Transcript
Page 1: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -17-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        意見の対立を解決する「さばき」③判断基準の相違を乗り越える5-795-79

一部のマンション関連内容に書き換えた部分等を除き、グロービス 著吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.180 ~ 181 の要約。

*1 ここでは、企業の営業部門の立場と生産部門の立場の違いから意見の対立が生まれる例が示されている。これをあなたのマンションの理事会において、例えば財務上の安定に価値を置く立場の(経理担当)理事と建物の改良に積極的な立場の(建物保全担当)理事が長期修繕計画の修繕項目内容の取捨選択で意見が対立している場合などを想定してみよう。そのうえで、あなたのマンションにおける「より上位の目的」がどのようなものかを想定してみよう。さらに、これを進めて、あなたのマンションの「基本理念」に想いを馳せてみよう。

*2 「上位の目的」にさかのぼって正しい目的と手段の関係をつくるための方法として、PMD(Purpose Measure Diagram)が提案されている。➡江崎 道彦 著「知識から知恵を創り出す方法」(p.48 ~ p.64)。5.30「情報の共有ー7。知識から知恵を創り出すDTCN方-5-」

79

みんなのコミュニティ

A 次に「判断基準の違いによる意⾒の対⽴」のさばきの技にゆこうB これは、3つの対⽴の原因の中では、奥が深いものだが、解決の可能性は⾼いといえる。先ず、判断基準として考慮すべき点は何かを洗い出し共有する。複数ある判断基準の中で、どの判断基準を重視して意思決定するかによって結論が変わる。この「優先順位の違い」が意⾒の対⽴の原因になっていることが多い。⼈は、それぞれの⽴場や置かれた状況によって重視するポイントが違う。製造業の企業の場合では、営業の⽴場であれば、顧客の要望にすぐに対応できるように、フレキシブルに⽣産対応できることを重視するだろう。いっぽう、⽣産の⽴場では、⽣産効率や⽣産計画、コストなどを重視する。*1そこで、判断の基準を揃えることが最初の合意の⼿段となる(左欄ⅰ)A このままの状態で議論しても、それぞれの立場ではもっともな理由だから自説を展開し譲らない状態が続くことになるB この状態を乗り越えるためには、「⽬の前の判断基準」そのものではなく、「判断基準に影響を与えるもの」に視点を向けることが必要となる。具体的には、営業、⽣産はそもそも何のためにやっているのか、より上位の経営戦略上、今は何が重要なのかを問いかけながら、より上位の⽬的にさかのぼっていく。(左欄ⅱ)*2A 合意ができそうなレベルまで、その業務の目的やあるべき姿をさかのぼり、合意を引き出そうするわけだねB この「上位の⽬的」を⽬ざして、お互いの「共通点を確認」し、「最初の合意」を引き出した上で、そこから段階的により実際的な合意をめざしてゆく。具体的には、「営業と⽣産はそもそも何のためにやっているのか」、「より上位の経営戦略上今は何が重要なのか」を問いかける。上位の⽬的にさかのぼってゆけば、どこかで共通点や合意点が⾒つけられる。(左欄ⅲ)A そこから今度はその共通点から見て、それぞれの立場で今、改めて何を重視すべきかと下がってゆくB 論点を下⽅に落としてゆくことで「具体的、かつ、実際的な合意」に向けて、討議をやり直す。この場合、当初の状態よりは判断基準上の共通点を⾒つけやすくなっているはずだ。(左欄ⅳ)

意見の対立を解決する「さばき」③ー判断基準の相違を乗り越えるー  

1情報に接する

2状況を解釈する

3判断基準を当てはめて、問題・課題を認識する

5判断基準を当てはめて、解決策を選ぶ

4 解決策を思いつく

同じ状況理解でも、問題か?どこがどのように問題か?等の問題の認識が異なる

同じ解決策を思いついても、どれを選ぶか?は異なる

判断の基準を揃える・判断基準となりうるもの・判断基準間の重みづけ

判断の背後にある、より上位の目的を考える

合意が可能なレベルまで目的をさかのぼり、共通点を確認する

共有された目的を踏まえ、再度検討する

Page 2: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -18-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        意見の対立を解決する「さばき」④解決策の相違を乗り越える5-805-80

一部のマンション関連内容に書き換えた部分等(†)を除き、グロービス 著吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版2014年)p.179 ~ 180 の要約。

80

みんなのコミュニティ

A 最後に「考えつく解決策の内容・幅の違いによる意⾒の対⽴」のさばきの技を聴こうB 同じ認識を持っていても、⼈によって考え付く解決策の内容・幅に違いがある。例えば、新耐震設計法ではない我がマンション建物に安全性を付与することについては、すでに必要性の認識を共有している場合において、「耐震補強⼯事を⾏うべき」という意⾒のほかに「耐震補強⼯事ではなく、いっそのこと地震動をいなす免震⼯法⼯事を⾏うべき」という意⾒もあるかも知れない。†A うーむ。免震⼯法か。名前はきいたことがあるが…†B ごめん。少し例がよくなかったかも知れない。ともかく、ここでは、基本⽅針については合意に⾄ったが、具体的な解決策で案が分かれて折り合いが付かない場合と考えてほしい。†複数のオプションが出てきたときに、「⾃分の考える案のメリット」を⼤きく評価し、同時に「他の案のデメリット」を重⼤に捉える傾向がある。逆に「⾃分の案のデメリット」を軽く評価し、「他の案のメリット」を⾒過ごしてしまうことも多い。このままでは、まさに双⽅がそれぞれ「⼿前勝⼿な評価」のままで議論してしまうことになる。ここは、まづは「同じ課題の解決のために取り得るオプションが複数ありうること」をしっかり共有・認識させることが第⼀である。これが認識できたら、ファシリテーターは、双⽅の案のメリット・デメリットを冷静に洗い出し、バランスよく考えるように促すことが必要となる。A メリット・デメリットによる評価をするにあたっては、数値で採点するなど客観的な評価⽅法が取れるよいね†B 例えば、実現の可能性、費⽤対効果など数値評価が可能な場合もあるだろう。⼆案が拮抗しているような場合は、地域のまちづくりなどの観点すなわち⼤所⾼所から⾒る、少し遠い将来の推移を考慮するなども考慮するなどの選択⽅法もあろう。もし、我がマンションの理念が確⽴されているならば、それに照らしてみることによって、当事者以外にも「みんなの納得」につながる解決になるかも知れない。†

意見の対立を解決する「さばき」④ー解決策の相違を乗り越えるー  

1情報に接する

2状況を解釈する

3判断基準を当てはめて、問題・課題を認識する

5判断基準を当てはめて、解決策を選ぶ

4 解決策を思いつく

・可能なオプションの存在 を検討の遡上に載せる

・各オプションの「良い点」 「良くない点」を偏りな く共有する

同じ問題認識をしていても、考え付く解決策(内容・幅)と評価のポイントが異なる

オプション Aの意見を持つ人はここだけに注目しがち

他の部分に意識を向けさせる

オプション

良い点 良くない点

オプション

A

B

Page 3: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -19-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        意見の対立を解決する「さばき」⑤対立の背後のあるものを乗り越える5-815-81

グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.182 ~ 183 の要約。

81

みんなのコミュニティ

A 参加者同⼠の意⾒の対⽴の根が深く、これまで述べたような合理的な解決が通⽤しない…B それがあるんだよね。対⽴の原因は合理的な場合もあるが、感情的な対⽴もある。それぞれの⼈が持っている「議論というものに対する基本的認識」や「感情的な要素」が強く影響した結果、対⽴が⽣じている場合は、「根の深い対⽴」であり、やっかいだ。例えば、「議論の⽬的は⾃分の意⾒を通すこと、相⼿を⾔い負かすこと」という認識が強い⼈は、たとえ相⼿の意⾒が合理的には正しいと理解していても、「それが⾃分の意⾒ではない」というだけで受け⼊れないことがある。A 議論は「勝ち負け」と思っている⼈だねB このタイプの⼈にとって、会議の場で⾃分の意⾒が否定されることは、「⾯⽬がつぶれた」、「恥をかかされた」などと感じ、そのことだけで受け⼊れがたいものになりがちです。⼈間が感情の⽣き物なので、そうした感情に対する配慮を⽋くと、まとまるはずの議論もまとまらない。A こうなるとファシリテーターは、能⼒の限界を感じさせられる。さて、この「感情」が⼊り組んだ問題を解決する⽅法はあるのか?B これには、⼆つの⽅法を試みよう。 1.●議論の場に対する認識を変化させる 2.●マイナスの感情を⽣じさせないように配慮する先ず、1の⽅法は、会議の最初に、       「今⽇の会議はどちらかの意⾒に決めるのではなくて、より良い案は何か       を共に考える場としたい」、       「それぞれのお⽴場上のご意⾒があるでしょうが、ここでは個別部⾨の⽴       場を離れて会社全体として何がよいのかという視点で発⾔して欲しい」などと、議論の場の⽬的やめざすべき状態、参加者に意識してほしい姿勢・態度などをはっきりと公⾔し、そうした議論の作法のグランドルールについて最初に合意をとっておくとよい。次に、2の⽅法では、議論の中で不利になってきた側に対して、       「〇〇さんのお⽴場からは受け⼊れがたい⾯があるかと思いますが、…」な       どと、あえて⼀⽅の⽴場への理解を⽰すことで「完敗ではない」との印象       付けをする。もしくは、本⼈の⽴場からは受け⼊れがたいような内容につ       いては、衆⼈環視の状況で話をしない、部下などがいない場で話をして⾯⽬を潰したりしないように配慮することも考えたい。

意見の対立を解決する「さばき」⑤ー対立の背後にあるものを乗り越えるー

議論の目的は自分の意見を通し、相手を言い負かすこと

この人とは所詮意見が合わないから、私も聞く耳を持たない…

このまま放っておくか?それとも鎮めるべきか?

二つの方法でのりきれ!

Page 4: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -20-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        意見の対立を解決する「さばき」⑥対立をあえて放置し、そして制御する5-825-82

グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.183 ~ 184 の要約。

82

みんなのコミュニティ

A ⾔いたいだけ⾔わせるという場合もあるだろうB ここまでもめたら「とことん⾔いたいだけ⾔ってもらう」というのもありだ。感情というものは、抑えようとしても難しく、逆にある程度発散させると収まることも多い。対⽴が⽣じた際、それをいきなり解決しよう、鎮めようとするのではなく、ある程度はあえて対⽴を放置し、「論理をしっかり戦わせる時間を取る」ことも効果的な場合がある。もともと、対⽴が⽣じるような議題は、やはり双⽅がいろいろ⾔いたいことがあるはずだ。それを⼗分表現する機会を与えずに、あえてまとめようとしても逆効果になる。結論は⾃分の意⾒とは異なっても、⾃分の意⾒を⼗分に周囲に理解してもらうための機会が与えられた後には、他⼈の意⾒を聴き、受け⼊れやすくなることも多いものだ。A 泣き⽌むまでまってからという作戦だB ⼦どもの場合は、「時間がたてば…」という解決が通⽤するが、実は⼤⼈の激論の場合も時間が有効に作⽤することは少なくない。ある程度議論が対⽴した状態が続くと、対⽴している当事者が、「このままではいけない」、「⾃分の主張ばかり頑なに主張する⼈間と⾒られたくはない」などの⾃⼰規制が働き、⾃ら⽭先を収めることもある。⼗分に意⾒を述べ、しっかりと論戦という戦いをした後に、       「双⽅のご意⾒はよくわかりました。で、どうしましょう?なんらかの結       論を出す必要はあると思うのですが…」       と⾔った形で、対⽴している当事者双⽅に「この対⽴した状態をどう打       開するかについての意⾒を求めるのも効果的な⽅法だ。A ⾬降って地が固まるということわざがある…B ひょっとすると、論戦の相⼿⽅と連帯感が⽣まれる場合も考えられる。このように考えてくると、実は議論の場において、「意⾒の対⽴」は必ずしも悪いことばかりではないことがわかる。むしろ、過度の対⽴を避けるばかりに、議論が深まらない、それぞれが⾔いたいことがあるのに⾔えず、後に禍根を残すということこそ避けるべきだろう。⼀⽅、「対⽴」は、⼀歩間違うと⼈同⼠の感情的な対⽴を深めてしまう危険性がある。重要な論点については、しっかり対⽴を起こさせながらも、関係が破壊的なものにならないように細⼼の注意を払いつつコントロールする。そしてできる限り、対⽴している当事者⾃⾝がその対⽴を解決または解消すべきだと感じ、そこに向けて動き出すようなきっかけを与えることをめざしたい。⼤変な難しさを伴うこうしたファシリテーションが出来るようになるためにも、「仕込み」をしっかり⾏い、「さばき」の技を訓練する必要がある。

意見の対立を解決する「さばき」⑥ー対立を敢えて放置し、そして制御するー

えA

合対間⼗

Let it be

超高等戦術!

Page 5: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -21-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける①5-835-83

グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.183 ~ 184 の要約。

83

みんなのコミュニティ

A ファシリテーターを介しての議論の進め⽅を⾒てきたが、⼈は論理では動かないB ファシリテーションの対象は⼈であり、その⼈は、論理だけでは動かない存在。むろん議論を適切に進めるためには、論理的に議題を分析し、適切な論点を設計することが不可⽋だが、それだけで議論の場をうまく仕切れるわけではない。⼈は論理で思考すると同時に、さまざまな感情を持ち、判断、⾏動は感情に強く影響を受ける。また、⼈が集団をつくり、その中で互いに関係を持つとき、そこには他⼈や集団に対するさまざまな感情が⽣まれる。こうした側⾯を無視して物事を進めようとしてもほとんどうまくいかないだろう。そこで、議論の場に参加する⼈の感情に気を配り、また適切な感情の状態になるように導くことが必要となる。A これまで論理の展開など議論の進め⽅を⾒てきたが、最後になって「議論は⽌めて、⼈の感情に働きかけよ」というのか?B 「論理を武器とした議論の仕込み、さばき」がファシリテーションという⾞の⽚⽅の⾞輪だとすると、「⼈の感情に働きかける」という、もう⼀つの⾞輪があると思ってみよう。この⼆つを合せて理解し、実践することにより、集団の知恵と意欲を引き出す真のファシリテーションが完成するようになる。A 議論の場における感情とは、具体的にはどのようなものだろうか?B その⼀つは、「なんとなく気分が乗らない」という類の、参加者本⼈も明確に意識していない「気分、空気」のようなものだ。⼀⽅、「不満」、「怒り」、「興味」および「喜び」といったより「強い感情」もある。また、これらの感情は、⼤きく次の⼆つを対象として起こる。 a.●「議論されるテーマや内容に対する」感情➡対内容の感情 b.●「議論の場⾃体や、そこに参加する⼈に対する」感情➡対集団・対メンバーの感情こうした感情を理解し、しっかりと対応することで、適切に議論を進められるばかりでなく、感情を活⽤して議論をさらに活性化することも狙うことができる。感情に働きかける技として次の4つが挙げられる。*1 1.●議論の場の空気を適切に設定・維持する 2.●「内容」に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関⼼)に対処する 3.●「集団・メンバー」に対する感情に配慮する 4.●「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを⾏う次のページから、これらの技を順に⾒てゆくことにしよう。

感情に働きかける①

*1 「こと感情的な反応に関して論理は無⼒である。感情を払拭できるどころか、逆効果になるだろう。」(ジェシー・S・ニーレンバーグ著・⼩川敏⼦訳「話し⽅の⼼理学」(⽇本経済新聞出版社)第4章「⼈の感情にどう向き合うか」(p.76)。さらに「⼈の感情にどう対処するか」について、同著者は、次の3つの対処法を提案している(p.76 〜 90)。1)感情を表現させる2)相⼿に⾃分⾃⾝の感情を⾃覚させる3)批判せず、相⼿の感情を受容する

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

感情に働きかける4つの技

Page 6: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -22-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②5-845-84

マンション事例に触れた一部を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.190 ~ 191 の要約。

84

みんなのコミュニティ

A 会議の場の空気というものがあるB 議論の場を活性化する上で、その場の空気には細⼼の注意を払う必要がある。⼈はある議論の場に⼊った瞬間、そこの空気を素早く察知し、無意識にそれに合わせた⾏動をとる。こうした適応は、本⼈は明確に意識していないことが多いため、かえってその⼈の判断や⾔動に強い影響を及ぼす。A では、どのような「空気」が議論の場に相応しいのか?B 全員がピリピリして発⾔を躊躇するような空気やなんとなく停滞した空気の下では、⼈々の思考は活性化されず、議論の盛り上がりは期待できない。この場は、⾃分の考えを⾃由に発⾔できる、発⾔したいと感じさせる⾃由かつ創造的な雰囲気、多くの意⾒が多数の参加者から出て、スピーディに議論が進む活発な空気、そして⾃分が場の⼀員として他のメンバーから受け⼊れられ、⾃分の発⾔が価値あるものとして受け⼊れられるといった安⼼感を持たせることが⼤切だ。A そのような好ましい場の空気は、いつ、どのようにつくるのか?B 場の空気をつくるうえでいちばん重要なのは、会議が始まる前*1、もしくは会議の冒頭の雰囲気だ。*2 ⼈は無意識に、最初に「この場がどういう場か」を察知、適応してしまい、その感覚はしばらく続く。なので、初期設定を失敗するとなかなか挽回できない。さらに、参加者⼀⼈ひとりが⼼地よさを感じる物理的環境を整えることも重要といえる。*3 A 会議中のファシリテーターの⾔動も場の空気に多⼤な影響を及ぼす…B 例えば、意⾒を求める際、席順に意⾒を述べてもらうのと、各⾃が⾃由に発⾔するのでは、場の「⾃由度」に対する認識が変わる。⾃発的な発⾔を活性化したいのであれば、あえて発⾔の順番は決めず、できるだけ⾃由に、多くの⼈が発⾔できるようにすべきだ。*4ファシリテーターは、座ったままの話をするのではなく、⽴ってダイナミックに動きながら、参加者から出てくる意⾒をどんどんホワイトボードに書いていくといった⾏動によって「場の空気を撹拌する」のも、停滞ではなく活発な場の空気をつくるうえで効果的だ。A 安⼼感を感じてもらうためにファシリテーターは何をする?B 参加者が⾃分の存在が認められている、場のメンバーに受け⼊れられているという感覚をいかに持ってもらうかに⼼を砕くこと。しっかり相⼿の⽬を⾒て話しを聴く、名前を呼ぶ、考え発⾔する時間的な余裕を与える、出た発⾔はまずしっかり受け⽌め、発⾔内容の是⾮にかかわらず、とりあえず、発⾔してくれたことへの感謝を⽰すといった振る舞いを⼼がけることだ。*5

感情に働きかける②*1 会議の始まる前、皆が黙って各⾃のパソコンやスマホに向かって⾃分の事に集中している状態と、参加者が互いに三々五々雑談や⾔葉を交わしている状態のどちらが⾃由、活発、安⼼を感じる場だろうか?*2 ファシリテーターが早めに会場に⼊り、笑顔で参加者に超えをかけて迎える。会議冒頭に元気よく、明るい声と表情で第⼀声を発し、テンポよく議題や議論の⽬的を伝える、議論の始めは、できるだけ多くの⼈が発⾔できる話題を選び、発⾔する時間を確保するなどして、場の初期状態を適切な⽅向にセットすることを意識する。*3 狭すぎる部屋や広すぎる部屋、照明が暗かったり、雑然とした部屋などはそれだけで場の空気を冷やす。逆に、明るい⾊彩の絵画を置いたり、リラックスできる⾳楽を流すなどは、その場の空気をポジティブに保つうえで有効。

「会議を変えれば、社会が変わる」をモットーにするファシリテーターの⻘⽊ 将幸 ⽒は「会議室にぞうきんを」と会議の前に部屋の掃除をすることを励⾏しているという(⻘⽊将幸

「市⺠の会議 ミーティング・ファシリテーション⼊⾨」(ハンズオン埼⽟出版部))*4 マンション管理組合における理事の就任に関する、「輪番制」と「⽴候補制」が思い出される。*5 会議における⾃分の態度や表情、振る舞いが無意識に場の空気を沈滞させていないか、⼀度チェックしてみることをお勧めしたい。例えば、⾃分の思っている意⾒と違う意⾒が出ると、眉をしかめたり、下や横を向く⼈もいます。そうした態度は、発⾔者や他の参加者に多⼤にネガティブな影響を与えていることを認識しなければならない。

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

自由

活発安心

まず「場の空気」を整える

Page 7: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -23-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②5-855-85

マンション事例に触れた一部を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.191 ~ 193 の要約。

85

みんなのコミュニティ

A 「内容に対する感情」とはどんな感情なのか?B テーマや内容に対する感情にはさまざまなものがあるが、「ポジティブ」、「ネガティブ」、「無関⼼」の3つで捉えてみたい。まず、「ポジティブ」とは、そのテーマや内容に対して、「その件について積極的に話しをしたいと感じている」、「その件について、⾃分として思い⼊れがあり、⾃分の考えを⼈に積極的に伝えたり、説得したいと感じている」ような状態。「ポジティブな参加者」は、議論の場において、⾃分の意⾒を表明する機会を求めている。できるだけ早い段階で思いを吐露する機会を提供するのがよい。次に、「ネガティブ」な場合だ。これは扱いが難しい。恐れを感じている⼈は、ときに沈黙を選択し、話をすること⾃体を避けようとする。また、反発を感じている⼈は、しばらくは沈黙して⼈の話を聞いているようでも、⼼の中では反対の感情が渦巻いており、冷静に話しを聴いて理解することができない。中には最初から激しい調⼦で反対意⾒を述べ、⼈の意⾒に⽿を傾けようとしない、といったこともあるが、多くの場合ネガティブな感情を持っていることを無意識に隠そうとするので、なかなか表に出ず、周囲から理解しずらいので扱いが難しくなる。A あらかじめ参加者がどういう感情を持っているかを予想して対処するのはどうか?B ファシリテーターが、事前に参加者の感情を予測し、特にネガティブな感情を持っている場合は、その扱いをどうするか作戦を⽴てておくとよい。その作戦としては、例えば次の2つが考えられる。 1.●感情を適切な形で表出させる機会をつくる*1 2.●その感情を持つことを認める*21.は、強い感情を抱えたまま沈黙していると、⼼の中で悪感情が増殖していくので、なにはともあれ、早めに想いを吐き出すように仕向けることが重要だといえよう。2.については、静かに、寛容に、受容してあげることだ。*3       「この件は、〇〇さんにとってはあまり気持ちの良い話ではないと思いますが…」        「この案は〇〇さんの⽴場では理解しがたいと思いますが…」など、結論の是⾮       ではなく、相⼿がそのように感じること⾃体、またそのように感じる状況に理       解を⽰す。そうすることで、「この議論の場には⾃分の気持ちをわかってくれる⼈がいるのだ」という安⼼感を持ってもらうことができ、感情が爆発したり、ネガティブな⽅向に増殖することを防ぐことができる可能性がある。

感情に働きかける②

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

話し⼿の感情を把握する

*1 話し⼿が論理的でないとしても、ぐっと⾔葉を飲み込んで、相⼿に話しをさせることに集中する。話し⼿が、感情をぶちまけた場合であっても、とりあえず理屈はひっこめて、相⼿の感情に集中し、聞き役に徹する。下⼿に理詰めで説得しようとして相⼿を聞き役の⽴場に追い込むのはまずい。聞き役に徹するのは楽ではないが、じゅうぶん時間をかけて相⼿の思いを受け⽌めるように努めれば、互いの理解が深まり、充実した⼈間関係へとつながるかも知れない。(ジェシー・S・ニーレンバーグ著・⼩川敏⼦訳「『話し⽅』の⼼理学」(⽇本経済新聞出版社。2005.10.20 版)。p.76 〜 81 参照。*2 ここで注意が必要なのは、「感情」の存在を認識し、それを認めるからといって、それに対してこちらも「感情的」に対応しないこと。また、「感情」⾃体をネガティブに指摘することは避けることだ。例えば、感情が乗って興奮気味で話をしている⼈に、「怒らないでください」、「興奮しないでください」などと⾔っても逆効果だ。

「わかります」、「そうですね」、「それはつらいでしょう」、「〇〇と感じているのですね」 といった形で静かに、共感を持って対処することが重要だ。*3 この受容は批判せず、その感情を受容すること。強い感情の背後に⾃分の要求を貫きたいという無意識のうちの衝動は決して珍しくない。そして、むき出しの衝動を完全に抑え込むことは難しい⼀⽅で、⾃分が衝動のままにうごいてとんでもないことをしてしまうのではないか、という恐れをたいていの⼈は多かれ少なかれ抱いている。しかし怒りは決して危険なものではない。⼈の感情が⾼ぶっているときには、とりあえずそれを受容して楽にしてあげることだ。胃液の分泌や⾎液の循環を制御できる⼈はいない。感情も同様だ。私たちにできることは、感情とうまく付き合うことだ。⾃分の感情に⽬を向ける習慣を⾝に付けておこう。ありのままの感情を認め、受容するように努めよう。感情は素直に出すほうがよい。⾃分⾃⾝はもちろん、他⼈の感情もうまく引き出すようにしよう。感情を⾔葉で語れば緊張がやわらぐ。そしておおもとの原因に冷静に対処できる。(ジェシー・S・ニーレンバーグ前掲書。p.84 〜 90 参照。

Page 8: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -24-2-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        ジョハリの窓ー解放の窓が広がり、盲点と秘密が減じるに従って「気付き」が生じる5-86-25-86-2

マンションの事例に変えた部分を除き、プレジデント社「プレジデント」(2012.10.1)p.96 茂木健一郎 世界一の発想法 30「人間関係の達人が利用する『ジョハリの窓』」の要約。

86-2

A ⼈間が適応しなければならない最⼤の相⼿は周囲の⼈間だB 「最近、⽣きていくのが難しく感じる」と誰かが⾔ったとき、多くの場合、⼈間関係のことである。⼈間関係が難しいのは、そこに複数の「視点」が⼊るからだ。同じテーブルに座っていても、それぞれの⼈が⾒ている光景は全く異なる。動機付けも利害関係も異なることが多い。⼼理学に「ジョハリの窓」というのがある。左欄に⽰すように、⾃⼰のことを「⾃分が知っている」か否か、「他⼈が知っている」か否か、という観点から2×2の4つのセクションに分類したもの。 1●セクションⅠ:⾃分も知っているし、他⼈もしっている➡コミュニ    ケーションにおける共通認識 2●セクションⅡ:⾃分は知らないが、他⼈が知っている➡⾃分の盲点 3●セクションⅢ:⾃分は知っているが他⼈は知らない➡⾃分のキャリア   の中に以外な⼀時期があり、それを周囲に伝えていないなど 4●セクションⅣ:自分も知らないし、他人も知らない➡すべての当事者   にとって未知の部分A それで、このジョハリの窓をどのように活⽤しようというのか?B ジョハリの窓は、他⼈とのコミュニケーションを円滑に進め、社会の中での⾃分の位置付けをより深く理解することを助けるために開発された。ジョハリの窓が特に意味を持つのは、ⅡとⅢのセクションだ。Ⅱの「⾃分は知らないが、他⼈が知っている」場合、周囲がいつ、どんなふうに本⼈に伝えるのかが課題になる。Ⅲの「⾃分は知っているが他⼈は知らない」場合、本⼈が周囲にそれを告⽩するか否かが問題になる。A ジョハリの窓はマンション管理組合の場でどのように利⽤できるか?B ある事情を良く知っている⼈は誰か?⼈間関係の機密を知っている⼈は誰か?などの、我がマンションの運営に関するアーカイブの所在先を尋ねる場合などに役⽴つのではないか。さらに、情報が⾮対称または偏在している場合に、それぞれの視点で⾒解が異なって⾒えるときに、左図の横枠を下げる(①)または縦枠を右にずらす(②)などを意識することによって、コミュニケーションを円滑に進める助けになるだろう。*1*1 ⼈間関係の達⼈は、常にそこにいる⼈間の「ジョハリの窓」をある程度把握して⾔葉を吐く。視点によって物事の⾒え⽅が違うということを知ることが、コミュニケーションの基本であることをわきまえているからである。⼼理カウンセリングの分野でも「ジョハリの窓」が活⽤されている。相談者の⾃⼰開⽰(①)とカウンセラーによるフィードバック(相談者の語りや表情、しぐさなどから、感じたことを相談者に伝える(②)によって「解放の窓」を広げて、⾃⾝の気付きを重ねるサポートをする。

解放の窓 盲点の窓

秘密の窓 未知の窓

自分が知っている 自分が知っていない 

他人が知っている

他人が知っていない

公開された自己 自分は気付いていないが他人が知っている自己

隠された自己 自分も他人も知らない自己 ①

人間関係の達人が利用する「ジョハリの窓」

Ⅰ Ⅱ

Ⅲ Ⅳ

Page 9: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

与える側と受け⼊れる側の ⽤意が出来ているとき 効果的な⽀援ができる

聞いてはいるが聴いていないので 話しが⽿を素通りしている例

エドガー・H・シャイン「⼈を助けるとはどういうことかー本当の協⼒関係をつくる7つの原則則ー」

ジェシー・H・ニーレンバーグ「『話し⽅』の⼼理学ー必ず相⼿を聞く気にさせるテクニックー」表紙帯の挿絵

Page 10: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -24-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②-25-865-86

一部(†)を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.191 ~ 193 の要約。

86

みんなのコミュニティ

A ⾺の⽿に念仏という譬えがあるが、そもそも「無関⼼」に対処できるのか?B 実は最も扱いづらいのは「無関⼼」、つまり、そもそも興味や関⼼が薄く、議論すること⾃体に積極的でない場合だ。「⾃分に関係ない」と議論に加わらなかったり、「わざわざ議論する必要性を感じない。そこに時間を使うのは無駄だ」との消極的な反発を感じている場合など。はっきり「反発」が⾒える場合はまだ対応しやすいのだが、そうでない場合は意⾒を求めても、「別に…」という答えが返ってくるばかりで、議論の場を冷やし、周囲にも悪影響を与える。かといって放置しておくと、結果として発⾔がなく、決まった内容に対して当⼈は「当事者意識が持てないまま」といった状態に陥る。*1「無関⼼」は、「関⼼を持っている⼈」の感情に悪影響を及ぼす。これを避け、「無関⼼」の⼈にも興味関⼼を持ってもらい、議論に積極的に参加してもらうためには、まず、関⼼が持てない源泉に⼿を打つ必要がある。A その「関⼼が持てない」というのは、⼀般にどんな⼼理状況なのか?B 「関⼼がないこと」の背景には、多くの場合「認識の薄さ」があるので「認識を深めるための段階(ステップ)を踏む」ことが必要になってくる。認識が持てないのは、「状況が理解できていない」、「状況の持つ意味が理解できない」(例えば、起こっていることが問題として⾒えていない、その重⼤性を感じていない)、「その状況と⾃分とのつながりが⾒えない」(ある問題の発⽣が本当はその⼈にも関係があるのだが、そのことを理解していない、など)ために「関⼼が持てていない」と捉え、それらに対して「⼿を打つ」ことを考える。A 関⼼を持たせるために具体的にどこから⼿を打つのか?B 「興味がある。もっと詳しく知りたい」といった「ポジティブ」ではなく、「疑問がある」、「⾔いたいことがある」というような「ネガティブ」な反応であっても、「全く関⼼がない」に⽐べれば、その件について⾃分のこととして感じ始めているのだから、⼤きな⼀歩だ。*2まず、そこに向かって相⼿の感情を刺激する事が最初のステップだ。A 激しい反論の場合はどうする?B †話し⼿からの激しい反論は、話し⼿の内⾯に「葛藤がある」というサインである。むきになって説得しても、相⼿の葛藤は解消されない。かえってかたくなにさせてしまう。話し⼿が激しい反発をするときは、提案を受け⼊れたいという思いの裏返しである可能性が⾼い。こういう状況ではいったん引き下がるのが賢明だ。あえて話し⼿の⽴場に⽴って、話し⼿の反論を静かに聴く姿勢が効果的な場合が多い。

感情に働きかける②-2

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

*1 †「無関⼼な⼈」の類型(仮説):1) 秘密主義者と⾃⼰否定者:⾃分の考えや気持ちを⼈に知られまいと厚いカーテンを閉ざしてしまう⼈。⾃分⾃⾝の感情や考えを否定したがる⼈。誰かに⾃分の本⾳を知られたら、嫌われたり、拒絶されたり、軽蔑されたりするのではないかと恐れているから、⾃分の内⾯をみせまいとする。(ジェシー・S・ニーレンバーグ著・⼩川敏⼦訳「『話し⽅』の⼼理学」(⽇本経済新聞出版社2005.10.20.)p.182)†認識を形成しにくい⼈:理解や記憶のための知⼒はあるので⼀定の知識は蓄積している反⾯、類推、想像、提案などが不得⼿であり、知識があっても知恵に乏しいタイプ。このことを本⼈が⾃覚しているため、アイデアを求められると、⼝を閉ざしてしまう。3)†相⼿に伝えたい結論を導き出せない⼈:情報を集め、整理して⽰すことはできるが、⾃分⾃⾝で判断することを避ける。どこかに絶対的な正解が存在すると考えているため、全ての情報をそろえてからでないと答えがだせない。間違った答えをするくらいなら、答え(結論)を出さない⽅がリスクを取らなくて済むと考え、情報収集に留まり、これを超えて意⾒を迫ると⼝を閉ざしてしまう。(「⾔い切れない病」。グロービス・マネジメント・インスティテュート著「新版MBAクリティカル・シンキング」(ダイアモンド社)p.584) 今のこの問題に関して、関心・好奇心に乏しく、討議内容に対する認識が薄い者:グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.191*2 †まったくの「無関⼼」から、「関⼼がありそう」な段階への変化に影響を与える総合的⼿段については、ジェシー・S・ニーレンバーグの前掲書に詳しい。

関心がない

興味がある

強い興味がある

強い当事者意識を持つ

コレ!

Page 11: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -25-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②-3、45-875-87

マンションの事例に変えた部分を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.195 ~ 197 の要約。

87

A 「メンバー・集団に対する感情に配慮する」と⾔うとき、「『集団に対する感情』に配慮する」とは何を意味するのか?B 「『内容』に対する感情」と共に、参加者が、そこに参加する「他の⼈」に対してどのように感じるか?という「メンバー・集団」に対する感情がある。このうち「メンバー(個⼈)に対する感情」については、すでに⾒てきたので、ここでは「集団に対する感情」に焦点をあてる。バラバラの個⼈が、あるまとまった「集団の⼀員」となり、その中で積極的に役割を果たしていくようになるまでは、いくつかのステップがある。その例として、左欄の「集団」の進化のステップを⾒よう。このモデルでは、集団は、「烏合の衆」の状態から、「対⽴」を経て「団結」の段階に⾄る。そして「変⾰」が必要な段階へと進化・変化していく。*1このような集団の進化のステップを理解し、段階に応じた適切なファシリテーションを⼼がけながら、できるだけ集団の進化を促進するようにコントロールしてゆくことを、「『集団に対する感情』に配慮する」と表記した。A 最初の段階の「烏合の衆」とは?B 最初は互いのことも知らず、⾃分がその集団の⼀員であるという意識もあまり強くない。この段階では、各⾃が持つ、それまでの考え⽅や、他に属している集団での価値観、振る舞い⽅に基づいて考え、話し、⾏動する。集団の共通の⽬的や判断軸などもまだはっきりしないか、明確に存在していても各⼈まだそれを理解し、納得し、内⾯化してはおらず*2、各⾃がそれぞれバラバラに感じ、動いている段階をいう。A 竣⼯したマンションにみんなが⼊居した状態と同じだ。この段階の集団に対して、ファシリテーターはどのようにコントロールするのか?B まだ互いのことをよく知らない初期段階の集団では、互いを理解するためにそれぞれに意⾒や考えを話してもらう必要性が⾼い⼀⽅、様⼦⾒で⾃分の意⾒を明確に表明しない⼈も多い。そうした状態にあることがわかっていれば、まずは軽い、みんなが発⾔しやすい話題、幅広い意⾒が出て議論が盛り上がる論点を選択し、できるだけ多くの⼈が気軽に発⾔できる状態をつくる(アイスブレーク)⼯夫が望まれる。この場合は、結論を出すことよりも、各⾃が⾃分の考えや経験を吐露し、相互理解や共感を促進することが⽬的となる。  まずは、話しやすいような問いかけや、率直な⾃⼰開⽰を促すリラックスした雰囲気を維持することに⼼を砕くとよい。

感情に働きかける②-3,4

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

*1 集団の進化のステップについての他の例として、本教科書編集委員会の「管理組合の環境⾊温度」がある。「みんなのコミュニティー p.5.1 〜 5.7」参照。*2 分譲会社があらかじめ作成した管理規約案を、区分所有者が同意して順次署名する⽅法で成⽴した書⾯決議による管理規約、いわゆる「原始(管理)規約」も、内容を逐⼀チェックしながら、署名した者を除く、多くの区分所有者にとっては、ここにいう「明確に存在していても各⼈まだそれを理解し、納得し、内⾯化していないもの」に相当するだろう。*3 マンションの管理組合という集団においては、最初の段階から「組合活動」が始まるので、出来れば全区分所有者が、管理規約、管理委託契約書を理解することが望ましい。それが出来ない場合でも、少なくとも組合の役員になった区分所有者は、区分所有法、マンション管理適正化指針を始めとして、⾃分のマンションの管理規約、管理委託契約書を理解する必要がある。たとえ初期段階の集団であってもマンションの管理組合である限り、ファシリテーターは、この点を留意すべきである。また理事会の運営そのものを、最初の段階から、ファシリテーション技術に沿って展開することが望ましい。

団結

「集団」の進化のステップ

烏合の衆

対立

変革

Page 12: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -26-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②-3、45-885-88

マンションの事例に変えた部分を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.196 ~ 198 の要約。

88

A 「烏合の衆」は何をきっかけに「対⽴」に変わる?B しばらくすると、互いが他のメンバーの考え⽅や性格、⾏動の特徴などを知るようになり、個⼈的な関係も深くなってくる。⾃分が集団の⼀員という⾃覚も⾼まり、⾃分もその集団に貢献したいという意欲も⾼まってゆく。と同時に、それぞれが⾃⾝の意⾒を主張し始めて、さまざまな「意⾒の対⽴」が起こるようになる。議論される具体的な意思決定の結論はもちろん、仕事の進め⽅や善し悪しの判断軸、さらには集団が⽬指すゴール⾃体など、様々なレベルでの「違い」が⽬につくようになる。ただし、まだ「何が⽀配的な考え⽅や価値観なのか」は、明確に定まっていないため、放っておくと対⽴が激化したり、コミュニケーションが困難になるなど、集団の活動が停滞、時には崩壊の危機に直⾯することもある。A 集団の進化の過程で「対⽴」は不可避のステップか?B メンバー間の意⾒が激しく対⽴する場⾯も、それが集団の進化の上で必要なステップであるならば、無理に対⽴を抑え込むのではなく、まずは「しっかり対⽴できる状態」をつくる。そして、その真剣な議論を通じた深い相互理解を実現することを⽬指すべきだ。さらに、参加者が、「⾃分たちで対⽴を解決しよう」と感じるまで粘り強く待つことで、そのプロセス⾃体を「⾃分たちで乗り越えた事実」が互いの絆をさらに深めるきっかけになる。むろん、こうした難易度の⾼い状況をうまく乗り超えるためには、重要かつ必要な対⽴点を明確にする「論点のコントロール」や、安易な妥協を許さず「考え続ける」ことを励ます、そして感情的な反発を深めることに終わらないよう、「冷静な議論を促す」などの「⾼度なコントロール」、そして「冷静なファシリテーション」が必要になる。A ⼈が成⻑の過程で「反抗期」があるように、集団も進化の過程で「対⽴期」があるB 対⽴の時期は、集団によって⻑短があるようだ。「⾬降って地固まる」というケースや⼆つの派閥に分かれて拮抗したぬかるみの関係が⻑期にわたって続いてゆく例もある。後者の場合は、前の理事会が議案として提案して総会で議決した事項を、後に受け継いだもう⼀⽅の派閥が⼤勢を占める理事会が蒸し返して廃案に持ち込むようなことが起こり、管理組合活動の連続性が失われる。このようなことを繰り返すと、住⺠の管理組合活動への関⼼を喪失させてしまう恐れがある。*1やがて、このままではいけないという住⺠も現れて、新たな「団結」への道が⽣まれる。A ようやく管理組合として活動を積み重ねてゆく⼟俵ができるというわけだ。B というわけで「対⽴」は、団体が本当に団結する前段階に必要なステップだろう。

感情に働きかける②-3,4

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

*1 例えば、管理組合内部が⼆分されて、互いに相⼿の派閥を⾮難する⽂書が郵便受けに投函されるような事例もあるようだ。

団結

「集団」の進化のステップ

烏合の衆

対立

変革

Page 13: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -27-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        集団の「進化」に向けて、メンバーの「感情」に働きかける②-3、45-895-89

マンションの事例に変えた部分を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.196 ~ 198 の要約。

89

A 「対⽴」期をなんとか乗り越えて「団結」期になると集団はどう変わる?B しばらく続いた対⽴の後には、次第にその集団において⽀配的な価値観、スタイル、⾏動の規範などが形成され、共有化され、各⾃がそうした考え⽅や規範に沿って⾏動するようになる。そして⼀⼈ひとりがその集団を「⾃分の居場所」と強く感じるようになり、集団への帰属意識*1、当事者意識も⾼まる。集団の中で⾃⾝の役割をしっかり果たして貢献し、活躍したい、そして他のメンバーから信頼や尊敬を得たいという意欲*2が⾼まり、コミュニケーションもスムーズになり、分業と協働が効果的、効率的に⾏えるようになる。これが、「団結」期に⼊った様相だ。結果、集団としての成果も⼤きくなってくる。同時に、他の集団との違いやライバル意識を持つようにもなり、⾃分が属する集団とその仲間を守ろうというテリトリー意識も強くなる。A この段階に⾄った管理組合では、議論の展開もだいぶん合理的に進められるだろうB 「団結」までステップが進んだ管理組合では、管理組合の⼀体感を⼀層⾼めたいことから、もし意⾒に多少の違いがあっても、むしろ「共通点を⾒つける」「共感を⽣み出す」ことに⼒点を置くとよい。ファシリテーターは、「同じところはどこか?」、「もし同意できるとしたらどういった点か?」といった質問を徹底的に投げかける。「2つの案は⼀⾒違うが、〇〇を重視する」という点では同じですねなどと、「共通点を捉まえて強調する⽅向」で議論を整理してゆくと効果的だろう。A 最後のステップ「変⾰」はどんな内容か?B 「団結」が強まって、しばらくすると、集団固有の考え⽅や価値観、スタイルや、集団内の⼈々の関係性が固定化し、かつそれを維持強化しようとする圧⼒が強まる。そのままでもしばらくはうまくいく(むしろ集団として最も成果が出て、かつ各⼈にとって居⼼地が良い時期だろう)が、気が付くといつの間にか、外部環境の変化などからその集団が⽣み出すべき成果や集団のあるべき姿が変化しているにもかかわらず、その変化を察知、対応が出来なくなる。そうなると、外部の他の集団との関係が悪化したり、また集団内部でも「閉塞感・停滞感」を感じる⼈が出てくる。結果、集団の在り⽅を「変⾰」する必要性が出てくる。このステップに向かう時の「議論の場」のファシリテーションは、特に難易度が⾼いが、同時にこうしたことを考え、仕掛けをし、働きかけていくところにこそ、ファシリテーションの醍醐味がある。ファシリテーターは、議論の場をどのように設計し、ファシリテーションを⾏うかが、集団の進化を促進できるかどうかの分かれ道と⾔える。ファシリテーターはそれだけの責任と可能性を持っているのだ。*3

感情に働きかける②-3,4

議論の場の空気を適切に設定し、維持し続ける

「メンバー・集団に対する感情」に配慮する

「集団の進化ステップ」に応じた働きかけを行う

「内容に対する感情(ポジティブ・ネガティブ・無関心)」に対処する

*1 マズローの要求の五段階節の第 3 段階に相当する。第七章みんなの明⽇ p.49*2 マズローの要求の五段階節の第4段階に相当する。第七章みんなの明⽇ p.49

*3 ファシリテーターは、個⼈(メンバー)に対する感情に配慮する必要があると同様に、集団に対する感情に配慮する必要がある。この場合、ファシリテーターは、集団の進化の段階に応じて、ファシリテーションの仕⽅を変えてゆく必要がある。論理的な議論の仕込みに加えて、感情のステップの観点から、今、何を狙いとしてどのように議論をするのかを設計してゆく必要がある。まさにこの作業が、

「集団に対する感情」について、集団の進化のステップに応じた働きかけをするという意味だ。

団結

「集団」の進化のステップ

烏合の衆

対立

変革

Page 14: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -28-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        ファシリテーターが認識すべき 2way5-905-90

マンションの事例に変えた部分を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.196 ~ 198 の要約。

90

A ファシリテーションのさばきもいよいよ終わりに近づいたB 最後に「ファシリテーションの2つの道」という話をしよう。ファシリテーターは、「仕込み」と「さばき」の技をどのように使い、どのような議論の場を作るべきか?そこには、⼤きく次の2つの道が存在する。 1●「しっかりコントロールする」道 2●「極⼒コントロールしない」道1は、例えば、適切な結論に至るために必要な論点を段階的にファシリテーターが提示し、その論点から外れないように発言と議論の方向性をコントロールするような場合だ。当然、最短の討議時間で、適切な結論に到達する確率が高くなる。しかし、このアプローチで参加者は本当に納得感や達成感を感じることができるだろうか?ファシリテーターのコントロールが強く、そのことを参加者が感じると、議論の場自体を窮屈に感じたり、時には、「ファシリテーターに仕切られる」ことに反発を覚えることもある。反発がなくても、「仕切られる」ことに慣れてしまうと、参加者は自ら主体的に適切な議論の流れになるように考え、発信し、混乱や停滞を乗り越える経験ができなくなるおそれがある。結果、「良い議論の場をつくるのは自分たちの責務だ」という意識、もしくはそのために必要な議論のスキルを高める機会を失う。そうなると、「ファシリテーターがいれば生産的な議論ができるが、いなくなると話が進まない」という状態になりかねない。*1A 理事会がそんなふうになるのはよくないB そこで、もう⼀つの道は、2のファシリテーターが「極⼒コントロールをしない」道だ。議論の場におけるファシリテーターの介⼊は最低限にとどめ、可能な限り参加者の⾃主性に任せる。このやり⽅のメリットは、参加者の納得感が⾼いこと、ファシリテーターの予測を超えた知恵が⽣まれる可能性があることなど。結果として、まさに「⾃分たちで結論を導いたのだ」という認識が当事者意識を⾼め、決定事項が確実に実⾏される確率が⾼まる。A だが、多くの時間がかかり、議論が停滞・混乱・対⽴するリスクがあるB 1か2かの正しい答えはない。重要なのは、この2つの道があることを認識し、状況に応じ、どちらも対応できるようにしておくことだ。

ファシリテーションの2つの道ファシリテーションの2つの道1 2

極⼒コントロールしないしっかりコントロールする

ファシリテーターが「考えるべきステップ」を強くガイドし、その流れに乗せて考えさせる

各⼈の意⾒から出発し、意⾒の理解・共有に時間を使いながら、徐々に必要な論点に気付かせる

メリットメリット

デメリットデメリット

● スピーディに結論に⾄ることができる

● 話しがずれる/混乱するリスクが少ない

● 参加者が「⾃分の意⾒が⼗分に反映された」気がしない

● 「進め⽅が強引だ」と反発される危険性がある

● 「⾃分の意⾒が⼗分に反映された」という⼼理的な満⾜感が⾼い

● 納得のプロセスを丁寧に踏め、決定事項に対し⾼いコミットメントがえられる

● 議論に時間がかかる

● コントロールを⾒失うと「泥仕合」になる危険性がある

*1 標準管理規約第 35 条 外部専⾨家を役員として選任できることとする場合 において、組合員以外の者を理事に選任し、その者が良いファシリテーターであるときは、このような状態が⽣ずるかも知れない。

2 way

Page 15: ファシリテーターのさばき-17- 5-795-79 意見の対立を解決する「 …mdww.sunnyday.jp/ourcom.p.79p.91.pdf · 想定してみよう。さらに、これを進めて、あ

      ファシリテーターのさばき -29-

64

みんなのコミュニティ

理解度の自己チェック

▼ ▼ ▼ ▼        ファシリテーションの究極の目的とは?5-915-91

一部のマンション関連内容に書き換えた部分を除き、グロービス 著 吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書ー組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」(東洋経済新報社。初版 2014 年)p.200~ 204(最終頁)の要約。

91

ファシリテーションは合気道ファシリテーションは合気道*1  平成 28 年の改正マンション標準管理規約は、外部役員を採用する場合の条文を例示した。それ以前から、事業の一環として、管理者(理事長)を派遣していた「NPO福岡マンション管理組合連合会」は、派遣先の管理組合の組合員の中から後継者が出てきて、派遣がなくても良好な管理が可能になり次第、速やかに派遣の終了をすることを契約条件にしている。➡「みんなの理事会」1.4.7 参照

*2 「人知を超えたエネルギーの自然な流れ」(吉田 素文 執筆「ファシリテーションの教科書」の定義)。

A 時間に余裕がないときは、強いコントロールで素早く適切な結論を⽬指すべきだB その通りだ。また、メンバーが議論に参加し、⽣産的な議論を⾏うことに対する習熟度、具体的には良い議論とはどういうものかを理解できていないで、実際に適切な議論ができる思考とコミュニケーションのスキルがない場合も、ファシリテーターの強いコントロールが必要だ。A コントロールを強くするといつまでたってもメンバーのスキルが⾼まらない…B というジレンマに陥る。ここで私たちがファシリテーションの⽬的を「⼈々の知恵と意欲を引き出し、集団としての成果を最⼤化する」ことにおくのであれば、ファシリテーターのコントロールによって最短距離で適切な結論を導くことは通過点であって、ゴールではなくなる。

A 本当に⽬指すべきゴールは、ファシリテーターのコントロールがなくても、参加者⾃ら⽣産的な議論の場を創造し、実りある議論ができるようになっていくこと…B つまり、ファシリテーターが不要になる状態こそがファシリテーションの最終⽬的*1といえる。A では、そもそもファシリテーターは何のために存在し、また私たちは多⼤な時間をかけ「仕込み」をし、「さばき」の技を磨くのだろうか?B それは、「集団の成⻑」のためだ。繰り返しになるが、「⼈々の知恵と可能性を最⼤限引き出して集団を成⻑させるため」だ。⼈が適切な⽅向に成⻑するうえでは、「⾃分もあのようになりたい」という優れたモデルの存在と、成⻑過程で⾃⼒では乗り越えられない困難な状態に⼿を差し伸べ、あるべき⽅向に導くサポーターが必要だ。サポーターの本分は、議論の場における優れたモデル、そしてサポーターであることだ。そのような存在になるには、論理的、構造的な思考⼒、優れたコミュニケ―ションスキルといった「⼒」が必要だが、その⼒を振りかざすのではなく、普段はその⼒をできるだけ直接使わないようにする。ただし、参加者が⾃分たちだけではどうしても乗り越えられない状況にあるときは、いつでもその⼒を使って状況を打開できるように準備し、技を磨いておく。さらに「⼒」以上に重要なことは、ファシリテーターが持つ⼈に対する基本的態度、価値観だ。⼈の可能性を信じること、⾃分を無にしてでも集団の成果とメンバーの成⻑を実現しようという使命感、このような価値観を併せ持ってこそ、その⼒が最⼤限に⽣かされる。じつは、ファシリテーションは「合気道」に似ている。それは、⼈の⼒を活かし、「気の流れ」*2を⽤いて、⾃然に「投げる」。内には⾮常に強い核を持ち重⼼はきわめて安定しているが、決して⼒まず、どんな状況にもしなやかに対応できる。このことは、ファシリテーションの本質でもある。

本当に⽬指すべきゴールファシリテーターのリード・コントロールがなくても参加者⾃らが⽣産的な議論の場を想像し、実りある議論ができること

技術

思考

姿勢     ⼈の可能性を信じる集団の成果とメンバーの成⻑への使命感

仕込みの⼒ さばきの技

問題解決⼒ 理解⼒ファシリテーションは

合気道


Top Related