@和歌山県立医科大学医学部
特別講義楽しく学ぶ細菌学
大阪市立大学大学院医学研究科細菌学 金子幸弘
平成29年6月15日4-5限目13:40~16:10
1
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/index.shtml
教室紹介
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/index.shtml
2
細菌学で検索すると上位に来ます
3
趣味
ものづくりイラスト
学生にとっての細菌学の印象
4
•難しそう
•覚えることが多そう
•何の役に立つのかわかりにくい
• できる限りやさしく
• 覚える項目を絞り
• 臨床を意識する
やさしい細菌学
5
擬人化・イラスト化
得意技はスイヨー蹴り
水様下痢
6
細菌学ってなんだろう?
菌の名前をたくさん覚える?
細菌の「なぜ」を解明する
病気の数はどれくらい?
薬の数はどれくらい?
覚えなければならないでも覚えてはいけない
約2万種類
認可されている薬として2万弱
忘れることは覚えること
一度覚えなければ忘れることすらできない
記憶とは?
記銘保持想起
忘れる=想起できない状況
反復
3つの記憶法
関連付け:因果関係や相関関係で理解する
例 右の気管支が角度がなく短いので誤嚥しやすい。口腔内には嫌気性菌が多い。また、複数菌。だから、誤嚥性肺炎は、右に多く、嫌気性菌を含む複数菌感染が多い。
印象付け:感覚的な理解。語呂合わせ。印象的な写真。汚臭。例 1192作ろう鎌倉幕府。牙関緊急。発酵菌の腐敗臭。
9
10
今日覚えたことは是非忘れてください
復習のために問題集を作りました
後で思い出してください
11
好きなもの、好きなことを徹底的に調べる
細菌の中で、どれか一つ好きなキャラを選んでください。
12
目標
MRSAを理解する
MRSAがなぜ重要か?
13
MRSAとは?Methicillin resistant Staphylococcus aureus
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
ペニシリンの一種 細菌の一種
抗菌薬の一種 細菌の種類 抗菌薬の種類 耐性機構
を理解する
到達目標細菌学の基本1. 感染症の理解に必要な3要素(病原体、宿主、治療)とその関係性を説明できる。p3
2. 細菌の構造を図示し、各部の名称(細胞膜、細胞壁、外膜、鞭毛等)と機能を説明できる。 p20、p212
3. 細菌と他の病原体(プリオン、ウイルス、真菌、寄生虫)との相違を説明できる。p4、p15
4. 細菌の種類(一般細菌、抗酸菌、非定型菌など)による構造の相違を説明できる。 p5~9、p17~20
グラム染色5. グラム染色の原理と手順を説明し、グラム染色の有用性と限界を説明できる。p16~17、p23、p212
分類6. グラム陽性球菌、グラム陰性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌に属する細菌を列挙できる。
7. 嫌気性菌、抗酸菌、放線菌、らせん菌、スピロヘータ、非定型菌、真菌の具体例を列挙できる。 14
到達目標:1. 感染症の理解に必要な3要素(病原体、宿主、治療)とその関係性を説明できる。
治療
宿主
病原体
微生物学免疫学
薬理学
病原性
免疫応答 耐性
抗菌作用
副作用
代謝・排泄
15
16
古代のヒトは感染症をこう捉えていた
17
細菌は見えるか?
18
到達目標:
2. 細菌の構造を図示し、各部の名称(細胞膜、細胞壁、外膜、鞭毛等)と機能を説明できる。
染色体DNA
プラスミド
外膜(陰性菌のみ)
細胞壁細胞膜
細胞質
19
到達目標:
2. 細菌の構造を図示し、各部の名称(細胞膜、細胞壁、外膜、鞭毛等)と機能を説明できる。
鞭毛
線毛
20
21
もしも細菌が1mのマグロくらいの大きさだったら?
時速約70kmで進む
生物とは?
ウイルスは生物?
細菌は?
ヒトは?
細胞の体をなす
真核生物eukaryote
原始的な核を持つ生物=原核生物prokaryote
正規の 核
22
1 nm
10-9 10-8 10-7
1 μm 1 mm
10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1
bacteria
virus
fungus
parasite
到達目標:
3. 細菌と他の病原体(プリオン、ウイルス、真菌、寄生虫)との相違を説明できる。
23
細菌は肉眼で見えるか?
24
菌は自然に生える?
25
体の中の細菌の数は?
26
約1015
どこにいる?
27
1つのコロニーは約109
およそ1mm3
約1015は、およそ1L
ヤクルト1本 約4×1010
ヤクルト 2.5万本分 28
もはや体の一部
ヒトの細胞は?
29
37兆個=3.7×109個
成長の早い細胞でも分裂は1日に1-2回程度
1日でどれくらい増える?
30
lag phase遅滞期
log phase(exponential phase)対数増殖期
stationery phase定常期(静止期)
菌数[CFU/mL](対数軸)
どうやって増える?
一般的な細菌の分裂時間は0.5時間
31
問題
1. 菌の大きさを1μmの立方体に、コロニーの大きさを1mmの立方体に見立てた場合、1コロニーは何個の菌から構成されるか?
2. 上記の条件で、菌の増殖速度一定と仮定し、コロニーが形成されるまでに15時間か
かった場合、一つの菌が二つに分裂する時間(分裂時間、倍加時間)は何分か?
1000×1000×1000=109
32
210 = 1024 ≒ 103
15時間/30回=0.5時間
230 ≒ 109
15時間で30回分裂
1回の分裂に0.5時間つまり、倍加時間は30分
33
1 109 1018
時間 時間
約1018は、およそ1m3
1日でどれくらい増える?
1日半くらいで、1個の菌が、ダンボールいっぱいくらいになる 34
細菌は病気を起こす?
35
犯人を特定するには?
36
コッホの三原則(四原則)
微生物x
A B C
疾患X 健康
x x x
① ある一定の病気には一定の微生物が見出されること② その微生物を分離できること③ 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること④ そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
①
②
③
微生物x④
37
38
break1細菌自身も「感染症」に罹る?
http://www.biochemeng.bio.titech.ac.jp/research/phage/phage.html
バクテリオファージは、細菌に「感染」するウイルスである
Bondy-Denomy J et al. Nature 2013
微生物による免疫の進化とphageの免疫抵抗性の進化
Phageが微生物に感染する能力を獲得
微生物がphageに対する抵抗性を獲得(CRISPR)
標的となるprotospacerを持たないphageが微生物に感染する
新規のprotospacerを認識するために、spacerに取り込む
anti-CRISPRでCRISPRを不活化して感染する
WIN
WIN
WIN
WIN
WIN
このような発見が人類の役に立つのだろうか?
到達目標細菌学の基本1. 感染症の理解に必要な3要素(病原体、宿主、治療)とその関
係性を説明できる。2. 細菌の構造を図示し、各部の名称(細胞膜、細胞壁、外膜、鞭毛等)と機能を説明できる。
3. 細菌と他の病原体(プリオン、ウイルス、真菌、寄生虫)との相違を説明できる。
4. 細菌の種類(一般細菌、抗酸菌、非定型菌など)による構造の相違を説明できる。
グラム染色5. グラム染色の原理と手順を説明し、グラム染色の有用性と限界を説明できる。
分類
6. グラム陽性球菌、グラム陰性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌に属する細菌を列挙できる。
7. 嫌気性菌、抗酸菌、放線菌、らせん菌、スピロヘータ、非定型菌、真菌の具体例を列挙できる。 42
どうやって分類する?
細菌も同じような考え方で分類して見ましょう
グラム染色
球菌coccus
桿菌Bacillus, rod, pole
陽性 陰性
44
最初は無色
青い染色
媒染・脱色
赤い染色
対比染色
45
46
青と赤どっちが陰性だったっけ?
迷った時は赤は陰性、赤は陰性、赤は陰性、
・・・
インフルエンザキンXV世女王
グラム陽性菌は細胞壁が厚い
グラム陰性菌は細胞壁が薄い
細胞膜
テイコ酸
細胞壁
LPS
ポーリン
外膜
47
構造は標準微生物学を元に作図
O側鎖
LPS(lipopolysaccharide)=endotoxin(内毒素)
リピドA
O抗原
O157のO
48
細菌学各論のオーバービュー
グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 グラム陰性球菌 グラム陽性桿菌 嫌気性菌 抗酸菌 放線菌 らせん菌(スピリルム) スピロヘータ 非定型菌
教科書による分類が多少異なります
49
グラム染色で分類するのが基本
グラム染色では分類しがたい
グラム染色による分類1 GPC
2 GNR4 GPR
1A,1B
1C, 1D
4A
4B
2A
2B
2C
3 GNC
グラム陽性球菌の分類法
グラム陽性球菌(好気培養)cluster
カタラーゼ(+)chain
カタラーゼ(-)
StaphylococcusMicrococcus
StreptococcusEnterococcus
H2O2
O2発生中
カタラーゼ陽性 カタラーゼ陰性
2H2O2⇒H2O+O2
グラム陽性球菌の分類法
グラム陽性球菌(好気培養)cluster
カタラーゼ(+)chain
カタラーゼ(-)
StaphylococcusMicrococcus
StreptococcusEnterococcus
Lancefield分類(細胞壁多糖抗原による分類)
A群(GAS)とB群(GBS)が重要
α溶血 β溶血 γ溶血溶血性
グラム陽性球菌の分類法
グラム陽性球菌(好気培養)cluster
カタラーゼ(+)chain
カタラーゼ(-)
StaphylococcusMicrococcus
コアグラーゼ(+)
StreptococcusEnterococcus
(-)
S. aureus CNSほとんどS. epidermidis
グラム陽性球菌の分類法
グラム陽性球菌(好気培養)cluster
カタラーゼ(+)chain
カタラーゼ(-)
StaphylococcusMicrococcus
コアグラーゼ(+)
StreptococcusEnterococcus
(-)
S. aureus CNSほとんどS. epidermidis
MSSA MRSA
55
MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
ペニシリナーゼ耐性のメチシリンに対する耐性を有する黄色ブドウ球菌。メチシリンだけでなく、全てのβ-ラクタム薬が無効であり、また、多くの抗菌薬に耐性を示すことが多い。現在、院内で分離される黄色ブドウ球菌の約30~40%を占める。
尚、MSSAはMethicillin-susceptible Staphylococcus aureusの略
56
ペニシリナーゼペニシリン分解酵素 メチシリンとはペニシリナーゼで分解されないペニシリン
ペニシリナーゼは、普通のペニシリンを分解することができるが、メチシリンという新しいペニシリンを分解できない。
Alexander Flemingカビ
生育阻止円
ブドウ球菌を培養していたところ、コンタミしたアオカビが発育を阻止しているのを偶然に発見
→ ペニシリンと命名
世界初の抗生物質ペニシリン
β-ラクタム
ペニシリンとは?
細胞壁の合成を阻害するβ-ラクタム薬の一種
細胞壁
D-Ala-D-Ala
サイ防壁合成ロボPBP(細胞壁合成酵素)
PBP
サイ防壁
-ラクタム系薬はどういう原理でPBPの機能を阻害するのか?
ペプチドグリカンの構成成分に構造が酷似
PBPが間違って結合してしまう!
PBP
PBP
D-Ala-D-Ala
サイ防壁合成ロボPBP(細胞壁合成酵素)
ペニシリン
D-Alax2ちゃうんかいしかも取れへんやん
61
よく似てる
62
お助けペニシリン分解ロボ(ペニシリナーゼ)
ペニシリン
PBP
わしが壊しちゃるPBPがんばりや
S. aureusの場合
63
メチシリン
あかんメチシリン分解できへん
PBP
お助けペニシリン分解ロボ(ペニシリナーゼ) MSSAの場合
PBP
D-Ala-D-Ala
改良型サイ防壁合成ロボPBP2’の登場(ペニシリン低親和性の細胞壁合成酵素)
メチシリン
おれに任せとけ~い
64
MRSAの場合
65
オキサシリン含有ディスク
MSSA MRSA
阻止円
阻止円径
芽胞形成による分類1 GPC
2 GNR4 GPR
1A,1B
1C, 1D
4A
4B
2A
2B
2C
3 GNC
67
ガホウケイ星人クロストリジウム族猛毒を出す酸素に弱い
バチルス族猛毒を出す納豆好き
芽胞形成菌
属
68
“iloveiloha”で検索Clostridium difficileからClostridioides difficileへ名称変更Lawson PA et al. Anaerobe. 2016, 40:95-9.
好気性?嫌気性?による分類1 GPC
2 GNR4 GPR
1A,1B
1C, 1D
4A
4B
2A
2B
2C
3 GNC
通性
好気性
異化過程による分類
空気があると 空気がないと
好気性菌(ブドウ糖非発酵菌)
通性嫌気性菌(ブドウ糖発酵菌)
嫌気性菌(ブドウ糖発酵菌)
その他の分類 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 グラム陰性球菌 グラム陽性桿菌 嫌気性菌 抗酸菌 放線菌 らせん菌(スピリルム) スピロヘータ 非定型菌
71
PeptostreptococcusPeptococcus
BacteroidesPrevotellaPorphyromonasFusobacteirumLeptotrichiaStreptobacillus
Veillonella
ClostridiumPropionibacteriumBifidobacteriumEubacterium
その他の分類 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 グラム陰性球菌 グラム陽性桿菌 嫌気性菌 抗酸菌 放線菌 らせん菌(スピリルム) スピロヘータ 非定型菌
72
グラム染色では染まりにくい
73
通常のグラム陽性桿菌 抗酸菌
グラム染色をすると・・・
アルコールで脱色
染まりにくい
サフラニン
クリスタルバイオレット
74
通常のグラム陽性桿菌 抗酸菌
抗酸菌染色をすると・・・
塩酸アルコールで脱色
脱色されにくい
石炭酸フクシン
メチレンブルー
加温染色
その他の分類 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 グラム陰性球菌 グラム陽性桿菌 嫌気性菌 抗酸菌 放線菌 らせん菌(スピリルム) スピロヘータ 非定型菌
75ちょっと変わった形の細菌
その他の分類 グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 グラム陰性球菌 グラム陽性桿菌 嫌気性菌 抗酸菌 放線菌 らせん菌(スピリルム) スピロヘータ 非定型菌
76
非定型菌 通性細胞内寄生Mycoplasma pneumoniaeLegionella pneumophila 偏性細胞内寄生(代謝を宿主に依存)
Chlamydophila pneumoniaChlamydophila psittaciChlamydia trachomatisRikettsia japonica, Orientsia tsutsugamushiなどEhrlichia cafeensisAnaplasma phagocytophilum
Coxiella burnetii
78
79
現在32種類公開中
80
バイキンズカードの見方
細菌の名前のつけ方
Salmonella enterica
ジバニャン
自縛霊のニャンコ
Kaneko yukihiro
Salmon + ella
Cinderella = Cinder + ella
属 種
81
感染症法上は、Salmonella TyphiとS. Paratyphi Aのみが対象他のサルモネラ(S. Paratyphi B, C、S. Enteritidisなど)は、サルモネラ症
チフス菌Salmonella Typhi
正式にはSalmonella enterica subsp. enterica serovar Typhiであるが、通例、省略することが許されている。
82
83
break2なぜ肺炎球菌は肺炎を起こすのだろうか?なぜ抗菌薬は感染症に効くのか?
なぜ感染症が起こる?
84
LPSなど
細菌の感染機構
炎症の誘発
内毒素 外毒素他の病原因子
エフェクター分子
III, IV, VI型分泌機構
毒素の注入外毒素の分泌
I, II, V型分泌機構
Mφなど
85
TLR4など
病原細菌の分泌装置:その機能と病原性発揮のメカニズム
ファミリー 主なメンバー 主なPAMPs
Toll様受容体 TLR2TLR4
ペプチドグリカンLPS
C型レクチン Dectin-1Mincle
β-グルカン結核菌糖脂質
RIG受容体 RIG-1 ウイルス
NOD様受容体 NOD1 細胞内寄生菌
PAMPs=pathogen-associated molecular patterns
主要なパターン認識受容体(pattern recognition receptors:PRRs)
87
Toll-like receptor
攻撃力5000ジャイアン
攻撃力500ジャイアン
5000~8000以上のジャイアンが守っている
普段はなぜ感染症を起こさない?免疫細胞 線毛上皮
88
宿主防御機構
物理的なバリア 皮膚や粘膜 常在細菌叢
物理的な排除 線毛運動 咳・くしゃみ
免疫系 免疫細胞 抗体・補体
89
MφDC
単球
リンパ球
好中球
好酸球
好塩基球
SegStab
90
91
核の左方移動
好中球
SegStab
ここが増えること
92
到達目標抗菌薬の基本8. 抗菌薬の種類を列挙し、それぞれの作用機序、耐性機序を細菌学的観点で説明できる。
抗菌薬と薬剤耐性
抗寄生虫薬
抗微生物薬
抗ウイルス薬 抗菌薬=抗細菌薬
抗真菌薬抗MRSA
抗緑膿菌
抗結核
PCP治療薬
キノロン
ダプトマイシン
ポリペプチド
アミノグリコシド
マクロライド
テトラサイクリン
リネゾリド
など
β-ラクタム
外膜の傷害細胞壁合成阻害
蛋白合成阻害
DNA合成阻害
細胞膜の傷害
グリコペプチド
殺
殺
殺
殺
殺
殺
静
静
静
抗菌薬の作用機序
95
抗菌薬は菌にとって毒である
①無毒化する
②毒が効かない体になる
④毒を取り込まない
③毒を吐き出す
なぜ抗菌薬が効かなくなる?~耐性機構
96
主な薬剤耐性機構
薬剤の標的
ペリプラズム
ポーリン
④ポーリンの変異・減少
排出ポンプ
抗菌薬
②標的の変化
薬剤の分解
薬剤の修飾
①薬剤の不活化
外膜
細胞膜
③薬剤の排出
β-ラクタム耐性(β-ラクタマーゼ(ESBL、MBLなど))アミノグリコシド耐性(アミノグリコシド修飾酵素)
キノロン耐性(突然変異によるDNAジャイレースの変化)
アミノグリコシド耐性(リボソームの修飾)
β-ラクタム耐性(PBPの変異:MRSAなど)
97
なぜ耐性菌が生まれたのか?それは抗菌薬を使ったから
感染症を治したつもりで実は新たな感染症を作り出してしまった
一次耐性と二次耐性
一次耐性:菌が本来有している耐性
緑膿菌は通常のペニシリンに対しては一次耐性Candida kruseiは、フルコナゾールに対しては一次耐性
二次耐性:獲得によって得られた耐性
緑膿菌のMBLによるカルバペネム耐性→二次耐性Candida albicansのフルコナゾール耐性→二次耐性
x
x x x
99
初めから耐性
一次耐性(自然耐性)
耐性を獲得
二次耐性
鍛えられる
アイテムを手に入れる
耐性因子
プラスミド
緑膿菌 アシネトバクター
100
突然変異 耐性遺伝子獲得
耐性遺伝子
感受性
耐性
どうやって耐性を獲得するのか~耐性獲得機構
キノロン耐性などESBL、MBLアミノグリコシド耐性
耐性菌=薬に対して強い菌
鍛えられて強くなる(遺伝子暗号の書き間違い = 突然変異)
アイテムを手に入れて強くなる(耐性遺伝子の獲得)
耐性遺伝子アイテム プラスミド
どうして強くなるのか?
S83L TCG ⇒ TTG
Ser Leu
交叉耐性(交差耐性とも)
x
xに耐性になると、yにも耐性になる =交叉耐性 通常はxとyに共通した耐性機序による 一般的にxとyが同系統の(≒同じ作用機序をもつ)場合に起こりやすい
具体例(用語の使い方) キノロン耐性は、ジャイレースの変異によることが多いため、キノロン同士で交叉耐性を示す。
x x y
y
主な薬剤耐性機構
薬剤の標的
ペリプラズム
ポーリン
④ポーリンの変異・減少
排出ポンプ
抗菌薬
②標的の変化
薬剤の分解
薬剤の修飾
①薬剤の不活化
外膜
細胞膜
③薬剤の排出
β-ラクタム耐性(β-ラクタマーゼ(ESBL、MBLなど))アミノグリコシド耐性(アミノグリコシド修飾酵素)
キノロン耐性(DNAジャイレースの変異)
アミノグリコシド耐性(リボソームの修飾)
β-ラクタム耐性(PBPの変異)
β-ラクタム系の耐性機構
β-ラクタマーゼによる耐性が主流(特にグラム陰性桿菌の場合)
PBPの変異も重要(MRSA、BLNARなど)
ここが少し変わるだけで抗菌作用が消失する
β-ラクタム薬 分解されたβ-ラクタム薬
β-ラクタマーゼ
β-ラクタム系の耐性機構
アイテムゲット型
106
是非知っておいてほしい耐性菌
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)★★★Clostridium difficileCPE (カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)MDRP(多剤耐性緑膿菌)MDRA(多剤耐性アシネトバクター)MDRTb(多剤耐性結核)
PRSP(ペニシリン耐性肺炎球)BLNAR(βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌)マクロライド耐性肺炎マイコプラズマキノロン耐性淋菌
抗菌薬選択のポイント
抗菌スペクトル
副作用
• 目的の臓器/細胞への移行性
値段
• 狭域か広域か
• 原因菌に効くか
薬物動態
• 半減期
殺菌的か静菌的か
• バイオアベイラビリティ
G(+) G(-) 嫌気性菌 非定型菌
ペニシリン ×
セフェム ×
カルバペネム ×
キノロン
抗菌スペクトルとは
• 抗菌薬の守備範囲(どの菌に効くか)
• 同じ系統の薬剤は近いスペクトルを持つ
狭域(narrow) 広域(broad)ペニシリンバンコマイシンなど
カルバペネムキノロンなど
なぜ、スペクトルが重要か?
菌交代症
菌交代起こらないx
選択性の高い抗菌薬x(≒狭域)を使用
常在細菌叢の攪乱y
耐性菌の誘導・選択日和見感染
菌交代症
選択性の低い抗菌薬y(≒広域)の抗菌薬を使用
典型例は、Clostridium difficileによる偽膜性腸炎
Clostridium difficile
静菌的・殺菌的の違い
時間
無治療
静菌的bacteristatic
殺菌的bactericidal3Log以上
の減少
治療開始
菌数(LogCFU/mL)
選択毒性とは
選択毒性 =対菌毒性/対人毒性
菌に対する毒性(抗菌力)
ヒトに対する毒性(副作用)
毒注意して使用
最適無益無害
細胞内移行性が極めて悪い⇒細胞内寄生菌に無効
β-ラクタムとアミノグリコシドは
細胞内移行性
バイオアベイラビリティとは
生体利用率=内服(po)した際の利用率
静注(iv)した際の利用率
時間
濃度
ivpo
時間
濃度
ivpo
Bioavailabilityが高い
Bioavailabilityが低い
最小発育阻止濃度
Minimum Inhibitory Concentration
(MIC)
菌の増殖を抑制する最小の濃度
通常は1 μg/mLを基準に前後2倍毎の値をとる
微量液体希釈法や寒天平板法、E-test
などで評価する
寒天平板法
ディスク法
E-test
抗菌薬添加寒天培地を用意
No 1 μg/mL 2 μg/mL
抗菌薬添加ディスク
阻止円の径[mm]を計測
阻止円の径
濃度勾配抗菌薬添加ストリップ目盛を読む
時間
濃度
濃度依存性と時間依存性
MIC
アミノグリコシド、キノロンでは濃度が重要
最高血中濃度
(Cm
ax)
Time above MIC
-ラクタムでは時間が重要
時間
濃度
AUC(Area under the curve)
T1/2
PKの例
Peak=Cmax
PK-PDパラメータの例
単回投与の場合
MIC
AUC/MIC
Peak/MIC
T>MIC
Trough
Peak=Cmax
複数回投与の場合
徐々に定常状態になっていく
*PKを最初から上昇させるために、初回多めに投与することがある。これを、「ローディング」と呼ぶ
有効に活用するには時間依存的薬剤の場合
濃度依存的薬剤の場合
T>MIC長くする Cmaxを高くする
抗菌薬を選択する上での留意点
原因菌に対する抗菌力副作用が少ない可能な限り狭域を選択殺菌的>静菌的対象臓器への移行性 投与量、投与回数、投与期間 代謝・排泄
選択毒性
感染症を治療するだけでなく、耐性菌を発生させないことも重要
125
抗菌薬各論
まず覚えてほしい抗菌薬
β-ラクタムペニシリン、セフェム、カルバペネム
ニューキノロン アミノグリコシド マクロライド テトラサイクリン
抗MRSA薬
126
-ラクタム系薬とは
-ラクタム環を持つ化合物
細菌の細胞壁合成を阻害する
最も使用頻度が高く重要
ON
-ラクタム環
ペニシリンを祖とする抗菌薬種類が多く、殺菌的作用&耐性メカニズム各薬剤の特徴
3つの系について抗菌スペクトルとβ-ラクタマーゼに対する安定性
副作用 ESBLとMBL
β-lactamsのポイント
β-ラクタム薬に共通の特徴
特徴 ということは…
細胞壁合成阻害 マイコプラズマに無効
殺菌的 & 比較的安い 頻用される
時間依存性 & 半減期短い 複数回投与が有効
細胞内移行性が極めて悪い 細胞内寄生菌に無効
腎排泄が多い 腎不全、腎障害に注意
ラクタム系薬の作用
ペプチドグリカンの合成を阻害し、細胞壁を脆くする
菌はいずれ内圧に耐えられずに溶菌する
強く丈夫な細胞壁 細胞壁が脆くなる
ラクタム薬添加
溶菌
内圧に耐えられずに・・・
β-ラクタム薬によるPBPの不活化
矢印(→)は、セリン残基のOH基または脱アシル化水による求核攻撃
β-ラクタム薬
アシル化
PBPの活性中心
アシル中間体
β-ラクタマーゼによるβ-ラクタム薬の不活化
β-ラクタマーゼの活性中心
アシル化
脱アシル化
β-ラクタマーゼ阻害剤によるβ-ラクタマーゼの不活化
β-ラクタマーゼ阻害剤
アシル化
アシル中間体
β-ラクタマーゼの活性中心
-ラクタム系薬の種類
抗菌スペクトルの広さ
ペニシリン系(下図①)
セフェム系(第1~4世代)(下図②)
カルバペネム系
Wikipedia 「-ラクタム系抗生物質」
ペニシリン系<セフェム系<カルバペネム
-ラクタム系薬の種類 様々な天然/非天然の化合物種が発見・開発されている
英単語を覚える感覚で少しずつ覚えよう!
系統 代表的な抗菌薬
ペニシリン系Penicillin G, Ampicillin, Amoxicillin,
Methicillin, Piperacillin
第一世代セフェム Cefazolin, Cefalexin
第二世代セフェムCefotiam, Cefroxime, Cefaclor,
Cefmetazole
第三世代セフェムCefotaxime, Ceftriaxone, Ceftazidime,
Cefditoren-pivoxil
第四世代セフェム Cefepime, Cefozopran, Cefpirome
カルバペネムImipenem, Meropenem, Panipenem,
Biapenem, Doripenem
ペニシリン系薬の種類
ペニシリンG (PCG)
古典的ペニシリン
アンピシリン (ABPC)
アモキシシリン (AMPC)
広域ペニシリン
メチシリン (DMPPC)
オキサシリン (MPIPC)
ナフシリン (NFPC)
ペニシリナーゼ耐性ペニシリン
治療に使用
MRSAの基準
検査に使用
覚えなくてよい
セフェム系薬の種類
• スペクトルはグラム陽性菌寄り
• セファゾリン, セファレキシンなど
第一世代
• 第一世代と第三世代の中間的なスペクトル
• セフォチアム、セフメタゾール、セファクロルなど
第二世代
• グラム陰性菌に強い. CAZは緑膿菌に有効
• セフトリアキソン、セフタジジム、セフォペラゾンなど
第三世代
• 広い抗菌スペクトル. 嫌気性菌にも有効
• セフェピムなど
第四世代
緑膿菌に有効なものと無効なものに分類
カルバペネム系薬の種類
イミペネム/シラスタチン(IPM/CS)
パニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP)
メロペネム(MEPM)
ビアペネム(BIPM)
ドリペネム(DRPM)
注射薬
内服薬
テビペネム-ピボキシル(TBPM-PI)
注射用カルバペネムの覚え方
意味もなく ビアードパパに メロメロだ
イミペネム
ビアペネム
ドリペネム
パニペネム
メロペネム
H26年度3回生の句
ペニシリン
G(+) G(-) 嫌気
第一世代セフェム
第二世代セフェム
第三世代セフェム
第四世代セフェム
カルバペネム
β-ラクタム薬の抗菌スペクトル
β-ラクタム薬によるPBPの不活化
β-ラクタマーゼによるβ-ラクタム薬の不活化
β-ラクタマーゼ阻害剤によるβ-ラクタマーゼの不活化
矢印(→)は、セリン残基のOH基または脱アシル化水による求核攻撃
アシル化
アシル化
アシル化
PBP
β-ラクタマーゼ
β-ラクタマーゼ
β-ラクタム薬
β-ラクタマーゼ阻害剤
アシル中間体
アシル中間体
アシル中間体
脱アシル化
ちょっと横道
ペニシリン
第一世代セフェム
第二世代セフェム
第三世代セフェム
第四世代セフェム
カルバペネム
ペニシリナーゼで分解
ペニシリナーゼに安定
ESBLにも安定
β-ラクタム薬と分解酵素
ニューキノロン キノロン骨格を有する化合物
フルオロ基(フッ素)が付いている(フルオロキノロンとも呼ばれる)
ナリジクス酸の構造を基に開発された
ナリジクス酸(= オールドキノロン)
ニューキノロン
フルオロ基(=フッ素)
ニューキノロンに共通の特徴
DNAの合成を阻害
殺菌的
広域(ただし嫌気性菌に弱い)
細胞内移行性が良好
バイオアベイラビリティーが高い
濃度依存的
副作用:中枢神経障害など
標的の点突然変異により耐性化
菌に対する性質
宿主内での動態
平井敬二. 日本化学療法学会誌2005
キノロンの作用機序
DNA gyraseに結合しDNA合成を阻害する
レスピラトリーキノロン
肺炎球菌に有効
肺組織への移行性が高い
レボフロキサシン(LVFX)
トスフロキサシン(TFLX)
スパルフロキサシン(SPFX)
モキシフロキサシン(MFLX)
シタフロキサシン(STFX)
ガレノキサシン(GRNX)
肺炎球菌性肺炎に強い!
世代による分類第一世代
ナリジクス酸
第二世代
ノルフロキサシン(NFLX)
シプロフロキサシン(CPFX)
オフロキサシン(OFLX)
第三世代
レボフロキサシン(LVFX)
トスフロキサシン(TFLX)
モキシフロキサシン(MFLX)
シタフロキサシン(STFX)
ガレノキサシン(GRNX)
オールドキノロン
ニューキノロン
注:分類は厳密ではありません
レスピラトリーキノロン
アミノグリコシド アミノ糖(糖にアミノ基が付いたもの)を含む化合物
Streptomyces属放線菌が作る抗生物質として最初に発見された(ストレプトマイシン)
リボソームの30Sサブユニットに結合し、菌のタンパク質合成を阻害する
ストレプトマイシン(SM)
糖
N
アミノ基
H
アミノグリコシドの特徴
蛋白合成阻害
殺菌的
個々に異なる抗菌スペクトル(抗結核、抗MRSA、抗緑膿菌)
細胞内移行性が不良
バイオアベイラビリティーが低い
副作用:第8脳神経障害と腎障害
濃度依存的
耐性機序:修飾酵素など
菌に対する性質
宿主因子
抗菌スペクトルに基づくアミノグリコシドの分類
抗結核薬
ストレプトマイシン (SM)
カナマイシン (KM)
抗MRSA薬
アルベカシン (ABK)
抗緑膿菌薬
ゲンタマイシン (GM)
トブラマイシン (TOB)
アミカシン (AMK)
第I群
第V群
第III群
アミノグリコシドの使い方結核菌 MRSA 緑膿菌 嫌気性菌 非定型菌
SMKM
◎ × × × ×
ABK × ◎ △ × ×
AMKTOBGM
× × ◎ × ×
薬剤ごとに使う目的が決まっている
嫌気性菌と細胞内寄生菌には無効
ポイント
erythromycin
(EM)
マクロライド
clarithromycin
(CAM)
azithromycin
(AZM)
14員環 14員環
15員環
12原子以上から成るラクトン環をもつ化合物
リボソームの50Sサブユニットに結合し、菌のタンパク質合成を阻害
マクロライドの種類
エリスロマイシンクラリスロマイシン ロキシスロマイシン ジョサマイシン ロキタマイシン
アジスロマイシン
14員環
16員環
15員環
よく使われるのはEM, CAM, AZMのみ
まずはこの3つを覚える!
ポイント
マクロライドの特徴
タンパク合成阻害
静菌的
広域(ただし、用途はほぼ非定型菌
に限られる)
細胞内移行性が良好
バイオアベイラビリティーが高い
副作用:肝障害など
耐性:排出ポンプ、標的変化など
菌に対する性質
宿主因子
マクロライドの主な用途
マイコプラズマにマクロライド
MAC症にMACrolide
CAMpylobacterにCAM
DPB(びまん性汎細気管支炎)にも
主な用途は非定型菌による感染症 語呂で覚える
ポイント
テトラサイクリン
環が4つつながった構造を持つからテトラサイクリン
4 環
テトラサイクリン ミノサイクリン ドキシサイクリン
テトラサイクリンの特徴
蛋白合成阻害
静菌的
広域(実際には主にリケッチアとクラミドフィラに使用される)
細胞内移行性は良好
バイオアベイラビリティは比較的良好
副作用:歯牙異常
黄色で光に弱い
菌に対する性質
宿主因子
テトラサイクリンによる歯牙異常
http://www.aoyama.or.jp/ramineto.htm
乳児~幼児期に摂取すると、薬剤が歯の内部に沈着し、永久歯が黄色~灰色に着色してしまう
妊婦、授乳婦、乳幼児への使用には注意が必要
抗MRSA薬
まずは名前と系統の対応を覚える
ポイント
抗菌薬 略称 系統
バンコマイシン VCMグリコペプチド系
テイコプラニン TEIC
アルベカシン ABK アミノグリコシド系
リネゾリド LZD オキサゾリジノン系
ダプトマイシン DAP リポペプチド系
ダプトマイシン
アルベカシン
細胞壁合成阻害
蛋白合成阻害
細胞膜の傷害 バンコマイシンテイコプラニン
リネゾリド
抗MRSA薬の作用機序
殺
殺
殺
静
特徴のまとめ
殺菌的
βラクタムキノロンアミノグリコシド
良好
キノロンマクロライドテトラサイクリン
良好
キノロンマクロライドテトラサイクリン
細胞内移行性 生体利用率殺菌性
静菌的
マクロライドテトラサイクリン
不良
βラクタムアミノグリコシド
不良
βラクタムアミノグリコシド
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/index.shtml
六月といえば
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