空冷チラーを用いた冷媒サブクールシステム -...
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── 実 施 例 ──
ヒートポンプとその応用 2013.3.No.85─ 81 ─
■キーワード/省エネルギー・熱源設備・施工法
高砂熱学工業㈱ 石 井 秀 一 ・ 大 山 孝 政
空冷チラーを用いた冷媒サブクールシステム
がアップする。これらの問題を回避しつつ空冷チラーのさらなる高効率化をすべく,本システムを空冷チラーに導入した。これは機器単体の省エネ技術と異なり,機器設置場所で得られる冷却水を補助冷熱源として活用する,いわば施工段階における省エネ手法である。既設冷却塔・井水・ボイラ補給水などの未利用冷熱源から冷却水を得ることにより,熱源設備全体をさらに有効活用するものである。本報では,空冷ヒートポンプチラーへの導入事例(無散水タイプとの比較)と,冷専(冷却専用)モジュールチラーへの導入事例(散水タイプとの比較)の2例を報告する11)-12)。
2.空冷ヒートポンプチラーへの導入事例
2-1 設備概要 本事例は,当社の研究開発施設に新設した熱源機器のうち,空冷ヒートポンプチラー(1系統)と空冷ビル用マルチ(4系統)に,本システムを導入したものである。水冷チラー用の冷却塔を,これら熱源機器のサブクール用冷却水の熱源に併用した。表-1に設備概要,図-1に熱源機器廻りの配管系統図を示す。2-2 本システムの概要 空冷チラーを用いた本システムは,チラーと冷温水配
1.はじめに 冷媒サブクールシステム(以下「本システム」)は,空冷の蒸気圧縮冷凍サイクルの凝縮後の冷媒を装置外部の冷却水でさらに冷やし,その冷却能力を増強して運転効率を向上させるシステムである。2005年に高砂熱学工業は,空冷ビル用マルチを用いた本システム1),2)を開発・発売し,2009年には空冷電算用パッケージエアコンにも導入を開始した。これまでの導入事例における性能検証の結果,冷房負荷が暖房負荷に比べて大きい業務用建物において,本システムが省エネ・ピークカットに有効であることを確認している3)-8)。 一方,大規模な業務用建物に多い中央式空調設備の冷温熱源として,機械室が不要・コンパクト・冷温水を1台で供給可能といった長所を持つ空冷チラーが広く利用されている9)。しかし空冷ビル用マルチと同様に,夏季の冷房負荷ピーク時に消費電力が増加し契約電力が大きくなるため,運転費が高いという欠点があった。これに対して空冷チラーメーカは,圧縮機や冷凍サイクルの高効率化,ファン・ポンプの高効率化,散水式空気熱交換器の採用などを行ってきた10)。 しかし散水式空気熱交換器には,フィンの腐食やスケール付着による耐久性低下が懸念され,また水道料金
冷温水ポンプ
冷却塔
冷却水(往き)
冷却水(還り)
水冷チラー
冷媒液管冷媒ガス管冷却水配管冷温水配管
ビル用マルチ40kW
ビル用マルチ69kW
ビル用マルチ69kW ビル用マルチ
50kWビル用マルチ28kW
冷温水タンク
サブクール用ポンプ
サブクールユニット
ビル用マルチ16kW
サブクールユニット
サブクールユニット
サブクールユニット
空冷ヒートポンプチラー160kW
図-1 熱源機器廻りの配管系統図
サブクールユニット 上下2段
図-1 熱源機器廻りの配管系統図
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チラーの冷却能力が冷却水で奪った熱量だけ増加するので,運転効率が向上する。なお温水製造運転時は,冷媒がサブクールユニット内のバイパス管を通って空冷チラーに戻るので,熱交換はせず加熱能力は変化しない。2-3 冷媒配管側の留意点 一般のチラーは冷凍サイクルが装置内で完結しており,冷媒配管を装置外部に引き出せない。そのため本事例のチラーは,工場での製造時に空気側熱交換器と過冷却器の間に阻止弁を1個追加し,これと既設阻止弁との間の配管を,冷媒を漏出させることなく切断できるようにしておいた。また図-2では省略しているが,阻止弁の追加で液封による配管破裂が起きる恐れのある箇所に,圧力逃がし弁を追加しておいた。設置済みの既設の
管系に加えて,冷媒と冷却水を熱交換する「サブクールユニット」と,冷却水配管系および冷却塔などからなる。サブクールユニットは空気熱交換器の下流に設ける。1台あたりの伝熱面積の制約から,最大6台(チラー容量475kW〜50Hzの場合)並列接続する。図-2にチラー廻りの配管系統図,写真-1にチラーの外観を示す。 一般の空冷チラーでは,冷水製造運転時に空気熱交換器下流の冷媒は,過冷却器を経て膨張弁に送られる。本システムを導入した場合,冷媒は過冷却器の手前で外部に引き出され,サブクールユニットにおいて冷却水で冷やされた後,過冷却器・膨張弁へ送られる。 空気熱交換器下流の冷媒は外気温度より数℃〜十数℃高いので,冷却塔の水で冷やすことが可能である。空冷
冷却塔
冷温水
冷温水
冷媒ガス管
冷媒液管
冷温水配管
冷却水配管
電子膨張弁 阻止弁 電磁弁
減圧装置
四方弁
過冷却器
圧縮機
空気熱交換器
水熱交換器
冷媒調節器
逆止弁
仕切弁
仕切弁
阻止弁冷媒封入用
現地配管
空冷ヒートポンプチラー(冷水製造運転)サブクールユニット
阻止弁
阻止弁(追加)
ダミー配管
アキュムレータ
還り
往き
図-2 空冷ヒートポンプチラー廻りの配管系統図図-2 空冷ヒートポンプチラー廻りの配管系統図
空冷ヒートポンプチラー
冷温水管(往き)サブクールユニット
サブクールユニット冷却水管
冷媒管
冷温水管(還り)
写真-1 空冷ヒートポンプチラーの外観
表-1 空冷ヒートポンプチラーへの導入事例の設備概要
場所
空 冷 チ ラ ー
ビル用マルチ(サブクール)
冷却能力 160(kW)消費電力(冷却) 39.4(kW)
空冷チラー用 2台ビル用マルチ用 4台
片吸込渦巻型水量516(ℓ/min) 出力 11(kW)
ラインポンプ水量165(ℓ/min) 出力0.75(kW)
開放式冷却熱量400(kW) 出力 1.5(kW)
69kW×2台‚ 50kW×1台‚40kW×1台
サブクールユニット
冷 温 水 ポ ン プ
サブクール用ポンプ
冷 却 塔
ビル用マルチ(通常)
ヒートポンプ式スクリューチラー
28kW×1台, 16kW×1台
高砂熱学工業㈱ 総合研究所 実験棟(神奈川県厚木市)
主要機器
表-1 空冷ヒートポンプチラーへの導入事例の設備概要
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の冷却能力に換算した。またサブクールユニット(2台)の冷却水配管入口・出口の水温と冷却水流量から,冷却水排熱量を求めた。 温度と消費電力は1分間隔で測定し,8〜20時の時間帯の30分平均値を求めた。冷水および冷却水流量は定流量なので,測定期間中に1回測定した。2-6 運用方法 サブクール用ポンプは,省エネよりも各種条件下での運転データ取得を優先して運用した。測定期間中の3/4は運転,1/4は停止させ,サブクール運転と通常運転(サブクールしない運転)双方のデータを取得した。また冷水負荷の大小とは無関係に運転した。 冷却塔は,冷却水温に無関係に連続運転した。本建物が完成後間もない時期に実測を行ったため,水冷チラーはほとんど停止しており,大半がサブクール専用の運転となった。2-7 導入効果〜凝縮温度と冷却水温 空冷チラーの凝縮温度は,サブクール運転・通常運転とも,吸込外気温より2.5〜12.5℃高温であった。一方冷却水温(往)は,吸込外気温より0〜10℃低温であった。その結果サブクールユニット内の冷媒は,冷却水温(往)より9〜14℃高温であった。 凝縮温度と吸込外気温との差は,吸込外気温が低いほど拡大する傾向があった。冷媒の高低圧差を確保するために,空冷チラーがファンの回転数を制御して,凝縮温度を一定以上に保持するためである。この制御のため,吸込外気温が低いほどサブクールユニット内の冷媒と冷却水温の差は大きくなった。2-8 導入効果〜省エネルギー効果 図-3・4に,通常運転時とサブクール運転時の消費
チラーで,このような改造を行うことは難しい。 チラー製造時の気密・耐圧試験や試運転は,両阻止弁間をダミー配管で接続した状態で,一般のチラーと同様に行った。搬入据付後,空気側熱交換器に冷媒を回収して下流の液管内の冷媒を抜くが,その量はチラーの冷媒充てん量に比べて微少である。その後,両阻止弁を閉鎖してダミー配管を撤去し,チラーとサブクールユニット間を配管した。配管終了後,気密試験・真空引きを行い,両阻止弁を開いて冷媒を追加充てんした。2-4 冷却水側の留意点 サブクールユニットの水側には冷却水を供給する。冷却水の熱源として他用途の冷却塔を兼用する場合,最低冷却水温度が設定されていると,冷却水温が外気温度を大幅に上回りサブクール効果が得られない可能性がある。その場合は,冷却水を供給する時期を外気温の高い時期に限定する必要がある。本事例では,水冷チラーの冷却水温下限温度制御を別に行っていたので,サブクール用冷却水の下限温度設定は特に行わなかった。 サブクールユニット設置場所の周囲温度が氷点下になると,空冷チラーが停止中または温水製造運転時に,サブクールユニット内部の熱交換器で冷却水が凍結して変形や破壊を招く恐れがある。本事例では,外気温度が一定以下の場合にサブクール用ポンプを強制運転することによって,凍結を防止した。2-5 性能検証方法 本システムを導入したチラーの,冷水製造運転中の冷却能力向上と省エネ効果を確認した。試験期間は2008年7〜10月である。チラーの運転効率を求めるため,冷温水配管入口・出口の水温と冷水流量から冷却能力を求め,チラーの性能曲線により,冷水温度(往き)が7℃の場合
70(%)
60
50
40
30
20
10
00 10
負荷率(冷却能力/定格冷却能力)(%)
20 30 70
吸込外気温=22.5~20℃
吸込外気温=32.5~30℃
吸込外気温35~32.5℃32.5~30℃30~27.5℃27.5~25℃25~22.5℃22.5~20℃
6050 40
消費電力/定格消費電力
図-3 従来運転時の消費電力図-3 従来運転時の消費電力
70(%)
60
50
40
30
20
10
00 10
負荷率(冷却能力/定格冷却能力)(%)
20 30 70
吸込外気温=22.5~20℃
吸込外気温=32.5~30℃
冷却水温>吸込外気温-5℃吸込外気温35~32.5℃32.5~30℃30~27.5℃27.5~25℃25~22.5℃22.5~20℃
6050 40
消費電力/定格消費電力
図-4 サブクール運転時の消費電力図-4 サブクール運転時の消費電力
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ヒートポンプとその応用 2013.3.No.85─ 84 ─
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3.冷専モジュールチラーへの導入事例
3-1 設備概要 空冷モジュールチラーは,容量選定範囲が広く故障対応や増設が容易,機械室が不要でコンパクト,高圧ガス保安法の許可や届出が不要といった長所を持っており,近年採用が増加している。また省エネ型として,散水式空気熱交換器を持つタイプも販売されている。当社は2011年9月に,スタンレー電気㈱ 秦野製作所のモジュールチラーの一部に,本システムを初めて導入した。 全12モジュールは,3台ずつ4系統に分割して電源供給されている。そこで,4系統のうち1系統(3モジュール)をサブクール運転,3系統(9モジュール)を散水+通常(散水しない)運転した。図-5にチラー廻りの配管系統図,表-2に関連する熱源機器類の設備概要,写真-2にチラーの外観を示す。 このチラーは各モジュールに3台ずつ同容量の定速圧縮機を持ち,また空気熱交換器に散水装置の付いた高効率タイプである。本システムを導入していないモジュールの散水装置は,外気温30℃以上かつ圧縮機運転台数2台以上の場合に散水運転し,それ以外の場合は通常運転する設定とした。本システムを導入したモジュールの散水装置は,停止させた。
電力を示す。負荷率・吸込外気温を同じ条件にした場合の空冷チラーの消費電力は,サブクール運転の方が従来運転より少なかった。吸込外気温32.5〜30℃,負荷率20〜50%の運転条件においては,12〜15%の省エネ効果を確認できた。 省エネ効果は吸込外気温や負荷率が低いほど増加する傾向があり,吸込外気温22.5〜25℃,負荷率10〜20%の運転条件においては35〜55%であった。2-9 導入効果〜冷却能力の向上 サブクール運転の場合,冷却能力は冷却水排熱量だけ増加する。負荷率が90%以上の場合の冷却水排熱量と冷却能力の比(冷却水排熱量比)は12〜13%であった。チラーの最大冷却能力は,冷却塔の水を使ったサブクール運転によって,この程度増加すると予想される。 冷却水排熱量比は負荷率が低いほど増加する傾向があり,負荷率30%時に最大30%程度になった。これは負荷率が低い場合に,ファンの容量制御によって空気側熱交換器の風量が落ちるのに対して,冷却水量は負荷率によらず一定であるために,サブクールユニットで放熱しやすくなるためである。負荷率が低いほど省エネ効果が高いのも,この理由による。
散水
E
E
E
E
排水
冷却水(還)
冷却水(往)
井水槽
冷水(往)
冷水(還)
サブクールユニット モジュールチラー
散水開
開
開
冷媒配管 散水装置空気熱交換器
電力計冷水ポンプ
図-5 冷専モジュールチラー廻りの配管系統図図-5 冷専モジュールチラー廻りの配管系統図
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ヒートポンプとその応用 2013.3.No.85─ 85 ─
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号で冷却水を入り切りし,冷却水の循環流量や搬送動力を削減することも可能である。3-3 性能検証方法 2011年9月〜11月の3カ月間,各系統の消費電力・冷却能力と,外気温・冷却水温を実測した。冷却能力は,チラーメーカのメンテナンス用モニタリング装置で各モジュールの圧縮機運転台数・冷媒温度・冷媒圧力を計測し,それらのデータから算出した。測定は30秒間隔,解析は5分平均値で行った。 各系統の運転効率は,その系統に属する3モジュールの冷却能力合計値を,その系統の消費電力で除した値である。測定期間中の冷水温(往)が±1℃の範囲で変動していたため,冷却能力と消費電力は冷水温(往)を7℃とした場合の値に補正した。3-4 導入効果〜運転効率 代表日のサブクール運転・散水+通常運転の運転効率・外気温・冷却水温(往)の経時変化を,図-6に示す。この例では,10:00〜16:30の時間帯に外気温が30℃を超え,散水運転している。通常運転の間,運転効率はサブ
3-2 本システムの概要 冷専モジュールチラーに導入した場合と,空冷ヒートポンプチラーに導入した場合の違いは,以下の3点である。第一に,1モジュールあたりの容量が制限されているため,サブクールユニットが1モジュールにつき1台となる。第二に,1モジュールあたりの冷媒充てん量が少ないため,前章の導入事例のようにチラーに阻止弁などを追加しなくても,冷媒を全量回収してサブクールユニットを取り付けることが比較的容易である。そのため既設のチラーであっても,本システムの導入は可能である。第三に,冷専のため,サブクールユニット内に冷媒バイパス管や逆止弁を設けない。 また本事例では,冷却水として冷却塔の水ではなく,井水を使用した。測定期間中の水温は18〜19℃で一定であり,冷却塔の水を使用する場合よりも最大10℃程度低かった。サブクールで昇温した冷却水(還)は,ワンパスで排水した。 補足になるが,このチラーの場合はサブクールユニットの冷却水側に電磁弁を入れて,チラーの圧縮機運転信
写真-2 冷専モジュールチラーの外観
図-6 運転効率・外気温・冷却水温(往)の経時変化(2011 年9月 18日)
7.5
7.0
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 0
運転効率
(-)35(℃)
30
25
20
15
10
5
0
外気温・冷却水温(往)
散水
運転効率(散水運転)(-)
運転効率(通常運転)(-)運転効率(通常運転)(-)
運転効率(サブクール運転)(-)
冷却水温(往)(℃)
外気温(℃)
(時)
図-6 運転効率・外気温・冷却水温(往)の経時変化(2011年9月18日)
表-2 冷専モジュールチラーへの導入事例の設備概要
場所
空 冷 チ ラ ー
同上 散水装置
モジュール数 12台冷却能力 101(kW/台), 合計1,212(kW)消費電力 21(kW/台), 合計 252(kW)
空冷チラー用 3台 (冷媒バイパス管なし)
標準散水量 7.1(ℓ/min)×12台標準散水圧 0.4(MPa)
サブクールユニット
サブクール用ポンプ
冷 水 ポ ン プ
冷専モジュールチラー高効率型
なし(既設井水配管より分岐)
台数 2台片吸込渦巻型水量1,730(ℓ/min) 出力15(kW)
スタンレー電気㈱ 秦野製作所(神奈川県秦野市)
主要機器
表-2 冷専モジュールチラーへの導入事例の設備概要
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運転の負荷率と消費電力比(消費電力/定格消費電力)の関係を示す。通常運転に対してサブクール運転は,負荷率(冷却能力)が約11%増加し,消費電力は変わらなかった。サブクール運転によって蒸発器入口冷媒のエンタルピが低下するものの,凝縮温度に影響がなく,圧縮機出口冷媒のエンタルピが変わらないためである。 一方散水運転の場合は,冷却能力が約5%増加し,消費電力が約9%減少した。散水によって凝縮温度が低下し,蒸発器入口冷媒のエンタルピと圧縮機出口冷媒のエンタルピがともに低下するためである。3-6 導入効果〜年間運転費 全12モジュールを散水+通常運転した場合と,サブクール運転した場合で,年間運転費(電気基本/従量料金,水道料金,各メンテナンス費用)を試算した。冷却水は,一般的に得やすい冷却塔の水とした。散水運転条件は,外気温30℃以上かつ圧縮機が1モジュールあたり2台以上運転する場合(メーカ標準仕様)とした。負荷パターンは,本施設の2010年と2011年の平均値を用いた。 試算結果を表-3および図-9に示す。サブクール運転は散水+通常運転に対して,電気従量料金が同等,電
クール運転を0.5程度下回っているが,散水運転開始とともに運転効率は急上昇し,サブクール運転と同程度になる。 図-7に,負荷率別の外気温と運転効率の関係を示す。1系統3モジュールが持つ9台の圧縮機のうち,2台運転した場合の負荷率(冷却能力/定格冷却能力)は0.2〜0.3,4台運転した場合は0.45〜0.6,6台運転した場合は0.7〜0.85である。負荷率0.45以上および負荷率0.2以上かつ外気温20℃以上の場合,サブクール運転の運転効率は通常運転より4〜13%高く,外気温が高くなるほど差が大きかった。負荷率0.45以上かつ外気温30℃以上の場合,サブクール運転の運転効率は散水運転より約5%低かった。 日平均運転効率でサブクール運転と散水+通常運転を比較すると,9月で6.1%,10月で3.5%,サブクール運転の方が高かった。11月になると,外気温の低下とともに井水との水温差が減少ないし逆転するため,両者の差はなくなった。3-5 導入効果〜冷却能力向上 図-8に,1系統の圧縮機が6台運転した場合の,各
圧縮機運転台数:2台/3モジュール 負荷率:0.2~0.3 圧縮機運転台数:4台/3モジュール 負荷率:0.45~0.6 圧縮機運転台数:6台/3モジュール 負荷率:0.7~0.85
7.0(-)
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.05 10 15 20 25 30 35
外気温
運転効率
通常運転
サブクール運転7.0(-)
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.05 10 15 20 25 30 35
運転効率
通常運転
散水運転
サブクール運転7.0(-)
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.05 10 15 20 25 30 35
運転効率 通常運転
散水運転
サブクール運転
(℃) 外気温 (℃) 外気温 (℃)
図-7 外気温と運転効率の関係図-7 外気温と運転効率の関係
消費電力比
(-)0.66
0.64
0.62
0.60
0.58
0.56
0.54
0.72 0.74冷却能力比
通常運転 散水運転 サブクール運転
図-8 各運転の負荷率と消費電力比の関係
(-)0.76 0.78 0.80 0.82 0.84
図-8 各運転の負荷率と消費電力比の関係
表-3 年間運転費の試算結果
電 気 従 量 料 金 6.32 6.27
( 百 万 円 / 年 ) 散 水 +通 常 運 転サ ブ ク ー ル運 転
3.41 4.133.54 0.320.60 0.0713.90 10.80
電 気 基 本 料 金水 道 料 金メ ン テ ナ ン ス 費合 計
電気従量料金単価:10円/kWh電気基本料金単価:1,600円/kWh月水道料金単価(下水道料金含む):590円/t
表-3 年間運転費の試算結果
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ヒートポンプとその応用 2013.3.No.85─ 87 ─
── 実 施 例 ──
6) 川上理亮,石井秀一,小川正人,西村匡史:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,C-37(2009)7) 石井秀一,山中隆行,中坪剛:空気調和・冷凍連合講演会講演論文集,37(2010)8) 大山孝政,川上理亮,石井秀一,塚本和憲:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,F-33(2011)9) 建築設備士,2004年12月号,事務所建築における完成設備データ,p88(2004)10) 日本冷凍空調学会 関東地区事業推進委員会,ヒートポンプチラー高効率化の動向(2004)11) 石井秀一,小林崇,菊地昭治,坪田祐二:空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,B-63(2009)12) 大山孝政,石井秀一,寺山裕幸,高田公樹:空気調和・冷凍連合講演会講演論文集,18(2012)
気基本料金が2割増加,水道料金とメンテナンス費が9割減少となり,年間運転費合計は22%少なくなった。散水+通常運転では,7〜8月の運転費が水道料金のために倍以上になる。冷却水が井水の場合と比べると,冷却水温が外気に追従するため,夏季の省エネ効果は減少するが,中間期〜冬季は増加する。
4.おわりに 冷媒サブクールシステムを空冷ヒートポンプチラーへ導入した結果,冷却能力が12〜13%向上し,12〜15%の省エネ効果を確認できた(吸込外気温32.5〜30℃,負荷率20〜50%)。また散水タイプの冷専モジュールチラーと比較運転した結果,散水運転よりも運転効率は劣るものの,通常運転を含む全運転時間帯の平均運転効率では上回り,節水や省メンテナンスの効果によって年間運転費を2割削減可能であることが確認できた。 当社は今後もこれらの知見をふまえて,空冷チラーを含む熱源設備に対して,ユーザーにとって最もメリットのあるシステムと運用方法を提案してゆく。
<参考文献>1) 石井秀一,谷野正幸,岡村明彦,鏡一豊:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,D-63(2005)2) 川上理亮,石井秀一,谷野正幸,佐々木淳,湯浅憲:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,C-34(2007)3) 石井秀一,川上理亮,谷野正幸:空気調和・衛生工学会学論文集,No.136,35-42(2008)4) 石井秀一,三上貴彦,岡安兼利,高草智:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,C-58(2008)5) 川上理亮,石井秀一,小川正人,西村匡史:空気調和・衛生工学会学術講演論文集,C-37(2009)
運転費
(千円)3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
図-9 年間運転費の試算結果(月別 , メンテナンス費を除く)
電気従量料金
電気基本料金
水道料金
散水+通常運転 サブクール運転
(月)
図-9 年間運転費の試算結果(月別,メンテナンス費を除く)