米国スタートアップ・エコシステムの特集 変化への対応...

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Page 1: 米国スタートアップ・エコシステムの特集 変化への対応 スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて ベンチャーキャピタル投資持ち直しの兆しがみえる

COVID

19がもたらした

予測不能な未来への懸念

 

2020年3月、グローバルベンチャーキ

ャピタルである500 Startups

は、新型コロナ

ウイルス感染症(COVID

19)がロックダ

ウンにつながり、ビジネスに影響を与え始め

たことから、アーリーステージの企業に対す

る投資家139名を対象に調査を行った。こ

の回答には、ベンチャーキャピタルのコミュ

ニティー全体が感じているCOVID

19に

伴う予測不能な未来への懸念が反映されてお

り、大多数が「パンデミックが投資活動に悪

影響を与える」と考えていることが明らかに

なった。

 

PitchBook

社のデータは、この調査結果と

一致している。PitchBook

社によると、米国

では2020年第2四半期のシード案件は前

年に比べ半分以上減少し、投資家は316件

の案件を完了した。これに対し、2019年

は四半期ごとの案件の数が平均は650件だ

ったのである。投資家は、自分たちのポート

フォリオに目を向け、スタートアップ創業者

に対しては、主にランウェイ(キャッシュ不

足に陥るまでの残存期間)を維持するよう助

言した。

 

しかし、米国のベンチャーキャピタルは、

すぐにこの〝新しい日常(N

ew norm

al

)〟に適

応することを学んだ。ネットワーキングイベ

ントや対面でのミーティングがないため、

Zoom

やSlack

などのリモートツールやチャン

ネルを利用して、スタートアップ創業者とつ

ながることができるようになってきた。逆説

的な言い方をすれば、これまで直接会うこと

ができなかった投資家やスタートアップ創業

者へのアクセスが可能になったことで、より

多くのチャンスがもたらされる可能性がある。

 

当社でも今年3月、パンデミックによって

サンフランシスコのアクセラレータープログ

米国スタートアップ・エコシステムの

現状と今後の展望

500 Startups Japan C

ountry Lead

大おおで出

歩あゆみ美

422020・10

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Page 2: 米国スタートアップ・エコシステムの特集 変化への対応 スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて ベンチャーキャピタル投資持ち直しの兆しがみえる

特集 変化への対応─スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて

持ち直しの兆しがみえる

ベンチャーキャピタル投資

 

当社は、投資家向けのSlack

チャンネルを

活用して、バーチャルイベントを通じてネッ

トワーキングを促進している。投資家同士が

つながり、知見を共有し、ディールフローに

アクセスできるようにすることで、投資家の

コミュニティーを育成している。また、

PitchBook

社によると、5月にはベンチャー

キャピタル投資が持ち直し始めた兆しがみら

れる。この兆しについてはテック系の記事に

も掲載されている。T

he Information

による

と、資金調達を求めるアーリーステージのス

タートアップ企業への関心が高まっており、

投資家は夏の間に通常の倍の数の案件を実行

している。

機会を特定する

フレームワーク

 

スタートアップのエコシステムを詳しくみ

てみると、スタートアップや投資家にとって、

COVID

19をめぐるチャンスがみえてく

る。当社は、さまざまなセクターへのCOV

ID

19の経済的影響を、その期間と性質に

ラムのデモデイ(投資家への成果発表機会)を

バーチャルに移行した時に、この新しい可能

性を実感した。世界中から約1300人の投

資家が当社のSlack

チャンネルに参加し、ス

タートアップ創業者とつながることができた

のである。

図表1 米国のベンチャーキャピタルによる投資案件の推移COVID-19-related dip seen in Q2 deal countUS VC deal activity by quarter

Pitch Book-NVCA Venture Monitor*As of June 30, 2020

$50 3,500

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2

$45$40$35$30$25$20$15$10$5$0

2015 2016 2017 2018 2019 2020*

Deal value($B) Deal count Angel & seed Early VC Late VC

図表2 COVID-19の経済的影響に関する分析

DURATION OF IMPACT

PASSING NEED ACCELERATED FUTURE

ON PAUSE NEW NORMAL

LONG TERMSHORT TERM

POSIT

IVE (

OR N

EUTR

AL)

NEG

ATI

VE

500

COV

ID-1

9 IM

PACT

43 2020・10

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Page 3: 米国スタートアップ・エコシステムの特集 変化への対応 スタートアップ・エコシステムのさらなる飛躍に向けて ベンチャーキャピタル投資持ち直しの兆しがみえる

焦点を当てて分析し、その状況について図表

2のように4つのタイプに分類した。

 

同表の〝N

EGAT

IVE

(否定的)〟の領域では、

ライドシェアや公共交通機関、通勤アプリな

どの関連事業がパンデミック状況下で停止寸

前にまできているなど、一部の業種ではシェ

ルター・イン・プレース(外出自粛)によって

一時停止をしている。しかし、これは一時的

なもので、再開しているところでは、すでに

影響が薄れている。

 

ほかの産業は、「新しい日常」に適応しな

い限り、永続的にマイナスの影響を被る可能

性がある。COVID

19の前から変革が遅

れている場合、産業の生存のためには、強制

的な再発明が必要なのかもしれない。非接触

技術でイノベーションを生み出すスタートア

ップ(例えば小売り、旅行、ホスピタリティ

の分野)にとっては、利益をもたらす大きな

チャンスがあると考えている。一方で、パン

デミックに対応する製品やサービスが不足し

ていることから、一部のスタートアップは、

接触追跡、個人防護具や人工呼吸器の供給を

支えるため、技術を活用するようになった。

これは重要なニーズを満たしているものの、

ニーズそのものは一過性である。

 

最後に〝A

CCELERAT

ED FU

TU

RE

(加速

する未来)〟については、例えば、ビデオ会議

はいまや多くの人にとって日常的なものとな

っており、その利用は減速するかもしれない

が、企業がリモートでもチームを運営できる

ことを知ったいま、パンデミック前のレベル

に戻る可能性は低いだろう。COVID

19

の影響で加速しているセクターは、①ヘルス

ケア(遠隔医療、遠隔監視)、②生産性向上ツ

ール(法人向けSaaS、分散型チーム)、③

教育(オンラインプラットフォーム)、④エン

ターテインメント(eスポーツ、メディア、

デジタルイベント)、⑤物流、サプライチェ

ーンである。

より回復力が高い

スタートアップ

 

2007〜2009年の大不況は、個人向

け金融サービスCredit K

arma

(今年71億ドル

でIntuit

に買収)、クラウド・コミュニケーシ

ョン・プラットフォームT

wilio

(2016年

に株式公開)、マーケティングスタートアッ

プWildfire

(2012年に3億5000万ドル

でGoogle

に買収)など、今日、成功している

スタートアップをいくつか生み出した。大不

況下で生まれた企業は、資金繰りの制約に対

処しなければならなかった。

 

パンデミック状況下において同じような成

功例が出てきても不思議ではない。利用可能

なリソースが限られるなか、スタートアップ

企業はキャッシュバーン率を下げ、優れた製

品をつくることに集中することで適応するし

かないだろう。一つ屋根の下に物理的にチー

ムを配置する必要がないことから、コストを

下げられるかもしれない。世界最大級のリモ

ート企業であるGitLab

は、デジタルツール

やベストプラクティスの活用方法に関して、

他企業の良い模範となっている。

 

2007〜2009年の大不況のように、

COVID

19は〝Catalyst for Change

(変

化のための触媒)〟として役立つかもしれない。

困難な時代を乗り越えるスタートアップは、

イノベーションをもたらすだろう。

 

金融危機から教訓を学んだ投資家は、成長

する可能性の高いアーリーステージの企業を

見逃したくないはずだ。さまざまな選択肢を

検討するためにパンデミック発生時には一歩

引いていた投資家にとって、いまは資本を展

開する時なのかもしれない。

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