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6 筆者らはbaPWV(brachial-ankle pulse wave velocity) の予後予測指標としての有用性検証のメタ解析を実施 し て い る。 本 解 析 で は individual participations meta- analysisを試みているが、その背景にあるのはbaPWV の位置付けの低さである。国際雑誌では今もcfPWV (carotid-femoral pulse wave velocity)がゴールデンス タンダードであるため、individual participations meta- analysisによってbaPWVのエビデンスを明確にできれば、 日常診療はもとより医学の発展にも寄与できると考えて いる。 aggregate data meta-analysis 検査の予後指標としてのエビデンスレベルを高める には、前向きコホート研究のシステマティックレビュー による有用性の確認が重要である。また、システマ ティックレビューのなかでもメタ解析が最も信憑性が 高 い。baPWV に 関 し て は、Vlachopoulos が 2012 年 の Hypertension誌にメタ解析を発表し 1) 、平均3.6年の経 過観察でbaPWVが1m/sec増加するに従い、心血管疾患 の発症リスクが12%高まることを示した。ただ、残念な がらこれは論文ごとのオッズ比を統合したaggregate data meta-analysis であり、それぞれの論文のデータを詳 しく解析しているというわけではない。 これはメタ解析の欠点でもあるが、数ある論文のなか からどれを選ぶのかが難しく、また同じデザインの研究 でも年齢などの対象患者が異なれば結果が変わる場合も あ る。 こ れ が い わ ゆ る selection bias で あ る。selection bias のほかに publication bias もある。これは「否定的な 結果が出た論文は、肯定的な結果が出た論文に比べ公表 されにくい」というものである。今回のメタ解析でも publication bias を検討することができないが、selection biasは克服し、過去の論文の個人のデータを基に分析し 直すことにしている。またそのためにいくつかの施設に 協力をいただいた。 Vlachopoulosのメタ解析では18の前向き研究で、約 8,200例を対象としている。ただ実際の論文として掲載 されたものは15編で、抄録なども含まれている。また、 腎臓病や心臓病などリスクの高い症例で検討しており、 一般的に baPWV の適応と考える中等症のリスクの症例の 検討ではない。そこで、PubMedを洗い直したところ、 2015年2月時点では27編のbaPWVの予後評価の追跡研 究の成果が報告されていることがわかった。おおむね日 本の論文だが、中国や韓国からのものもあった。individual participations meta-analysis は、このうちの日本で実施 された論文のデータを Excel シートにまとめ、メタ解析を 行うこととしている。 本研究の検証必要事項 baPWV の individual participations meta-analysis で は、「予後予測指標としてbaPWV値レベルごとの有用性 の評価」「baPWV の基準値設定」「心血管疾患高リスク症例 でなく、心血管疾患軽症―中等リスク症例における baPWV予後予測指標としての有用性」「Framingham risk scoreなど従来のリスク評価指標とbaPWVの予後予測指 標としての独立性」「血圧の影響の評価 vs. CAVI」「同時測 定される足関節上腕血圧比(ABI)とbaPWVの予後予測指 標としての有用性の対比」などの項目についてデータを解 析し直し、検証していく予定である。 目的(試験概要)は、既報追跡研究の各研究責任者の協 力を得て各追跡研究のデータ提供を受け、各データを統 合したメタ解析により、上腕―足首間脈波速度の心血管 疾患発症予測指標としての有用性について検証すること である。臨床的意義は、上腕―足首間脈波速度の心血管 疾患発症予測指標としての有用性が確立できることであ る。実施場所・実施期間は、東京医科大学循環器内科に 事務局を設置し、提供された各研究データの統合を行い、 データを管理する。データの統計解析は東京医科大学循 環器内科と九州大学大学院医学研究院附属総合コホート センター(二宮利治先生)の2施設で同時解析し、統計解析 の妥当性を確認する。現在約16,000症例、12コホート が集まっており、分析期間は2014年4月より3年間を予 定している。なお、本データについては専用のハードディ スクに落とし、データの流出がないよう最大限の配慮を していることを付け加えておく。 検査項目は、年齢、性別、身長、体重、喫煙の有無、 上腕―足首間脈波速度、心拍数のほか、古典的なリスク 冨山博史 (東京医科大学循環器内科学教授) 山科 章 (東京医科大学循環器内科学主任教授) 上腕−足首間脈波速度の予後予測指標としての有用性検証のメタ 解析(individual participants meta-analysis):その進捗状況 第 15 回 臨床血圧脈波研究会 特別報告 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

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 筆者らはbaPWV(brachial-ankle pulse wave velocity)の予後予測指標としての有用性検証のメタ解析を実施し ている。本解析ではindividual participations meta-analysisを試みているが、その背景にあるのはbaPWVの 位置付けの低さである。国際雑誌では今もcfPWV

(carotid-femoral pulse wave velocity)がゴールデンスタンダードであるため、individual participations meta-analysisによってbaPWVのエビデンスを明確にできれば、日常診療はもとより医学の発展にも寄与できると考えている。

aggregate data meta-analysis 検査の予後指標としてのエビデンスレベルを高めるには、前向きコホート研究のシステマティックレビューによる有用性の確認が重要である。また、システマティックレビューのなかでもメタ解析が最も信憑性が高 い。baPWVに関しては、Vlachopoulosが2012年のHypertension誌にメタ解析を発表し1)、平均3.6年の経過観察でbaPWVが1m/sec増加するに従い、心血管疾患の発症リスクが12%高まることを示した。ただ、残念ながらこれは論文ごとのオッズ比を統合したaggregate data meta-analysisであり、それぞれの論文のデータを詳しく解析しているというわけではない。 これはメタ解析の欠点でもあるが、数ある論文のなかからどれを選ぶのかが難しく、また同じデザインの研究でも年齢などの対象患者が異なれば結果が変わる場合もある。これがいわゆるselection biasである。selection biasのほかにpublication biasもある。これは「否定的な結果が出た論文は、肯定的な結果が出た論文に比べ公表されにくい」というものである。今回のメタ解析でもpublication biasを検討することができないが、selection biasは克服し、過去の論文の個人のデータを基に分析し直すことにしている。またそのためにいくつかの施設に協力をいただいた。 Vlachopoulosのメタ解析では18の前向き研究で、約8,200例を対象としている。ただ実際の論文として掲載されたものは15編で、抄録なども含まれている。また、腎臓病や心臓病などリスクの高い症例で検討しており、

一般的にbaPWVの適応と考える中等症のリスクの症例の検討ではない。そこで、PubMedを洗い直したところ、2015年2月時点では27編のbaPWVの予後評価の追跡研究の成果が報告されていることがわかった。おおむね日本の論文だが、中国や韓国からのものもあった。individual participations meta-analysisは、このうちの日本で実施された論文のデータをExcelシートにまとめ、メタ解析を行うこととしている。

本研究の検証必要事項 baPWV の individual participations meta-analysis では、「予後予測指標としてbaPWV値レベルごとの有用性の評価」「baPWVの基準値設定」「心血管疾患高リスク症例でなく、心血管疾患軽症―中等リスク症例におけるbaPWV予後予測指標としての有用性」「Framingham risk scoreなど従来のリスク評価指標とbaPWVの予後予測指標としての独立性」「血圧の影響の評価vs. CAVI」「同時測定される足関節上腕血圧比(ABI)とbaPWVの予後予測指標としての有用性の対比」などの項目についてデータを解析し直し、検証していく予定である。 目的(試験概要)は、既報追跡研究の各研究責任者の協力を得て各追跡研究のデータ提供を受け、各データを統合したメタ解析により、上腕―足首間脈波速度の心血管疾患発症予測指標としての有用性について検証することである。臨床的意義は、上腕―足首間脈波速度の心血管疾患発症予測指標としての有用性が確立できることである。実施場所・実施期間は、東京医科大学循環器内科に事務局を設置し、提供された各研究データの統合を行い、データを管理する。データの統計解析は東京医科大学循環器内科と九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター(二宮利治先生)の2施設で同時解析し、統計解析の妥当性を確認する。現在約16,000症例、12コホートが集まっており、分析期間は2014年4月より3年間を予定している。なお、本データについては専用のハードディスクに落とし、データの流出がないよう最大限の配慮をしていることを付け加えておく。 検査項目は、年齢、性別、身長、体重、喫煙の有無、上腕―足首間脈波速度、心拍数のほか、古典的なリスク

冨山博史(東京医科大学循環器内科学教授)山科 章(東京医科大学循環器内科学主任教授)

上腕−足首間脈波速度の予後予測指標としての有用性検証のメタ解析(individual participants meta-analysis):その進捗状況

第15回 臨床血圧脈波研究会 特別報告

この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

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特別報告

ファクターである血圧、総コレステロール、中性脂肪、血糖などで、高血圧や脂質異常、糖尿病といった心血管疾患発症危険因子の治療歴(薬の有無)や冠動脈疾患や脳血管疾患、透析の既往歴を聞く。なお、同研究については東京医科大学の倫理委員会で申請を行い、委員会で承認されている。また協力施設に多施設共同研究ということも告知済みである。

まとめ 現段階で得られたデータについてだが、心血管疾患発症についてROCカーブを描いたところ、曲線化面積は0.69であった(図1)。階段状のものはなく、かなりスムーズな曲線になっている。脈波速度は年齢で補正したが、baPWVは心血管イベントに対して明らかに独立した予後指標であると推察された。2015年内か2016年早々には二宮先生と最終的な解析を行い、2016年度中にはメタ解析として発表する予定である。

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0.0

感度

1.01-特異

心血管疾患発症のROC曲線下面積:0.693(0.675-0.712)

0.6 0.80.40.20.0

図1 ● 心血管疾患発症のROCカーブ

1) VlachopoulosC,etal.Predictionofcardiovasculareventsandall-causemortalitywithbrachial-ankleelasticityindex:asystematicreviewandmeta-analysis.Hypertension2012 ;60 :556 -62 .

文献

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