Download - 高齢者の健康課題の経時的変化に影響を与える要因の検討...2020/05/04 · 高齢者の健康課題の経時的変化に影響を与える要因の検討 ~高齢者の医療・保健事業と介護事業の一体的な実施にむけた
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高齢者の健康課題の経時的変化に影響を与える要因の検討
~高齢者の医療・保健事業と介護事業の一体的な実施にむけた
地域健康課題の分析~
(いきいき 100 歳体操データ編)
報告書
兵庫県立大学 地域ケア開発研究所
令和2年5月
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目次
Ⅰ. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅲ.分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅳ.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(1)洲本市における日常生活圏域の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(2)5圏域別の年齢分布(初回体力測定時)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
(3)5圏域別の基本チェックリストの分布(初回体力測定時)・・・・・・・・・・ 7
(4)介護度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(5)体力測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(6)5圏域別の MFS得点の分布(初回体力測定時)・・・・・・・・・・・・・・・13
(7)その他の体力測定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(8)年齢の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(9)運動機能(Moter Fitness Scale)の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(10)歩行速度(Time Up & Go)の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
(11)100歳体操参加を調整変数とした、年齢が MFS得点に与える効果・・・・・・・23
(12)100歳体操参加を調整変数とした、年齢が移動能力に与える効果・・・・・・・24
(13)100歳体操参加の予測モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
Ⅴ.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
謝辞
資料
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1
Ⅰ. 目的
2019 年現在、我が国における 65 歳以上人口は推計 3588 万人、高齢化率 28.4%であり、
世界一の超高齢社会となっている。健康寿命延伸に向け、2006 年度からは全国の自治体で
介護予防事業が開始し、さらに、近年は、加齢に伴う心身の機能低下の状態をいう「フレイ
ル」の予防事業が注目されている。
洲本市は、淡路島の中部に位置する人口 43,667人、高齢化率 34.2%(2019年 5 月時点)
の市である。現在 65歳~75歳の人口が 7326人(65歳以上人口の 49.0%)を占め、これら
の高齢者が 75~85 歳となる 2030 年に向け、介護予防および介護保険計画策定に緊急の課
題として取り組む必要が生じている。
そこで、我々は、洲本市における住民主体の体操の場である「いきいき 100歳体操」に着
目し、参加者の体力測定結果および基本チェックリストの結果を分析することで、100歳体
操の継続に関係する要因分析するとともに、洲本市における日常生活圏域別の地域課題を
抽出し、フレイル予防対策の一助とすることを目的とした。
Ⅱ.方法
洲本市および兵庫県立大学との間で「洲本市における健康課題の抽出のためのデータの
解析に関する委託契約書」を締結し(2020年 1月 24日付)、個人情報を削除したデータ(非
識別加工データ)を洲本市介護福祉課から提供を受けた(2020年 2月 3日付)。尚、本調査
は兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理審査委員会の承認を受けて実施し
た。本報告書において分析結果を公表するデータ内容は、年齢、性別、体重、介護度、基本
チェックリスト 25項目、体力測定実施日、Moter Fitness Scale(運動機能)得点、膝伸展
筋力/体重比(%)、椅子体前屈(cm)、Time Up & Go(歩行速度)(秒)、開眼片足立ち保持時間
(秒)である。
Ⅲ.分析
分析の対象となったのは、洲本市 85 か所のいきいき 100 歳体操で実施された 2407 名、
延べ 8917名の体力測定のデータである。分析には、データ分析ソフト R version 3.6.3を
用いた。分析方法は、記述統計および個人レベルと集団レベルを区別して効果を推定するマ
ルチモデル分析を用いた。
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2
Ⅳ.結果
(1)洲本市における日常生活圏域の概要
洲本市は、市民の生活実態や地域活動に合わせた地域包括ケアシステムの推進を目的と
し、北部東側(安乎・中川原・潮地区)、北部西側(五色地区)、中部東側(内町・外町・物
部・上物部・千草地区)、中部西側(加茂・納・鮎屋・大野地区)、南部(由良・上灘地区)
の5つの日常生活圏域を設定している(図1)。
図 1.洲本市における日常生活圏域の設定
安乎・中川原・潮地区
内町・外町・物部・上物部・千草地区 加茂・納・鮎屋・大野地区
由良・上灘地区 五色地区
五色 安乎
中川原
潮
加茂
納
鮎屋
大野
内町
外町
物部
上 物 部
千草
由良
上灘
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3
圏域別の人口、高齢者数、高齢化率、いきいき 100歳体操グループ数、参加者数は表1の
通りであった(人口・高齢者数・高齢化率は洲本市高齢者保健福祉計画及び第7期介護保険
事業計画,平成 30年3月を参考)。
表1.圏域別人口・高齢者数・高齢化率・グループ数・参加者数・平均年齢
地区名 人口 高齢者数 高齢化率 グループ 参加者 平均年齢
(人) (人) (%) (箇所) (人) (歳±SD)
内町・外町・物部
上物部・千草地区 13,449 4,778 35.5 32 934 76.4±7.6
加茂・納・鮎屋
大野地区 11,735 3,048 26.0 14 425 73.8±7.4
安乎・中川原
潮地区 6,579 2,459 37.4 11 320 75.1±7.4
由良・上灘地区
3,329 1,556 46.7 5 167 76.1±6.6
五色地区
9,817 3,391 34.5 23 561 76.3±7.9
いきいき 100歳体操のグループ数および参加者数は、内町・外町・物部・上物部・千草地
区が 32グループ、934人と最も多かった。一方、由良・上灘地区が5グループ、167人と最
も少なかった。また、参加者の平均年齢は、内町・外町・物部・上物部・千草地区が 76.4±
7.6歳と最も高く、次いで、五色地区 76.3±7.9歳、由良・上灘地区 76.1±6.6歳、安乎・
中川原・潮地区 75.1±7.4 歳、加茂・納・鮎屋・大野地区 73.8±7.4歳であった。
基本チェックリストの得点分布をみると、総合評価の平均値は 3.6±2.8点、運動機能 1.3
±1.2 点、栄養 0.29±0.5 点、口腔 0.8±0.9 点、閉じこもり 0.3±0.5 点、認知 0.6±0.7
点、うつ 1.0±1.4点であった。安乎・中川原・潮地区と五色地区に総合評価 10点以上の者
が多く含まれていた。
(2)5圏域別の年齢分布(初回体力測定時) ※外側は全圏域の分布
洲本市における5圏域別の年齢分布(図 2~図 6)、最大値・最小値・四分位数を図 7 に示
す。年齢の分布に大きな偏りはなかったが、加茂・納・物部・上物部・千草地区の中央値が
やや低く、五色地区の中央値がやや高かった。
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4
図 2.100歳体操参加者の年齢分布(内町・外町・物部・上物部・千草地区)
図 3.100歳体操参加者の年齢分布(加茂・納・鮎屋・大野地区)
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5
図 4.100歳体操参加者の年齢分布(安乎・中川原・潮地区)
図 5.100歳体操参加者の年齢分布(由良・上灘地区)
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6
図 6.100歳体操参加者の年齢分布(五色地区)
図 7.洲本市5圏域別の年齢の最大値・最小値・四分位数
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7
(3)5圏域別の基本チェックリストの分布(初回体力測定時)
基本チェックリストの得点分布を地区別で比較しやすいよう、図 8に頻度で示した。図 9
~図 13は、度数(人)で示したヒストグラムである。最大値・最小値・四分位数を図 14に
示す。基本チェックリストは 10点以上となった場合、介護予防ケアマネジメントの実施対
象となる。安乎・中川原・潮地区に総合得点 10点以上対象者が多く含まれていた。
図 8.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(全地区:頻度表示)
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図 9.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(内町・外町・物部・上物部・千草地区)
図 10.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(加茂・納・鮎屋・大野地区)
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9
図 11.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(安乎・中川原・潮地区)
図 12.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(由良・上灘地区)
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図 13.100歳体操参加者の基本チェックリスト得点(五色地区)
図 14.洲本市5圏域別の基本チェックリストの最大値・最小値・四分位数
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(4)介護度
初回体力測定時と最終体力測定時における介護度を図 15、図 16 に示す。初回は 2521 名
のうち 2417名(95.9%)が介護認定を受けていなかった。介護認定を受けているもののう
ち、要支援1が 40名(38.5%)、要支援2が 35名(33.7%)、要介護1が 19名(18.3%)、
要介護2が 8 名(7.7%)であった。最終は、2521 名のうち 2339 名(92.8%)が介護認定
を受けていなかった。介護認定を受けているもののうち、要支援1が 60名(33.0%)、要支
援2が 60名(33.0%)、要介護1が 34名(18.7%)、要介護2が 22名(12.1%)であった。
図 15.初回体力測定時介護度
図 16.最終体力測定時介護度
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(5)体力測定
初回体力測定(ベースライン)時、全体の平均年齢は 74.2±8.0歳であった。圏域別にみ
ると、平均年齢は、由良・上灘地区(75.0±6.6歳)、五色地区(75.0±8.2歳)で高かった。
Moter Fitness Scale(以下、MFSとする)は、14項目からなる質問票を用いて運動機能を
評価するもので、これまでの研究から男性で 11点以下、女性で 9点以下の場合、要介護認
定のリスクが 3.04倍であったと報告されている(※鶴ヶ谷プロジェクト)。MFS得点の平均
は 10.8±3.4点であった。由良・上灘地区の中央値が低かった。
膝伸展筋力/体重比の平均は 50.7±19.5%、椅子体前屈 13.9±9.8㎝、歩行速度 7.3±3.2、
開眼片足立ち保持時間 31.9±23.8秒であった(表2)。圏域別にみると、膝伸展筋力/体重
比の平均値は、加茂・納・鮎屋・大野地区が 54.8±17.6%と最も高く、椅子体前屈は由良・
上灘地区が 14.4±9.5cmと最も柔らかかった。歩行速度は、加茂・納・鮎屋・大野地区が 7.0
±2.4秒と早く、安乎・中川原・潮地区が 8.1±4.1秒と遅かった。
体側測定実施回数は、平均回数 3.5±2.6 回で、安乎・中川原・潮地区(3.8±2.7 回)、
五色地区(3.8±2.7回)と多かった。
表2. 初回体力測定(ベースライン)の結果と体力測定実施回数
内町・外町・物部 加茂・納・鮎屋 安乎・中川原
全体 上物部・千草地区 大野地区 潮地区 由良・上灘地区 五色地区
年齢
(歳)74.2±8.0 74.4±8.0 72.4±8.0 74.7±7.8 75.0±6.6 75.0±8.2
MFS
(点)10.8±3.4 10.6±3.5 11.3±3.1 10.2±3.9 9.8±3.7 10.5±3.5
筋力体重比
(%) 50.7±19.5 49.2±20.0 54.8±17.6 49.9±19.4 52.5±20.2 50.2±19.5
椅子体前屈
(cm)13.9±9.8 11.1±10.1 13.9±11.1 12.0±10.2 14.4±9.5 12.7±9.6
歩行速度
(秒) 7.3±3.2 7.6±3.8 7.0±2.4 8.1±4.1 7.6±2.7 7.8±2.9
開眼片足立ち
(秒) 31.9±23.8 28.4±22.9 37.5±23.2 30.9±23.9 30.7±23.5 28.7±23.6
測定回数
(回) 3.5±2.6 3.5±2.6 3.2±2.4 3.8±2.7 3.3±2.2 3.8±2.7
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(6)5圏域別の MFS 得点の分布(初回体力測定時)
MFS得点の分布を地区別で比較しやすいよう、図 17に頻度で示した。図 18~図 22は、度
数(人)で示したヒストグラムである。最大値・最小値・四分位数を図 23 に示す。MFS 得
点は、14 項目からなる質問票を用いて運動機能を評価するもので、これまでの研究から男
性で 11 点以下、女性で 9 点以下の場合、要介護認定のリスクが 3.04 倍であったと報告さ
れている(※鶴ヶ谷プロジェクト)。由良・上灘地区、安乎・中川原・潮地区に得点が低い
参加者が多く含まれていた。加茂・納・鮎屋・大野地区は得点が高い参加者が多かった。
図 17.100歳体操参加者の MFS得点(全地区:頻度表示)
※「地区高齢者に対する総合機能評価を目的とした健診の実施(鶴ヶ谷プロジェクト)」
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生分野(研究代表者:辻一郎氏)
(文献)星真行;Motor Fitness Scale と要支援・要介護発生リスクに関する前向きコホ ート研究,平成 25
年,東北大学大学院医学系研究科,博士学位論文, file:///C:/Users/Hayashi/Downloads/M1H253162.pdf
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図 18.100歳体操参加者の MFS得点(内町・外町・物部・上物部・千草地区)
図 19.100歳体操参加者の MFS得点(加茂・納・鮎屋・大野地区)
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図 20.100歳体操参加者の MFS得点(安乎・中川原・潮地区)
図 21.100歳体操参加者の MFS得点(由良・上灘地区)
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図 22.100歳体操参加者の MFS得点(五色地区)
図 23.洲本市5圏域別の MFS得点の最大値・最小値・四分位数
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(7)その他の体力測定結果
膝伸展筋力/体重比をみると、加茂・納・鮎屋・大野地区の中央値が最も高かった(図 24)。
これは筋力年齢ともいわれる指標で、70歳で 50%が目安とされている。身体の柔軟性の指
標となる椅子体前屈は、由良・上灘地区の中央値が最も高く、身体が柔軟であった(図 25)。
歩行速度の中央値は5圏域でほぼ同じであったが、安乎・中川原・潮地区、由良・上灘地区、
五色地区で歩行速度の遅い参加者が多かった(図 26)。身体のバランスの指標となる開眼片
足立ち保持時間は、加茂・納・鮎屋・大野地区の中央値が最も高く、身体バランスがよかっ
た(図 27)。
図 24.洲本市5圏域別の膝伸展筋力/体重比の最大値・最小値・四分位数
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図 25.洲本市5圏域別の椅子体前屈の最大値・最小値・四分位数
図 26.洲本市5圏域別の歩行速度の最大値・最小値・四分位数
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図 27.洲本市5圏域別の開眼片足立ち保持時間の最大値・最小値・四分位数
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(8)年齢の変化
図 28に、圏域別の年齢の推移を示す。全圏域において参加者の年齢は上昇傾向にあった
が、内町・外町・物部・上物部・千草地区、五色地区、由良・上灘地区の上昇の傾きが大き
かった。
由良・上灘地区は、体操グループの開始が 2012年 7月と遅かったことから、2020 年まで
の体力測定の実施は最大 10回であった。
図 28.圏域別の年齢の推移
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(9)運動機能(Moter Fitness Scale)の変化
内町・外町・物部・上物部・千草地区を除いた 4圏域で時間経過とともに得点が上昇して
おり、集団レベルでの参加者の運動機能の上昇が認められた。MFS の得点の傾きをみると、
加茂・納・鮎屋・大野地区と五色地区が同程度で、由良・上灘地区と安乎・中川原・潮地区
が同程度であった(図 29)。MFS得点は最大 14点で、得点が高いほど運動機能がよいことを
示す。
図 29.圏域別の Moter Fitness Scale得点の推移
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(10)歩行速度(Time Up & Go)の変化
Time Up & Goは5m間最大歩行時間で、値が低いほど移動能力が高いことを示す。安乎・
中川原・潮地区、加茂・納・鮎屋・大野地区、五色地区における歩行時間は時間経過ととも
に短縮しており、100歳体操参加による集団レベルでの移動能力の改善が推察された。歩行
速度の変化の傾きは、安乎・中川原・潮地区が最も大きかった(図 30)。
図 30.圏域別の歩行速度の推移
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5圏域は、年齢等の要因により母集団が異なっている可能性が考えられたため、マルチモ
デル分析により、個人レベルと集団レベルを区別して因果関係を推定した。運動機能(MFS)
および歩行速度は、年齢と参加回数の交互作用効果が有意であり、参加回数が多い場合と参
加回数が少ない場合で母集団が異なっている可能性が考えられた。そこで、参加回数が多い
条件と少ない条件、それぞれで回帰係数を分析した。
(11)100歳体操参加を調整変数とした、年齢が MFS 得点に与える効果
参加者の平均年齢を中心とし、平均値から1SD(標準偏差)高い点と1SD 低い点で回帰
係数をそれぞれ推定する方法(単純効果の分析)で、個人レベルの 100歳体操参加回数を調
整した場合の年齢が MFS得点(運動機能)に与える効果を検討した。分析結果を図 31に示
す。縦軸は MSF得点(範囲 1~14点)、横軸は年齢(平均値からの SDの差)をとっている。
MFS得点は、参加回数が多い場合と少ない場合、どちらの条件でも年齢が高くなるにつれて
負の方向(運動機能低下)で、その傾きは参加回数が少ない条件においてより大きかったが、
いずれの条件でも単純斜傾は有意ではなかった。
図 31.個人レベルの参加回数を調整した、年齢が MFS得点の変化に与える効果
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(12)100歳体操参加を調整変数とした、年齢が移動能力に与える効果
参加者の平均年齢を中心とし、平均値から1SD(標準偏差)高い点と1SD 低い点で回帰
係数をそれぞれ推定する方法(単純効果の分析)で、個人レベルの 100歳体操参加回数を調
整した場合の年齢が移動能力(Time Up & Go)に与える効果を検討した。分析結果を図 32
に示す。縦軸は歩行速度、横軸は年齢(平均値からの SDの差)をとっている。歩行速度は、
参加回数が多い条件では年齢が高くなるにつれて負の方向(移動能力改善)で、参加回数が
少ない条件では年齢が高くなるにつれて正の方向(移動能力悪化)であったが、いずれの条
件でも単純斜傾は有意ではなかった。
図 32.個人レベルの参加回数を調整した、年齢が移動能力の変化に与える効果
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(13)100歳体操参加の予測モデル
初回体力測定の結果をもとに、100 歳体操参加回数を予測するモデルを検討した。結果、
初回体力測定時、年齢が高い、男性、生活機能低下がある、うつがあると有意に参加回数が
少なくなり、運動機能低下がある、認知機能低下がある、口腔機能低下がある、栄養状態低
下があると参加回数が有意に多くなっていた。
男性 うつ
生活機能低下
運動機能低下
認知機能低下
口腔機能低下
継続参加
中断
栄養状態低下
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Ⅴ.まとめ
・グループ数および参加者数は、内町・外町・物部・上物部・千草地区が 34グループ、934
人と最も多く、由良・上灘地区が5グループ、167人と最も少なかった。
・初回体力測定参加時における参加者の平均年齢は、内町・外町・物部・上物部・千草地区
が 76.4±7.6歳と最も高く、加茂・納・鮎屋・大野地区が 73.8±7.4歳と最も低かった。
・基本チェックリスト得点の平均値は 3.6±2.8点で、由良・上灘地区でやや高かった。
・安乎・中川原・潮地区に基本チェックリスト総合得点 10点以上の者が多く含まれていた。
・MFS得点の平均値は 10.8±3.4点で、由良・上灘地区の平均値が 9.8±3.7点と最も低く、
加茂・納・鮎屋・大野地区の平均値が 11.3±3.1点と最も高かった。
・初回体力測定時、2521名のうち 2417名(95.9%)が介護認定を受けていなかった。
・初回体力測定時、介護認定を受けているもののうち、要支援1が 40名(38.5%)、要支援
2が 35 名(33.7%)、要介護1が 19 名(18.3%)、要介護2が 8 名(7.7%)であった。
・膝伸展筋力/体重比の平均値は 50.7±19.5%、加茂・納・鮎屋・大野地区が 54.8±17.6%
と最も高かった。
・椅子体前屈の平均値は 13.9±9.8㎝、由良・上灘地区が 14.4±9.5cmと柔軟であった。
・歩行時間の平均値は 7.3±3.2秒、加茂・納・鮎屋・大野地区の平均値が 7.0±2.4秒と最
も早く、安乎・中川原・潮地区の平均値が 8.1±4.1秒と最も遅かった。
・開眼片足立ち保持時間の平均値は 31.9±23.8秒であった。加茂・納・鮎屋・大野地区の
平均値が 37.5±23.2秒と最も長かった。
・体側測定実施回数は平均 3.5±2.6 回で、安乎・中川原・潮地区(3.8±2.7 回)、五色地
区(3.8±2.7回)と多かった。
・MFS得点は、参加回数が多い場合と少ない場合、どちらの条件でも年齢が高くなるにつれ
て負の方向(運動機能低下)で、その傾きは参加回数が少ない条件においてより大きかっ
たが、いずれの条件でも単純斜傾は有意ではなかった。
・歩行速度は、参加回数が多い条件では年齢が高くなるにつれて負の方向(移動能力改善)
で、参加回数が少ない条件では年齢が高くなるにつれて正の方向(移動能力悪化)であっ
たが、いずれの条件でも単純斜傾は有意ではなかった。
・体力測定回数を予測するモデルでは、初回体力測定時、年齢が高い、男性、生活機能低下
がある、うつがあると有意に参加回数が少なくなり、運動機能低下がある、認知機能低下
がある、口腔機能低下がある、栄養状態低下があると参加回数が有意に多くなっていた。
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謝辞
本研究の実施にご協力をいただきました全ての皆様に心から感謝申し上げます。特に、洲
本市役所介護福祉課畑山浩志様、高田渡課長様、竹内みづほ様、中山麻美様、川西千絵様、
津田真理子様、他職員の皆さまには、研究計画、委託契約およびデータ提供等におきまして
多大なるご支援をいただきました。また、地域ケア開発研究所増野園惠所長には、研究計画
から実施の全過程におきましてご助言をいただきました。さらに、国立循環器病研究センタ
ーの尾形宗士郎先生には、データ結合や分析において、大阪市立大学医学部付属病院の岡野
匡志先生には、研究計画やデータ解釈におきましてご助言をいただきました。感謝申し上げ
ます。
本研究は、科学研究費基盤研究(C)「介護予防へのモチベーション向上を目指した自立セ
ルフモニタリングシステムの有用性(研究代表者:林知里)」の一部として実施しました。
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資料
図 33.ID1~100までを抽出して表示した介護度の変化(個別表示)
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29
図 34.ID1~100までを抽出して表示した介護度の変化(全体表示)
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30
図 35.ID1~100までを抽出して表示した MFS得点の変化(個別表示)
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31
図 36.ID1~100までを抽出して表示した介 MFS得点の変化(全体表示)
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32
図 37.ID1~100までを抽出して表示した歩行速度の変化(個別表示)
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33
図 38.ID1~100までを抽出して表示した歩行速度の変化(全体表示)
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34
図 39.
5圏域別の年齢分布(女性のみ)
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35
図 40.
5圏域別の年齢分布(男性のみ)
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36
図 41.
5圏域別の MFS得点(女性のみ)
カットオフポイント:9点
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37
図 42.
5圏域別の MFS得点(男性のみ)
カットオフポイント:11点
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38
図 43.基本チェックリスト 最大値・最小値・四分位数(男女別)
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39
図 44.椅子体前屈 最大値・最小値・四分位数(男女別)
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40
図 45.歩行速度 最大値・最小値・四分位数(男女別)
-
41
図 46.膝伸展筋力/体重比 最大値・最小値・四分位数(男女別)
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42
図 47.5圏域別の年齢の推移(男女別)
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43
図 48.5圏域別 MFS得点の推移(男女別)
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図 49.5圏域別歩行速度の推移(男女別)
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研究チーム
代表 林 知里 (兵庫県立大学地域ケア開発研究所 教授)
増野 園惠 ( 同上 教授)
尾形宗士郎(国立循環器病研究センター 上級研究員)
岡野 匡志(大阪市立大学医学部附属病院 病院講師)
連絡先
公立大学法人兵庫県立大学 地域ケア開発研究所
〒673-8588 兵庫県明石市北王子町 13-71
電話 078-925-9605(代)
「高齢者の健康課題の経時的変化に影響を与える要因の検討
~高齢者の医療・保健事業と介護事業の一体的な実施にむけた地域健康課題の分析~」
(いきいき 100歳体操データ編)報告書
発行日 2020年5月
編集・発行 公立大学法人兵庫県立大学 地域ケア開発研究所
〒673-8588 兵庫県明石市北王子町 13-17
電話 078-925-9605(代)
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