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人 材 教 育 May 2010

催しても人がなかなか集まらない”と言う。そこで、参加者側の“良いセミナーを見つけたい”というニーズと、主催者側の集客についての悩み──この 2つをうまく結び付けられないかと考え始めました」(清水氏、以下同) 実は清水氏は、会社を経営していた親戚の影響で、将来は自分の会社を持つことを学生時代から考えていた。そこで選んだのが、この構想を具体化して、セミナーの需要と供給のマッチン

 2003年の設立以来、増収を続けているラーニングエッジは、「セミナーズ」というポータルサイトを通し、社会人向けセミナー情報の提供と、セミナーの開催を中心とする事業を行っている。この事業展開には、創業者であり代表取締役社長CEOの清水康一朗氏の経験が大きくかかわっている。 清水氏は前職で顧客戦略や eビジネスのコンサルタントとして活躍していたが、顧客は主に企業のマネジメント層。社会人経験が浅かった当時、そうした人たちを相手にビジネスをするには人一倍勉強が必要だと感じていた。 「そこで、自己投資でいくつかのセミナーに参加したのですが、どこでどのようなセミナーが行われているのか、当時(2000年頃)はまだ整理された情報を得るのが大変でした。一方、主催者に話を聞くと、“良いセミナーを開

グをインターネットを使って行う、現在のラーニングエッジの事業だった。

“一緒に働きたい人”を分析し採用基準と行動指針に

 清水氏は同社創業時から、どういった人材と一緒に事業を行っていきたいかを明確に、8つの「マインドセット」として提示している(図表1)。 というのも清水氏は、主にコンサルタントとして多くの企業を訪問した経験から、組織の大小に関係なく、どんな会社でも優秀な人とそうでない人がいること、また、一緒に働きたい人とそうでない人がいることを感じていたからだ。そして、優秀でかつ、自分が一緒に働きたいと思う人とはいったいどんな人なのかを常に考えていた。マインドセットは起業にあたって、その特徴を書き出し、共通項をまとめたものだ。起業する際には、これに当てはまる人しか採用しないと決めていたという。また、採用された社員には、常にこの 8つの項目を意識して行動し、成長していくことが求められている。  次に、社員の長期的なキャリアパスとして、3つの階層、5つのポジションで構成される「人材ピラミッド」も

ラーニングエッジ清水康一朗 代表取締役社長 CEO

努力の方法と方向を明示して組織と人材の成長を速める

セミナー主催者と参加者双方の思いを実現

セミナー情報提供サイトを運営するラーニングエッジは、同社の人材の基本理念として8つの「マインドセット」を置くと同時に、長期的なキャリアパスとなる「人材ピラミッド」を構築。基盤となる価値観と、「こうすれば成長できる」という道筋を明示することで、個人のモチベーションを刺激し、成長を速めている。

取材 ・ 構成/福田敦之、 写真/本誌編集部

第 16 回

これら8つに対し、3つの質問が用意されている。たとえば、1の人間性にはそのヒトを「好き」か? そのヒトを「信用」するか? そのヒトを「尊敬」するか?といった質問が付随している。社員はこの「ヒト」に自分自身を当てはめ、質問すべてに「Yes」と答えられるように行動・成長していくことが求められる。

図表 1 マインドセット

1. 人間性 Personality2. プロフェッショナリズム Professionalism3. 素直さ Generous puremind4. 情熱 Passion5. リーダーシップ Leadership6. 主体性 Being proactive7. 感謝の心 Gratitude8. 誠実真摯 Integrity&Sincerity

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 清水氏は、こうした組織経営を志すようになったきっかけの 1つとして、ある携帯電話会社でのコンサルティング経験を挙げた。 「それは、コールセンターのオペレーションの効率を高めるため、全国の拠点を統合するというプロジェクトでした。2000人規模のコールセンターを 1カ所に開設することで、業務の平準化・標準化が行われ、通信費と人件費が飛躍的に下がる。うまく行けば財務的にも大きく寄与するプロジェクトでした」 問題は、このシステムをスタートするまでの間、システム開発者だけで最大時800人もの技術者がかかわること。

定めた(図表 2)。これは、同社に入社したらどういうステップで上をめざしていけるのか、各々の段階で期待する職能を明確に示したものだ。新入社員はまずアソシエートとして入社すると、「Staff」として、個人として有能で、さらに、組織に貢献できるチームメンバーとなるようキャリアを積んでいく。次には「Management」としてマネージャー(課長)、ジェネラルマネージャー(部長)など、有能なマネージャー、結果の出せるダイレクターとしてのポジションがある。そして、その上には、理念と人徳の「Executive」(経営陣)へとつながっていく。 「人材ピラミッドをつくるにあたっては、J・C・コリンズらが著した『ビジョナリーカンパニー』の考え方をベースに置きました。人と組織の関係にギャップがある企業が多い中、そのギャップなく成長していける企業にしたかったからです」 大企業では、先輩や部長や課長といった、モデルにできるケースやロールモデルが見えやすい。ところが、中堅・中小企業、ベンチャー企業ではそうしたモデルがどうしても少ない。組織もピラミッド構造ではないことが多いため、社員は誰をモデルや目標にすればいいのか、よくわからない。よってガイドラインを作っておかないと、社員はどう努力をしていけばいいかもわからない。また経営側にとっても、会社を成長させるうえでの方向性が見えなくなり、永続する企業にしていくこともできなくなる。これを防ぐために、長期的なキャリアパスを示し、どの段階にどのようなポジションがあるのか、それにはどのような職能が期待されているのかなど、具体的にとらえることのできる形としたのだ。

このような大所帯となると、皆が同じ方向を向いていないと、非常に大きなロスが発生する。たとえば、何かの原因で彼らが 1日、仕事をせずに待機しなくてはならなくなれば、何千万円という人件費の損失が生じる。こんなことが幾度となくあった。そのたびに費用はかさみ、現場のモチベーションが下がり、皆が疑心暗鬼になっていくという状況を目の当たりにした。 「大勢が集まってプロジェクトを進めていくためには、皆が同じ考え方や価値観を共有し、目的を実現するためのさまざまな事項をお互いに理解すること、そして、各自が責任を持って仕事を進めていくことが不可欠だと、ひしひしと感じました」 また、リーダーシップが大きくもの

ラーニングエッジ 代表取締役社長 CEO 清水康一朗(しみず・こういちろう)1974年静岡県生まれ。1998年慶應義塾大学理工学部卒業後、キャリアリンクへ入社、新規事業の責任者として業務立ち上げを任される。2000年デロイトトーマツコンサルティングへと転職、CRM(顧客関係管理)を担当する。大手外資系企業を中心に、顧客戦略、システム開発の企画から導入までを行う。2003年に独立し、スタッフオンラインを設立。翌年社名をラーニングエッジに変更、2005年にセミナーや研修業界で最大のウェブサイト「セミナーズ」をスタートさせた。著書には『世界一読みたかったお金の聖書』(PHP研究所)、『耳から学ぶ勉強法』(サンマーク出版)などがある。

組織の目標達成には思いの共有と信頼が不可欠

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テップアップのプロセスや、各ポジションで期待する職能を明確に定めたのも、どれだけいい仕事ができるか、成長できるかが、社員にとって新しい“報酬”になり得ると考えたからだ。ここに記される期待職能も、「個人の年間想定売上、営業利益」「それを実現するための仕事への取り組み内容・姿勢」など、各ポジションでその時々に記した事項を頑張れば、必ず優秀な人材となっていくことができる、ということを示したものである。これも、社員の仕事と成長に対する強いモチベーションとなることは想像に難くない。 「どうすれば自分はマネージャーになれるのか──こうした質問にシンプルに答えてくれる人は、私の経験ではいませんでした。これを明確にしてくれたら、人は速く成長できるはず。ですから自分で会社を起こす時には、“こうやれば必ず力がつく”という指針をわかりやすくつくっておこうと思ったわけです。何より、これを文書化するのは経営者としての責任だと考えています」

を言うことも経験した。ある窮地に追い込まれた時、プロジェクトリーダーがこう言ったのだ。 「やると決めたからには、絶対にやり遂げなければなりません。どういう形でもいいから、この状況を乗り越えるためにできることを皆さん考えてください。それをやれる人だけで、やっていきましょう」 この一言で、場の雰囲気が一瞬にして変わった。皆が“やるしかない”と腹をくくったのである。プロジェクトから外れていった人もいたが、一方で、残ったチームメンバーの一体感は圧倒的だった。改めて周りを見ると、残ったのは、非常に優秀な人材で、かつ清水氏が一緒に仕事をしたいと思うような人たちで構成されていた。 「何か目的を果たそうとする時、仕事のうえで思いを共有し、信頼できる仲間がいないとできないものだと、つくづく思い知らされました。マインドセットを作ろうと考えたのも、こうした経験からです」 人材ピラミッドの、ポジションのス

 個々人の努力が、会社のめざす方向性と合致した努力をしていることがわかれば、マネジメントする側も、その人自身も安心できるだろう。

やる気と成長実感を刺激する具体策とは

 価値観を共有し、一体感を抱いて目標に向かっていくためには、個々人のモチベーションや成長実感を刺激することが必要である。同社ではそのためにもさまざまに工夫を凝らしている。その一部は以下の通りである。●コミットメントシート

 たとえば目標管理の「コミットメントシート」。ポジションごとにガイドラインとして期待していることの他、担当しているプロジェクトなどで、目標を 3カ月ごとに設定している。 「この 3カ月間の目標を、メンバー間の話し合いの中でコミットしてもらうものです。販売管理や総務といったバックオフィス部門を含め、すべて数値化して目標を記します。自分が成長している、仕事を達成しているということを示すのに、数字は非常にわかりやすいし、説得力がありますから」 そして、このコミットメントシートは 3カ月の間で達成できたことを承認するツールでもある。その結果は賞与へと反映されるのだ。 目標をどう設定するかは、本人とその上司に任せているが、その結果に対するフィードバックは、現在は清水氏が担当している。3カ月に一度、1人に対し約 1時間かけて、本人の強みを伸ばすこと、可能性を引き出すことを意識して行っている。●フォーカスシート

 1週間単位で目標を設定する「フォ

図表 2 ラーニングエッジの人材ピラミッド

理念と人徳の経営者プロの経営者としての強靭な意志と、個人としての人徳や謙虚さという特質を矛盾なく統合し、情熱を持って、偉大さを持続する事業を育て上げる。

Position5エグゼクティブ(経営陣)

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結果の出せるダイレクター組織に対し、明確で説得力のあるビジョンを示し、目標へのコミットメントとビジョンの実現に向けた努力を生み出し、これまでより高い水準の業績を達成するよう組織に刺激を与える。

Position4G.ジェネラルダイレクター(事業本部長)F.ダイレクター(本部長)

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有能なマネージャー全社最適に向けて、人と資源を組織化し、決められた目標を効率的に効果的に追求する。危機管理能力を有し、厳しい環境下でも、財務や人事の問題を解決し、組織を強くすることができる。

Position3E.ジェネラルマネージャー(部長)D.マネージャー(課長)

組織に貢献するチームメンバー組織目標達成のために自分の能力を発揮し、組織の中で他の人たちとうまく協力する。自らの努力によって、チームのために、組織をより働きやすい環境にする能力がある。

Position2C.アシスタントマネージャー(係長)B.チームリーダー(主任)

Staf

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非常に有能な個人才能、知識、スキル、勤勉さによって生産的な仕事をする。上司やチームメンバーが働きやすいように働く能力がある。

Position1A.アソシエート

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やモチベーションが高まる。 あるいは、チームごとに今後の戦略をプレゼンするというセッションも。経営陣から「こうして欲しい」と伝えるのではなく、自分たちでどうしていくかを考える。すると、チームとして何をしていこうとしているのかが非常に明確になっていく。このようにオフサイトミーティングでは、多様なメニューを用意することで、組織としての一体感がより高まる効果が期待できるという。

能力を引き出せない=人材の損失

「こうしたことに取り組むのも、組織として社員に活躍する場をたくさん提供したいと思うからです。日本の組織を見ていると、優秀な人材がいても、その優秀さを発揮する場所が意外と少ない。また、優秀なのに仕事や会社がつまらないと思っている人がいる。その結果、パフォーマンスを発揮しないままでいるケースが非常に多い。 その原因には、その人が頑張っていても『ありがとう』の感謝の一言がない、自分のやろうとしていることを発言する場がないといった、大小含めたものがある。しかし、こうしたことで仕事の成果が出せていないとしたら、“人材の損失”です」 その中には、チーム同士、社員同士が心がければ防げるものもある。だからこそ「マインドセット」を共有して、常に努力できる人材かどうかが重要なのだ。そして、努力し続けるというマインドを持った人材に対し、長期的なキャリアパスで何をめざし、どう努力していけばいいのか、そのステップと期待職能を明確にする。こういった仕

ーカスシート」もある。コミットメントシートでの目標を達成するために細かく戦略や戦術の見直しが必要な、広告営業やマーケティングプログラム研修のチームなどに適用している。●補助金制度

 教育面では「補助金制度」がある。書籍代として毎月5000円まで支給。セミナーの参加に関しては、上限を 5万円として半額を負担するという太っ腹な制度だ。利用率は現在8割である。●誕生日休暇

 ユニークなのは「誕生日休暇」。誕生日には好きなことをしてリフレッシュしてもらいたいと、会社が認める休日とし、さらに“お小遣い”として2万円支給している。社員に長く勤めてもらうためには、生活や気持ちが豊かにならなければならない。そういう思いから導入した制度である。●オフサイトミーティング

 この他に「オフサイトミーティング」も半年から四半期に一度開催。社員旅行を兼ねた場合もあるが、日常から離れた場所で終日、皆で過ごし、ゆったりとした環境で関係を深めることを主な目的としている。しかし、まったくの観光旅行というわけではなく、さまざまなセッションを実施している。たとえば映画などを題材に、リーダーシップやチームのあり方など、仕事に活かせるポイントについて議論をしたり、仕事の中で助けてもらったことや、いつも感謝したいと思っていることを述べ合う「Gratitude Session」などを行う。「こんな風に○○さんに助けてもらった」というエピソードや、「普段いつもこう助けてもらっていて感謝している」とチームで発言し合うというもの。承認された安心感や、お互いに対する新たな発見が生まれ、信頼感

組みを構築することが、組織の大小にかかわらず、人を成長させ、ひいては組織を成長させていく。 ではこの先、組織として大きく成長していった際には、どういった人材戦略を考えているのだろうか。 「事業の将来像として、世界最大の『教育の流通ポータル』をつくりたいと思っています。教育に関する小規模ビジネスの連合体としての成長モデルを想定していますが、それには、各事業のグループの責任者、経営者となる人が、同じような価値観とステップアップの方向性を持ちつつも、各々の現場や商品・サービス特性でより相応しいその人なりのマネジメントができればいいわけです」 今後は、国内外でのセミナー主催や通信教育を積極的にマーケティングしていく戦略を描いているという。そこで求められる職能はかなり幅の広いものとなり、それらに対応した期待職能の再構築が、これからの重要な課題である。 次の成長ステージに向けて、どのような人材マネジメントのシナリオを描いていくのか。同社のマインドセットを持った人材が、どれだけ社会に影響を及ぼし、日本のビジネスパーソンの成長に寄与していくのか──今後も注目すべき企業である。

設立は2003年4月。セミナー主催者とセミナー参加者をつなぐ役割を担うポータルサイト「セミナーズ」の運営を通じて、良質な学びのコンテンツ(セミナーや CD、DVD などの商品)を提供。創業以来、増収を続けている。アンソニー・ロビンス、ジェイ・エイブラハムといった、世界的に著名な講師陣の教育コンテンツを揃えていることで知られる。資本金:3420万円、売上高:3億3500万円、従業員数:16名(2009年3月現在)

会社プロフィールラーニングエッジ


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