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40 New Combustion Concept 2.5L Engine allows optimized Low Fuel Economy and High Power Performance 8 Chapter Photo : 赤松 孝

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Page 1: Chapter ガソリンエンジンの · 簡単に 思っております。 ち超希薄燃焼(スーパーリーン)の実現だと個人的には気の断熱層を利用して熱を逃げにくくすること、すなわを高め、空気過剰率を上げ比熱比を上げるとともに、空効率が高いとされるディーゼルエンジンのように圧縮比言えば、瞬時にパッと燃やし尽くすこと。

44

8Chapter

Photo : ○○ ○○

トヨタ自動車(株)

全方位

ゼロスタートの

エンジン開発

すでにトヨタはハイブリッドで

ガソリンエンジンの熱効率40%を達成している。

ハイブリッドの特徴を活かして燃費(熱効率)を向上させ、

ガソリンエンジンの限界を大幅に引き上げてきた。

しかし次世代のエンジン開発にあたり同社は

ハイブリッドかどうかには依らず、

ハイブリッド用エンジン同等の高い熱効率と

車としての走りを高い次元で両立させるために

新しい燃焼コンセプトの下、

すべての分野でゼロからの開発を始めた。

New

Com

bustion Concept 2.5L E

ngine allows optim

ized Low

Fuel Econom

y and High Pow

er Performance

低燃費・高出力を高次元で両立させた

新燃焼コンセプトエンジン

8Chapter

Photo : 赤松 孝

Page 2: Chapter ガソリンエンジンの · 簡単に 思っております。 ち超希薄燃焼(スーパーリーン)の実現だと個人的には気の断熱層を利用して熱を逃げにくくすること、すなわを高め、空気過剰率を上げ比熱比を上げるとともに、空効率が高いとされるディーゼルエンジンのように圧縮比言えば、瞬時にパッと燃やし尽くすこと。

45 AUTO TECHNOLOGY 2019

高速燃焼の

更なる進化

 

自動車用ガソリンエンジン(オットーサイクル)の熱

効率は、ひと昔前には30%と言われ、使った燃料の約3

割しか動力にできないとされてきた。船舶用の大きな

ディーゼルエンジンでは、原理的にもオットーサイクル

より熱効率が高いことも合わせてもっと効率の良い50%

を超える運転状況で定格使用されることが多いが、自家

用車のコンベンショナルなガソリンエンジンでは35〜

38%あたりが従来の実績で、これを40%にまで高めたの

が今回の開発である(図1)。トヨタは、先に、ハイブ

リッド車専用のガソリンエンジンでは40%を達成してい

たが、モータの補助を得ることなくガソリンエンジンだ

けで優れた熱効率による低燃費の達成と、動力性能とし

ての高出力を満たすことはかつてなく、新たなチャレン

ジであった。

 

そうした難しい開発を担当することになった、トヨタ

自動車TNGA推進部商品技術戦略室主査の戸田忠司は、

「オットーサイクルで代表されるガソリン内燃機関の熱

効率は、理想的な状態でも約60%が限界と言われていま

す。そのなかで、内閣府が推進するSIP(戦略的イノ

ベーション創造プログラム)においては、50%を直近の

目標としていますが、それに対してもまだ10ポイント足

りないというところに量産エンジンとしてようやく到達

したところです。とはいえ、ここから先の開発も、1ポ

イントをどう向上していくかという難しい開発になって

いくと思います。高い熱効率と出力という背反する目標

の両立のため、今回、最大熱効率40%を達成しながら出

力性能60kW/Lを実現する開発で鍵を握ったのは、弊

社が以前より提唱している高速燃焼の進化です。簡単に

言えば、瞬時にパッと燃やし尽くすこと。その先には熱

効率が高いとされるディーゼルエンジンのように圧縮比

を高め、空気過剰率を上げ比熱比を上げるとともに、空

気の断熱層を利用して熱を逃げにくくすること、すなわ

ち超希薄燃焼(スーパーリーン)の実現だと個人的には

思っております。

 

熱効率を高めるには大量のEGRが有効であることは

良く知られており、今回の高速燃焼でエンジン運転領域

中により多く、より広範囲で安定した燃焼を達成させる

必要がありました。それにはたくさん空気を入れながら

筒内に強い渦を起こさせる必要がありますが、ここも背

反する性能追求になります。そこを突破出来たのは、主

に吸気ポートの新技術によります」と説明し、理論に基

づいた根本の追求が従来にない熱効率の実現につながっ

たことを明らかにする。

 

だが、それに際しては背反する現実の打破をいかに実

全方位ゼロスタートのエンジン開発―トヨタ自動車(株)―

図1 熱効率40%を実現した新世代TNGAエンジン

 ガソリン(オットーサイクル)内燃機関の最大熱効率は、理論上約 60%が限界とされている。現実には30%台というのが一般的だ。およそ70%近いエネルギーが捨てられていることになる。一方で、地球環境への負担軽減のため、エンジンの燃費改善は日々求められるところであり、動力源である内燃機関の熱効率の向上は常に求められている。これまで、モータの補助力を得られるハイブリッド車用エンジンでトヨタは先に最大熱効率 40%を達成していたが、この開発では、自然吸気のガソリンエンジンのみを動力とする車両に対し、40%という高い最大熱効率を実現した。そのために、高速燃焼を実現するため、今年のもう一つの受賞技術である新レーザクラッドバルブシートが大きな役割を果たしたが、ほかにも、エンジンの基本諸元をゼロから見直す設計が行われ、これがTNGAの基盤となった。それに際し困難な製造技術の開発も必要となり、生産技術部門と協調した新エンジンの開発でもあった。

新世代TNGAの基盤エンジン

Previous

Conv. HEV

Previous

Engine speed [rpm]

Torque [Nm]

Torque [Nm]

Engine speed [rpm]

HEVとの熱効率マップ比較

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現するかにあった。その一つは、今回もう一つの受賞技

術となった新レーザクラッドバルブシートの技術が大き

な役割を果たしている。

「トヨタでは、今回の開発の前から高速燃焼の考え方

があって、それまでに比べ燃費を10%以上向上させる

ことをESTEC(Econom

y with Superior T

hermal

Efficient Com

bustion:

高熱効率、低燃費エンジン群)と

称して既存エンジンの改良を行ってきました。それをさ

らにブレークスルーするのが今回の開発で、いわば超高

速燃焼技術といえるでしょう。東富士研究所で1気筒の

燃焼モデルを使い、計算と実験を繰り返しながら構築さ

れてきました。そこから、今回は排気量2.5リッターの

実際のエンジンに適用し、さらにTNGA(トヨタ・

ニュー・グローバル・アーキテクチャー)として排気量

の大小などの違いにも同じ概念で展開していく開発を行

いました」

 

パワートレーンカンパニー第3電動パワトレシステム

開発部排気・OBD機能室グループ長の秤谷雅史は、

「新レーザクラッドバルブシート技術のほかにも、ボア

×ストローク比、バルブ挟み角などを含め、従来のエン

ジンで採用してきたことを一旦ゼロに戻し、そこから設

計を始めています」と、TNGAとなる基本設計の再構

築があったと補足する。

 

また、現在はトヨタ自動車研究開発センター(中国)

環境・エネルギー企画部に在籍する部長の坂井光人は、

「そうしたゼロからの開発は、なかなか普段はできない

ことです。一方で、従来にこだわらずすべてを変えてい

いという設計は、逆に難しくもあります。結果に対する

言い訳はできません。とくに吸気ポートの設計では、図

面を書き、コンピュータ解析を行い、樹脂で試作し、計

測し、手作業で修正し、そしてまた計測し図面に反映す

るといった作業を何度繰り返したか分かりません」と実

際の作業の手間や苦労を語る。そして戸田は、

「コンピュータの計算速度が上がっているので、いろい

ろな現象をあたかも見えているかのように計算すること

は比較的容易になっています。それだけに、ぎりぎりの

段階までより良いものをという作業が続きます。また、

実際の物を作るうえでのバラツキについても、モデル化

し、その影響を改善して公差を縮めたり、公差の範囲を

揃えたりすることもできます。そのうえで、物づくりの

検証の部分では生産技術の人たちの協力も得ながら進め

ました」と言う。

ボア×ストローク比、バルブ配置は

理想から外せない

 

鍵を握るとされる吸気の設計において、具体的な開発

はCV Com

pany CV

製品企画室主任の坂田邦彦によると、

「ボア×ストローク比やバルブ配置について、項目毎の

最適値はありますが、エンジンを製品として仕立てたと

き、あまりにロングストロークであるとエンジンの全高

が高くなるためにボンネットフードに収まり切らなく

なったり、バルブ狭角を狭めすぎるとシリンダヘッドと

して成立しなかったりといった現実に直面します。そう

8Chapter

Previous

Press-fitvalve-seat

Lasser claddedvalve-seat

New

図2 基本骨格、特にボア×ストロークとバルブ配置は理想を追求した

図3 吸排気ポートの断面。新レーザクラッドバルブシートの採用で吸    気ポートは真っ直ぐにできた (上:従来、下:新 )

図 4 吸気流れの比較

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47 AUTO TECHNOLOGY 2019

したことを踏まえながら、理想へ近づける難しさがあり

ました。またものづくりの面では、理想に近づけた製品

形状を実現できるよう、生産技術の人たちにも開発初期

から参画していただき、トヨタとしては量産の一部にし

か採用していなかった無機中子を使用することで今回の

水通路の中子形状を実現しています。新形状×新規工法

という前例のない組合せだったため、試作段階から何度

も議論し、細かい形状チューニングしました」と苦労を

語る。

 

坂井は、「TNGAの考えに基づいたエンジンシリー

ズへ展開する基本骨格を設計するので、ボア×ストロー

ク比やバルブ配置は理想から外すことはできませんでし

た(図2)。外してしまうと、良い設計素性ではなくな

り、高い目標を達成できなくなるうえ、リカバリーする

ためのデバイスが必要になるなど、原価にも影響が及び

ます」と言い、設計と生産技術の両部署による協力が不

可欠であったことの重

要性を補足する。

 

そして、理想の燃焼

を実現するための吸気

ポートの設計と、それ

を実現する新レーザク

ラッドバルブシートと

いう技術の重要性を戸

田は語る。

「筒内に強い縦渦を作ろうとすると、渦ができること自

体が損失にもなり、吸入される空気量に制約が生じます。

一般的に、バルブシートを圧入するうえで、バルブシー

ト分の厚みを確保するためポート先端の筒内へ至る部分

に曲がりが必要になります。しかしそれによって吸気の

流れが制約を受け、筒内の縦渦を弱める別の流れが生じ

てしまいます。今回、新レーザクラッドバルブシート技

術が実現したことにより、吸気ポートをよりまっすぐな

形状のまま筒内へ空気を送り込めるようになりました」

 

実際にエンジンの吸気ポート断面を見ると、筒内へ向

けポートがほぼ真っ直ぐ伸びている。一方排気側を見る

と、ポート先端は筒内へ曲がっており、一般的に見るエ

ンジンの吸気ポートもそれと同じ形状をしている。新

レーザクラッドバルブシート技術により、明らかに吸気

ポート形状が改善されたことが一目で分かる(図3,4)。

全方位ゼロスタートのエンジン開発―トヨタ自動車(株)―

坂田 邦彦 Kunihiko SAKATA

トヨタ自動車株式会社CV Company CV製品企画ZB 主任

「大学ではディーゼルの燃焼を研究し、入社後は別の部署に配属となりましたが、そののちエンジン設計に配属となり、今回初めて自分の書いた図面が量産につながる開発となり、さらにその開発が表彰され、嬉しかったと共に、一緒に仕事をした仲間への感謝がつきません。これまで家族に仕事の話をしても理解を得にくかったですが、表彰され、自動車技術会の会誌に顔写真が出るなどして、妻も喜んでくれました。家族の理解が得られたことも大きなことでした」

川島 孝弘 Takahiro KAWASHIMA

トヨタ自動車株式会社パワートレーンカンパニーエンジン設計部中型エンジン設計室 主幹

「大学時代にはディーゼルエンジンベースのメタノールエンジンの研究をし、燃費の良いクルマを世界へ届けたいとの思いでトヨタに入社しました。トランスミッションなど含め燃費を約20%改善できるエンジンを開発できてよかったです。表彰式では、かつての研究室の恩師に『おめでとう』と声を掛けられ、嬉しかったです」

坂井 光人Mitsuto SAKAI

トヨタ自動車研究開発センター(中国)有限会社 北京分公司環境・エネルギー企画部 部長

「今日、この場に出席したくて中国から自腹で来ました。それくらい嬉しいことです。家族にも、自分の仕事とそれが世間に求められていることを理解してもらえたことも、よかったと思っています。また、中国のオフィスで自動車技術会の会誌を購読しており、スタッフの方々が驚いていました。日本での私の実績を説明しやすく、中国のエンジン研究の先生方にも自己紹介しやすく、大変ありがたい賞を戴いたと思っています」

戸田 忠司 Tadashi TODA

トヨタ自動車株式会社TNGA推進部 商品技術戦略室 主査

「社外からの表彰は初めてであり、素直に嬉しかったです。家族も喜んでくれました。入社してS型エンジンを担当し、それからAZ型、ディーゼルエンジンと直列エンジンに携わり続け、入社時の担当エンジン直系の後継エンジンのユニット主査として今回表彰されたことも嬉しいですし、これまで永年に亘り開発を通じてご指導いただいた諸先輩方に対して恩返しできたのではないかと思います。もちろん、会社を代表しての受賞だと思っていますし、TNGAエンジンとして先頭のエンジンが表彰されたことは本当によかったです」

秤谷 雅史 Masashi HAKARIYA

トヨタ自動車株式会社パワートレーンカンパニー第3電動パワトレシステム開発部排気・OBD機能室 グループ長

「大学は情報工学卒業で、研究室の仲間は電機メーカーへ就職する人が多かったですが、自分は自動車メーカーに就職し、趣味に走ったのかと教授に言われていました。この開発当初から量産までかかわることができ、また表彰もされ、搭載されたカムリが雑誌に載り、世の中を走るクルマを自分が開発したとようやく言うことができました。苦労も多かったですが、最後のご褒美となって報われた思いがします。開発にかかわれて本当によかったと思います」

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トヨタでは、20年ほど前の1ZZ‐GEのエンジンの一

部車種やレースエンジンでレーザクラッドバルブシート

を限定的に使っていたという。それが時代を経て、量産

エンジンに適用された。

 

次に、燃焼室を形作るピストン頭頂部の形状も今回新

たになっている。戸田は、

「圧縮行程で圧縮上死点に向かって点火プラグ近くに最

後まで渦を残すためにも、これまではピストン頭頂部の

キャビティ(球面の凹み)を使っていましたが、今回は

筒内燃料噴射インジェクタに多孔式を使い、キャビティ

をなくしています。キャビティの有無は、燃料噴射時期

や燃料圧力、噴霧パターンなどいろいろな条件によって

変わってくると思いますが、今回の吸気ポートと燃料噴

射システムであればキャビティ無しで渦を強く保ち、き

ちんとした燃焼を確保できました」と説明する。

 

たしかにこれまで直噴エンジンで見慣れたキャビティ

が、ピストン頭頂部からなくなっている(図5)。

 

高速燃焼を実現するうえでは、筒内流動が整った上で

冷却も重要であり、今回は電動ウォータポンプを採用し

ている。

「高い圧縮比のエンジンは圧縮された空気の温度が高い

ので、従来であればノッキングの問題から点火時期を進

角できませんでした。耐ノック性を高めるうえで冷却が

欠かせません。電動ウォータポンプであれば、エンジン

回転数にかかわらず冷却できるので、低中速での進角を

可能にし、直噴化と共に出力トルクを向上できるので電

動化を決めました」と、戸田が話す。さらに秤谷は、

「逆に、それほど冷却する必要がないときには冷却水の

流量を減らすことができるのも電動ウォータポンプの利

点です。たとえば暖機を促進したり、あるいは摩擦抵抗

を減らしたりするうえでも自由度が上がります」と、幾

つもの効果があるという(図6)。

 

一方で、エンジンに搭載可能な電動ウォータポンプの

性能は発展途上であることによる苦労もあったと坂井は

言い、そこを坂田が苦労していたと打ち明けた。

「まず、シリンダヘッド内の水の流れを、長手方向から

短手方向に変えました。それによって圧力損失を減らせ

ます」と坂田。加えて戸田も、「短手方向の水の流し方

は直列4気筒エンジンにおいて両端の1番と4番シリン

ダの水の流れが悪くなりがちですが、解析技術の進化に

よって各シリンダ燃焼室壁温の温度差を小さくできるよ

うになっています」と説明する。さらに細かい変更を坂

田は施した(図7)。

「冷却水量と圧力損失を半分に減らそうと目標を掲げ、

そのために最も温度が高くなる排気の二つのバルブ間を

先に冷やせるように回路設計するとともに,流速を上げ

るために排気バルブ間の中子断面積も減らすことをして

います。ここでも、無機中子を採り入れた設計を行うこ

8Chapter

Previous New

EX EXEX

20% Improved

EX

Turbulence Intensity [m/s]

Turbulence Intensity [m/s]

Turbulence Intensity [m/s]

Tumble Ratio

Crank angle [deg. BTDC]

0

6

5

4

360 40 20 0

360 270 180 90 0

1

2

3

4

Crank angle [deg. BTDC]

Cavity

Spherical

Previous

New

New

90% improved

Enhancedturbulenceintensity

図5 今回の吸気ポートと燃料噴射システムによりピストン上部のキャビティがなく    とも筒内の乱れ強さを確保している

図6 エンジン回転数にかかわらず冷却できる電動ウォータポンプ

図7 ウォータジャケット構造と熱伝達率比較

図8 補機類の配置を工夫し、エンジン全高、特に車両前方となる部分を低くした

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49 AUTO TECHNOLOGY 2019

とでそれらを実現しました。理想を追求するため、当初

から生産技術の人たちと相談し、バルブ間の中子断面積

を小さくしすぎて折れてしまうなどの試行錯誤をしなが

ら、前後の形状も含め開発の終盤までこだわり続けまし

た」と振り返る。

理想の追求は

若手の育成にも

 

量産エンジンとしてのエンジン性能は達成できたとし

ても、次に、車両への搭載性も見逃すことはできない。

このエンジンが搭載された最初の量産車は新型カムリで

あった。車両の特徴は、「何より格好いいデザインにあ

る」と、チーフエンジニアは胸を張った。

 

パワートレーンカンパニーエンジン設計部中型エンジ

ン設計室主幹の川島孝弘は、

「車両側のコンセプトから、エンジン位置を下げたいと

いう要望がありました。また、歩行者保護の観点からも

エンジン位置が低いことが求められます。しかし、当初

は、ボンネットフードからエンジンの部品がはみ出す状

況でした。一方で、高速燃焼を実現するためロングスト

ロークのエンジンを理想とし、コンロッドやクランクと

いった部品は長さを縮めることができませんのでどうし

てもエンジン本体の全高が高くなってしまいます。そこ

で、本体以外のEGRバルブ、EGRクーラ、スロット

ルバルブ、エンジンオイルのレベルゲージ等の配置を工

夫することにより、とくに車両前方となる吸気側の高さ

を低く抑えられるように調整しました」(図8)

 

ただしその際には、製造時の作業のしやすさも考慮さ

れなければならない。戸田は、

「製造現場で組み付け作業をする人たちは、日替わりで

人が変わりますし、組み付け作業に気を遣わなければな

らないようでは、失敗したり、作業時間が長引いたりと

いう損失を生じやすく、作業者がケガをする懸念もあっ

たりします。どのようにエンジンを作り、またどのよう

に製造するかを、生産技術の人たちと議論を尽くしなが

ら進めました。そこを、川島が上手にまとめてくれまし

た」と労をねぎらう。

 

開発の全体を通じて坂井は、

「開発にかかわった人は、設計だけでも100人ではき

かない人数に上ります。大勢がかかわり、目標も高い開

発でやりがいもありましたが、プロジェクトのまとめ役

として、各開発段階で行われるゲート会議の場では目標

に到達できない項目もあり、何度もやり直しがあったた

びに、皆に苦労を掛けたと思ってきました。また最後の

ゲートにおいては、秤谷が車両の燃費性能を達成するた

めの苦労をしていました」と、苦労の実態を語る。

 

秤谷は、「早い時期から開発にかかわってきましたが、

制御の分野にはいろいろな要素が絡み、エンジンだけで

なく変速機との組み合わせやハイブリッドとの相性、そ

のうえで車両としての燃費、排ガス浄化、出力という全

方位での目標の成立に苦労しました。エンジンオイルも

新しくし、そうした助けもありました。最終的には、大

部屋に、駆動系、実験、製品企画など関係各部署に集まっ

てもらい、試験結果を見ながらどのように詰めていくか

毎日話し合うこともしてきました。制御はぎりぎりまで

詰めることができるので、本来であれば開発の限度とな

る工場の生産準備や、認証の手続きの期限さえも、関係

者には迷惑をかけましたが、粘って取り組みました」と、

背水の陣での仕上げを語るのであった。

 

この開発ではまた、ゼロからの立ち上げとなるまたと

ない機会であったため、若手育成の場としても活用され、

それによる手間と時間のかかる開発でもあったと戸田は

振り返った。そのうえで、将来へ向け、

「最大熱効率40%は、ハイブリッド車のプリウスで先に

達成していました。しかし今回は、自然吸気のガソリン

エンジンのみで40%の実現と、出力の両立をはかる開発

であったため、これが達成できたことによりハイブリッ

ド車用エンジンでは41%を実現し、トレードオフの関係

にある熱効率と出力を、目標に応じて自在に調節できる

ようになったといえます。もちろん、この先1ポイント

を上げることは並大抵ではありません。ただ、その第一

歩となる成果は残せたと思います」と、手ごたえを語る

のであった。

全方位ゼロスタートのエンジン開発―トヨタ自動車(株)―