資料 「講演」誌上再現 でできる - bunkei「講演」誌上再現 資料4 資料1...

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ここが知りたい 1 2 3 4 18 使hito yume 資料 4 資料 1 資料 2 資料 3 優れた成果を上げている実践例 「講演」誌上再現 「講演」誌上再現 前 半 前 半 はじめに はじめに 24 教室でできる特別支援教育 25 教室でできる特別支援教育 名城大学大学院 大学・学校づくり研究科 准教授 曽山和彦 そやま かずひこ*群馬県生まれ。東京学芸大学卒、秋田大学大学院修士課 程修了、中部学院大学大学院博士課程修了。東京都、秋田県の養護学校 教諭、秋田県教育委員会指導主事、管理主事を経て現職。社会福祉学博 士。学校心理士。上級教育カウンセラー。編著書に『学習に苦戦する子』 (図 書文化)、『気になる子への対応術』(教育開発研究所)、著書に『時々“オニ の心”が出る子どもにアプローチ 学校がするソーシャルスキル・トレーニング』 (明治図書) 『すぐに役立つ!学級経営の秘訣 第1巻 子ども集団が動く学級 づくり』 (教育開発研究所)ほか多数。

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Page 1: 資料 「講演」誌上再現 でできる - BUNKEI「講演」誌上再現 資料4 資料1 資料2 資料3 優れた成果を上げている実践例 現誌上再現 半前 半

ここが知りたい学 級 経 営

実践知を学ぶ・真似る

 

今年度は、特別支援教育のス

タートから5年目です。これまで

に全国各地の先生方が試行錯誤

を重ねた実践の知見が積み上げ

られてきています。わたしは巡回

訪問等により多くの学級を見て

回る中で、「他校に伝えたい」と

感じる実践に出会ってきていま

す。はじめからオリジナルの実践

を目指す必要はありません。ま

ずは、優れた成果を上げている各

地の実践を「学ぶ・真似る」ことか

らはじめてはいかがでしょうか?

 

例に挙げたのは、A小学校「ど

の子もできる授業づくり三つの

原則」資料1

、B小学校「人づき

あいのコツを学ぶSSTタイム」

資料2

、C中学校「全ての学級

が取り組むアサーションワーク」

資料3

の実践です。 

 いずれも、気になる子が在籍す

る学級での実践であり、「教室で

できる特別支援教育」のモデルと

なります。

現代の子ども像と

教室でできる特別支援教育

 

人とのかかわり体験が不足し

ている現代の子どもは、「ソーシャ

ルスキルと自尊感情が落ち込んで

いるのではないか」と考えられま

す。

 

人とかかわるコツを知らず、自

分を否定的に評価しがちな子が

多く在籍する学級で、気になる

子の存在がクローズアップされる

のは当然といえます。気になる子

に対して、否定的な言葉を投げ

かける子が多ければ、気になる子

の言動がよりマイナス方向にふく

れあがり、学級全体の雰囲気は

悪くなります。

 

それ故、いま、通常学級におい

て必要なのは、気になる子、およ

び学級集団の実態を把握したう

えで、学級すべての子に、「人づき

あいのコツ(技)を教える」「自分

にOKと言えるようにする」こと

であり、それが「教室でできる特

別支援教育」であると考えま

す。

 

気になる子のみに焦点を当て

た指導では、通常学級における

特別支援教育は機能しません。

資料4

 

前号まで「気になる子も、まわ

りの子も安心な学級経営」と題

し、4回にわたる連載の機会を

いただきました。その後、読者ア

ンケートを通して、「気になる子

も含めた学級づくりのノウハウ

を知りたい」「全国の実践例を

もっと教えてほしい」等の声が多

く届きました。そこで、少しでも

読者のみなさんのニーズに応え

るため、本号から3回シリーズで、

「教室でできる特別支援教育」

をテーマにわたしの考えをお伝

えします。

 「なぜ、このテーマなのか」。それ

は、いま、わたしに届く講演依頼の

中で最も多いテーマだからです。そ

れだけ全国の先生方の興味関心

が高いということであり、また「ど

うすればいいのか」という悩みも尽

きないということなのでしょう。

 

わたしも18年間、担任として

子どもの学習・行動・対人関係面

での指導・支援をする中で、悩み

が消えたことはありません。しか

し、そうした悩みも、いまではすべ

て懐かしい思い出に変わっている

ことに気づきます。子どもとのか

かわりをあきらめなかったことが、

「思い出の開花」につながったのだ

と思います。

 いま、目の前の子どもたちに、

先生方各自の「引き出し」にある

さまざまな指導・支援の知識や

技術を使ってかかわってみましょ

う。子どもが「笑顔になった、伸び

た」と感じる瞬間に、きっと出会

えます。先生方がこれまで学び、

経験して身につけた知識や技術

に自信をもちましょう。

 

わたしが本号から伝えること

の中には、「それならいつもやって

いる」ということがたくさんある

はずです。先生方の毎日を応援

するのがhito*yum

e

の基本コン

セプト。ならば、もちろん、わたし

がお伝えすることも先生方への

応援メッセージです。

 

これまでの「教室でできる特

別支援教育」の講演で、「最も自

分の思いを語ることができた」と

感じたのはS市での150分講

演。「事例・理論・演習」の3点セッ

トがリズムを生み、話しているわ

たし自身、あっという間に時間が

過ぎ去ったかのように感じまし

た。以下、S市講演のエッセンスを

今号・次号の2回に分けて誌上

再現してみます。

教室教室でできる

でできる

特別支援教育

特別支援教育

「講演」誌上再現

「講演」誌上再現

資料 4

資料 1

資料 2

資料 3

優れた成果を上げている実践例

「講演」誌上再現「講演」誌上再現

前 半前 半

はじめにはじめに

24*教室でできる特別支援教育*25 教室でできる特別支援教育

名城大学大学院 大学・学校づくり研究科 准教授

曽山和彦そやま かずひこ*群馬県生まれ。東京学芸大学卒、秋田大学大学院修士課程修了、中部学院大学大学院博士課程修了。東京都、秋田県の養護学校教諭、秋田県教育委員会指導主事、管理主事を経て現職。社会福祉学博士。学校心理士。上級教育カウンセラー。編著書に『学習に苦戦する子』(図書文化)、『気になる子への対応術』(教育開発研究所)、著書に『時々“オニの心”が出る子どもにアプローチ 学校がするソーシャルスキル・トレーニング』(明治図書)『すぐに役立つ!学級経営の秘訣 第1巻 子ども集団が動く学級づくり』(教育開発研究所)ほか多数。

Page 2: 資料 「講演」誌上再現 でできる - BUNKEI「講演」誌上再現 資料4 資料1 資料2 資料3 優れた成果を上げている実践例 現誌上再現 半前 半

実践へのはじめの一歩

| 気になる子の理解

  

教室でできる特別支援教育実

践へのはじめの一歩は、気になる

子の理解から踏み出します。

資料5

 

文部科学省の調査で「気にな

る子の在籍率6.3%」(※2)という

数字

資料6

、父親の不用意なひ

と言が引き金となった「少年によ

る自宅放火事件」

資料7

等を

念頭におけば、今や発達障害につ

いて「知らないでは済まされない」

といえます。

 「個への支援が全体の支援につ

ながる」というユニバーサルデザイ

ンによる実践を進めるには、特性

上、気になる子にはどのような配

慮が必要なのかを把握しなけれ

ばなりません。そのために、LD

(学習障害)やADHD(注意欠

陥/多動性障害)等の障害に関

する基本理解が不可欠です。

 

わたしには忘れられない二つの

言葉があります。一つは、「子ど

ものことを理解してほしかった」

という保護者の言葉、もう一つは、

「教師が無知のまま教壇に立つこ

とは子どもに失礼である」という

杉山登志郎氏の言葉です。(※3)

 「子どもとのかかわりを通して

その子を理解すればよい。難しい

理屈は必要ない」と話す先生が

稀にいます。しかし、そうでしょ

うか。わたしは、「体験、実践だけ

では通用しない」と思っています。

 

教室でできる特別支援教育を

進めるために、理論・技法も学ん

でいくこと。それが、「教育のプロ」

である教師の職業倫理でしょう。

Ⅳ 実践への次の一歩

| 学級集団の理解

 

教室でできる特別支援教育の

次の一歩は、学級集団の状態理解

へと踏み出します。資料8

 

河村茂雄氏は「ルールとふれあ

いのある集団は、教育力のある集

団である」(※5)と述べています。

学習指導も生徒指導も十分に

機能し、子ども同士がともに人

として育ち合っていくことができ

る集団です。

 

深沢和彦氏は公立小学校4・

5・6年生を対象に、児童の学級

適応状態について、Q

-U(学級診

断尺度調査)を活用した調査を

行った結果、「学級状態が良好で

あれば、気になる子の学級適応

も良好である」ということを明ら

かにしました。(※6)

 

Ⅰで紹介した「授業づくり三

原則」のA小学校、「SSTタイ

ム」のB小学校も、学級集団の状

況を理解するためにQ

-Uを活

用しています。

 

わたしたち教師は、日常的な

観察から個々の子どもや学級集

団の状態を把握することに努め

ます。しかし、行動、表情として

外に現れたものを見取る観察だ

けでは、子どもや学級集団の状

態を真に把握することが難しい

ケースがあります。「顔は笑って

心で泣いている」子どもがいま

す。そうした子どもの内面、ある

いは学級集団の内面に潜むもの

をより正確に把握するには、教

師は複数の観点をもっておくこ

とが必要と考えます。

 

その観点の一つが、子ども自身

の自己評価尺度であるQ

-Uで

す。わたしも担任をしていたとき

にQ

-Uを活用していましたが、

短時間で実施でき、個々の子ど

も、学級集団の状況がより正確

に把握できたという実感をもって

います。ただし、その際、気をつけ

たことがあります。「一番は行動

観察。データは横に連れて歩く」

ということです。

 

学級づくりの基礎・基本は、

ルールづくりとふれあいづくりで

す。資料9

 「学級がどの子にも居場所とな

るにはルールとふれあいが必要」と

いう河村茂雄氏の指摘(※5)は、

学級担任経験者であれば、「確か

に」と納得がいくものではないで

しょうか。

 「人間の上位欲求は下位欲求

が部分的にせよ満たされて初め

て発生する」というマズローの欲

求階層説

資料10

によれば、ま

ずは「安全・安定」欲求に応える

ルールづくり、次いで「所属・愛情」

「自尊・承認」欲求に応えるふれ

あいづくりを、という説明が可能

となります。

 

担任は新年度開始直後、学級

ルール定着に向け、さまざまに心

資料 5

資料 6

資料 7

気になる子の理解

資料 8

資料 9

資料 10

【参考文献】 ※1 ドナ・ウィリアムズ「自閉症だったわたしへ』新潮文庫 2000年発行 ※2 文部科学省『通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする 児童生徒に関する実態調査』 2002年 ※3 杉山登志郎『アスペルガー症候群と高機能自閉症 青年期の社会性のために』 学習研究社 2005年発行

※4 河村茂雄『楽しい学校生活を送るためのアンケートQ-U実施・解釈ハンドブック』 図書文化 1999年発行 ※5 河村茂雄『データが語る①学校の課題』図書文化 2007年発行 ※6 深沢和彦『特別支援対象児の学級適応感と学級状態との関連」 (河村茂雄・高畠昌之 編『特別支援教育を進める学校システム』)図書文化 2007年発行

26*教室でできる特別支援教育*27 教室でできる特別支援教育

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をくだきます。また、自分と子ど

も、子ども同士のふれあい促進に

向け、同様に心くだきます。年度

当初のふれあいは、まだ出会った

ばかりの関係であり、プラスとプ

ラスの感情交流(=ラポート)の段

階といえます。このラポートは、か

かわり体験を重ね、プラスもマイ

ナスも含めた感情交流(=リレー

ション)、つまり、ホンネの交流がで

きる段階へと深まります。

 

教師は、ルールとふれあい促進

に向け、どのような理論・技法を

用いてもよいでしょう。「使えるも

のは何でも使え」「役に立つ知識

こそ真の知識」という骨子をもつ

プラグマティズム(実用主義)で子

どもの前に立ってみてはいかがで

しょうか。

 

わたしがいま、「教育のプロ」と

しての腕を見せろと言われれば、

真っ先に使う理論・技法がエンカ

ウンター&ソーシャルスキル・トレー

ニングです。両者は、わたしにとっ

て、使い勝手がよく、役に立つ知

識ということです。

学級づくりの

実践テクニック

 では、ここで、「わたしの腕の見せ

どころ」、ルールとふれあい促進に

活用できる演習を紹介します。

 「質問ジャンケン」と「どっちを

選ぶ?」です。

演習

「質問ジャンケン」

 

このエクササイズは「自他理

解」がねらいです。

次のような手順で進めます。

①ペアになった児童同士でジャン

ケンをし、勝った人が質問項目

資料あ

から一つだけ相手に

質問する。

②負けた人は簡単に答える。ど

うしても答えにくいものはパス

もOKとする。

 

このエクササイズは、先生が、

「ペアで使う時間は30秒です。用

意はじめ……そこまで」とテンポ

よくリードするとよいでしょう。

 

このエクササイズを帰りの会等

の時間を使いながら繰り返して

実施した先生から、「お互いのこ

とが少しずつ理解し合え、男女の

間や気になる子に対する『壁』が

薄くなったように感じます」とい

う声が届きました。

 「30秒」という時間枠にも意図

があります。あっという間に終わ

る時間だからこそ、「この人のこと、

もっと知りたい」という思いが生ま

れる、「この人のこと、何となく苦

手」であってもゲーム感覚でかかわ

ることができる、ということです。

演習

「どっちを選ぶ?」

 

この演習は「話し方・聴き方の

習得」がねらいです。

 

次のような手順で進めます。

①カード

資料い

に示された「ご

はん―パン」などの二つの言葉

から自分が好きな方を一つ選

んで丸で囲み、選んだ理由も簡

単に考える。

②3、4人がグループになり、ひと

りずつ順番に選んだものを紹介

し、理由も説明する。「ごはんと

パンでは、ごはんを選びました。

なぜならば○○だからです」。

 この演習を進める際に、先生は、

「友だちが話をしているときに

は、まわりの人は静かに聴きま

しょう。うなずきながら聴くと

話す人は安心しますよ」などと、

説明するとよいでしょう。

 

この演習を朝の会などの時間

を使いながら繰り返して実施し

た先生から、「授業中、自分の考

えに固執することなく、柔軟な

考えをもつ子どもが増えまし

た。話し方や聴き方を学ぶには

とてもいい演習です」という声が

届きました。子どもたちの発達

段階などに合わせ、どのような

「二択」の言葉を用意するかな

ど、先生方の腕の見せどころで

す。なお、拙著で学校現場のSST

(ソーシャルスキル・トレーニング)具

体実践を紹介しています(※7)。

ぜひ、ご一読ください。

●現場を知り、子どもたちを

知り、そのうえで理論を述べ

られ、非常に心にしみる講演

だった。

●「無知のまま子どもの前に立

つことは失礼極まりない」と

書かれた文にふれたとき、自

分が何を知らないか、何を知

るべきか、そして、何を勉強す

べきかを考えねばならないと

痛感した。

●学級づくりが基本中の基本

であることを再確認した。

●「実践だけでは通用しない。

理論も必要」との言葉にハッ

とした。

●明日からすぐに生かせる方

法がたくさんあった。

「すぐに役立つ!学級経営の秘訣第1巻 子ども集団が動く学級づくり」曽山和彦編集(教育開発研究所)1,890円 

【参考文献】 ※7 曽山和彦『時 “々オニの心が出る”子どもにアプローチ 学校がするソーシャルスキル・トレーニング』 明治図書 2010年発行 

資料 い カード例

どっちを選ぶ?名前(         )☆あなたの好きな方をえらび、丸で囲んでください。選んだ理由も簡単に考えておきましょう。

1 ごはん - パン 2 山 - 海 3 ひこうき - ふね

1.好きなスポーツは?2.好きな食べ物は?3.よく見るテレビ番組は?4.行ってみたい外国は?

5.好きな勉強は?6.今、いちばんほしいものは?7.苦手なものは?

資料 あ 質問項目例

「質問ジャンケン」

「どっちを選ぶ?」

 

ちょうど半分の70分が

経ちましたので、ここで10

分間休憩にします。休憩後

(次回11号)に、「教室でで

きる特別支援教育」とし

て、教師の構え&具体方策

を紹介します。

受講感想紹介受講感想紹介

次回は次回は

28*教室でできる特別支援教育*29 教室でできる特別支援教育