Download - 31208 宇宙の始まりについて · ビッグバンが起こる以前,宇宙はどうなっていたのかについては,大きく2つの説がある。 1つは,ビッグバンの前には何もなかったという考え方である。
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宇宙の始まりについて 3626 芹澤 苑佳 3637 安江 麻帆
要旨
我々は宇宙の始まりを調べるにあたって,相対性理論や時空についてなどを理解しないと調べていく
のが難しいと考えた。この研究ではまず相対性理論やビッグバン理論について誰もが理解し説明できる
ようにまとめる。また,相対性理論を調べた上に宇宙のことについていろいろ調べまとめた。現在時空
のゆがみを説明できるモデルの実験を考案した。また,銀河の赤方偏移にみられるハッブル側的膨張を
示すハッブルの法則を利用して,銀河の後退速度のグラフから宇宙の膨張の中心を確定させた。
目的
宇宙の始まりについて主に文献をもとに研究を進め,その結果を誰もが理解し,説明できるようにま
とめる。しかし,宇宙の始まりを調べるにあたって,まず相対性理論について理解しないと難しいこと
が分かった。そこで,まずは,相対性理論を理解し簡単にビックバン理論についてまとめる。また,赤
方偏移などから宇宙の膨張の中心をもとめる。
Ⅰ 相対性理論,宇宙の空間について
1.使用した器具・装置など
・模型をつくるために…透明のコップ,輪ゴム,重さの違うボール,ティッシュ(1枚にしたもの)
2.実験の手順,結果
・宇宙ついて書かれた本を読んだりインターネットを利用したりして調べ,分かったことをまとめる。
・時空の歪みの模型について,時空の歪みを分かりやすくイメージできる模型を製作する。
ティッシュ→時空 ボール→惑星 ティッシュのへこみ→時空の歪み と仮定する。
①透明のコップにティッシュをはらせ,輪ゴムをとめる。重さの違うボールを用意する。(写真①)
写真①
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相対性理論の考え方
相対性理論以前の宇宙の
考え方(ニュートンの宇宙)宇宙自体は何も変化しない「入れ物」としての宇宙
★つまり空間も時間も常に一定で変化しない
相対性理論の宇宙
★時間も空間も一定でなく、伸び縮みする
物体のまわりの時空はゆがんでいる
②重さの違うボールを順番にティッシュの上にのせる。(写真②,③)
写真② 写真③
③へこみを比べる(写真④)
写真④ 写真⑤
惑星(球体)の質量が重すぎて時空(ティッシュ)を破ってしまったとき,光さえ脱出できないブラ
ックホールが出現する。質量が大きいほど時空のゆがみが大きくなり,質量が大きすぎて耐えきれなく
なりボールが落ちてしまうと,ブラックホールが出現する。(写真⑤)
3-1.相対性理論について
相対性理論は主に2つの原理からなる。
①光速度不変の原理
これは,光の速度はすべての観測者
に対して同じ値をもつという原理であ
る。
②相対性原理
相対性原理とは,基本的な物理の法
則はどの観測者から見ても同じ形で表
されることに対して同じ形で表される
とする原理のことである。宇宙の重心
に対して等速度運動をしている座標系
では,力が働かない物体は等速度運動
をするという。
例えを出すと,電車に乗って隣を走
る別の電車を見ると(同じ方向に走る電車)ゆっくり走っているように見えたり,とまったように見え
たりする。電車に乗ってない人が過ぎていく電車を見ると,とても速く見える。このように観測者の動
きなどにより,電車の速さの見え方は変わってくる。しかし光の速さはどのような動きをしている観測
者でも同じ速さに見える。
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③重力レンズについて
相対性理論によって説明された,「時空のゆがみ」によって起こる現象がある。それが重力レンズで
ある。重力レンズとは「恒星や銀河などが発する光が,途中にある天体などの重力によって曲げられる
現象」である。「重力が光を曲げる」という働きが,レンズと同じ役目を果たしているため,この現象
を「重力レンズ」と呼ぶようになった。重力レンズは一般相対性理論によって予言され,1919 年天文
学・物理学者 Eddington AS(イギリス)によって観測された。写真⑥は Abell 1689 という銀河団
によってできた重力レンズ像をうつしたものである。本当なら,銀河団によって隠され,地球からは見
えない天体が重力レンズ効果によって見える。
写真⑥ 図①
3-2.ビックバン理論について
ビックバン理論とは,「この宇宙には始まりがあって爆発のように膨張して現在のようになった」とす
る説である。ビックバン理論が出来た過程は,エドウィン・ハッブル(1889~1953)が宇宙の膨張を発見
したことから始まる。この発見を理由としてジョージ・ガモフ(1904~1968)が「ビックバン理論」を発表
した。この理論は〔宇宙のもとは今存在している物質とエネルギーが凝集された高密度・高温の火の玉
のようなもので,それが大爆発をおこして宇宙が生まれどんどん膨張している〕という考え方である。
ビッグバンが起こる以前,宇宙はどうなっていたのかについては,大きく2つの説がある。
1つは,ビッグバンの前には何もなかったという考え方である。
これは宇宙が「無」から誕生したという考え方だが,この宇宙の「無」はまったく何もないという意味
での無ではない。時間や空間やエネルギーはたえず安定せず揺らいでいて,この「無のゆらぎ」から宇
宙は生まれたと考えられている
もう1つは,ビッグバンの前には何かがあったという考え方である。この場合,主に2通りの考え方
があり,「収縮から膨張に転じる宇宙」と「生まれ続ける宇宙」である。「収縮から膨張に転じる宇宙」
とは,宇宙は収縮してビッグバンに至り,そこからふたたび膨張する宇宙のことである。「生まれ続け
る宇宙」とは,今の宇宙が親宇宙から生まれたもので親宇宙は永久に子宇宙を生み続けていると考えら
れている宇宙のことである。
しかし,宇宙のはじまりを語るには「何も無い状態から宇宙が生まれた」という場面を想定するしか
ないため,現在では「無から誕生した宇宙」の考え方が有力であるとされている。
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3-3.ビッグバン理論3つの支柱
① 銀河の赤方偏移に見られるハッブル則的な膨張
赤方偏移とは,遠方の星雲からくる光のスペクトル線の波長が長波長側(赤いほう)へずれる現
象のことである。
② 宇宙マイクロ派背景放射の詳細な観測
③ 軽元素の存在量
よって,ビックバン理論は現在もっとも宇宙の始まりについての説で優勢である。
ビックバンが起こる様子を図であらわしたもの(Wikipeia より)
Ⅱ ビックバン理論の三つの柱の一つ→銀河の赤方偏移に見られるハッブル測的膨張
ビッグバン理論ができる最初のきっかけになったのはハッブルだった。では,ハッブルはどのようにして宇宙が
膨張していることを発見したか。まず,ハッブルが気付いたこは「遠い銀河ほど速い速度で遠ざかっていること」
だった。ハッブルはこのことに気が付くまでに銀河の距離と銀河の離れていく速度を慎重に調べ続けた。
では,銀河の離れていく速度はどのようにして調べることができるか。それはスペクトル線の赤方偏移を調べ
れば計算することができる。
まず赤方偏移について,2つのことについて説明する。
①:ドップラー効果について
水面をたたくといくつもの波紋ができる。水面に触れる指を少しでもずらすと,波紋のずれが生じる。
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左側と右側の間隔を比べてみるとずれがある。このように波源や観測者が運動すると観測される波の振動
数が変化する現象をドップラー効果という。ドップラー効果は音に限らず,水面波や電波や光などすべての波に
共通してみられる現象。
赤方偏移では銀河がこの波源となる。
②:可視光線について
波源
波長が短
い
波長が長
い
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前頁の図は可視光の範囲を表したものである。この図ある数値は,光の波長の長さを表したものである。
右へ行くほど波長が長く,左へ行くほど波長が短いことを表している。よって赤は光の波長が長いことを示し,
青は光の波長が短いことを示す。赤い光の波長は大きな波で観測者に届く。青い波の波長は小さな波で観測
者に届く。
いま2つのこと,可視光線とドップラー効果について説明したがこの2つの考え方を合わせたものが赤方偏移
という。よって赤方偏移とは光の波長がのばされて光が赤くなる現象のことといえる。
ハッブルはさまざまな銀河の光の波長を調べ,統計をとっていった。
上の図は,上側は観測者に対して近くにある銀河,下側は遠くにある銀河を表している。上下で比べてみると
下の遠くにある銀河の方がより多く赤い方へと変化している。
このようにハッブルは遠くの銀河からくる光の波長ほど赤く引き伸ばされていることを見つけた。ハッブルは赤
方偏移を観測することで,宇宙膨張にともなって遠ざかる銀河の速さを割り出した。
赤の波長
青の波長
観測者
観測者
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実際の赤方偏移
③宇宙の膨張について
次に,ハッブルは「遠い銀河ほど速い速度で遠ざかっていること」に気がついた。しかしここからどのようにして
宇宙膨張の考え方につながるのか説明する。
上の図でAの星を私たちのいる銀河とし,固定して考えてみる。遠い銀河をCの星として,近い銀河をBの星
として考えると図のようになる。Bの星より Cの星のほうがより遠く Aの星から遠ざかっているのがわかる。このこと
から宇宙全体が膨張しているという考えに結びつく。
この波長の変化が大きいほど銀河が遠くにあり,またはやく遠ざかっていることを意味する。
ハッブルの発見は銀河が離れていくこと,そして遠くの銀河ほど早く離れていくことだった。この発見によって
「宇宙が膨張している」ことが分かった。
では,逆に時間をさかのぼっていくと宇宙は結局な小さな「一点」になってしまうのではないか?という疑問が
出てきて,ビッグバン理論について考えられるようになっていった。
宇宙の膨張
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Ⅲ 銀河の後退速度について(木曽観測所の訪問)
このような調査を進めていくうちに,「まだ科学技術も発展してない頃に,どうやって宇宙の速度や遠くの銀河
までの距離をわりだしたのか」という疑問が浮かんだ。
この疑問を解決するために東京大学付属天文学教育研究センター木曽観測所の三戸洋之教授に宇宙の構
造や膨張について講義を受けた。
①銀河が赤く見える理由
望遠鏡などで,宇宙を見てみるとたいていの星が赤く見える。これはどうしてだろうか。 それは宇宙をつくりだ
している原子の存在量に関係がある。
宇宙の原子の存在量 水素 → 75%
ヘリウム → 24%
その他 → 1%
宇宙の成分は上のようにできている。水素が発する光は赤,ヘリウムが発する光は,と分光器を使って調べる
ことができる。(下の写真参照9
水素が発する光
ヘリウムが発する光
このことから星が赤く見えるのは宇宙の大体の成分が水素だからとわかる。光のエネルギーが低いほど色は
赤くなり,光のエネルギーが高いほど色は青くなる。赤方偏移も考えて表にすると下のようになる。
エネルギー 低い ⇔ 高い
色 赤 ⇔ 青
波長 長い ⇔ 短い
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それぞれの物質によって光る色,波長の長さは変わってくる。 色の波長の長さの違いによってこれを表した
ものをバルマー系列という。
バルマー系列
• 赤;Hα光=653.3nm・・・M殻→L殻
• 緑;Hβ光=486.1nm・・・N殻→L殻
• 青;Hγ光=434.0nm
バルマー系列は上のように決まっていて,電子がM殻からL殻に移動するときに赤い光(653.3nm)を発し,N
殻からL殻に移動するとき緑の光(486.1nm)を発すると決まっている。このバルマー系列を使って,ハッブルは
宇宙の速度や銀河までの距離をわりだした。ハッブルではないが,ある天文学者が銀河の波長を分光器によっ
て調べるとバルマー系列とは違う波長を示した。これは,赤方偏移によって銀河の波長がのばされているので,
バルマー系列とは違う結果を示した。
このことを使って銀河の速度が測れる。例を出して銀河の速度を求めてみる。
②銀河の速度の算出
(例) Hα λ0=656.5 (バルマー係列)
λ=670 (測定した波長の長さ) と仮定をする。
V(速さ)= c
3,656
6703,656(高速)
これで銀河の速度が求められる。この方法を使ってハッブルは下のようなグラフを作った。このグラフから距離
が遠いほど速度は速いということがよくわかる。
実習1 ハッブルの値を自分たちで調べる
自分達でもほんとうにこのようなグラフになるのか確かめてみた。
「スバル画像解析ソフト:マカリィ」というソフトを使い,もともとある銀河の波長と距離のデータを使って,上に書
いた後退速度を求める公式で速さを求めグラフに表す。
距離(mpc)
速度(r)
0 距離(mpc)
速度(
r)
0
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http://makalii.mtk.nao.ac.jpより
これをグラフ化する
データセット2
y = 74. 144x
-1000
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
0 20 40 60 80
距離(Mpc)
後退速度(km/s)
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青い点が横軸距離,縦軸後退速度でとった値である。だいたいがハッブルのグラフの線上ににあることが分
かる。このことによりハッブルの法則の「遠い銀河ほど速い速度で遠ざかる」という比例関係を自分たちでも確か
めることができた。
実習 2 宇宙の中心を求める
木曽観測所で分かった上のグラフをもとに宇宙の膨張を,我々の銀河の,宇宙に対する速度を仮定した上で,
他の銀河との相対速度を考慮して,各銀河の実際の速度を算出した。 これは青い星を中心に考えて半径を倍
にして同心円(黒)を書いていく。 矢印を使って近い星は遅い速度,遠い星は速い速度を表した。 これに青い
星の速度を加えて合成し青い星から見られる速度を作った(赤い矢印)。
すると,赤い矢印の速度の中心は青い星ではなく,青い星の上にある黄色い星を中心に遠ざかっているのが
緑の同心円からわかる。私たちは,膨張をしている中心をこの図からわり出す事ができた。
5.結果・考察
私たちは「宇宙の始まり」について調べるためにたくさんの文献を調べまとめた。
現在の宇宙の始まりについての最有力宇宙論は「ビックバン宇宙論」である。その根拠として三つの
支柱がある。一つ目に銀河の赤方偏移に見られるハッブル則的な膨張。二つ目に宇宙マイクロ波背景放
射の詳細な観測。三つ目は軽元素の存在である。この根拠があり「ビックバン宇宙論」は宇宙の始まり
について最有力とされている。私たちはその中でも銀河の赤方偏移に見られるハッブル側的な膨張につ
いて調べまとめた。また,木曽観測所のほうで銀河の後退速度の出し方やハッブルがまとめた宇宙膨張
のグラフを教わった。そのグラフを元に自分達で宇宙膨張を図式化した。
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6.参考文献,引用文献
宇宙の進化が分かる事典 銀河系・太陽系・地球のなりたち(監修)縣秀彦
Newton 2010 年7月号 ,よくわかる最新宇宙論の基本と仕組み 竹内薫著
宇宙は何でできているのか 村山斉 ,宇宙 100 の謎 福井康雄 ,wikipedia
7.謝辞
本研究を進めるにあたり,東京大学天文学教育研究センター木曽観測所特任研究員の三戸洋之氏には
研究内容,データの提供,研究の方向性などについて多くのご助言をいただきました。ありがとうござ
いました。