エレクトロマイグレーションの機構解明-超LSIの信頼性向上や単一分子トランジスタへの
展開-
東京大学生産技術研究所
教授 平川一彦
共同研究者: 梅野顕憲、吉田健治、坂田修一
超VLSIの微細化が進み、20年後には単一分子の大きさに!
• 2030年頃には、シリコントランジスタのサイズが、分子レベルの寸法に達してしまう!次世代のトランジスタは?
DrainSource
Gate
DrainSource
Gate
100nm
10nm
1nm
0.1nm
size
Nano Si device
2005 2015 2025 2035Year
Atomic Si device
Nano CMOS100nm
10nm
1nm
0.1nm
size
Nano Si device
2005 2015 2025 2035Year
Atomic Si device
Nano CMOS
統計的ゆらぎの問題
酸化膜厚など物理的な限界
単一分子素子
Source Drain
Gate
カーボンナノチューブ
単一分子デバイス作製に向けて
分子デバイスの特徴
分子そのものが機能を持っている
電子スピンや核スピンを用いた量子情報処理
エレクトロニクスに新しい可能性をもたらす素子として注目されている
DrainSource
Gate
DrainSource
Gate
・極微細である
・空間的にランダムに分布している
・再現性がない(歩留まり~1 %)・動作が不安定
再現性・安定性に優れたナノギャップ電
極作製技術の確立が不可欠
ただし、単一分子に金属電極を形成するのは非常に困難
通電断線法を用いたナノギャップ電極の作製
~1 nm
断線させる前の微細な金の接合の電子顕微鏡写真
分子にコンタクトするナノギャップ電極
電気的なストレス
エレクトロマイグレーション
分子
金電極
サブミクロンの金の接合を作製し、これに電気
的なストレスを印加すると、エレクトロマイグ
レーション効果で、金属が断線する。
断線して原子レベルのギャップができる確率が
低い。
エレクトロマイグレーションの機構は?100 nm
電流
金電極
金電極
40
45
50
55
60
65
Time (s)
GJ
(2e2 /h
)
0.3
0.4
0.5
0.6
VJ
GJ
100s
VJ
(V)
1G0
通電断線プロセスの精密なフィードバック制御
金接合のコンダクタンス(電流の流れやすさ;赤線)をモニターしながら、印加する電圧VJ(青線)にフィードバックをかける。
コンダクタンスは、量子化コンダクタンス(G0 = 2e2/h)で規格化されているので、縦軸は金原子の数に対応。e:電荷素量、h:プランク定数
1G0程度の大きさのステップを示しながら
断線が進んでいくことから、精密に1原子ずつ原子をはずしていくことができている。
接合に約0.4 Vかかると、原子がはずれることが多いことが見て取れる。
原子がはずれるときの電圧のヒストグラム
金接合に約0.4Vかかると、金原子がはずれることが多い。この電圧は、金原子表面を金原子が移動するために超えなければいけないエネルギー0.4 eVと整合。
金線の断線寿命の活性化エネルギー0.4 eVとも整合
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.60
10
20
Cou
nts
Vc (V)
・(110)面の表面拡散ポテンシャル・断線の活性化エネルギー
0.4 eVにピーク
Au接合
-e
nanojunctionregion
diffusion potential
eVJ
Au
-e
nanojunctionregion
diffusion potential
eVJ
Au
エレクトロマイグレーションの機構
従来、エレクトロマイグレーションは、電子風(electron wind force)モデルで説明されてきた。従って、電流密度が大きくなると断線すると考えられてきた。
今回の結果は電流密度よりも、むしろ接合にかかる電圧の方が重要であり、
エレクトロマイグレーションが進行するための臨界電圧が金の場合には約0.4 Vであることを示している。
断線電圧のヒストグラムは、原子がはずれるためにはある一定以上のエネルギーを持った電子が原子と衝突する必要があることを示している。
従来のElectron wind forceモデル
臨界電圧と金のエレクトロマイグレーションの進行
35
40
G (2
e2 /h)
Time (s)
VJ = 460 mV
VJ = 320 mV
100 s
臨界電圧以下
臨界電圧以上
接合電圧が臨界電圧以上にならないとエレクトロマイグレーションが進行しない
臨界電圧=0.4 V
臨界電圧領域
5600 5650 5700 57500
1
2
3
40.2
0.3
0.4
Junc
tion
Con
duct
ance
(G0)
Time (s)
Junc
tion
Volta
ge (V
)
ニッケル(Ni)ナノ接合の断線過程(臨界電圧約0.33 V)
Niナノギャップ電極
臨界電圧0.33V以下では、たった3原子の接合でも断線しないが、臨界電圧を超えると急激に断線が進行する。
断線が進行
3原子でも安定
VLSI断線に対する新しい信頼性評価手法
超LSIに対する技術的インパクト
VLSIの配線の断線はelectromigrationによるもの
配線の断線に至るまでの加速試験(数千時間)の統計的処理から、断線の活性化エネルギーEaを
求めている。
原子がはずれる電圧のヒストグラムを測るとい
う新しい方法で、配線材料の断線の活性化エネルギーを決定する新しい手法の提案断線しない配線の使い方
( )TkE Baexpτ ∝
10^4 105 106 10^7 108 109 1010 10110
1
2
3
4
5
6
Num
ber o
f sam
ples
controlled
without control
104 105 106 107 108 109 1010 1011
Nanogap Resistance (Ω)
10^4 105 106 10^7 108 109 1010 10110
1
2
3
4
5
6
Num
ber o
f sam
ples
controlled
without control
104 105 106 107 108 109 1010 1011
Nanogap Resistance (Ω)
with control w/o control100 nm
with control w/o control100 nm100 nm
Al gate
Drain
SiO2 / SI-GaAs substrate
Source
SiO2 (gate insulator)Al gate
Drain
SiO2 / SI-GaAs substrate
Source
SiO2 (gate insulator) -20 -10 0 10 20-1.0
0.0
1.0
I D (n
A)
VD (mV)
I D(n
A)
VD (mV)
VG =10.8V
VG =10.0V
Gate step = 0.2V
-20 -10 0 10 20-1.0
0.0
1.0
I D (n
A)
VD (mV)
I D(n
A)
VD (mV)-20 -10 0 10 20
-1.0
0.0
1.0
I D (n
A)
VD (mV)
I D(n
A)
VD (mV)
VG =10.8V
VG =10.0V
Gate step = 0.2V
フィードバック制御により
再現性よく原子レベルの
ギャップが作製できる。
単一のフラーレン分子を
用いたトランジスタの作
製にも成功
単一フラーレン分子トランジスタ
精密に制御された原子レベルのナノギャップ電極の形成と単一分子トランジスタへの応用
Fullerene 1 mgToluene 4 ml
ナノギャップ電極の抵抗 (オーム)
ギャップの抵抗が小さいほど狭いギャップができていることに対応
まとめ
エレクトロマイグレーションの素過程の解明
*エレクトロマイグレーションは、ヒューズやフィラメントの断線など、大きな電流を
流したときに金属が断線する一般的な現象。
*原子レベルでは、従来の電子風モデルは妥当ではない。
エレクトロマイグレーションは、一定以上のエネルギーを持った1個の電子が1
個の原子に衝突するために発生することを見いだした。
エレクトロマイグレーションの進行には臨界電圧が存在し、その値は原子の表
面拡散ポテンシャル(原子が表面を動くために超えなければいけないエネルギー)
に等しい。
物理的・応用的展開
フィードバック制御による精密なエレクトロマイグレーション(EM)の制御により、
再現性の高い分子デバイスの作製・動作が可能に
VLSIの配線の信頼性に大きな知見(材料の選択や動作条件)を与える