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知識ゼロからものづくりを学ぶ「機械設計エンジニアの基礎知識」
金属材料の基礎を学ぶ
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【 目 次 】
1. 機械設計と材料選択 ..................................... 5
1-1. 機械的特性 ........................................... 5
1-1-1. 強度 ..................................................... 5
1-1-2. 加工硬化 .............................................. 6
1-1-3. 硬度 ..................................................... 6
1-1-4. 衝撃特性 .............................................. 6
1-1-5. 疲労 ..................................................... 7
1-2. 物理的特性 ........................................... 7
1-3. 化学的特性 ........................................... 7
2. 各種機械材料 .............................................. 8
2-1. 鉄鋼材料 ............................................... 8
2-1-1. 炭素鋼 ................................................. 9
2-1-2. 合金鋼 ................................................. 9
2-1-3. 鋳鉄・鋳鋼 ........................................ 10
2-2. 非鉄金属材料 ....................................... 11
2-2-1. 銅合金 ............................................... 12
2-2-2. アルミニウム合金 ............................. 12
2-2-3. マグネシウム合金 ............................. 13
2-3. その他の機械材料 ................................. 13
2-3-1. セラミックス..................................... 14
2-3-2. プラスチックス ................................. 14
2-3-3. ゴム ................................................... 15
2-3-4. FRP .................................................... 15
3. 強度理論(材料別による破損) ................... 17
3-1. 最大主応力説 ....................................... 19
3-2. 最大せん断応力説 ................................. 19
3-3. せん断ひずみエネルギー説 .................... 19
3-4. 延性金属材料 ....................................... 20
3-5. 脆性材料 .............................................. 20
4. 破壊靭性(はかいじんせい) ....................... 21
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1. 機械設計と材料選択
機械設計を行う上で材料選択は重要項目の一つとなります。機械設計にあたって使用する材料の特性を適切に
利用しなければなりません。そのためにまず必要な材料の特性をしっかり理解しておかなければなりません。材料
特性には、「機械的特性」、「物理的特性」、「化学的特性」 などがあります。
それでは、この3つの特性について、具体的に説明します。
1-1. 機械的特性
機械に使用される機械材料には、それぞれ特徴や機能性を有しています。機械的特性を十分理解することで、ど
の機械的特性を用いれば設計したい機械要素の材料を選択できるのかを知ることが出来ます。
この機械的特性は試験により算出することもできますし、一般的な材料については、工業規格である JIS を参照す
ることで知ることができます。JISなどに記載されている機械特性値は、次に説明するものが記載されています。
1-1-1. 強度
材料に外力が加わることで材料内部に応力が発生します。
この内部応力の大きさがその材料の限界を超えた時、材料は破壊します。この破壊に対する強さを静的強度とい
います。
静的強度の中でも一般的でよく使用されるのが 「引張強度」です。例えば、ロープを引っ張った時に耐えうる強度
です。金属材料の物性表を調べると、必ず引張強度の記載があります。
静的強度は荷重のかけ方の違いによって分類できます。
引張強度の他に、「圧縮強度」、「せん断強度」、「曲げ強度」、「ねじり強度」 があります。材料の使用形態によって、
これらの強度を使い分けます。
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1-1-2. 加工硬化
機械材料は外力が加わることで変形します。例えば引張試験を行った
場合、右図のような、「応力-ひずみ線図」 を得ることができます。
弾性限以下では弾性変形のため、力を取り除くと材料は元の形に完
全に戻ります。(ゴムのように形が元に戻る)
しかし、弾性限を越えると、力を取り除いても変形は完全に戻らず塑性
変形が生じます。(粘土のように形が維持される)
応力-ひずみ線図からわかるように、塑性変形が進むと応力は増加し
ています。この現象のことを加工硬化といいます。
つまり、材料に塑性加工を行うと、加工硬化が生じるため、引張強さ等
の機械的特性が変化することになります。そのため、材料の加工硬化
を知ることは重要となるのです。
また、加工硬化は材料の熱処理によって加工前の機械的性質に戻る
ことが出来ます。そのため、塑性変形と熱処理を組み合わせることで、
必要な強度を得ることができます。
1-1-3. 硬度
機械材料の硬さは手軽に測定できることや、硬さの値から多くの機械的特性の推定が
可能なため、非常に重要な機械的特性の一つです。
一般的に金属材料に用いられる工業的硬さ試験では、圧子を測定物に押し付けて、こ
のときの荷重と生じた「くぼみ」の大きさから硬さを決定しています。ただし、多くの硬さは
ある程度塑性変形を与えているため、変形の程度によって硬さが異なります。
硬さ試験には動的荷重を加えたものや、引っかきによるものもあります。
1-1-4. 衝撃特性
衝撃特性を知ることは、材料の「もろさ」を判定することができます。例えば、静的な力を加えても強度に問題がない
材料でも、衝撃的力を加えると、もろい場合があります。
材料の破壊に対する強さを示す「じん性」は、材料の化学成分 や 組織 、 非金属介在物 の状態の変化によっ
て非常に敏感です。そのため、材料選定においては衝撃特性も重要となります。
衝撃試験には静的試験と同様に、引張、圧縮、せん断、曲げ、ねじりがあります。しかし、じん性評価試験として一
般的なのは「曲げ試験」です。
応力増加
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1-1-5. 疲労
機械構造物の破壊や損傷の多くが、機械部材の疲労によるものです。例えば、遊園地で起こったジェットコースタ
ー事故では、車輪の軸を固定するねじ部の疲労破壊により発生しています。
機械部材は上記の機械的特性を考慮し材料選定され設計されていても、繰返し負荷されることで、静的負荷の場
合と比較して非常に低い強度においても破壊や損傷が生じてしまいます。
そのため、機械設計を行う上で、静的強度を基礎として設計するだけではなく、使用期間や繰返し負荷を考慮した
設計が重要となってくるのです。
疲労破壊は、
・ 負荷が変動する場合
・ 負荷は一定でも部材が運動する場合
・ 外部負荷はないものの温度変動がある場合
など、部材に働く応力が変動することで起こります。
そのため、材料の疲労強度を知ることもまた重要となります。これは疲労試験で確認することができます。
繰返し応力を加えて、材料が破壊するまで試験を行うのです。また、この試験から有限寿命設計を行うことも出来ま
す。材料の使用期間、つまり寿命をあらかじめ決めておき、その期間内に疲労破壊が生じないように部材を設計す
るのです。
1-2. 物理的特性
材料の形状に依存しない材料の特性の一つとして、物理的特性があります。物理的特性は、融点、沸点、密度な
どであり、これらを知ることは機械設計上、材料の用途を決定する際重要となります。
1-3. 化学的特性
機械設計を行う上で、腐食についても考慮しなければなりません。材料の劣化の一因に腐食が影響しています。
腐食の原因となる環境や化学反応は様々ですが、機械材料を選択する上で、材料の使用環境から化学的特性を
知ることも重要になります。
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2. 各種機械材料
機械設計を行う上で材料選択は重要な項目の一つであり、その機械要素の要求する仕様や機能を満足させるよう
な材料の様々な特性を考慮しなければなりません。
一般に金属とは結晶性をもっているため、素材が破断せずに柔軟に変形し(展延性に
優れる)、電気や熱を伝えやすい等の特徴を有しています。
また、同一組成の金属でも、原子の配列によって金属の特性は異なるのです。そのため、
同じ金属でも熱処理などによって結晶格子型が変化すれば、金属の性質は大きく変化す
る場合もあるのです。
そこで以下には機械設計に用いられる代表的な機械材料の特徴や特性等を紹介します。
2-1. 鉄鋼材料
鉄鋼材料とは炭素の含有量によって大きく 3つに分類されます。
・ 0.02%以下のものを鉄
・ 0.02-2.1%のものを鋼
・ 2.1%以上のものを鋳鉄
とよびます。
また、鋼は炭素以外のクロムやモリブデンなどの合金元素が加えられているかどうかで 2 つに分けることができま
す。
・ 合金元素を特に加えていないものを炭素鋼
・ 加えているものを合金鋼
といいます。
自動車や航空機などの各種機械類や構造物の部品にはこの炭素鋼や合金鋼が多く使用されているため、「機械
構造用鋼」といわれます。
直径約 15mm 以下の小物は炭素鋼、それ以上の部品は合金鋼が使用されています。それではそれぞれの鋼材の
特徴を説明します。
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2-1-1. 炭素鋼
機械設計を行う上でよく知られている炭素鋼は一般構造用圧延鋼材、いわゆる「SS 材」とよばれるものです。例え
ば、SS400は「400」という数値が示されています。これは 400MPa以上の引張強さを持つ鋼材であると JISで規定さ
れているのです。
このように炭素鋼は引張強さ等の機械的性質によって分類されることもあります。そしてこれだけではなく、炭素の
含有量によって、「低炭素鋼」、「中炭素鋼」、「高炭素鋼」と分類されること、組織による分類、「リムド鋼」や「キルド
鋼」など製法による分類、熱処理による分類など、様々な分類やよび方があります。
そのため、機械材料として炭素鋼を選択する場合は、成分、製法、用途などによって分類された JIS 規格が重要に
なります。先程の SS 材は溶接性や低温靭性については保証されていない鋼材です。そこで、溶接性を良くした鋼
材が必要ならば同じく引張強さで JIS で規定されている 「溶接鋼材用圧延鋼材(SM 材)」を選択することになりま
す。
また、機械構造用として広く用いられる鋼材が「機械構造用炭素鋼鋼材(S○○C材、S○○CK材)」とよばれるもの
です。
SS材は炭素量の規定はありませんが、この鋼材は炭素含有量によって S10C~S58Cの範囲の 20種類と S09CK、
S15CK、S20CKの 3種類が JISに規定されています。機械的性質は炭素含有量と熱処理に依存するので、材料を
選択する場合は処理や用途によって注意が必要です。
2-1-2. 合金鋼
金属は一般的に、純金属の状態よりも合金のほうが強度など機械的性質が優れています。そのため、炭素鋼に
様々な性質を付加するために、一つまたは複数の合金元素(クロムやモリブデンなど)を加えたものがあります。そ
れが「合金鋼」です。
合金元素の役割の一つは、鋼の焼入れ性を向上させ、強さと靭性(粘り強さ)を与えるものです。これにより、低合
金鋼としての目的を果たします。低合金鋼でよく知られるのが H鋼、ハイテン鋼です。
合金元素のもう一つの役割は、耐摩耗性、耐熱性、耐食性、強磁性等の特殊な性質をもたせることです。これらは
高合金鋼といわれるばね鋼、工具鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼などです。
そして合金成分が成分比率で Fe より多い超合金など非常に多くの種類に分けることができます。
高合金でよく知られるのがステンレス鋼です。SUSと表記され、さびない鋼となります。ステンレス鋼は FeにCrを添
加し合金化することで耐食性が向上したものです。
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2-1-3. 鋳鉄・鋳鋼
溶融金属を鋳型に鋳込み、凝固・冷却して製品とする技術を「鋳造:ちゅうぞう」
といいます。そしてその製品を「鋳物:いもの」とよびます。
この鋳物材料として必要であるのは、融点が低いこと、湯の流動性が良いこと、
凝固の際の収縮が少ないことが挙げられます。
このような鋳造に適した特性をもつ鉄系の材料を「鋳鉄」といいます。この鋳鉄は純鉄や炭素鋼、合金鋼とは区別し
て考えています。
炭素鋼や合金鋼を鋳造して成型することはもちろん可能なので、鋳造法によって製造された鋼は「鋳鋼」とよび、鋳
鉄とは区別しています。
鋳鋼は鋳鉄に比べて、融点が高く、流動性が劣り、収縮も大きいので、鋳造欠陥のない鋳物をつくることは難しい
です。しかし、形状が複雑で強度が求められる機械部品、構造用部品等には重要な材料とされています。
鋳鉄は「ねずみ鋳鉄」・「白鋳鉄」の二つに大別されます。他の特別な処理が施される鋳鉄に対して、ねずみ鋳鉄
は普通鋳鉄ともよばれており、一般的で鋳鉄の代表とされます。
鋳鉄の特徴
多量の炭素を含有することが挙げられます。これにより、鋼よりも低い温度で溶融します。溶融した Fe の中の炭素
は凝固する際、炭素鋼ではセメンタイトとなり準安定相ですが、鋳鉄では大部分が安定相の黒鉛となります。鋳鉄
に含まれる片状黒鉛によって、鋳鉄特有の優れた切削加工性、耐摩耗性、高熱伝導性、高減衰性などの特性を
生み出します。しかし、高温では黒鉛が成長するなどの欠点もあります。
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2-2. 非鉄金属材料
2-1 の鉄鋼材料以外の金属材料を総称して「非鉄金属材料」といいます。 非鉄金属材料の特徴として、結晶構造
(原子の配置) が「体心立方格子」、「面心立方格子」、「ちゅう蜜六方格子」のいずれかになっています。
《解説》
「体心立方格子」、「面心立方格子」、「ちゅう蜜六方格子」とは
・体心立方格子 -------------- 重心位置に原子があり変形しにくい (モリブデンなど)
・面心立方格子 -------------- 箱のような構造であり変形しやすい (アルミニウムなど)
・ちゅう蜜六方格子 ---------- 極めて変形しにくい (マグネシウム、チタンなど)
※ 原子の配置によって変形のしやすさが決まります。
また、「固溶硬化」か「時効硬化」かにも着目して考えると良いでしょう。
《解説》
固溶硬化とは
2種類以上の金属が溶け合い、相互作用により材料を強化する方法のことです。コーヒーと砂糖が溶け合ってい
るイメージです。
時効硬化とは
時効硬化とは、時間とともに金属の性質が変化することを表しています。例えば金属を加熱して急冷後に常温
で放置すると硬くなるような現象のことです。
非鉄金属材料の代表的なものは 「銅合金」、「アルミニウム合金」、「チタン合金」、「マグネシウム合金」 などがあり
ます。銅は工業用材料として最も歴史が古いものの一つであり、塑性加工が容易で腐食しにくいことから給排水配
管などに使用されています。
一方で、チタンは精錬が難しく溶解鋳造も困難であったため、実用金属材料としては最も新しいものの一つです。
アルミニウム合金やチタン合金は比強度に優れているので、航空機分野での適用が期待されています。マグネシ
ウム合金は構造用の金属材料としてはもっとも軽く、鋳物として自動車にかなり利用されています。
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2-2-1. 銅合金
銅は 「面心立方金属」 の一つであり、加工しやすく、素材が破断せずに柔軟に変形し
ます。また、銅合金は金属を鋳型に流し込んで製作する 「鋳造性」 にも優れていま
す。
さらに、「熱に強い」、「電気伝導性が良い」、「溶接性が良い」 ため古くから使用され続
けています。そのため、銅は電気器具の配線や銅線などとして用いられています。
しかし、純銅は強度が非常に低いため、機械部品として使用する際は機械的特性を高めるために 「銅合金」 が
用いられます。(※2種類以上の元素を混ぜたものを合金といいます。)
銅(Cu) は一般に合金元素の固溶限(他の元素の入り込む限界量) が高いため、銅合金の多くは2種類以上の元
素が溶け合う固溶強化型と言われる機構になります。
代表的な銅合金には、「Cu-Zn 系合金」、「Cu-Sn 系合金」、「Cu-Al 系合金」 などがあります。いわゆる、黄銅、青
銅、アルミニウム青銅 と呼ばれているものです。
例えば、5円玉は銅(Cu) と 亜鉛(Zn) の黄銅、 10円玉は銅(Cu ) と すず(Sn) の青銅です。
Cu-Zn系合金は素材が破断せずに柔軟に変形することができ、鍛造、
引き抜きなどによる加工で作られる「展伸材料」として多く用いられてい
ます。
また Cu-Sn 系合金は鋳造用の銅合金として知られています。JIS には
銅および銅合金の板、条および棒の化学成分や特色および用途例が
示されています。
最近では加速器に銅合金が使用されていることが知られており、非常に様々な用途に用いられる材料であります。
2-2-2. アルミニウム合金
アルミニウムは成形性が良く、比重が小さく、腐食に強いです。また、電気伝導性も良いため、非常に金属として優
れた性質を有しています。工業用純アルミニウムはアルミニウム電線、写真印刷版などに使用されます。
しかし、アルミニウム単体では強さの部分で不十分であるため、機械材料として使用する際には、アルミニウム合金
とし機械的特性を著しく改善して用いられる場合がほとんどです。一般的に、Cu、Mg、Si、Mn、Zn、Niなどを単独ま
たは同時に添加してアルミニウム合金として用いられています。
アルミニウム合金は時間とともに金属の性質が変化する「時効硬化」 を用いて機械的性質を大幅に改善すること
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が出来ます。 そのため、合金元素の種類に応じて 「耐食性」、「耐摩耗性」、「低熱膨張係数」 などの特性を負荷
することが出来るのです。アルミニウム合金展伸材の主要成分と特性および用途例も JISに記載さています。
アルミニウム合金はフライパンなど身近な家庭用品にも多く使用されていますし、航空機、自動車、鉄道車両、船
舶などあらゆる分野の広範囲に使用されています。
アルミニウム合金の代表的なものとして「ジュラルミン」があります。Al-Cu系にMgやMnを添加した合金です。ジュ
ラルミンは高い引張強度を有しながら軽量であるため、航空機用構造材料に多用されています。
2-2-3. マグネシウム合金
マグネシウムは構造用の金属材料としては比重が最も軽く、鋳造性に良く鉄との反応がないため、金型鋳造、ダイ
カストに適していて、自動車にかなり利用されています。
実用のマグネシウム合金としては、Al、Zn、Mn、Zr などを添加したものが用いられています。合金化することで機械
的性質が向上し、航空機器、輸送機器などに用いられています。
2-3. その他の機械材料
2-1、2-2では金属材料を紹介しました。機械に使われる材料は前述の金属材料だけではなく、「セラミックス」、「高
分子材料」、「複合材料」 などがあります。
セラミックス材料は金属結合とは異なり、「イオン結合」 または 「共有結合」 から結晶が成り立ちます。
そのため、「耐熱性 や 破壊強度の大きさ」、「優れた硬さ」 が特徴となっています。セラミックスを機械部品として
設計する際、部品の体積に応じて強度特性が変化したり、時間依存型の疲労特性を示すことに注意しなければな
りません。
この点も金属材料と異なります。そして、セラミックスの場合は、JIS で規格された標準的な材料はありません。使用
する材料の特性はメーカーに問い合わせるか、実験を行うかして調べる必要があります。
高分子材料としてよく知られるのが 「プラスチックス」 です。プラスチックスの成型法は非常に多いため、機械材料
として選定する際、重要な因子となります。プラスチックスの機械的特性は金属やセラミックスに比べて静的強度と
弾性率が非常に低いです。そのため、ガラス繊維などを強化材として加えた複合材料として用いることも多いで
す。
複合材料は、一般に母材となる材料にそれを強化する目的で加える強化材を分散させて複合化させることによっ
て作成されます。繊維と母材の組合せや繊維の配合、配列などによって様々な特性を有した材料を作り出すことが
可能です。複合材料についても規格化されたものはないので、機械材料として選定し設計する場合は実験や解析
を行うことが必要となります。
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2-3-1. セラミックス
セラミックスとは、陶磁器やレンガのように無機物を焼いて固めたものを指します。機械や自動車などの工業用で使
われるセラミックスは「ファインセラミックス」といいます。ファインセラミックス材料の理想的破壊強度は非常に大きい
にもかかわらず、引張応力に対する破壊強度は実際は非常に小さくなっています。ファインセラミックスはほとんど
塑性変形を伴わず破壊をする典型的な 「脆性材料」 です。
ファインセラミックスを機械要素部品として設計する際、特に気をつけなければならないのが 「部品の有効体積に
応じて強度特性が変化する点」 と 「時間依存型の疲労特性を示す点」 です。
ファインセラミックスは電子材料や機能材料、生体材料と非常に多くの種類を有
していますが、機械材料として用いる場合、「アルミナ」や「ジルコニア」 などのフ
ァインセラミックスが代表的です。
セラミックを使用した機械材料は耐摩耗性には優れていますが、じん性や耐熱
衝撃性には乏しいため、使用用途を考慮する必要があります。
2-3-2. プラスチックス
高分子材料の成形品であるプラスチックスは、熱を加えると柔らかくなる「熱可塑性
プラスチックス」と熱を加えると硬くなる「熱硬化性プラスチックス」に大別されます。
詳細は「プラスチックスの基礎を学ぶ」で解説しています。
機械材料としてプラスチックスを選定する場合、製法が重要になります。プラスチッ
クスは金属などに比べて成形法が非常に多く、必要に応じて切削加工も行うことが
出来ます。
応力 σ
ひずみ ε
あまり伸びずに破断する
脆性材料
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設計に必要となる機械的性質は金属やセラミックスに比べて非常に低くなっています。
ハンマーなどで叩いたときの衝撃に対する強さを示す「耐衝撃性」に関しては、シャルピー衝撃値で比較すると鉄
鋼材料などに比べて極めて低い値となっていますが、単位体積あたりの最大弾性ひずみエネルギーなどで見ると、
プラスチックスの方が高くなる場合もあります。
つまり、軽い衝撃に対しては金属材料よりプラスチックスのほうが耐衝撃性に優れている場合があるため、実際の
使用用途に合わせた評価が必要となる材料です。
また、工業材料として用いられるプラスチックスはエンジニアリングプラスチックス、通称エンプラと呼ばれます。エン
プラは、熱を加えると柔らかくなる熱塑性プラスチックスのうち、強度と耐熱性の大きいものとなります。ただし、熱を
加えると硬くなる熱硬化性プラスチックスのうち、強度と耐衝撃性の優れたものを含めてエンプラということもありま
す。
これらの機械的特性は具体的に、引張強度が 49MPa 以上、衝撃強さが 59J/m 以上、耐熱性が常時 100℃以上、
クリープ性が小さく、耐摩耗性などに優れたものです。
プラスチックスは自動車などの製品の進歩に伴い、素材としても利用範囲が広がってきていて、最近では衛星に使
用されています。
2-3-3. ゴム
ゴムも高分子材料の一種ですが、用途や形態、材料特性からプラスチックストは区
別されて扱われています。ゴムは機械要素としてはパッキンなどで使用されていま
す。
ゴムは引っ張った時の伸びと力が比例するフックの法則に従う「弾性体」 と 完全
流体の中間的な性質をもつ「粘弾性体」であります。またゴムの特徴として、数百%
の伸びの範囲で弾性挙動を示すことが挙げられます。
2-3-4. FRP
プラスチックスの機械的特性低さを改善するために、繊維により複合化し強化したプラスチックスを繊維強化プラス
チックス、「FRP」といいます。最近では FRPで作られた機体もあります。
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FRP はプラスチックスの成形性や軽量性のメリットを活かしながら、機械的特性の低さを強化するために繊維を強
化材として加えて作製しています。
これにより、プラスチックスの特性は残しながら、強度を高めることができるので幅広い分野で利用されています。し
かし、このような複合材料は繊維と母材となるプラスチックス(マトリックス)の組み合わせ、配合の仕方などは規格化
されていません。
複合材料の機械的特性は一般的に繊維と母材となるプラスチックス(マトリックス)の機械的特性から予測しなけれ
ばなりません。近似的に見積もる「複合則」により機械的特性を考えることも出来ますが、繊維の配列や何層構造で
あるか、層間の強度や剥離などの状態によっても複合材料の強度は異なってきます。
そのため様々な理論式や実験式が提案されています。実際設計する際は有限要素法などによってシミュレーショ
ンを行う場合が多いです。
複合材料の中で研究が進み、実用化が進んでいるのは FRPですが、現在様々な複合材料が開発されています。
炭素繊維強化プラスチックス[CFRP] は強化材に炭素繊維を用いた強化プラスチックスです。炭素繊維は非常に
機械的性質が高い素材です。そのため、炭素繊維強化プラスチックスは新素材として幅広い分野で利用されてい
ます。最近では自動車、航空宇宙分野でも利用されています。
また、ガラス繊維強化プラスチックス[GFRP]はガラス繊維の電気絶縁性の特性を利用して作られている複合材料
です。通信用アンテナ、レーシングカー、浄化槽、バスタブ、などに利用されています。
他にも、金属基複合材料、金属間化合物基複合材料なども開発されています。これらの材料は強度の向上よりも
強靭性、クリープ強度を高めるなどの目的で開発が進められています。
複合材料はそれぞれの材料特性を活かしながら作製しますが、複合化の過程で界面の制御を行わなければなら
ないという課題もあります。
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3. 強度理論(材料別による破損)
機械製品を破損させないように設計するためには、使用する材料の機械的
特性をよく知ることが重要です。機械的特性を知った上で、どの強度を考慮
して設計するのかが大切になります。
製品が破損に至ったとき、部材内部でどのような応力が発生しているのか
把握する必要があります。そして、破損する理論には次の3つの仮説が唱
えられております。
最大主応力説
最大せん断応力説
せん断ひずみエネルギー説
この3つの仮説について説明する前に、破損の簡単なメカニズムを先に説明します。
破損が発生するのは、部材が持つ強度を超える力が加わるからです。
例えば、下図のように断面積が 10 [mm2 ]の部材に水平方向のみ 2000[N]の力がかかる単純なケースで説明しま
す。
このとき材料内部に発生する応力は 力÷断面積 で求められるので、
2000[N]÷10[mm2 ] = 200 [N/mm2 ] となります。
この応力は、材料が持つ降伏応力 400 [N/ mm2 ]より小さいため破損しないことになります。
力 2000 [N]
力
断面積 10mm2
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以上のように一軸方向に力が加わった場合の応力を求めて、材料が持つ強度と比較することが一般的に行われま
す。また、材料の強度は一軸方向で試験するのが一般的です。
しかし、実際の製品において、さまざまな方向に力が加わり、発生する応力も複雑となります。このような複雑に発
生する応力を一軸に置き換えて考えるのが 「強度理論」 となります
強度理論を以下のコックを題材に説明します。
コックは、ハンドルを開閉させることで水を流したり、止めたりするものです。水が流れているときは、圧力を受けます。
圧力が加わると製品に応力が発生します。このとき発生する応力は複雑であり、机上計算で正しく求めることは困
難です。そこで有効であるのがコンピューターを使ったCAE解析です。CAE解析を使うことで、複雑な形状や複雑
な力が加わる応力を簡単に求めることができます。
CAEで出力される応力は、強度理論 で評価が可能となります。それでは、それぞれの強度理論について詳しく
解説します。 (※ なお、テキスト「材料力学の基礎を学ぶ」で応力の基礎を詳しく解説しています。)
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3-1. 最大主応力説
「最大主応力説」 は、部材の内部に発生する 最大となる主応力が材料の強度に達した時、破損を生ずると考え
るものです。主応力には 「大きさ」 と 「方向」 があります。
主応力がプラスの値を示す場合を「最大主応力」、マイナスの値を示す場合を「最小主応力」といいます。
参考
最大主応力の結果表示でプラスの値を示す場合は、引張応力 マイナスを示す場合は、圧縮応力
最小主応力の結果表示でプラスの値を示す場合は、引張応力 マイナスを示す場合は、圧縮応力
となります。
3-2. 最大せん断応力説
「最大せん断応力説(トレスカの説」 は機械に生ずる最大せん断応力が材料の強度に達した時破損を生ずると考
えるものです。材料によっては、他の応力よりせん断応力の方が小さい値であったとしても破損することがあります。
3-3. せん断ひずみエネルギー説
「せん断ひずみエネルギー説」 は機械の単位体積中に蓄えられる全ひずみエネルギーのうち、体積変化を伴わ
ないせん断ひずみエネルギーが材料の強度に達した時に破損すると考えるものです。せん断ひずみエネルギー
に比例する相当応力をフォン・ミーゼス応力といい、主応力のように方向を持たない応力となります。
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以上のように部材が壊れる理論として、これら3つが有名ですが、材料によって適した説を利用して設計する必要
があります。
3-4. 延性金属材料
延性金属材料の破損は、「最大せん断応力説」および「せん断ひずみエネルギー説」を考えて設計すると良いでし
ょう。特に、せん断ひずみエネルギー説は実験結果との対応もよいことから設計に関してはせん断ひずみエネルギ
ーを用いることが多いです。
3-5. 脆性材料
鋳鉄などは引張試験から得られる応力ひずみ線図がほぼ直線的で、降伏を示さずに破壊に至ります。また引張強
さと比較して、圧縮強さのほうが大きく、ねじり強さはほぼ同じなどの特徴があります。そのため、脆性材料は「最大
主応力説」を多く用いられています。
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4. 破壊靭性(はかいじんせい)
近年、機械構造物を設計する際、ある程度の欠陥の存在を想定して、そのようなもとでも安全性を確保できる設計
手法が採用されています。このような設計手法は 「損傷許容設計」 といいます。この場合、材料の破壊靭性値が
重要なデータとなってきます。 (※ 靱性とは “ もろさ ” の反対で “ねばり強さ” を意味します)
材料の破壊靱性とは降伏強度あるいは引張強さとは対応しません。応力が同一でも欠陥寸法が大きいほど強度が
低下することが経験的に知られています。
き裂状欠陥をもつ部材においては、ある限界の荷重が加わると急速にき裂が進展し、破壊に至ります。そのため、
破壊靱性試験ではき裂欠陥を有する試験片を用いて、引張または曲げ試験によって破壊させ、そのときの破壊荷
重と欠陥寸法より破壊靱性値を決定することができます。
破壊靱性値は部材の板厚によって大きく変化します。一般に、板厚が厚くなると破壊靱性は減少して、ある板厚で
最小値を示します。この収束した一定の破壊靱性の値を「平面ひずみ破壊靱性」と呼んでいます。この値は試験
片によらない材料特性値です。
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金属材料の基礎を学ぶ
2015年 8月 15日 発行
2016年 4月 28日 改訂 2
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