癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について...

38
癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について 平成28年4月4日 日本赤十字社医療センター 化学療法科部長 國頭 英夫 資料1-2

Upload: others

Post on 03-Jul-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について

平成28年4月4日 日本赤十字社医療センター 化学療法科部長

國頭 英夫

資料1-2

Page 2: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

肺がんの予後(5年生存率)

I期 II期

III期

IV期

全体

日本(がん研究振興財団)

日本(全国がんセンター協議会)

71.7% 83.6%

38.3% 49.0%

18.6% 22.9%

4.3% 5.0%

35.8% 44.6%

米国 (American Cancer Society HP ‘16)

49% 30% 5~14% 1%

英国 (Cancer Research UK HP ‘16)

35% 20% 6% 10%

1

Page 3: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

2

Page 4: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

がん細胞の特徴

増殖シグナルの自己完結

増殖抑制シグナルへの不応性

浸潤と転移

無限の自己複製能力

血管新生

細胞死からの回避

Hanahan and Weinberg, Cell, 100, 57-70, 2000

3

Page 5: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Metastasis Angiogenesis

myc cyclin D1

Jun Fos

R R

EGFR Signal Transduction in Tumor Cells

K K

Gene transcription and

cell cycle progression

MAPK

MEK

RAS RAF

SOS

GRB2

Proliferation

PI3-K

AKT

Inhibition of

apoptosis

P P

P

4

Page 6: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

肺がんの種類 形態分類 バイオマーカー(増殖メカニズム)による分類

腺癌

扁平上皮癌

5

Page 7: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Gefitinibの登場による 生存期間の変化

EGFR遺伝子変異有り EGFR遺伝子変異無し

JCO 2008;26:5589 After approval群:2002年7月から2004年12月まで Before approval群:1999年1月から2001年7月まで

6

Page 8: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

分子標的薬剤の治療

• 効果:当たると大きい

– 「標的」を外すと全く無効

– 全員に効くわけではない;事前に「標的」で患者選択を行うことが何より重要

• 限界:いずれ効果はなくなる(耐性)

– 腫瘍を根絶させることはできない(らしい)

– 通常1年内外で効果は失われる(例外的に3年以上続くものもあるが)

7 7

Page 9: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

抗がん剤の薬価(1ヶ月あたり)

50歳男性・BH 170cm, BW 68kg, BSA 1.784 8

Page 10: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

正常細胞 がん細胞

DNA (遺伝子)

勝手にどんどん増え出す (細胞周期・増殖抑制回路の異常)

周囲とのつきあいがおかしくなる (細胞接着の異常)

薬が効かなくなる (薬剤耐性)

まともに育たない (分化異常)

生体防御から免れる (免疫系の異常)

免疫細胞

血管を呼び寄せ、血管に出入りする (血管新生と転移の始まり)

死ななくなる (細胞死の異常)

9

9

Page 11: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

PD-1抗体およびPD-L1抗体の作用機序 ・抗腫瘍活性をもつTリンパ球に表面にはPD-1分子が発現しており、これが腫瘍表面のPD-L1もしくはPD-L2と結びつくと、活性が落ちる。 ・PD-1受容体などを抗体でブロックすることにより、このnegative signalingを遮断し、Tリンパ球の抗腫瘍活性を回復させる。

10

Page 12: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Overall Survival

Presented By David Spigel at 2015 ASCO Annual Meeting

CheckmMate 017試験OS

11

Page 13: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Nivolumab is coming…

• 有効率はさほど高くない(20~30%?)

• 有効例での効果持続期間は非常に長い

–「もしかしたら治ったのか?」

• 有効な集団が治療前に特定できない

• 有効例では、いつまで使うべきか不明である

–ということはずっと投与を続けるのがデフォルト

• 「無効」例で、「pseudoprogression」がある

–やめどき(諦め時)がわからない

12

Page 14: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Topalian. SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-54 13

Page 15: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

各種治療法比較

特性

化学療法

分子標的薬剤

血管新生阻害剤

Checkpoint

inhibitor

効果 (持続期間)

小〜中 (4〜6ヶ月)

大 (1〜>2年)

小 (+2〜3ヶ月)

大 (>2年?)

患者選択 (有効率)

不可 (30〜50%)

可能 (70〜90%)

不可 (不明)

不可 (20〜30%)

有効時 継続投与

△ (維持療法)

○ ○ ○

無効時 継続投与

× △ (beyond PD)

×

14

Page 16: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

治療コスト

薬剤 単価 (円)

一回投与量 スケジュール 年間コスト (円)

イレッサ (Gefitinib)

¥6,712.7 (250 mg)

250 mg 一日一回

連日 2,450,135

アレセンサ (Alectinib)

¥6614.60 (150 mg)

300 mg 一日二回

連日 9,657,316

オプジーボ (nivolumab)

¥150, 200 (20 mg) ¥729, 849 (100 mg)

3 mg/kg BW60 kgだと 180 mg (¥1,330,649)

2週に一回 34,596,874

15

Page 17: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

オプジーボの登場

0 2 0 0 4 0 0

エンド キサン

フ ルオロウラ シル

UFT

ビンデシン

カ ルボプラ チン

ネダプラ チン

ド セタ キセル

ゲムシタ ビン

ノ ギテカ ン

ゲフ ィ チニブ

ジオト リ フ

nab-パク リ タ キセル

ク リ ゾチニブ

オプジーボ

万円 後発 先発

50歳男性・BH 170cm, BW 68kg, BSA 1.784

日本経済新聞 2015/8/6

16

Page 18: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

Nivolumab is coming…

• 有効な集団が治療前に特定できない

• 有効例では、いつまで使うべきか不明である

• 「無効」例でも、「pseudoprogression」があるので、やめどき(諦め時)がわからない

• 日本の肺癌は2015年推定13万人、非小細胞肺癌は10万人強、少なく見積もっても5万人が対象:1年間使うとすると…

• 3500万円x5万人=1,750,000,000,000円

17

Page 19: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

各国医師とのpersonal communication

• アメリカ – こんなに有効な治療を使わないわけにはいかない。

• ヨーロッパ – 有効な患者を選ばないといけない。いまのヨーロッパ

全体で使えるようにはならない

• アジア – 今のコストで、自国で保険償還される日が来るとは思

えない。さらなる臨床試験は絵空事である

• 日本 – 夢の新薬だ!コストは。。。だけど、投与せざるを得な

い。。。

18

Page 20: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

R&D effeciency (Eroom’ Law)

9年ごとに開発コスト倍増

Nat Rev Drug Discov 2012 Scannell

19

Page 21: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

我が国の医療費について(1)

20

Page 22: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

我が国の医療費について(2)

21

Page 23: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

我が国の医療費について(3)

22

Page 24: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

がん罹患率~年齢による変化

23

Page 25: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

「破滅」の根拠

• これは「一つの疾患に対する一つの薬」に過ぎない

– 新規薬剤は次々と開発、開発コストは上昇の一途

– ジェネリックが出るころにはすでに次に交代

• 「死」をタブーにしたまま、医学は「進歩」し続ける

– 「寿命120年時代」

• 超高齢社会では癌を含め病人は増える

– 救命センターも高齢者ばかり

• 医学・医療では、コストの議論は異端である

– 「コストは国が考えるべきだ」

– 「医療経済は、現場の問題ではない」 24

Page 26: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

National Institute of Public Health, Japan

医薬品の費用対効果

既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か?

条件:薬はどちらも1年間投与

年間費用は A薬:100万円/人

B薬:150万円/人

効果は5年後生存数

100人中 A薬:60人生存

B薬:80人生存

25

Page 27: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

National Institute of Public Health, Japan

医薬品の費用対効果分析

既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か?

費用 効果

A薬 1億円 60人

B薬 1.5億円 80人

費用効果比

= 167万円/Life Saved

= 188万円/Life Saved

・B薬はA薬よりも効率が低いので従来通りA薬を使う?

・B薬の効果が95人(CE比=158万円/LS)だとしたらB薬を使う?

→医療としてはより効果の高い薬を求めるのは当然 重要なのは追加の5千万円を払う価値があるかどうか

26

Page 28: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

National Institute of Public Health, Japan

CERとICER

A:対照薬、B:新薬

Cost Effectiveness Ratio (CER):費用効果比

費用(B) = 効果(B)

Incremental Cost Effectiveness Ratio (ICER):増分費用効果比

費用(B)-費用(A) = 効果 (B)-効果(A)

27

Page 29: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

National Institute of Public Health, Japan

医薬品の費用対効果分析

既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か?

費用 効果

A薬 1億円 60人

B薬 1.5億円 80人

費用効果比

= 167万円/Life Saved

= 188万円/Life Saved

1.5億円-1億円 増分費用効果比= = 250万円/Life Saved 80人-60人

28

Page 30: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

ICR webより

ICR webより五十嵐中先生 29

Page 31: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

WHOによる基準

• 各国の経済事情によって異なる

• 大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが

–この1倍以下:very cost effective

–1~3倍:cost effective

–3倍を越える:cost ineffective

• 日本:2015年で約394万円(IMF推定名目GDP)

Health Econ 2000; 9: 235-51

Lancet Oncol 2011; 12: 933-80 30

Page 32: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

余命一年にかけるコスト

• 余命が1年と告知

• 健康な状態で余命を1年延ばすために 支払うことができる金額

– 「払わない」 32.8% 18.2%

– 100万円未満 24.3% 10.9%

– 100-500万円 27.2% 25.4%

– 500-1000万円 9.5% 25.4%

– 1000-5000万円 3.6%

– 5000万-1億円 0.4% 18.2%

– 1億円以上 0.1%

– 無回答 2.1%

日本経済新聞2009年01月04日 医学部4年生アンケート

31

Page 33: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

費用対効果の解析では不十分

New Engl J Med 2015; 373: 1797 32

Page 34: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

The conventional ICER analysis would not suffice, because…

対照群(標準治療)のコストも高くなるから、「それに比べて」だと本当のコストがマスクされてしまう。

「高い薬」はどんどん出て来る。しかもrare diseases(千人単位)ではなくcommon diseases(百万人単位)に対して出て来る。財政を逼迫する。

33

Page 35: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

破滅の回避

• 「適正」薬価 – 費用対効果を考慮

– 競合品(「二番煎じ」)の扱い

– 承認にあたっての規制緩和

• 「適正」使用 – 有効例に対し必要最小限度に

– 無効例に対し使用を控える/打ち切る

– 保険査定の厳格化

• 総量規制 – 高額療養費見直し?

– 年齢制限?(現時点で、ニボルマブ投与最高齢は100歳) 34

Page 36: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective

販売名 オプジーボ点滴静注 ソバルディ錠 ハーボニー配合錠

薬効分類 その他の腫瘍用薬(注射薬) 抗ウイルス剤(内用薬) 抗ウイルス剤(内用薬)

成分名 ニボルマブ(遺伝子組換え) ソホスブビル レジパスビル アセトン付加物/ソホスブビル

薬価収載日等

26年9月 ※ 非小細胞肺がんに係る承認は27

年12月

27年5月 27年8月

薬価 (28年度~)

20mg1瓶 150,200円 100mg1瓶 729,849円

1錠 42,239.60円 1錠 54,796.90円

効能・効果/特徴等

○ 根治切除不能な悪性黒色腫/切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん

○ 生存期間が既存の薬に比べて大幅に延長

○ ジェノタイプ2のC型肝炎

○ 高い治癒率

○ インターフェロンの併用不要

○ ジェノタイプ1のC型肝炎

○ 高い治癒率

○ インターフェロンの併用不要

主な用法・用量等

○ 非小細胞肺がんの場合、1回3mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静注

→ 体重60kgの成人に対し、1年

間継続して投与が行われた場合、 約3,500万円の医療費が必要

○ 1日1回1錠を12週間経口投与 → 12週間で約355万円の医療費が

必要

○ 1日1回1錠を12週間経口投与 → 12週間で約460万円の医療費が

必要

(参考)

35

Page 37: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective
Page 38: 癌治療のコスト考察; 特に肺癌の最新治療について …...•大まかに一人当たりGDPを目安:ICER per QALYが –この1倍以下:very cost effective