国立公園における外来牧草の 定着と生育環境 ·...
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国立公園における外来牧草の定着と生育環境
(独)農業環境技術研究所生物多様性研究領域 楠本良延
第35回 農業環境シンポジウム(東京)
外来生物が生物多様性に与える影響
生物多様性国家戦略(物多様性の危機)生物多様性国家戦略(物多様性の危機)
【第1の危機】人間活動の拡大
【第2の危機】人間活動の縮小
【第3の危機】新たな導入問題
【第4】温暖化
外来生物の導入による生態系のかく乱
生物多様性条約 (COP10)
Target 9: 2020年までに、侵略的外来種とその定着経路が特
定され、優先順位付けられ、優先度の高い種が制御・抑制され又は根絶される。
外来生物が侵入してほしくない環境
http://www.env.go.jp/park/
○現在、国立公園内への外来生物の侵入・定着が多く報告。→わが国固有の生態系への影響が懸念されている。
○有用植物である外来牧草の侵入・定着実態はどうだろうか?・国立公園内に牧草地が存在・道路の緑化植物として使用
野外調査により分布・侵入・定着実態を明らかにする。
全国の国立公園において、景観タイプ別に外来緑化植物の逸出状況を概査
主要群落に外来牧草が侵入しているのは草原タイプのみ。
道路沿いなどでは景観タイプにかかわらず外来牧草が蔓延していることが確認された。
景観タイプ 主な調査地 外来牧草の侵入状況相観 地形 主要群落内 周辺
草原 山岳 利尻礼文 阿蘇 ● ●
山麓 利尻礼文 阿蘇 富士 ● ●
海岸 利尻 ● ●
湿原 山岳 日光 八幡平 × ●
低地 釧路湿原 × ●
海岸 利尻 × ●
常緑針葉樹林 山岳 阿寒 中部山岳 日光 × ●
海岸 礼文 × ●
落葉広葉樹林 山岳 尾瀬 中部山岳 日光 × ●
山麓 富士 中部山岳 日光 × ●
常緑広葉樹林 山岳 小笠原 西表 × ○
山麓 阿蘇 西表 × ●
平野 西表 × ●
海岸 西表 × ●
対象地
• 外来牧草の逸出について量的に明らかにするため、緑化がなされ
た道路の沿道および近隣の牧草地を対象に詳細な調査を行った。
• 逸出場所に関する詳細な調査の対象地
山岳森林景観 中部山岳国立公園 尾瀬国立公園
草原景観 富士箱根伊豆国立公園
• 道路端および林内に、調査区を設けて、
植生調査を実施した。
6調査区各設置概略図
中部山岳国立公園
尾瀬国立公園
研究方法(山岳森林景観)
研究方法(山岳森林景観)Chubu-Sangaku
National Park Oze
National ParkJapan
• 調査か所数
中部山岳国立公園:2か所 尾瀬国立公園:3か所
• 調査区画数
道路端:279区画 林内:199区画 合計:478区画
• 外来牧草は道路端で植被率が高く、集中的に出現!
地表の相対光量子束密度
a
b b
b
b b b
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
0m 5m 10m 15m 20m 25m 30m
Relativ
e Ph
oton
Flux De
nsity
Distance from Road
0.02.04.06.08.0
10.012.014.016.018.0
0m 5m 10m 15m 20m 25m 30m
植被
率(%
)
道路からの距離 (道路 → 林内)
コヌカグサ カモガヤ
オニウシノケグサ シロツメクサ
オオアワガエリ イタチハギ
ハリエンジュ
結果(山岳森林景観)
潜在分布域を推定する
• 外来牧草であるイネ科4種、マメ科1種について解析可
能な十分な量のデータが得られており、これらのついて
潜在分布推定の解析を行った。
オオアワガエリ(チモシー)
オニウシノケグサ(トールフェスク)
シロツメクサ(ホワイトクローバー)
カモガヤ(オーチャードグラス)
コヌカグサ(レッドトップ)
研究方法(潜在分布域の推定)
• 外来緑化植物の生育地点の調査
種ごとに生育地の緯度・経度をGPSで記録する(目的変数)
• 潜在分布域の推定
統計解析手法のMaxentを使用する。
環境変数(説明変数)は、気象データ(気候メッシュ2000)と、土地被覆データ
(国土数値情報)を3次メッシュデータ(約1km×1km)として使用する。
• 研究対象地(詳細な調査を行った国立公園と同じ)
山岳森林景観 中部山岳 尾瀬
草原景観 富士箱根伊豆(本栖・朝霧地区)
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緑化植物の逸出パターンの把握と潜在分布域の推定
図1.尾瀬国立公園における調査メッシュとMaxentによる分布域の推定。赤の塗り潰しは、Logistic outputが0.5以上となったメッシュ。
→森林内には侵入・定着しない。しかし、道路、登山道、自然崩壊地には侵入するという結果を得る。
図2.中部山岳立公園における調査メッシュとMaxentによる分布域の推定。赤の塗り潰しは、Logistic outputが0.5以上となったメッシュ。
草原景観について
利尻礼文サロベツ国立公園
富士箱根伊豆国立公園
阿蘇くじゅう国立公園
草原景観(草原と道路が一緒にある場所には全て出現)
・調査地点
赤囲みはLogistic outputが0.5以上
コヌカグサ、オニウシノケグサ、カモガヤ、シロツメグサの4種すべて同様
-富士箱根伊豆国立公園における植物群落調査-より詳細に分布を確認する
コドラート(1x1m)
調査ライン
100m
10ライン、60コドラートで調査
10ライン、60コドラートで調査
普通地域
普通地域
特別地域
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ライントランゼクト調査の結果(代表的なパターン)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
NBL1-0 NBL1-1 NBL1-2 NBL1-3 NBL1-4 NBL1-5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
NBL2-0 NBL2-1 NBL2-2 NBL2-3 NBL2-4 NBL2-5
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
NBL4-0 NBL4-1 NBL4-2 NBL4-3 NBL4-4 NBL4-5
外来
植物
被度
(%
)
外来
植物
被度
(%
)外
来植
物被
度(%
)
0m 20m 40m 60m 80m 100m
0m 20m 40m 60m 80m 100m
0m 20m 40m 60m 80m 100m
緑化地からの距離は関係ない?
・緑化地からの距離では外来牧草の侵入は説明できない。
・ライントランゼクト調査地点における土壌分析の結果、外来牧草の侵入している地点は、土壌pH、可給態リン酸量ともに高い場所であった。
・以上から、種多様性が高く、土地改変(施肥や土木工事)が実施されていない場所には侵入しづらい傾向が把握された。
・ただし、土地改変が認められない場所にも、ハルガヤ、コヌカグサ、ナガハグサの分布は確認された。これらの種は注意が必要。
草原への外来緑化植物の侵入にいて
まとめ
○外来緑化植物は道路沿いに分布を広げているが、森林内には侵入しない。→自然裸地や河川などには注意が必要。
○外来緑化植物の草原景観への侵入は限定的?種多様性の高く、土地改変が実施されていない草地には侵入しづらい傾向がある。
○草原景観においてはハルガヤ、コヌカグサ、ナガハグサには注意が必要。
謝辞
農業環境技術研究所
細木大輔(現(株)新日本設計)、西田智子、山本勝利、徳岡良則、早川宗志、平舘俊太郎、山口弘、渡邊浩二、小柳知代(現学芸大)、森田沙綾香(現(独)産総研)・
環境省の関係諸氏の皆様
※本研究は2008-2012年の間,環境省地球環境保全等試験研究費の助成を受けました.