目 次
1.はじめに
2.VDT作業における照明の問題点
VDT作業の照明
関連資料のご紹介
照度計算ソフト「ルミナスプランナーライト」
施工事例
オフィスの照明
照明設計資料
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3.VDT作業のための照明要件
4.輝度規制による映り込みの防止
5.室内の明るさ感向上と 液晶ディスプレイ対応
6.JISZ9110-2010照明基準総則に おけるVDT作業のための照明
JISZ9110-2010照明基準総則の改正内容
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1.はじめに近年、生産性の向上や機械設備の自動化に伴い、オフィスや工場の監視室などにOA機器の導入が積極的に進められていることは周知の通りです。PC等のOA機器では、情報表示のために通常VDT(Visual Display Terminal:視覚表示装置)が使用されています。VDTの種類としては、従来のCRT(Cathode RayTube)ディスプレイに加えて、最近ではLCD(Liquid CrystalDisplay)いわゆる液晶ディスプレイが普及してきています。このVDTを見ながら行う視作業(VDT作業)の増加に伴って、照明上の重要な問題が生起しています。本章では、それらの問題について、従来のCRTディスプレイの場合の照明要件を中心に述べるとともに、液晶ディスプレイに対応した照明上の考慮すべき事項について説明します。
2.VDT作業における照明の問題点VDT作業における照明環境を、模式的に図1に示します。主な留意点は次の3つです。図1 VDT作業における照明環境
(a)原稿及びキーボードなどの作業面の水平面照度(b)ディスプレイの鉛直面照度(c)ディスプレイ表示面における照明設備の反射像の防止(b) (c)について説明します。CRTディスプレイで、文字の方が背景より明るい正コントラストの場合を考えると、文字は自ら発光しているが、背景の地の輝度は外部からの照明光の拡散反射成分で得られます。したがって、(d)表示面の平均輝度を必要な値に保つ(e)文字のコントラストを所期の値に保つためにも、室内照明は重要な役割を果たしています。一方、大きな問題点は、ランプを含む照明器具の表示面における反射像が、表示文字に重畳して見え方を損なうことです。正コントラストのCRT表示面に高輝度の光源が映り込んでいる状態を図2に示します。図2 CRTに高輝度の光源が映り込んでいる状態
3.VDT作業のための照明要件VDTの普及に伴い、専門オペレータだけでなく一般の作業者まで使用が広がっており、テクノストレスを生じないように十分な対策が必要です。この問題の重要性に鑑み、経済産業省1)あ
るいは厚生労働省2)をはじめとして、VDT作業環境の快適化を目的とするいくつかの指針が発表されています。照明環境の所要条件が集約された経済産業省の外郭団体であるニューオフィス推進協議会の指針の要点を表1に示します。表1 ニューオフィス化の指針1)
<第一指針>解説版-改訂版-(1995年10月)から要約
4.輝度規制による映り込みの防止前項「VDT作業のための照明要件」で述べた問題点を、実際の比較的一般的なオフィスで解決するためには、次の(a (、) b)を満足させる必要があります3)4)。(a)照明器具の遮光角は少なくとも30°必要(b)反射板の輝度はディスプレイに映り込まない程度に低くする
ところで、照明器具の輝度が低くなるほどディスプレイの映り込みは減るが、一方輝度が高くなるほど照明器具の明るさ感が増し、活気のある空間となります。したがって目的と用途別に輝度の異なる器具を使い分けることが望ましいといえます。図3 CRT画面の見やすさと一般オフィスにおける
照明器具の好ましい輝度の満足度3)4)
VDT作業の照明
EhEn
ディスプレイ近傍の照明器具
ディスプレイから離れた位置にある照明器具
反射映像
Eh:ディスプレイ近傍の水平作業面 (原稿やキーボード)の照度En:室内照明のディスプレイ面での 法線照度
項 目 照明の要因 実 施 目 標 値
明るさの確保
机上面照度 通常の視作業 750 lx以上細かい視作業 1,500 lx以上
壁面照度 100 lx以上(200 lx以上が望ましい)
天井光源の映り込み G分類、V分類の2つの観点から室の種類、作業の種類に応じて、適切な器具を選定する。
手元の明るさを確保するためデスクにタスクライトを取り付けてもよい。
外光の映り込み 外光を遮断する。ディスプレイの鉛直面照度 100~500 lx
グレア防止 拡散パネル、プリズムパネル、ルーバなどを取り付ける。
光源の演色性 高演色性光源を使用する。
照明機器
会議室、課別、部門別など似たような照明条件をもったブロックごとに、調光できる。
オフィスの使用状況やレイアウトが変更されたら、照明プランも含めて改めて検討し、必要に応じて照明の変更(ルーバの設置、本数の変更)を行う方がよい。
光の質
VDT作業
反射防止無処理CRTの場合
CLASSII器具の輝度
CLASSI器具の輝度
100
70
10 20 50 100 200 500 1000 4000反射板輝度(cd/m2)
反射防止処理 CRTの場合
CLASSIII器具の輝度
100
70
100
70
0 060 100 200 400 15004000 10000反射板輝度(cd/m2)
↑見やすい
見にくい↓
CRT画面の見やすさ(%)
↑見やすい
見にくい↓
CRT画面の見やすさ(%)
好ましい輝度の満足度(%)
(a)反射防止無処理CRTの場合
(b)反射防止処理CRTの場合好ましい輝度の下限
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図3のデータからCRTディスプレイ対応の輝度規制値を当社では以下のように設定しています。〈CLASS Ⅰ〉50cd/㎡以下〈CLASS Ⅱ〉200cd/㎡以下VDT作業を専門に行うOA専用室向き。VDTへの映り込みを徹底的に抑えてあります。〈CLASS Ⅲ〉1,500cd/㎡以下反射防止処理を施したCRTの場合、照明器具の輝度は
1,500cd/㎡程度まで緩和されます。一方、一般オフィスの照明器具の輝度は、ある程度まで高くなるに従い好ましいものになり、200~3,000cd/㎡程度が好ましいとされています5)。CLASSⅢは、反射防止処理CRTを用いるVDT作業のある一般オフィスにおいて、CRTへの映り込みを防ぎかつ照明器具の輝度も好ましいといえます。「照明学会の屋内照明基準」では、VDT作業空間に推奨する照明器具のグレア分類を、表2のように示し、V1~V3タイプの使用を推奨しています6)。表2 照明器具のグレアのV分類(V1、V2、V3)6)
CLASS )Ⅲ()Ⅱ()Ⅰ( の映り込みの度合いを図4(a)(b)に示します。CLASSⅠはほとんど映り込まないことが分かります。図4 CRTにおけるOAコンフォートの映り込みの状態
なおこれらの器具は、ディスプレイ表示面において表1に示されている鉛直面照度100~500 lxを確保するために、照明器具の最大取り付け間隔は実用上1.8m以下とするのが望ましいです。
5.室内の明るさ感向上と液晶ディスプレイ対応最近のオフィスでは、PC等のOA機器は1人1台があたりまえになってきています。先に述べたような映り込み抑制のために輝度を厳しく規制した器具を、OAルームのような限定された場所ではなくオフィス空間全体に設置してしまうと、天井面が暗く室内が陰鬱な印象になってしまい、「明るさ」や「活気」を求めるような一般の執務環境にはふさわしくありません。
と をバランスよく両立し、オフィスワーカーに快適な環境を提供することが求められています。
また、近年普及してきている液晶ディスプレイは、従来のCRTディスプレイに比べて鏡面性反射輝度係数(ディスプレイの反射特性)が低くなっていることから、映り込み抑制のための輝度規制を緩和することができます。ただし、むやみに輝度を高めてしまうと今度は室内の不快グレア抑制の観点から好ましくありません。CIE(国際照明委員会)では室内の各部位別にUGR(「グレアの評価」参照)の制限値を規定しています。7)
以上述べたような室内の明るさ感向上と液晶ディスプレイへの映り込み、ならびに不快グレアの抑制をバランスよく達成した照明器具として、スペースコンフォートをお奨めします。図6に従来のCRTディスプレイと液晶ディスプレイの鏡面性反射輝度係数の違いと、それぞれに対応する照明器具の輝度と反射像の印象を示します。また、表3に各種ルーバ付照明器具のVDT作業の観点で見たオフィス推奨用途を示します。
図6 ディスプレイへの映り込みと照明器具の輝度の関係
表3 各種ルーバ付照明器具のオフィス推奨用途
VDT作業の照明
鉛直角分類
60°から90°の範囲において
V1
V2
V3
50〔cd/m2〕以下
200〔cd/m2〕以下
2,000〔cd/m2〕以下(1,500〔cd/m2〕以下が望ましい。)
(a)反射防止無処理CRTにおけるCLASS Ⅰ反射防止処理CRTにおけるCLASS Ⅱの場合
(b)反射防止無処理CRTにおけるCLASS Ⅱ反射防止処理CRTにおけるCLASS Ⅲの場合
9
8
7
6
5
4
3
2
1
気になる
見える
見え始める
見えない
出展:鏡面性反射輝度係数の測定結果(窪田 1995)
1 . 01 0 . 01 0 0 . 0鏡面性反射輝度係数 ※光源の視野角1°の場合
反射像の印象
気になり始める
LCD
CRT CRT3000~4000cd/㎡(
スペースコンフォート)
1500~20
00cd/㎡ (C
LASSレベル
)
200~30
0cd/㎡(CLA
SSレベル)
約0.05約0.006
(反射防止処理)約0.001 3000~4000cd/㎡(スペースコンフォ
ート)
1500~2000c
d/㎡ (C LA
SSⅢレベル
)
200~30
0cd/㎡(CLA
SSⅡレベル)
約0.05約0.006
(反射防止処理)約0.001
おすすめ場所/VDT作業画面OA専用室
CRT 反射防止CRT
液晶(LCD)CRT
◎ ○ ○
○ ◎ ◎ ◎ ○ ○
○ ◎ ○
○ ○ ◎
反射防止CRT
液晶(LCD)
一般執務室/会議室/営業室
◎→おすすめ ○→使用可能
器具種類 V分類(cd/㎡)
V1(~50)
V2(~200)
V3(~2,000)
-(~4,000)
-(~10,000)
OAコンフォートCLASSⅠ
OAコンフォートCLASSⅡ
OAコンフォートCLASSⅢ
スペースコンフォート
マルチコンフォート15
姿図
部屋が暗い雰囲気
用途を満足する映り込みの制御不可
用途を満足する映り込みの制御不可
用途を満足する映り込みの制御不可
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〔参考文献〕1) 社団法人ニューオフィス推進協議会編:ニューオフィス化の指針
<第一指針>解説版-改訂版-(1995)2) 厚生労働省労働基準局:VDT作業における労働衛生管理のための
ガイドライン(2002)3) 田渕義彦、松島公嗣:CRTに映りこみを防ぐ照明具備条件、照明学
会光源システム公開研究会資料 LS-82-36(1983)4) 田渕義彦ほか:CRTディスプレイに映る反射像防止に必要な輝度
条件(その2)、電気関係学会関西支部連合大会G13-5(1984)5) 田渕義彦ほか:オフィス照明の光源の好ましい輝度条件、照明学会
全国大会80(1987)6) 屋内照明基準、照明学会:技術規格 JIES-008(1999)
9) JIS Z 9125:2007屋内作業場の照明基準
10)日本照明器具工業会:ガイド131、UGRガイド(2006)
11)JIS C 8106:2008施設用蛍光灯器具
12)JIS Z 9110:2010照明基準総則
7) CIE:Lighting of Indoor Work Places, CIE, S008/E(2001)
8) ISO 8995 (CIE S 008/E:2001), Lighting of indoor work places (2002)
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画面のクラス(JIS Z 8517参照) I II III
画面の特性 一般オフィスに適する。 すべてではないが,殆どのオフィス環境に適する。
特別に制御された光環境を必要とする。
照明器具の平均輝度の限界値 2 000 cd/m2以下 200 cd/m2以下
注記 影響を受けやすい画面や特別な傾斜の画面を用いる場所では,上記の輝度限界値はより小さい角度(例えば鉛直角55度)を適用することが望ましい。
表4-VDTを使用する視作業のための照明器具の輝度限界値12)
6.JIS Z 9110:2010照明基準総則における VDT作業のための照明
ISO 8995 (CIE S 008/E:2001) Lighting of indoor work places8) を翻訳し、技術的内容を変更して作成した日本工業規格JIS Z 9125:2007屋内作業場の照明基準9) に、VDT作業のための照明に関する輝度限界値が採用されました。この内容および、VDTの普及により、表2で述べたV分類の必然性が薄らいだ結果、V分類をG分類の中にとりこみ10)、JIS C 8106:2007施設用蛍光灯器具の改正でV分類、G分類は一本化されました11)。これらをうけ、JIS Z 9110:2010照明基準総則12)は、VDT画面への映込みを起こす照明器具の平均輝度の限界値は、表4のような区分で推奨をしています。垂直又は15度傾いた表示画面を通常の視線方向(水平)で使用するところでは、照明器具の下半球光束による輝度の限界値は、照明器具の鉛直角65度以上の平均輝度に適用する、とされています。
VDT作業の照明