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経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 御中 平成29年度産業技術調査事業 我が国企業の研究開発活動に関する調査 調査報告書

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Page 1: 経済産業省産業技術環境局研究開発課 御中 · る。特に機械学習・ディープラーニング(AI)やIoT等の第四次産業革命技術により、様々な産業、企業、モノ、ヒトがネット

経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 御中

平成29年度産業技術調査事業我が国企業の研究開発活動に関する調査

調査報告書

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1 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

目次

1. 事業の背景・目的1.1 事業の背景 31.2 事業の目的及び実施方針 4

2. 我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(文献調査)2.1 我が国研究開発活動の特徴 62.2 我が国研究開発活動に関連した潮流 9

3. 我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)3.1 企業ヒアリング調査の設計 163.2 企業ヒアリング調査の結果 17

4. 我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)4.1 有識者ヒアリング調査の設計 314.2 有識者ヒアリング調査の結果 33

5. 我が国企業が抱える研究開発関連の課題の抽出及び課題解決方策(まとめ)5.1 課題の抽出 415.2 課題解決方策の提示 42

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2 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

1.事業の背景・目的

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3 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

1.事業の背景・目的

1.1.事業の背景

近年、企業間国際競争の激化や市場トレンドの急激な変動等、企業にとって将来見通しが立てづらく厳しい事業環境となっている。特に機械学習・ディープラーニング(AI)やIoT等の第四次産業革命技術により、様々な産業、企業、モノ、ヒトがネットワークを介してつながり新たなビジネスモデルを創出するConnected Industriesの時代が到来しつつある。

産業技術政策においても、特にデジタル領域においては基礎研究と社会実装を高速に繰り返すことで高めていくスパイラル型イノベーションが主流になりつつあり、産業界ではオープンイノベーションによる新事業開発が活発化する等、産業技術政策においても迅速かつ柔軟な対応を実施していくことがこれまで以上に求められている。

出典:経済産業省 産業構造審議会 新産業構造審議会部会「『新産業構造ビジョン』⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する日本の未来」(平成29年8月)

社会・産業・技術の変遷とConnected Industriesの到来

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4 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

1.事業の背景・目的

1.2.事業の目的及び実施方針

⼀方で、これまで我が国産業が強みとしてきた工学や化学分野における学術的基礎研究力の低下が指摘されており、中長期的な新産業・イノベーションの創出を目指す研究開発力の低下、イノベーション創出の土壌の枯渇が懸念されている。

本事業では、我が国企業の研究開発活動の現状と課題を調査するとともに、特に、研究開発⼈材の確保や、将来の国家プロジェクト等の技術シーズの探索に係る支援の方向性について調査することで、研究開発施策の企画・立案・推進に必要な情報を収集することを目的とする。

本調査の全体フロー

1

2

3

文献調査

企業ヒアリング調査

有識者ヒアリング調査

企業ヒアリング調査における調査項目を検討するため、文献・WEB調査を実施。

我が国企業の研究開発動向や特徴の、大学・公的研究機関等を含む研究開発における課題等の論点を整理。

経済産業省担当者と相談の上、ヒアリング項目及びヒアリング対象企業を選定し、企業ヒアリング調査を実施。

企業における研究開発の取組や考え方、国の研究開発政策に対する要望等について聴取。

企業ヒアリング調査を踏まえて、特に注力すべき論点を絞り込み、当該分野の有識者にヒアリング調査を実施。

特に中長期的な研究開発テーマの創出やその方法について、現状の課題と解決方策を聴取。

4まとめ これまで聴取した情報を基に課題及び、課題解決方策を本調査の提言と

して整理。

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5 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

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6 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.1.我が国研究開発活動の特徴

研究費総額の対GDP比率は、日本は韓国に次いで世界2位となっており、研究開発活動に積極的に資源配分している国だと言える。 研究主体別にみると、欧米各国に比して企業等の研究費支出割合が高い⼀方で、大学等については欧米各国に比して低い。

研究開発費総額の対GDP比率 研究主体別研究費支出割合(2015年)

出典:経済産業省産業技術環境局技術政策企画室「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」(平成30年2月)

出典:経済産業省産業技術環境局技術政策企画室「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」(平成30年2月)

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.1.我が国研究開発活動の特徴

主要業種別に民間企業の研究開発費分布をみると、日本は第四次産業革命技術の筆頭であるソフトウェア・コンピュータ産業の研究開発費が小さいが、世界に比して各業種のバランスが良い点が特徴。

主要業種別の民間企業における研究開発費分布(世界) 主要業種別の民間企業における研究開発費分布(日本)

出典:EU Industrial R&D Investment Scorebordより作成。 出典:EU Industrial R&D Investment Scorebordより作成。

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.1.我が国研究開発活動の特徴

欧米各国に比して基礎研究への研究費比率が若干低い⼀方で、我が国研究開発支出割合の多くを占める産業部門においては、基礎研究と開発研究の割合が増加。大学においても開発研究の割合が増加する⼀方、その分応用研究は低下。

産業部門で将来花開くことを目指す、新たな技術シーズの実用化を目指す上で重要な役割を果たす応用研究の研究費比率が低下している点は、産業政策上の懸念あり。

主要国等の性格別研究費 性格別研究費比率の推移

出典:いずれも経済産業省産業技術環境局技術政策企画室「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」(平成30年2月)

産業

大学

「基礎研究」とは、何ら特定の応用や利用を考慮することなく、主として現象や観察可能な事実のもとに潜む根拠についての新しい知識を獲得するために実施される、試験的あるいは理論的な作業である。「応用研究」とは、新しい知識を獲得するために企てられる独自の研究である。しかしながら、それは主として、特定の実用上の目的または目標を目指している。「(試験的)開発」とは、体系的な取り組みであって、研究または実用上の経験によって獲得された既存の知識を活かすもので、新しい材料、製品、デバイスの生産、新しいプロセス、システム、サービスの導入、あるいは、これらの既に生産または導入されているものの大幅な改善を目指すものである。

研究開発フェーズの定義(OECDフラスカティ・マニュアル)

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9 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

つながることが前提となるConnected Industries時代に第四次産業革命技術を取り込んだサービス化を実現するには、研究開発や事業開発を全て自前で行うことが難しくなってきており、外部資源を活用したオープンイノベーションの取組が不可欠。

大手企業から大学やベンチャー企業等への投資・提携が増加しつつあり、国プロを中心としてきた中長期的な研究開発政策も分水嶺に来ていると思料。

大学における民間企業との共同研究・受託研究 大企業メーカーのベンチャー投資例

出典:文部科学省「平成28年度 大学等における産学連携等実施状況について」(平成30年2月)

出典:⼀般財団法⼈ベンチャーエンタープライズセンター「ベンチャー白書2016」(平成28年11月)

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

他方で大学に目を向けると、我が国産業を支える工学分野の研究者が2010年以降減少しており、工学分野は学術論文でも世界ランキングが大きく低下。

必ずしも学術論文ばかりが我が国研究開発力を計る指標ではないが、産業部門からニーズの強い研究領域の衰退により、継続的にイノベーションを生み出すための土壌の枯渇が懸念される。

日本の大学等の専門別研究者数 学術領域別論文の世界ランキング

出典:経済産業省産業技術環境局技術政策企画室「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」(平成30年2月)

出典:経済産業省産業技術環境局技術政策企画室「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向」(平成30年2月)

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11 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

ヒアリング先企業に各研究段階における研究期間を尋ねた。 基礎研究を行っている企業が約56%あり、10年以上と回答した企業も複数あった。また、基礎研究、応用研究、開発とフェーズアップするのに伴って、短期間を回答する企業の割合が高くなっている。

基礎研究期間

16.7%13.3%

10.0%

0.0%

16.7%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%(n=30)

40.0% 40.0%

6.7%3.3%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%(n=30)

50.0%

33.3%

6.7%0.0%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%(n=30)

応用研究期間 開発期間

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

今後企業が最も重視する研究開発フェーズとしては、応用研究段階が最も多くなっており、全体の63.3%を占めている。

6.7%

63.3%

20.0%

10.0%

基礎研究

応用研究

開発

無回答

(n=30)

今後最も重視する研究開発フェーズ(単数回答)

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

企業単独では収集することが困難な情報の種類について尋ねたところ、「国内外で行われている国家プロジェクト等に関する情報」を回答した企業が60.0%と最も多く、「国家プロジェクト等の企画・立案に当たっての技術戦略等の情報」が続いている。

国家プロジェクト等の企画・立案に資する情報は文書のWeb⼀般公開、セミナー等の手段で発信しているが、企業側は当該情報へのアクセスに困難を感じている様子である。更なる情報発信の工夫が必要だと思われる。

企業単独では収集が困難な情報の種類(複数回答可)

56.7%

60.0%

36.7%

33.3%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0%

国家プロジェクト等の企画・立案に当たっての技術

戦略等の情報

国内外で行われている国家プロジェクト等に関する

情報

国内外の研究開発型ベンチャー企業に関する情報

国内外の大学等基礎研究に関する情報

(n=30)

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2.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する文献調査

2.2.我が国研究開発活動に関連した潮流

研究開発⼈材に関連して、確保する方法と求めるスキルや能力について尋ねた。確保する方法は、採用が最も多いが、外部連携によって取り込んでいるケースも多い。

また、求めるスキルや能力より、高い専門性を有しながら他社と協調して働くマインドのある⼈材が理想像として浮かび上がる。

研究開発人材を確保する方法(複数回答可) 研究開発人材に求めるスキルや能力(複数回答可)

93.3%

66.7%

76.7%

0.0% 20.0%40.0%60.0%80.0%100.0%

採用やスカウト等により新たに⼈

材を採用している

社内⼈材の異動・配置転換により

対応している

外部研究機関や企業との連携、M

&A等により取り込んでいる

(n=30)

100.0%

46.7%

46.7%

73.3%

80.0%

0.0% 25.0% 50.0% 75.0%100.0%

専門的な技術に関する深い知識

専門以外の技術に関する幅広い知識

技術以外の経営・イノベーションに

関する知識や感覚

コミュニケーション能力

積極的に多様な知見を取り入れる姿

(n=30)

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.1.企業ヒアリング調査の設計

対象企業は、研究開発投資額の大きい企業の中から、経済産業省担当者と相談の上選定。 ヒアリング項目についても、経済産業省担当者と相談の上、以下3項目について重点的にヒアリング調査を実施。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)

自社の中長期的な研究開発の現状

国と協調して解決を図るための研究開発などの施策について

1

2

3

A) 中長期的な研究開発と同等(またはそれ以上に)重要性が増している事項と対応状況。B) AIのような新たな研究領域における研究開発⼈材の確保や育成における課題。C) 中長期的な市場開拓や研究開発に取組む際の外部連携などの体制。ベンチャー企業などと

のオープンイノベーションや、国や大学等との産学共同研究など、他者と連携した取組みの状況。

A) 中長期的な研究開発に取組む体制や、組織を支えるチーム・⼈材配置のポートフォリオとその考え方や取組みの状況。

B) 新たな中長期的な研究開発テーマを創造し、目利きをし、磨き上げて事業化に結びつけるまでの社内的な工夫や取組みの状況。

A) 産総研や公設試、大学等、その他公的セクションに対する現状認識と期待すること。B) 国(NEDO含む)による研究開発プロジェクトにおける現状の課題と期待。その他、研

究開発政策への意見や要望。C) 業界として協調し、基礎的な研究に立ち返って改めて強化していくべき領域・分野はある

か。

ヒアリング項目(企業)

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

第四次産業革命の到来により、事業における変化のスピードが加速。こういった変化のスピードに対応するために組織体制や役職を変更、新設しているケースもみられた。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)1

A)事業環境の変化に対する認識

• これまでは作れば売れる時代であったが、現状のビジネスモデルでは長期的に生き残ることは難しく、新規事業分野への開拓が不可欠となっているが、新規事業領域はなかなかマイルストーンの見通しを立てにくい。

• サプライチェーン上で川上に位置している産業は、川下産業ほどデジタル革命等の変化を感じ取れていない印象がある。しかし、そのような中でも、逆に根底から覆される可能性も否定できないのではないかと、危機感を持っている。これまでの経営は、過去からの延長で近未来を予測してきたが、その限界が来つつある。

• AIやIoTの導入により川下企業が川上に食い込んでくる傾向がある。こうした状況を踏まえ材料メーカーが自身の領域を守る場合、あるいは、逆に川下に食い込んでいく場合は、AIやIoTの活用は必須である。

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18 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

第四次産業革命技術(AI/ビッグデータ/IoT)に対応するため、各社はAIをはじめとする当該技術の⼈材(以下、AI⼈材)の確保を急いでいるが、課題に感じている企業も多く、社内⼈材の再教育などを含めて対策を模索している。

他方、独自のデータ資源を源泉として、AI⼈材を確保している企業も存在。AI⼈材に期待する仕事や企業内でのデータの活用戦略などを明確にし、分析するデータ基盤の整備を進めることなどが、AI⼈材を惹きつける鍵になると思料。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)1

B)AI⼈材の採用・確保 • R&DへのAIの活用を行う場合、データサイエンティストが足りず、様々な業界との⼈材の奪い合いが起きている。外部からの⼈材確保とともに、社内教育を進める必要がある。

• AIやIoTに関しての新卒採用もしたいと思うが、売り手市場ということもあり、採用は難しい。当社はあくまでAI利用研究であり、多くの学生はAIそのものを開発している企業にいってしまう。

• 新規や中途の採用を増やそうと考えているが、採用に課題もある。この分野の⼈材は引く手あまたで、中途採用したくてもネームバリューの高い企業にもっていかれてしまう。

• 素材が分かっていて、ITが使いこなせる⼈材が欲しいが、そういった素養のある⼈材の発掘ができていない。

• 再教育を重視するか、新たに外部から⼈材を獲得する方を重視するか、どちらを主にするかは決まっていない。

• ディープラーニングを使いこなす⼈は比較的少ない。採用の中心は中途採用だが、新⼈の中にも非常に優秀な者もおり、各社で取り合いになっている。他方で、自社にはヘルスケアやエネルギー分野における実際のデータが豊富にあるため、⼈材を確保できている。

• AIに関する⼈材育成について、社が旗振りをして再教育をしていく形では上手く⼈材が育たない。感度の高い社員は独自に考えてAIに関する学習をし始めており、こうした自発的な動きができるように支援をしていくことが重要。

• 海外に比べデータサイエンティストの母数が少ないのは事実だが、各社で枯渇しているというのは本当なのか疑問がある。社内におけるデータサイエンティストの仕事や役割を定量的に設計し、需要量を算出できているのかというと、そうではないのではないかと考えている。

深刻な課題である

深刻な課題ではない

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

こういった激しい市場変化に対応し、これまで自社が有していなかった第四次産業革命技術や新たな市場を取得するために、特定の技術や市場において優位性のあるベンチャー企業との外部連携に対するニーズが高まっている。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)1

• 大学との産学連携をはじめ、従来型の取組を見直し、オープンイノベーションの本質は何なのかを模索している。ベンチャー企業への投資をしているが、ベンチャー企業のスピード感に期待しており、社員がダイナミズムを感じるには最高のパートナーだと考える。

• オープンイノベーションは企業成長のツールとして推進するべきだと考えており、素材系でもなかなか面白いベンチャー企業が出てきていると感じる。ベンチャーには、技術シーズを市場に繋げていく部分を期待している。

• 海外の企業との連携を推進しており、ベンチャーや大手企業といった規模に関係なく、その企業に特色があれば組んでいる。海外との規制や基準の違い等も理由となり、特にヘルスケア分野では海外企業との連携が進んでいる。

C)外部連携①

基本的な考え方

• AI開発については、AIの応用に軸足を置いており、大学や産総研との連携を進めている。• AI分野に詳しい⼈材や大学の先生は限られているため、なかなか当社と個別に共同研究を行うことが難しく、国プロを通じてコネクションを構築しようとしている。

• 新規事業分野の開拓において、最近では当社樹脂製品の新たな使い方を探索するために、ベンチャー企業との連携を開始しており、製品化・ソリューション化することを通じて新たな価値の創出に挑戦している。

• 技術開発終了後に事業化を展開する際に、既存顧客やスタートアップと実証実験等から小さく始める連携をしている。また、各カンパニーのユーザー顧客や、公共事業を想定した自治体等を交え、スペックの擦り合わせを行っている。

市場変化への対応

第4次産業革命への対応

異分野・川上川下連携

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

大学やベンチャーの技術シーズから事業モデルを創造し、技術開発も外部資源を活用する、⼀貫したオープンイノベーションに取り組む先進的なケースも存在。

今後、ベンチャー企業等が有する独自の技術シーズを、大企業の豊富な技術や製造等の資源と掛け合わせることで育てる、いわゆる「連携型」の増加を予想する意見もあった。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)1

• 研究開発領域におけるオープンイノベーションの取組は、新規事業を企画するフェーズで、外部のベンチャーや大学等の尖った技術シーズや事業モデルを集めて、競争優位戦略を立てられるかどうか技術と市場の両面から試行錯誤する。その後の技術開発もスピード重視で、世界中から技術を目利きして取り込むようにしている。このようにビジョンはトップダウンで決めるが、それを達するための技術、事業のシーズはボトムアップに探索している。

• これまで自社のビジネス発展のためにベンチャーの技術を活用する(技術を獲得する)という考え方であったが、最近ではベンチャーの技術を新しいビジネスのシーズとしてとらえ、これに出資していく考え。

連携型

C)外部連携②

インバウンド型 アウトバウンド型 連携型

• 外部資源を社内に取り込み、イノベーションを創出

• 外部チャネルを活用し、既存の内部資源を新たな開発および製品化につなげる

• インバウンド型とアウトバウンド型の統合型• 社内外で連携して共同開発

• 社外技術をライセンスインすることで、社内で開発中の技術の要素を効率的に取得する

• 社内の開発技術をさらに発展、または市場化することを目的に社外にラインセンスアウトする

• ハッカソン・アイデアソン、事業提携、ジョイントベンチャー、CVC、インキュベーターなど

概要

(出典)オープンイノベーションの創出タイプとその概要及び例は、NEDO「オープンイノベーション白書(初版)」

<参考>外部連携の類型

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

大学・公的研究機関との連携においては、既存事業を支えるコア技術を更に強化することを目的とした産学連携が多く、コア技術の強化に資するシーズ創出や技術指導といったことが期待されている。

自社の中長期的に重要な取組(⼈材育成、外部連携等)

• 大学との産学連携もケースバイケースで、基礎と応用の割合が50対50程度。最近の大学の研究は、基礎フェーズよりもビジネスに近い応用研究の割合が増えてきた印象が強い。

• コア技術を強化する応用研究においても、自前主義ではなく、大学との共同研究を活用している。特に海外の大学に派遣する場合には、社員のマインド転換を期待している部分がある。

• 大学や産総研とは、技術を取り込む目的で連携することが多い。他方、海外の国研には、大規模施設が優れているのみならず、独立・起業をモチベーションとしている研究員のビジネス視点が強く、ビジネスチャンスを掴もうと必死で応用フェーズをやってくれるようなところもある。

• 大学には共同研究でお世話になっており、主に要素技術での指導をお願いしている。社内で閉じた形で研究開発を進めるつもりはない。

• 大学との共同研究の基本形としては、まず少額寄附の範囲で共同研究を行い、次に国・NEDOプロ等で加速させるようにしている。

• とある大学では金属材料の研究が盛んで、生産プロセスの研究も盛んにやっている。組織的連携協力協定を締結し、当社に適した研究者を紹介してくれる。

大学等との産学連携

C)外部連携③

1

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

参考:企業の技術開発と新市場開拓の方向性

各社において、第四次産業革命や新たな顧客の台頭・急成長といった市場変化に既存事業を対応させるために、ベンチャー企業等との連携が加速。

さらに今後は、内外の事業や技術の掛け合わせによって、新たな市場やプロダクツを創出する取組みの増加が予想される。

内外経営資源の掛け合わせによる新たな市場やプロダクツの創出

既存の技術

市場変化への対応(第四次産業革命対応、

異分野・川上川下連携 等)

大学等との産学連携共同研究既存の事業領域

新たな技術

既存の市場

新たな市場

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

特に化学・部素材産業においては、自社のコア技術を二桁年以上の年月をかけて強化する中長期的な研究開発と、スピーディーに事業化に繋げていく開発を両輪で推進。

他方、電気産業では、市場変化に合わせたスピーディーな短期的な研究開発が多く、中長期的な研究は少ない。

自社の中長期的な研究開発の現状2

• 自社の技術基盤を長期スパンで高め続け、いかに収益期間を長く保つかを重視している⼀方で、自社にない技術は外から持ってきて、とにかく早くソリューション化することを重視している。

• 経営幹部から「研究はできるがそれが事業につながっていない」というコメントがよくある。研究者は自分の専門領域に閉じてしまいがちであり、自身の研究を過大評価する傾向にある。

• 当社全体としては短期的開発が多いが、素材系は中長期的な研究開発が多い。カーボンナノチューブや燃料電池などは二桁年かけてやってきており、いかに事業化していくかが課題。これ以外ではシーズ探しが中心。

• 当社における基礎研究は、材料組成の設計と生産プロセスの観点からモノになるかどうかを検証するFSを指す。実用化まで20年近くの時間を要しているものが少なくなく、今のうちに次の材料の仕込みをしなければいけない。

• 基礎研究(5~10年スパン)のKPIはCO2削減(環境)や規格などの学術貢献的なもの。応用研究(3~5年スパン)のKPIは安心・安全社会、地域・国際貢献、労働環境改善、開発のフェーズ(2年以内)のKPIは環境改善、品質・コスト、顧客満足度である。

• 従来は研究開発を自前でコツコツ進めて、成果が出てから事業化を考えていたが、今では「ビジネスモデルファースト、技術はオープンイノベーション」のスタイルで推進している。

A)自社の研究開発におけるポートフォリオ等の考え方

化学・部素材産業

電気産業

• 研究開発費は、新規商品開発(3年)、要素技術・評価技術開発(2年)を主としており、基礎研究(10年)まで行う余力がない。以前は、中央研究所も設立していたが、あまり成果が出せていなかったため、現在は、大学や国の研究機関と上手く協業をして進めている。

• 各カンパニーはそれぞれ事業領域が異なるため、研究開発の時間軸も異なっている。コーポレートは3~4年先を見ていて、10年先のものは多くはなく、今で言うと2025年あたりがターゲット。

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

将来ビジョンやシナリオ、社会課題からバックキャスティングしてテーマ設定を行う方法を取り入れる企業が多数。 他方で、将来シナリオを描くことを廃止した等、バックキャスティングには後ろ向きな意見もあり、業種や分野によって向き・不向きがあるものと思料。

自社の中長期的な研究開発の現状2

• 研究開発の大きな方向性を示すビジョンを策定している。このビジョンの下で研究開発方針の決定や、⼈材育成計画の策定等が行われている。

• 試行的に2030年、2040年の未来を定めて、世界がどうなっているのか、その世界は当社や産業に有利になるのか、不利になるのか等のシナリオプランニングを開始した。

• 社会課題からバックキャスティングした研究テーマの設定は、今後当社としてもやっていこうとしているところである。特に実用化まで10年以上を要する研究テーマについては、社会課題からバックキャスティングし、大局的な視点でテーマを設定していくことが必要になってきた。

• カンパニーはフォアキャストで考える⼀方、CTOはバックキャスティングで考えている。この際、両者をどうやって結びつけるかが非常に重要で、同社では各事業のトップとCTOが頻繁にディスカッションして、連携している。

B)研究開発テーマの設定方法

バックキャスティングを導入・

導入検討中

バックキャスティングを廃止・

導入には後ろ向き

• 研究テーマを考えるアプローチは、市場ニーズの方向性・延長線でテーマを決めるアプローチと、学術発の特殊な材料の発見・発明を実用化するアプローチの二つである。バックキャスティングで考えてテーマを出せれば良いが、社会課題からブレイクダウンしても、材料のテーマに結びつけるのはなかなか難しい。

• 過去には10年先の世の中の変化を想定して、それにともなう機器変化のシナリオを描くことに何度かトライしたが上手くいかなかった。そもそも10年先のシナリオを描くのは無駄ではないかとの考えに至り、その時々の勝ち馬に上手く乗る戦略をとっている。

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25 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

国内大学の状況については、産業界のニーズを踏まえた応用研究が増えているが、企業としては基礎研究や10歩先を行くような尖った研究もして欲しいという意見があった。

また、国内大学の場合、海外大学のように組織対組織の連携ではなく、研究室・先生単位の個対個の連携が多いとの指摘あり。

国と協調して解決を図るための研究開発などの施策について3

• 尖った研究を探すと、結果的に海外大学に行きつくケースが多い。国内大学に対して、産業寄りのことが求められるようになったことが望ましい反面、尖ったものが生まれなくなってきている印象がある。社会実装を意識するのは良いが、意識し過ぎて研究の独創性が落ちるのは、当社としては望ましくない。尖った研究とは、必ずしも学術的に優れていなくても、「できるか分からないができたら社会的にすごい、企業の10歩先を行く研究」である。

• 大学には基礎研究を期待している。自社リソースでは解決策が見いだせない場合に、大学の基礎研究力に頼りたい。昨今は大学も応用研究に力を入れるようになってきているが、基礎研究が中途半端になると企業としては困る。

特に産学連携について

• 日本の大学との連携における問題点としては、企業側は組織対組織で動きたいのに対し、日本の大学では組織ではなく教授、研究室単位の個対個の動きとなっている。教授によってはスピード感が遅く、企業側のニーズと大学のシーズを結びつけるマッチング機能が弱い。⼀方、欧米の大学では組織対組織で動くことが多く、マッチング機能がしっかりとしている。

• 有名大学の先生だと既に他社と共同研究をしていて断られるケースも多いため、光るものがある地方大学の若手の先生とやる機会があると良い。日本企業が共同研究に出す費用は、正直水準が低すぎると考えており、地方大学の若手の先生に企業が数千万円の研究費用を出すことがあって良い。

• 最近、いくつかの有名大学の産学連携部門や学科長クラスから、共同研究・開発の提案を受けるようになった。特に新事業領域における新技術開拓のところで、活用していきたいと考えている。

A)大学・公的研究機関の現状や課題などの認識

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

また、産業界からはニーズがある学問分野であっても、学術的には論文にならず衰退している分野があり、産業界への⼈材供給の観点からも強化を望む意見があった。

国と協調して解決を図るための研究開発などの施策について3

A)大学・公的研究機関に期待する研究

• 大学には、学術的には論文にはならず「花形」とはいえないが、産業界からニーズの強い地味な研究もやって欲しい。例えば、化学工学の研究をしている大学の先生は非常に少ないという認識。

• めっき、顔料の粒子分散、腐食、摩耗・破壊等については、学術領域としては衰退してきており、企業のベテラン技術者に知見が集中している。腐食は現象論として未解明な部分が多いが、学問として⼈気が無い。

• 大学の専門分野に金属冶金に関する講座がほとんどなくなってしまった。マテリアル専攻の学生も、専門が高分子や無機材料が多く、当社のニーズとマッチしない。研究予算が取りやすいのは非鉄金属であるため、大学の研究者(教員)や研究室も少なくなっている。産業界に⼈材を提供する大学の機能強化を考えてもらいたい。

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

参考:産業界からニーズがある研究が衰退する要因

我が国の大学・公的研究機関における研究・研究者評価は、学術論文の実績評価に偏重しており、企業等の要請で論文化が難しい実用化研究やインパクト・ファクターが相対的に低い材料、工学分野等は、研究に取り組む環境が相対的に厳しい(明確なインセンティブが不足)との意見がある。

学術論文執筆

学会内での評価向上

外部資金(科研費)獲得

大学内での評価向上

学術論文のための研究に専念

産学共同体制で実用化研究

研究資金は企業から獲得

IFの高い学術論文は困難

学会・大学内での評価は向上せず

研究資金の不足・不安定なポスト

実用化研究における負の連鎖

学術研究における基本サイクル

(出典)NEDO「産業技術シーズ発掘事業における大学・公的研究機関等の研究開発への取組に関する調査」調査報告会(平成29年4月)

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

企業単独では取り組むことが難しい社会システム全般を変える技術開発や、大企業発カーブアウトに対する支援など、新たな研究開発の支援制度を望む意見があった。

国と協調して解決を図るための研究開発などの施策について3

B)国プロの制度設計やテーマ等研究開発政策への意見や要望

• 国の政策支援の主たる対象は21世紀型の企業支援であり、政策立案の際にも、そのような企業の意見を積極的に取り入れるべきではないか。

• ⼀社では難しい、社会システム全般を変えるような技術開発を行う際に、国が指針を出して、法規制等と⼀体的に後押しして欲しい。国主導でシステム全体の指針を示して、実証で終わらない将来を見せてもらえると、企業の参加意欲は高まる。

• 国プロのテーマを当社から提案する機会やプロセスが少ないと感じる。特に、国内外の各種政策目標の達成に向けて各社と協調して、国プロのテーマを立ち上げることができれば良い。

• これまでと全く違う事業を既存の組織の中で立ち上げることは難しく、企業内ベンチャーというよりも、企業の外へ出してベンチャー化することを検討している。大手企業発カーブアウトが国のスタートアップ支援を受けられるとよい。

• DARPAやAmazon社のロボティクスチャレンジには着目しており、技術の発展にかなり寄与するのではないかと考えている。うまくいけば⼈材獲得にも好影響を与えるのではないか。

• NEDOプロの1件あたりの助成金額を下げて、もう少し数を採るのも⼀案だと思う。特にFSフェーズ(基礎研究段階)であれば、助成金額は1千万円以下でも十分にインセンティブになる。

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3.我が国企業における研究開発の現状及び課題等に関する調査(企業ヒアリング)

3.2.企業ヒアリング調査の結果

国プロ等で他社と協調して取り組みたいテーマとしては、基礎・先端的な研究領域、AIや計算機科学など個社での囲い込みが難しい技術分野、評価技術やシミュレーションといった共通基盤技術分野などが挙げられた。

また、国際標準化において国に期待する意見も目立った。

国と協調して解決を図るための研究開発などの施策について3

• 産業界が協調して基礎研究を進める必要のある分野としては、リチウムイオン蓄電池の原理解明(リチウムイオンの移動等)。電池の開発は経験に基づいて行われてきており、この原理が解明されれば、全固体電池等への道が開ける。

• 特に環境分野に注目。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が掲げる地球温暖化の抑制シナリオの実現には、産業構造そのものを変えていくことや、真に革新的な技術が必要になる。論文等の成果にはなりにくくても、そういった研究テーマがあれば、積極的に投資していきたい。

C)国プロで他社と協調して取り組みたいテーマ

基礎・先端的な研究領域

個社での囲い込みが難しい技術分野

• 計算機科学を用いた新規材料開発は⼀つのテーマであろう。• (AIを主力事業として取り組んでいない)企業がAIを本格的にやろうとすると非常にお金がかかるし、⼈材も不足しているので、こういう領域で国が主導することがあってもよい。

• ディープラーニングを使いこなせるレベルの⼈材はいないため、育成が必要だと考えている。育成においては産学連携が重要で、実際のデータを扱いながら学ぶような機会がほしい。

共通基盤技術分野

• 本業のプロセス領域での協調は難しいが、メカニカルな領域での協調はできるだろう。具体的には、化学工学、プラントの安全操業、関連装置(ポンプ等)、メンテナンス、標準等。

• 協調の可能性があるのは、評価技術に関する領域、シミュレーションツール等の開発ツールではないか。標準・規格化の戦略立案も重要である。

• 業界で取り組もうとしているプロジェクトに、IoTを活用して監視、メンテナンスを行うものがある。IoTの活用は業界の協調領域になるので、企業の枠を越えて連携しやすい。

国際標準化関連• ナノマテリアルの評価法については、国が主導で国際標準化を進めるべきである。個社で進めると様々な懸念が生じるが、突然、諸外国で法規制ができてしまうと、既存の製品を提供できなくなり、改めて法規制の枠内での評価が必要となる潜在的リスクがある。

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.1.有識者ヒアリング調査の設計

企業ヒアリング調査結果から、特に産業政策上の課題として「⼈材の過不足感」「中長期的な研究開発の不足」が挙げられた。さらに後者に関連し、「中長期的な国プロのテーマ設定方法」「産学連携における課題」の論点が挙げられた。

経済産業省担当者と各論点について深堀の方向性を相談した上で、本調査では「中長期的な研究開発の不足」の課題に着目し、「中長期的な国プロのテーマ設定方法」について、有識者へのヒアリング調査を実施し、今後の政策的な議論をさらに深めるために意見等を求めた。

⼈材の過不足感

中長期的な国プロのテーマ設定方法

• AI/IoT/ビッグデータなどの先端分野の⼈材不足と、産業界からはニーズがあるが学術研究・学問として先細っている絶滅危惧学問分野の⼈材不足の二つにどのように対応していくべきか。

• 民間単独では取組むことが難しい、革新的な研究テーマを設定するために、どういった方法やアプローチが適切か。

• 革新的なテーマを設定する観点から、例えば、社会課題からバックキャスティングし、国と企業が情報を共有すること等によって協調的にテーマを設定できないか。

企業ヒアから抽出した産業政策上の課題・論点 深堀の方向性

中長期的な研究開発の不足

産学連携における課題 • 海外大学に比べて、産学共同研究規模が小粒、個対個の連携が多い。組織単位の連携を進めることで、中長期的な産学協同研究を進めていくことはできないか。

本調査で重点的に調査

• 大学等において、基礎的な研究、中長期的な研究、尖った研究テーマへの取組みが不足してきているとの産業界からの指摘を受けて、今後の研究開発政策のポートフォリオの在り方について、改めて検討すべき時期にきているのではないか。

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.1.有識者ヒアリング調査の設計

「中長期的な研究開発の不足」という課題に着目し、「中長期的な国プロのテーマ設定」について、今後の政策的な議論をさらに深めるために、有識者に意見等を求めた。

有識者ヒアリング調査の実施にあたっては、「中長期的な研究開発の不足」といった企業ヒアリング調査を踏まえた課題意識を伝えることを意識し、課題の認識や解決方策等について幅広く意見を聴取した。

国・経済産業省の国家プロジェクト等研究開発政策の在り方について

ⅰ A) 昨今のConnected Industriesやオープンイノベーション、ベンチャー企業の台頭等の流れを踏まえて、国の研究開発政策の在り方も変わってきているのではないか。このような中で、特に新たな市場創出を目的とする革新的なプロジェクトを国が主導し、新市場を創出することはできないか。

B) 大学等の技術シーズやベンチャー企業の新ビジネスモデルの発掘・育成等、ボトムアップ型の研究開発政策も行っているが、特に新たな市場創出を目的とするプロジェクトを強化するためには、研究開発政策全体でどのようなポートフォリオを構築し、どのようにマネジメントしていくべきか。

国家プロジェクト等のテーマ設定や評価を行う方法について

ⅱA) 新たなテーマ設定の方法論として、企業等も注目しているバックキャスティングによっ

て、国も新たなテーマ創出や評価(資源配分)を行えないだろうか。これまでも各所で類似の取組が行われていたが、何が課題だったとお考えか。

B) バックキャスティングの他には、どのようなアプローチや手法で革新的なテーマを設定できるか。

その他、研究開発政策における課題・改善点等について

ヒアリング項目(有識者)

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

これまで研究開発政策の推進役として大きな役割を果たしてきた大企業が、イノベーション創出の主たる担い手であり続けることが難しくなってきているとの意見があった。「国として取り組むべき領域」に対する考え方を再考する時期にきていると考えられる。

A)研究開発を取り巻く動向と政策の在り方

• 日本の国家プロジェクトの主たる対象はいわゆる大企業であり、大企業の中央・基礎研究所がイノベーションの担い手となっていた時代にはうまく機能していた。他方で、現在、イノベーションがどこから創出されているのかというと必ずしも大企業には限らなくなっている。そうした現状を踏まえて、プロジェクトのあり方も検討をしていくべき。

• 大企業は、資金を持っていても自前で技術を作り上げるのは、スピード・難易度的に難しくなっている。他方で、日本の大企業は、技術ファシリティ、ノウハウなどがアジアの中でもトップ。資金力はシリコンバレー等に劣るが、テクノロジーを事業化するリソースの蓄積では上回っており、アジアの有力ベンチャーも高い関心を持ってくれている。

• 本当に成功するかどうか分からないところにお金を出すのが「リスクを取る」ということ。既に民間企業が取り組んでいるところに政府がお金を出すのは望ましくない。

• 米国DARPAのような研究開発テーマ設定法には、省エネや再エネのような分野が適している可能性がある。例えば、電子デバイスも、経済的合理性はなくても、必ずしも産業・経済的便益に基づく評価のみならず、省エネやリサイクル性能が高いという政策的なKPIをもって投資判断をすることもあり得るのではないか。

国・経済産業省の国家プロジェクト等研究開発政策の在り方についてⅰ

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

国プロのテーマ設定方法には、戦略性が欠けているのではないかとの意見があった。 研究開発予算を配分する領域として、企業単独では取り組むことが困難な社会システムなどの「①産業横断的なテーマ」への集中投資、ハイリスク・ハイリターンな「②中長期的なイノベーションの芽」への幅広い投資、「③学術論文にはなりにくいが産業界からニーズが高い分野」の3領域が挙げられた。

B-1)研究開発政策全体でのポートフォリオの在り方

• 国家プロジェクトのテーマ設定に際しては、戦略的に新たなテーマを設定するためのシステムが設計されているかを再考する必要があるのではないか(限定された者の志向で決まってしまっていないか)。大企業の中央・基礎研究所が衰退していると言えることもあり、産業界からテーマが挙げられることも期待できなくなっているのではないか。

• ポートフォリオの考え方としては、革新的なシーズを抽出する観点から、ある程度の割合は純粋な提案公募型とし、残りを自動走行等、第四次産業革命の変化に乗り遅れないために不可欠なテーマに投資するのも⼀案。前者は、技術の実現性に加えて、BCGマトリックス(市場規模、市場ポテンシャル)でバランス良く投資するのがよいだろう。市場ポテンシャルを見込むことは難しいが、「もし実現すれば凄い変化が起こる」という、民間では取りにくい高リスクを積極的に引き受けるべきではないか。

• 本質的には企業規模に関わりなく、イノベーションを生み出せる⼈に配分できれば良い。ベンチャーや大学に対して、細かく沢山の機関に出すのが良いのではないか。

• 産業界からニーズが高いが、学術論文になりにくい溶接等の分野も、産業政策的には手当てすべきである。大学にそういった産業分野の講座を設けて、継続的な底上げを図るべきではないか。

国・経済産業省の国家プロジェクト等研究開発政策の在り方についてⅰ

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

国プロのマネジメント⼈材や体制に関する課題への指摘があった。当該⼈材の確保・育成に加えて、市場変化の激しい時代に合わせ、プロジェクトの柔軟性を高めることで、研究開発成果を出し、イノベーションに結実する成功率を高めることが期待できる。

国・経済産業省の国家プロジェクト等研究開発政策の在り方についてⅰ

B-2)プロジェクトマネジメントの課題と在り方

• 革新的なことを本気でやろうと思ったら、機動的にプロジェクト予算の配分や体制を変更できることが必要である。キャッチアップ型研究開発が終焉した最近では、当初計画した通りに物事が全然進まないので、紆余曲折しながら生みだしていくようなスタンスが不可欠で、ある程度権限を委譲して、失敗も許容しながら運営を任せることは考えられないか。

• 「国全体としてイノベーションを」というが、例えば、研究開発と国際標準化は、担当部署も予算も別物である。標準化も規制改革も、研究開発の進展に合わせてタイミング良く仕掛けないといけないことは総論合意されているはずだが、体制面は現状で十分といえるだろうか。グランドデザインを描いて、社会システム、標準化等の複合的な戦略で優位ポジションを築く努力が不可欠である。

• 国プロのテーマ設定よりも、マネジメントに課題があると考える。これまでのリニアモデルの時代は、サイエンスがよければある程度産業化も進んだため、大学研究者等がPI(Principal Investigator)を務めても問題なく進んだ。他方で、リニアモデルが崩壊した昨今ではサイエンスだけではダメで、事業性も考慮したマネジメントが不可欠である。

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

プロジェクトマネジメントについては、特にPD(Program Director)⼈材のポストやポジション、革新的なテーマにチャレンジする起業家等の地位が確立しておらず、対応が必要との声があった。

研究者のみならず、「サイエンティスト」のアイデンティティを持つPD、起業家⼈材がより⼀層増えていくことが望まれる。

国・経済産業省の国家プロジェクト等研究開発政策の在り方についてⅰ

B-2)プロジェクトマネジメントの課題と在り方

• 日本は「サイエンティスト」というと大学の先生等の研究者というイメージを多くの⼈が抱いているが、米国では、テーマ設定を行いPDとしてプロジェクトマネジメントを行う者、革新的なテーマに取り組むイノベーター・起業家も、「サイエンティスト」のアイデンティティをもっている。これら三者が揃わないと、適切なテーマ設定、目利き、実行(イノベーション)が回ることはない。

• PDについて、いわゆる大学の研究者でよいかというのは再考の余地があるのではないか。また、産業界からの出向者は継続的にコミットできているだろうか。テーマづくりは結局は「⼈」に寄るところが大きい。米国では、政府のファンディング機関に高いポストを用意しているが、我が国においても参考にしてみてはどうか。

• マネジメントを担うPDが不足している。DARPAから見習うことができる点としては、PDのポジションが職業化していることが挙げられる。技術シーズがあっても、果実を収穫するためのマネジメントができておらず、そもそもPDの職業的ポスト・ポジションが確立していないとも言えるのではないか。

• 仮に革新的なテーマ設定がされたとしても、プレイヤーとして手を挙げる者はいるのだろうか。そのような革新的なテーマに手を挙げる、イノベーターや起業家の育成を並行して進める必要がある。

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37 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

新たなテーマ設定の方法は分野によって異なり、環境・エネルギーや医療・ライフサイエンス等の政策的に誘導することのできる余地が比較的大きい分野はバックキャスティングが向いているが、材料のような技術課題と社会課題の距離が遠い分野はフォアキャストとの合わせ技が必要か。

他方で、AIに代表されるような、変化が早く、次の変化の主体を特定することが困難であるオープンな分野には、バックキャスティングは適さない可能性。

A)バックキャスティングによる新たなテーマ創出

• 大きな課題・テーマ設定は総合科学技術・イノベーション会議で⼀本化して行い、それを実現するための各論のバックキャスティングを各省で行うのがよいのではないか。他方で、国のシンクタンク機能には改善の余地があるのでは。調査等から得られたファクトを「解釈」「考察」してアクションを練るのが戦略であるはずなのに、現状は、白書的なものに留まっているとも言えるのではないか。

• バックキャスティングが向き・不向きの分野がある。将来の方向性が(政策的に誘導可能であり)ある程度明確な環境・エネルギー分野や医療・ライフサイエンス分野は向いており、中長期的な未来のシステムを市民・ステークホルダーと議論するツールとして有効であろう。

• 特にスマートコミュニティのように、技術課題の解決が社会課題に繋がりやすい場合においては、バックキャスティングが果たす役割が大きくなる。他方で、材料のような、技術課題と社会課題の距離が遠い場合については、しっかりとフォアキャストを作っておき、バックキャスティングと組み合わせてプロジェクト化すべき領域を見極めることが必要である。

• 他方で、AIやデータが支配的な、時間的に変化が早く、かつ変化を起こす主体がオープンである分野はバックキャスティングに向かない可能性がある。

国家プロジェクト等のテーマ設定や評価を行う方法についてⅱ

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4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

新産業の夢が詰まったような革新的なテーマの創造には、PD相当の⼈材が時間と労力をかけて作り込むことが重要。

B)その他、革新的なテーマを設定する方法

• 米国SBIR制度はテーマを⼀覧化しているが、彼らのテーマには、その⼀行に知恵や産業の夢、20年後の世界など、見る⼈間が見れば分かる、あらゆるものが凝縮されている。常勤の科学行政官が、常に「次の産業になるトピックは何か」と探し続けており、研究者と議論しながらテーマの作り込みをしている。彼らの多くが、博士号取得後の助教クラスの時点で、⼀流研究者の道か科学行政官の道かを選択して、キャリア官僚以上の給与が保証された頭脳エリート集団である。彼らのアイデンティティは「サイエンティスト」である。

• いわゆるビッグプロジェクトも2年くらいプロジェクトデザインの期間があっても良いのではないか。Xプライズ財団もパートナー契約を締結した事実は公表されていても、具体的なプロジェクト内容が明らかになっていないがあり、相当プロジェクトの作り込みをしていると聞く。また、そのストーリーが外部に漏れ聞こえることも大事なポイントであり、プロジェクトの企画やデザインの枠組み自体が変わる政策的スキームが必要だと考える。

• 複数分野を回遊するような異端の研究者にイノベーターが多いと感じており、彼らと超ボトムアップでビックプロジェクトを創出できれば面白い。プロジェクトメイキングをオープンイノベーションで行うということはできないか。

• ベンチャー企業をはじめ、尖ったものへの投資は、技術もある程度は大事だが、熱意や本気度を評価することが⼀番大事。

国家プロジェクト等のテーマ設定や評価を行う方法についてⅱ

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39 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

4.我が国研究開発政策に関連した課題等に関する調査(有識者ヒアリング)

4.2.有識者ヒアリング調査の結果

その他、特にNEDOに勤務経験のある有識者からは、企業からの出向者⼈材のリソースを活用することが有効ではないかとの助言があった。

その他、研究開発政策における課題・改善点等についてⅲ

研究開発政策への助言・提言

• NEDOの最大の強みは多くの企業出向者がいること。経産省やNEDOプロパーが、企業出向者を上手くマネジメントすることで、博士号を持っているような彼らの技術的な知見を上手く引き出すことができる。中には、大企業においてプロジェクトマネジメントの経験を有しており、PDの素養を持っている⼈材も埋もれているため、彼らから学ぶことは非常に多い。

• 今、世界はIoT/AI/ビッグデータとデジタル技術にシフトしているが、しばらく経つとものづくりに回帰するのではないか。その際に、地味ではあるが突破力のある技術や事業を支援すべきだろう。

• 大学の自立が重要である。経営者と研究者・アカデミズムを分離すべき。企業でいう、執行と経営の分離の考え方を大学にも浸透させていく必要がある。大学の研究者は、同じテーマをやり続けることで競争的資金が獲得できるため、新たなテーマに着手できず、どんどんタコツボ化していく構造になっているのではないか。

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40 Mitsubishi UFJ Research and Consulting

5.我が国企業が抱える研究開発関連の課題の抽出及び課題解決方策(まとめ)

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5.我が国企業が抱える研究開発関連の課題の抽出及び課題解決方策(まとめ)

5.1.課題の抽出

第四次産業革命、Connected Industries時代の到来による市場環境の変化を受けて、従来型の産学連携によって既存技術を強化する外部連携に加えて、優れた第四次産業革命技術(AI/IoT/ビッグデータ)をもつベンチャー企業等との外部連携によって、市場変化に対応して既存事業を最大化する動きが加速している。

他方で、既存の事業領域の延長線上にない新たな市場を、新たな技術の研究開発によって開拓するような、中長期的な研究開発活動の取組みは、大企業であっても十分とは言い難いのではないか。実際、大学等における基礎的な研究や尖った研究テーマ等、企業単独で取り組むことが困難な領域における取組みが不足している昨今の状況を懸念する意見もある。

このような新市場の開拓を可能にする、革新的な技術シーズを開発していくようなプロジェクトを組成していくことが必要ではないか。また、そのようなプロジェクトのテーマ設定やプロジェクトマネジメントのあり方はどのようにあるべきか。

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5.2.課題解決方策の提示

革新的な技術シーズをもって新たな市場を開拓するにあたっては、市場の不透明性のみならず、新たな技術を確立する科学・技術の不確実性、製品化のための製造技術・サプライチェーン構築など、様々なリスク等が存在する。ある程度「リスクを取っている以上、成功確率は低い」と割り切って、大学等に眠る技術シーズやその実用化を進めるプレイヤーを発掘・育成し、時間をかけた中長期的な研究開発の実施によって、次世代産業の創成に繋がる大型プロジェクトに育てていくことが有益である。

新たなテーマ設定の方法については、企業の関心の高かったバックキャスティングは分野の特性による向き・不向きがある。したがって、例えば、以下のように分野によって異なるアプローチによってテーマ設定を実施することが必要。

✓ バックキャスティングに適すると思われる分野:環境分野、エネルギー分野 等環境・エネルギー政策など、国が主導して目標を設定できる分野は、研究開発の方向性や目標を政策的に設定できるため、バックキャスティングによるテーマ設定に適している。

✓ バックキャスティングとフォアキャストの組み合わせに適した分野:材料分野 等材料のように技術課題の解決が社会課題の解決に直結しにくく、予想外の用途や市場で花開くケースも多い分野は、研究開発テーマや目標の設定に、バックキャスティングのみならずフォアキャストを組み合わせることが良い。

✓ バックキャスティングに適さないと思われる分野:⼈工知能等の先端的デジタル技術分野 等技術と市場がオープン化されて時間的な変化のスピードが速く、短期的な将来市場やプレイヤーを特定することすら難しい分野は、バックキャスティングによるテーマ設定が難しい。そのため、世界の技術や市場の動向を見極め、潮流を捉えたタイムリーなテーマ設定に取り組むのが良い。

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5.2.課題解決方策の提示

革新的な研究開発プロジェクトの設計と実施にあたっては、テーマ設定の方法論のみならず、(1)⼈材確保や(2)プロジェクト実施に際しての支援体制、(3)プロジェクトの担い手の⼀つである大学の経営等に関する基盤的な環境整備が必要。

(1)3種類のイノベーション⼈材の確保

• 研究開発・イノベーション政策を推進していくために必要な、科学技術の知見をもったイノベーション⼈材が圧倒的に不足していることが根本的な課題であり、研究者とともに、「サイエンティスト」のアイデンティティをもつPD(プログラム・ディレクター)、起業家⼈材が必要である。

• 研究者すら常勤ポストが危うい状況であることに加え、PDは常勤ポスト自体が非常に少ない状況である。将来的な革新的なテーマの創出を見据え、テーマを作り込むことに専念できるポストを新設するなど、長期的なPD⼈材の育成に向けた施策を講じていく必要がある。

(3)大学における経営と研究の分離

• 国内大学には、研究環境のタコツボ化、特定テーマへの投資集中、若手研究者の雇用等の問題が山積しているが、その根源は経営者とアカデミアの分離がなされていないことだとの指摘がある。

• 大学も企業のように競争優位を強化するために、アカデミアと経営を分離し、大学発イノベーションの創出に向けた経営力・ガバナンスの強化等、抜本的な改革を進めていくことが必要である。

(2)柔軟かつシームレスな支援体制

• 予算事業単位で支援制度が分断されているが、研究開発や市場変化の状況を見極めて、適切なタイミングで次のアクションに移行することが望ましい。

• 市場環境の変化に対応した柔軟なテーマや実施計画の変更、研究開発と国際標準化、パブリシティ・広報活動等を、適切なタイミングで実施するための支援体制が必要である。(国の制度上、対応することが困難なものも多いと思われるが、検討の余地がある点を明確にする努力は必要ではないか。)