大規模渦構造の操作による旋回同軸噴流混合の能動制御Active control of swirling coaxial jet mixing with manipulation of large-scale vortical structures
伝学 * 齋木 悠 (東大院) 伝正 鈴木 雄二 (東大工) 伝正 笠木 伸英 (東大工)
Yu SAIKI, Yuji SUZUKI and Nobuhide KASAGIDept. of Mech. Eng., Tokyo Univ., Hongo 7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656
Large-scale vortical structures and associated mixing in methane/air swirling coaxial jets are actively controlled by manipulating the outer shear layer of the outer swirling air jet with miniature flap actuators. As a result, intense vortex rings are produced in the outer shear layer in phase with the periodic flap motion re-gardless of the swirl rate tested. Vortical structures in the inner shear layer, however, are strongly dependent on the swirl rate. At a relatively low swirl rate, the inner vortices are shed continuously and the central meth-ane jet is pinched off. This particular mode of methane jet breakdown promotes the mixing of methane and air, so that a local flammable mixture can be formed in an earlier stage of jet flow development.
Key Words: Swirling Jet, Mixing Control, Stereoscopic Particle Image Velocimetry, Laser-Induced Fluorescence
1. 緒言
オンサイト発電用マイクロガスタービンなどで使用される
小型燃焼器では,大きな負荷率の変動に伴い,燃焼効率の低
下,窒素酸化物排出の増加,火炎不安定性の発生が懸念される.
一方で,燃焼現象は,熱・物質・運動量の輸送・拡散に強く
依存するため,流動構造の積極的な制御により,燃焼特性を
著しく改善できる可能性がある.栗本ら (2008) [1] は,同軸噴
流ノズル内壁に,フラップ型アクチュエータ群を配備し,大
規模渦構造の操作を通じて,燃料・空気混合を柔軟に制御し,
異なる負荷条件において,一酸化炭素排出量および発熱率変
動を改善できることを示した.しかしながら,より実用的な
制御手法の提案は,実機に近い流動場での制御の試行により,
初めて保証されると考えられる.そこで,本研究では,同ア
クチュエータをガスタービン燃焼器内で多用されるメタン・
空気旋回同軸噴流場に適用し,形成される渦構造とそれに伴
う混合機構を定量的に解明することを目的とした.
2. 実験装置・計測手法
図 1 に,供試ノズルを示す.内側ノズル (Di = 10 mm) から
はメタンが,外側ノズル (Do = 20 mm) からは,案内羽式の軸
流旋回器を通過した空気が噴出され,自由旋回同軸噴流を形
成する.1 kW クラスの燃焼器を対象として,環状噴流のバル
ク平均流速 Um, o に基づくレイノルズ数 Re (= Um, oDo/no) は 2400,運動量流束比 m (= roUm, o
2/riUm, i2) は 42 に設定した.旋回流によ
る保炎機構は,速度減衰および再循環流を利用するものに大
別される [2].ここでは,まず,本制御手法を,速度減衰機構
を用いた旋回流バーナへ適用することを想定し,スワール数 Sが,再循環領域が形成される臨界スワール数 Scr (= ~ 0.6) [2] よ
18 Flap actuators
Permanent magnet
Stainless tube
Axial-blade Swirler
D = 20 mmo
D = 10 mm (t = 0.3 mm)i
100 mm
Contraction nozzleCH
4
Air
Air
z
r
Fig. 1 Test coaxial jet nozzle: (a) flap actuators equipped inside the nozzle, (b) axial-blade swirler, and (c) side view.
(a) (c)
(b)
Fig. 2 Schematic of measurement setup.
りも低い,0.2 および 0.4 の旋回器を配備した.フラップ型ア
クチュエータは,旋回器下流の外側ノズル内壁に 18 枚配置し,
環状旋回噴流の外側せん断層に攪乱を直接投じる.実験を通
じて,全てのフラップは同位相で駆動し,フラップ駆動周波
数 faで定義されるストローハル数Sta (= faDo/Um, o) を変化させた.
図 2 に,計測装置概略図を示す.制御機構の解明には,ス
テレオ粒子画像流速計 (Stereo-PIV) による 3 成分速度場および
平面レーザ誘起蛍光法 (PLIF) による燃料濃度場計測を用いた.
Stereo-PIV 画像の取得には,シャイムフラグ配置した 2 台の
フレーム・ストラドリング CCD カメラ (Lavision, Flowmaster3) を用い,撮影領域は,ノズル中心軸を含む断面内において,
50 x 80 mm2 に設定した.光源には,Nd : YAG レーザ (THALES, SAGA PIV20) を用い,シート光を形成した後,テストセクショ
ンに導いた.トレーサには,SiO2 粒子 ( 鈴木油脂工業,dp ~ 1.2 mm, rp = 215 kg/m3) を選択した.相互相関処理による速度ベク
トルの算出は,Lavision 社製 Davis により行い,ベクトル空間
解像度は 0.8 x 0.8 mm2 である.
PLIF 計測のトレーサには,アセトン蒸気を用い,中心メ
タン噴流に混入した.励起光源には,Nd : YAG 第二高調波励
起の色素レーザ (Lambda Physic, SCANmate2C) を使用し,波長
283.0 nm のシート光を形成した後,ノズル中心軸に導いた.ア
セトン蛍光の取得は,ICCD カメラ (Lavision, Flamestar2F) によ
り行い,空間解像度は,0.4 x 0.4 mm2 である.
3. 実験結果
3. 1 スワール数の影響 図 3 に,S = 0.2, 0.4 における,非制
2CCD cameras
for Stereo-PIV
(1280 x 1024)
AirAir
CH
Honey-comb
and mesh
Trigger converter &Camera controlers
Frequency-doubled
Nd: YAG LASER
(λ = 532 nm)
Lasersheet
Sheetoptics
Wind
shields
Quartz
windows
HEPA filter
Test section
(800 x 600 x 600 mm )3
PTU
ICCD camerafor PLIF(576 x 384)
Nd: YAG laser pumpedDye LASER(Rhodamine 590,
λ = 283 nm)
Personalcomputer
Prism
4
Exhaust
Electric
power supply
r/Do
1 m/s
0.0 0.5 1.0-1.0 -0.5
r/Do
0.0 0.5 1.0-1.0 -0.5
1 m/s
1.8
-1.8
W [m
/s]
2.0
1.5
1.0
0.5
z/D
o
2.0
1.5
1.0
0.5
z/D
o
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0 0.50.5
14
12
10
8
6
4
2
0
-Q/(U
/D )
m, o
o2
2
z/Do
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0 0.50.5r/Dor/Do
z/Do
(a) (b)0.4
0.3
0.2
0.1
0.00.80.60.40.20.0
r/Do
z/Do = 3.0 Uncontrolled
Sta = 0.3
Sta = 0.5
Sta = 0.7
Sta = 1.0
Sta = 1.6
˜ c +′
c
()2
0.15
0.10
0.05
0.00
c
0.80.60.40.20.0
r/Do
z/Do = 3.0 Uncontrolled
Sta = 0.3
Sta = 0.5
Sta = 0.7
Sta = 1.0
Sta = 1.6
(a) (b)
(a) (b)
Fig. 3 Mean velocity field of uncontrolled swirling coaxial jet in longitudi-nal cross-sectional plane: (a) S = 0.2, and (b) S = 0.4.
Fig. 5 Phase-averaged velocity field and contours of Q (<0) in swirling co-axial jets controlled with Sta = 1.0: (a) S = 0.2, and (b) S = 0.4.
Fig. 6 Radial distribution of mixture fraction in uncontrolled/controlled swirling jet (S = 0.2) at z/Do = 3.0: (a) mean, and (b) rms fluctuation.
Fig. 7 PDF of mixture fraction in controlled swirling jet with S = 0.2 at z/Do = 3.0 and r/Do = 0.0: (a) Sta = 0.3, and (b) Sta = 1.0.
御噴流の中心軸断面内での平均速度場を示す.接線方向速度
W の最大値は,S = 0.2 および 0.4 において,それぞれ ~0.4Um, o
および ~0.6Um, o である.スワール数が高い程,噴流幅は広がり,
せん断層の発達が早い.また,図 4 に,非旋回および旋回噴
流における,中心軸上流れ方向速度分布を示す.旋回同軸噴
流では,ノズル近傍において,中心噴流の縮流・加速が生じ,
その影響は,旋回強度の増加とともに大きくなる様子が分か
る.これは,環状噴流の接線方向速度成分により,噴流中心
部において圧力が低下すると共に,負の流れ方向圧力勾配が
形成されるためである [3]. 以上の特徴を有する旋回同軸噴流に対し,制御を試行した.
図 5 に,S = 0.2, 0.4 における制御噴流 (Sta = 1.0) の位相平均速度
場および渦運動を表す速度勾配テンソルの第二不変量 Q が負
となる領域の等値線図を示す.フラップ運動により,環状旋
回噴流の外側せん断層内 (r/Do = ~ 0.5) において,スワール数に
依らず大規模渦輪を連続的に誘起できることが分かる.一方
で,中心流体の輸送に支配的な役割を果たす内側せん断層内 (r/Do = ~ 0.25) の渦構造は,旋回強度に大きく依存し,スワール
数が高い S = 0.4 では,強い渦を形成できない.これは,中心
噴流の加速に伴い,ノズル近傍の運動量流束比roUo2/riUi
2 が著
しく低下するためと考えられる.一方で,S = 0.2 では,非旋
回時 [1] と比較し渦強度が弱まるものの,中心噴流の加速が小
さく,内側せん断層内の渦輪生成を制御できることが分かる.
3. 2 ストローハル数の効果 以後は,内外せん断層に比較的
強い渦構造を形成できる S = 0.2 の旋回噴流を対象にし,スト
ローハル数を変化させた場合の,メタン・空気混合特性を考
察する.図 6 に,z/Do = 3.0 におけるメタン体積混合分率 c の平均値および乱れ強度を示す.Sta << 1.0 では,径の大きい渦
が放出されるため ( 図省略 ),メタン流体は,半径方向に大き
く輸送される.一方で,Sta ≧ 1.0 では,内側せん断層付近で
のみ局所的に混合が促進され,層状混合気を形成でき,また,
ストローハル数の違いにより,渦径を調整し ( 図省略 ),輸送
範囲も制御可能である.メタン・空気の可燃限界が,0.05 ≦
c ≦ 0.15 であることを考慮すると,制御により早期に可燃混
合気を形成できると言える.またこのとき,全ての制御噴流
において,乱れ強度は,非制御噴流と比較し小さい.ここで,
濃度乱れに関して詳細に考察するため,図 7 に,z/Do = 3.0 の
噴流中心軸位置で取得した,制御噴流 (Sta = 0.3, 1.0) における瞬
時濃度の確率密度関数 (PDF) を示す.まず,ストローハル数が
低い Sta = 0.3 では,渦生成が連続的でないため,c ~ 0.0 の確率
が高く,混合気の到来が間欠的であることを示している.こ
れに対し,Sta = 1.0 では,c ~ 0.15 にピークを持つ.従って,本
制御手法では,Sta ≧ 1.0 の制御により,渦を連続生成し,早
期に濃度乱れの小さい可燃混合気を形成できると言える.
4. 結言
本研究では,メタン・空気旋回同軸噴流場にフラップ型ア
クチュエータを適用し,大規模渦構造とそれに伴う混合機構
の能動制御を行った.以下に得られた知見を示す.
1. 制御に伴い内外せん断層に誘起される大規模渦輪の様相は,
旋回強度に強く依存し,スワール数が高い条件では,中心流
体の輸送に支配的な役割を果たす内側せん断層内の渦強度が
顕著に低下する.これは,環状噴流の接線方向速度成分によ
り,噴流中心上に負の圧力勾配が形成され,中心噴流が加速し,
ノズル近傍における運動量流束差が小さくなるためである.
2. 一方で,スワール数が低い条件では,中心噴流の加速が小
さいため,渦輪を連続的に放出することで中心流体の輸送を
促進でき,早期に濃度乱れの小さい可燃混合気を形成可能で
ある.さらに,フラップ駆動周波数を変化させることで,渦
径を調整し,噴流中心軸付近において混合特性を制御できる.
本研究を遂行するにあたり,文部科学省 GCOE「機械システム・イ
ノベーション」による支援を受けた.ここに記して謝意を表する.
参考文献
(1) 栗本・他 3 名,機論 (B),74-744 (2008), 1843.(2) Gupta, A. K. et al., Swirl flows, (1984). (3) Champagne, F. H. and Kromat, S., Exp. Fluids, 29 (2000), 494.
20
15
10
5
0
PD
F
1.00.80.60.40.20.0
c
z/Do = 3.0
r/Do = 0.0
Sta = 0.3
20
15
10
5
0
PD
F
1.00.80.60.40.20.0
c
z/Do = 3.0
r/Do = 0.0
Sta = 1.0
(a) (b)
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
u/U
m,
o
2.01.51.00.5
z/Do
No swirl
S = 0.2
S = 0.4
Fig. 4 Distribution of mean streamwise velocity along the jet axis in uncon-trolled jet.