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    特 集 本誌独自調査による 「6年制薬剤師 OJT の現状」

    6年制薬剤師の実践力やコミ ュニケーション能力に「高評価」 「空白の2年間」を経て登場 した地域医療の担い手

    “超売り手市場”反映して採用者数はやや控えめ 「参加型の長期実務実習を通して在宅医療支援、セルフメディケーションの意義を教えられている。また、グループワークで鍛えられており、リーダーシップを発揮できる。面接の受け答えが明らかに従来と違っていた」と、西日本の地方都市でドミナント展開する DgS チェーンの経営幹部は、6年制薬剤師のポテンシャルを高く評価する。今回は数人の採用実績に止まったが、来年度は2桁の新卒薬剤師を採用する計画だ。 本誌ではこのような現場の評価を聞くため、『6年制薬剤師 OJT

    (オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の現状』と題した調査を実施し、全国の DgS、調剤薬局チェーン計61社から回答を得た。 回答結果によると、新卒薬剤師の採用者数は10人以下だった企業が回答の6割(59%)を占めた。待望の6年制1期生とあって、「取れるだけ欲しい」と枠を拡大して臨んだ企業も少なくはなかった

    が、超売り手市場を反映し、事業拡大を阻まれる形になったチェーンも数多く見受けられた。一方、採用50人を超える企業は3社を数え、一挙に200人近く採用した調剤薬局グループもあった(図1)。

    評価ポイントは長期実務実習に基づく知識と経験 6年制薬剤師に対する全般的な評価は総じて良く、「非常に高く評価している」と「評価している」を合わせた55社(85%)が合格点を付けている(図2)。▽「非常に高く評価している」16%▽「評価している」69%▽「やや不満」15%。また、評価できるポイント(図3)は、高い順に「長期実務実習に基づく実践的な知識と経験」60.7%、「コミュニケーション能力の高さ」31.1%、「薬学に関する専門知識と技術」29.5%、「社会人としての素養」「医療人としての自覚」13.1%が挙げられた(複数回答)。 一方、不満に思う理由に関しては「マナーなど社会人としての常識の不備」(31.1%)が突出して高

    く、以下「コミュニケーション能力の低さ」16.4%、「4年制と変わらない」14.8%、「実践的な知識と経験の不足」4.9%、「専門知識・スキルの不足」「医療人としての自覚の欠如」1.6%──の順で続く(図4)。一般常識の不備やコミュニケーション能力の低さ、実践的な知識と経験などは、年齢を考慮するとある程度しかたのない面もあるだろうが、「4年制と変わらない」ようでは先行き不安な面も否定できない。回答の中には「積極性、達成意欲の低さ、長期実務実習に基づく知識・経験に大学の差がある」と指摘する声もあった。教育する薬科大・薬学部側も5年次以降は未知の世界だっただけに、学内での実務実習事前学習など戸惑いもあったと思われる。いずれにしても、この第1期生が先駆けとなり、求められる職能を発揮し、継続的に成果を可視化していくことが望まれる。

    実践業務では約8割が処方箋調剤 調査を実施した9月現在、6年

    制薬剤師は、どのような業務に携わっていたのか。 「現場には出ているがベテラン薬剤師の管理の下」(九州・沖縄全域に出店する DgS)という例もあるが、メーン業務はやはり「処方箋調剤」78.7%。次いで「OTC 医薬品の販売(第1類医薬品を含む)」26.2%、「訪問服薬指導」13.1%などとなっている(図5)。 今後は処方鑑査、疑義照会、薬歴管理などを含む広義の調剤業務の質が、あらためて問われていくことだろう。 地域包括ケアにおいては、医療機関と調剤薬局・DgS の薬薬連携に看護・介護職など他職種が加わる必要性も増していく。 また、チーム医療を円滑に進めるための CDTM(共同薬物治療管理業務)も、病院内に限らず地域医療の現場で機能させなければならない。そして、その延長線上に薬剤師によるフィジカルアセスメ

     今春、6年制課程の薬学教育を修めた初めての薬剤師が実社会に出た。2012年(平成2₄年)度第₉₇回薬剤師国家試験の結果は、合格者総数₈,₆₄1人(合格率₈₈.31%)、うち6年制卒は₈,1₈2人(同₉₅.32%)であった。人口の高齢化を背景にして、地域医療が推進される中、専門性を高めた薬剤師に寄せられる関心と期

    待は大きい。「空白の2年間」を経て求人者数が求職者数を大幅に上回る“超売り手市場”に直面した調剤薬局、ドラッグストア(DgS)は、この資格者をどのように育成し、新たな事業領域に取り組もうとしているのか。実働半年目の現状について調査した。

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    (社)

    0 1~ 5 6 ~10 11~20 21~30 31~40 51~60 71~80 181~190/人

    図1 2012年度新卒採用人数

    まったく不満0%

    非常に高く評価している16%

    評価している69%

    やや不満15%

    図2 6年制薬剤師に対する全般的な評価

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    習システム『JPALS』など体系的・計画的に研鑽できる制度の導入を検討したい。

    6年制薬剤師に期待される 医療人としての役割 2013年(平成25年)度の薬剤師採用計画では、50人以上を受け入れる予定の企業が2012年度の3社から6社へと倍増している。 「0人」の3社を除くと▽「1〜5人(若干名含む)」14社▽「6〜10人」13社▽「11〜20人」12社▽

    「21〜30人」8社──のラインにほぼ均衡してまたがる。 「6年制薬剤師に期待すること」を尋ねた項目には、24社が意見を添えてきた。 その多くは「即戦力」を望む内容だったが、そのほか「広い視野」

    「推進力・行動力」「職能拡大に向けての原動力」「医療人としての使命感を持った行動」「教養」「新分野の開拓」「長期的な視野」「オールラウンドな活躍と専門性を生かしての積極的な行動」「総合的人間力の充実(技術+メンタル)」「患者とのコミュニケーション能力」といった新しい薬剤師像が待たれている。 具体的には「4年制とは違った視点での業務改善への提案」「臨床的な知識」「治療について医師と語り合えるようになる」などのイメージが提起された。

    ントなど発展的な業務が見えてくると言えよう。 今回の調査では「無菌調剤」(1.6%)や「フィジカルアセスメント」

    (0%)に取り組むケースはほぼなかった。しかしながら、調査時点では未だ試用期間内であり、かつ6年制薬剤師そのものに対する社会的な位置付けも定まっていない面も考慮されよう。 「6年制薬剤師を配置する新たな事業の展開や部署を設置する計画」を持っている企業に関しては

    「ある」6.6%と「検討中」31.1%を合わせて4割近くにのぼる。「教育等」「調剤室での業務」「在宅・介護」「新店店長」「研修担当」「在宅専従」「より質の高い学生実習部門」(ランダム回答)など、何らかのビジョンが描かれている。

    4年制薬剤師で強化する「かかりつけ機能」 6年制薬剤師を迎えたことによって、4年制卒薬剤師の主たる業務・役割は変化するのだろうか。 回答は「従来通り」が86.9%と圧倒的だったが、「在宅介護支援など新分野」19.7%や「調剤」14.6%、「第1類医薬品販売を含むカウンセリング指導の強化」13.1%など、職能拡大の意欲と同時に「かかりつけ機能」を固めるニュアンスが色濃くうかがわれた。1社ながら「調剤助手(テクニシャン)」と回答した調剤薬局チェーンもあった。6年制カリキュラムと照らし合わせ、不足分を補完する自助努力が望まれる。 調剤助手をめぐっては賛否両論あるが、薬剤師の裁量権で認めるべきとの見解が趨勢のようだ。現時点では、指導する側の4卒と6年制の間にヒエラルキーを生じさせない、何らかのデバイスが求められる。 日本薬剤師会が構築した生涯学

    アンケート協力企業

    企業名(本社所在地)2012年度6年制薬剤師採用人数 6年制薬剤師を配置

    する新たな事業展開や部署設置の計画

    2013年薬剤師採用予定新卒 中途(下半期採用予定含む)

    エスマイル(広島) 30 0 無 30エヌ・エム・アイ(新潟) 9 ─ 無 7関西メディコ(奈良) 8 ─ 無 10キリン堂(大阪) 11 0 検討中 55クスリのアオキ(石川) 9 ─ 無 20クリエイトエス・ディー(神奈川) ─ ─ 無 100クリオネ(北海道) 3 ─ 無 3〜5ゲンキー(福井) 0 0 ─ 0コクミン(大阪) ─ ─ 検討中 ─コメヤ薬局(石川) 0 0 有 7子安(東京) 0 0 検討中 若干ザグザグ(岡山) 12 ─ 有 30サッポロドラッグストアー(北海道) 9 0 無 10JR 九州ドラッグイレブン(福岡) 1 0 検討中 10仙台調剤(宮城) 15 3 検討中 15総合メディカル(福岡) 182 20 無 200太陽堂(京都) 0 0 検討中 0タカヤマ(神奈川) 0 0 検討中 3たんぽぽ薬局(岐阜) 58 約10 無 100辻薬店(佐賀) 1 1 無 3ツジ薬局(愛知) 0 1 検討中 2〜3トータル・メディカルサービス(福岡) 10 0 無 15トライアドジャパン(神奈川) 20 0 無 20ノムラ薬局(東京) 4 ─ 検討中 3ピノキオ薬局(栃木) 13 ─ 検討中 15ファーコス(東京) 14 1 無 60ファルコファーマシーズ(京都) 32 0 有 30フォーラル(東京) 4 2 無 11福岡保健企画(福岡) 2 0 無 7ププレひまわり(広島) 0 0 無 2ブルークロス(高知) 0 0 有 5〜6マル・コーポレーション(千葉) 2 4 無 10ミック(静岡) ─ ─ 検討中 ─ミネ医薬品(東京) 13 2 検討中 20みよの台薬局グループ(東京) 23 0 無 30メディカルファーマシィー(東京) 13 1 無 10メディスンショップ・ジャパン(東京) 0 ─ 無 10メネフィット(東京) 0 0 無 0ヤマグチ薬局(神奈川) 3 1 無 5龍生堂本店(東京) 6 3 無 20レークメディカル(滋賀) 2 ─ 無 ─レデイ薬局(愛媛) 2 0 検討中 30A社 ─ ─ 検討中 ─B社 2 0 無 10C社 7 0 無 2〜3D社 6 0 検討中 5E社 1 ─ 検討中 5F社 16 ─ 検討中 20G社 0 0 無 12H社 1 0 無 3I社 11 1 無 30J社 11 2 無 15K社 1 0 無 10L社 2 0 検討中 12M社 40 ─ 検討中 30N社 14 5 無 20O社 0 0 無 2P社 16 ─ 無 30Q社 80 ─ 無 100R社 8 15 無 10S社 38 0 無 70

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    専門知識と技術

    長期実務実習の経験

    社会人としての素養

    医療人としての自覚

    コミュニケーション能力の高さ

    図3 6年制薬剤師の評価ポイント

    (社)

    専門知識・スキルの不足

    実践的な知識・経験不足

    マナーなど社会人としての常識

    医療人としての自覚の不満

    コミュニケーション能力の低さ

    4年制と変わらない

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    図4 不満に思う理由

    0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

    OTC医薬品の販売

    フィジカルアセスメント

    訪問服薬指導

    無菌調剤

    処方箋調剤

    (社)

    図5 6年制薬剤師が携わっている業務

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    なわないと辞めるとほのめかす。学生のうちはそれでも結構だが、もっと社会人になるということや発言に対する責任があるということを知ってほしい」。

    ープから引用しておきたい。 「社会人としての自覚がほしい。自分のしたいことをする、したくないことはしないと個人の主張がはっきりしている。これ自体は良いことかもしれないが、それがか

    職業人の使命以上に求められる社会人としての自覚 最後に、現代の“若者気質”に踏み込んだ直言を、関東・中部圏ほかで展開している調剤薬局グル

    北の調剤薬局グループ)、「実務実習で学んでいる内容に個人差があるため、足りないと思われる部分を積極的に勉強してほしい」(首都圏をベースに展開する調剤チェーン)。

     また、期待とともに受け入れ側の要望も示されている。 「疑問点などを素直に表現しない傾向が強い。6年制という意識が強いのかもしれないが、もう少し素直に言動することを望む」(東

    求められる「ヒポクラテスの誓い」に相当する象徴的存在理由 6年制薬剤師の第1期生が社会に出て半年になる。聞き及ぶ範囲では、スムーズに調剤業務をこなしているようだ。実習を経験しているだけに、以前のような入社直後の大きなミスマッチは減少したようだ。ただし、現時点において当初言われていた「即戦力」と評価していいかどうか。その答えを出すには時期尚早である。実務のスキルはともかく、医療人として自らの役割に対する覚悟が希薄であるように感じる、との声も少なくない。 医師にとっての「ヒポクラテスの誓い」や看護師の載帽式に相当する象徴的な存在理由を持てない薬剤師を、採用側の企業も薬剤師自身も嘆く声が聞こえてくる。

    る。こうした中、2006年以降、10大学の6年制薬学部で入学定員が削減されている。少子化の影響による志願者の減少、偏差値の満たない学生の足切りなどを要因にシュリンクしている。2008年度にピークを迎えた薬科大学定員数は、2012年度時点ですでに4%減少している。

    プロテクションからプロモーションへの意識改革 薬剤師を採用する企業からしてみれば「余剰時代」という

    「量」のニーズが満たせない状況が明らかになった今、あらためて6年制を含めた薬剤師に「質」を求める声が高まっている。 その中でも特に「医療人としての自覚を持つ薬剤師」が求められている。いかに絶対数が足りなくなるといっても、職能を全うできない薬剤師など必要とされない。深刻な薬剤師不足が懸念されていたドラッグストアにおける OTC 医薬品販売は、2009年からスタートした登録販売者制度によって解消された。第2類薬、第3類薬を取り扱える新資格者は、すでに10万人を超えて薬剤師の3分の1に達した。第1類薬を売らない限り、

    まった。このことから一部の大学を中心に、入学者がストレートに5年次や卒業へと進級できていない状況が浮き彫りになった。これらの一部大学は、公的機関による評価対象にもなっている。 2007年度以降も初年度とほぼ同じ毎年1万2,000〜1万3,000人が入学しているが、現状のままだと新たな薬剤師は8,000〜9,000人/年しか誕生せず、想定されていた1万3,000人から大きく乖離した数字になりそうだ。

    私立大₅₇校のうち₁₈校で定員割れの動き 2012年度、薬学部を持つ私立大学57校のうち、18校で「定員割れ」を起こしている。そして、入学者数が定員数の7割に満たない大学が11校ある。つまりは私立薬大の約20%が入学者確保に苦しんでいるという状況であ

    国試受験者伸び悩みで予想通り増えない6卒薬剤師 実は、2012年(平成24年)度第97回薬剤師国家試験の結果が出るまで①「4年制時と合格率は変わらない」②「薬学部の定員数が約8,000から1万3,000に増加する」の2点に依拠して『薬剤師余剰時代』が到来すると予測していた。しかし、合格者総数は8,641人(合格率88.31%)だった。ちなみに4年制卒最後の年の第94回国試の結果は合格者1万1,301人(合格率74.4%)である。6年制第1期生が入学した2006年度、国公私立を合わせた67校の入学者は1万3,337人(4年制含む)。この学年の入学時4年制定員1,234人を差し引き、実質6年制は1万2,103人。ストレートに5年次へ上がれた薬学生は8割弱。第97回国試の6年制卒受験者は7割に止

    登録販売者だけで運営できる。これは、調剤のできない中高年薬剤師の大きな受け皿が失われたことを意味する。 これからの薬剤師は、患者の利益になる POS(Problem Ori-ented System)と薬歴に基づく服薬指導、フィジカルアセスメントなど付加価値についてもっと広く社会にアピールしなければならない。医薬分業制度の本質、調剤薬局の役割、薬剤師の存在理由がまだまだ理解されていない。患者側にサービスを受けた実感が乏しいため、納得して対価を支払えないのだと思う。 地域医療において薬剤師のできることは自分たちが思っている以上にある。服薬指導1つ取っても患者とその家族を気遣って声を掛けるようなヒューマンスキルが欲しい。今後、プロテクション(守り)からプロモーション(推進)へと意識改革したい。調剤だけでなく、OTC 医薬品やサプリメントを含めた全般的な健康指導のできる薬剤師の下に患者・生活者は集まる。

    「一灯照隅」の心構えで地域医療に貢献すれば、薬剤師総体で国を照らすことになるではないだろうか。

    寄稿 現場から読み解く「薬剤師不足の背景」と資質に関する一考察

    アプロ・ドットコム 代表取締役 大山 恵理子氏

    幻想だった「薬剤師余剰時代の 到来」と予想される流れ


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