Download - M-Test を用いた鍼治療が行動変容を起こした 1 症例...2018/04/15 · 5 )M-Test 所見;左右股関節屈曲,内旋,左股関節外 旋に制限が確認された(図1)。
Research Reports of Suzuka University of Medical Science
鈴鹿医療科学大学紀要 No.24, 2017
M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
本田 逹朗
鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 鍼灸学科
147M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
腰の痛み,だるさを訴える 60歳代女性に対し,M-Testを用いた治療・ケアを行い,症状が改善していくにつれ健康
行動へと変容していった。この理由として,M-Testによる鍼治療とケアの特性に加え,初診時にM-Testの治療内容の説
明と日常生活での身体活動の指導の影響が考えられる。患者は,治療効果として身体の動かしやすさを実感したことが,
その後の運動の実践などスムーズな行動変容ステージのステップアップに繋がったと考えられる。
今回の患者に対しては,正式な行動変容プログラムは一切実施していない。しかしながら,治療やケアにより行動変
容プログラムと同様の結果をもたらした。
鍼灸師は鍼灸治療の効果に加え,日常生活面で影響を及ぼす運動や食事の指導も行うことで,望ましい行動パターン
となるきっかけとなる可能性があり,重要であると考えられた。
M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
本田 逹朗
鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 鍼灸学科
キーワード: M-Test,行動変容,制限動作,鍼ケア,シール付き円皮鍼
事例研究
要 旨
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I.はじめに
鍼灸治療は,中国医学の考え方に基づく治療法や現代
医学的な考えに基づく治療法など様々な治療法がある。
数多い鍼灸治療の中で痛みなどの影響で身体の動きに制
限が伴う動作(以後,制限動作)を本来のスムーズな動
きに戻す,つまり症状が出現する前の状態に戻すことを
目的としたM-Test1~3)による治療法がある。この治療法
は,身体の動きを良くすることから,スポーツ選手に対し
て行われてきた 2, 3)。四肢と身体を縦方向に走行する 12
本の経脈注 1の走行を応用した治療法である。
身体動作をスムーズにすることは,症状への治療のみ
ならず,動作時痛が減少する。それは,動かしても痛み
が少ないということであり,体を動かせる喜びを実感でき
ることに繋がる。また,日常生活面での身体活動量など
への期待も十分考えられる。
今回,既往歴として糖尿病がある患者に対して,制限
動作をスムーズに動かせるようにする鍼ケアで症状が改
善していき,それにともない日常生活面での変化と糖尿
病にも影響を及ぼした症例を報告する。
(注 1経脈:肝,心,脾,肺,腎,心包,胆,小腸,胃,
大腸,三焦の 12の縦方向に走行する経絡をいう)
II.症 例
1.患者情報
患者;年齢 60歳代,女性
職業;無職
初診;X年 9月
主訴;腰部の痛み,だるさ
現病歴;X-3年 4月に初めて急性腰痛症となり整骨院や
他の鍼灸院を受診した。しかし,背部~殿部に至るだる
さが続くため鈴鹿医療科学大学附属鍼灸治療センターを
受診。週に 2回ジムで運動をしていたが,腰痛以後はジ
ムを止めている。
併存症;糖尿病,高血圧,心筋梗塞 いずれも服薬治
療中
現症;
1)身体所見;身長 150cm,体重 57kg,BMI25.3kg/m2
2 )自覚症状;背部~殿部に至るだるさは,3年ほど前
から続いている。また,以前に整形外科で急性腰痛症
と診断されたことがあり,これが現在の症状と関連して
いるかもしれないとのことであった。
3 )理学所見;腰部に関して行った下肢伸展挙上テスト
(SLR),大腿神経伸張テスト(FNS),パトリックテス
トでは異常は見られなかった。また,L1~S1レベルの
神経学的検査として運動(腸腰筋,大腿四頭筋,前
脛骨筋,母趾伸筋,下腿三頭筋)・反射(膝蓋腱,大
腿二頭筋腱,アキレス腱)・感覚(鼠径靭帯,膝蓋骨
内側,母趾と示趾の中足趾節関節の間,踵骨隆起の
外側)を調べたが,陰性だった。
4 )関節可動域;左右股関節,膝関節,足関節におい
て可動域に問題なし。
5 )M-Test所見;左右股関節屈曲,内旋,左股関節外
旋に制限が確認された(図 1)。
6 )一般状態など;糖尿病のため食べ物には気をつけて
いるとのこと。睡眠,二便注 2,冷え,むくみなどは異
常なし。
(注 2二便:大便と小便)
2.診断や所見,治療効果の評価方法
治療前と治療後にM-Testを実施し,制限動作が左右
差なく動かせるなどの変化で治療効果を確認した。
動作時痛の改善度は,Visual Analog Scale (VAS)を初
診治療前と再診時治療前に測定し比較も行った(図 2)。
患者は,症状改善とともに健康行動へと変容していっ
た。この日常生活の変化を行動変容ステージに当てはめ,
検討した。
1)M-Testについて 1)M-Testは,身体を前面,後面,側
面の 3面で考える。頚部,肩関節,肘関節,手関節,体
幹,股関節,膝関節,足関節でそれぞれ 3面を伸展す
る動作(31種類)から構成されている(図 1)。身体上
に傷害などがなければ問題なく行える単純な動作で構成
されており,この動作を自動的,他動的に実施する。「痛
149M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
み」「張り感」「違和感」「だるさ」などの感覚的異常を
伴う制限動作がある場合,陽性とする。
陽性の制限動作を所見用紙に記録し,その中でも最も
制限動作の強い動作をターゲットモーション(以後,TM)
に設定した。また,制限動作をスムーズな動作に戻す治
療のためのツボ(経穴)も導き出されるシステマティック
な治療法である。治療は経穴以外に動作で伸展する面や
伸展側の筋肉などを刺激する。制限動作をスムーズにす
ることは動作時痛などが改善されたことになり,結果的に
は症状への治療となる。このように,動きを改善させるこ
とにより,痛みの緩和を目的に行われる治療である。従っ
て,動きを重視するスポーツ選手などの治療やコンディ
ショニング・ケアに頻用されている 2, 3)。
2)VASについて;初診施術前に腰のだるさによる日常
への支障度については VASを用いて評価した。VASは,
長さ10cmの線上の左端に「痛みなし」,右端に「最も
強い痛み」のみが書かれている「痛みの物差し」である。
これを患者に見せて,主観的に現在のだるさがどの程度
か指にて示してもらい,左端からの距離(mm)を測定
する。だるさの程度を数値化した(図 2)。
3)行動変容ステージについて 3);行動変容ステージは,
Transtheoretical model(TTM)の中のプログラムである。
図 1 M-Test の所見用紙と陽性動作M-Testの基本動作を実施してもらった結果,左右股関節内旋動作で制限が見られた。これらのことから,下肢側面の伸展制限と考え,この面を走行する胆経,肝経の経穴が治療穴として導き出される。
図 2 本症例で痛みの程度を調べるために用いた Visual Analogue Scale(VAS)患者に 100mm の水平な直線上で,痛みの程度に該当する箇所へ印をつけてもらう。その長さを痛みの程度として,数値化
にするという簡便な方法である。
150
TTMは,効果的な行動変容プログラムとして世界的に汎
用されている多理論統合モデルである。1994年に
Prochaskaらが,禁煙教育の際に実践的で簡便なモデル
として発表した 5, 6)。健康上の問題行動を克服,あるいは
好ましい行動をどう獲得するかを説明したものである。
TTMの中で,特に重要視されているのが行動変容ステー
ジである。個々人の行動変容に対する準備性や実践期間
に応じて「無関心期(前熟考期)」「関心期(熟考期)」
「準備期」「実行期(行動期)」「維持期」という5つのス
テージで構成している(図 3)7)。対象者が 5つの行動
変容ステージのどの位置にいるのかを把握し,各段階に
応じて行動変容技法を用いた介入を展開するのに用いら
れている(図 4)。現在,特定保健指導で生活習慣病患
者に対し行動変容を目的とした運動プログラムの実践指
導を行う際に用いられる 7)。
図 3 行動変容ステージ(TTM より)多理論統合モデル(transtheoretical model, TTM)は 4つの概念からなる。中でも要となるのが行動変容ステージであり,5
つのステージよりなる。対象者がどのステージになるのかを把握し,適した指導を行っていきステージの段階を上げて,最終的には確立期に到達するように支援する。
図 4 行動変容ステージ(例:特定保健指導) 特定健康診査の結果から,運動指導が必要な方へ行動変容ステージに基づく特定保健指導が行われている。対象者がステー
ジのどの位置にいるのかを把握して指導を行う。
151M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
3.症例の整理と問題の所在
問診にて,以前に整形外科にて急性腰痛症という診断
を受けていたこと,治療中の心筋梗塞については心電図
を測定して異常がないことを確認した。また,触診にて
患部に顕著な熱感,腫脹が無いこと,更に,理学検査に
おいて神経学的なしびれや痛みなどの所見が無いことを
確認した。従って,患者は年齢的なことと低活動により
筋肉量の減少と筋肉の萎縮,また肥満症であるため下肢
への負担が大きいことから,少ない日常生活動作でさえ
も骨格筋に小さな負荷が繰り返しかかり,筋疲労による
だるさを感じたのではないかと考えた。M-Testにより判
明した下肢側面の伸展動作に制限が見られたため,まず
は制限動作の改善が症状改善に有効であると考えた。
4.M-Test による治療プラン及び治療法
1)M-Testによる治療プラン;本症例については,初診
の治療開始前にM-Testの説明をして,動かしにくい動作
を動きやすくすることで,動作時の痛みを軽減する治療
であることを説明した。患者に対する治療は,動きの制
限から治療すべき箇所と経穴注 3が導き出せるM-Testを
用いて背部~腰部のだるさを改善させることにした。また,
患者は糖尿病の加療中ということもあったため日常生活
で身体活動量を増やすよう指導した。これは直接,主訴
とは関係ないが糖尿病に対する身体活動の有効性は報告
されており,具体的な運動強度についても指導を行った。
(注 3経穴:経絡上に存在する点で,一般的にはツボと表
現されている)
2)M-Testの治療法;M-Testを用いて首関節,肩関節,
肘関節,手関節,体幹,股関節,膝関節,足関節でそ
れぞれ前面,後面,側面の 3面を伸展させる 31動作を
実施した。その結果,最も強い制限動作は左右の股関節
図 5 左股関節内旋時の主に伸展する外側面の経絡股関節内旋動作は,主に外側面が伸展される。下肢の外側面には,足の少陽胆経が走行し,下肢の内側面には足の厥陰肝
経が走行している。患者の場合,膝内側面に位置する肝経の曲泉穴が制限動作を改善させる経穴(ツボ)であった。
図 6 本症例で使用した経穴(ツボ)図で示したのは,右足の曲泉穴と湧泉穴である。曲泉穴には,シール付き円皮鍼を貼付し,湧泉穴には鍼を刺さずに先が丸
い棒状の器具(鍉鍼:ていしん)で圧刺激を行った。
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内旋動作(図 1, 5)であり,これを TMに設定した。股
関節内旋動作は主に下肢外側面を伸展させる動作である。
M-Testは TMが決まるとTMを改善させる刺激すべき箇
所(面),経穴が導き出されるシステマティックな治療法
である。患者の場合,足の厥陰肝経(けついんかんけ
い)に属する曲泉(きょくせん)穴が特効穴として選ば
れた。また,曲泉穴の効果を強化する湧泉(ゆうせん)
穴を併せて使用した(図 6)。
治療内容は,左の曲泉穴にはシール付きの円皮鍼注 4
(パイオネックス 0.6セイリン株式会社製)にて刺激を行
い,左の湧泉穴には 鍼注 5(ていしん)という,鍼先が
丸くなっており刺入せずに圧刺激を行う棒状の器具を使
用した。また,下肢外側面の筋硬結部に一般的な鍼であ
る毫鍼(ごうしん)(Jタイプ 30mm 0.16mmφ セイリン
株式会社製)を 1センチ程刺し 5分間そのままにする置
鍼(ちしん)を行った。
(注 4円皮鍼:画鋲のような形をした丸い鍼で,本症例で
用いたのは鍼体の長さが 0.6mmでサージカルテープ
が貼付されているもの。注 5 鍼:鍼という字が用いられているが,先端が丸く,
刺さずに圧刺激を加える目的のもの)
III.経 過
1.動作時痛の改善について
M-Testによる治療効果については治療直後に再び制
限動作を行い,動きや動作時痛が改善したか否かを患
者とともに確認することで行った。第 6回目の鍼ケアの時
点で,制限動作は全てにおいて制限を感じない程度に改
善していた。
2.痛みのスコアによる改善について
初診施術前に腰のだるさによる日常への支障度につい
ては各治療前にVASを用いてだるさの評価をした。以下
に各治療前の VASスコアを提示する。
初診時の腰のだるさは VASで 78mmであり,2回目治
療前には 54mm,4回目治療前には 21mm,6回目治療
前には 4mmと改善していった。3回目からは,症状が日
常生活に支障ない程度となったため,M-Testによるコン
ディショニング・ケア(鍼ケア)へと移行した。患者は 6
回目の問診時に身体を動かしたい気持ちが強くなり自転
車を購入して身体を動かしていると述べた。現在,週 3
回 30分程度のサイクリングをしており,運動行動が変容
図 7 治療経過による痛みの程度と健康行動の変容患者は治療回数が増すに従い,順調にVASの値が低下していった。同時に,患者のライフスタイルが健康行動へと変容し
ていった。
153M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
した(図 7)。また,心身の変化については,友人も気づ
く程度に変容した。変容した内容を表 1に提示した。
3.合併症の改善について
患者は糖尿病を罹患しており,服薬治療を受けている。
HbA1c(NGSP値)は治療前の 8月は 6.7%であったが,
健康行動へと変容することで 11月は 6.3%,12月は 6.2%
の平常値へと変化した。しかしながら,季節が冬となり
サイクリングやウォーキングをする機会が激減すると,2
月の HbA1cは 6.5%へと上昇した。患者は,日常での身
体活動量の低下が糖尿病の HbA1c値に悪影響を及ぼす
ことを体験して学んだ。
Ⅳ.考 察
患者は 3年前に急性腰痛症を患って以後,腰部の違
和感が継続していた。今回,治療回数が増すにつれて日
常における行動が変容した。その理由として考えられる
のは初診時にM-Testの治療を用いて身体を動きやすく
したこと,また糖尿病に対する日常での身体活動量の重
要性を指導したことが考えられる。漠然と「身体活動量
を増やしましょう」という言葉に終止するのではなく,具
体的に「散歩は全力の速さの半分くらいの速さであり,年
齢から算出すると 15秒間に 24拍ぐらい脈打つ程度の速
歩(ニコニコペースの運動)がいいですよ」と指導した。
このように具体的な運動強度を提示したことが,積極的
な身体活動の実践に繋がった可能性もある。
セルフケア行動に影響を及ぼす要因としては「外的要
因(環境要因)」,「内的要因(心理的要因)」,「強化要
因(結果,報酬)」といわれている。今回の症例でいう
と,治療により「外的要因(環境要因)」に変化を及ぼ
し,運動指導で内的要因(心理的要因)」に変化を及ぼ
した可能性がある。そして,「強化要因(結果,報酬)」
として行動変容になるかと考えられる。
今回,患者の健康行動の変化を行動変容ステージに当
てはめてみた(図 8)。行動変容プログラムを実施する際
には,本来は対象者が無関心期~維持期の 5つのステー
ジのどのステージであるのかを把握することから始まる。
患者は腰の状態が悪く日常での身体活動をできる限り
しないようにしていた(無関心期)。M-Testによる鍼治療
が功を奏し腰を含め身体が動かしやすいことを実感した
(関心期)。すると,元々運動実践について消極的では無
かった患者は,身体が動きやすくなったことを自ら実感で
きたことにより今まで止めていた散歩を再開した(準備
期)。その後,患者は買い物と身体運動の両方ができる
自転車を購入し,日常生活での活動量を更に増やし継続
していた(実行期)。患者は鍼ケアをコンディショニング
表 1 患者の生活上での行動変化
154
の 1手段と考え,ケアの前日は少々無理をしても大丈夫
だと考えており,精神的な面での余裕につながって日々
身体を動かしている(確立期)。しかしながら,時には
頑張りすぎて腰に違和感が生じることもある。その際は
身体活動をセーブするなど身体状態に応じて活動内容を
コントロールすることを身につけた(再発期)。今まで,友
人からの誘いは腰の状態が悪くなり友人に迷惑をかけた
らどうしようという不安から断り続けてきた。しかし,現在
では友人からの遊びの誘いを待っているぐらい身体面,精
神面で自信を持ち続けている(確立期)。
患者の健康行動を妨げていたものは,継続する腰のだ
るさだった。これを,身体の制限動作をスムーズにする
M-Testを用いた鍼治療により,行動を妨げる要素(症
状)を治療(介入)により取り除いたことで症状が改善
した。このことが,行動変容ステージが順調にアップして
いくことに繋がった。鍼灸治療にはいろいろな方法があ
るが,症状を改善させることと運動指導や栄養・食事,さ
らにセルフケアなどの指導を加えることで今回のような健
康行動の変容に繋がるのではないかと思われる。我々鍼
灸師は,治療で症状を軽減させるだけで無く,それが起
点となりQOL向上へ繋がるような指導もできる鍼灸師と
なることが重要であると考えられる。
今回は,1症例の報告を行った。過去の報告では,対
象を行動変容ステージに分けて健康行動 9)や不定愁訴 10)
などと比較検討されていた。今後は鍼灸治療時において
もルーチィンワークとして初診時に問診でステージ分類を
行ない,症状の改善度,制限動作数などとの関係を検討
することが必要だと考えられる。
Ⅴ.結 論
本症例は,M-Testを用いた鍼治療により,健康行動を
妨げていた腰のだるさを取り除くことができた。同時に,
健康行動へと変容していった。受診 3回目からの鍼ケア
により身体が動きやすくなったこと,初診時の身体活動
に対する指導が複合的に作用し,行動変容へと促した可
能性がある。本ケースは従来の対話による行動変容プロ
グラム手法を用いていないが,腰のだるさと制限動作が
改善するにしたがい,健康行動が増え,行動変容ステー
ジを 1つ 1つステップアップしていった。
鍼灸師は,症状改善のための治療に加え,患者の健
康や生活の質(QOL)に繋がる運動面や栄養面の指導
も重要であると再認識した症例であった。
図 8 患者の行動変容 ステージモデル行動変容ステージに患者が健康行動へと変容した内容を当てはめてみた。患者は健康志向が強いため,症状の改善に伴い
確実にステージがアップしていった。また,体を動かしすぎて腰に違和感を感じる際は,無理をせず自ら休養することも身に付けている(再発期)。
155M-Testを用いた鍼治療が行動変容を起こした 1症例
利益相反
著者は本論文の研究内容について他者との利害関係
を有さない。
インフォームドコンセント
本人に症例報告としての論文提載について許可を得た。
参考文献
1) 向野義人,松本美由季,本田達朗 他:M-Testの
基本的な診断と治療手順.図解 M-Test(向野義人
監修),医歯薬出版株式会社,東京,39-60, 2012.
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スポーツ鍼灸ハンドブック(第 2版)(向野義人,松
本美由季 編集),文光堂,東京,42-52, 2012.
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156
A case in which the acupuncture using M-Test caused behavioral modification
Tatsuro HONDA