cf 22 080929 - toppan.co.jp · それまでは絵というよりはデザインということ...

CREATOR'S FILE クリエーターズファイル 6 biz.toppan.co.jp/gainfo 使使2 「それでもデザイナーとして」 順調古着屋経営とデザインの仕事すべてをリセットして東京たな活動をはじめた山下氏2 では mountain mountain での活動中心今後目指している方向など幅広くおきした©2008 TOPPAN/GAC GA info. / CREATOR'S FILE vol.45 Oct.20, 2008 vol.45 Oct.20, 2008 22 No. 作りたいものを 作り続けるために 山下浩平( mountain mountain YAMASHITA KOHEI

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Page 1: cf 22 080929 - toppan.co.jp · それまでは絵というよりはデザインということ に意識がいっていたし、好きだからこそおいそれ とは仕事にできないなんて生意気なことを考えて

CREATOR'S FILE

クリエーターズファイル

6

b i z . t o p p a n . c o . j p / g a i n f o

イラストレーションの仕事

 

マウンテンマウンテンをはじめた時に、商品ラ

インナップとしてはいろんなアイテムがあってい

いけれど、どこかに統一感があって、ひとつのレー

ベルのように見せられたらいいなと思っていまし

た。ブランドとしてのプロダクトマネジメントの

第一歩ですね。

 

そこでプロダクトにラベルシールを貼って、そ

こにイラストを入れることにしました。アイテム

そのものに絵が入っているものも世の中にはたく

さんあるけど、僕は自分で作るものについてはそ

ういうものはなくていいと思っていて、でも商品

に貼ってあるラベルシールにグラフィックの一部

としてイラストが入っていたら、売り場でも目を

惹くだろうし、レーベルとしての統一感も演出で

きる。しかも自分で描けるのだから、これはいい

と(笑)。そんなことがキッカケでイラストを描

くようになりました。

 

それとリンクして、学生時代に模写していた

くらい大好きなイラストレーターの森本美由紀さ

んと知り合って、ある時「あなたは絵で食べてい

くつもりはないの? 

うまいんだからおやりなさ

い」みたいに背中を押される言葉をいただいたこ

とがあって。自分の好きな人からそう言われて、

それとほぼ同時に仕事の依頼もいただいたので、

これは運命なのかな、描いてもいいのかなと。

 

それまでは絵というよりはデザインということ

に意識がいっていたし、好きだからこそおいそれ

とは仕事にできないなんて生意気なことを考えて

いて、絵単体で仕事になるとは思っていませんで

した。いろいろと描いているうちにだんだん楽し

くなってきたという感じです。

 

初めて依頼された仕事で描いたのは、山と溪谷

社さんの雑誌で、ただのイラストではなく、切り

抜いて紙相撲を作るという企画ページでした。こ

のときにもキャラクターを描いていましたね。

キャラクターの世界観

 

もともとがっつりとキャラクターを作ろうと

思っていたわけじゃないんですね。グッズ用に

ちょっと描いたり、イラストの仕事をしたりして

いる中から、アリや「くまのまうる」が生まれてきた。

 

ただ、これには狙いもあって、人物のイラスト

は描く人がたくさんいるから、イラストレーター

として差別化を図らないと僕が描く意味がないな

と思って、だから動物や昆虫なんです。

 

それから、どういう絵を描くとどんな仕事が来

るのかということもなんとなく見えてきて、だっ

たら依頼に合わせてタッチや絵柄を変えるより、

最初からきちんと世界観を提示していれば、それ

にフィットした仕事が来るだろうと。上手にイラ

ストを使ってくれる人と仕事をした方がお互いに

ハッピーですし、そもそも自分の表現をしたいと

思ってきたわけですから。

 

タッチとしては最初から普遍的で、時代性に関

係なく、使い古されたりしないものにしたいなと

考えていました。それは一方ではマンネリ化しや

すいというデメリットもあるけれど、安売りしな

第 2 話 「それでもデザイナーとして」順調な古着屋経営とデザインの仕事、すべてをリセットして、東京で新たな活動をはじめた山下氏。第 2話ではmountain mountainでの活動を中心に、今後目指している方向など、幅広くお聞きした。

© 2 0 0 8 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 5 O c t . 2 0 , 2 0 0 8

vol.45 Oct.20, 2008

22 No.

作りたいものを 作り続けるために

山下浩平(mountain mountain)Y A M A S H I T A K O H E I

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© Yamashita Kohei-mountain mountain 2008

mountain mountain オリジナルプロダクツのラベル

『くまのまうるとおばけもり』やましたこうへい/もきかずこにいるぶっくす/ソニー・マガジンズ2006年

「PAPER SUMO papercraft kit」山と溪谷社 2002年

初めてイラストを依頼された仕事

「驚異の恐竜博2004」日本経済新聞社2004年

7

いという意味では正解だったと思っています。

 

実はそれぞれのキャラクターにはモデルがいる

んです。たいていは周囲の友人たちをヒントにさ

せてもらって、それをちょっとシニカルに捉えて、

僕流にアレンジして描いています。

 

アリの「A

NT1216

」のモデルは父親だったり

します。父は公務員で頑な人だったんだけど、定

年退職したときに、どことなく背中が寂しそうで。

その姿が印象に残っていて、キャラクターのヒン

トになりました。

 

僕はしゃべるのがあまり得意じゃないので、キャ

ラクターの露出そのものが、プレゼンテーション

にもなっているという意味では、キャラクターが

表に出てくれるのは、とても助かっています。

クリエーターとしてのこだわり

 

表層のことでいうなら色へのこだわりは強い

ですね。「くまのまうる」の絵本を作ったときも、

印刷は凸版さんでしたが、相当あれこれ注文をつ

けさせてもらいました。でもさすがだなと思った

のは、現場の職人さんたちにひとつひとつ応えて

いただけたことと、現場ならではのノウハウもい

ろいろと教えていただけたことで、これが本物の

プロなんだなと感嘆しました。

 「piece process puzzle

」を作ったときも色には

こだわりましたが、それは、あの時のお金のな

い僕らが段ボールという素材と出会って、何がで

きるのかという時に、価値のないものに価値を吹

き込めたら、それがデザインとして見えてくるん

第 2 話山下浩平no.22

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© Yamashita Kohei-mountain mountain 2008

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じゃないかと考えたからです。そして、この場合

のデザインというと、色が重要な要素だったから、

執拗にこだわりました。

 

グッズでもプロダクトでも、その本質に関わる部

分については譲れないですね。たとえばカメのオモ

チャを作ったとして、それがニホンイシガメだった

としたら、他の部分の色が減ったとしても、身体の

裏側のこの部分の色は譲れないというものがある。

 

それはわからない人にはどうでもいいことかも

しれないけれど、僕がそのアイテムを届けたいと

思っているマニアックなユーザーさんたちの信用

を勝ち得るためには、どうしてもその色が必要だ

という場合もあるんです。

 

個人的な趣味でカメを引き合いに出しましたが、

こういう部分って、いわば商品の根幹部分なので、

もしも妥協してしまったら、僕も納得できないし、

お客さんにも満足してもらえない。結局、誰もハッ

ピーになれないと思います。で、そういう部分って

コストや生産性の面でメーカー側には歓迎されな

いことが多いけど、お客さんからいい反応があれば、

メーカーの担当の人も学習してくれて、次からの

仕事がやりやすくなったりします。そういう意味

では、僕はうるさいところもあるかもしれないけど、

できることとできないことがあるということは理

解しているし、本当は気の優しい人なんです(笑)。

近頃のマウンテンマウンテン

 

 

最近はひとつひとつのプロジェクトが重たく

なってきています。メーカーさんと組むとどうし

てもそうなってしまうんですけど、それにしても

頓挫してしまったり、世の中に出なかったりする

ものがちょっと多くて、不運続きですね。

 

僕自身はそういう時期なんだと開き直っている

し、ひとつひとつを本当におもしろくしなきゃい

けないと思って取り組んでいるから、仕方ないの

かなと思っています。

 

一方で、マウンテンマウンテンの初期の頃の

ように、自分の身銭を切って作りたいものを作っ

ていくという、原点に戻った活動ももう一度やっ

てみようかと考えているところです。

 

自分で作って自分で売ってというのはリスク

は大きいけれど、たとえばイベントなどでお客

さんと直に顔を合わせて、いろいろ話ができる

というのはとても楽しいですよ。一般的なグラ

フィックデザイナーは知らないおもしろみだと

思います。

 

これは古着屋をやっていた頃のおもしろさに

通じるものがありますね。プロモーションとマー

ケットリサーチが同時にできるわけですから。お

客さんと直接いろいろ話をする中で「こういうも

のは作らないんですか?」と言われて、そうなる

と「いやいや、できるよ」なんて、負けじ魂が燃

えてきて、今度はそういうものを作ったりして。

バンド活動からソロ活動へ

 

ここのところ、集中して取り組んでいたのが自

宅兼アトリエの整備でした。

 

以前、別の取材でマウンテンマウンテンはバン

第 2 話山下浩平no.22

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「れきぶん8 夏休みこどもカルチャー・ツアーズ」(財)東京都歴史文化財団2006年

『やってみよう!グラウンド・ゴルフ』(社)日本グラウンド・ゴルフ協会2008年

『Giant Robot Issue #47』Giant Robot Factory2007年

『ヤマケイJOY Special 2007年増刊』山と溪谷社2007年

Lady Leeとのコラボレーション企画2005年

「eco ideas contest」松下電器 <Panasonic / National>2007年

「Walkie bits NATURE」タカラトミーとのコラボレーション企画2006年

© Yamashita Kohei-mountain mountain 2008

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ド活動のようなものとしゃべったことがあるんで

すけど、それになぞらえると、ちょっとソロ活動

に力を入れようかなと。

 

もう少し絵に集中してみたい。具体的には絵本

にがっつり取り組んで、40代中盤くらいまでにき

ちんと絵本だけで喰えるようになりたいと思って

いるんです。

 

デザインの仕事は大好きだから、もちろん続

けていくけれど、空いた時間は絵本に集中しよう

と決めて、資料を集めたり準備を進めているとこ

ろです。その一環で、自分のやりたいことにもっ

と特化できるように制作体制をミニマムにシフト

チェンジし、自宅兼アトリエを新たな拠点にした

というわけです。

 

ここはかつての店づくりの経験を生かして、壁

や床などの内装は出来る限り自分で手がけました。

楽しいんですよ、ペンキ塗ったり、ノコギリで木

を切ったりして。こんな楽しいこと、他の人にや

らせるのはもったいないです(笑)。

 

プロじゃないから決してうまいわけじゃないけ

ど、愛着も湧くし、僕としてはこのアトリエも作

品のひとつ。ここから新しいデザイン、作品を生

み出していこうと考えています。

それでもデザイナーとして

 

デザイナーの仲間と話していると、お前は作

家だと言われます。プロダクトもやっているし、

自分の作りたいものを作っているというレベル

で作家と言っているんだろうけど、そんなに甘

第 2 話山下浩平no.22

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「2008 HOLES calendar」山と溪谷社とのコラボレーション企画2008年

涸沢フェスティバルマスコットキャラクター2008年

「ant heavy card」mountain mountain オリジナルプロダクツ

小学3年生理科TV番組 「ふしぎだいすき」NHK教育 2005年~

WWF ライセンスTシャツ2008年 © Yamashita Kohei-mountain mountain 2008

interview:2008.8

C R E AT O R ' S F I L E vol.452008年10月20日発行

発行・企画・編集

凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部

グラフィック・アーツ・センター

〒112-8531東京都文京区水道1-3-3TEL.03-5840-4058http://biz.toppan.co.jp/gainfo

取材:中村仁美 野崎優彦

撮影:西村 広

文:野崎優彦

編集:中村仁美 野崎優彦

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いものじゃないことは僕が一番よく知っている

つもりです。

 

作家性というものを、自分にしかできないもの

を作るという意味合いで捉えるなら、目指してい

るのは間違いなくそこだといえます。

 

でも僕は、デザイナーだって作家になれるとい

うか、独りよがりなアートではなく、デザインと

いうスタイルなら、世の中とコミュニケートしな

がら、なおかつ長く残っていくものが生み出せる

と信じているんです。

 

古いタイプの人間なのかもしれないけれど、

アートって本当に1点で永遠に人を感動させる力

があると思っていて、デザインにも同じことがで

きると思う。僕はそういうクリエイティブが送り

出せる人になりたい。それに肩書きをつけるとす

るなら、やっぱりデザイナーだろうと思っていま

す。作品集が残せるデザイナーってすごくステキ

じゃないですか。

 

今の時代ってものを作ることが疎かになってい

るし、コンピュータが普及したおかげで良くも悪

くもイージーになっているんじゃないかなと思い

ます。同じ作るならもっと真剣に考えた方がいい

し、たとえば絵を描くなら、描くのと同じだけ考

えた方がよりいいものができるはずです。

 

手を動かすのと同じくらい頭を動かして、それ

で紙と鉛筆だけでおもしろいものができたらいい

なと。これからはより自分の心に問いかけるよう

なことをやっていきたいなと思います。

 

なんか、いろいろなことに対して、もうちょっ

と考えようよって思います。そうすれば環境も地

球も、きっともっとよくなると思うんですよね。

第 2 話山下浩平no.22

© 2 0 0 8 T O P PA N / G A CG A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 4 5 O c t . 2 0 , 2 0 0 8