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Jpn J Clin Pharmacol Ther 35(1)Jan 2004 39 CRC養成講座 シ リーズ/7 EBMと大規模臨床試験 子(東 京大 学大学院薬 学系研究科 医薬 経済学) 喜 一 郎(東 京大 学大学院薬学 系研究科 医薬経済学) 1. は じめ に 1990年 代 後 半 よ り,日 本 で もエ ビ デ ン ス に基 づ く 医 療(evidence-based medicine: EBM)の 考 え 方 の 普 及 が 進 ん だ.こ の 時 期 は,真 の エ ン ドポ イ ン ト (true endpoint)を 用いた大規模臨床試験が欧米で数 多 く発 表 され た こ と もあ り,「EBMと は大規模臨床 試験の結果を用いる」あるいは 「EBMは そ う した 臨 床試験 を行 うこと」 とい うような誤解 も生 じた.世 紀 を また いだ 後 は,こ の種 の 誤 解 も少 な くな った と思 わ れ るが,こ こ で 今 一 度,そ の相互関係について論じる こ とに も意 味 が あ ろ う. 本 稿 で はEBMの 定 義,具 体 的 ステ ップ,エ ビデ ン ス の 流 れ を 示 し た う え で,エ ビデンスをつくる大規模 臨 床 試 験 に つ い て 述 べ る こ と とす る. 2. Evidence-Based Medicine (EBM)と は EBMと い う言 葉 は,1991年に カ ナ ダ のGordon H.Guyattの 誌ACP Journal Clubに初 めて登場 した.そ の定 義 と して世 界 的 に広 く用 い ら れ て い る の はDavid L.Sackettら によるも の で,1996年に は,EBMと は"Theconscientious, explicit and judicious use of current best evidence in making decisions about the care of individual patients"(現 今の最良のエ ビデ ン ス を,良 心 的,明 示 的 そ し て 妥 当 性 の あ る用 い 方 を し て,個 々の患者の 臨床決 断を下す こ と)と 定義 さ れ た.こ の定義 1999年に よ りわ か りやすい表現 に改 訂 さ れ,"Inte- gration of research evidence, clinical expertise and patient value"(リサ ー チ か ら得 られ た エ ビ デ ン ス と 臨床現場の状況 と患者の価値観を統合 した も の)と な っ た. 3. EBMの ステップ EBMを 実践 す る際 の手 順 は,以 下 の5つ のステッ プ か らな る1,2). 1)患者の問題の分類 と定式化 ま ず,患 者 の 問 題 を明 確 にす る.臨 床上の疑問 (clinical question)は,治 療 法 の 選 択,そ の効果や 副 作 用,鑑 別 診 断,予 後 な ど多岐 にわ た るが,こ のと き 抽 象 的 な と ら え 方 で は な く,Patient(患 者,ど よ う な 患 者 で),Exposure(暴 露,何 を す る と), Comparison(比 較,何 と 比 較 し て),Outcome(結 果,ど の よ う な 結 果 に な る か)と い う4つ の要素 (PECO)に 分 類 し,定 式 化 す る と,問 題 が 明 確 に な る. 2)情報収集 つ ぎ の ス テ ップ は,明 確 に し たclinical question に答 えて くれ る情 報 の収 集 で あ る.質 の 高 い情 報 をい か に効 率 的 に 集 め る か が ポ イ ン ト と な る.具 体 的 な 情 報 源 には,標 準 的 な教 科書,医 学 雑 誌,医 学文献デー タ ベ ー ス な どが あ る.一 次 的 情 報 と な る 原 著 論 文 は, Medlineやラ ンダム比較 試 験(randomized controlled trial: RCT)に 特 化 し た 継 続 的 デー タ ベ ー ス で あ るCENTRALな どの検 索 で得 られ る .だ が 個 人 が 限 られ た 時 間 の 中 で 関 連 す る す べ て の 論 文 を くまな く収 集 し,そ の 一 つ ひ とつ を 自 ら読 んで 吟 味 を 行 うのは非常 に難 しい. そ こ で,第3者 機関が一次的情報のエビデンスを吟 味 し て ま と め た 二 次 的 情 報 が 提 供 さ れ て い る.シ ス テ ティ ック ・レ ビュー は,The Cochrane Library中 のCochrane Database of Systematic Reviews(CDSR)やDatabase of Abstracts of Reviews of Effectiveness(DARE)が 代 表 的 な もの で あ る3).紙媒 体 で も発行 され て い るClinical Evi- denceはclinical questionに 答える形で構成されてお り,日 本 語 訳 も あ り,お す す め で あ る. 3)情 報 の 批 判 的 吟味 こ こで は,ス テ ップ2で 得 られ た情 報 の妥 当性 の評 価 を行 う.論 文 の 示 す 結 果 が バ イ ア ス の 影 響 を 受 け て い な い か ど う か,バ ラツキの大 きさは どの程度か とい う こ とが 重 要 で あ る.バ イ ア ス と は,「標 本 か ら得 ら れ た 値 の 真 の 値 か ら の 一 定 方 向 へ の ゆ が み 」 と定 義

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Page 1: EBMと 大規模臨床試験utdpm/paper2/rinsho-yakuri/35_39.pdfことにも意味があろう. 本稿ではEBMの 定義,具 体的ステップ,エ ビデン スの流れを示したうえで,エ

臨 床 薬 理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 35(1) Jan 2004 39

CRC養 成講座 シ リーズ/7

EBMと 大規模臨床試験

島 村 治 子(東 京大学大学院薬学系研究科医薬経済学)

津 谷 喜一郎(東 京大学大学院薬学系研究科医薬経済学)

1. は じめ に

1990年 代後半 よ り,日 本で もエ ビデ ンスに基 づ く

医療(evidence-based medicine: EBM)の 考 え方の

普 及 が進 んだ.こ の 時 期 は,真 の エ ン ドポ イ ン ト

(true endpoint)を 用いた大規模臨床試験 が欧米 で数

多 く発 表 された こともあ り,「EBMと は大規模臨床

試験 の結果 を用い る」あ るい は 「EBMは そ うした臨

床試験 を行 うこと」 とい うような誤解 も生 じた.世 紀

をまたいだ後 は,こ の種の誤解 も少な くなった と思 わ

れ るが,こ こで今一度,そ の相互関係 について論 じる

こ とに も意味があろ う.

本稿 ではEBMの 定義,具 体 的ステ ップ,エ ビデ ン

スの流 れを示 した うえで,エ ビデ ンスをつ くる大規模

臨床試験 について述 べる こととす る.

2. Evidence-Based Medicine (EBM)と は

EBMと い う言 葉 は,1991年 に カ ナ ダ のGordon

H.Guyattの 著 し た 論 文 で 医 学 雑 誌ACP Journal

Clubに 初 めて登場 した.そ の定 義 として世 界的 に広

く用い られてい るの はDavid L.Sackettら に よるも

の で,1996年 に は,EBMと は"The conscientious,

explicit and judicious use of current best evidence

in making decisions about the care of individual

patients"(現 今 の 最 良 の エ ビ デ ン ス を,良 心 的,明

示 的 そ し て 妥 当 性 の あ る用 い 方 を し て,個 々 の 患 者 の

臨 床 決 断 を 下 す こ と)と 定 義 さ れ た.こ の 定 義 は

1999年 に よ りわ か り や す い 表 現 に 改 訂 さ れ,"Inte-

gration of research evidence, clinical expertise and

patient value"(リ サ ー チ か ら得 られ た エ ビ デ ン ス と

臨 床 現 場 の 状 況 と 患 者 の 価 値 観 を 統 合 し た も の)と

な っ た.

3. EBMの ス テ ッ プ

EBMを 実 践 す る 際 の 手 順 は,以 下 の5つ の ス テ ッ

プ か らな る1,2).

1) 患者の問題の分類 と定式化

まず,患 者 の 問 題 を明 確 にす る.臨 床 上 の疑 問

(clinical question)は,治 療法 の 選択,そ の効 果 や

副作 用,鑑 別診断,予 後な ど多岐 にわた るが,こ の と

き抽象 的な とらえ方で は な く,Patient(患 者,ど の

よ うな 患 者 で),Exposure(暴 露,何 を す る と),

Comparison(比 較,何 と比 較 して),Outcome(結

果,ど の よ う な 結 果 に な る か)と い う4つ の 要 素

(PECO)に 分類 し,定 式化す ると,問 題が明確 になる.

2) 情報収集

つ ぎの ステ ップ は,明 確 に したclinical question

に答 えて くれ る情報の収集 であ る.質 の高 い情 報 をい

か に効率 的に集 めるかがポイ ン トとなる.具 体 的な情

報 源 には,標 準的 な教科書,医 学雑誌,医 学文献 デー

タベースな どが ある.一 次的情報 となる原著論 文 は,

Medlineや ラ ン ダ ム 比 較 試 験(randomized

controlled trial: RCT)に 特 化 した 継 続 的 デー タ

ベースであるCENTRALな どの検索 で得 られ る.だ

が個人 が限 られた時間の中で関連 するすべ ての論文 を

くまな く収集 し,そ の一つひ とつを自 ら読 んで吟味 を

行 うのは非常 に難 しい.

そこで,第3者 機関が一 次的情報 のエ ビデンスを吟

味 して まとめた二次的情報 が提供 され ている.シ ステ

マ ティ ック ・レ ビュー と し て は,The Cochrane

Library中 のCochrane Database of Systematic

Reviews(CDSR)やDatabase of Abstracts of

Reviews of Effectiveness(DARE)が 代表的 な もの

で あ る3).紙 媒 体 で も発行 され て い るClinical Evi-

denceはclinical questionに 答 える形で構成 されてお

り,日 本語訳 もあ り,お すすめであ る.

3) 情報の批判的吟味

ここで は,ス テ ップ2で 得 られた情報 の妥 当性の評

価 を行 う.論 文 の示す結果がバイアスの影響 を受 けて

いないか どうか,バ ラツキの大 きさは どの程度か とい

う ことが重要 であ る.バ イア ス とは,「 標 本か ら得 ら

れ た値 の真 の値 か らの一 定 方向 への ゆが み」 と定 義

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40 CRC養 成講座 シリーズ/7

Table1 主 なバ イ アス とその防 止法

Table2 エ ビデ ンス の強 さの レベ ル

され,(1)選 択バ イアス(selection bias),(2)観 察バ イ

ア ス(observation bias),(3)解 析 バ イ ア ス(analysis

bias),(4)出 版 バ イア ス(publication bias)な どが

ある.

これ らのバ イ アス を防止 す るた め にはTable1に

示す よ うに,そ れぞれ(1)ラ ンダム化(random allo-

cation)が 行 われて いるか,(2)ブ ライ ン ド化(blind-

ing)さ れ て い る か,(3)ITT解 析(intention-to-

treat analysis)が なされてい るか とい うことが重要

であ る.ITT解 析 とは,試 験 開始 時 に組 み込 まれた

対象者全員 を,割 付 け られた介入群 として,実 際なさ

れた介入が割付 けどお りで あるか どうか にかかわ らず

解析対 象 とす る統計学的手 法で あ る.ま た(4)臨 床試

験 の登録(registry of clinical trial)は,進 行 中の臨

床試験 を登録 ・公開す ることによってバ イアス をな く

そ うとい うものであ る.臨 床試験 よ り得 られた結果が

否定 的な場合,発 表 されに くい とい うことが背景 にあ

る.複 数 の トライアル をまとめた システマティック ・

レビューや メタアナ リシスを検討す る際に念頭 にお く

必要がある.

4) 得 られたエビデンスの患者への適応

ス テ ップ3で は情 報 自体 の 内 的妥 当性(internal

validity)の 吟味 を行 った ことになるが,こ こで はそ

の情報 が眼前 の患者 に適応 で きるか どうかの外的妥当

性(external validity)を 検討 する.ど んなにエビデ

ンスの強い論文 で も,目 の前 の患者 に対 す る妥 当性が

なけれ ば臨床 的 な判断 を下 すた めの要素 とはな らな

い.こ れ までに得 られたエ ビデ ンスを,臨 床現場 の状

況 と患者の価値観(value system)と に照 らし合 わせ

るステ ップで ある.ベ ースライ ンリスク,病 態生理,

併発疾 患 な どについ て検 討 し,患 者 の好 み(prefer-

ence)を くみい れ,個 々の 患者 に とって最 も有 益 と

考 えられ る臨床的判断 を行 う.

5) 以上のプ ロセスの評価

実際 に実行 された それぞれのステップ を評価す る.

臨床 の場 でのEBMの 実践が,よ り良い医療の実現 に

つなが ってい くことが重要であ る.

4.エ ビデ ンスの強 さの レベル

エ ビデ ンス に は 「グ レー ド」(grade)が あ る.一

般 に,「 エ ビデ ンスの強 さ」(strength of evidence)

と称 される.Table 2は それ ぞれの研究 デザイ ンにお

いて,そ の結果か ら得 られるエ ビデ ンスの強 さの レベ

ル を示 している.さ まざ まな研究デザインのうち,バ

イアスの入 り込 む可能性 が少 な く,し たが って得 られ

た結 論が 真 の値 を示 す可能 性 が高 い の はRCTで あ

る.ま た これを 「た ばねた」 メタアナ リシスは,質 の

よいRCTを た ばねた ものな らばエ ビデ ンス は最強 と

なる.

もちろん,稀 な疾 患な どRCTが 実行 で きないケー

ス もあ り,求 めている疑問点 に対 して常 に最強 のエ ビ

デ ンスが得 られ るとは限 らない.実 際の治療法 として

の 「おすす め度」(strength of recommendation)を

決 めるた めには,研 究 デザイ ンの他 に も考慮 す るべ き

要素が ある.世 界 的には10種 以上 のstrength of evi-

denceやstrength of recommendationの グレー ド表

が並存 している状況 で,や や混乱気味で ある.そ こで

これ らを調和 させ ようというGRADE projectも 進行

中であ る.

5.エ ビデンスの流 れ

EBMは,そ れ に関わ る立場か ら,Fig.に 示す よう

にエ ビデンスを 「つ くる」「つた える」 「つか う」 の3

つの局面 に分 ける と理解 しやす い.ま ず,エ ビデンス

を 「つ くる」 のは,臨 床試験 を中心 とした臨床研究で

ある.

そして,そ こで得 られたエ ビデンス を 「つか う」の

は,(1)医 師,薬 剤師,看 護 師 な ど臨床 の現場 で個々

の患者 を対象 として い る医療従事者,(2)医 療 政策 に

携 わる行政官や診療 ガイ ドライ ン作成者,製 薬企業や

医療機器の ような企業で開発 に携わ る人々 な どの集団

を対象 とす る医療従事者,そ して(3)患 者で ある.

この間 にエ ビデ ンスを 「つた える」が位置づ けられ

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CRC養 成講座 シ リーズ/7 41

Fig.エ ビデンスの流れとEBMの ステップ

てい る.エ ビデンスが 「つ くられ る」 には長 い時間 と

労力 を必要 とす るが,ど んなに強いエ ビデ ンスで も実

際の臨床現場で活か されなけれ ば意味がない.エ ビデ

ンスの 「つかい手 」がEBMを 実践す る際 に,よ り効

率的に判断 しやすい方法 で 「つた える」必要が ある.

関連す る世界中か らの研究 を系統 的 ・網羅的 に収集

し,批 判 的吟 味 を加 え要 約 す るのが システ マテ ィッ

ク ・レ ビューで ある3).1993年 にスター トしたコクラ

ン共 同計画 によるシステマ ティック ・レビュー は,そ

の プロセ スが標 準化 されて お り,先 に述べ たCDSR

として提供 されている.

日本で は提供機関 を どこにす るかでい ささか混乱が

生 じたが4),日 本 医療 機能評価機 構(http://jcqhc.or.

jp)が 国内外 の医学文 献 や診 療 ガイ ドライ ンを評 価

し,Medical Information Network Distribution

Service(Minds)と して提 供 しよ う としてい る.何

度か延期 されたが2004年 春 には公 開 され る予定 で あ

る.

6. 大規模臨床試験

高血 圧症,高 脂 血 症,糖 尿 病 な どの生 活 習 慣 病

(life style diseases)で の多 くの医薬品 は,代 理 のエ

ン ドポイ ン ト(surrogate endpoint)を 用 いた第III相

の臨床 試験 で 「つ くら」れ たエ ビデ ンス を もとに審

査 ・承認 されて市販 されて いる.

た とえば,高 血圧 の日々の治療上 の指標 は降圧効果

であるが,こ れは代理 のエ ン ドポイ ン トで ある.そ の

治療 の目的 は,降 圧 によって高血圧 に伴 う心血管障害

の発症 ・進展 を抑制 し,生 命予後 を改善 させ ることで

あ る.高 血圧治療 の臨床的意義 を検証す るためには,

脳卒 中,心 不全,心 筋梗塞 な どの心血管イベ ン トの発

生率 および死亡率 とい う真 のエン ドポイ ン トを用 いて

評価す ることが必要 とな る.

EBMを 実践 す るにあた っては,真 のエ ン ドポイ ン

トを用いた臨床試験で 「つ くら」 れたエ ビデンス を用

い ることが望 ましい.そ こで,市 販後 に第IV相 として

大規模 臨床試験が行われ るようになってきた.

1) PROBEデ ザイン

高血圧領域で は,米 国のVeterans Administration

による試験以来多 くの大規模臨床試験が実施 されてお

り,そ こで は介入試験 のgolden standardで あ る二重

盲検RCTが お もに採 用 されて きた.「 二 重盲検 法」

は その解 釈が10種 類 以上 ある5)とされ るが,基 本 的

には医師,患 者双方 の薬効評 価 に対 す る先入観やバ イ

アスを除 くものである.一 方で,日 常臨床 の場で行 う

に際 して は両者 に不安や抵抗感 を生 じさせ る.

1990年 代 よ り北欧 にお いて,よ り臨床 に近 い実行

可 能 性 の 高 いPROBE(prospective randomized

open blind endpoint)デ ザ イ ンが 開発 され,い くつ

かの大規模 臨床試験 に採用 され て きた6).PROBEデ

ザイ ンは,エ ン ドポイ ン トの評価 をブライ ン ド化 して

い るオー プ ンRCTで あ る.オ ープ ン試 験 で あ るた

め,ラ ンダム割付 け後 の試験期間中 にはバイアスの入

り込 む可能性 はあるが,真 のイベ ン トをエ ン ドポイ ン

トとし,そ の評価 をブライン ド化 してい る.割 付 け後

は 日常診療 に近 い形 で経過 を追 うこ とがで き,ま た実

施費用 も抑 えることが できる.

わが国で も,現 在 い くつかの高血圧 に関す る大規模

臨 床 試 験 が 進 行 中 で あ るが,JATOS,CASE-J,

HOMED-BPは い ずれ もPROBEデ ザイ ンを採 用 し

ている.

2) エビデンスの外的妥当性

臨床試験 に よって得 られた結果 は,そ の対象疾患の

治療 において,薬 の選択基準や治療 目標 な どとい う形

で臨床 の場 に反映 されてい る.こ こで用 い られ るエ ビ

デ ンス は,現 時点で は欧米 の研究結果 による ものが圧

倒 的多数 を占めている.日 本人 に外挿す るにあた って

は外的妥協 性 の問題 が あ る.欧 米 の臨床 試験 の結果

を,生 物学的お よび社会文化 的背景 の異 なるわが国 に

その まま適応す るには問題 が生ず る ことが多い.た と

えば,薬 の用法 ・用量 を検討 する場合 には体格 の違 い

を考慮すべ きで あ り,食 生活 を含 む生活習慣 や文化,

医療 を とりま く環境 の違 い も考慮 され る必要があ る.

さらに,薬 剤感 受性 に対 する遺伝子多型や薬物動態

関連酵素群の遺伝 的欠損 についての民族差 も見 い出 さ

れている.こ の ような遺伝的要因 について はゲノム情

報 を活用 したアプローチが取 り入れ られて きてお り,

最近わが国が参加 した降圧薬 に関す る大規模臨床試験

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42CRC養 成講座 シリーズ/7

PROGRESS(Peridopril Protection Against Recur-

rent Stroke Study)とRENAAL(Reduction of

Endpoints in NIDDM with the Angiotensin II

Antagonist Losartan)で は,サ ブ解析 として人 種や

遺伝子多型 の問題 について検討 されてい るとい う7).

3)日 本の現状 と今後

日本 にお ける臨床試験の問題点 として,シ ステムの

不備 による支援体制 の欠如,試 験参加 に対す る医師,

患者双方の理解 を得 るた めの環境 が整 ってお らず,そ

のイ ンセンテ ィブが低 い ことなどが指摘 されて きた.

EBMの 重要性が浸透 し,日 本 におけるエ ビデ ンスの

確立 の必要性が認識 されてきた こ とにより,そ の環境

は少 しずつ改善 されつつある.

臨床試験 の推進 を視野 に入れたデータマネージメン

トセ ンターが大学等 に設立 され るようにな り,い くつ

かの大規模臨床試験が実施 されている.ま た,わ が国

におけ る 「治験 の空洞化」 の対策 として2003年4月

には 「全 国治験活性化3力 年計画」が公表 された8).

この計 画 で は,(1)治 験 ネッ トワーク化 の推進,(2)

医療機 関 の治験 実施体制充 実,(3)患 者 の治験参加 支

援,(4)企 業 の治験 負担軽減,(5)臨 床研 究全体 の推進

が柱 となってお り,治 験環境 の整備 に重点がおかれて

いる.

治験のネ ッ トワーク化の推進で は,国 立高度専 門医

療 セ ンター(国 立が んセ ンター,国 立循 環器 病 セ ン

ター,国 立精 神 ・神 経 セ ンター,国 立成 育 医療 セ ン

ター,国 立 国際医療 セ ンターな ど),特 定機能病 院,

臨床研修指定病院な どの複数の医療機関 をネ ットワー

ク化 する 「大規模 治験 ネ ッ トワー ク」を構築 し,質 の

高い治験 の症 例数 を速 や か に確保 す る体 制 を整備 す

る.具 体 的 に は,2003年 度 か ら3年 間 で,10の 疾 患

群 ネ ッ トワ ー ク を 順 次 形 成 す る こ と が 計 画 さ れ て い

る.

ま た,近 年 活 発 化 し て い る,診 療 所 を含 め た 地 域 レ

ベ ル の 医 療 機 関 に お け る 治 験 に 関 す る ネ ッ トワ ー ク に

つ い て も,大 規 模 治 験 ネ ッ トワ ー ク の 活 動 を通 じ て 国

と し て 支 援 す る こ とが 検 討 さ れ て い る.

さ ら に,治 験 の 実 施 体 制 や 環 境 の 整 備 で は,医 療 機

関 の 治 験 実 施 体 制 の 充 実 の 項 目 が あ り,2005年 度 ま

で に さ ら に2,500名(合 計5,000名)の 治 験 コ ー デ ィ

ネ ー タ ー(CRC)の 養 成 を 図 る と し て い る.CRCは,

治 験 の 質 の 向 上 に 貢 献 す る と と も に,被 験 者 の 同 意 に

基 づ く治 験 業 務 の 中 で 重 要 な 役 割 を担 う と位 置 づ け ら

れ て お り,今 後 ま す ま す そ の 活 躍 が 期 待 さ れ て い る.

文 献

1) 厚生省健康政策局研 究開発振 興課医療 技術情報 推進室 監修.

わか りやすいEBM講 座.厚 生科学研究所,2000.

2) 中 嶋 宏(監 修),津 谷 喜 一 郎,山 崎 茂 明,坂 巻 弘 之(編).

EBMの ための借 報戦略.中 外 医学社,2000.

3) 津谷喜一郎.エ ビデ ンスを調 べ る-systematic reviewの 現状一

.臨 床当ぎ理2003;34(4):210-6.

4) 津 谷喜 一 郎,長 澤 道 行.医 師 と診 療 ガ イ ドライ ン―profes-

sionalautonomyの 視 点 か ら―.日 本医師会雑誌2003;

129(11):1793-803.

5) Devereaux PJ, Manns BJ, Ghali WA, Quan H, Lacchetti C,

Montori VM, Bhandari M, Guyatt GH. Physician interpreta-

tions and textbook difinitions of blindig terminology in ran-

domized controllrd trials, JAMA2001 ; 285(15) : 2000-3.

6) 景 山 茂.高 血 圧 の 臨 床 試 験 の デ ザ イ ン.臨 床薬理2003;

34(6):297-300.

7) 松 岡 秀 洋.臨 床 試験 成 績 の 外 的 妥 当 性:民 族 差.臨 床薬理

2003;34(6):307-9.

8) 厚 生労働 省.「治 験」ホームペー ジ.http://www.mhlw.gojp/

topics/bukyoku/isei/chiken