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2019 年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費) 成果報告書 CPR バクテリアが持つ小型なリボソーム構造の解析 政策・メディア研究科 先端生命科学(BI)修士課程 2 鶴巻 萌 背景 環境や生体に由来するサンプルから直接抽出した DNA を用いる分析手法は,多くの未培養 微生物の発見をもたらしてきた.Candidate Phyla Radiation (CPR) は主に環境メタゲノム解 析により見出された一群の未培養バクテリアであり,既知のバクテリアと分かれた独自の クレードを形成している(1)CPR バクテリア群は細胞およびゲノムサイズが非常に小さく, TCA 回路など主要な代謝経路に加え,バクテリアに普遍的と考えられていたリボソームタ ンパク質の一部 (L1, L9, L30) をも欠くことが報告されている(2, 3).本研究では CPR バク テリア群の網羅的なゲノム解析によりその特性に関する理解を深めることを目指し,遺伝 子サイズに着目した解析を行った.中でも特にリボソーム関連遺伝子に重点を置き,上記の タンパク質の欠如の他に CPR バクテリアにおける特異性が見られるかを調査した. 研究成果 先行研究(1, 4)に基づき,CPR バクテリア群のゲノム配列を NCBI GenBank より 816 個(完 全長 18 個,ドラフト 798 個)取得した.また比較対象として,既知のバクテリアの完全長 ゲノム 1661 個を NCBI Reference Sequence Database より取得した. CPR バクテリアと既知の バクテリアの間でリボソーム RNA 遺伝子の配列長を比較したところ,先行研究の報告通り, CPR バクテリアにはイントロンを含む長い rRNA 遺伝子が存在することが確認された.一 方で, 16S rRNA 遺伝子と 5S rRNA 遺伝子の一部は既知のバクテリアにおける平均的な長さ よりもやや短く,特定の領域を欠如していた.中でも 16S rRNA 遺伝子上の 2 つの領域は, 既知のバクテリアにおいて欠如している例は稀であるのに対し,CPR バクテリアではほぼ 一貫して欠如していた.これらはいれも二次構造上で端にあたる領域で あった.いてリボソームタンパク質のサイズ分を比較すると,CPR バクテリアでより 小型なタンパク質, 型なタンパク質がいれも存在していた.多重アライメントによる比 較の果,CPR バクテリアの特定の系統が持つタンパク質 L2, L3, L13 1~2 箇所の領域を 欠如していることが分かった.また CPR バクテリアのタンパク質 S13, S19, L27 にはそれれ特異的な領域が存在していた.CPR バクテリアが欠く rRNA 領域およびタンパク質領域 Escherichia coli のリボソーム体構造デルにマッピすると,部分がリボソーム 構造上で表面出した部分を構成するものであった(1)上から CPR バクテリアは上の部分構造をつか欠くリボソームをしている可能性が示唆される.CPR バクテリ

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Page 1: CPR バクテリアが持つ小型なリボソーム構造の解析Thomas BC, Banfield JF. 2016. A new view of the tree of life. Nat Microbiol 1:1–6. 2. Huang RH, Probst AJ, Castelle

2019 年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費) 成果報告書

CPR バクテリアが持つ小型なリボソーム構造の解析

政策・メディア研究科

先端生命科学(BI)修士課程 2 年

鶴巻 萌

背景 環境や生体に由来するサンプルから直接抽出した DNA を用いる分析手法は,多くの未培養

微生物の発見をもたらしてきた.Candidate Phyla Radiation (CPR) は主に環境メタゲノム解

析により見出された一群の未培養バクテリアであり,既知のバクテリアと分かれた独自の

クレードを形成している(1).CPR バクテリア群は細胞およびゲノムサイズが非常に小さく,

TCA 回路など主要な代謝経路に加え,バクテリアに普遍的と考えられていたリボソームタ

ンパク質の一部 (L1, L9, L30) をも欠くことが報告されている(2, 3).本研究では CPR バク

テリア群の網羅的なゲノム解析によりその特性に関する理解を深めることを目指し,遺伝

子サイズに着目した解析を行った.中でも特にリボソーム関連遺伝子に重点を置き,上記の

タンパク質の欠如の他に CPR バクテリアにおける特異性が見られるかを調査した.

研究成果 先行研究(1, 4)に基づき,CPR バクテリア群のゲノム配列を NCBI GenBank より 816 個(完

全長 18 個,ドラフト 798 個)取得した.また比較対象として,既知のバクテリアの完全長

ゲノム 1661 個を NCBI Reference Sequence Database より取得した.CPR バクテリアと既知の

バクテリアの間でリボソーム RNA 遺伝子の配列長を比較したところ,先行研究の報告通り, CPR バクテリアにはイントロンを含む長い rRNA 遺伝子が存在することが確認された.一

方で,16S rRNA 遺伝子と 5S rRNA 遺伝子の一部は既知のバクテリアにおける平均的な長さ

よりもやや短く,特定の領域を欠如していた.中でも 16S rRNA 遺伝子上の 2 つの領域は,

既知のバクテリアにおいて欠如している例は稀であるのに対し,CPR バクテリアではほぼ

一貫して欠如していた.これらはいずれも二次構造上でヘリックスの末端にあたる領域で

あった.続いてリボソームタンパク質のサイズ分布を比較すると,CPR バクテリアでより

小型なタンパク質,大型なタンパク質がいずれも存在していた.多重アライメントによる比

較の結果,CPR バクテリアの特定の系統が持つタンパク質 L2, L3, L13 は 1~2箇所の領域を

欠如していることが分かった.また CPR バクテリアのタンパク質 S13, S19, L27 にはそれぞ

れ特異的な領域が存在していた.CPR バクテリアが欠く rRNA 領域およびタンパク質領域

を Escherichia coli のリボソーム立体構造モデルにマッピングすると,大部分がリボソーム

構造上で表面に突出した部分を構成するものであった(図 1).以上から CPR バクテリアは表

面上の部分構造を幾つか欠くリボソームを有している可能性が示唆される.CPR バクテリ

Page 2: CPR バクテリアが持つ小型なリボソーム構造の解析Thomas BC, Banfield JF. 2016. A new view of the tree of life. Nat Microbiol 1:1–6. 2. Huang RH, Probst AJ, Castelle

アの持つリボソーム構造が既知のバクテリアと異なる特異なものであれば,原核生物にお

ける翻訳系の進化を議論する上で重要な材料となり得る.一方で,一部のリボソームタンパ

ク質における CPR バクテリアに特異的な領域がどのような構造をとるのかは不明であり,

今後はこれらを踏まえた上で CPR バクテリアのリボソーム構造を明らかにしていきたい.

図 1. CPR バクテリアで欠如している領域のリボソーム構造上の位置 CPR バクテリアで欠如しているリボソーム関連遺伝子および遺伝子領域を,リボソーム立

体構造のリボンモデルにマッピングした図.立体構造データは E. coli K-12 に由来するリボ

ソームのものを使用した(PDB ID: 5U9G).16S rRNA,23S rRNA,5S rRNA の欠如領域が

それぞれ橙色,赤色,青色,先行研究で欠如していることが示されているタンパク質が濃い

桃色,部分的な欠如のあるタンパク質の欠如領域が緑色で示される. 参考文献

1. Hug LA, Baker BJ, Anantharaman K, Brown CT, Probst AJ, Castelle CJ, Butterfield CN, Hernsdorf AW, Amano Y, Ise K, Suzuki Y, Dudek N, Relman DA, Finstad KM, Amundson R, Thomas BC, Banfield JF. 2016. A new view of the tree of life. Nat Microbiol 1:1–6.

2. Huang RH, Probst AJ, Castelle CJ, Brown CT, Banfield JF, Anantharaman K. 2018. Biosynthetic capacity, metabolic variety and unusual biology in the CPR and DPANN radiations. Nat Rev Microbiol 16:629–645.

3. Brown CT, Hug LA, Thomas BC, Sharon I, Castelle CJ, Singh A, Wilkins MJ, Wrighton KC, Williams KH, Banfield JF. 2015. Unusual biology across a group comprising more than 15% of domain Bacteria. Nature 523:208–211.

4. Anantharaman K, Brown CT, Burstein D, Castelle CJ, Probst AJ, Thomas BC, Williams KH, Banfield JF. 2016. Analysis of five complete genome sequences for members of the class Peribacteria in the recently recognized Peregrinibacteria bacterial phylum. PeerJ 4:e1607.

謝辞 森泰吉郎記念研究振興基金による研究者育成費は,学会・研究発表会等への参加にかか

る移動費などに使用させて頂きました.ご支援に心より感謝申し上げます.

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