(付録)「電磁場の量子化(1)」
1. 定在波:ベクトルポテンシャル2. エネルギー密度3. 調和振動子4. 古典的電磁場5. 正準方程式、正準量子化6. ハイゼンベルグの運動方程式7. ハミルトニアン:全微分と偏微分8. 補足
暫定版修正・加筆の可能性あり
付録(801、802)のアプローチ:第二量子化(second quantization)
1. 電磁場の量子化(第二量子化)の手順を詳説するのは避ける。2. お詫び:自己流かつ説明が飛躍する場面があります。3. 電磁場の量子化の詳細については以下の文献を参照してください。4. 虚数単位「i」を使用する。
参考文献:電磁場の量子化• 太田浩一「電磁気学の基礎II」p561、東京大学出版会• 古澤明「量子光学と量子情報科学」p.17、数理工学社
801-1
復習:定在波とは:前進波と後退波の重ね合わせ
定在波磁場H
電場E→磁場H(右ねじ)
定在波電場E
電場E
磁場H
x
yz
進行方向
前進波
電場E
磁場H
後退波座標系
重ね合わせ:重みは同一、角周波数(周波数、波長)も同一、偏光状態も同一(直線偏光)
波動インピーダンス
前進波 後退波 注意:平面波近似
参考:208-9
0 0 0 0,H E = =
( ) ( ) ( )0 0 0, cos cos 2 sin sin = − − + =xE z t t kz t k Ez tE E kz
( ) ( ) ( )0 0 0, cos cos 2 cos cos = − + + =yH z t t kz t k Hz tH H kz
801-2
801-3
話の流れ:電磁場の量子化に向けた準備
1.単一角周波数・直線偏波(偏光)状況下で定在波と進行波の比較2.体積V中の定在波エネルギーと進行波エネルギーの比較3.進行波エネルギーを調和振動子のハミルトニアンと絡める。あくまでも形式的な比較ですが…4.プランク定数を含む古典的電磁場表記を導出して電磁場の量子化に向けた準備を行う。5.体積Vに含まれる平均光子数と古典的電磁場表記の関係に注意してほしい。
定在波
進行波
体積V
定在波エネルギーの半分=進行波エネルギー
†
average
*ˆ
ˆ ˆ ˆ1 1
2 2
Han a
Hn
= = = + = +
定在波:「~(チルダ)」で強調• 定在波エネルギー密度:E• 進行波エネルギー:H
調和振動子のエネルギー• p:運動量、q:位置、m:質量、ν:共振角周波数
規格化:体積V中の進行波エネルギーを単一光子エネルギーで除す。量子化への準備:本当は古典的電磁場と光子は無関係ですが、量子力学的に言えば、体積V中に含まれる進行波の平均光子数に相当
average 2H E V=
古典版:プランク定数を無理やり含ませる! 量子版(参照:802):数演算子(Number operator)注意:平均光子数はあくまでも量子側からの要請
真空場エネルギー
生成・消滅演算子(Creation/annihilation operator)平均光子数 = 複素振幅の自乗
2 2 21 1
2 2H p m q
m= +
調和振動子のエネルギーp:運動量、q:位置
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )0 0 *
0
0 0
0 0 0
0 0
0
, cos cos
2 cos cos 2 cos , cos
, cos
1 1 1 1
2 2 2 2
i
x
x
i Kz t i Kz t i Kz t i KzAA te
A A
A A t A t A
A
A z t Kz t Kz t
Kz t Kz
A A
t
A z t Kz t
e e eA A e
−− − − − − − − −=
= − − + + +
= + = = +
= − −
= + ⎯⎯⎯⎯→ +
定在波:ベクトルポテンシャル
右辺第一項:進行(前進)波
関係式:ベクトルポテンシャルA、電場E、磁場B混同注意:スカラーポテンシャルφ
0
xy
xx
AB
z
AE
t
=
= → =
= − − ⎯⎯→ = −
B A
E A
説明省略:クーロンゲージでは、電位(クーロンポテンシャル)とスカラーポテンシャルφが一致、電場の縦成分が零であれば、φ=0になる。電磁場の横波成分のみ量子化する(放射ゲージ:radiation gauge)。
これからやりたいこと!1. クーロンゲージベクトルポテンシャル(横波)からスタート2. 調和振動子と電磁場エネルギーの類似性について検討3. 古典的電磁場から量子化へ4. 量子化すると電磁波(波動)とは言えないので、以後、電磁場と表記する。
定在波:「~(チルダ)」で強調
801-4
振幅:赤色(正実数)、青色(複素数)
初期位相:非零 順番:K(波数)が先、ν(角周波数)が後
整理:電場E
電場E:定在波(standing wave)
( ) ( )
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
0
0
0 0 0 0
, 2 cos cos
2 cos sin 2 cos 2 cos
sin sin
xx A
A A t E t
A A t E t
AE z t Kz t
t t
Kz t K
E E A
z Kz
t t
= − = − +
= + = =
+ = = + =
電場E:進行波(traveling wave)
801-5
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( )00
0
0 0
0 0 0
*
0 0
0
, cos
sin sin
1 1 1 1
2 2 2 2
1 1
2 2
i
xx
i Kz t i Kz t i Kz t i Kz t
i Kz t i KzE E te
AE z t Kz t
t t
Kz t Kz t
e e i e
A
A E
E E E Ei
Ei eE
ei
e
−
− − − − − − − − − −
− − −=
= − = − − −
= − − − = − − −
= − − = −
⎯⎯⎯⎯→ −
整理:磁場B
磁場B:定在波(standing wave)
( ) ( )
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( )
0
0
00 0 0 0 0
0
0 0
0
, 2 cos cos
2 sin cos 2 sin 2 sin
cos cos
, cos
sin sin
1 1
2 2
xy
y
y
i Kz t
A
A A t B t
EA A t B t
AB z t Kz t
z z
K Kz t K Kz Kz
K t K t Kc c
AB z t Kz t
z z
K Kz t Kz t
ei
B B A A
A
A B
B Bi
− −
= = +
= − + = − = −
+ = = + = = =
= = − −
= − − − = − − −
= − −( ) ( ) ( )
( ) ( )0 0 *
0 0
0 0 0
1 1
2 2
1 1
2 2
i
i Kz t i Kz t i K
B
z t
i Kz t i teB KzB B
e i e e
i e e
B B
−
− − − − − − − −
− − −=
= −
⎯⎯⎯⎯→ −
磁場B:進行波(traveling wave)
801-6
801-7
エネルギー密度(1)
定在波:エネルギー密度(混同注意:エネルギー密度Eと電場E)
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
2 2
0
0
22
0
0
222 2
0
0
222 2
average 0
0
22sin 2 cos2 1
0 0
0
1 1, ,
2 2
1 12 cos 2 sin
2 2
1 12 cos 2 sin
2 2
1 12 cos 2 sin
2 2
1
x yE E z t B z t
Kz K Kz
Kz K Kz
E t A t
E t A t
E t A t
E t A
E Kz K Kz
K t E
+ =
= +
= + −
= +
= +
= + ⎯⎯⎯⎯→
( ) ( ) ( ) ( )
2
0
00 0 0 0 0 0
const.
sin , cos ,E
E t E A tt t KA Ac
E
=
+ = + = =
空間平均:average
801-8
エネルギー密度(2)
体積V中の進行波エネルギー:定在波エネルギーの半分
( ) ( )2 2
average 2
0 0 0 0
0
1 1
2 2 2
E VK E t A tH V V
c
= = → = +
要請:下記の関係式を満足させるために、符号調整をする。
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
0
0
0
00 sin
cos
p t t V V t
q t A t V V t
m
E t A
A t A
= − = − +
= = +
=
( ) ( )2 2 21 1const.
2 2H p t m q t
m= + =
関係式:運動量は質量と速度(位置変数の時間微分)の積
( ) ( ) ( ) ( )0p t mq t t A t= → =
調和振動子のエネルギーp:運動量、q:位置
ハミルトニアン(Hamiltonian)物理学におけるエネルギーに対応する物理量注意:エネルギーは保存量(孤立系)重要:係数や符号等、細かいことを無視すれば、
• ベクトルポテンシャルAが調和振動子の位置に相当• 真空中の誘電率ε0が質量に相当(あくまでも形式上の話…)
調和振動子(1)
体積V中の進行波エネルギー
801-9
( ) ( ) ( ) ( ) ( )2 2 2 * 21 1const.
2 2
Ht tH p t m q t t
m
= + → = =
置換:上式書き換えのため利用
( ) ( ) ( )
( ) ( )0
0
1
2
1
2
m q t ip t
A t
tm
t i
= +
= +
本当は古典的電磁場と光子は無関係ですが、量子側の要請を考慮すれば体積V中に含まれる進行波の平均光子数に相当
規格化:体積V中の進行波エネルギーを単一光子エネルギーで除す。
調和振動子:ばねに繋がれた粒子のように「質点が距離に比例する引力(復元力)を受けて運動する系」
• 調和振動子とはポテンシャルエネルギーの大きさが距離の自乗に比例する振動運動• 理想的なバネ(減衰、ダンピング無)につながれた粒子振動• 調和振動子は孤立していて系外とのエネルギーの授受はないとする。エネルギーは不変(保存量)。• 粒子を電子と勘違いして電子振動(分極)による双極子放射をイメージしてはいけない。(参照:401)• 電磁場進行波エネルギーは調和振動子のエネルギーと形式上、同一である。ただそれだけ!
振幅:赤色(正実数)、青色(複素数)
振動:q方向
粒子:調和振動子
801-10
調和振動子(2)
置換:続き
( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( ) ( )0 0
0
0
00 0
00
00 0
1
2
cos sin2
cos sin2 2
E i tA
A t i t
V t i VA A
E
t
EV V
t
t
i t eE
− +=
= +
= + − +
⎯⎯⎯→ + − + =
整理
( ) ( )
( ) ( )* *
0
*
0
0
0
0
0
2 2,
2 2,
i t i t i
i t i t i
E
E
e e eV V
eV
t e eV
t
− + − −
+
= = =
= = =
801-11
古典的電磁場(1)
進行波電場E
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
0 0 0
0
*
0
*
1 1, sin
2 2
2 2
i Kz t i Kz t
x
i Kz t i Kz tiKz iKz
E z t Kz t i e e
i e e i e eV
t
E E E
tV
− − − − −
− − −−
= − − = −
= − = −
進行波磁場B
( ) ( ) ( )( )
( ) ( ) ( ) ( )
00
0 0
0
0 0
* *
0
,, sin ,
2 2
1,
2 2 2
xc
EB
y y
i Kz t i Kz tiKz iKzt t
E z tB z t Kz t B z t
c
iK e e iK e eV V
K KV V c V c
B
=
− − −−
= − − ⎯⎯⎯→ =
= − = −
= = =
注意:体積V=1とする「単位体積」表記もあります。
801-12
古典的電磁場(2)
進行波:エネルギー密度(混同注意:エネルギー密度Eと電場E)
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
22
0
0
2
0
0
2
0 0
2
average 0
*
*
*
0
*
* * *
0 0
2
0 0
1 1, ,
2 2
1
2 2
1
2 2
1 12 2
2 2 2 2
1 12
2 2 2
x y
iKz iKz
iKz iKz
Kc
E E z t B z t
i e eV
iK e
t t
t t
t t t t
t t t
eV
E KV
t tV V V
t
V
c
−
−
=
= +
= −
+ −
= +
⎯⎯⎯→ + =
空間平均:average 本当は古典的電磁場と光子は無関係ですが、強いて言えば、体積V中に含まれる進行波の光子数に相当
古典的電磁場:ベクトル表記
進行波電場E
進行波磁場B
( ) ( ) ( ) ( ),
0
*, ,2
K r K r
K
KB r K e E r
i it i e e tV v
t t
− = − =
( ) ( ) ( )*
,
0
,2
K r K r
KE r e
i it i e etV
t
− = −
σ:直交偏波(偏光)
進行方向K
B
電場Eベクトル
磁場Bベクトル
E
波動:古典的電磁場のイメージ
( )
( )
( ) ( )
,
,
,
,
, ,
K
K
E r e
B r K e
KB r E r
t
t
t tv
ベクトルの向き
801-13
801-14
正準方程式
混同注意:ハミルトニアンHと磁場H
( ) ( ) ( ) ( )2 2 2 2 21 1 1 1
2 2 2 2
v k mH p t m q t H p t kq t
m m
== + ⎯⎯⎯→ = +
k:ばね定数(調和振動子)
正準方程式: Hamilton's equations正準変数: canonical conjugate quantities
dpF
dt
H p dq
p m dt
H dpkq F kq
q dt
=
= =
= = − ⎯⎯⎯→ = −
フックの法則:ばね定数k
振動:q方向
粒子:調和振動子添字省略:粒子一個
孤立系:系外とのエネルギーの授受はない。ハミルトニアン:時間変数を陽に含まない。
( )1 2 1 2, , , , ; , ,i i
i i
dp dqH HH H q q p p
dt q dt p
= − = =
注意:電磁場と調和振動子• 調和振動子は質量を持つ粒子のばね振動であり、ハミルトニ
アンは粒子の位置qと運動量pを変数に持つ。• 質量を持たない電磁場のハミルトニアンが質量を持つ粒子
(調和振動子)のハミルトニアンで「等価的に」記述されている点に注意して欲しい。
801-15
正準量子化
正準量子化:canonical quantization
正準変数を演算子に置換青色:時間依存有 ( ) ( ),ˆ ˆp qp t q t→ →
正準交換関係:量子論における要請
演算子(ハット):交換関係(commutation relation)• 位置演算子:the position operator• 運動量演算子:the momentum operator
ˆ ˆ ˆ, ˆ,p q q pi i= − =
ポアソンの括弧式:Poisson bracket
,, , 1A q B p
i i i i i
A B A BA B q p
q p p q
= = = − ⎯⎯⎯⎯→ =
量子論における要請:ポアソンの括弧式と交換関係
ˆ ˆ ˆ ˆ ˆ ˆ1 1
, , , , 1 ,A BA B q p ii i
q p q p → → = → =
粒子の位置qと運動量p簡単のため:粒子一個と考えて添字省略
801-16
ハイゼンベルグの運動方程式
関数A:系内に複数個の粒子(調和振動子)を含む場合
,
, ,
i i
i i
dp dqH H
dt q dt pi i
i i i
i i i i i
q pdA A A A
dt q t p t t
dA A H A H A A AA H H A
dt q p p q t t t
=− =
= + + ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯→
= − + = + = −
全微分(differentiation)と偏微分(partial differentiation)
( ) ( ) ( )( )1 2 1 2, , ; , , ; ; ;q pA A q q p p t A t t t= =
量子論における要請:ポアソンの括弧式と交換関係(前頁)ハイゼンベルグの運動方程式:Heisenberg equation of motion
ˆ ˆˆ ˆ ˆ ˆ
ˆ , ˆ A HA A H HH
d i d
dt t dtA
t
= = + ⎯⎯⎯→ =
時間依存有:位置と運動量は時間変化する。
時間変数を陽に含む場合
ハミルトニアンに対して等号が常に成立:次頁以降参照
801-17
ハミルトニアン:全微分と偏微分(1)
ハミルトニアン(Hamiltonian)は物理学におけるエネルギーに対応する物理量である。
• ハミルトニアンが時間変数を陽に含む場合を考える。• 仮に、異なる時刻(微小時間間隔:Δt)で系内各粒子の位置、運動量が完全に一致しても、それでもなお、ハミルトニアンが
異なるのであれば、系内のエネルギーの増減の原因は「系外」にあり、「微小時間中に生じた系外とのエネルギー授受の結果」によるものと考える。
• このとき、偏微分は非零になる。つまり、非孤立系ではハミルトニアンの時間に関する偏微分は非零になる。• 孤立系のハミルトニアン:全微分も偏微分も零になる。エネルギーは保存量になる。
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )( )
( ) ( ) ( )( )
,
; ;
; ;
t t t t t t
H t H t t t
H t t H t t t t t t
= + = +
=
+ = + + +
q q p p
q p
q p
( ) ( )
0
H t H t t
H
t
+
ハミルトニアン:非孤立系
系内各粒子の位置、運動量:異なる時刻(微小時間間隔:Δt)で完全に一致する場合
( ) ( ) , 0H
H t H t tt
= + =
ハミルトニアン:孤立系(エネルギーは保存量)孤立系
●●
●● ●
●
●
801-18
ハミルトニアン:全微分と偏微分(2)
前頁の議論を繰り返すと…
ハミルトニアン(Hamiltonian)は物理学におけるエネルギーに対応する物理量である。
• ハミルトニアンが時間変数を陽に含む場合を考える。• 仮に、異なる時刻(微小時間間隔:Δt)で系内各粒子の位置、運動量が完全に一致しても、それでもなお、ハミルトニアンが
異なるのであれば、系内のエネルギーの増減の原因は「系外」にあり、「微小時間中に生じた系外とのエネルギー授受の結果」によるものと考える。
• このとき、偏微分は非零になる。つまり、非孤立系ではハミルトニアンの時間に関する偏微分は非零になる。
• 系外とのエネルギー授受以外の要因で系内のエネルギーが増減することはないとすると、全微分と偏微分が常に一致する。• 即ち、ハミルトニアンに関して「系内エネルギー増減の原因の全ての理由が系外とのエネルギー授受」になる。• これが全微分と偏微分が常に一致する物理的な意味になる。
• 孤立系のハミルトニアン:孤立系ではそもそも系内のエネルギーが増減する理由が全くない。• 全微分も偏微分も零になる。エネルギーは保存量になる。
0H
t
0dH H
dt t
=
0dH H
dt t
= =