽度の浮腫と浸潤細胞の増加が認められた(Fig.

3-B入マッソソフォソタナ染色では細長い細胞はより

減少し,微細なノラニソ穎粒は真皮中に増加,拡散し

586

- ` ゛

     {

ブ J″’E  ご……,j鐘iS

4ダ

`. I:‘しニ

 噺  ‥.・・

山崎 紘之

ていた(Fig. 5-B↑).圧抵後120分では著しい真皮の

浮腫と軽度の細胞浸潤が見られた(Fig. 3-C).マッソ

ソフォソタナ染色では細胞外に拡散したソラニン穎粒

の量は増大した(Fig. 5-C).圧抵後6時間では真皮上

層の軽度の浮腫,真皮深層の著しい浮腫とリンパ管(オ

ルセイソ染色で弾力線組に囲まれた内腔を有する

(Fig. 6-E))の著しい拡張がみとめられた(Fig. 5-D).

拡張したリンパ管中には小円形細胞がみとめられ,リ

Fig. 3 A:雪状炭酸圧抵30分後HE染色.B:雪状炭

 酸圧抵60分後HE染色.C:雪状炭酸圧抵120分後

 HE染色. (A, B, C:×85)

  介:拡張したリンパ管

  ↑:拡張充血した毛細血管

ソパ管の周囲組織にはギムザ染色で,拡散したノラユ

ソ穎粒とマスト細胞穎粒が多数凝集している像がみと

められた.毛細血管はうっ血状態にあった.圧抵後12

時間ではソラニンの拡散は依然として6時間目と同じ

程度に持続していたが,マスト細胞穎粒の拡散は減少

していた.真皮上層,深層の浮腫は6時間目と同程度

で,単核球,一部多核球の浸潤細胞の増加が著しかっ

た.拡張したリンパ管周囲には拡散したyラノソーム,

マスト細胞穎粒が極めて多数集合していた(Fig. 5-E

↑九真皮の毛細血管はうっ血状態にあり一部赤血球の

漏出がみとめられた.

 圧抵後24時間ではメラニソ穎粒は皮膚の一部で全て

微小な穎粒に拡散し,真皮深層にまで及んでいた.マ

スト細胞穎粒の拡散も減少傾向にあったが依然として

みとめられた.真皮上層,深層の単核球,多核球の数

は増加していた.真皮上層,深層の浮腫は6時間後と

同じ程度に存在し,リンパ管の拡張が著明で,その周

囲に微小なメラニソ穎粒が多数みとめられた(Fig. 5

-F↑).特徴的なことは,これらの微小なメラユソ穎粒

◇≒寸話~

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雪状炭酸圧抵法の機序

を貪食した細胞が,リンパ管内にみとめられたことで

ある.真皮上層の毛細血管のうっ血状態は部分的に消

失していた.圧抵後48時間ではメラニソ穎粒の拡散は

最も顕著で拡張したリンパ管周囲に集合し,それらを

587

Fig. 4 A:雪状炭酸圧抵3日後HE染色(激しい真

 皮の浮腫と,血管,リンパ管拡張).B:雪状炭酸圧

 抵5日後HE染色.C:雪状炭酸圧抵7日後HE染

 色. (A, B, C:×85)

  ※:リソパ管

貪食した細胞がリンパ管内およびその周囲に多数みら

れた.しかしマスト細胞穎粒の真皮内拡散はもはやみ

とめられなくなっていた.真皮の単核球,多核白血球

の浸潤は著しかった.真皮上層の毛細血管のうっ血状

態は殆んど消失していた.圧抵3日後真皮の浮腫は最

高に達し,血管,リンパ管の拡張,単核細胞の浸潤が

著明であった(Fig. 4-A).又Fig. 6-A, Dのように凍

結の強かったと思われる部位,すなわち痴皮形成を生

じている皮下の真皮では,細胞外に拡散しているごと

き微小なメラユソ穎粒の量は極めて多く,又痴皮中に

も多くのノラニソ穎粒が見られたが,全体的にみて真

皮中のタラニソ穎粒の量は著しく減少していた.一方,

24時間目の標本と同じように,マッソソ標本でタラニ

ソ穎粒を待った細胞が拡張した管腔内に存在する所見

が見られた(Fig. 6-D t).オルセイソ染色を行ったと

ころ,この管腔の内壁は弾力線組に囲まれており,リ

ソぷ管と判明した(Fig. 6-E↑).すなわち細胞外に拡

散したメラニソ穎粒を貪食したタラノフェージがリン

パ管内に侵入し,所属リンパ節へ移動している所見と

思われる.又,リンパ管周囲には同様のタラノフェー

588 山崎 紘之

      Fig. 5 マッソソフォソタナ染色

A:雪状炭酸圧抵後30分     B:雪状炭酸圧低後60分

C:雪状炭酸圧低後120分    D:雪状炭酸圧低後6時間

E:雪状炭酸圧低後12時間   F:雪状炭酸圧低後24時間

  (A, B, C, D. E. F:×85)

 A,B↑:微小化したメラニソ穎粒 E, F,↑:リンパ管周囲に集った

 微小メラニソ穎粒

雪状炭酸圧抵法の機序

ジと思われる細胞が増加していた.5日目,痴皮中に

は大量のyラニン穎粒が認められ,その反面真皮中に

は減少しており,担メラユン細胞は全て円形化し,メ

ラニソ穎粒は微小化していた(Fig. 4-B, Fig. 6-B).

これ等の所見は人間の太田母斑に雪状炭酸圧抵療法を

589

     Fig. 6 マッソンフォソタナ染色

  A:雪状炭酸圧抵後3日

  B:雪状炭酸圧抵後5日

C:雪状炭酸圧抵後7日※拡張したリンパ管(A,B,

 C:×85)

  D:雪状炭酸圧抵3日後マッソソフォソタナ染色

 強拡大.

   (*拡張した管腔)

   (分タラニソ穎粒を待った細胞)

  E:雪状炭酸圧抵3日後オルセイソ染色強拡大.

   (↑弾性線維膜)

   (介メラニソ穎粒を待った細胞)

590 山崎 紘之

               Fig. 7 電顕写真

 A:雪状炭酸圧抵後30分一遊離のメラノソームが多数認められる.

 分:マスト細胞穎粒

 B:雪状炭酸圧抵後60分一遊離のメラノソームは殆んどない.

  (△遊離のマスト細胞穎粒)

 メラノソーム,マスト細胞の細胞膜不明瞭の部分あり,↑:空胞,t:マスト細

胞が貪食したメラノソーム

 Me:yラノサイト,Ma:マスト細胞(A, B:×12,000)

施行した際みられた所見l)と酷似している.しかしな

がら圧抵7日後ではリンパ管の拡張のみ著しく真皮の

浮腫は減少,メラニソ量も減少し,タラニソ穎粒の拡

散および細胞浸潤はみとめられなかった(Fig. 4-C,

Fig. 6-C).

 酸性フォスファターゼ活性を各時間の生検標本のク

リオスタット切片で施行したが特に明瞭な活性を示す

部位は認められなかった.

 b)電子顕微鏡レベルでの変化

 雪状炭酸圧抵後30分で真皮担ノラノソーム細胞およ

びマスト細胞の細胞膜が不明瞭となり,真皮膠原線組

間に極めて多数のメラノソームおよびマスト細胞穎粒

(介)が遊離の状態でみとめられた(Fig. 7-A).これ

はタラニソ穎粒が微小な穎粒状に拡散していた光学顕

微鏡所見に一致する所見と思われる.又,周囲にはノ・

ラノソームを非常に多数,細胞中にとりこんだタラノ

フェージと思われる細胞が少数みとめられた.圧抵後

60分では真皮中に遊離の状態で存在するyラノソーム

或いはマスト細胞穎粒の数は著明に減少し極く少数と

なり,大部分のyラノソームはタラノフェージと思わ

れる細胞内,或いはマスト細胞内にみとめられた(Fig.

7-B).これらの細胞の細胞膜は尚,部分的に不明瞭で

あり細胞内に多数の空胞がみとめられた(Fig. 7-B

↑).この時点でみとめられたマスト細胞の穎粒はシノ

雪状炭酸圧抵法の機序

               Fig. 8 電顕写真

 A:雪状炭酸圧抵後2時間目:メラノソームの真皮内遊離とマスト細胞膜の完全

消失が著明.介:マスト細胞穎粒.B:雪状炭酸圧抵後6時間目:メラノソームとマ

スト細胞穎粒が真皮内に遊離の状態で存在し,これらを多核白血球が貪食している

像がみとめられる.

 介:-スト細胞穎粒,↑:ノラノソーム,合:貪食像,A:×8,500 B : ×3,400

メニソ注射後にみとめられる微細穎粒が消失,均質化

した穎粒11)にきわめて類似していた.又,細胞内には貪

食したと思われるタラノソームが多数みとめられた

(t).しかしながら,圧抵後2時間目の標本では担y

ラノソーム細胞,マスト細胞の細胞膜は完全に不明瞭

となり,再び膠原線維間にメラノソームとマスト細胞

穎粒(介)が遊離の形で多数みとめられた(Fig. 8-A).

圧抵6時間後では遊離のタラノソームとマスト細胞穎

591

粒の数は増加し,血管内および組織中に多核白血球と

思われる多核の細胞,或いは単核の細胞がみとめられ,

これらの細胞が遊離の状態で存在しているノ・ラノソー

ムおよびマスト細胞穎粒を貪食している像がみとめら

れた(Fig. 8-B S).光顕的には24時間後でないと貪食

像はみとめられなかったが,電顕的にみると単核球,

多核白血球の貪食は圧抵後6時間目すでに始まってい

ることがはっきりした.圧抵後3日目になると,光学

592 山崎 紘之

Fig. 9 電顕写真:雪状炭酸圧抵後3日目一全て正常のメラノフェージのみ認められ

 た.×6,000

顕微鏡所見と異り,真皮中に遊離のyラノソームは全

くみとめられなかった.活発な貪食像もみとめられず

担メラノソーム細胞は空胞を有せず,丸い単核の細胞

で,タラノソームを塊状に含有する通常みとめられる

メラノフェージのみであった(Fig. 9).

 3)雪状炭酸圧抵後の所属リンパ節所見

 無処置リンパ節の6個に検討を加えた.そのうち1

個のみに少数ではあるがメラニソ穎粒が存在した

(Fig. 10-A, B).通常の状態でも車丸皮膚のメラノサ

イトが何等かの機序で退行変性し,ノラニソ穎粒がリ

ンパ節に運ばれているものと思われる.この様な現像

は人間においても認められている12)雪状炭酸圧抵後

経時的にリンパ節のメラニソ色素の増加を検討してみ

るとFig. 10-C~F, Fig. 11-A~F, Table 1のよう

に,圧抵後1時間ですでに8個の局所リンパ節中7個

にメヅユソ色素が多数みとめられ対照に比し明らかに

増加していた.これはオルセイソ染色で確認したよう

に(Fig. 6-E),リンパ管から取りこまれたメラノ

フェージが所属リンパ節に到達したものと思われる.

リンパ節のノ・ラニソ色素量を経時的に検討してみる

と,圧抵後6時間目に極大に達し圧抵後3~5日目に

最大となることが明らかとなった.圧抵7日目ではメ

ラニソ色素量は減少しているのが観察された.メラユ

ソ穎粒のリンパ節以遠の行方について検討する目的で

圧抵を1週間1回,数回繰返したC57BLマウスの肝,

牌,腎を最後の圧抵より3日後検討したところ,対照

に比して牌細胞中にマッソソ染色で陽性のタラニソ穎

粒が少数存在する所見を得た.

 4)雪状炭酸圧抵後の陰嚢皮膚の生化学的変化

 a) SHプロテアーゼ活性について

 Fig. 12-Aにみられるように,この実験系ではアク

チベーター存在下でパパインの量が増量するにつれ

て,上清中のCPMも上昇しているが,イソヒビター添

加,あるいは両者無添加ではCPMの上昇は認められ

ないのでこの系はSHプロテアーゼの測定に用いる事

が出来る.この系を用いて雪状炭酸圧抵後,経時的に

採取,凍結乾燥後粉末化した陰嚢皮膚中のSHプロテ

アーゼ量を測定した(Fig. 12-B).

 乾燥重量あたりのCPMは無処置切片が最高で,雪

状炭酸圧抵後次第に低下している.この低下傾向はア

クチベーター添加と無添加の条件の間に差がなかった

が,イソヒビター添加条件ではCPMの値は更に低下

し軽度の抑制がみとめられた.更に皮片よりの抽出液

を予め100℃3分加熱した場合にはCPMの値はほぼ

零であった.

 b)その他のプ9テアーゼ活性,即ちプラスミソ活

性とカリクレイソ活性の上昇の有無について

 プラスミソ活性はFig. 13のように雪状炭酸圧抵後

雪状炭酸圧抵法の機序

        Fig. 10 所属リンパ節のマッソソフォソタナ染色

 A,B:正常対照リンパ節,Bは拡大.C:圧抵後60分の所属リンパ節.D:圧抵後

6時間所属リンパ節.E:圧抵後12時間所属リンパ節.F:圧抵後48時間所属リンパ

節. A, C~F:×34, B:×170

 △:メラニこぞ含有細胞

組織中の活性は低下し,2時間後に最低となった.そ

の後再び上昇して12時間後にピークとなり,桔抗剤添

加条件と多少の差がみとめられたが,12時間目以外の

時間では両者の間には全く差が生じなかった.

593

 又,カリグレインのイソヒビターであるトラジp-

ルを添加した条件と非添加の条件ではCPM/mg of

dry weightには全く差がみとめられなかった.

594 山崎 紘之

Fig. 11 A:雪状炭酸圧抵後3日目の所属リンパ節.△:.jラユソ穎粒.B:Aの拡大

 写真.C:雪状炭酸圧抵5日後所属リンパ節.D:雪状炭酸圧抵5日後所属リンパ節

 強拡大.E:雪状炭酸圧抵7日後所属リンパ節.F:雪状炭酸圧抵7日後所属リンパ節

 強拡大.

   (A~F:全てマッソソフォソタナ染色)(A,C,E:×34). (B, D, F:×340).

  雪状炭酸圧抵法の機序

Table 1 光顕的変化のまとめ

牡  メラニソ顎粒の拡散 マスト細胞顎粒の拡散

メラニソ頼粒(me)マスト細胞(ma)

   の貪食浸潤細胞 浮 腫  リンパ節メラこソ頼粒

30分 (十)~(士) (-) (-) (-) 乳頭層(十)深 層(士) (士)

60分 (十)~(升) (十) (-) (-) 乳頭層(十)深 層(+) (十)

120分 (升) (升) (十) 乳頭層   (-)深層一単核球

乳頭層(升)深 層(升) (十)

6hrs (升)~(併) (升)~(椎) (升) 単核球 乳頭層(十)深 層(併)

(升)~(併)

12hrs (升) (十)~(-H-) (十) 単核球主体多核白血球少数(升) 乳頭層(十)

深 層(升)(升)

24hrs (十)~(丑) (十)~(土) (十)単核球主体多核白血球 (+怜)

乳頭層(升)深 層(升)

(升)~(十)

48hrs (升) (士)~(-) (併)単核球   (併)多核白血球 (十)好酸球   (士)

乳頭層(土)

深 層(柵)

(升)~(十)

3days (升) (士) (升)単核球   (升)多核白血球 (+)好酸球   (太)

乳頭層(-)

深 層(十)(升)

5days (十)~(士) (土) (十) 単核球   (升)多核白血球 (十)好雅球   (十)

乳頭層(-)

深 層(士)(舟)

7days (-) (-) (十) 単核球   (士) (-) (十)

          考  按

 C57BLマウスの陰嚢皮膚の乳頭層から真皮上層に

かけて存在する黒褐色の色素穎粒を有する細胞は以下

の点より主として真皮メラノサイトであり真皮メラノ

サイトを有する皮膚のモデルとして適していると考え

られる.これ等の細胞が真皮メラノサイトである根拠

は,①色素願粒がマッソソフォソタナ染色で染まり,

タラ4ソ穎粒であること,②電顕的に樹枝状の突起を

有する細胞でstage Ill, IVのメラノソームを有する

事.③これ等のメラノソゞムはライソソーム膜に被覆

されず弧立性,散在性に細胞質内に存在すること,④

出産直後より経時的に同マウスのI陰嚢部位をマヅソソ

フォソタナ染色で観察すると,まず真皮中層に少数の

陽性樹枝状細胞が出現し,次第に数が増加するが,こ

の時点では表皮細胞層には陽性細胞は存在しない13)の

で基底細胞中のメラニソ色素を貪食したメラノフェー

ジとは考えにくい事.⑤および生後5日目までの陰嚢

部皮膚真皮担メラニソ細胞はDOPA反応陽性である

事の5点からである.

次に陰嚢皮膚に雪状炭酸圧抵を行った場合にみとめ

られた変化は,光顕的にメラニソ穎粒およびマスト細

595

胞顧粒の微細頼粒状の周囲組織への拡散と真皮の著し

い浮腫,毛細血管,リンパ管の拡張,単核細胞と多核

白血球の浸潤である.これ等の変化はすでに報告1)し

たように太田母斑に雪状炭酸圧抵法を行った際,経時

的に認められた皮膚の変化と全く同様の所見である.

陰嚢皮膚に雪状炭酸圧抵法を行った後,30分以内に凍

結による直接作用によって細胞膜が破綻しよラノソー

ムは細胞外に遊離するが,圧抵後60分では遊離のメラ

ノソームの数は減少し,マスト細胞内にメラノソーム

が多数認められるようになった.,しかし,圧抵前々ス

ト細胞内にメラノソームは認められなかったので,圧

抵による直接作用により遊離したメラノソームの一部

はマスト細胞によ・り貪食されたと理解できる.又,圧

抵後60分で局所リンパ節のjラニソ穎粒を貪食した細

胞数が増加したので(Table 1),遊離したタラノソー

ムの乙部は局所リンパ節に運ばれたと考えられる.そ

の後遊離のjラノソームを貪食したマスト細胞,jラ

ノフ太一ジは細胞膜が不明瞭で,多数の空胞を有して

おり,これらの細胞が次第に退行変性に陥入って細胞

膜が破綻し貪食したメラノソームおよびマスト細胞顎

粒が他のオルガネラと一緒に真皮内に120分後再び遊

596 山崎 紘之

‾:アクチベ・-ター漏・

---’‘:インヒビター添細

a一々-4:舞添加

      ・・                μ9{バパイッ}

Fig. 12・A SHプロテアーゼ(パパイソ)の酵素活性.

CPM/ of dry weight

(+)

Fig. 12・B 雪状炭酸圧抵法を施行し,経時的に採取したマウスの陰嚢皮膚のプロテ

 アーゼ活性値.

離することが判明した.これらの穎粒はこんどは圧抵

後,6時間目から遊走してきた単核球又は多核球に

よって貪食され圧抵後7日までに消失した.又,この

貪食は圧抵後2~3日で最大となることが観察され

た.雪状炭酸圧抵後真皮膠原線維閣に遊離の状態でみ

とめられたマスト細胞穎粒はシノメニソ注射後11)お

よびcompound 48/80処理後16)の脱穎粒したマスト細

胞穎粒の一部に類似し,更にSonicationによって分離

されたラット腹腔マスト細胞頼粒17)の一部にもよく類

似しているので,形態のみでこれらの頼粒が脱穎粒に

よって生じたのか,或いは細胞膜が凍結により破綻し

たために生じたのか判定できない.しかし,数回圧抵

を繰返した太田母斑皮膚では真皮マスト細胞は著明に

減少していた1)こと,マスト細胞は通常脱穎粒後5

~6時間で回復する18)ことを考慮すると,雪状炭酸圧

抵後には主として凍結による細胞膜破綻のために遊離

のマスト細胞穎粒が生じたものと考える.一方,真皮

内に放出されたノラニソ穎粒の行方の一つは痴皮中に

含まれて外界に消失する方向で,太田母斑", C57BLマ

ウスのいずれも程度の差はあれ認められた.圧抵の程

度が強いほど痴皮中のメラニソ穎粒は著明であった.

次の行方はリンパ節に運ばれる可能性で,上述のよう

にC57BLマウス陰嚢皮膚に雪状炭酸圧抵後1日目で

メラニンを貪食した単核細胞が多数真皮リソパ管内に

存在する像がしばしば認められた.又,一方真皮メラ

ニソ穎粒の減少,炎症反応の消長と対応して,圧抵後

3~5日目を最大として所属リンパ節内にメラニン穎

粒を貪食した細胞の数の増加が認められた.・したがっ

て真皮に放出されたノラニソ頼粒の中で,痴皮に混入

して外界へ運び去られる・・ラニソ穎粒,および血管周

囲性に定着する組織球に貪食されたメラニソ穎粒以外

は上述の過程を経て遊離の組織球及び多核白血球に貪

CPM/mg 01 dry w●・iffht

雪状炭酸圧抵法の機序

Fig. 13 プラスミソの活性値およびカリグレインの活性値.マスト細胞穎粒の遊出度

 合と細胞浸潤の程度.

食され,リンパ節へ運ばれるものと考えられる.しか

しながら所属リンパ節中のメラニン貪食細胞の増加は

継続的でなく圧抵後5日目が最大であった.大熊14)に

よれば刺青の際にも同様の所見が認められるとの事

で,これ等のメラニンを貪食した組織球は所属リンパ

節に留まらず,更に遠位のリンパ節,ついで血中に流

入するものと思われる.我々もこの事を確認すべく,

圧抵を数回繰返したC57BLマウスの局所リンパ節,

肝,肺,牌,腎を検討したところ,ごくわずかではあ

るが牌臓中にメラニソ色素を検出することが出来た.

次にこれ等のjラニン色素を貪食した組織球のライソ

ソーム酵素である酸フォスファターゼ活性が増大する

か否かの実験では,我々が用いた方法がアソ色素法で

あった為か或いはメラニソ色素に邪魔された為か,明

瞭なアソ色素の沈着を認める事が出来なかった.した

がって,組織化学レベルでは特に酸性フォスファター

ゼ活性の上昇した細胞はみとめられなかった.一方生

化学的なプロテアーゼ測定実験結果から,マウスの陰

嚢皮膚には或る種のプロテアーゼが存在し,雪状炭酸

圧抵により遊離し,その後漸減することが判明した.

この活性値の漸減はinhibiterの出現5)と,プロテアー

ゼの組織からの流出の双方によるものと考えられる.

このプロテアーゼの種類は熱傷の際に易熱性のSHプ

ロテアーゼが活性化されるとの報告15)もあるが,我々

597

の実験結果からこのプロテアーゼはアクチペーター添

加条件下で著しく活性化されなかったのでSHプロテ

アーゼが主体ではないと考えられる.又,プラスミノー

ゲソの活性化が生じてプラスミソの遊離も生じている

証拠も得られなかった.しかし,このプロテアーゼは

加熱により失活するので,易熱性プロテアーゼが存在

することは間違いないと考えられる.このプロテアー

ゼの活性出現の時間的経過とマスト細胞の崩壊の時間

的経過ならびに浸潤細胞の増加曲線はFig. 13のよう

にそれぞれずれており,このプロテアーゼにはマスト

細胞由来と,浸潤単核球又は白血球由来の両方が混在

しているのではないかと考えられる.このプロテアー

ゼの精製,同定については機会を改めて述べることに

する.圧抵後生じた組織変化の消長と,プロテアーゼ

の活性の消長は一致しているので,皮膚に生じた炎症

にプロテアーゼが一役を演じていると考えたい.

          まとめ

 1) C57BLマウス陰嚢皮膚には真皮メラノサイトと

少数のjラノフェージが存在し,浅在性に真皮jラノ

サイトを有する皮膚のモデルとして適していた.

 2)電顕的に真皮メラノサイト周囲にbasal lamina

様構造はみとめられなかった.

 3)光頭的に雪状炭酸圧抵後30分ですでにソラニン

穎粒の真皮内拡散がみとめられ,ついで2時間後にマ

598 山崎 紘之

スト細胞穎粒の拡散が生じた.圧抵後6時間経て単核

球,多核白血球が浸潤し,24時間後には貪食像がみと

められた.リンパ管内にもyラニン穎粒を貪食した細

胞がみとめられた.    ‥

 4)電顕的に雪状炭酸圧抵後30分の生検で真皮膠原

線維間に遊離のメラノソームを多数みとめた.圧抵後

60分では遊離のメラノソームの数は減少しマスト細胞

内に多数のメラノソームが貪食されていた.しかし,

マスト細胞,担メラノソーム細胞は多数の空胞を有し,

細胞膜も不明瞭であった.圧抵後2時間では,再び真

皮内に遊離のメラノソームが出現し,マスト細胞の細

胞膜も完全に不明瞭となり,マスト細胞穎粒が遊離の

状態で存在した.圧抵後6時間では,単核球,多核白

血球が多数出現し,ノラノソーム,マスト細胞穎粒を

貪食している像がみとめられた.圧抵後3日目では遊

離のタラノソーム,マスト細胞穎粒は全くみとめられ

                          文

1)山崎紘之:太田母斑に対する雪状炭酸圧抵法の作

  用機序,西日皮膚,(投稿中).

2)佐野 豊:DOPA酸化酵素,組織学研究法,理論

  と術式.南山堂,東京, 1979, 523頁.

3)小川和朗,藤本 和:酵素の光頭的電禰的組織細

  胞化学の最新技術一ホスファターゼ類の検出一.

  組織細胞化学の基礎と応用.日本組織細胞化学会

  編,学術企画, 1978, 1-24頁.

4) Udaka, K.: Study on the role of sulfhydryl

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  gic inflammation, KumamotoMedimlJ・,16:

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5)高柳高明:蛋白分解酵素阻害物質,酵素阻害物質.

  共立全書,東京, 1979, 7頁.

6) Robbins, K.C. & Summaria, H.: Human Plas-

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  zymology, Vol. 19 : 184-199, 1970.

7)高柳高明:蛋白分解酵素阻害物質,酵素阻害物質.

  共立全書,東京, 1979, 15頁.

8) Hori, Y., Niimura, M。Ohara, K. & Kukita, A.:

  Electron microscopy Ultrastnictural observa-

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  melanocytes in the nevus of Ota, Amer. J.

  De。tatopath。4 ■. 245-251,1982.

9) Yamauchi, A., Okawa, M。Okawa, Y. & Ito,

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  melanocytes in nevus Ota. Biology and diseases

  of dermal pigmentation ed. by T.B. Fitzpatrick,

  A. Kukita, F. Morikawa, M. Seiji,A.J. Sober &

ず,正常のjラノフェージのみみとめられた.

 5)局所リンパ節では圧抵後60分で.・4ラニソ穎粒が

多数認められ,圧抵後6時間目が極大で,圧抵後3~5

日目に最大となり,7日目では減少していた.

 6) SHプロテアーゼ,プラスミノーゲソの活性化を

検討したところ,圧抵後12時間目にSHプロテアーゼ

の極く軽度の上昇がみられたが,プラスミソの活性は

全くみとめられなかった.しかし,他のプロテアーゼ

の活性化が,圧抵後2時間目より12時間目をピークと

して増加しているごとが明らかとなった.

 7)雪状炭酸圧抵法を繰返すことにより,局所真皮中

のノラニソ穎粒の減少する過程は,a)経痴皮,b)経

リンパ節の2通りがあることが明らかとなった.

 本論文作成にあたり色々と御指導を賜った近畿大学手塚

正教授に感謝いたします.

献                ト

   K. Toda, University of Tokyo Press, 1981, pp.

   77-82.

 10)井上勝平:太田母斑,皮膚科の臨床,10 : 122-136,.

   1968.

 11)須藤守夫:肥満細胞の形態と機能,代謝,13 :

   367-377, 1976.

 12)佐藤昌三:jラノソームの超微構造,現代皮膚科

   学大系3A,皮膚の構造と機能I,中山書店, 77-93,

   1982.

 13)手塚 正,山崎紘之; C57BLマウス陰嚢皮膚の真

   皮jラノサイトについてー太田母斑モデル動物の

   可能性について,日皮会誌. 94,印刷中, 1984.

 14)大熊守也:私信.

 15)林 秀男,河野 正,山本俊輔,吉永 秀:炎症と

   プgティアーゼ.蛋白分解酵素と生体制御, 99-124

   頁,村地 孝,浅田敏雄,藤井節郎編集,学会出版

   センター,東京, 1980.

 16) Rehlich, P., Anderson, P. & Univas, B.:

   Electron microscopic observations on com-

   pound 48/80・induced degradation in rat mast

   cells, J. Cell Biol.,51: 465-483, 1971.

 17) Anderson, P., Rohlich, P., Slorach, S.A. &

   Univas, B.: Morphology and storage prop・

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   different methods,Arch. Phvsiol.Scand.,91:

   145-153, 1974.

 18)須藤守夫:肥満細胞の形態と機能,代謝,13 :

   367-377, 1976.