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概 要インテルの IT部門と企業サービス部門はチームとして互いに協力して、データセンターの立地を選定する際に検討すべき複数の要素を特定しました。今後、インテルの成長に伴ってデータセンター施設への投資が必要になった場合、プロジェクト・チームはこの要素セットを使用して、投資回収率(ROI)を最大化できる立地を選定します。

データセンターの立地選定: インテルの取り組み

IT@Intelホワイトペーパーインテル IT部門データセンターの立地選定2014年 2月

以下の条件を考慮することで、社内顧客のコンピューティング要件やサービス要件を満たすだけでなく、データセンターの建設費と維持費を最適化できるようになります。また、将来のニーズや懸案事項にも対応できる立地の選定が可能となります。

立地選定の際に最も重視すべき基準としては、次の 3つが考えられます。

• 環境条件:その地域の気候や過去の自然災害歴

• ワイド・エリア・ネットワーク:ファイバー回線および通信インフラストラクチャーの可用性とコスト

• 電力:電力インフラストラクチャーの可用性とコスト

以下の要素も評価の対象となります。

• 立地レベルでの基準:用地取得、脅威やリソースの近接度、および建設環境に関連する要素

• 社会経済、労働力、および行政の各基準:その地域の社会的および経済的安定度、建設および保守に関わる労働者の確保、および現行の規制、税制、優遇措置に関連する要素

すべてに完璧な立地など存在しません。また、関連のあるすべての立地選定基準を調査することは容易ではありません。しかし、明確に定義された立地選定プロセスと、検討すべき要素とトレードオフの定量分析が、生データを役立つ情報と洞察に変え、情報に基づいた意思決定を可能にします。こうしたアプローチによって、建設前の段階からデータセンターの寿命が尽きるまでの期間、最大の利益をもたらす立地選びが可能となります。

Marissa Menaインテル IT部門

データセンター・アーキテクト

John Musill iインテル IT部門

データセンター・アーキテクト

Ed Austin企業サービス部門サイト開発および

コンプライアンス・マネージャー

Jef f Leeインテル IT部門ネットワークおよび

電気通信サービス・マネージャー

Paul Vaccaroインテル IT部門

データセンター・アーキテクト

明確に定義された立地選定プロセスと、検討すべき要素と

トレードオフの定量分析が、生データを役立つ情報と

洞察に変え、情報に基づいた意思決定を可能にします。

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IT@Intelホワイトペーパー データセンターの立地選定:インテルの取り組み

2 www.intel.co.jp/itatintel

目 次

概 要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

ビジネス課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

立地の選定基準 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

3つの最重要選定基準 . . . . . . . . . . . 3

立地レベルの基準 . . . . . . . . . . . . . . . . 6

社会経済、労働力、 および行政の各基準 . . . . . . . . . . . . . 8

基準を分析するための方法論 . . . . . . . 9

立地選定プロセスの概要 . . . . . . . . . 9

定量分析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

関連情報 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

略 語 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

ビジネス課題

データセンター 1 は、インテルの半導体製品設計の基盤となる存在です。2012年の 1年だけで、インテルのデータセンターは約550,000の Elec tronic Design Automation-Meaningful Indicator of Performance per System(EDA-MIPS)をサポートし、30ペタバイトの設計データを保管しています。2

インテル IT部門は、インテルのデータセンター・インフラストラクチャーのビジネス価値を最大化するだけでなく、製造工場と同様にデータセンター・インフラストラクチャー分野においてもリーダーとしての地位を確立することを目指しています。そのため、データセンターの立地選定は、コンピューティング技術の革新を通じて人々の絆を深め、より豊かな生活を実現するインテルのグローバル戦略に沿ったものであることが何よりも求められます。その目的に向かって、インテル IT部門では、以下の要素を取り込むようにデータセンター戦略を改革してきました。

• 投資モデルでの劇的な変化

• ビジネス主導型イノベーションおよび管理の導入

• 新しいメトリックおよび単位コスト計算モデルの導入

• 全体を把握できるダッシュボードでのデータセンターの動作状態の確認

データセンターの構築は非常に重要な長期的投資です。インテルの IT部門と企業サービス部門とは、歩調を合わせ、チームとして互いに協力しています。ビジネスの成長に伴い、データセンターへの設備投資が必要となっている状況で、立地選定プロジェクト・チームは、立地選定の基準を使用してインテルの投資回収率を最大化することの価値を学びました。これらの選定基準を使用することは、建設費や維持費の最適化につながり、社内顧客のコンピューティングおよびサービスの要件への対応および将来的な拡張ニーズへの対応が可能となります。

立地の選定基準

データセンターの建設における長年の経験を活かして、インテルの IT 部門と企業サービス部門は、データセンターの立地選定において検討すべきさまざまな要素を共同で特定しました。3 特定された要素としては、十分なWANインフラストラクチャーや冷却水の確保など、データセンター施設には欠かせない物理的な要素のほかに、労働力、水、電力、または土地に関連する費用など、データセンターの事業運営に関連する要素があります。

立地選定において、インテルが最も重要であるとみなす基準は次のとおりです。

• 環境条件:その地域の気候や過去の自然災害歴

• ワイド・エリア・ネットワーク:ファイバー回線および通信インフラストラクチャーの可用性とコスト

• 電力:電力インフラストラクチャーの可用性とコスト

さらに、以下の要素も評価の対象となります。

• 立地レベルでの基準:立地レベルでの基準は、用地取得、建設環境、リソースや脅威の近接度(自然災害や労働力不足)に関連します。

• 社会経済、労働力、および行政の各基準:これらの基準は、その地域の社会と経済の安定、建設および保守に関わる労働者の確保、および現行の規制、税制、優遇措置に関連します。

立地選定におけるそれぞれの要素は、互いに関連していることが少なくありません。例えば、整備が行き届いた道路や空港が近くにあれば、現場への建設材料の輸送、建設後においては現行の部品や供給品の配送、ビジネス継続性の管理にかかるコストを削減できます。

立地の選定には、さまざまな決定要素が関連しています。本資料では、経験に基づき、最

1 インテルの「データセンター」の定義:主に、製造時および製造前のコンピューティング、事業用ストレージ装置、およびミッション・クリティカル・アプリケーションとインテルの知的財産の保管をサポートするために使用されるセキュリティー保護された部屋。

2 詳細については、ホワイトペーパー『業務改革に向けたインテル IT部門のデータセンター戦略』に記載の図9を参照してください。

3 本資料では、立地選定に焦点を絞ります。したがって、データセンターの運用コストを大幅に削減できる数々のデータセンター設計のベスト・プラクティスについては取り上げません。インテルのデータセンター設計のベスト・プラクティスの詳細については、ホワイトペーパー『Facil it ies Design for High-density Data Centers』を参照してください。

IT@Intel

IT@Intelは ITプロフェッショナル、マネージャー、エグゼクティブが、インテル IT部門のスタッフや数多くの業界 ITリーダーを通じ、今日の困難な IT課題に対して成果を発揮してきたツール、手法、戦略、ベスト・プラクティスについて詳しく知るための情報源です。詳細については、http://www.intel.co.jp/itatintel/ を参照してください。あるいはインテルまでお問い合わせください。

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も重要であると確証が得られた要素について取り上げます。4 すべてに完璧な立地は存在しませんが、選定基準とトレードオフの系統立った分析によって、建設前の段階からデータセンターの寿命尽きるまでの期間において、最大の利益をもたらす立地選びが可能となります。

3つの最重要選定基準

インテルでは、データセンターのビジネス継続性、コスト効率、パフォーマンスに影響を与えると考えられる、3つの重要な立地選定基準を想定しています。

• 環境条件

• ファイバー回線および通信インフラストラクチャー

• 電力インフラストラクチャー

これらの基準には、さらに詳細かつ複雑な検討事項があり、その決定の多くにトレードオフが存在します。以下のセクションでは、これら3つの基準を調査する際に行われるべき分析について説明します。

環境条件気候(climate)とは、地域全域または長期間にわたる気象状態のことを指し、データセンターの立地を探す際の重要な考慮事項です。過去に、強風、冷害、または大気汚染、洪水、地震、火山噴火などの自然災害があった場所は立地として適していません。

気 候気候は、データセンターの冷却効率に大きく影響する可能性があります。言い換えれば、維持費に影響を及ぼすということです。また、データセンターの設計方法にも影響し、結果として建設費用や運営費用が増加する要因にもなります。例えば、気候条件によっては、データセンターは外気冷房システムを利用できるかもしれません。一方、卓越風(ある地域、ある季節に最も優勢な風)の方向によっては、能動的または受動的な吸排気ソリューションが必要となるかもしれません。

一般的に、最も効率良くデータセンターを運用できるのは、乾燥気候と寒冷気候です。無料の冷却ソリューションの最適温度範囲は 8~ 35°C(40~ 95°F)で、相対湿度(RH)は20%~ 70%が適しています。最新のデータセンター施設や ITサーバー機器は、この範囲で使用するように設計されています。言うまでもなく、コンピューター機器の仕様はデータセンターに設置する際に必ず確認し、コン

4 本資料で取り上げる内容は、データセンターが遠隔地、準郊外地域、または郊外地域に建設されることを想定しています。

インテルのハイブリッド・クラウド戦略

インテルのサービスのすべてが社内でホスティングされているわけではありません。インテルのハイブリッド・クラウド戦略では、クラウド・コンピューティングのホスティング・オプションを検討する際には必ずインテル IT部門が複数の要素に関するメリットとデメリットを評価しています。考慮しなければならない重要な点は、サービスそのものです。ある特定のサービスが、インテルに競争優位性をもたらしたり、それが独自のサービスである場合、そのサービスは社内でホスティングすることになります。コモディティー・サービスの場合は、それを外部のホスティング・ソースで利用したり、外部で使用できるように提供することで最高の価値が得られます。

ホスティングの選択は、コストを考えるだけでよいというものではありません。サービスを社内でホスティングするか外部でホスティングするかを判断するには、速度や俊敏性についても考慮します。例えば、あるパブリック・クラウド・プロバイダーのサービスのコストが他のプロバイダーより高くても、その分だけ優れた性能、高い信頼性、強化されたセキュリティーなどの機能を提供しているかもしれません。その場合、特定のサービスに関しては、そのパブリック・クラウド・プロバイダーがより良い選択となります。アウトソース型のホスティングの方が低コストであっても、高レベルのセキュリティーを要する特定のサービスの場合は、自社のプライベート・クラウドにサービスをホスティングする必要があります。a

データセンターの立地選定に関連するクラウド・コンピューティングのビジネス面の課題は、サービス、サービスの場所、およびインテルがサポートする必要のある顧客について理解することです。インテルでは、自社のリソースを最大限効率的に利用して、多岐にわたる顧客のビジネス要件と技術要件をサポートする必要があります。

a インテルのクラウド・コンピューティング・プラクティスの詳細については、ホワイトペーパー『Best Practices for Building an Enterprise Private Cloud』および 『クラウド・コンピューティングのコスト:ハイブリッド・モデルによる削減』を参照してください。

冷房度日: 気候を評価する方法

冷房度日とは、外気温度と空調のエネルギー需要との関係を示す際に使用される単位です。一般的に、住宅またはオフィスで人間が快適と感じる温度である 18°C(65°F)に達するまで冷房に必要なエネルギー量と定義されています。

可能であれば、冷房度日が最も少ない地域にデータセンターを設置します。例えば、インテルが前回、グアダラハラ(メキシコ)とサンタクララ(カリフォルニア)に 2つのデータセンターを建設した際にも、冷房度日の検討は行われました。大まかに地理的な場所を決定したら、冷房度日のチャートとデータ分析に基づいて最適な立地を特定します。

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卓越風の風向きは、エコノマイザーを設置する場所にも影響します。特に、設計上、無料冷却ソリューションを採用している場合、風速32キロ /時(風速 20マイル /時)以上になると、データセンターが破壊的な影響を受ける可能性があります。その風は、排気口を介してデータセンター内の空気の流れに影響を及ぼします。強い風が発生する地域では、最初からデータセンターの適切な設計が行われるように、代替の排気ソリューションを調査しておきます。

インテルでは、過去に激しい吹雪や氷雨を伴う暴風のあった地域にデータセンターを設置することは避けています。このような気候現象が起こると、従業員はデータセンターに出勤することが不可能となり、電源の安定性も確保できません。

空気の質は、データセンターの効率や運用コスト、装置の機能、および従業員の生活の質に影響します。排気ガス、砂塵嵐、または大量の花粉などによって発生する微粒子を含む高レベルの大気汚染地域では、データセンターの空気供給システムに高コストのカーボンタイプ・フィルターが必要となり、フィルター交換の頻度も高まります。つまり、初期コストおよび運用コストが増加します。ほかにも、空気の質に関する問題として以下が考えられます。

• 濃度の高い硫酸塩や自然の腐食物質(塩)が、回路基盤にダメージを与える可能性があります。そのため、海の近くの設置は避けます。

• 自動車公害(スモッグ)や火災の煙などの化学汚染物質は、機器を劣化させ、従業員の健康を害する可能性があります。そのため、樹木の茂った場所や大気汚染源の近くの設置は避けます。

重要なファイバー回線および 通信インフラストラクチャーWAN接続に使用される媒体の種類は多様で、ファイバー回線、銅線、衛星、およびマイクロ波などがあります。サービス・プロバイダーとその能力によって、使用される媒体の種類は異なります。インテルでは、衛星やマイクロ波よりも物理媒体(ファイバー回線または銅線)を使用しています。衛星やマイクロ波は干渉や大気の条件の影響を受けやすいためです。WANやその他の通信サービスの可用性については、以下の要素を評価します。

• 容量:インテルの高性能データセンターでは、大量のネットワーク・トラフィックが発生します。例えば、インテルのあるデザインセンターの月別のインバウンド・ネットワーク・トラフィックの平均値は 4.10ギガビット /秒(Gbps)、最大値は 6.73Gbpsで、アウトバウンド・ネットワーク・トラフィックの平均値は 1.56Gbps、最大値は 3.26Gbpsです。5 WANの場合、ここでは 30GbpsのWAN帯域幅を使用し、3つのWAN回線(各 10Gbps)に分けています。また、ほかにも10ギガバイトの IPS帯域幅をインターネット・トラフィック専用に使用しています。6

データセンターとして選ぶ場所には、現在および今後のニーズを満たす十分なWANファイバー回線容量が必要であり、需要の拡大に伴って少なくともファイバー回線を追加できなければなりません。

• 冗長性:理想は、複数のサービス・プロバイダーを使用することです。各プロバイダーは異なる経路を使用して、インテルの施設においてサービス・プロバイダーの回線が引き込まれる物理的な場所、メインのエントリーポイント(MPOE)も分離します。データセンターの MPOEは明確に分離する必要があります。例えば、分離帯として道路を使用する程度では「明確」とは言えません。インテルのデータセンターでは、1つのプロバイダーの MPOEは東側(または北側)に設置し、別のプロバイダーのMPOEは西側(または南側)に設置するようにしています。

• 信頼性:先進国では通常、サービス・プロバイダーは伝送網の構築および敷設に適切な用地を使用しています。こうした土地は、線路または高速道路に沿って存在するか、送電線の下に存在します。ただし、複数のサービス・プロバイダーが同じ経路を使用することが多いため、局所的な事象が発生すると多様性と信頼性が低下します。

発展途上国でも、サービス・プロバイダーは伝送網に敷設用地を使用しますが、これらの経路は、未開拓の地を横断しているか、

ピューターが稼動できる温度とRHの範囲を確認しておきます。

気候の調査では、可能であれば少なくとも過去 10年の気象データを収集します。この程度のデータ量があれば、過去にその地域で深刻な気象現象が周期的に発生しているかどうかを確認できます。この気象データは、候補地に近い気象観測所から入手することが理想的です。空港などの気象観測所も信頼できる気象データソースとなります。

また、歴史上の深刻な気象現象も考慮に入れます。例えば、日本の古い石碑には、津波の危険性があるため特定の海抜より下に建造物を建てることを禁じる警告文が刻まれていました。実際、その古い警告は正しかったことが証明されています。

降水量は通常、RHが理想の範囲内であれば気にする必要はありません。ただし、集中豪雨が発生する地域では、設備が置かれた場所に設備とサービススタッフを保護するための屋根を取り付ける必要があるかもしれません。また、そのような場所では、雨水の流出に対応する適切な雨水管理システムを完備する必要があります。

その他、太陽に対する建物の向きについても考慮する必要があります。気候が温暖な土地では、太陽の光が当たる表面面積を少しでも減らすため、正面が南向きにならないように建物を配置します。代わりに、建物の短い方の側面を南に向けたり、データセンターのように冷却要件が大きくない建物の南側に緩衝領域を確保したり、あるいはその両方を考慮します。また、可能であれば、日が当たらない場所に吸気口や屋外強制排気システムを設置します。一方、寒冷地では、南向きにすることで建物の表面を温めることができ、データセンターがエアサイド・エコノマイザーを使用する場合は、その吸気口を温めることもできます。

自然災害気候が理想的であっても、自然災害が発生しやすい地域は、立地場所として適しているとは限りません。地震、洪水、竜巻、ハリケーン、および火山は、データセンターだけでなく、電力の供給や他のサービスを危険にさらす可能性があります。特に問題となるのは火山で、火山噴火の発生当初は局所的リスクとなりますが、噴火による火山灰が卓越風の吹く方向に拡散されると、長期的リスクが生じます。

5 これらの数字は、計算サーバーが接続されたネットワーク・デバイスで 6カ月間測定して取得したものです。このトラフィックはデザインセンターのバッチジョブに直接関連しています。

6 インテルでは、インターネット用トラフィックと、ビジネスおよび社内用トラフィックを分離し、ビジネス用トラフィックがインターネットの閲覧と競合しないようにしています。

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地域の管理下の領域内にあるため、不安定であったり安全性が低い可能性があります(コラム「失敗から学ぶ」を参照)。インテルは、信頼性が高く、多様なWANインフラストラクチャーと通信インフラストラクチャーを備えることを目標としています。

また、ダメージからデータセンターを保護するために、耐性が強化されたWANアクセスポイントを備えることが望ましいと考えています。例えば、強固なセキュリティー保護のために、WANインフラストラクチャーを地上ではなく、地下に構築することが考えられます。また、直接埋設する通信事業者よりも、コンクリートまたは PVCダクト内にファイバー回線や銅線を設置する事業者のほうが望ましいでしょう。

重要な電力インフラストラクチャーWANおよび通信インフラストラクチャー同様、電力インフラストラクチャー・コンポーネントの脆弱性と信頼性を理解することも、立地の選定においては重要です。インテルの分析には、配電および電力サービスが確保されているかどうかの確認も含まれます。

データセンターの配電網は冗長性の確保とリスクの低減を考慮し、電力品質に優れた 2つの電力会社によって供給されることが理想です。(同じ配電網を使用しない)2つの異なる電力会社を使用すれば、無停電電源装置(UPS)の必要性はなくなり、結果として建設コストが大幅に削減されます。施設の両側にある 2つの変電所から電力が供給されることが理想的です。変電所の規模は、現在と将来のニーズに合わせて自由に変更できるもので

なければなりません。そうでないと、データセンターの建設中に新しい変電所を造る必要に迫られる可能性もあります。

立地選定プロセスの一環として、検討時には、配電網の地形的信頼性分析も行います。地下配電にすれば、落雷や鳥の衝突、倒木、銅線ケーブルまたは価値のあるその他の資材の盗難などのリスクが低減されます。

候補となる場所において電力会社の冗長化が期待できない場合は、天然ガスやディーゼル燃料、または燃料タンクなどの他のエネルギー源を燃料とする発電機を使用してバックアップ電力を提供する方法を調査します。その場合、以下の事項を考慮します。

• 発電機は、規制の対象となる二酸化炭素、一酸化炭素、および粒子状物質を排出する可能性があります(「税制、規制、優遇措置」のセクションを参照)。

• 発電機の燃料は、地上または地下に貯蔵されます。

- 地上貯蔵のメリットは、維持管理が容易なこと、燃料漏れが発生した場合に燃料ロスを簡単に補給できることです。ただし、地上貯蔵庫は事故や火事のダメージを受けることがあります。

- 地下貯蔵庫は、地上貯蔵庫よりも事故や盗難に対して安全ですが、維持管理が難しくなります。燃料漏れが発生した場合、発見が難しいうえに、周囲の土壌に燃料

が染み出し、その浄化作業に多額の費用が必要となる可能性があります。

• 別のエネルギー選択肢として、天然ガスや液化天然ガス(LNG)を使用する燃料電池もあります。

- LNGは、天然ガスより安定しているため移送が可能ですが、(大抵の場合は地上に)貯蔵タンクが必要となります。

- 天然ガスが利用できる場合の重要検討事項としては、パイプラインの圧力と容量(立法フィート /日)が現在および将来においてそのプロジェクトに十分かどうか、立法フィート当たりのコスト、現場または現場近くの冗長レベル、およびパイプラインとガスハブまでの距離などです。特設された分岐パイプラインではなく、主要パイプラインから直接提供される立地が理想です。

データセンターが発電源に近いほど、メガワット(MW)レート当たりのコストが低くなります。これは、抵抗による電力の損失や、データセンターと電力会社との間の物理インフラストラクチャーが少なくてすむためです。

立地の選定時には、供給される電源の種類(水力発電や石炭発電)についても考慮します。一部の国では炭素税が課税されます。そのため、石炭発電は水力発電よりコスト高となります(電力に関連する税額控除については、「税制、規制、優遇措置」のセクションを参照してください)。

失敗から学ぶ

以下の実例は、多様性があり信頼性の高いWANおよび通信インフラストラクチャーの構築が、いかに重要かを示しています。

• 1990年代の初め、カリフォルニア州サクラメントのダウンタウンのすぐ北に位置する駅構内で事故が発生しました。この事故により、多くの顧客がネットワーク障害という事態に陥りました。原因は、ネットワーク・プロバイダーの地下ファイバー回線が、鉄道に沿って埋設されていたためです。もう1社のサービス・プロバイダーのファイバー回線も同様で、このプロバイダーの顧客も影響を受けました。これは、地域内に利用可能なサービス・プロバイダーが複数あったにもかかわらず、共通の伝送網を使用していたことがリスクを招いた典型的なケースです。

• アフガニスタンのシャラナ村(カブールから約 160km南)付近では、紛争により地域社会に直接影響が出ていました。携帯電話の中継塔が、1日に複数回(大抵は一晩中)運用を休止し、携帯電話での通信が困難となりました。また、安全上の懸念から、サービス・プロバイダーの派遣技術者は特定の地域に近づくことができませんでした。このような状況から、地域が安定し、派遣技術者が安全に伝送装置を修理できるようになるまで、何カ月間も機能停止の状態が続きました。

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脅威の近接度これまでに説明した環境条件によるリスクや、「社会経済」および「労働力」のセクションで説明するリスク以外にも、立地選定時に考慮するべきリスクがあります。

• 隣接地の使用状況:空港のグライドパスに位置している場所や、隣接する土地から発生する汚染によってダメージを受ける可能性のある場所は、データセンターの候補地として適していないと考えます。

• セキュリティー上の考慮事項:必要以上のセキュリティー保護は、コストを増大させます。例えば、地域によっては、財産を保護するために外周フェンスや守衛を配置して敷地を保護する必要があるかもしれません。また、サポート職員およびサプライヤーの市民権や身元調査に関連する現地の要件が、データセンター運営の重荷になることがあります。

リソースの近接度データセンターの立地選定では、水や公共インフラストラクチャーなどの他のリソースの可用性についても考慮に入れる必要があります。

水水は、データセンターにとってなくてはならない資源です。多くの場合、最もコスト効率に優れた冷却方法は水を蒸発させることだからです。この方法では大量の水を使用します。例えば、温和な気候の土地では、5-MW設計のデータセンターには年間 4,000万ガロンの水を使用します。

立地レベルの基準

立地の選定基準には、対象となる立地に固有のものもあります。例えば、対象となる土地区画の取得、その土地区画における脅威やリソースとの近接度、建設環境、および維持費に関連する考慮事項について検討します。

土地の取得多くの土地があっても、開発に利用できる土地区画が多いとは限りません。候補の建設用地を見る際に、まず、データセンターの建物や、冷却塔、発電機、その他の装置などの補助装置を収容できるだけの広さを確保できるかどうかについて検討します。多くの地域では、その区画内に雨水流出抑制調整池を確保できるスペースも必要となります(「税制、規制、優遇措置」のセクションを参照)。また、将来、必要に応じて、その区画だけでデータセンターの拡大にも対応できなければなりません。

立地のロケーションも重要な要素です。事故や災害が発生しても、ビジネスの継続性を確保できる立地が理想です。緊急対応要員がいち早く現場に到着できるかどうかは重要です。主要幹線道路または高架道路の近隣は、燃料トラックの事故が重大なリスクとなり得るため、立地には適しません。急勾配が近くにある場所も、地質学上、土石流などが起こる可能性があるため、立地には適していません。

土地の価格は重要な基準です。適正な平米(エーカー)単価の土地であり、単独の所有者によって所有されていることが理想です。所有者が複数いると、交渉および購買活動が迅速に進まない可能性があります。また、地役権のある土地区画も選択肢から外します。法的問題が発生したり、土地収用の理由から資産を損失する可能性があります。

現場にインフラストラクチャー(電気、水、通信、ファイバー回線など)を整備するコストについても考慮します。トレードオフを行わなければならない状況はたびたび発生します(コラム「トレードオフの検討」を参照)。例えば、課税の繰り延べとその他の優遇措置によって、先行する土地の取得費用を相殺できます。また、十分なWANファイバー回線がすでに整備されていても、電力や水が近くになければ、そのためのコストがかかる場合もあります。

トレードオフの検討

すべてが完璧な場所はありません。候補となる場所選びに、トレードオフの検討は必須です。例えば、低コストの労働者が確保できれば、現場の建設コストの削減につながりますが、一方で質の高い労働者が不足していると、建設期間が長引く可能性があります。低コストの人材は信頼性も低い場合があります。

ほかにも、以下のシナリオのようなトレードオフが発生する可能性があります。

• 新しい場所での大規模な建設プロジェクトでも、それが初めてではなく、2回目、3回目となると、材料および労働者の確保は比較的容易になります。しかし、労働者および材料をめぐる競争によって価格が押し上げられ、競合者が近くにいると、知的財産の安全性について懸念が広がります。さらに、同じ地域に複数のハイテク施設が存在すると、従業員の離職率の増加につながります。

• 候補地が含まれる地域には、立憲政体および分かりやすい法体系、低コストの人権費、高水準の言語および教育、高い能力を備えた技術スタッフ、中間層市場の成長など、複数の長所が見える一方で、複雑にからんだ規制、租税構造、交渉や建設が迅速に進まない多層的な政府機構などが存在する可能性もあります。

節 水

サンタクララ(カリフォルニア)にあるインテルのデータセンターでは、気候を厳格に評価することによって、年間2,800万ガロンの水の節約が可能となっています。この場所は温和な気候に恵まれ、蒸発による冷却に頼らなくても、無料の冷却ソリューションである外気を使用することができます。

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冷却塔用だけでなく、他の工業的ニーズや消防システム用にも十分足りるだけの 2つの水源を確保できる場所を探します。このような水源は敷地の外部にある可能性があります。また、その敷地が帯水層の上にある場合は、その敷地に井戸を掘ることになります。可用性に加えて、水そのもののコスト、井戸の掘削コスト(必要な場合)、排水を管理するための設備とコストも考慮する必要があります。

公共インフラストラクチャー立地のメリットとデメリットを比較する際に、公共インフラストラクチャーの近接度についても多面的に検討します。

• 主要な交通ルート:主要空港やその他の輸送機関の集まる場所(鉄道、トラック運送、物流倉庫など)に近いと、データセンターの建設中および稼動期間中の両方において円滑な物流が確保でき、供給品の輸送に関わるコストを削減できます。

• 緊急対応サービス:病院、消防署、救急救命士、および警察などのサービスが近隣にある場合は、対応や救助の時間を短縮できます。インテルでは、消防や警察のための資金提供に同意することがあります。この契約の履行によって、初期費用が増大する可能性がありますが、開発の同意、許可、または工事のためにこの契約が必要となる場合があります。

• 軍事基地:軍事基地にある救急サービスは、必要に応じて基地の外に派遣され、初期対応にあたる他の救援組織を支援する場合があります。多くの国々では、軍事基地は安定した地域に存在し、たいていの場合、堅固な公共サービスおよび通信インフラストラクチャーを備えています。

• 公共交通機関:この要素は、自家用車を持たない従業員の住む都市部では重要ですが、遠隔地、準郊外地域、および郊外地域では重要性は低くなります。

建設環境建設のプロセスは、国ごとに異なり、品質、スケジュール、安全性についての考え方が異なっているものと認識しています。そして、これらのすべてが建設コスト、品質、スケジュールだけでなく、インテルの評判に影響を及ぼします。そのため、立地を選定するに当たっては、以下の要素について調査します。

• 設計、建築請負者のリソース、建築資材の確保

• 許認可手続き(「税制、規制、優遇措置」のセクションを参照)

• 安全性および実施に関する地域の基準

• 適切な数の適切なスキルを持つ業者の確保(「労働力」のセクションを参照)

現場の建設に関連するコスト、例えば、新しい道路を造る必要性、建築資材の入手 /輸送 /安全確保、建設作業者とその確保、および建設期間中の現場の安全確保などのコストについても考慮します。

維持費に関する考慮事項建設したデータセンターは、その後、何年間も運用することを見込んでいます。そのため、できる限り維持費を抑えられる有利な条件が揃っている場所を選択します。有利な条件として以下が挙げられます。

• 長期契約:データセンターへのサービス提供では多くの長期契約が結ばれる可能性があります。例えば、施設や設備の保全、修景、公共サービスに関する契約があります。長期契約の交渉によって、データセンターの運用コストを削減することが可能です。

• 輸送費:コンピューター機器をデータセンターに輸送するコストとリスクを分析します。ロジスティクス、税関、セキュリティーを考慮します。

• 部品コスト:データセンターの稼動期間中に必要となる部品(フィルター、バッテリー、スペア部品)のコストや確保について分析します。

建設環境を理解する

大規模な建設プロジェクトが地域経済に与える影響について理解することは、立地選択にとって必要不可欠です。

大手ハイテク企業で起こったある事例を紹介しましょう。そのハイテク企業では、建設ラッシュが起こっている地域に新しいデータセンターを建設することを決定しました。そのため、サプライヤーの確保が難しく、地元業界の 3次サプライヤーを採用せざるを得ない事態に陥りました。そうしたサプライヤーには、必要なリソースも大規模なプロジェクトの専門知識もなかったため、その会社はこの地域出身のプログラム・マネージャーを現地に派遣して、サプライヤーに関連するさまざまな課題を効率的に管理させることにしました。また、スキルを持つ人材の不足はコストの増大につながり、建造物の資材や仕上がり全体の問題を招き、スケジュールにも悪影響をもたらすことになりました。

この経験から、この企業はその後のプロジェクトについて新しい戦略目標を打ち立てました。会社の代表者らは、建設前にその地域を訪れ、1次サプライヤーを特定し、そのサプライヤーと関係を築いていくことにしています。

インテルでも過去に同様の問題を経験したことがあり、これから建設する場所における地域経済の可能性と関係企業について知ることの重要性をそこから学びました。インテル側によく練り上げられた基準と手法があっても、サプライヤー側はその基準と手法に沿って期待に応えることができないことがあります。インテルの建設プロジェクトの経済的影響や、厳しい建設要件に対応できるサプライヤーの確保について、現状をよく認識するよう努めています。

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汚職がはびこる地域の除外

政府の契約を獲得するために、賄賂が当たり前のように送られたり受け取られる地域では、インテルもさまざまな問題に直面してきました。いかなる形態の賄賂も、インテルのコーポレート・ガバナンスおよび倫理方針に明らかに反しています。そうした地域のサプライヤーや意思決定者は、常に「円滑化のための支払い」を期待し、この種の支払いが行われなかった場合、評価を落とされたり、サービスの品質が低下することも分かりました。この経験を踏まえて、現在、現地の商慣行が建設の妨げとなるような地域では、データセンターの建設や他のプロジェクトは行われていません。

人材プールの最適化

インテルでは、大学卒業生の採用プログラムの質と有効性を強化する人材供給プログラムを開発しました。インテルのプログラムでは、新入生や 2年生レベルの学生にインターンシップ研修を提供しています。また、インテルでは従業員に地域の学校でボランティアや支援を行うよう促しています。例えば、A Day in the Life of an Intel Employee and Junior Achievement(インテル従業員の1日とジュニア・アチーブメント)プログラムに参加している従業員は、生徒を指導する1日の授業プランを自ら作成しています。

インテルの施設を大学の近くに設置することによって、従業員は学生との交流を活発に行うことができ、また、エンジニアリングという職業に対してポジティブな印象を育てることができます。その活動は世界各国の学生たちの励みとなり、エンジニアリングおよび財務プログラムで引き続き学ぶ学生の増加につながるなど、その影響は測り知れません。最も重要なのは、インテル、学生、そして教育界をつなげる持続的な関係が築かれることです。

社会経済、労働力、 および行政の各基準

ほかにも、以下に重点を置いた調査基準があります。

• 地域の社会的および経済的側面

• 労働力の課題

• 国や地方の税制、規制、および優遇措置

これらの基準は、データセンターおよび事業継続に伴う長期的なコストに影響を及ぼす可能性があり、立地選定の重要な側面となります。

社会経済データセンターの立地として、暴動、犯罪、汚職が多い地域よりも社会的、政治的に安定している地域のほうが適しているのは当然です。理想としては、適度な経済状況を示す地域にデータセンターを設置することです。経済規模が小さい場合は、必要レベルのサービス、供給品、および労働力が確保されず、逆に経済活動が活発すぎる立地では、データセンターの建築および維持にかかるコストが上昇する可能性があります。

労働力データセンターの建設と運用には、スキルを持つ労働者および安定した労働力の十分な確保が必要です。そのため、必要とするスキルを持っているか、賃金は妥当か、最近ストライキは発生していないかを見極めるために、その地域で確保できる労働力について十分に調査します。

インテルのデータセンターを建設する労働者、およびデータセンターに配属する労働者の種類を以下に示します。

• 建設:設計者、コンクリート工、電気技師、配管工などのスキルを持つ労働者。建設プロジェクトを成功に導きます。

• 情報テクノロジー:ネットワーク・スタッフ、システム管理者、データセンター・アーキテクトなどの IT部門の担当者。データセンター建設後の運用を維持します。

• 設備と保守:設備技術者および保守要員。

データセンターの寿命が尽きるまでの間、冷却装置、UPS、配電設備などの保守を行います。

• セキュリティー:セキュリティー要員。インテルの知的財産および企業データを盗難や破損から保護します。

優秀な人材の供給源である大学や IT専門学校の近くにデータセンターを設置することで、スキルを持った、即戦力となる人材のプールを確保できるようになります(コラム「人材プールの最適化」を参照)。

税制、規制、優遇措置国や地方の税制、規制、および優遇措置は、データセンターの立地を選定する上で、ほとんどすべての考慮事項に影響を及ぼします。そのため、適正評価の一環として、候補地の調査ではこれらの項目を分析します。

税 制地方および国の政府事業体は、すべてに課税することができます。一般的に、課税率が低ければ低いほど、データセンターにかかるコストは低減します。特に、データセンターの設備は資産として課税されるかどうか、建築資材、データセンターの設備、およびデータセンターの現行の供給品は消費税の対象となるかについて調査します。また、税の優遇措置はあるかどうか、あるいは交渉が可能かどうかについても調査します。

規 制税と同様、規制も地方レベルおよび国レベルで設けられています。データセンターの選定時に考慮する規制は以下のとおりです。

• 土地と建築の規制:適切に建築規制された特定の土地区画を取得するには、現地の管轄当局(AHJ)との関わりが必要となります。AHJとの話し合いを始める前に、現在の建築規制と適切な変更プロセスを理解します。

• 水:一部の地域では、水の使用量と廃水について規制を設けている場合があります。また、雨水規制は、必要な土地区画の大きさに影響を与える場合があり、貯蔵池が建設地の 40%を占めることがあります。さらに、

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対象範囲の定義

ニーズの特定

立地選定プロセス 交渉プロセス

建設

候補リスト(国)

世界規模の調査

都市の調査 ロケーション調査

立地(ロケーション)

候補リスト(都市)

候補リスト(立地)

正味現在コストの評価

立地の選定完了

インフラストラクチャーの評価

優遇措置の交渉 引き渡し

図 1. 明確に定義された立地選定プロセスを使用して、世界中の候補地から、立地選定基準に最も合う候補地を絞り込みます。

この種の規制では、具体的な修景要件が規定されている場合もあります。

• 燃料の貯蔵および排出:これらの規制は、市、郡、地域によって異なり、違反行為に対する罰金は多額になる可能性があります。

• 地域限定の規制:一部の地域では、高さ制限や、特定の電力オプション(ソーラー、スマートグリッド、マイクログリッド、天然ガス発電、燃料電池など)を規制している場合があります。追加の許可には、クリーンエネルギーが必要となる場合があります。場所によっては、データセンターの密集する場所や大規模なデータセンターにより電力密度が高くなることから、データセンターの規模やデータセンターの許容数が制限されます。衛星、赤外線、マイクロ波などの通信テクノロジーに対しても建築規制の条件がある場合があります。

• 関税の規制、通関手数料、関税率:これらの要件は、建設中および建設後の設備の輸出入に影響することがあります。

優遇措置開発推進地域および商業優先地域では、大規模な建設プロジェクトを誘致するため、一般に優遇措置が講じられています。プロジェクト誘致によって、家計収入の基となる雇用が多数創出され、教育や医療などの地域社会資源への投資が産み出され、長期的に安定した税収入が得られるようになるためです。地域、

国、地方の優遇措置によって、課税や他のコストを相殺することができます。

インテルの経験では、優遇措置は、土地、現金、減税、または課税の繰り延べという形がとられます。優遇措置は、関税、研修、許認可などのサービス提供の場合もあります。例えば、郡によっては、交通影響負担金や許認可手数料を免除することがあります。また、地域によっては、テクノロジーの導入やエネルギー削減に対して税額控除が提案される場合があります。ほかにも、光電池(太陽電池)の使用が、返金または優遇措置の対象となる場合があります。しかし、太陽光発電にはMW当たり20,200平方メートル(5エーカー)が必要となり、優遇措置が得られても、その分必要な用地代を賄えるとは限りません。

データセンターの選定時には、候補に挙がっている各地域の優遇措置のうち、今までに実施されたことがあるものついて調査します。次に、候補地を数カ所に絞り、候補地を管轄する地元の開発局と話し合いの場を持ち、詳細の把握、提案の要請、対案の提示を行います。

ただし、優遇措置は、多数ある検討事項のうちの 1つに過ぎないので、インテルの分析ではそれほど重要視しません。インテルのアセンブリー・テスト部門、前ジェネラル・マネージャー Brian Krzanichは、「政府の優遇措置は、現れてはすぐ消える。長期的観点から決定を下す必要がある」と述べています。

基準を分析するための方法論

関連する立地選定基準をすべて調査するのは大変なことだと、最初は思うかもしれません。しかし、私たちの分析のための体系的アプローチは、矛盾が発生することもある多様なデータを扱うには十分合理的です。インテルには、多数の候補地リストからいくつかの候補を絞り込むまでの間に行う、明確に定義されたプロセスがあります。定量分析を使用してデータを情報と洞察に変換することで、情報に基づいた意思決定ができるようになります。

立地選定プロセスの概要

インテルでは、立地の選択に、図 1に示すプロセスを使用します。データセンターの必要が生じた時点で、まず、プロジェクトの対象範囲を定義します。それから立地選定プロセスを開始します。本資料で取り上げてきた基準を使用して、世界中の立地候補地から、具体的な数カ所の場所に調査の対象を絞り込みます。候補地リストが用意できたら、その候補地のインフラストラクチャーを評価し、可能であれば、適切な行政機関との間で優遇措置の交渉を行います。この段階で、各候補地の包括的な正味現在コストを算定し、インテルの意思決定者に推薦します。

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立地を選定したら、その土地を購入し、建設管理者にプロジェクトを引き継ぎます。建設管理者は、そのプロジェクトが、データセンターの建設および運用の対象範囲、スケジュール、予算要件に適合していることを確認する必要があります。

定量分析

絞り込まれた候補地リストに含まれる場所の詳細な分析に当たっては、インテルの複数のビジネスグループのコンテンツ・エキスパートに参加してもらっています。コンテンツ・エキスパートは、さまざまな地域に散在するそれぞれの現場で、現在および将来的に予想される状況を調査します。スプレッドシートを使用して、検討中の場所と各立地選定基準を照らし合わせてスコア化し、ランク付けします。一般的な基準カテゴリー(公共サービス、環境災害など)ごとにタブを作成し、評価システムを開発します。そして、タブに含まれる各項目ごとにランク付けを行います。

表 1は、公共サービス・インフラストラクチャーを評価するスプレッドシートのサンプルです。複数の立地オプションを基準ごとにスコア化し、適宜メモを記録します。表 2は、ランク付けシステムの例です。タブの各評価列の下部に、スコアの合計と平均値が表示されます。

タブと評価の記入が完了したら、表 3に示すように重み付けシステムを使用して、個々のすべての評価を最適な立地を実現するための全般的な提案にまとめます。

この重み付けシステムを使用して、新しい施設を設置する候補として挙がっている181カ国をランク付けして振るいにかけ、24カ国のみに絞ることができました。管理しやすい数に絞り込むことで、より詳細な分析が可能になります。重み付けシステムを使用することで、経済規模が小さかったり、物価の高い国、リスク(個人、輸送、財産、企業に関するリスク)の高い国、人材レベルや雇用創出の可能性が低い国を除外できます。

表 3. 重み付けシステムの例

カテゴリー 重み付け 説 明人材 45% • 工学部卒業生および学校のランクコスト 25% • 1人当たりの国内総生産 - 18%

• 国の国内総生産 - 7%

リスク 15% • 個人および企業のリスクハイテク関連の雇用創出 15% • 地域経済によって創出されるハイテク関連の雇用(地域にハイテク関連

企業の雇用者がほかにもいることは、人材供給源が確立されていることを示唆するため、適した環境です)

表 2. ランク付けシステムの例

ランキング 定 義 解決パス

1 高リスク• 潜在的な致命的問題• 解決パスが策定されていない• 即時の対応が必要

2 中リスク • 詳細な解決パスが策定されているが、完全には立証されていない• 成功に対する高い信頼性

3

低リスク • 十分に立証された可能性• 境界条件を満たしているか超えている4

5

表 1. 公共サービス・インフラストラクチャーのスプレッドシートの例

公共サービス・ インフラストラクチャーの パラメーター

スコア

オプション1 オプション2 解決パス

電力の信頼性電力の品質代替エネルギーオプション電気料金電力インフラストラクチャーのコスト電力インフラストラクチャーのタイミング利用可能な電力量公共サービス負荷率電力会社の財政的安定性民営化/規制緩和/独占電力のカスタマーサービス最新式の電源装置電力リソースの将来における安定性電気系統の詳細水の信頼性水道インフラストラクチャー・コスト水道インフラストラクチャーのタイミング下水道の信頼性下水道インフラストラクチャー・コスト下水道インフラストラクチャーのタイミング天然ガスの信頼性および容量天然ガス料金

合計スコア平均スコア

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まとめ

インテルが成長してデータセンター施設への投資が必要になった場合、投資回収率(ROI)を最大化できるように、一連の立地選定基準が使用されます。これらの基準を使用すれば、建設費や維持費を最適化し、社内顧客のコンピューティング要件およびサービス要件を満たし、将来の拡大にも対応できる立地選択が可能となります。

立地選択において最も重視すべき基準は以下のとおりです。

• 環境条件:その地域の気候や過去の自然災害歴

• ワイド・エリア・ネットワーク:ファイバー回線および通信インフラストラクチャーの可用性とコスト

• 電力:電力インフラストラクチャーの可用性とコスト

また、立地レベルの基準(用地取得、脅威や資源の近接度、建築環境に関連する要素)や、社会経済、労働力、行政(規制、税制、優遇措置など)の各基準についても検討します。

すべてに完璧な立地は存在しませんが、明確に定義されたインテルの立地選択プロセスと、検討すべき要素およびトレードオフの定量分析によって、建設前からデータセンターの寿命が尽きるまでの期間に最も大きな利益をもたらす立地の選定が可能になります。

関連情報

関連トピックの情報については、http://www.intel.co.jp/itatintel/ を参照してください。

• 『Facil i t ies Design for High-density Data Centers』

• 『業務改革に向けたインテル IT部門のデータセンター戦略』

• 『Improving Business Continuity with Data Center Capacity Planning』

事後分析

インテルの情報収集と分析は、立地を選定した後も続けられます。前提と決定内容を検証するために、建設されてから数年経過したデータセンターの運用効率が分析されます。この事後分析によって、洞察はさらに深まり、今後の立地選定プロセスの精度は高まります。

例えば、拡大を続けている現場で、無停電電源装置のバッテリーの交換時期が当初の予測より早くなり、有害廃棄物の許容割り当てを超過しかねない事態が発生したことがあります。バッテリー交換の追跡は細かいことのように思われるかもしれませんが、現場の許容量を把握することの必要性を浮き彫りにしています。ここには、データセンターの拡大時に何が追加され、その拡大によって派生する問題を把握することがいかに重要かが示されています。

協力者Tom Parsley インテル IT部門 DCMエンジニアリング・マネージャー

略 語AHJ 管轄当局EDA-MIPS Electronic Design

Automation–Meaningful Indicator of Performance per System

Gbps ギガビット/秒LNG 液化天然ガスMPOE メインのエントリー

ポイントMW メガワットRH 相対湿度UPS 無停電電源装置

インテル IT部門のベスト・プラクティスの詳細については、 http://www.intel.co.jp/itatintel/ を参照してください。

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本資料に掲載されている情報は、インテル製品の概要説明を目的としたものです。本資料は、明示されているか否かにかかわらず、また禁反言によるとよらずにかかわらず、いかなる知的財産権のライセンスも許諾するものではありません。製品に付属の売買契約書『Intel's Terms and Conditions of Sale』に規定されている場合を除き、インテルはいかなる責任を負うものではなく、またインテル製品の販売や使用に関する明示または黙示の保証(特定目的への適合性、商品適格性、あらゆる特許権、著作権、その他知的財産権の非侵害性への保証を含む)に関してもいかなる責任も負いません。

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