ルーブリックを用いた
授業実践報告 ~「山月記」論研究発表会~
福井県立若狭高等学校 上原三佳
福井県立若狭高等学校 教育課程
担当学年:第二学年 (基本的に学年横持ち)
【探究科】 理数探究科、国際探究科
(理数)現代文B(2単位)・古典B(3単位)
(国際)現代文B(3単位)・古典B(3単位)
【普通科】 理系3クラス、文系3クラス
(理系)現代文B(2単位)・古典B(3単位)
(文系)現代文B(3単位)・古典B(3単位)
【海洋科学科】 海洋探究コース、海洋技術・海洋資源コース
現代文B(3単位)・古典A(2単位)
はじめに 生徒に育みたい力
・センター試験・大学別試験・就職試験を突破するこ
とができる確かな学力
・面接、小論文に対応できる「話す・聞く」「書
く」力
・実社会で活きるコミュニケーション力
・人生を豊かにできる感受性 言語活動の充実が必須!!
Q 言語活動を取り入れた授業作り
どんな悩みをお持ちですか?
私の場合・・・
・時間が足りない!
・評価をどうしよう?
(特に「話す・聞く」)
・テストはどうするの?
本日の授業実践報告
1「夢十夜」論を作ろう
~1年2組研究発表会~
(平成26年11月 探究科1年)
2「山月記」論
~2年2組研究発表会~
(平成27年6月 理数探究科2年)
1 「夢十夜」論を作ろう
~1年2組研究発表会~
詳しくは資料①をご参照下さい。
ねらい① 探求課題を設定させるアクティブラーニング
ねらい② 研究発表会を行い「話す・聞く」力を伸ばす
ねらい③ 9月に配布されたタブレットを使う
実際の授業(全17時間)*計画では12時間
【事前学習】夏目漱石『夢十夜』全文を配布し、初発の感想を持たせ、
探究してみたい課題を考えさせる。
【第一次】① 個人探究活動 *資料②a
(生徒の感想・探究課題を分類し、教師側で4人×7班に組み分け)
【第二次】②~⑪ グループで探究課題の設定 *資料②b
タブレットによる調べ学習
先行研究調べ(若狭図書学習センターから30冊)
グループでの協議 *資料②c、d
Key note作成、発表の工夫、予行練習
【第三次】⑫~⑯ 研究発表会(グループ発表と質疑応答)*期末考査
【第四次】⑰ ふりかえり・レポート作成
期末考査の扱い
期末考査をどうする?
・探究科は全文を学習(教師の教え込みなし)
・普通科は教科書にある第一夜、第三夜、第七夜を学習
(各クラスの実情に合わせて研究発表会を行ったが、余った時間で教師の授業も行なった)
解決策 *資料③
・第一夜・第三夜・第七夜からの問題(30点)
・副教材からの漢字問題(40点)
・論述問題2題(15×2点)
*自分の発表したテーマと、他班の発表テーマ一題を選択
「話す・聞く」の評価と成績への反映
【授業中に行なった評価】
・生徒の自己評価と相互評価(5段階+コメント)
*資料④
・教員の評価
問題点 発表までは評価できるが質疑応答に加わったため、 討論の評価ができなかった コメントを書く時間なし。
非常に曖昧な印象評価になってしまった
【評定成績への反映】
期末考査7割・発表1割・討論1割・提出物1割
生徒の反応
・課題解決型のアクティブラーニングであったため、 達成感と満足感が高い。(「一番よかった授業」に選ぶ生徒が多かった)
・タブレットを使用したおかげで「夢十夜」の幻想的な世界観を視覚的にとらえることができていた。
・ペーパーテストは苦手だが発表の上手な生徒がおり、新たな評価の視点を生徒も教員も得ることができた。
・心配していたテストに対する苦情はなかった。
課題
【生徒の課題】
・発表までは上手に行なうものの、他者の発表内容を批 判することを嫌がり、質疑応答ができない。
【教師の課題】
・「話す・聞く」力の育成を図ったが、結局どんな力が育まれたのかが不明確であり、曖昧な印象評価で終わってしまった。
・自分も話し合いに参加する中で評価することが難しい。
ルーブリック評価を取り入れてみては?
大阪教育大学 八田幸恵先生の講演会
「資質・能力」の指導と評価(2015、3、11若狭高校)
*資料⑤
・本校 渡邉久暢先生 2011年度単元「こころ」
年間を通して用いられる読みのルーブリック
・本校 小坂康之先生 SSHルーブリック
2 「山月記」論
~2年2組研究発表会~
ねらい① 研究発表会を行い質問力を伸ばす
ねらい② ルーブリックによる評価の明確化・簡便化
ねらい③ 探求課題を設定させるアクティブラーニング
実際の授業(全15時間)*計画では13時間
【第一次】①~④ 個人探究活動
(生徒の探究課題を分類し、教師側で10班に組み分け)
【第二次】⑤ 研究発表会の意義、「よい質問」とはどのような質問かを話し合う。*資料⑥
★ルーブリックの提示
【第三次】⑥~⑧ グループで探究課題の設定
タブレットによる調べ学習
先行研究調べ(若狭図書学習センターから11冊)
グループでの協議
Key note作成
【第三次】⑨~⑬ 研究発表会(グループ発表と質疑応答) *期末考査
【第四次】⑭ レポート作成
【第五次】⑮ ふりかえり・★ルーブリックの見直し
ルーブリック作成上の苦労点
Q 「よい質問」とはどのような質問でしょ
うか?
質問のルーブリックを考えてみて下さい。
ルーブリック作成時の悩み
・シンプルに表現するのがよいのか、詳しくするのがよいのか。
・レベルはいくつ設定するのがよいのか。3~5?
・細かく項目ごとに分けるのがよいのか、ざっくりとまとめる
のがよいのか?
・レベルの順が習得順になっているのか? ・・・等々
・とにかく「手探り」だけどこれでよいのか?
「質問」のルーブリック作成時に心がけたこと
・とにかく「これができたら最高!」と思われることをレベル5に置く。最高目標が生徒に伝わるよう、レベル5をとにかく詳しく述べる。
・皆にクリアしてもらいたいな、という段階をレベル3に置く。
・レベル3とレベル5の間の段階をレベル4に置く。
・「質問する際のつまづき」に留意してレベル段階を設定する。
・まずかったら生徒が直してくれる(はず)ので、まずはとにかくやってみる。
できあがった「質問」のルーブリック 資料⑦ 【レベル5】発表者の意図と発表内容全体を正確に理解し、問題点を指摘するこ とで発表者に新たな視点を与え、発表者のより深い理解につながっていく質問をすることができる。発表者の未知の先行研究を引用したり新たな視点からの見解を述べたりすることで、停滞していた話し合いを活発化させることができる。時には発表全体を覆すような刺激的な質問をしてクラス全体に知的刺激を与え議論を盛り上げることができる。
【レベル4】発表者の意図する全体的な主張に矛盾する点について疑問を投げかけたり論の弱みである部分を指摘する質問を行い、発表者がその点について考え直すことでより考えを深めていける契機となる質問ができる。
【レベル3】発表者の論理展開で分かりにくかった点や、論理展開上重要な前提について不明確な点の説明を求めることができる。また分析上の不備について指摘することができる。
【レベル2】発表者の主張する論にあまり関係しない枝葉末節の点について読解の誤りや矛盾点を指摘することができる。
【レベル1】小さなことでもよい。まとはずれでもよい。とにかく手を挙げて質問することができる。
期末考査の扱いと成績への反映
【授業中に行なった評価】
・生徒の自己評価と相互評価(ルーブリック+コメント) *資料⑧
・教員の評価(ルーブリック)今回は全員に対して評価ができた。
【期末考査】
・「山月記」語彙問題15点、論述20点(普通科は山月記通常問題35点)
・初見問題(「文字禍」)35点
・漢字問題30点
【評定成績への反映】
期末考査5割・発表2割・質問2割・提出物1割 苦情はなし
*「山月記」レポートの評価は2学期に繰越
ルーブリックに対する生徒の声 *資料⑨
・発表、質問、質疑応答のルーブリックの種類があり、特に質問を細かく評価していたので質問について深く考えることができてよかった。発表のルーブリックをもう少し増やしたほうがより発表の評価ができると思いました。
・「よい質問」をするためにはどうしたらいいかについて詳しく書いてあるので、分かりやすく、質問しやすかったです。
・「よい質問」とは何かを授業の初めにみんなで考えた上、こういう質問をしたら評価が高いと質問のルーブリックに書いてあるので、どういう質問をしたらいいのか考えやすかった。
・ルーブリックを読んで、「なるほど」と思うことがたくさんありました。ルーブリックを読むことで、今から自分がする発表や質問は、聞いている人にもしっかりと理解してもらえるか、ということを確認することができました。もう少し発表の評価を重視するべきだと思うので、発表のルーブリックを増やした方がいいと思います。
生徒による質問ルーブリック改善策
・レベル5の「先行研究~」は時間もなくきつい。不要。(5人)
・ほとんどの人たちの質問がレベル4だったと思うので、もう少しレベルを上げてもいいかと思います。
・レベル4と5の間にもう一段階設定するとよい。(3人)
・レベル1の「まとはずれでもよい」はさすがになくした方がよい。
・みんな考えてから質問するからレベル1は不要。(5人)
・レベル1は手を挙げる勇気を出すためには必要だと思う。
・よいルーブリックだったと思います。レベル5はかなりハードルが高くて、こんな質問できるのか?とも思いましたが、それはそれで、まだまだ高みを目指せという意味ではよかったのかなと思います。
・項目ごとに分けるほうがよい。(2人)
・レベル分けをもっと細かくしたほうがよい。
・レベル5をもう少し短く表現できたらよいかな。
ルーブリックの有効性
・生徒につけたい力を明確にすることができた。
・ルーブリックを作成する過程そのものに意味があった。「よい質問」とは何かを改めて考えられた。
・生徒のランクづけをするために使用するのではなく、目標とする力が何か(どうなれればいいのか)ということが生徒の中に入ることに意味がある。できた、できないはあまり関係ないのかもしれない。
・集団としての力を育成するときに便利である。
単元設定時の不安
・「山月記」を生徒にまかせっぱなしで大丈夫なのか?
・「質問力」をつけて終わって、直後の7月県連模試は大丈夫なのか?
単元を終えた生徒のふりかえりの声①
・発表の時間がみんなのいろいろな探究課題や見解を知れてとてもおもしろかった。質問の制度があることでより深く読むことができたのでよかったと思う。
・質疑応答が活発だったので、自分の思っていなかったようなことまで明らかにしたり、内容の理解を深めていくことができたのでよりおもしろかった。
・質疑応答が一番楽しかった。
・質問したり、他の人の質問を聞いたりして考えがすごく深まりました。考え方には人それぞれあっておもしろいなと思いました。
・今まで質問をされることはあまり好きじゃありませんでした。(答えるのが難しいから)けど今回は質問されてもうまく対応でき、「あー」と思える意見は受け入れることもできました。発表前に自分の発表を細かく理解しておくことで、おちついて質問に受け答えできるんだなと感じました。
・質問をする上で発表の内容を充分に理解していないと何が分からないのか分からない様な状況になることを改めて強く感じました。いい質問をするにはいい発表であることも大事であると思いました。
・もっと時間がほしかった(多数)。時間があればもっと完璧な発表を作ることができた。
ふりかえりレポート *資料⑩
山月記は小説にしては短すぎ、探究課題がそもそも見つかるのかどうかが不安であったが、課題研究の時に様々な疑問・課題を持った班がたくさんあり、驚いた。山月記の何が探究課題を多様化させているのか。筆者・中島敦の重々しい文体か、その興味深いストーリー性か、はたまた小説というものは短くても探究課題が見つかるもので、私がふだん見落としすぎていただけなのか。その答えは定かではないが、研究発表では全ての班が本文から根拠を見つけ、各々の答えを探し、それを聴衆にぶつけていた。その時に多種多様な質問が挙がり、質問だけでこんなに多様になるなら探究課題の多様性は言うまでもないと合点がいった。さらに、山月記研究に限ったことではないが、自らが問題・課題を見つけ、自ら答えを見つけ、他人にその考えを伝えたうえでもっとよりよい答えにしていく、いわば意見の磨き上げをすることこそが、研究をすることなのだと分かった。私は研究という言葉に対して、白衣を着て実験をするようなイメージを持っていたがそれは検証というただの一プロセスに過ぎず、そのあと、他人との意見の交換があってこその研究である、ということにやっと気づかされたのだった。
反省と今後の展望
【単元での反省】
・「質問力」向上を目指したのに質問の機会を多くとることができなかった。34人の中で4人の生徒が発表できないままに終わってしまった。(全体発表で教師が評価することにこだわったため。タブレットも制限をかけることになってしまった。)
→小グループを作って質問の機会を増やし、質問しやすい空気を作る。
→評価は生徒にまかせてもよい。ふりかえりの中で「○○さんの質問がよかった」という言葉がでてくればすべてを教員が見なくても実態をつかむことができる。
【今後の展望】
・改正ルーブリックを用いて「こころ」の探究を行いたい。(夏休み中まるごと一冊読ませている)研究発表会を行い、それを踏み台にして「こころ」論文を作成できるとよい。