細菌群集構造解析のための植物根からの迅速かつ簡便な dna...

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細菌群集構造解析のための植物根からの迅速かつ簡便な DNA抽出法 誌名 誌名 土と微生物 ISSN ISSN 09122184 著者 著者 須賀, 有子 堀, 兼明 小森, 冴香 巻/号 巻/号 62巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 121-125 発行年月 発行年月 2008年10月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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細菌群集構造解析のための植物根からの迅速かつ簡便なDNA抽出法

誌名誌名 土と微生物

ISSNISSN 09122184

著者著者須賀, 有子堀, 兼明小森, 冴香

巻/号巻/号 62巻2号

掲載ページ掲載ページ p. 121-125

発行年月発行年月 2008年10月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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土と微生物(SoilMicroorganisms) Vol. 62 No. 2, pp. 121 ~ 125 (2008) 121

ノート細菌群集構造解析のための植物根からの迅速かつ簡便な DNA抽出法

須賀有子1)・堀 兼明1)・小森冴香1)・福永E矢子 1)・池田順一1)・豊田剛己 2)

1)近畿中国四国農業研究センター 干623-0035京都府綾部市上野町上野 200

2 )東京農工大学大学院共生科学技術研究院 〒184-8588東京都小金井市中町 2-24 -16

Simple and rapid DNA extraction method from plant roots for analysis of bacterial community structure

Yuko Suga 1), Kaneaki Hori 1), Sayaka Komori 1), Ayako Fukunaga 1), Jun-ichi Ikeda 1) and Koki Toyota 2)

1) National Agricultural Research Center for 阪'sternRegion, Ueno, Ayabe,めoto623-0035,.ftα仰 t

2) Tokyo University of Agriculture and Technology, Koganei, Tokyo 184-8588, Japan

Key words : DNA extraction, root, bead-beating, 16S rDNA, PCR-DGGE

1 .はじめに

細菌群集構造解析のための植物根からの DNA抽出法と

して,これまで臭化セチルトリメチルアンモニウム (CTAB)

を用いる CTAB法が一般的に用いられてきた1.2)。しかし

CTAB 法は時間や手聞がかかるうえ,試薬にクロロホルム

等の劇物を用いることもあり ,近年 CTAB法以外の DNA

抽出法として,ガラスビーズで細胞破砕を行う方法が用い

られるようになってきた 8.13)。ガラスビーズを用いた DNA

抽出法は, CTAB法に比べて短時間で DNA抽出が可能な

ため,市販の DNA抽出キッ トにも取り入れられている。

しかし これらのキットは lサンプルあたり 500~ 1,∞o 円程度かかるため,多数のサンフ。ルを扱う場合には経済的

な負担が大きい。

そこで,市販のキッ トを使わずに,ガラスビーズを用い

て植物根から迅速かつ簡便に DNA抽出を行う方法(以下

ビーズ法) をキ食言すした。ついで, ビーズ法, CTAB法, ガ

ラスビーズを用いる DNA抽出キッ トの3種類の手法につ

いて, 抽出 DNA量お よび抽出された DNAを用いた細菌

の16SrDNAのDGGEパターン(以下 DGGEパタ ーン)か

ら,ビーズ法が植物根からの迅速かつ簡便な DNA抽出法

として適当かどうかを評価した。

2.材料と方法

1)ビーズ法に供試する根に関する検討

(1)根の量

ビーズ法の細胞破砕処理装置で用いる 2mlの遠心

チューブに供試可能な根の量は,新鮮重で約 0.2gと極少

量である。そのため,多量の根に よる一次サンプルを作 り,

その一部をピーズ法に供試した方が,根から抽出 される

DNAの代表サンプルとして適していると考えられる。そ

2007年12月22日受付 2∞8年4月2日受理

こで, ビーズ法に供試する根の量が,抽出 DNA量および

DGGEパターンにおよぼす影響について検討した。近畿中

国四国農業研究センター(京都府綾部市)構内のガラス

温室において,軽石培地(本軽石の詳細については前報 9)

を参照)を用いた養液栽培で中玉のミデイ トマト‘シンディ

スイート'を約3ヶ月間栽培し 根を全量採取した。採取

した根 (新鮮重 12g) を滅菌水で、洗浄し,はさみで長さ約

5mmに切断した。供試する根の量を新鮮重で 0.1g, 0.2

g, 2.6gとし,根 0.1g, 0.2 gについては直接ビーズ法に供

試した。また,根 2.6gについては, 50 mlの滅菌した遠

心チューブに入れ,滅菌水 40mlを加えてホモジナイザー

(PT10 -35,ポリトロン)で 3,000rpm, 1分間処理しそ

の液の一部をビーズ法に供試した。

ビーズ法の作業フローを図 1に示した。根 0.1gまたは

0.2 gを威菌j斉の 0.1mmガラスビーズ (BIOSPEC)0.4 g

と1mmガラスビーズ (BIOSPEC)0.1 gを入れた 2mlの

遠心チューブに移し, DNA抽出バッファー (0.2M Tris,

80 mM EDTA, 0.4 M塩化ナト リウム, 4% ドデシル硫酸

ナ トリウム, pH 8.0) 1 mlを加えた。また,ホモジナイ

ズした液を同様の遠心チューブに 1.2ml (根 0.08g相当),

0.8ml (根 0.05g相当)入れ,それぞれ抽出パッファ ー0.4

ml, 。目8mlを加えた。その際, 抽出バッファ ーの濃度は 2

段階に設定した(lx抽出パッファーお よび2x抽出バッ

ファー)。遠心チューブを細胞破砕装置 (BeadSmash,和

研薬)にセットし, 4,000 rpm, 1分間破砕処理を行った後,

13,748 X gで3分間遠心 し上清を採取した。沈殿が残る

遠心チューブに再度抽出パッファ ー0.7mlを加え,破砕処

理を 4,000rpm, 1分間行い, 13,748 X gで3分間遠心 し,

上清を採取した。再度この作業を繰り返し計3回分の上

清をまとめた。7.5M酢酸アンモニウム溶液を上清の 0.4倍

量加え,氷上に 5分間放置した。13,748X gで3分間遠心

し, 上清を採取し,エタノールを上清の 0.7倍量加えて,

-20 "cに 1時間放置した。13,748X gで 15分間遠心後,

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122 根DNA抽出法

根を採取し約5mmlこ切断

根をガラスビーズが入った

遠心チューブに移す

DNA抽出J心yフアーを 1ml加える

細胞破砕処理 工 B

(4,∞O巾 m,l分l 遠心 (13,748Xg, 3分

~ ,~n. DNA抽出J心yファーを上清 沈殿→

0.7ml加える

3回分の上清 (2回繰り返す |

7.5 M酢酸アンモニウム溶液を

よ清の0.4倍量加え、氷上に5分おく↓遠心(13,748X g, 3分,40

C)

エタノールを上清の0.7倍量加える

↓遠心(13,748Xg , 3分,40C)

沈殿に70%エタノールを加える

↓遠心 (1旦748X g , 3分 40C)

沈殿をTEバッファーに溶解

図 1 ビーズj去の作業フロー

沈殿に 70%エタノールを加えて 13,748X gで 10分間遠心

し沈殿を 300μlのTEバッファ ー (10 rnM Tris, 0.1 rnM

EDTA, pH 8.0 )で溶解した。

( 2)根の磨砕

多量の根による一次サンプル調整法として,根の磨砕を

行った。根を磨砕した液の一部をビーズ法に供試し磨砕

を行わない場合と抽出DNA量お よびDGGEパターンを比

較した。構内のガラス温室において,軽石培地を用いた養

液栽培でミデイ トマト 3品種‘シンディスイートルイ

40¥‘ルイ 60' をlヶ月間栽培した。また, ミディ トマ

ト ‘シンディスィート'を市販の園芸用培土 (クレハ園芸

培土)で2ヶ月間栽培した。また, トマト ‘桃太郎'をコ

ンテナでの湛液水耕栽培で液肥(大塚化学)を用いて 3ヶ

月間,ネギ 白浅黄系九条' を同様の栽培法で 1ヶ月間栽培

した。それぞれ根全量を採取した(新鮮重 2-10 g)。採

取 した根を滅菌水で、洗浄し はさみで長さ約 5mmに切断

した。切断した根は二分し 0.1gを直接ビーズ法に供試

し,残りの根全量を滅菌した乳棒と乳鉢で磨砕し 0.1g

を前述のビーズ法に供試した。

2)根からの DNA抽出法の比較

ビーズ法以外の根からの DNA抽出法として, CTAB法 3)

およびDNA抽出キッ ト15)を用いた。東京農工大学(東京

都府中市)のガラス温室において 軽石培地を用いた養液

栽培で, トマ ト ‘ハウス桃太郎'を約 5ヶ月 間栽培した(詳

細は前報 6)を参照)。 トマ ト3株の根をそれぞれ全量採取

した(新鮮重 70g)。採取した根を株ごとにI滅球菌水で

はさみでで、長さ約 5mmに切断してよく J混見ぜぜ、た。根0.1gをそ

れぞれの DNA抽出法に供試した。

( 3) ビーズ法

前述の方法を用いて,最終的に添加する TEバッフアー

を80μlとした。

(4) CTAB 法

根 0.1gにCTAB溶液 (10% (w/v) CTAB, 0.7 M塩化

ナト リウム, 0.24 Mリン酸カリウムバッファー (pH8.0 ))

5∞ μlおよび 1mgmr1プロテイナーゼK50μlを加えて,

37tに30分間静置した。その後, 75μlの23%ドデシル

硫酸ナ トリ ウム水溶液を加え, 65tに2時間静置した後,

6,110 X gで 10分間遠心 した。上清にフェノ ール/クロロ

ホルム/イソアミルアルコール (25 : 24 : 1 (v/v)) 625μl

を加えて, 6,110 X gで 10分間遠心 した。上清にクロロ

ホルム/イソアミルアルコール (24・1(v/v)) 625μlを加

えて, 18,713 X gで2分間遠心 した後,上清に 375μlのイ

ソプロパノールを加えて, 18,713 X gで10分間遠心 した。

沈殿に 70%エタノールを加えて 18,713X gで5分間遠心

し 沈 殿 を 80μlのTEパッフアーで溶解した。

(5) DNA抽出キ ット

市販の DNA抽出キッ トとして, FastDNA SPLN Kit for

Soil (Qbiogene) を用いた。添付のマニュアルにはキッ ト

専用の細胞破砕装置の利用を記しているが,ビーズ法で用

いる装置と機能は同じであるため,前述の装置を用いた。

破砕条件はビーズ法と閉じとした。また,最後に加える

DES (DNA Elution Solution)の量を 別 ulとした。

3)抽出 DNA量の定量および細菌の 16SrDNAの PCR-

DGGE解析

抽出した DNA各 10μlについて, 1.5%アガロースゲ

ルを用いて電気泳動を行った。i永動後のゲルをエチジウ

ムブロマイ ド溶液で染色し,紫外線照射下で写真を撮影し

た。ついで,抽出 DNA量を DNA定量キット (Fluorescent

DNA Quantitation Kit, BIO -RAD)を用いて,蛍光光度計 (F

25∞ ,目立ハイテクノロジーズ)で測定した。抽出 DNA

を鋳型として,真正細菌用プライマーセッ ト968f-GC,

140lr5)を用いて PCR増幅を行った。反応液は, Takara

の 10X Ex Taq Bu妊'er(Mg2+ free) 2.5μ1, MgCI2 (25 mM)

1.5μ1, dNTP Mixture (各 2.5rnM) 1μ1, TaKaRa Ex Taq (5

units/μJ) 0.1μlおよび各プライマー(20 pmoJ) 0.25μ1,抽

出DNA1μlを含む 25μ!として,94 tで2分間,(94 tで

1分間, 55tで 1分間, 72tで1分間) X 35サイクル,

72tで 10分間の PCR反応を行った。DGGEは, DCode

システム (BIO-RAD)のマニュアルに従った。得られた

PCR産物を,変性斉IJ (尿素とホルムアミド)の濃度勾配

が 50-ω%になるように作成した 6%ポリアクリルアミ

ドゲルで, 1 X TAEバッファー (40 rnM Tris, 20 rnM酢

酸, 1 rnM EDTA, pH 8.0 )を用いて, 60t, 50Vで 18

時間電気泳動した。泳動後のケソレを銀染色キッ ト (CLEAR

STAIN Ag,ニッポンジーン)または SYBRGreen 1 (Takara)

を用いて染色し写真を撮影した。

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須賀・堀・小森・福永・池田 ・豊田 123

3,結果と考察

1) ビーズ法に供試する根に関する検討

(1)根の量

根を直接または滅菌水を加えてホモジナイズした液をそ

れぞれビーズ法に供試したところ,どちらも DNAが抽出

された(図 2)。 抽出 DNA量は根を直接供試した場合で

は0.1gより 0.2gの方が,ホモジナイズした液を供試した

場合では, 0.8 mlよりも 1.2mlの方が多かった。また,抽

出バッファー濃度が抽出 DNA量におよぼす影響を検討す

るため, 2段階のバ ッファ ー濃度を試みたが,抽出 DNA

量に大きな変化は認められなかった。このことから, 抽

出DNA量は供試する根の量の影響が大きく,根の供試量

が多い方が増加することがわかった。DGGEパターンは,

ビーズ法に根を直接供試した場合およびホモジナイズした

液を用いた場合,また供試する根の量を変えた場合でも違

いは認められなかった(データ不掲載)。これらの結果か

ら,栽培期間 3ヶ月程度の太い トマトの根でも.約 5mm

の長さに切断した条件では,供試する根の量が0.1-0.2 g

と少量でも,十分細菌の 16SrDNAのPCR-DGGE解析に

用いることが可能であり また 根から抽出される DNA

の代表サンプルとすることが可能と考えられた。

( 2)根の磨砕

3品種のミデイトマトの根について,根の磨砕が抽出

DNA量およびDGGEパターンにおよぼす影響を検討した。

またミデイトマトの品種の違いが DGGEパターンにおよ

線新齢量 ホモジナイズ ONA抽出用

<.) 処理j夜 Jりファー

(ml) ,"", 温度

0.1 1.0 1X

2 0.2 1.0 1X

3 0.8 1X 0.05 0.8

4 0.8 2X

5 0.4 1X 0.08 1.2

6 0.4 2X

図2 ビーズ法に供試する根の新鮮重,ホモジナイズ処理液の量が抽出 DNA量におよぽす影響

200

副150浄ゆ場..

海w l凶 100凶

ミミ

重 50口

-磨砕なし ・磨砕あり

シンディスィート Jレイ40 I~ イ60

a ミディトマトの品種各プロット1:3連平均瞳<ot橿2巨額量)

ぼす影響を検討した。根の磨砕を行うと,磨砕を行わなかっ

た場合に比べて抽出 DNA量が約 2倍になった(図 3a)。

DGGEパターンは,根の磨砕やミデイトマトの品種にかか

わらず違いは認められなかった(データ不掲載)。この結

果から,磨砕によって増加した分の DNAは主に根に由来

すると推察された。また,ミデイトマトの品種の違いによっ

てDGGEパターンの違いが認められなかったのは,作物

種や生育ステージが同一なこと 微生物がほとんど存在し

ない未使用の軽石培地を用いた栽培を行ったため,培地中

の微生物群集構造が根の細菌群集構造におよぽす影響が小

さかったためと考えられた。

そこで,栽培条件が異なるミディトマト, トマト,ネギ

の根について同様の検討を行ったところ, DNA抽出量は

ミデイトマト, トマトよりもネギで、多かった。また,根の

磨砕を行うと,磨砕を行わなかった場合に比べて, ミデイ

トマト , トマトでは約 2-3倍,ネギでは約6倍になった

(図 3b)oDGGEパターンは作物の種類や栽培条件によっ

て違いが見られることが知られているが 11.12. 14) 本研究に

おいても,同様の結果が得られた(凶 4)。また,根の細

菌の 16SrDNAのDGGEパターンでは,根のクロロプラス

ト由来の濃いバンドが見られる ことが報告されているが

15 ) 図4の下流に見られる濃いバンドが根のクロロプラ

スト由来である可能性が示唆された。根の磨砕を行っても,

磨砕を行わなかった場合と比べて, ミディトマトおよび ト

マトでは DGGEパターンに違いはなかった。一方,ネギ

では,根の磨砕を行うと同じ泳動距離の DGGEバンドに

ついてバンド濃度が薄くなる またはほとんど確認できな

くなるバンドが複数見られた(図 4矢印)0PCR -DGGE法

による微生物群集構造解析の場合,特定の菌種の検出限界

は群集全体の優占度が0.1-1%程度とされ, f憂占度がこ

れ以下だとバンドとして検出されなくなることが知られて

いる 4)。また,根の磨砕によって抽出 DNA溶液中に多量

の根のクロロプラスト DNAが含まれると,相対的に量が

少ない細菌 DNAの 16SrDNAのPCR増幅が抑制されると

の報告がある 10)。 したがって,今回用いたネギのサンプ

ルでは,根を磨砕することで生じた非常に多量の根に由来

する DNAによ って抽出 DNA溶液中の細菌 DNAの優占度

が低下しその結果, DGGEゲ、ル上のバンド濃度が簿くなっ

800

700

酬 600論

E 5∞ tID 400

面 300〈

き 200

100

-磨砕なし ・磨砕あり

ミディトマト.

軽石

ミデイトマト

暗主

トマト

水耕

b 作物および栽I音条件"のずラフのシンディスイート

ネギ

ホ耕

図3 根の磨砕処理が抽出 DNA量におよぼす影響

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124 根DNA抽出法

たり。マイナーな DGGEバンドがほとんど確認できなく

なったと推察された。この結果から,ガラスビーズによる

細胞破砕の前に根を磨砕すると ,磨砕しない場合よりも抽

出DNA量は増加するが,増加分は主に根に由来する DNA

であり ,その増加量が非常に大きい場合は DGGEパター

ンに影響すると考えられた。

以上の結果から, ビーズ法には約 5mmに切断した根

を直接0.1g供試し得られた DNAを根から抽出される

DNAの代表サンプルとすることが適当と考えられた。

2) DNA抽出法の比較

干~カミらの DNA f由出 1:1ミとして, ビーズj去. CTAB 1士,

DNA抽出キッ トの3種類の手法を用いた。抽出 DNA量は

抽出法によって異なり ,ビーズ法が最も多く. DNA抽出

キッ ト.CTAB法の順に少なくなり,ビーズ法を用いた場

合 CTAB法を用いた場合に比べ約 7倍. DNA抽出キッ

トを用いた場合に比べ約 2倍になることがわかった(図

5 )。 ビーズ法ではガラスビーズが衝突することによって

細胞破砕を行うため,酵素処理で緩やかに細胞破砕を行

うCTAB法に比べて抽出 DNA量が多いが,一方で根に由

来する DNAも多く抽出されたと考えられた。また. DNA

f由出キ ットはビーズj去と同じくガラスビーズによる来日月包

破砕を行うが. DNA抽出キットは破砕処理が1固なの

に対してビーズ法では 3回行うため,抽出DNA量が多い

が,一方で根に由来する DNAも多く抽出されると考えら

れた。DGGEパターンは DNA抽出法にビーズ法および

DNA抽出キッ トを用いた場合ではほぼ同一だ、った(図 6)。

これら 2つに比べて CTAB法を用いた場合. DGGEゲル

上で同じ泳動距離の DGGEバンドの濃度が薄くなる場合

も見られたが(図 6矢印).DNA抽出法による DGGEパター

ンの違いは小さかった。

抽出に要する作業時間について,同時に 6サンプルの抽

出を行った場合を比較すると。 ビーズ法1時間半. DNA

抽出キット 1時間.CTAB法3時間半程度であった。なお,

ビーズ法において,細胞破砕処理を DNA抽出キ ットと 同

様の l固とした場合. DNA抽出キットと同程度の作業時

A必mwI

F

郁容 I ~

今磨砕

1 なしミディトマト(軽石)

あり

なしミディトマト(港土)

あり

5 なしトマト(水耕)

6 あり

7 なしネギ(水耕)

8 あり

図4 根の磨砕処理が細菌の 16SrDNAのDGGEパターンにおよぽす影響矢印は磨砕処理後に濃度が薄くなった、または確認できなくなった DGGEバンドを示す

聞となると思われる。試薬類の価格,作業時間,実験操作

および試薬作製の手間等を考慮すると ,細菌群集構造解

析のための植物根からの迅速かっ簡便な DNA抽出法とし

て, ビーズ法がCTAB1去や DNA抽出キッ トに比べて優れ

ていると判断された。

今回報告したビーズ法は. CTAB法よりも迅速かっ簡

便な方法であり ,また市販の DNA抽出キットよりも安価

である。 しかし,ビーズ法では激しい細胞破砕を行うため

に.CTAB法と比べて抽出された DNAが断片化 しやすく ,

PCR増幅においてキメラが生成する場合が知られている

7)。 今回用いた細菌群集解析のように増幅部位が約 400bp

と短い場合,ビーズ法による DNA断片化の影響は小さい

と考えられるが,増幅部位が長い場合には,ビーズ法の適

用性について再検討する必要がある。

50

嗣 40

謡I海~ 30

bO 、。::t 20

酬〈z 口 10

根A 根B 根C

図5 DNA抽出i去の違いが抽出 DNA量におよぽす影響根A.B.Cは同一条件で栽培したトマトの異なる株から採取した。各プロットは 3連平均値(:t標準誤差)。

2 3 4 5 6 789

A門

u

n

u

、IILl-J

、ltrij

、iB与IlJ

ドB

A

B

弘司

7

7

7

圭出法去出法去出法

nmmm

一MUM-MM

C

DピC

DピC

Dピ

41

ηζqd凋MY

07'nonwd

図 6 DNA抽出法の違いが細菌の 16SrDNAのDGGEパターンにおよぼす影響根A.B.Cは同一条件で栽培したトマトの異なる株から採取した。矢印はビーズj去に比べて CTAB法で濃度が薄くなった DGGEバンドを示す。

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須賀 -堀 -小森 ・福永 ・池田・豊田 125

謝辞

本研究は,先端技術を活用した農林水産研究高度化事

業 「環境負荷低減型高機能養液栽培システムの開発J(課

題番号:1765 )において実施したものである。 トマト根

試科の採取,調整に協力していただいた東京農工大学の

Yanetri Asi Nionさん,井川岳士さんに感謝いたし ます。

要旨

植物根から迅速・簡便かっ安価に DNAを抽出する手法

として,ガラスビーズで細胞破砕を行うビーズ法が適当

であるか,またビーズ法で抽出された DNAが細菌の 16S

rDNAの PCR-DGGE解析による細菌群集構造解析に供試

可能かどうかを1食言すした。 また ビーズ法と 他の DNA抽

出法について,抽出 DNA量や DGGEパターンの比較を

行った。その結果,約 5mmに切断した根を 0.1gビーズ

法に供試することで,根に生息する細菌の DNA抽出およ

びDGGEパターンを得ることは十分に可能であった。ビー

ズ法と CTAB法およびDNA抽出キットを用いて DNA抽

出を行ったところ,抽出 DNA量はビーズj去を用いた場合

が最も多く .DGGEパターンは DNA抽出法による大きな

違いは見られなかった。以上の結果から, ビーズ法が細菌

群集構造解析のための植物根からの迅速かつ簡便な DNA

抽出法として適していると考えられた。

引用文献

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