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乾燥地の時系列分析
環境情報学部2年 木村詩織総合政策学部1年 大出亜矢子
乾燥地の時系列分析
環境情報学部2年 木村詩織
総合政策学部1年 大出亜矢子
背景・目的
中国の半乾燥地における土地被覆・土地利用は過去30 年間で 大きく変化している.
中国内蒙古自治区では1987 年から1996 年にかけて
耕作地面積が22.1%増加している(Yang and Li, 2000).また,1950 年代以降に過耕作,過放牧,過伐採などの
不適切な土地利用が進んでいる.
中国内蒙古自治区東部に位置するホルチン砂地は,
近年急速に砂漠化が進行している
土地に適した土地利用がなされなければ,
土地荒廃が発生する可能性がある.
急速な土地被覆変化をしている半乾燥地では
その実態把握のために土地荒廃の程度を
評価する必要がある.
対象地域とデータ
ホルチン砂地は中国内蒙古自治区東南部に
位置する東経119°~123°,北緯42.5°~45° の範囲にある面積約4.23 万km2の土地である.
今回,都喜村周辺を
対象に分析をした.
使用した衛星画像
データ 時期
精度
Landsat/TM
1984.07.10 30m Landsat/TM 1988.09.23 30m Landsat/TM 1990.07.11 30m Landsat/TM 1995.09.11 30m
これらの画像をもとに都喜村周辺のサブセットを 作成し,演算・分析を行った.
データ入手方法
科爾沁左翼後旗カンチカの月別降水量・基本統計量データ
厳網林,宮坂隆文(2003) コルチン砂地における砂漠化の進行過程と政策影に関する時空間分析より
Chifeng とJarud Qi の1982年~1999 年の月別降水量データ
(→年降水量を算出し,解析に用いた)
千葉大学大学院自然科学研究科 長田甫, 千葉大学
環境リモートセンシング研究センター 近藤昭彦(2006)
衛星画像を用いた長期植生変動モニタリング ~中国内蒙古自治区を事例として~ より
分析手法
NDVI(植生指数)・・・植物の葉が青と赤の波長を吸収し,
近赤外線領域の波長を強く反射する特性を
利用した指数
→植生指標NDVIが小さい=植生が少ない
SAVI(植生指数)・・・
NDVIに背景土壌の反射の影響
(乾燥地における土壌からの強い反射)を
配慮した指数
NDWI(土壌水分指数)・・・対象物からの放射エネルギーを用いた 土壌水分量の推定
NDSI(正規化土壌指数)・・・土壌に関して植生と水域の変化は
空間的スケールで見ると比較的狭い
範囲で認められるが、土壌はより
大きい範囲で変化する特徴を持っている。
NDVI=(NIR-RED)/(NIR+RED)
SAVI=(NIRーRED)/(NIR+RED+L)×(1+L)
Lとは土壌の補正係数であり、植生の被覆率が
非常に高い→0
適当である→0.5非常に低い→1
NIR:近赤外(ランドサットTMの場合、バンド4)の反射率. RED:可視・赤色(ランドサットTMの場合、バンド3)の反射率.
SWIR:中間赤外(ランドサットTMの場合、バンド5・7)の反射率.
ラスタ演算式
今回、使用したバンド
NIRーバンド4 REDーバンド3 SWIRーバンド5
※NDWIではVIS(可視チャンネル)としてバンド3を使用
土壌水分指数
NDWI=(VIS-SWIR)/(VIS+SWIR)
正規化土壌指数
NDSI=(SWIR-NIR)/(SWIR+NIR)
(Float([subset.img - Band_4]) - Float([subset.img - Band_3])) / (Float([subset.img - Band_4]) + Float([subset.img - Band_3]))
GISでのラスタ演算
IMAGINEにおけるラスタ演算
($n1_subset1984(4) - $n1_subset1984(3)) / ($n1_subset1984(4) + $n1_subset1984(3))
各指標の平均値の算出はGISを用いて計算し、散布図を作る際はIMAGINEで計算した画像を用いた。
SAVI
(植生指数)
LANDSAT TMデータ
1984.07.10
…再分類後、緑被地を2
1984 1988
1990 1995
SAVILANDSAT TMデータ
1984.07.10
0 - 80139(MEAN= -0.0609166) …5.2% 1 - 1453389(MEAN=0.284776) …94.8%
LANDSAT TMデータ
1988.09.23
0 - 42417(MEAN= -0.267131) …2.0%
1 - 2111599(MEAN= 0.280827) …98%
LANDSAT TMデータ
1990.07.11
0 - 67601(MEAN= -0.11439) …4.41% 1 - 1464559(MEAN= 0.284474) …95.6%
LANDSAT TMデータ
1995.09.11
0 - 91796(MEAN= -0.218322) …4.26%
1 - 2062220(MEAN= 0.307158) …95.7%
ホルチン砂地では
7月に植生が育ち始め,
9月上旬が最も植生が
多くなる時期である
↓
時期が近い1984年と
1988年,1990年と1995 年の比較をして
植生が増えているのは
季節の影響があると考
えられる.
時期が同じころである1984年と1990年、
1988年と1995年のSAVI結果をラスタ演算で引く
↓
再分類して植生は増えたのかを確認する
1990-1984
減少データ(茶色) 743599増加データ(緑色) 787441
1995-1988
減少データ(茶色) 975990増加データ(緑色) 1178026
結果:植生の量はいずれも増加している
この結果に対して降水量を考慮する
↓
砂漠化地域において植生量は降水に大きく 作用されるためである
図.降水量観測地点であるChifeng とJarud QiとGanjigの位置
最も都喜村に近い降水量観測地点の
Ganjig(ホルチン左翼後旗甘旗峠鎮)は
都喜村から約50キロ離れた場所に位置し、
(東経121°53′~122°33′,北緯42°42′~43°5′)
Chifeng(赤峰)とJarud Qi(扎魯特旗)は中国内蒙古自治区の
南東部,北緯41 度~46 度,東経116度~124 度に位置する
年・月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 年間
1961
1973
1984 42.7 58.4 184.2
1987 5.4 2.3 9.9 1.7 48.1 59.1 148.9 169.5 35.9 5.1 3.7 0 489.6
1988 1.4 1.5 0.7 13.8 33.5 29.7 59.5 156.7 121.4 26.8 0 0 445
1989 5 6.1 0.9 6.7 66.9 110.4 120.8 8.6 45 23.6 0.6 0.3 394.9
1990 3.1 12 29.9 40 68 68.9 151.2 74.5 65.8 3.3 8 5.6 530.3
1991 1.2 0.2 0.9 17.7 14.6 164.2 191.5 29.1 92.2 23.7 3.6 0.8 539.7
1992 0.2 0.7 5.2 12 34.3 77 212.8 77.9 32.9 25.7 11.1 2 491.8
1993 0 1.1 7 12.6 15.1 108.3 65.8 97.7 18.1 9.9 11.8 6 353.4
1994 1 0.1 6.9 0.2 74.5 48.2 325.4 100.6 26.7 2.8 0.5 3.2 590.1
1995 0 6.7 9.6 24.1 57.1 130.9 55.6 15.3 34.5 0.8 334.6
1996 0.2 0.1 24.3 11.7 39 65.1 101.9 70 16.1 14.7 11.9 0.8 355.8
1998 1.2 2.3 8.2 16 21.6 27.9 130.5 228.7 21.2 12.7 5 0.9 476.2
1999 369.3
2000 377.8
2001
2002
2003 0 0 2.9 1.8 24 68.2 44.1 96.6 13.7 38.4 3.3 0.2 293.2
431.6
表1 科爾沁左翼後旗カンチカの月別降水量(mm)
平均年間降水量
表.月間降水量(甘旗)
年間降水量グラフ
(甘旗)
月別降水量
0
50
100
150
200
250
300
350
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
降水
量
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1998
年間降水量(1987~1996)
0
100
200
300
400
500
600
700
年度
降水量
年間降水量
半乾燥地域において年間の降水量は安定して
いない
月の降水量も年によって 降る量が異なる
1988年と1990年は衛星写真が撮られた月と前月に 甘旗では200ミリを越える降水があった
月別降水量
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
月
降水
量
1988
1900
1995
図2.Chifeng とJarud Qi における年降水量の変化
甘旗の1984年年間降水量データがなかったので
参考に他2地点の降水量を見た
だが、1993年と1994年の降水量において
甘旗と大きな違いがあるためにあまり参考には
ならないと思われる
1984年6月・7月・・・比較的少ない降水量
1988年8月・9月・・・多くの降雨があった
1990年6月・7月・・・合計500ミリを超える降雨があった
1995年8月・9月・・・例年を下回る降水量
よって、
1984年から1990年の植生量の増加は
降水量の影響も考えられる
では、
1988年から1995年における植生量増加は?
ここで、社会的背景を見ていくと・・・
1980年末から大規模な農地開発が始まり、
食糧増産が行われた。
草原が次々と農地に変えられ、
後旗の農作物作付面積は1984年には11.2万haであったのが1999年には13.4万haとなり、
食料総生産量は1992年から1999年の間で
約21万トン(35.8万トンから57.1万トン)増加した。
また,人口の急増に伴い,1990年代以降には
エネルギー源(蒔)として多くの植林が行われる傾向にある.
また,退耕還林(草)政策で経済林を植栽する農家も増えている.
散布図
縦軸にNDVIを,横軸をNDWIとして相関を見たところ,
1984年と1995年はマイナスの相関係数を示すのに対し,
1988年と1990年は正の相関がある.
考察
植生指標NDVIが小さいことは植生が少ないことを意味する
植生は水分を多量に含むことから,
NDVlが小さいとNDWIも小さくなる
NDVlの大きな場所では当然,水分指標NDWlも大きい
だが、植生指標NDVIに対して水分指標NDWlが
小さい(負の相関である)ことは,
その植生が土壌水分の不足によって
水ストレスを受けていることを意味する.
降水量のデータから見ても
1988年と1990年は例年よりも多い降水量が
あったために植生と土壌水分は正の相関となった.
→しかし、画像が取られた月と先月に
降水量が少なかった1984年と1995年は
NDVIとNDWIは負の相関である.
時系列での植生の増加分は自然な植生による
ものではなく,人為的なもの(農地・経済林)である.
結論
干ばつの年には植生の生育が制限されるが, そうでない年には農業などの別の要因が
植生に強い影響を与える.
↓
今回の結果から,降水量と土壌ストレスとの関係は 一定の傾向があるといえる.
そして,このまま農地開発による食料増産を 続けていけば例年の降水量でも土壌に水スト レス(土壌の劣化)が生じる可能性もある.
課題
NDVIなどの指標を用いた際に,
土壌の反射など誤分類されたデータも含まれる
→スペクトル特性を考慮して正しく分類する
必要がある
農地開発とともに牧業も盛んになっている
→牧業の影響を見る指標と
砂漠化進行を裏付ける検証が必要である
謝辞
分析を進めるにあたってデータの提供と助言を してくださった厳網林教授,
IMAGINEなどで作業する際に
親切に教えてくださったSAの大場さんに
多大な感謝の意を表したい
参考文献
厳網林,宮坂隆文(2003)コルチン砂地における砂漠化の進行過程と政策影に関する時空間分析
<http://www.kri.sfc.keio.ac.jp/report/mori/2003/A-2/Part1.htm>
千葉大学大学院自然科学研究科
長田甫,
同大学環境リモートセンシング研究センター
近藤昭彦(2006)
衛星画像を用いた長期植生変動モニタリング
~中国内蒙古自治区を事例として~
<http://www.chikatsulab.g.dendai.ac.jp/s_forum/pdf/2006/%E7%AC%AC%EF%BC%91%E3%
82%BB%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3/13_osada.pdf >
長澤
良太,原
慶太郎,金子
正美(2007)古今書院
自然環境解析のためのリモートセンシング・GISハンドブック