平成24年度 次世代の科学技術を担う人材育成事業
福岡県
高校生科学技術コンテスト
総総合合問問題題・・物物理理
解解答答解解説説
受 験 番 号
氏 名
所 属 校 名
福岡県教育委員会
- 2 -
第1問(総合問題)
[出題のねらい] 現在,人類はエネルギー問題に直面している。
依存している化石燃料の枯渇,原子力発電の危
険性の問題などである。一方で,新しいエネル
ギー開発・研究も進んでいる。エネルギー問題
をテーマとして,問題文を読む理解力,思考力
などを問う出題をした。 [解答]
問1 (1) ⑤ (2) 1.9 m3 問2 (1) 産業革命による大量の化石燃料の
消費が始まったため。 (2) 人の多い環境では,その測定は局地的な
ものになるが,人の少ない環境では大気の
循環による二酸化炭素の拡散により,地球
全体の平均値を測定できるため。 (3) 夏と冬では,植物による光合成量に差が
あり,二酸化炭素の消費量にも差があるた
め。 問3 (1) 2.8MeV
(2) リチウム原子核:Mm
m
Q
アルファ粒子:Mm
M
Q
問4 (1) Ⅰ;25,Ⅱ;50,Ⅲ;5,Ⅳ;30 (2)
[解説]
先進国の経済や生活は,化石エネルギーに依
存している。化石燃料は何億年もかかってつく
られた有限の資源であり,あと数十年で枯渇す
ると言われている。しかし年々消費が増加,途
上国も経済拡大をめざし,枯渇がさらに早まる
ことは確実になってきている。
世界のエネルギー資源
資 源 採掘寿命
石 油 46 年
天然ガス 63 年
石 炭 119 年
ウラン 69 年
(OECD エネルギー統計 2009)
埋蔵量の少ない産油国はあと 20 年で原油資
源の枯渇が見込まれており,その時,産油国
(OPEC)は大幅な輸出削減に走ると見られてお
り,石油に過剰に依存している世界経済の崩壊
は避けられない状態になっている。 さらに化石エネルギーの大量消費で二酸化炭
素が急激に増加し地球温暖化が進行し,異常気
象,海面上昇,洪水,食糧不足,環境難民増加
など深刻な問題が発生するという事も考えられ
ている。 問1 近年,メタンハイドレートと呼ばれるメタン
の水和物が,日本近海の海底に多量に存在する
ことが明らかになった。メタンハイドレートは
新しいエネルギー資源としてその有効利用に大
きな期待が寄せられている。 氷の中では水分子の酸素原子は,ダイヤモン
ドの中の炭素原子に似た配列をとる。すなわち
図 1 に示すように 1 つの酸素原子のまわりに 4つの水素原子が正四面
体状に配置している。
水素原子は近接する 2つ
の酸素原子の間に位置
し,水分子間に水素結
合が形成されている。 水中における水分子は,水素結合によって周
りの水分子と会合し,分子の集団を形成する。
このような分子の集団はクラスターと呼ばれる。
液体の水を冷却すると,水分子間の水素結合が
切断されにくくなるため,クラスターのサイズ
が大きくなり,やがて氷の結晶へと成長する。
水中にメタンのような疎水性分子が存在する と,水分子は疎水性分子
を取り囲むようにしてク
ラスターを形成する (図2)。メタンハイドレート
の結晶では,水分子がメ
タン分子の周りを“かご”状に取り囲んだ構造をと
ることが知られている。
(0.5 キロルクス) (12 キロルクス)
- 3 -
メタンハイドレートの見た目は氷に似ている。
1 m3のメタンハイドレートを1気圧の状態で解
凍すると 164 m3 のメタンガスと水に変わる。
解凍する前のメタンはメタンハイドレートの体
積の 20 %に過ぎず,他の 80%は水である。分
子式は CH4•5.75H2O と表され(CH4 8 個につ
き H2O は 46 個),密度は 0.91 g/cm3である。
火をつけると燃えるために「燃える氷」と言わ
れることもある。 現在,日本近海等に多量の鉱床が見つかって
いるが,低温・高圧の条件でなければ CH4が海
中から空気中に放出されてしまうため(下図)に,
現有の採掘技術では回収できないという問題点
もある。
コスト面の問題もあるため,これからの課題
はいかに効率よく回収できるか,ということに
なる。 (1) メタンの構造は次の電子式でもわかるよ
うに,正四面体形であることが知られている。
C HH
HH
C
H
H
ClCl
もし,メタンが次のような正方形であった
なら,ジクロロメタン CH2Cl2には 2 種類の
異性体が存在することになるが,実験的事実
からジクロロメタン CH2Cl2 には異性体が存
在しないことがわかっているので,メタンは
正方形ではなく,正四面体形であることがわ
かる。
C
H
Cl Cl
H
C
HCl
ClH
メタンが正方形なら2 種類の異性体が存在する。
(2) 単位格子 1.70×10-21 cm3中に 8 個の CH4
と 46 個の H2O を含んでいるので,8CH4・
46H2O が 1 組と考えると,1 mol の個数は
6.0×1023 個,分子量は 8×16 + 46×18 = 956 よ
り,メタンハイドレートの密度 d〔g/cm3〕を求
めることができる。 1.70×10-21×d〔g〕 → 1 組 956 g → 6.0×1023組 比例計算より, 1.70×10-21×d×6.0×1023 = 956×1 ∴ d ≒ 0.937 g/cm3 つまり,メタンハイドレート 10 kg は,
0.937
1010 3cm3の体積をもつことになる。
また,単位格子 1.70×10-21cm3中に CH4は,
23106.08
mol 含まれているので,0.937
1010 3cm3
では,
2321
3
106.08
101.701
0.9371010
≒ 83.7 mol
よって,標準状態における CH4は, 83.7×22.4 = 1874 L ≒ 1.9 m3
[別解] 分子量より,メタンハイドレート 956 g 中
に CH4を 8 mol 含むことになるので,10 kg
では, 8956
1010 3
≒83.7 mol 含む。
問2 産業革命以降,特に 20 世紀に入ってからは
急速に,二酸化炭素,メタン,人工物質である
ハロカーボン類などの温室効果ガスが増加しつ
つあり,これがもたらす地球温暖化は,自然の
生態系や人間社会に大きな影響を及ぼし,人類
の生存基盤を揺るがす問題となっている。 このため,現在では,気候変動に関する政府
間パネル(IPCC)第 27 回総会(2007 年,スペイ
ン・バレンシア)において,IPCC 第 4 次評価報
告書統合報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに,統合報告書本編が受諾さ
れた。これら大気成分の濃度変化について世界
各国の協調のもとで組織的な観測・監視が行わ
れている。 工業化以後における大気中の二酸化炭素濃度
上昇の主要な原因は化石燃料の使用であり,土
地利用の変化も重要ではあるがその影響は小さ
い。化石起源の二酸化炭素の年間排出量は,
1990 年代の年当たり炭素換算で 64 億 t(二酸化
- 4 -
炭素換算で235億 t)から,2000~2005年には,
年当たり炭素換算で 72 億 t(二酸化炭素換算で
264 億 t)に増加した。土地利用の変化に関連す
る,1990 年代の二酸化炭素の平均排出量は,年
当たり炭素換算で 16 億 t(二酸化炭素換算で 59億 t)と推定されるものの,この推定には大きな
不確実性を伴う。(IPCC,2007 報告書より)。 (1) 大量の化石燃料の消費が始まるのは,18世紀後半のイギリスに始まる産業革命以降で
あるが,大気中の二酸化炭素濃度もそのころ
から増加が始まっている。さらに近年になる
と,図に見られるように,化石燃料からの二
酸化炭素排出量の増加に対応してその大気中
濃度は増加し続けていることは明らかである。 (2) 都会では二酸化炭素の排出量が多く,その
地域での観測は局地的な二酸化炭素濃度の測
定になってしまうが,人の少ないところでの
観測では大気の循環によって二酸化炭素が拡
散され,地球大気全体の平均値を測定できる。 問3 「ホウ素中性子捕捉治療」では,ガン細胞に
ホウ素 B105 を取り込ませて,放射線の一種であ
る中性子線n (熱中性子)を人体に影響が少ない
低エネルギーで照射する。すると,ホウ素と中
性子が反応してアルファ粒子 42Heが出る(次図)。
105B + n → 7
3Li + 42He ・・・(a)
アルファ粒子には細胞を殺す強いはたらきが
あり,飛距離は,細胞 1 個分以下と短いので,
まわりの正常細胞に影響を与えず,そのガン細
胞だけを殺すことができる。一般的な放射線療
法は,ガン組織全体に治療効果のある放射線を
当てるため,ガン細胞周辺の正常細胞も傷つく
が,ホウ素中性子捕捉療法は,原理的には,ガ
ン細胞だけを選択的に殺して,正常細胞をほと
んど傷つけない画期的な治療法といえる。 ガン細胞は増殖力が強いため,正常細胞より
もホウ素化合物を多く取り込みやすいという性
質を利用し,アミノ酸とホウ素の化合物
BPA(p-Boronophenylalanine)を患者に点滴す
ることにより患部にホウ素を取り込ませる。 また,中性子の発生源は,これまで原子炉だ
けであったが,最近では中性子源として小型加
速器の開発も進んでいる。加速器は,陽子や電
子などの粒子を加速して飛ばす装置で,円形や
直線の加速器でつくった陽子線を,ベリリウム
やリチウムなどの金属に当てたときに生じる中
性子線を利用する。加速器は原子炉よりも操作
が簡単で,病院の建物内にも設置できる。臨床
研究が飛躍的に進み,実用化への大きな一歩に
なると期待されている。 (1) (a)において,ホウ素10
5Bの原子核 1 個が反応
するときの反応の前後での質量の減少分⊿m は, ⊿m=(10.01020+1.00866)-(4.00151+7.01436)
=0.00299〔u〕 1u の質量をエネルギーに換算すると
9.3×102MeV であることから,放出されるエ
ネルギーQ は, Q=⊿m×9.3×102 = 0.00299×9.3×102 ≒2.8〔MeV〕
(2) 反応後のリチウム原子核の速さを V,アル
ファ粒子の速さを v とする。このとき,問題
文よりわかる関係を整理すると,次のように
なる。 ・リチウム原子核の運動量の大きさとアルファ
粒子の運動量の大きさが等しい(運動量保
存則) MV=mv
・Q がすべてリチウム原子核とアルファ粒子
の運動エネルギーに変換された(エネルギ
ー保存則)
Q= 21 MV2
+ 21 mv2
これらの式より,
21 MV2
=Mm
m+
Q
21 mv2
=Mm
M+
Q
- 5 -
問4 バイオマスエネルギーは,石油のような枯渇
性資源を代替しうる非枯渇性資源として注目さ
れている他,二酸化炭素(CO2)の総排出量が増
えないと言われていることから,おもに自動車
や航空機を動かす石油燃料の代替物として注目
されている。しかし,バイオマスエネルギーが
普及するにあたり,以下の課題が存在している。 バイオマスエネルギーは植物を利用する(有
力なのがサトウキビ,小麦,トウモロコシ等で
ある)。大量に増産するには当然ながら作物が大
量に必要となるが,作物の耕作面積が急速に増
えることはありえない。そのため,現在の生産
量の中から穀物を利用することになるわけだが,
全体的な生産量が上がっていない状態で需要だ
けが伸びることにより,穀物の値段の高騰を引
き起こしている。特に日本の場合,食料自給率
は 40%程度であり,結果的に,日本は輸入穀物
の価格の高騰による影響を受けている。 そこで,食用作物以外での生産技術の開発が
望まれている。今,次世代の燃料として関心を
集めているのが藻類などから作り出すバイオマ
スエネルギーである。ユーグレナ(和名:ミドリ
ムシ)は,光合成によって二酸化炭素を固定して
成長するとき,油脂分を作り出していて,これ
がバイオマスエネルギーの元として利用可能で
ある。 ミドリムシは体長 50~100マイクロメートルの単細胞生
物で,おおよそ紡錘形である。
二本の鞭毛をもつが,一本は
非常に短く細胞前端の陥入部
の中に収まっている。一方の
長鞭毛を進行方向へ伸ばし,
その先端をくねらせるように
動かしてゆっくりと進む。細胞自体は全体に伸
び縮みしたり,くねったりという独特のユーグ
レナ運動を行う。鞭毛運動をする動物的性質を
もちながら,同時に植物として葉緑体をもち光
合成を行うため,動物・植物の区別が難しい,
という話の好例として挙げられる。 (1) 問題文にあるように,ミドリムシの細胞成
長では,細胞は細胞周期をくり返して増殖す
る。細胞周期は G1期,S 期,G2 期の順に進
行し,この間に細胞核1個当たりの DNA 量
が 2 倍になる。DNA 量が 2 倍になった細胞
は 後に M 期(分裂期)に入って分裂する。
光を当てたとき,光がどのような強さであ
っても,S 期,G2期,M 期の速さは全く変化
せず,各々,3 時間,1 時間,2 時間を保つ。
これに対し,G1期は光が強くなるに応じて
短 6 時間まで短くなり,光合成量に依存する。
つまり,ミドリムシの細胞成長は主に G1 期
に行われていることがわかる。細胞周期の,
どの時点においても,G1 から M 期のいろい
ろな時期のミドリムシが混在している。 例えば,細胞周期が 12 時間で進行するな
ら,S 期(3 時間),G2期(1 時間),M 期(2 時間)の長さは変化しないため,G1期は 12-(3 + 2 + 1) = 6 時間ということになる。よって,
Ⅰ S 期は, 25(%)100123
Ⅱ G1期は, (%)5100126
0
また,細胞周期が 60 時間の場合には,S期は 3 時間で変化しないので,
Ⅲ S 期は, 5(%)100603
図4より,細胞周期を見積もると,細胞数
が 2 倍になる時間を見ればよいことになるの
で,およそ 30 時間であることがわかる。 Ⅳ 30 時間 (2) 0.5 キロルクスではみかけの光合成速度は
負になるため,G1 期が著しく長くなり,細
胞周期の進行が事実上停止すると予測され
る。 12 キロルクスでは光飽和の状態であり,
G1 期は 短の 6 時間になるため,細胞周期
は 12 時間になると予測される。
(相対値)
- 6 -
第2問(専門問題)
〔出題のねらい〕
空気をばねと考える力学的モデルから音速を求
めていく問題である。フックの法則,運動量変化
と力積の関係を用いて,ばねを伝わる縦波の速さ
を求め,空気の等温圧縮,断熱圧縮からばね定数
に相当する量を考え,ばねと対比させて,音速を
表す式を導く。力学,熱力学,波動分野の融合問
題で,解答にいたる論理的な思考と近似計算の力
を問う。
[解答]
問 1 x=k
F〔m〕
問 2 21倍
問 3 KL=
L
k0 〔N/m〕
問 4 F=x
uk
0 〔N〕
問 5 vu〔kg・m/s〕
問 6 解説参照
問 7 p′=
xL
L
-p〔Pa〕
問 8 ア:(p′-p)S イ:
L
pS
x
問 9 解説参照
問 10 解説参照
[解説]
問 1 それぞれのばねが自然の長さから x 縮んで
いるとき,加えた力の大きさは kx で表せるので,
kx=F よって,x=k
F〔m〕…(答)
問 2 全体のばねの縮みを X〔m〕とすると,
X=2x=2k
F よって,F=
21
kX
この式は全体としてのばね定数 K が,
K=2k
となることを表している。よって,
k
K=
21…(答)
問 3 同じ材質のばねでは,ばね定数はばねの長
さに反比例するので,
0
L
k
K
=L
1 よって,KL
=L
k0 〔N/m〕…(答)
[参考]
KL×L=k0×1=k0(一定)となるので,この問題
では最右辺の k0 を単位長さあたりのばねの定数
と定義し,単位を N とした。これはばねの材質に
よって決まった値をとる。
問4 AB間の長さxのばねのばね定数をKAB〔N/m〕
とすると,
KAB=
x
k
0 〔N/m〕
この部分のばねがu だけ縮んでいるので,加え
た力の大きさ F は,
F=KABu=x
uk
0 〔N〕…(答)
問 5 長さvのAC間のばねの質量をm〔kg〕とすると,
m=v〔kg〕
題意より,AC 間のばねの移動速度をu と近似
できるので,この間のばねの運動量の変化は,
mu=vu〔kg・m/s〕…(答)
問 6 外部から加えた大きさ F の力はt の時間だ
けはたらいたので,ばねに加えた力積は問 4で求
めた F の値を用いて,
Ft=k0x
u
t
運動量の変化は加えた力積に等しいことより,
mu=Ft
vu=k0x
u
t
v=k0x
t
波の伝わる速さ v は,
v=t
x
であるから,上の式に代入して,
v=v
k0 よって,v=
0k…(答)
問 7 圧力 pのときの容器内の空気の体積はSLで
あり,圧縮されて圧力が p′になったときの空気の
体積は S(L-x)である。この間,温度が一定とす
るので,ボイルの法則より,
pSL = p′S(L-x) よって,p′=
xL
L
-p〔Pa〕…(答)
問 8(ア) ピストンにはたらく力は次図のように
なる。
x
L-x
p′S
pS
f p p′
- 7 -
ピストンにはたらく力のつり合いより,
f+pS-p′S=0 よって,f=(p′-p)S…(答)
(イ) 問 7の結果の式を代入すると,
f=
pp
xL
L --
S
={(1-L
x)-1-1}pS
ここで,x<<L より,L
x<< 1 であるから,与え
られた近似式を用いると,
f≒{(1 +L
x)-1}pS
=
L
pS
x…(答)
問 9 空気の圧縮,膨張の時間は熱が伝わるのに要
する時間に比べて極めて短く,周囲との熱のやり
とりの時間がないので,断熱変化と考えられる。
(64 字)…(答)
問 10 0℃の絶対温度を T0〔K〕,空気の密度を0
〔kg/m3〕,音速を v0〔m/s〕,t〔℃〕の絶対温度を T,
空気の密度を,音速を v とする。
v0=
0
p=331.5〔m/s〕
v=
p
空気の密度と絶対温度が反比例するので,
T=0T0 よって,=0
T
T0
これを上の式に代入すると,
v=00T
pT
=0
p×
0T
T
=v0×(1+
273t
)1/2
≒331.5×(1+2732t
)
≒331.5+0.6t…(答)
第3問(専門問題) 〔出題のねらい〕
レンズに関する問題である。前半の問題は,レ
ンズによる光線の屈折を図形的にとらえる能力が
必要である。レンズの式を使う問題にしても,公
式だけに頼らず,光線の進む道筋が具体的にイメ
ージできるかどうかが重要になる。問 6は,誘導
にしたがってレンズの焦点を求める問題で,近似
の取り扱いに慣れていないと難しいかもしれない
が,複雑な図形を簡単な図形に置き換えたり,複
雑な式を,近似式を用いて単純な式に変形したり
することは,物理ではとても大切である。
[解答]
問 1(1) d=10 cm
問 1(2) x=5.4 cm
問 2 解説参照
問 3 60 cm
問 4(1) 解説参照
問 4(2) レンズの前方:10 cm
問 4(2) 大きさ:2.5cm
問 5 レンズ B の後方 4.8 cm
問 6(1) z= -+ -
問 6(2) =n
問 6(3) z=(n-1)(x+y)
問 6(4) f= rrn
rr
+-1
[解説]
問 1
(1) 上図より,2 つのレンズの間隔は,
d=25-15=10 cm…(答)
(2) 上図で,△ABC∽△ADE より,
25:9.0=15:x
25cm
15cm
9.0cm x〔cm〕 A
B
C
D
E
- 8 -
よって,x=5.4 cm…(答)
問 2 △PQF∽△ORF より,
PQ:OR=PF:OF
=( f-a ):f
また,△PQO∽△P' Q' O より,
PQ:P' Q'=OP:O P'
=a:b
OR=P' Q' であるから,PQ:OR=PQ:P' Q' と
なり,
( f-a ):f=a:b
a f=( f-a )b
(b-a)f=ab
ab
ab-=
f
1
これより,a
1-
b
1=
f
1となる。…(答)
問 3 レンズから 20 cm のところにある物体の虚
像をレンズから 30 cm のところにつくればよいか
ら,虚像ができる場合のレンズの式より,
f
1=
20
1-
30
1=
60
1
よって,求める焦点距離は,60 cm…(答)
問 4(1) 実像の位置を考えて線を引く(下図)。
(2) 下図(a)のように進む 2 本の光線の反射を考
えると,下図(b)のようになる。図(b)中の 2 本の光
線の交点が実像のできる場所だから,レンズの前
方 10 cmに大きさ 2.5cmの像ができる。…(答)
光線 2 の反射に関して
は,レンズと鏡の間隔
を広げて考えるとよい。
問 5 レンズ B の位置を M とし,レンズ B は取
り除き,レンズ A による実像の位置を求める。
レンズAから実像までの距離を x〔cm〕とすると,
レンズの式8
1+
x
1=
6
1より,x=24 cm となる。
光軸上で,レンズ A の後方 24 cmの位置をN とす
る。
次に,レンズ B を置いた場合を考える。点 N は
レンズ B の後方 12 cm の位置にある。N にできる
はずの実像の先端に向かう光線のうち,M を通る
光線と,光軸に平行な光線を考える。
この 2 本の光線はレンズ B によって,上図のよ
うに屈折し,交点に実像をつくる。この位置を L
とする。これは,光線の進む向きは逆になってい
るが,L に物体を置いたときに N に虚像ができる
ときの図と同じである。よって,虚像ができる場
合のレンズの式ML
1-
12
1=
8
1より,ML=4.8 cm
となる。よって,像はレンズ B の後方 4.8 cm の
ところにできる。…(答)
問 6(1) 三角形の外角は,それに隣り合わない内
角の和に等しいから,
z=-′+-′ …(答)
(2) 屈折の法則より,1×sin=n×sin′
角,′は十分小さいので,
sin ≒ ,sin′≒′
を用いると,=n′となる。…(答)
(3) 図 7 より,′+′=x+y
(1),(2)より,
z=-′+-′
=(n-1)(′+′)
=(n-1)(x+y) …(答)
6cm
8cm
M 物体
レンズ A
焦点
12cm 8cm
レンズ B
L M N 焦点
(a)
1
2
(b) 1
2
- 9 -
(4) x≒r
h,y≒
r
h
,z≒
f
hより,
z=(n-1)(x+y)
f
h=(n-1)
r
h
r
h+
f
1=(n-1)
rr
11+
よって,f= rrn
rr
+-1…(答)
第4問(専門問題)
〔出題のねらい〕
まず,荷電粒子どうしの間に電気力がはたらく
ことや,運動する荷電粒子が磁界から磁気力を受
けることを確認させる。次に,力積と運動量の関
係や運動エネルギーの概念を用いて,宇宙線が電
子に与えるエネルギーを考えさせる。最後に,霧
箱の飛跡から宇宙線粒子の質量が求められること
を確認させる。全体で,力学・電磁気・原子物理
分野の融合問題となっている。
[解答]
問 1 f(y)=22
2
ya
ek
〔N〕
問 2 f(0)=2
2
a
ek 〔N〕
問 3 I=aV
ke22〔N・s〕
問 4 解説参照
問 5 -2 乗
問 6 eBR〔kg・m/s〕
問 7 4.8×10-20
kg・m/s
問 8 2.1×108 m/s
問 9 2.3×10-28
kg
問 10 解説参照
[解説]
問1 宇宙線粒子と電子の間の距離は 22ya だ
から,クーロンの法則より,
f(y)=22
2
ya
ek
〔N〕…(答)
問 2 問 1の結果に y=0 を代入して,
f(0)=2
2
a
ek 〔N〕…(答)
問 3 宇宙線粒子は等速直線運動をするとみなし
てよいから,距離 2a を速さ V で走る時間を t とす
ると,
2a=Vt よって,t=V
a2〔s〕
題意にしたがうと,求める力積 I は次のように
考えてよいから,
I=f(0)・t=V
a
a
ke 22
2
=aV
ke22〔N・s〕…(答)
問 4 力積を受けた後の電子の速さを v〔m/s〕とす
- 10 -
ると,動き出した電子の運動量 mv は,受けた力
積に等しいから,問 3の結果を用いて,
mv=I=aV
ke22〔kg・m/s〕
したがって,この電子の運動エネルギーK〔J〕は,
K= 2
2
1mv = 2
2
1)(mv
m
=22
4222
2
1
Va
ek
m
=22
422
Vma
ek〔J〕
よって,K は宇宙線の質量には無関係である。
…(答)
問 5 宇宙線が失うエネルギーは個々の電子が受
け取る運動エネルギーの総和に等しい。したがっ
て,宇宙線がつくる飛跡の粒子数は,問 4の計算
より,V の-2 乗に比例する。…(答)
問 6 宇宙線は磁界から大きさ f=eVB〔N〕のロー
レンツ力を受ける(下図)。
ローレンツ力は,進行方向に垂直で一定の大き
さだから宇宙線は円運動をする。したがって,ロ
ーレンツ力と遠心力とのつり合いの式は,
eVB=M
R
V2
よって,運動量 MV=eBR〔kg・m/s〕…(答)
問 7 問 6の結果より,宇宙線 X の運動量は,
運動量 MV=eBR=1.6×10-19×1.0×0.30
=4.8×10-20〔kg・m/s〕…(答)
問 8 問 5 で確かめたように,宇宙線の飛跡の濃
さは宇宙線の速さの 2 乗に反比例するから,求め
る速さを V〔m/s〕,光速を c〔m/s〕とすると,
V2:c
2=50:100
よって,V= c
2
1=
4111003 8
..
≒2.1×108〔m/s〕…(答)
問 9 問 7,問 8の結果より,求める質量 M は,
M=V
MV=
8
20
1012
1084
.
.
≒2.3×10-28〔kg〕…(答)
問 10 問 9の結果より,宇宙線 X は,質量が陽子
や中性子より軽く,電子より重いので,別の粒子
である。(45 字)…(答)
(注) この宇宙線 X は,電子(9.1×10-31
kg)より
重く,陽子や中性子(1.7×10-27
kg)より軽いので
中間子と呼ばれる。しかし,これも 1 種類ではな
く,同じような質量の粒子で鉛板を貫通する粒子
と貫通しない粒子が見つかっている。現在では,
前者はミュー粒子(ミューオン)と命名されており,
後者こそがまさしく湯川秀樹がその存在を予言し
た粒子・中間子だった。
また,こうした素粒子を調べることは,物質の
根源や宇宙の起源を探る基礎研究にとって重要な
だけでなく,原子力発電などの応用技術にも役立
つと考えられる。なお,日本はこの分野の研究で
世界のトップレベルにある。
負電荷の
宇宙線粒子
ローレンツ力の
はたらく向き
負電荷の
宇宙線粒子の
速度の向き
磁界の向き
電流の向き