教育格差 -...

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教育格差 名古屋市立大学経済学部 093088 小出千紘

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  • 教育格差

    名古屋市立大学経済学部

    093088

    小出千紘

  • 目次 序論 第一章 現状分析 第一節 教育の果たす役割 第二節 教育にかかる費用 第三節 日本の教育援助 第二章 実証分析 第一節 親の所得と学力 第二節 親の所得と教育費 第三節 親の所得と教育に対する意識 第四節 所得と教育費の弾力性 第三節 政策提言 第一節 教育バウチャー制度 第二節 教育バウチャー額の試算 終論

  • 序論 近年、日本では格差社会が広がっていると言われている。格差のひとつとしてバブル崩

    壊以降の不況やリーマンショックによって雇用形態が多様化したことによる所得格差があ

    る。そして、非正規社員やフリーターが増加することによって所得格差が拡大し、その影

    響が大人の間だけでなく子どもの間にも及んでいる。 子どもの間に及ぶ影響、子ども期を貧困家庭で育つことによる問題として生活環境や健康

    問題や学力格差があげられる。その中でも子ども期に充分な教育を受ける事ができないこ

    とは将来に不利を引き起こし、その不利はまた別の不利を招き貧困を固定的なものとして

    いると言われている。 筆者は卒業論文のテーマとして教育格差に焦点を当て親の所得と子どもの教育の関係を

    明らかにすることを目的とした。 このテーマに関心を持ったきっかけになったのは子どもの貧困という言葉を知ったことで

    ある。調べて行く中で日本の子どもの貧困率は他のOECD諸国に比べて高く、2000 年には 7 人に1人の子どもが貧困家庭で育つという現状であることを知った。 そして、貧困家庭で育つことの問題の1つとして充分な教育を受ける事ができない傾向が

    あることである。 なぜなら、日本の公的教育制度は公的な負担よりも私的な負担が大きく、さらに公立高校

    や公立大学など比較的に経済的負担が軽い学校に進学することや、奨学金を取れるような

    学力を身につけるためには塾などの補助学習費への投資が必要となる。 そのような教育の機会を与えられない子どもはその時点で不利な立場になってしまうので

    ある。 たとえ完全な平等を達成することはできなくても、それを仕方ないといって終わらせる

    のではなく、少しでも平等に向かうように努力することが必要である。 本稿では親の所得が低いことが子どもの教育投資に影響を与えるのかという仮説を立て、

    親の所得と子どもの教育の関係を明らかにし教育の不平等に対する改善策を考える事を目

    的としている。

  • 第一章 現状 第一節 教育の果たす役割 まず初めに実際のデータから、現代社会では教育がどのような意味を持つのかを検証して

    いく。それを検証するデータとして学歴と生涯賃金のデータを用いる。 このデータを用いる理由は、学歴と生涯所得に何らかの関係があるとしたら、教育の果た

    す役割というものが見えてくるのではないかと考えるからである。ここでは大学・大学院

    卒、高専・短大卒、高卒、中卒と分けてさらに男女で比較する。

    生涯所得男性 生涯所得女性

    大学・大学院卒 2億 7590万円 2億 1540万円

    高専・短大率 2億 2120万円 1億 6590万円

    高卒 2億 0580万円 1億 2650万円

    中卒 1億 8400万円 1億 1040万円

    (出所)労働政策研究・研究機構「ユースフル労働統計」(2011)より作成。

    全ての学歴において女性より男性のほうが生涯賃金が高い。

    次に男性、女性ともに学歴が高いほど生涯賃金が高くなっていることが分かる。中卒の生

    涯所得は1億 8400 万円、一方で大学・大学院卒の男性の生涯賃金は2億 7590 万円であり、中卒と大学・大学院卒の間の男性の生涯所得の差額は約1億円にまで及んでいる。このこ

    とは子どもの時の教育そして学歴が将来の所得に大きな影響を及ぼしていることを表して

    いる。教育の果たす役割として、将来の所得に少なくとも影響を及ぼすことが分かった。 次に学歴別失業率のデータを用いる。学歴と失業率の関係を明らかにすることで、教育が

    将来の暮らしの安定にどのような影響を及ぼしているのか明らかにする。1996 年から 2001年まで 5 年ごとに学歴別の失業率を見る。

    中学・高校卒 短大・高専卒 大学・大学院 1996 年 3.5 4.5 3.1

    2001 年 5.5 4.2 2.3 2006 年 4.8 3.9 3.0 2011 年 5.3 4.2 3.4 (出所)2001年まで「労働力調査特別調査」(各年2月)より作成。

  • 2002年以降は「労働力調査」(年平均)注:2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く

    1996 年を除いて取り上げたすべての年代で中学・高校の失業率が一番高くなっている。短

    大・高専卒、大学・大学院卒の失業率の変化があまりないのに比べて中学・高校卒の失業

    率の変化はここ 15 年の間に 1.5 倍にもなっている。その理由として、ここ 15 年間の不況

    の影響を受けていると言える。

    2001年はバブル崩壊後の不況であり日本景気の底と言われた年である。そして 2008年には

    リーマンショックの影響により再び不況であった。この表から分かるように中学・高校率

    の失業率は 2001 年、2011 年と高くなっている。 このことは、そのような不況の影響を一番受けやすく失業のリスクが高いのが中学・高校

    卒といった低学歴の人達であることを表している。このように低学歴であることは将来の

    所得にも安定した雇用にも影響を与える。 生涯賃金、失業率から見て現代社会において教育、学歴は将来に大きな影響を与えること

    が分かった。 第2節 教育にかかる費用 次に教育にかかる費用を見ていく。近年、教育にかかる費用が増加している。 大学全編入時代とも言われる現在は、大学に入る費用がかかることや、幼少期から塾に通

    うことが普通になっている。そして、裕福な家庭では教育の選択肢は公立学校だけでなく

    私立学校など民間の教育機関など多くあり以前に比べて選択肢が増えている。 しかし、教育にお金を費やす余裕のない家庭では選択肢はなく多くの家庭の子どもは公立

    学校に通っている。このようなところから教育の格差が生まれているといわれている。そ

    れでは幼稚園から高校まで進学するにはどれくらいのお金が必要となっているのか示す。 文部科学省「子どもの学習費調査(平成 22 年)」を用いて1年間の教育費用の平均値を表す。 公立幼稚園 259000 円 私立幼稚園 601000 円 公立小学校 363000 円 私立小学校 1365000 円 公立中学校 499000 円 私立中学校 1233000 円 公立高校 434000 円 私立高校 921000 円 (出所)文部科学省「子どもの学習費調査」(平成 22 年)より筆者作成。 この表から公立の学校に通う場合と、私立の学校に通う場合には大きな教育費の差が生ま

    れていることが分かる。

  • 幼稚園に2年通った場合で計算すると、幼稚園から高校まで全て公立に通った場合には約

    550 万円、すべて私立に通った場合は約 1585 万円となっている。公立と私立の間の差は約1035 万円となっている。 次に教育費の年代ごとの推移をみる。データは文部科学省子どもの教育費調査平成 10 年から平成 22 を用いる。

    (出所)文部科学省 子どもの学習費調査より作成。 私立小学校のデータは平成 18 年度からしかないためここでは公立学校のみを考える。 すべて公立の場合では平成 10 年では約 517 万円、平成 16 年では約 531 万、平成 22 年では約 549 万円と年々教育にかかる費用が高くなっている。ここでいう教育にかかる費用は補助学習費や学校外教育費を含む一年間の教育費総額のことである。 公立学校のみについて考えてきたが教育にかけている費用が高くなってきていることが分

    かる。 このことは教育にお金をかけられる人がいる一方で、教育にお金をかけることができない

    家庭の子どもへの不利が 10 年前に比べてより大きくなっていると言えるだろう。 第3節 日本の教育援助 第3節では現在日本では教育の格差是正に向けてどのような援助をしているのかを見てい

    く。 第 2 節で教育にかかる費用をみたところ、すべて公立の学校に幼稚園から高校まで通うにしても子ども 1 人につき約 500 万円の費用がかかることが分かった。 学校教育法第 19 条は「経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対して市町村は必要な援助を与えなければならない」としている。この市町村

    が行う就学援助に対して国は就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励について国の援助に

    関する法律」等により必要な経費の一部を補助している。

    5000000510000052000005300000540000055000005600000

    平成10年 平成16年 平成22年

    公立学校総額(円)

    公立学校総額

  • 生活保護世帯に属する小中学生の場合、義務教育に伴う学校給食費、通学用品費、学用品

    費については教育扶助の対象となる。就学援助制度は生活保護世帯の小中学生に対して教

    育扶助の対象とならない修学旅行費などを支給するとともに教育扶助を受けていない様保

    護者、生活保護の対象に準ずる程度に困窮している小中学生に義務教育に伴う費用の一部

    を給付している。 就学援助受給者の推移を見てみる。

    (出所)文部科学省「衆議院予算委員会提出資料」2008 年 2 月より作成。 グラフから分かるように要保護者、準要保護者ともに増えている。要保護者と準要保護者

    の合計である就学援助対象者が小中学生総額に占める割合は、1997 年度の 6.6%から、2006年には 13.6%と約2倍になっている。全国で7人に1人の小中学生が、経済的理由により就学困難となっている。 この就学困難な児童が増えているということは、教育格差が拡大していることを示してい

    る。 そして、この現在の就学援助の特徴としては市町村の財源によって援助力にバラつきがあ

    ること、給付方法が基本的に現金給付であることがあげられる。 多くの市町村では学校教育費や通学品費など最低限学校に通うことができるようにするた

    めの援助が行われている。補助学習費(塾や習い事)に対する援助はない。このことは高

    所得家庭の子どもが塾や習い事などに通う機会があることに対して低所得家庭には所得に

    よって教育の機会に制限が加えられていることになる。 つまり、現在の制度では最低限、学校に通える援助がされているのであって充分な教育の

    機会を与えられるような制度がないということである。

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    97 98 99 0 1 2 3 4 5 6

    準要保護者 要保護者

  • また、市町村によっては補助教育費援助の取り組が行われている。大阪市西成区内では 2012年 7 月より就学援助を受ける中学生約 950 人を対象に月 1 万円の教育バウチャーの配布が始まった。市町村によってこのような差が生まれる事は地域格差にもつながるといえる。

  • 第2章 実証分析 第1節 親の所得と学力 第2節では親と子どもの教育について検証していく。 まず親の所得と子どもの学力にはどのような関係があるのかをデータを使って検証する。

    ここではお茶の水女子大学の学力を調査した委託研究を用いる。この調査では小学校 6 年生約 1,200 人とその保護者を対象に、親の経済力と子供の学業成績の関係を調べている。

    研究に用いたテストの結果として、国語A国語B数学A数学Bの正答率を用いているが、

    ここでは国語A国語Bの正答率の平均を国語の正答率として、また数学A数学Bの正答率

    の平均を数学の正答率として用いる。なぜなら科目ごとのA・Bの正答率の違いよりも所

    得ごとの平均率の違いに注目するためにこのようにした。

    (出所)JEL2003 この結果より世帯年収の高い家庭の子どもほど国語、数学ともに正答率が高いことが分か

    る。一番年収が低い区分である年収 200 万円未満の家庭の子どもの平均正答率は約 50%である。一方一番年収が高い区分である年休 1500 万以上の家庭の子どもの正答率は約 70%である。つまり、年収 200 万円未満の家庭の子どもと年収 1000 万円以上の家庭の子どもでは国語、算数ともに約 20%正答率に違いが見られる。 この2教科だけで学力を完全に把握することができるわけではないが、学校学習の基礎と

    なる科目であるため、他の科目でも同じような傾向が見られると推測できる。 この結果から家庭の所得が子どもの学力に少なくとも影響を与えていることが分かる。

    0102030405060708090

    100

    200万

    未満

    20

    0~30

    0 30

    0~40

    0 40

    0~50

    0 50

    0~60

    0 60

    0~70

    0 70

    0~80

    0 80

    0~90

    0 90

    0~10

    00

    1000

    ~12

    00

    1200

    ~15

    00

    1500

    万以

    正答

    率(

    %)

    年収

    国語 算数

  • 第2節 親の所得と教育費 第1節より親の所得と子どもの学力に正の関係があることが分かった。 次に親の所得と教育費にどのような関係があるのか調べる。

    (出所)文部科学省「子どもの学習費調査」(2010)より作成。

    ここでいう教育費とは、学校外教育費と補助学習費を含むすべての教育費のことである。

    0200400600800

    10001200140016001800

    400万

    未満

    40

    0~59

    9 60

    0~79

    9 80

    0~99

    9 10

    00~

    1199

    12

    00万

    以上

    教育

    費(

    千円

    年収(万円)

    小学校

    公立 私立 0

    200400600800

    1000120014001600

    400万

    未満

    40

    0~59

    9 60

    0~79

    9 80

    0~99

    9 10

    00~

    1199

    12

    00万

    以上

    教育

    費(

    千円

    年収(万円)

    中学校

    公立 私立

    0200400600800

    100012001400

    400万

    未満

    40

    0~59

    9 60

    0~79

    9 80

    0~99

    9 10

    00~

    1199

    12

    00万

    以上

    教育

    費(

    千円

    年収(万円)

    高校

    公立 私立

  • このデータより小中高の公立、私立共通して所得が多い家庭ほど教育費が高いことが分か

    る。公立小学校では世帯の年間収入が 400 万未満の家庭では学習費総額は 227(千円)、1200万以上の家庭では学習費総額が 598(千円)である。公立中学校では世帯の年間収入が 400万未満の家庭では学習費総額は 390(千円)、1200 万以上の家庭では 675 である。公立高校では世帯の年間収入が 400 万未満の家庭では学習費総額は 318(千円)、1200 万以上の家庭では 594(千円)である。 公立学校であれば学費は無償化されているのでここで生じる差は習い事などの学校外教育

    費と塾などの補助学習費の差である。このことは親の所得によって子どもの教育の機会に

    差が生じていることを表している。所得が低いことにより子どもの教育の機会が制限され

    ているつまり、所得が低いことが教育投資に影響を与えていることが分かる。 先のグラフより教育費に差が生じていることがわかったが第1節の所得と学力と合わせて

    考えると親の所得と子どもの学力が比例している原因の一つとして、子どもを塾に通わせ

    る金銭的余裕があるかどうか(補助教育費に対する投資)に関わっている可能性がある。 ここで親の所得と子どもの通塾を検証する。

    (出所)子ども未来財団の調査結果(2006)より筆者作成

    この図から分かるように、子どもを塾に通わせている割合は親の所得に比例しているとい

    える。所得が 300 万以下では塾に通わせている家庭は 13%に対して所得が 1100 万円以上の家庭では 61、4%である。 また、経済的理由から通わせていないでは所得が 300万円以下の家庭では 62,5%に対して

    1100万円以上の家庭では 0%である。このことは所得が低い家庭では子どもの教育の機会

    が親の所得によって制限されていることを表している。また所得が高い家庭では子どもの

    望む教育を与えられていることがわかる。

    13% 17.60% 25.80%

    32.20%

    50.40% 61.40% 62.50%

    49.20%

    28.50%

    13.90% 7.40%

    0% 0%10%20%30%40%50%60%70%

    塾に通わせている

    経済的理由から通

    わせていない

  • 3節 親の所得と教育に対する意識

    これまで親の所得と学力、教育費の関係を見てきた。その中で所得が高いほど子どもの教

    育の機会は多く、その結果所得が高いほど学力も高いという結果であった。

    親が子どもの教育に与える影響として学習費の投資の他に教育に対する考え方というもの

    がある。ここでは教育に対する意識の違いについて検証する。

    子ども未来財団の調査結果では子育て世帯は子育ての何に負担を感じているのかを尋ねた

    調査がある。その結果では全体では一番負担に感じているのは子どものしつけや子どもの

    接し方、次には子どもにかかっている養育費である。 子どもにかかる教育費の負担を 1 番目、2 番目、3 番目にあげる割合を家庭の所得別にみると図のようになる。

    教育費負担への考え方(子ども未来財団の調査結果)2006 年より作成。 この図から分かるように所得が多い家庭ほど教育費負担を1番にあげる比率が高いのであ

    る。そして、年間 200 万以下の家庭では教育費をほとんど負担と感じていないようである。所得 1000 万以上の家庭では 20%の家庭が教育費負担を1番に感じているのに対し、所得200 万以下の家庭では教育費負担を1番に感じているのは5%にすぎない。 このことは、高所得家庭ほど子どもに高い教育を求める傾向があり、それだけ教育費負担

    を重く感じている。つまり、教育の機会は本人の能力の以前に家庭の所得によって左右さ

    れるということであり教育の機会の平等は確保されていない。所得によって教育の機会が

    制限されていることを表している。 次に、親が子どもに望む学歴についてのデータをあげる。

    週刊ダイアモンド(2008年 8月 30日)の調査では親から資産相続を受けた納税額 3000万

    円以上のリッチ層を相続リッチ、親からの資産相続を受けない納税額 3000万円以上のリッ

    チ層を新興リッチ、世帯年収 400 万円以下を貧乏父さんとグループ分けしたアンケート調

    0 5 10 15 20 25

    1000万以上

    800~1000

    600~800

    400~600

    200~400

    200万未満

    所得

    1番目 2番目 3番目

  • 査がある。その結果親が子どもに望む学歴は次のようになった。

    (出所)週刊ダイアモンド(2008年 8月 30日)より作成

    上グラフより、リッチ層はともに 8割以上が大学卒以上の学歴を望んでいることが分かっ

    た。また貧乏父さんの場合では 5割程度が大学率以上の学歴を望んではいるが 4割近くが

    子どもの学歴に特に何も望んでいないが分かった。

    これは、教育への無関心からなのか経済力がないことで子どもの学歴まで気が回っていな

    いのか原因は分からない。しかし、親の望む学歴が子どもの勉強に対する意識や教育の機

    会に影響を与える可能性は充分あると言える。

    第 2節では親の所得と子どもの教育費についてみてきた。その中で親の所得が多いほど子

    どもの教育にお金をかけていることが分かった。

    低所得の家庭では教育にかけるためのお金がないのか、教育を重要に感じていないために

    教育に対してお金をかけないのかを第 3節でみてきた。

    その中でただお金がないから教育費にかけるお金が少ないだけでなく、教育に対する考え

    方に違いがあることが分かった。

    第 2節、第 3節から親の所得が少ないことが子どもの教育費投資に影響を与えていること

    が明らかになった。

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

    大学院

    大学

    短大等

    専門学校

    高校

    特に望まない

    貧乏父さん 新興リッチ 相続リッチ

  • 第 4 節 所得と教育の弾力性 第1節から 3 節で低所得であることが教育に与える影響について見てきた。それでは低

    所得の家庭は所得が増えることで教育費をどの程度増やすこのか教育需要の弾力性を検証

    していく。 教育需要の所得弾力性とは、教育費の消費支出が所得に占める割合がどのように変化する

    のかを表したものである。 教育の所得弾力性は教育費の変化率/所得の変化率で求める。 ここでは所得階層別に教育需要の弾力性をみていく。データは文部科学省子どもの教育費

    調査(2010)公立中学校の学習費総額を用いる。 公立中学校 学習費総額 所得区分

    (万円) 400 万未満 400~599 600~799 800~999 1000~1199 1200 万以上

    支出平均 (千円)

    390 409 448 546 527 675

    用いる数値

    (千円)

    300 500 700 900 1100 1300

    (出所)文部科学省 子どもの学習費調査(2010)より作成。 教育需要の所得弾力性を求めるために用いる数値は所得区分のそれぞれの中央の値をであ

    る。ここからは所得の弾力性を中間点の法則を使って求めていく。 所得が 300 万~500 万の間では教育需要の所得弾力性は 0.095 である。 所得が 500 万~700 万の間では 0.2758 である。 所得が 700 万~900 万の間では 0.78 である。 所得が 900 万から 1100 万の間の平均額は下がっているため 900 万から 1300 万で考えることにする。所得が 900 万から 1300 万の間では 0.58%である。 所得階級別に教育の所得弾力性をみると低所得ほど教育需要の所得弾力性が低く、所得が

    増えても教育費を増やさないことが分かった。 このことは、先に見た親の教育に対する考え方も影響していると思われるが、所得が増え

    ても教育にお金を投資するよりも他の財への投資を必要と考える傾向があることを表して

    いる。 それに対して、所得が 700 万から 900 万の間の増加では教育需要の所得弾力性は約 0.8%と高く、所得増加のほとんどを教育に投資する可能性がある。 所得が 900万から 1300万への間での増加では教育需要の所得弾力性はと 700万~900万の間より下がるが低所得層に比べれば高い。この層は所得が増える事がなくても、十分な教

    育投資ができていることを表している。 この弾力性の違いにより所得が低い層はただお金を支給されたとしてもそれを教育費に投

  • 資しる割合が非常に少なく、一方ある程度所得のある層では教育費にほとんどを当てると

    いうことになりもし教育費を現金給付するとすれば格差をさらに広げる可能性があること

    が分かった。 また現状でも見てきたように子どもの奨学金を親が家賃等に使用してしまうような場合も

    あり、教育の格差是正には難しい。 そこで次の政策では教育への使用を限定したバウチャー制度によって教育の機会の不平等

    が是正されるのか検証していく。

  • 第 3 章 政策提言 第1節 教育バウチャー制度 これまでの検証により親の所得が低いことが子どもの学力に影響を及ぼしていることが分

    かった。その原因として親の所得が低いことによって子どもの教育の機会が制限されてい

    ることがある。 しかし現在の教育援助の制度は学校に通うための必要最低限の費用に対するものであって

    教育の機会平等を是正するためには不十分なものであることが分かった。また、前章では

    所得と教育の弾力性を見てきたが、所得が低い家庭では所得が増えたとしても教育に当て

    る費用が少ないことが明らかになった。 この二つの点から教育の格差を是正するためには塾などの補助学習費や私立学校に進学す

    ることに対しての支援をすることで教育の機会平等をはかること、また現金給付ではない

    形でその支援を行うことが必要であると考えた。 そこで教育の機会の不平等是正のために教育バウチャーを配布することについて考える。

    教育バウチャーとは、教育に利用を限定したクーポンを直接支給し家庭の教育費負担を軽

    減する政策である。政府が教育に資金を投入する場合、公立学校ですべての教育を提供す

    るより、バウチャーによる助成を受けた家計が私立学校や塾など多様な教育サービスの中

    から選択するほうが、さまざまな効果が期待できるのである。や具体的には低所得の家庭

    でも私立学校に行けるようになること、自分と相性の合う学校を選べるようになること、

    供給される教育の質向上などが挙げられる。 ここでバウチャーの効果について検証する。今ここには教育とその他の財が存在するとす

    る。 バウチャーが適用されるのは教育のみである。それぞれの家計は予算を教育に使うか、そ

    の他の財に使うかを決定する。(バウチャーの額は決められているとする) m:家計の予算 p:教育の価格 x:購入する教育サービスの量 y:購入するその他

    の財の量 予算制約式 m=px+y バウチャー導入後 m´=px+y-α

  • (ⅰ)y H E D A I F O x D´ B C バウチャー導入前の予算制約線はABである。そして、予算制約線と無差別曲線の接点F

    で教育の費用は決まる。次にバウチャー導入後の予算制約線はCDEとなる。ここではバ

    ウチャーは教育に使用用途を制限しているため、教育を購入する以外には使用できない。

    そのため、教育費を全く増やさないOD´間の点は選ぶことはできないため予算制約線は

    CDEとなる。 ここが奨学金などの現金給付による援助とは異なる点である。現金給付による援助では予

    算制約線はHCとなる。(ⅰ)の図ではI点を選択することとなっているが、この点は今ま

    で教育に使用していた費用を他の財に振り分ける場合である。バウチャー制度でも今まで

    教育に使っていたお金を他の財に振り分けることまでを制限することはできないことが分

    かる。しかし現金給付と比べて現在よりも教育費を減らす可能性はない。 (ⅱ) y H E D A F I O x D´ B C

  • (ⅱ)の図ではI点を選択する。この点では他の財を増やすことなく、今まで教育費に当

    てていた費用とバウチャーの両方を教育費に当てる場合である。またこの点より購入する

    教育の量が多い場合はその他の財の購入量を減らし、教育の購入量を増やす場合である。 (ⅰ)、(ⅱ)で見てきたように教育バウチャー制度による教育援助は奨学金などの現金給

    付とは異なり少なくとも教育にかける費用を現在よりも増やすことができることが明らか

    になった。それではどのような教育バウチャーの料金を設定することがよいのか、所得の

    低い家庭に対しての教育の格差是正を目的として考えていく。 第2節 教育バウチャー額の試算 教育バウチャーの効果を第 1 節で説明した。第 2 節では所得を制限した場合の教育バウチャーについて考える。どれくらいの所得の家庭にいくらの教育バウチャーが支給される

    のか試算してみる。 (ⅰ)学校外教育費(公立小学校)に限りバウチャーを与えるとする。 学校外教育費とは塾や習い事に対する費用である。またここで公立学校に限定したのは低

    所得の家庭の子どもは公立の学校に通っていることが多く、私立学校に通う子どもは少数

    であるため公立学校の場合で考えた。 子どもの学習費調査(2010)の補助教育費をデータとして用いる。 公立小学校の補助学習費の加重平均は 78000 円である。すべての子どもがこの加重平均の補助学習費を与えられるようになると考える。ここで加重平均を用いるのは所得区分ごと

    に世帯数の割合が異なるためである。 小学校 所得区分

    (万円) 400 万未満 400~599 600~799 800~999 1000~1199 1200 以上

    平均支出 (千円)

    49 58 89 124 143 277

    差額 -29 -20 11 46 65 199

  • (千円) 割合 21.7% 30.7% 24.8% 11.9% 6% 5% (出所)文部科学省 子どもの学習費調査(2010)より作成 このデータをもとに散布図を作り近似直線を引いてみたところ、年収と補助学習費の平均

    からの差額の関係はy=0.1329x-122.62(1 式)となることがわかった。

    (1)式に年収をそれぞれ代入して、補助学習費への平均支出額までの不足額を求める。試算に用いる数値は所得区分の中央値とする。 所得区分 (万円)

    400 万未満 400~599 600~799 800~999 1000~1199 1200 以上

    試算の数値

    (万円)

    300 500 700 900 1100 1300

    不足額 (千円)

    29.19 不足なし 不足なし 不足なし 不足なし 不足なし

    また(1)式で不足が 0 になる値は 590 万円である。この試算では年収が 590 万円未満の家庭に教育バウチャーが配布されることとなる。 この試算の場合ではすべての所得の家庭の子どもが年間 78000 円以上の補助学習費を使用することができることとなる。

    y = 0.1007x - 59.405 R² = 0.8953

    -80

    -60

    -40

    -20

    0

    20

    40

    60

    80

    0 200 400 600 800 1000 1200 1400

    支出

    額平

    均か

    らの

    差額

    年収

  • (ⅰ)と同様に (ⅱ)公立中学校での補助学習費の加重平均は 232000 円である。 所得区分 400 万未満 400~599 600~799 800~999 1000~1199 1200 以上 平均支出

    (千円) 177 194 225 294 288 341

    差額 (千円)

    -55 -38 -7 62 56 109

    割合 17.4% 24.6% 27.8% 16.9% 7.7% 5.6% (出所)文部科学省 子どもの学習費調査(2010)より作成。 このデータをもとに散布図を作り近似直線を引いてみたところ、年収と補助学習費の平均

    からの差額の関係はy=0.1673x-133.66(2 式)となることがわかった。

    (ⅰ)と同様に(1)式に年収をそれぞれ代入して、補助学習費への平均支出額までの不足額を求める。 年収 (万円)

    400 万未満 400~599 600~799 800~999 1000~1199 1200 以上

    試算の数値

    (万円)

    300 500 700 900 1100 1300

    不足額 (千円)

    62.47 29.01 不足なし 不足なし 不足なし 不足なし

    また(1)式で不足が 0 になる値は 673 万円である。年収が 673 万円未満の家庭にバウチャ

    y = 0.1673x - 112.66 R² = 0.9468

    -150

    -100

    -50

    0

    50

    100

    150

    0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600

    支出

    額平

    均か

    らの

    差額

    (千

    円)

    年収

  • ーが支給されることとなる。 この試算の場合ではすべての所得の家庭の子どもが年間 232000 円以上の補助学習費を使用することができることとなる。 第3章では教育バウチャー制度についてみてきた。ここでは所得が低い家庭に対するバウ

    チャーを考えているので、ここでは所得制限のみを考えた試算を行った。 この試算では低所得の家庭で教育の機会が制限されている家庭も一定以上の金額の補助学

    習費を使用することができ教育の機会の平等化にはつながる可能性がある。 しかし、教育バウチャーをもらうことができない家庭は不公平感を抱くかもしれない。 また教育バウチャー制度には教育の機会平等の機能以外にも、教育サービスの競争を促し

    教育の質向上を目的とする場合もある。 ここでは教育サービスの競争促進については考えていないが、競争促進によって私立学校

    等の授業料が安くなり教育の機会が増えることも考えられる。 そのため実際にバウチャーを導入することになれば、所得制限を配慮するだけでは足りず、

    現在日本の現状とさまざまな効果を考慮した慎重な制度設計が重要となってくる。

  • 結論 本稿では教育格差に焦点を当て親の所得と教育の関係を様々な方法で見てきた。そして、

    それを是正する案として教育バウチャー制度をあげた。 第1章では現在、日本における教育の役割や教育費を調べた。その中で分かったことは教

    育、学歴というものは子どもが大人になってから得る生涯所得にも影響を及ぼす。 そのため、教育にお金を費やす余裕のある家庭では教育にかけるお金を増やす傾向がある

    ことが分かった。 このような検証から教育の機会を与えられている者とそうでない者の間の格差は広がって

    いることが分かった。 第2章では実際に親の所得と学力や子どもにかける教育費、教育に対する考え方を検証

    した。その中で分かったことは親の所得が多いほど学力が高いこと、教育費をかけている

    ことが分かった。お金があるから教育にお金をかけるという単純なことだけでなく所得が

    多い家庭の親ほど教育を重要に感じている傾向があることが明らかになった。 また学力と塾などの補助学習費には正の関係があることが分かった。しかし日本の教育援

    助は第1章で見たが必要最低限、学校に通学するためのものに対するものしかない。 このようなとこらから教育費と学力に大きな関係があり、日本の教育援助に足りないとこ

    ろは補助教育費に対する援助であると考えた。 そこで教育格差を是正する方法として補助教育費の援助することで教育機会の平等の達成

    を目指した。 補助教育費援助という教育機会を有効に活用すれば、貧困家庭に育つ子どもたちが貧困な

    ために充分な教育を受けられないという状況は改善される。 そこで教育バウチャー制度の利用を考えた。教育バウチャーで支給する場合、現金給付よ

    りも効率的であることが分かった。教育バウチャーの目的としてここでは教育の機会の平

    等をあげているので貧困家庭への配布を前提に考えた。 教育バウチャーの額や配布範囲はさまざまであると思うがここでは一例として低所得層へ

    の配布だけを考えたため充分な試算ではないが、教育バウチャー制度により教育の格差是

    正につながる期待がもてるだろう。 親の所得が低いことが教育の投資に影響を与えており、またその教育投資が子どもの学

    力、将来の所得に影響を与えていることが分かった。貧困の世代間連鎖を断ち切るために

    も教育の機会平等を目指す必要があるがそのためには慎重な制度設計が必要となる。

  • <参考文献> 阿部彩(2008)『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波新書 浅井春夫 松本伊智朗 湯澤直美(2009)『子どもの貧困』明石書店 青木紀(2003)『現代日本の「見えない」貧困』明石書店 青木紀(2007)『現代の貧困と不平等』明石書店 福地誠(2006)『教育格差絶望社会』洋泉社 子林雅之(2008)『進学格差』ちくま書店 小塩隆士(2003)『教育を経済学で考える』日本評論社 『週刊ダイアモンド』(2008)第 96 巻 33 号 『日本経済新聞』(2011)5 月 3 日 文部科学省HP「子どもの学習費調査」

    (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037330&cycode=0) 「衆議院予算委員会提出資料」2008 年 2 月 (http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20096528.pdf) 総務省「労働力調査特別調査」 (http://www.stat.go.jp/data/routoku/index.htm) お茶の水女子大学「JEL2003」 (http://www.li.ocha.ac.jp/hss/edusci/mimizuka/jels_hp/index.htm) こども未来財団「子育て家庭の経済状況に関する研究調査」 (http://www.jrm-kyoto.co.jp/img/pdf/edu-02.pdf) ISFJ政策フォーラム 2010 発表論文「所得格差でみる社会階層の再生産」 (http://www.isfj.net/ronbun_backup/2010/d03.pdf) ISFJ政策フォーラム 2009 発表論文「親の所得が生みだす教育格差と世代間連鎖 (http://www.isfj.net/ronbun_backup/2009/c05.pdf) 文部科学省「学校基本調査」 (http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm)

    文部科学省「図表で見る教育OECDインディケ―タ」

    (http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/09/1297267.htm)

    http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037330&cycode=0http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20096528.pdfhttp://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20096528.pdfhttp://www.stat.go.jp/data/routoku/index.htmhttp://www.li.ocha.ac.jp/hss/edusci/mimizuka/jels_hp/index.htmhttp://www.jrm-kyoto.co.jp/img/pdf/edu-02.pdfhttp://www.isfj.net/ronbun_backup/2010/d03.pdfhttp://www.isfj.net/ronbun_backup/2009/c05.pdfhttp://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htmhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/09/1297267.htm