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2 科学技術コミュニケーション推進事業「ネットワーク形成型」平成26年度採択企画 科学リテラシーに資する複眼思考と知と感性のネットワーク終了報告書 平成29年4月30日 国立大学法人 大阪大学 CO デザインセンター

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科学技術コミュニケーション推進事業「ネットワーク形成型」平成26年度採択企画

「科学リテラシーに資する複眼思考と知と感性のネットワーク」

終了報告書

平成29年4月30日

国立大学法人 大阪大学 CO デザインセンター

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内容

1. 概要 .................................................................... 2

1-1.企画名称 ...................................................................... 2

1-2.提案機関 ...................................................................... 2

1-3.企画担当者 .................................................................... 2

1-4.企画の実施期間 ................................................................ 2

1-5.企画概要 ...................................................................... 2

1-6.企画の背景・経緯 .............................................................. 2

1-7.具体的な成果(企画提案時) .................................................... 5

1-8.目標 .......................................................................... 6

1-9.実施体制 ...................................................................... 9

2.企画の達成状況 ........................................................... 11

3.活動実績 ................................................................. 26

4.ネットワークの活用・構築の達成状況 ....................................... 33

5.成果及び波及効果 ......................................................... 34

6.自己評価 ................................................................. 36

7.外部評価 ................................................................. 40

8.成果の展開、発展させるビジョン ........................................... 43

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1. 概要

1-1.企画名称

科学リテラシーに資する複眼思考と知と感性のネットワーク

1-2.提案機関

国立大学法人 大阪大学 CO デザインセンター

1-3.企画担当者

提案機関業務主担当者:木ノ下 智恵子

提案機関業務副担当者:浅田 稔

1-4.企画の実施期間

平成26年8月1日~平成29年3月31日

1-5.企画概要

東日本大震災および原発事故をめぐる諸課題により、科学技術に係わる専門家、もしくは科学的営

みへの不信がクローズアップされている。その信頼を取り戻し、社会生活に関わる科学技術問題の解

決には、異なる意見や関心を持つ多様な人同士が対話し、その結果が共有される「場」の定着が不可

欠である。本提案では、科学技術に止まらず、哲学・アート・医療や看護等の多分野における「対話

の場」として大学と企業と NPO が運営するコミュニティースペース「アートエリア B1」や、独自の

地域性を持つ中之島の各所と連携し、社会的課題に関するテーマ群に基づく企画により、科学技術リ

テラシーに資する複眼思考と知と感性のネットワークを構築する。

【アートエリア B1の既存枠の活用と新規取組としてのネットワーク事業】

社会的課題の解決のための個別活動からネットワーク構築へ

(企画委員会の設置、ラウンドテーブルの実施)

アート(芸術文化)中心からサイエンス(科学技術)の焦点化

(社会的課題に関する既存プログラムの活用)

コミュニケーションからイノベーションへ

(異業種カフェ・イノベーションミーティングの実施)

1-6.企画の背景・経緯

社会的背景(1)科学技術への信頼回復と双方向型科学技術コミュニケーション

(科学技術に関する正負の情報への接触、異なる興味や立場の人々との出会いと対話の場づくり)

私たちの身の回りには、科学技術によって産み出された製品やサービスが溢れ、今や、科学技術

は私たちの生活や将来になくてはならないものである。一方で、東日本大震災やその後の様々な社

会的混乱により、科学技術の「負」の側面がクローズアップされている。科学技術への信頼を取り

戻すためには、いわゆる「欠如モデル型」のコミュニケーション手法ではなく、科学技術に関する

様々な情報の正負の両面に同時に触れ、それに対する素朴な疑問を呈し、異なる意見や関心を持つ

人同士で対話する機会、すなわち「双方向型」の科学技術コミュニケーションの定着が不可欠であ

る。言い換えるならば、社会生活に深くかかわる科学技術問題の解決のためには、専門的知識をも

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つ者も含む多様な人々が、当事者として話し合い、複眼的視野で物事を捉え、協働することが不可

欠である。そしてこれらの活動は従来展開されてきたような、「科学技術」に興味がある人に限定

された活動ではなく、広く開かれたものとなるべきである。

社会的背景(2)新しいタイプのアウトリーチ活動および産学連携の必要性

(大学の社会貢献・広報アウトリーチ活動、新しいタイプの産学連携の重要性)

政府の第 3期科学技術基本計画で明記されたアウトリーチ活動推進の方針を踏まえて、第 4期科

学技術基本計画でも「国民の科学技術に対する理解と信頼と支持を得ることが出来るよう、科学技

術コミュニケーション活動等を推進していく必要がある。」とされている。加えて、既存分野・組織

の壁を取り払い、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現するための

「革新的イノベーション創出プログラム(COI)」も始動している。実際、企業における産学連携に

おいては、これまでは特許獲得を目指した独創的な技術開発、企業戦略やマーケティングの推進な

ど企業の生産活動に直結するものが求められてきたが、近年では「ものづくり以前」に不可欠な、

アイデアの創発に繋がる社会のニーズやシーズ、コンセプトに関する、多様な対話を通じた研究開

発が求められようになってきている。

企画の経緯(1)

ポテンシャルを活用した都市再生やイノベーションのためのネットワーキングの必要性

本企画の実施拠点である「アートエリアB1」は、大阪の動脈「御堂筋」を横断し、堂島川と土佐

堀川に囲まれた、東西3kmほどの人工的中州「中之島」に位置する。中之島には、大阪市役所や大坂

商人が設立した学問所である「懐徳堂」や福沢諭吉などを輩出した蘭学者/緒方洪庵の適塾の流れ

を汲む大学のサテライトキャンパス、図書館、美術館、科学館、公会堂、国際会議場などの文化施

設、朝日新聞社や朝日放送などのメディアなどがある。また周辺には、世界初とされる公設先物取

引市場に源流をもつ大阪証券取引所や日本郵政グループのある「北浜」、製薬・薬品の本社などが

ある医薬品の町「道修町」、大阪地方裁判所や法務局、警察署がある「西天満」など、社会を構成

する多様な機関・組織が集積している。

中之島エリア(東西約3.3kmの人口の中州)

※参考画像・引用=「Nakanoshima-Style.com」http://www.nakanoshima-style.com/topic/city/

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中之島のこうした地域性は、民間の活力を中心とした「特定都市再生緊急整備地域」(都市の国

際競争力の強化を図る上で特に有効な地域)として政令でも明示されている。そこで大阪府市で

は、官民連携の下、緑豊かで良好な都市空間の形成や積極的な市街地の整備を通じて、今後は海外

からの企業・人材の受け皿として、さらなる都市拠点化を推し進め、国全体の成長を牽引する都

市・大阪の中核として、中之島をより一層強力な国際競争力を有する地域にしていくことを目指し

ている。

※大阪市http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/toshikeikaku/0000153393.htmlより

こうした流れに加え、平成20年の京阪中之島新線が着工されることを契機に、中之島の再開発が

促進され、中之島を地域としてまとめていく仕組みが必要になり、企業等30社で構成される「中之島

まちみらい協議会」が設置されている。(http://www.nakanoshima-style.com/topic/city/)

中之島の都市機能ゾーニング

※参考情報・引用=http://www.nakanoshima-style.com/topic/2006/05/post-101.html

企画の経緯(2)

社学連携事業「アートエリアB1」の持続可能なモデルの推進の必要性

(恊働実践の継続、オープンイノベーションの公共・公益性の拡張、知と感性のネットワーク形成)

中之島地域における社学連携事業(学術、文化及び教育を通じた本学と市民・社会との連携)と

して「アートエリアB1」がある。この事業は、企業/大学/NPO(京阪電車/大阪大学/ダンスボ

ックス)が、中之島地域を結ぶ鉄道である京阪電車中之島線の開発事業に伴い、なにわ橋駅の地下

1階コンコースを都心のコミュニティースペースとして活用すべく、駅建設中の2006年から、通

算、3年間の社会実験を経て、“コミュニケーション空間としての駅の可能性”を示唆し、持続可

能なコラボレーションモデルを模索する社学連携事業として多様な事業を展開している。

本拠においては、大阪大学が主体的に実施している対話プログラム「ラボカフェ」が、【国民との

科学・技術対話(アウトリーチ)の義務】に対応する学外のアウトリーチ活動拠点の一つとして定着

しているとともに、三者恊働による年二回の企画展(「鉄道芸術祭」「サーチプロジェクト」)等を通

じて、【文化庁長官賞】受賞や各種マスコミで取り上げられる機会が多く、高い社会的評価を得てい

る。

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工事現場での社会実験の様子と中之島線開通後のなにわ橋駅地下コンコース「アートエリア B1」

本拠は、多世代・多層的な人々が出会い対話し、新たな価値創造に繋がる知と感性の拠点とし

て定着しつつある。しかしながら、本拠における科学技術コミュニケーションの推進は、一部の

公的資金の配分を受けた大型プロジェクトによるアウトリーチ活動に限られており、この場の可

能性を十分に活用しているとは言い難い。また、様々な企業が集中する中之島地域においては、

オープンイノベーションの潜在的な可能性が多分に含まれており、そうした活用も未着手であ

る。そこで本拠の課題としては、三者運営の拠点という枠組みを越えた、中之島や関西エリアに

おける、人文科学や社会科学の視点を取り入れた領域横断による科学技術イノベーションに繋が

る【知と感性のネットワーク拠点】としての可能性を高め、より社会に開かれた公共・公益性を

拡張する機会の創出が不可欠となっている。

1-7.具体的な成果(企画提案時)

成果1 科学リテラシーに資する知のネットワークの構築

本企画では、科学技術のみならず、哲学・アート・臨床医療や看護・こども等の多分野におけ

る「対話の機会」を、複数の場所・多様な手法・多岐にわたる恊働者と提供する。これにより、

いわゆる「欠如モデル型」の科学技術コミュニケーション手法の解決へと繋がり、「科学技術」

に興味がある人だけではなく、複数の分野に興味がある人々は元より、科学に関する専門的知識

をもつ者も含む多様な人々が、当事者として対話するための場づくりが実現する。社会生活に深

くかかわる科学技術問題の解決には、多様な人々が集い、対話する場を通じて、個々人が複眼的

視野で物事を捉え、市民主体型のアジェンダ案の構築の機会が不可欠である事を広く社会に推進

するための「知のネットワークの構築」が成果となる。

成果2 アウトリーチ活動の多様なモデルの提唱・新しいタイプの産学連携の試行

本企画では、大阪大学を中心としたアカデミックリソースを社会還元する企画を様々なカタチ

で提案する。これにより、最先端研究の社会的影響や効果を市民との対話等を通じて検証し、研

究活動へのフィードバックを推進するための、アウトリーチ活動の多様な企画モデルを実現す

る。また、先駆的実験性の高い活動を大学が牽引し、固有の課題を有する中之島地域の各種機関

との恊働による企画の実践を通じて、対話や文化的事業によるイノベーションという新しいタイ

プの産学連携を試行する。これらの成果は、学術・芸術の社会的価値に関する数々の企画実践そ

のものが、都市再生や社会構造に深く寄与することの実証となると考える。

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成果3 HUB 機能の基盤整備・コミュニティーとメディアとしての場の生成

本企画では、主旨目的を先行して実践している、大学と企業と NPO の社学連携によるコミュニ

ティースペース「アートエリア B1」を、多様な機関とのネットワーク構築に不可欠な基盤の拠

点として位置づける。これにより、ゼロベースでは困難なネットワークの HUB 機関の設置という

課題が解決され、より十全なプロジェクト・マネジメントが実現するとともに、本拠の運営課題

である三者の枠組みを越えたネットワークが形成される。この2つの側面の HUB 機能の基盤整備

という課題解決の実現を通じて、3年間におよぶ、本企画の主体者(機関・組織・団体・個人・

場所等)の持続的かつ長期的な関わり方が可能となる。よって成果としては、本企画(活動)の

社会的価値を将来的に提唱し続ける【独自のコミュニティーとメディアとしての場】の生成と保

持とする。

1-8.目標

1-8-1.長期目標

科学技術への信頼を取り戻すためには、科学技術に関する様々な情報の正負の両面に同時に触

れ、それに対する素朴な疑問を呈し、異なる意見や関心を持つ人や、多様な人同士で対話する機

会、すなわち「双方向型」の科学技術コミュニケーションの定着が不可欠である。課題を解決す

るために、多分野の専門家や協力機関との連携をはかり、科学技術リテラシーに資する複眼思

考・視野を養うべく設定したテーマ群に関するプログラムの企画実施をおこなう。この活動を通

じて大学のアカデミックリソース、企業等のイノベーション力、NPOの市民力、芸術文化施設等

の先駆的感性の超域力を複合的に組み合わせた新たなネットワークを構築する。本活動の拠点と

しては、大阪中之島地域における大阪大学の社学連携事業拠点「アートエリアB1」を活用し、中

之島や関西における、人文科学や社会科学の視点を取り入れた領域横断による科学技術イノベー

ションに繋がる【知と感性のネットワーク】を構築し、より公共・公益性の高い持続可能な事業

モデルの推進を目指す。

(課題)

科学技術への信頼回復と双方向型科学技術コミュニケーション

社会的課題の解決や科学技術リテラシーに資する多様な対話の「場」の定着(解決方法)

「アートエリアB1」を発展的に活用した「対話の場」の創出

科学技術や社会的課題を多分野の横軸に広げた多元的なコミュニケーションの機会の創出

分野や組織を横断する複合的な組合せとネットワークの構築

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目標1 科学リテラシーに資する知のネットワーク構築

科学技術のみならず、哲学・アート・臨床医療や看護・こども等の多分野との複合的な活動を展開

することにより、社会生活に深くかかわる科学技術の問題、すなわち、科学技術に関する正負の情報

への接触、異なる興味や立場の人々が集い、話し合う「対話の場」の定着と、科学リテラシーに資す

る複眼思考の熟成に繋がる、中之島地域のポテンシャルを活かした知のネットワークの構築とする。

・複眼的思考に資する多分野における「対話の機会」の創出(ラボカフェ)

・複数の場所・多様な手法・多岐にわたる恊働者とのプログラム提供(博物館、科学館での WS)

目標2 先駆的実験性の社会的価値の明示・共有に関する仕組みづくりの試行

-新しいタイプの産学連携-

知のネットワークの構築を目標とした諸活動では、【営利≒短期利益追求】を根幹とする経済・産

業界の規範や組織風土と、それらを構成する個人の価値観を正統的に再構築することが不可欠であ

る。そのためには、先駆的実験性の高い試みを牽引し、なおかつ、公共・公益性の高い国立大学が、

【非営利≒長期価値追求】を前提とする、パブリック・リレーションズの理念と社会的価値を、主導

的に掲げる必要がある。そして理念の実現には、企画を実施する組織内における説明根拠の明示・賛

同が前提となるため、目標は先駆的実験性の社会的価値の明示と共有のための仕組みづくりの試行

とする。

・最先端研究のアウトリーチ活動の多様な企画モデルを実現(知デリ)

・人文・社会科学の知見を取入れた新しいタイプの産学連携イノベーション(異業種カフェ)

目標3 企画(活動)の継続を指向する HUB 機能の基盤整備

科学技術を基軸とした知のネットワークの社会的価値を追求する本企画では、3年間の企画を通

じて、企画の主体者(機関・組織・団体・個人・場所等)の持続的かつ長期的な関わり方を可能にす

る、人・モノ/場・コトを総合的に兼ね備えた拠点の整備が必要である。そこで、本提案の先行実践

とする「アートエリア B1」を、本企画の継続に資する HUB 機能の基盤整備となることを目標とする。

・継続的なネットワーク事業の HUB となる基盤(「アートエリア B1」)の整備と運営の継続

・個人や団体が持続・長期的に関わる事が可能な場の生成

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1-8-2.年度目標

(1)平成 26 年度年度目標

既存企画枠を活用した科学リテラシーに資する複眼的な科学技術コミュニケーションの機会の創出

新規企画(ネットワーク構築整備)と多様な手法・恊働者とのプログラム提供

1)既存の企画枠を活用した科学リテラシーに資する社会的課題の検証

社会的課題に関する既存企画枠(対話プログラム「ラボカフェ」、公開研究会「知デリ」)の実施。

2)課題解決に資するネットワーク構築に資する新規企画の体制構築

新規企画のための企画委員会の設置とプログラムの実施。

3)新規企画(ラウンドテーブル・企画展等)による本企画の主旨目的の周知と実施体制の強化

新規企画:ラウンドテーブル(異業種カフェ)、アート&サイエンス企画展の実施。

(2)平成 27 年度年度目標

既存の企画枠を活用した科学リテラシーに資する複眼・多元的な科学技術コミュニケーションの機

会の創出

社会的課題解決に資する新規企画(ネットワーク構築の整備)と、多様な場所手法・恊働者とのプ

ログラム提供

1)既存の企画枠を活用した科学リテラシーに資する社会的課題の検証 社会的課題のテーマ群に関する既存企画枠(対話プログラム「ラボカフェ」、公開研究会 「知デリ」の実施。 2)課題解決に資するネットワーク構築に資する新規企画の体制構築 新規企画(ラウンドテーブル、イノベーションミーティング)のための企画委員会の設置と プログラムの実施。 3)シンボル事業=新規企画(ラウンドテーブル・企画展等)による本企画の主旨・目的の周知と 実施体制の強化

(3)平成 28 年度年度目標

科学技術コミュニケーション活動の定着や課題解決のためのネットワーク事業の継続に向けた計

画策定

ネットワーク事業の継続に繋がる HUB 基盤の整備

活動主体との多義的なシンクタンク機能の構築に向けた仕組みづくり

1)シンボル事業(ラウンドテーブル・企画展等)による本企画の主旨・目的の周知と

ネットワークの強化

2)社会的課題に資する実践知の洗い出しと効果検証

3)多分野との融合による科学技術イノベーションに関する企画検討と実践

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1-9.実施体制

※2016 年 7 月 1 日よりコミュニケーションデザイン・センター(CSCD)から CO デザインセンターへ改組。

■取り組み状況および主な担当者等

運営委員会

松繁寿和 大阪大学 CO デザインセンター センター長 浅田稔 大阪大学大学院工学研究科 教授 木ノ下智恵子 大阪大学 CO デザインセンター 特任准教授 内田みや子 大阪大学 CO デザインセンター 特任研究員

永田靖 大阪大学大学院文学研究科 大阪大学 21 世紀懐徳堂(学主)

教授/総長参与

江藤知 京阪ホールディングス株式会社経営統括室 事業推

進担当アートエリア B1 運営委員会 部長 委員長

武藤成生 NPO ダ・ヴィンチ ミュージアムネットワーク 副理事長

岸田文夫 中之島まちみらい協議会 代表幹事

黒川賢一 中之島まちみらい協議会 事務局

田中智彦 中之島まちみらい協議会 事務局

川口万喜 一般社団法人アートエリア B1 事務局

山口高生 大阪大学全学教育推進機構等事務部 専門職員(事務)

木村誠 大阪大学全学教育推進機構等事務部 専門職員(経理)

中塚裕二 大阪大学全学教育推進機構等事務部 嘱託職員

企画会議(ラボカフェほか)

木ノ下智恵子 大阪大学 CO デザインセンター 特任准教授

内田 みや子 大阪大学 CO デザインセンター 特任研究員

肥後楽 大阪大学21世紀懐徳堂 特任研究員

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企画委員会(異業種カフェ)

木ノ下智恵子 大阪大学 CO デザインセンター 特任准教授 松原眞由美 オフィスイン 代表 黒川賢一 中之島まちみらい協議会 事務局 田中智彦 中之島まちみらい協議会 事務局

中之島ラウンドテーブル・企画委員会

…企画実施(中之島ラウンドテーブルに関するテーマ抽出など企画立案、関係各所との連絡調整)

木ノ下智恵子 大阪大学 CO デザインセンター 特任准教授 木村純夫 京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当 山盛英司 朝日新聞社 デジタル本部 本部長 淺尾武史 朝日放送 総務局オープンアップ推進部 部長 田村正志 朝日放送 総務局オープンアップ推進部 マネージャー 中井康之 国立国際美術館 学芸課長

アートエリア B1運営委員会…企画の実施拠点/HUB 機能(運営サポート、広報サポート)

三成賢次 大阪大学 理事・副学長

小川哲生 大阪大学 理事・副学長

永田靖 大阪大学大学院文学研究科 大阪大学 21 世紀懐徳堂(学主)

教授/総長参与

木ノ下智恵子 大阪大学 CO デザインセンター 特任准教授

久保田徹 大阪音楽大学 准教授

木村純夫 京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当

江藤知 京阪ホールディングス株式会社

経営統括室 事業推進担当

部長/アートエリア B1 運営委員会委員長

岡田洋 京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当

島岡弘賢 京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当

川上卓男 京阪ホールディングス株式会社 経営統括室 事業推進担当

大谷燠 NPO 法人ダンスボックス 理事長 兼エグゼクティブ

ディレクター

塚原悠也 NPO 法人ダンスボックス ディレクター

西村文 NPO 法人ダンスボックス ディレクター

岩本順平 NPO 法人ダンスボックス 事務局

川口万喜 一般社団法人アートエリア B1 事務局

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2.企画の達成状況

目標1)科学リテラシーに資する知のネットワーク構築

【科学リテラシーに資する複眼的思考のための多分野の対話機会の創出】—ラボカフェ等

1-1. 知と感性のネットワークのHUB「アートエリアB1」の利活用

社会生活に深くかかわる科学技術問題の解決のためには、専門的知識をもつ者も含む多様な人々が、当

事者として話し合い、複眼的視野で物事を捉え、協働することが不可欠である。この着眼点は、本企画

の連携機関である各担当者への現状認識に関する事前ヒアリングによっても【複眼思考の必要性、およ

び、分野や組織を横断する対話の機会が希少である】ということが明らかになった。よって 本企画では

「多分野における対話の機会」を、複数の場所・多様な手法・多岐にわたる恊働者とともに提供してい

る。また、「科学リテラシーに資する複眼思考と知と感性のネットワーク」を構築するためには、各所を

つなぐHUB機能が不可欠であると考え、大阪大学が社学連携事業として企業とNPOと共同運営する大阪・

中之島のなにわ橋駅コンコースのコミュニティースペース「アートエリアB1」を拠点とし、既存の企画

枠をベースに企画を展開した。これは本拠に事務局機能の一部を置くことによって、本支援事業を推進

する上で不可欠な各種マネージメントをゼロから立ち上げることなく、人的リソースや運用システムを

有効活用できるとともに、場所性ではなく活動を持続するための組織的な意味での公共性の担保を重視

するという考えに基づいている。また、このことにより支援終了後も本企画の成果を発展させた展開や

ネットワーク構築を強化するビジョンの実現に不可欠な地盤固めになると考える。

1-2. 複眼的思考のための多分野の対話の場1:「ラボカフェ〜アートからサイエンスへ」

主な実施企画内容の一つはアートエリアB1で実践している「ラボカフェ」がある。本プログラムは、平

日夜を中心に年間を通じて、哲学、アート、サイエンス、減災、医療等、多岐に渡るテーマについて、

組織や世代はもとより専門知識を持つ持たないに関わらず、主題に応じた対話を繰り広げている。この

既存の枠組みを活用しながらも、テーマの中核を【アートからサイエンスへ】移行し、科学技術や医療・

福祉・まちづくりなどといった、より社会的課題に関するテーマを重視しプログラムを実施した。駅の

コンコースという公共空間における多様な対話の場は全国的にも貴重であり、なおかつサイエンス・カ

フェに留まらず取り扱うテーマが多分野に渡るため、趣味趣向や属性の異なるオーディエンスが気軽に

サイエンスの主題に触れ、その逆も可能となり、より複眼的思考を高める機会となっている。

※画像左)医学研究の最前線「ヴァーチャルリアリティと医療技術のいま(2015.2.18)

※画像右)日英ロボットシンポジウム「ロボットコンパニオンと未来社会」(2015.11.13)

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1-3. 複眼的思考のための多分野の対話の場2:社会的課題に関する企画展

サーチプロジェクト vol.5「ニューコロニーアイランド 2~災害にまつわる所作と対話~」

科学技術リテラシーや社会的課題に関する考察や解決の糸口を見出すためには、講座・対話プログ

ラム等の直接的手法も有効であるが、複眼思考の醸成にはヴィジュアル・シンキング・ストラテジー

(VTS)が有効であるとともに、アート(展覧会)や哲学カフェや演劇やダンス等の複合分野と融合し

た手法を用いることで、科学技術や学術的テーマには関心が希薄な参加者へのアプローチが可能とな

る。そこでアートエリア B1の企画展「サーチプロジェクト」と連動し、社会的課題に関するテーマに

関するビジュアルコミュニケーションの機会を創出している。26、27、28 年度の三年間、「ニューコロ

ニーアイランド」というタイトルのもとで、段階的にテーマを展開させて企画展を実施した。

「ニューコロニーアイランド 2~災害にまつわる所作と対話~」(2016.3/11〜6/26) 2016 年(28 年度)は東日本大震災発生から5年目を迎えた。そこで「災害にまつわる所作と対話」

をテーマに企画を立案。本展では、地震・津波・台風などの自然災害、および、放射能汚染などに関

する科学的根拠を示すデータや情報だけではなく、人間の見地からは災害(負の状況)として捉えら

れる自然災害が、別の見方をすれば地殻変動という地球の営みである、という事実も考慮している。

企画展アドバイザーには惑星地質学/鉱物学研究者と災害文化/民俗学研究者を迎え、地震や台風、津

波、火山噴火など、自然の猛威に晒されながらも、一方でその恩恵に感謝し生きてきた先人たちの知

恵や記憶の伝承といった「災害文化」や、惑星や地球規模で捉えた場合の最先端研究を射程に、企画

の骨子を組んだ。展覧会では、アートエリア B1を一軒の家に見立てて展示環境を構成し、現代美術

家、写真家、漫画家などの表現作品はもとより、NPO やまちづくり協議会や行政等の資料・データな

ど、過去の災害に関する事物を様々なメディアに変換して日常生活の空間に配置した。具体的には、

“家”という日常空間において、過去は室戸台風、海外ではスマトラ沖地震、阪神淡路大震災、東日

本大震災などに関連した様々な資料や作品を、部屋の壁紙やリビングの本棚、食卓のテーブルクロ

ス、クッションのファブリックなどに変換し、災害にまつわる対話や所作を日常的に感じ考える機会

創出を意図している。

■企画展アドバイザー:佐伯和人(惑星地質学/鉱物学研究者/大阪大学大学院 理学研究科 准教授)

川島 秀一(民俗学者、東北大学災害科学国際研究所 教授)

■参加者と団体 ①畠山直哉 ②⑧⑩しりあがり寿 ③米田知子 ④加藤翼 ⑤京阪電車 ⑥ジョルジュ・ルース(Ufer!

Art Documentary、⑦「大阪府風水害誌」⑨contact Gonzo ⑪⑫⑬小山田徹 ⑭高嶺格 ⑮⑯⑰せんだいメディアテ

ーク ⑱㉔ホンマタカシ ⑲中之島まちみらい協議会 ⑳㉑㉒対話工房 ㉓川島秀一 ㉕佐伯和人 ㉖志賀理江子

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※画像上段左)駐車場(映像:畠山直哉《陸前高田》2011-2015)

※画像上段右)子ども室(壁紙:しりあがり寿《海辺の村》原画出力、クッションカバー:《放射能可視化》出力他)

※画像下段左)居間(TV 映像:高嶺格《ジャパン・シンドローム》、対話工房「女川カレンダー 対話新聞」等)

※画像下段右)食事室(テーブルクロス:せんだいメディアテーク「3月 12 日はじまりのごはん」2014-2015 他)

会期は 3/11 のスタートから約 100 日間に設定し、期間中には、惑星学や災害文化などの研究者、

アーティストや公共施設など、本企画展の出展者をゲスト講師に迎え、様々な主題に関する対話プロ

グラムや、災害碑をめぐるワークショップなどを開催した。具体的なテーマとしては、「地球と人の営

みから見えてくる災害」、「今日、なにをどうやって食べますか?」、「中之島から防災・減災を考える、そ

の1」、「記録と想起/災害とアーカイブ」、「災害ボランティアのいま」、「私たちの暮らしと科

学技術」 、「海の文化と気象判断の知恵について」、「大阪の活断層を巡るツアー」、「街の災害碑

を巡るツアー」などの17本の対話プログラムやワークショップを開催し、一般参加者と専門家など

が一つの場に集い、様々な主題に関する対話をくりひろげることができた。

なお本展開催中には熊本地震が発生したことにより、現場状況を知る災害ボランティアの最前線に

関するプログラムの実施や、各種メディアによる取材や媒体掲載が行われた。これらを元にして、さ

らに対話を深める機会となった。本展は、被災者や地域の傷を癒やすだけではなく、災害被害の当事

者・ 非当事者という心理的・物理的な距離感を超えて、様々な人々が出来事を語る場を生み出し、一

定の価値をもった作品として国内外に広がり、報道とは異なる回路で人々が出来事に向き合うことを

可能にする、という事実を示したと考える。

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※画像上段左)アドバイザーによる対談「地球と人の営みから見えてくる災害」

※画像上段右)街の災害碑を巡るツアー(「大地震両川口津波記」)

※画像下段左)大阪の活断層を巡るツアー(清水寺の「玉出の滝」)

※画像下段右)対話ワークショップ「今日、なにをどうやって食べますか?」

目標2-1)先駆的実験性の社会的価値の明示・共有に関する仕組みづくりの試行

【最先端研究のアウトリーチ活動の多様な企画モデルの実現】

2-1-1. 新しいタイプのアウトリーチ1:異色の専門家同士の対話と交感「知デリ」

アカデミックリソースを社会還元する新しいタイプのアウトリーチとしては、大阪大学を中心とし

た2つの企画を実施している。

一つ目は、大学と社会が連携して、アートや科学技術、文学など、様々な領域で活躍する専門家を

迎えて表現や技術について話し合う(公開研究会)『アート&テクノロジー知術研究プロジェクト「知

デリ」』である。このプログラムは、異なる専門領域における共有事項である「知術」(知識と技術)

を横断・交換し、新しい発想の創出やアイデアの実現につなげることを目指して実施するものであ

る。【研究者とアーティスト(デザイナー)】や【科学技術などの理系研究者と文学や民俗学などの文

系研究者】といったように、全く異なる背景と独自の感性や知性を持つプロフェッショナル同士の組

み合わせを重視するとともに、開催場所についても熟慮している。科学館やセミナー会場のように日

常的にサイエンス・カフェなどのアウトリーチ活動が行われ、参加対象者が想定範囲にある場所では

なく、普段は科学技術や学術研究に関する発表や討議の場所として利用されてはいないが、知的好奇

心を満たすための場のポテンシャルが高い場所、あるいは(科学技術には無関心な)多くの人々が行

き交うとともに予め想定される動員力と観客層を持ち独自の告知ルートを有するという点で、広報価

値の高い場所(阪急百貨店・TSUTAYA書店など)を選定している。加えて本企画では、学生スタッフに

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よる企画・運営も導入しており、科学技術に関するアウトリーチ活動の担い手(異領域のコミュニケ

ーションデザイン)の人材育成の場としても機能させている。こうした専門性の異なる【人×人】と

文脈の異なる【場所×人】の組合せ(キュレーション)によって、研究者も単なる情報提供に留まら

ず異なる専門性の知見や感性を交換したり、市民との直接的な対話を通じて最先端研究の社会的影響

や効果を検証することが可能になっている。

※画像左)「機械仕掛けにもほどがある?」(2014.11.25 阪急うめだ本店•祝祭広場/土佐信道(アーティスト・明和

電機代表取締役社長)、浅田稔(ロボット研究者・大阪大学大学院工学研究科教授)

※画像右)「シマシマリズム秩序の裏側 でたらめのほんと」(2015.10.3梅田蔦屋) 三輪眞弘(作曲家 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授)、近藤滋(生物学者 大阪大学大学院生命機能研究科教授)

2-1-2. 新しいタイプのアウトリーチ2:アート&サイエンスを主題にした企画展

サーチプロジェクト vol.4、vol.6「ニュー“コロニー/アイランド”1、3」

新しいタイプのアウトリーチ企画の二つ目は、最先端研究に関する情報やテーマなどをアートやデ

ザインの観点から捉え直して周知するとともに、「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」

を育む【ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー(VTS)】の機会として、アートエリア B1「サーチ

プロジェクト」と連携した展覧会を開催した。【VTS】とは、美術作品の対話型鑑賞教育として用いら

れるカリキュラムであるが、文字情報を一方的にインプットするのではなく、ビジュアル情報から独

自の観察・批判的思考力を育むために有効な手段として、昨今ではサイエンス・コミュニケーション

にも用いられる事例がある。そこで「サーチプロジェクト」では、アートエリア B1初となるアート&

サイエンスを主題にした三年間のシリーズ企画展「ニュー“コロニー/アイランド 1,2,3」を展開し

た。

サーチプロジェクトvol.4,5,6・ニュー“コロニー/アイランド” 1,2,3:キーワード

① 2015 年度 島(中之島)、都市、粘菌の知、生物模倣工学コロニー(共同体、集落)、

② 2016 年度 地球、日本列島、地球の営みとしての災害、災害文化、所作と対話

③ 2017 年度 人間、身体、身体拡張・変化、自我、自意識、願望、乖離、違和感、能力、欲望、欲求

「ニュー“コロニー/アイランド”1~“島”のアート&サイエンスとその気配」(2015.3/28〜6/28)

企画立案には、アートエリア B1委員を軸に、学術研究者、建築家、メディア・アーティストといっ

た分野融合型のプロジェクトチームを結成した。企画展のテーマには、知と感性のネットワーク“と

いう抽象度の高いイメージを視覚的に具現化することと、1615 年の開拓から 400 年を迎える人工島で

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ある中之島の存在そのものに着目し、「ニュー”コロニー/アイランド”島”のアート&サイエンスと

その気配」と冠した。具体的なキーワードやモチーフには、”島やコロニーの実験・創造性”と”粘

菌の知と工学的ネットワーク”と設定し、企画展と講座やワークショップ等の多彩なプログラムを開

催した。”島やコロニーの実験・創造性”とは、本提案事業のネットワークのエリアである中之島は

元より、島という文化の特異性とともに独立した構造を活かした実験場を意味している。”粘菌の知

と工学的ネットワーク”は、菌類の生体が、生物模倣工学、都市・情報工学、地理学などの学術分野

を横断し、なおかつ研究者や表現者の核=メディアとなっている様々な事例や事象に着目して企画展

を展開した。

プロジェクトメンバー

上田昌宏(大阪大学理学研究科教授)、中垣俊之(北海道大学電子科学研究所教授)

dot architects(建築家)、yang02(アーティスト)、稲福孝信(アーティスト、プログラマー

※画像左)上田研究室での会議 画像右)会場風景(画面中央=仮設空間の中之島1/150模型粘菌培地

また本展は、【1/150 中之島の特性模型=粘菌培地、特殊ミスト、スマートフォンと GPS データ、CG

プロジェクション、3Dプリンター、椎茸栽培、粘菌観察スケッチ、科学映画や資料等々】の多種多様

なアイデア・手法・技術が盛り込まれており、「デザインとアートと科学技術の融合」というテーマに

おいても、全く新しいタイプの提案となった。加えて会期中には、中之島の建物などをスマートフォ

ンでスケッチした画像データを 3Dプリンター出力して都市を形成していくワークショップや、人工知

能、科学映画等に関する講座や対話企画を実施し、その結果、企画展の来場者やワークショップなど

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の一般参加者は元より、プロジェクトメンバーやゲスト講師からも、異なる専門性に触れる機会やバ

イオアートの先駆的事例としての評価が高く、研究や創造活動のイノベーションを誘発する試行的役

割を担ったと考える。事実、ゲスト講師同士が共同研究を発足し、科研費に申請・採択されたという

事後展開があった。これは、本企画がアウトリーチの新様態として機能したことを示すと同時に、異

なる専門知によるイノベーションの機会創出を可能にした、と言っても過言ではない。

※画像上段左)ワークショップ「ニュースケッチング〜スマホと 3D プリンタで採集する中之島〜」

※画像上段右)ワークショップで製作したアートエリア B1入口建物と 1/150 の中之島台地に成育する粘菌

※画像下段左)アーティストと研究者の対談「生物と工学と藝術〜ハイブリッドの創造性」

※画像下段右)レクチャー&対談「人工知能と知性、そのみなもと」

サーチプロジェクトvol.6「ニュー“コロニー/アイランド” 3 ~わたしのかなたへ~」(2017. 3/28~)

26 年度から 3カ年のシリーズで開催してきたアート&サイエンス企画展「ニュー”コロニー/アイラ

ンド”」の最終年は“わたしたち自身”に着目。主には、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅栄誉

教授の研究「オートファジー」から着想・発展させ、アミノ酸とたんぱく質の構造をテーマに企画立案

を行った。人体の内部では、体内で分泌される神経位伝達物質とそれを受けた身体の変化、あるいは古

い細胞が死滅して新しい細胞に置き換わる運動など、わたしたちはそのことを意識せず(できず)に生

きる動物でもある。しかし一方で、とてもダイナミックな出来事が刻一刻と繰り広げられている。よっ

て本展では、体の内部でおこる目に見えないぐらい小さく、しかし大きく人間を変化させるさまざまな

事象や、眩暈や忘我の恍惚を求めて危険を承知で浮遊感に身を委ねる遊びの欲望など、 “わたしたち”

の内にある、巨大な宇宙と似て非なる未知なる世界(彼方)について考察を深める機会を創出した。具

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体的には、細胞内で起きている様々な現象とその力学を体験する会場構成によって、最先端の研究内容

を、私たちの身近な事項として捉えられるようなアウトリーチ活動を実践している。

プロジェクトメンバー

吉森保(大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授)、dot architects(建築ユニット)、やんツー(アーティスト)

■展示会場 配置図から抜粋再編

※画像左)会場風景=体内公園・仮設公園(アミノ酸・たんぱく質の構造をイメージした遊戯装置が点在)

※画像右)オートファジーをメインビジュアルにした広報チラシ

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※画像左)会場風景=仮設公園と仮想公園 CG アニメーション(遊戯装置で遊ぶと仮想公園のアニメーションが変容)

※画像右)VR ブランコを体験する様子

目標2−2)先駆的実験性の社会的価値の明示・共有に関する仕組みづくりの試行

【人文・社会科学の知見を取入れた新しいタイプの産学連携イノベーション】

2-2-1. 新しいタイプの産学連携イノベーション1:「中之島まちみらい協議会」等による企画委員会

本企画の拠点である大阪・中之島は、水都大阪を象徴する東西約 3km の水辺の島に市役所・企業本

社・メディアや文化施設等の社会を構成する多様な機関が集積する特異な地域であり、企業等 30社で

構成される「中之島まちみらい協議会」が設置されている。よって本企画では「中之島まちみらい協議

会」を連携機関(異業種カフェ企画委員)とし、単独企業や同業他社では困難な社会的な主題に関す

るオープン・イノベーションにつながる場と、それらを構成する多様な個人が当事者となって社会的

課題の検討や解決に繋がるアイデアについて考える場をつくり、人文・社会科学の知見を取入れた新

しいタイプの産学連携事業の基礎づくりの実践を目指してきた。主に初年度(26年度)は「中之島の

社会的課題を考える」シリーズにて、「都市防災、環境・エネルギー・スマートコミュニティ」と「都

市魅力創造(まちづくり)、都市プロモーション(情報・ネットワーク)」の2つの主題を抽出。2年目

(27年度)は都市再生安全確保計画(エリア防災計画)策定に関連した「防災ワークショップ」を実

施。最終年度の 3年目(28 年度)は、産官学の中でも連携が不足していた【官=大阪府市行政】との

連携に資する企画を実施した。

2-2-2. エリア防災・帰宅困難ルートに関するワークショップ

「防災ワークショップ」は組織や施設の防災担当者やビル管理会社などのメンバー間で災害時の様々

な当事者を想定したクロスロードゲーム形式のワークショップによって、組織ではなく個人の立場で

課題を検討し、それらから行政を含む各所との連携体制に必要なシステムなどを検証した。(これら各

回の意見や気づきは将来のエリア防災計画や体制構築へ活用予定)その他、震災直後の帰宅困難な状

況を想定した図上ワークショップなどを開催し、各エリアの問題点や、コンビニなどの給水・トイレ

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といった詳細情報に至るまで徒歩ルートに必要な状況をシビアに洗い出した。本プログラムに参加し

た主な中之島まちみらい協議会加入団体は、朝日新聞、朝日放送、日本銀行、関西電力、住友生命、三

井物産、竹中工務店、京阪電気鉄道、国立国際美術館、NTT コミュニケーション他(オブザーバー参加

=大阪市、大阪科学振興協会)である。これら参加団体の業種や公共性からわかるように、本プログ

ラムの重要性は、単に中之島という限られた地域の課題解決だけではなく、昨今の課題である大都市

圏におけるエリア防災の策定にかかる先例となりえると考える。

2-2-3. 「中之島から防災・減災を考える」シリーズ

従来の行政主導の防災活動は、主に市民を対象とした地域防災が主流であることが多いが、中之島

には大阪市役所や大阪の中心である梅田エリアを含む北区役所が立地しており、また、御堂筋線・堺

筋線・四つ橋線といった大阪の南北をつなぐ地下鉄網や、大阪〜京都間にある守口市・門真市・寝屋

川市・枚方市などの京阪電鉄沿線の他都市の防災計画へと発展する可能性がある。そうした前提を踏

まえ、大阪府・大阪市・北区の各危機管理室(防災計画担当者)などのゲスト講師と一般参加者を交え

た対話プログラム「中之島から防災・減災を考える」シリーズを展開した。主には、日本有数のビジネ

ス街に拠点をおく中之島まちみらい協議会を主体とした「都市再生安全確保計画」の作成に関連した

組織と個人の観点から考察。「大阪駅周辺・中之島・御堂筋周辺地域」のエリア防災・大阪駅周辺帰宅

困難者協議会の設置状況・ハザートマップや携帯アプリ・区民による地域活動と連携した防災プログ

ラムなどの事例紹介。行政・企業・市民を交えたワークショップにおける防災情報の発信側と受信側

の視点の差異やデザイン的な観点の検討。などをおこなった。これらは予め(行政担当者など)参加

者の立場を明らかにしていたものの対話を重ねることによって、それぞれの立場を超えた議論へと発

展し、防災政策を周知し実装させるためには官民一体の連携はもとより【自助・公助・共助】の重要性

と課題が自明となった。加えて本支援終了後の共同事業の実現に向けた補助金申請などを含む展開を

目指すことも検討することができた。

※画像左)「中之島エリアの防災ワークショップ」(サーチプロジェクト「災害にまつわる所作と対話」会場にて)

※画像右)「中之島から防災・減災を考える」(ゲスト講師=美馬一浩(大阪府都市整備部 事業管理室参事))

2-2-4.新しいタイプの産学連携イノベーション2:クリエイティブシンキング「中之島夜会」

「都市魅力創造・まちづくり、都市プロモーション」に関する取組みとしては、主に初年度(26 年度)

に「中之島の社会的課題を考えるラウンドテーブル(異業種カフェ)」を実施し、2年目(27 年度)か

らは中之島の課題と可能性を創造的に捉え直すための企画「中之島夜会 NAKANOSHIMA NIGHT ~人とま

ちの知と感性を育むクリエイティブ・シンキングの場と時間」を立ち上げた。

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初年度(26 年度)の「中之島の社会的課題を考えるラウンドテーブル(異業種カフェ)」では、「都市

の中州・島の特異性を有する世界各国の類例と中之島の可能性」を明らかにした。約3Km の中之島は、

知性を育む大学や図書館、感性を育む博物館や美術館そして劇場、大阪の経済的活力を支える市役所や

日本を代表する企業の活動拠点など、「クリエイティブアイランド」といったコンセプトを体現するに

ふさわしい環境である。「昼の中之島」には、活気あふれる知性・感性・経済的活力を生み出すエネルギ

ーがあるが、「夜の中之島」は、昼間の活動から解放され、一息つきつつ、明日の活力のために英気を養

うそこに集う人々が自由に意見を交換しあう場所がある。しかしながら、まちみらい協議会メンバーと

の議論においては、働く環境とは別の視点で中之島のポテンシャルを捉え直し、創造性に富んだ取組み

へと発展させているとは言い難い状況があり、その原因および改善策としては、ビジネスで重視される、

行き過ぎた「効率化」「合理化」を見直すための創造的発想法=クリエイティブ・シンキングが有効では

ないか、という課題が浮上した。そこで、協議会メンバーを対象に都市のアクティビティを活かした「中

之島夜会」を始動させ、まちづくりに資する人づくりと創造的なまちの醸成を目指している。具体的に

は、国立国際美術館・リバーフォーラム・朝日新聞本社ロビー(フェスティバルホール)・ダイビルな

ど、中之島に立地する文化施設や企業本社と連携してプログラム会場にすることで、ネットワーク構築

とともに、各組織を構成する個人=様々なアクター(サラリーマン、NPO スタッフ、クリエイター、行

政関係者など)が当事者となって直接的に関わる事が可能な仕組みの基礎となっている。

※画像上段)国立国際美術館と北加賀屋/名村造船所跡地の連携展の訪問風景

※画像下段)左=ダイビルロビー(テーマ:建築に関する対談)、右=朝日新聞本社ロビー(テーマ:音楽に関する対談)

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目標3)課題解決に資するネットワーク構築と企画(活動)の継続を指向する HUB 機能の基盤整備

3-1. シンボル事業1:大阪大学シンポジウム(ラウンドテーブル企画)

「成熟する社会の生態系〜クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」(2015.12.20)

3-2. シンボル事業2:中之島夜会シンポジウム

「クリエイティブアイランド中之島の可能性〜都市魅力創造拠点の醸成にむけて」(2017.3.8)

3-3. シンボル事業3:大阪大学シンポジウム ・阪大フェスタ ポスターセッション参加(2017.3.23-24)

27 年度シンボル事業「成熟する社会の生態系〜クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」

課題解決に資するネットワーク構築と企画(活動)の継続を指向するHUB機能の基盤整備の推進には、

常に異分野間のマッチングを心がけ、アートエリア B1を HUB にしながらも、中之島全体を視野に入れ

た拠点形成を図っている。中でも特筆すべき企画としては、27年度のシンボル事業として開催した、大

阪大学新総長就任後初となる大阪大学シンポジウムと連動したラウンドテーブル企画がある。社会を構

成するさまざまな機関が集中する中之島は国際都市としてのポテンシャルが高く、社会的課題解決に資

する複数機関のネットワーク構築が不可欠である。そこで中之島に縁ある組織(朝日新聞社・朝日放送・

京阪電気鉄道・国立国際美術館・大阪大学)の代表者によるシンポジウム(ラウンドテーブル企画)を

開催し、地域社会の生態系(ネットワーク)と未来を共創する可能性について討議。社会的影響力のあ

る機関の代表者が、公人=組織論に留まらず個人的な意見を交換することによって、社会的責務と連携

体制の強化に繋がる実績根拠となった。

大阪大学シンポジウム(ラウンドテーブル企画) 「成熟する社会の生態系〜クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」

※画像左)基調講演 森村泰昌氏「『路地』スティックな都市文化論」

※画像右)シンポジウム登壇者 加藤好文(京阪電気鉄道 代表取締役社長 CEO 兼 COO 執行役員社長)、後藤尚雄(朝日

新聞社 常務取締役 大阪本社代表)、山梨俊夫(国立国際美術館 館長)、脇阪聰史(朝日放送代表取締役社長)、西尾章

治郎(大阪大学総長)、進行 木ノ下智恵子(大阪大学 CO デザインセンター特任准教授)※本支援事業担当者

28 年度シンボル事業「クリエイティブアイランド中之島の可能性〜都市魅力創造拠点の醸成にむけて」

27 年度のシンボル事業で大阪大学西尾総長が提唱した「中之島アゴラ構想」から(推進協議会の設置

などに)発展・派生した状況を踏まえて、また、「中之島夜会」の拡大版として、大阪文化を象徴する大

阪市中央公会堂の 100 周年のプレ事業的位置付け(共催事業)と連携して、28 年度のシンボル事業を実

施した。本企画では 26 年度の異業種カフェの検証を通じて明らかにした「クリエイティブアイランド」

(パリのシテ島、ドイツのミュゼームス島などの都心の中州や島と類する中之島の可能性を創造活用す

るビジョン)をより多角的に捉え、掘り下げるために、参照となる実践例にまつわる登壇者を検討し、

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プログラムを組み立てた。実施内容としては、近い将来、中之島のポテンシャルを活かした組織連携や

様々な個人が当事者としてかかわる仕組みに必要な事項について、大学・企業などの組織人・国際文化

の専門家・クリエイターといったクリエイティブ・シンキングを実践する登壇者による都市魅力創造拠

点の醸成にむけた対話を繰り広げた。登壇者の事例紹介や議論に加えて、会場の一般参加者からの(記

入メモ回収方式による)意見収集などを踏まえて、「クリエイティブアイランド中之島」というコンセプ

トに基づいた、まちづくり(都市魅力創造と防災・スマートコミュニティ)のブラディングについての

知見を蓄積することができたと考える。

※画像左)会場のようす

※画像右)シンポジウム登壇者 小川哲生(大阪大学理事・副学長)、菅野幸子(国際交流基金コミュニケーションセンタープログ

ラム・コーディネーター)、岸田文夫(中之島まちみらい協議会 代表幹事)、服部滋樹(graf 代表、クリエイティブディレクター、デ

ザイナー)

左)大阪大学シンポジウム「成熟する社会の生態系〜クリエイティブアイランド中之島の共創に向けて」当日パンフレット

右)中之島夜会シンポジウム「クリエイティブアイランド中之島の可能性〜都市魅力創造拠点の醸成にむけて」広報チラシ

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大阪大学シンポジウム ・阪大フェスタ ポスターセッション参加

本支援事業の主体機関であるCOデザインセンターは、設立記念事業として、「大阪大学シンポジウム

~新たな価値創造のモードと人材育成~」と、産・官・民・学による連携の深化を図るための「阪大フ

ェスタ:未来に向けた共創のあり方を考える」を28年度末に開催した。そこで本支援事業の三カ年を総

括したポスターおよびパンフレットを作成し、ポスターセッションに参加した。来場者は行政・企業・

大学関係者など、社会と科学技術イノベーションの関係深化に関心が高い層が多く見受けられ、本事業

の総括的概要を発表する好機となったと考える。また、本支援事業の紹介(多分野・複合的な企画の実

践)に関心を寄せる学生や企業の方との直接対話では、科学技術コミュニケーションやアウトリーチ活

動への高い関心と悩みなどを聞くことができ、支援事業終了後の参考となった。

※画像左)会場のようす 画像右)来場者からの質問も多数寄せられた

※画像 配布用リーフレット(見開き A3 版)

3-4 ネットワーク事業の継続に繋がるHUB基盤の整備(アートエリアB1事務局の法人化)

ネットワーク形成および事業の継続には、各者を繋ぐ事務局機能をもった HUB 基盤の整備は不可欠で

ある。そのため本企画では事業開始当初から、本事業の主旨目的を先行実践する、大学と企業と NPO の

社学連携による「アートエリア B1」を、多様な機関とのネットワーク構築の基盤拠点として位置づけ

ている。その事務局が 27 年度末に一般社団法人化し、より十全なプロジェクト・マネジメントととも

に、3年間の本企画主体者(組織・団体・個人・場所等)との持続的実践と長期的な関係構築が可能と

なった。その根拠を示す事実としては、本支援事業で繋がった企業から一般社団法人への調査業務委託

があった。この実績は、企業単体や企業間のみでは困難な社会的課題においては、複眼的思考をもつ中

立かつ公共的組織が欠かせない、という本支援事業の目的(示唆)の確証を意味するものであると考え

る。

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3-5 ネットワーク事業の継続に繋がるHUB基盤の整備

多様な個人が持続的に関わるための検証(スタッフ・ボランティア・参加者へのデプスインタビュー)

多様な個人が持続的に関わるための検証機会とし

て、ネットワークの HUB 機関である「アートエリア B

1」に関係する、来場者やボランティアスタッフなど、

年齢層や属性の異なる方々に事業評価(効果)の検証

の根拠資料となる意見を徴収。(以下は抜粋)総合的

な結果(検証評価)としては、社会的課題について異

なる立場の人々が出会い、対話する拠点と、複眼思考

の重要性をテーマとしてきた本事業が、一定水準以上

の評価(効果)が得られたと判断しても遜色ない意見

を聞くことができたと考える。

※画像 インタビューのようす

インタビューイ 内容(参加動機、事業・プログラム、場所に関する見解、中之島の可能性について)

来場者 A 氏

50 代男性、

大学教授

・大阪大学の学部・大学院・助手まで務めたという個人的背景を含めつつ、全国の大学が行っているカフェプログ

ラムに興味があったため、アートエリアB1開館以来より参加している。(約10年程度)

・人類学的に見ても構造を把握するために文字に書かれたものを見ていく。しかしながら、アートエリアB1(ラボカ

フェ)では、そういった(文献主義的な)プログラムは、10年間において一度もなかった。逆に考えると文字に書か

れたものは、上位の政治的意図が非常に働いているので(そうしたものが無いこと)オルタナティブを示されてい

ることは、非常に重要な見識だと思う。

・研究会や学会が最先端な場所とは限らない、学閥や偏った見方の無い社会的な場所が必要。

・何年か頑張ってみて必要性や評価がわかる。入れ替わることも含めてオープンであることが評価でき、しかも、

内容水準は最先端である。

・ラボカフェや企画展(対話と展覧会)は連動し、非常に批判・批評的な方々が続投されており、社会に対して無く

てはならない問い掛けは普遍的である。

スタッフB氏

30代女性、

フリーランス

(ダンサー、

手話通訳など)

・2014年の企画展に関連したラボカフェに参加後、サポートスタッフとして参加、その後、インターンを経て、非常

勤スタッフとして主に企画展サポートスタッフを担当している。

・平日の仕事帰りに、ふらりと寄れる場所で、普段の生活では絶対に接し得ない幅広い分野の専門家が登壇し、

気軽に質疑応答もできて生の体験として蓄積されていけるというのは貴重。

・公共交通機関のスペースということもあって、自由に出入りができ、関心のない人に場を開き、人を選ばない

(様々な種を落として行ける)とても豊かな場所。

・中之島の他施設は、ある意味で複眼ではなく単眼の施設ばかりなので、(アートエリアB1は)成立ち自体が複

合的なので分野が違う機関間の交通整理ができ、中之島のHUBにはなれると思う。

・「災害にまつわる所作と対話」展は通りすがりの来場者が多く、会場での対話を含めて積み上がっていく展覧

会。 鉄道、粘菌、災害や、アートやサイエンスなど、これまでとは違う刺激を受けている方を日々目撃しており、

思考・知識が膨らんでいく場所だということを実感することが沢山ある。

サポート

スタッフC氏

(30代男性、

会 社 員 ( 中 之 島

某企業)

・勤務地である中之島に自身の関心事項に関する場所があり、大阪市内では得難いため。

・自分の認識を広げる場所で新しい考え方を持てるような役割があり、一つの場所で、これだけ広いテーマを扱っ

ている所は希少であり、 大学・企業・NPOの主催であることが信頼性や公共性で重要。

・大阪市内で働いていても、中之島はある種、特別な場所という認識がある。自分の親世代も同様の認識で、中

之島は色んな機関が集中していてステイタスになる場所。

・(アートエリアB1は)地下にある自由なスペースであることに特質性があり、従来のアートスペースなどではリピ

ーターや同じようなタイプの人が8割程度の印象があるが、幅広い層が来場する。

・毎回の企画展では、テーマや内容の対象者3or4割。固定客・リピーター1or2割。その他(通りすがり)が4割程

度。(全般的に一回訪れるとテーマごとに沿って再び訪れられている。) ・企画展では、テーマが毎回や内容も全然違うので戸惑い、どう理解したらいいかというところからまず始まるが、

サポートスタッフが来場者と企画展の媒介者となっている。

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26

3.活動実績

活動名 実施時期

(期間) 内 容 対象

参加

者数

(人)

ラボカフェ 2014 年 8 月〜

2017 年 3 月 大阪大学が社会の様々な組織や個人とのコラボレーシ

ョンを通じて、主題に応じた対話を繰り広げる社学連

携事業。京阪なにわ橋駅コンコースのコミュニティー

スペース「アートエリア B1」を会場に、平日夜を中心

に年間を通じて、哲学、アート、サイエンス、減災、

医療等、多岐に渡るテーマに基づき、対話、レクチャ

ー等の様々なプログラムを実施する。

ラボカフェ会場のようす(アートエリア B1)

一般 55 1625

アート&テクノ

ロジー知術研究

プ ロ ジ ェ ク ト (知デリ)

①2014/11/16 ②2014/11/25 ③2015/10/3 ④2015/10/12 ⑤2016/3/27

アートや科学技術、文学など、様々な領域で活躍する

専門家を迎え、表現や技術について話し合うトークプ

ログラム。それぞれの専門領域における「知術」(知識

と技術)を横断・交換し、新しい発想の創出やアイデ

アの実現につなげることを目指して実施する。ここで

は学生による企画・運営も行われ、異領域のコミュニ

ケーションデザインに関わる人材育成の場としても機

能させる。 ①「ありかのありか 宇宙と写真の存在論」(テーマ:宇宙) ②「機会仕掛けにもほどがある?」(テーマ:ロボット) ③「シマシマリズム,秩序の裏側 でたらめのほんと」(テ

ーマ:秩序・アルゴリズム) ④「モノとコトバの『地』平」(テーマ:惑星) ⑤「まなざしの交差点〜物理学者と詩人の邂逅」(テーマ:

理論物理学)

「機会仕掛けにもほどがある?」(阪急うめだ本店)

一般 5 474

異業種対話:中

之島の社会的課

①2014/10/31 ②2014/11/28

大阪中之島は、水都大阪を象徴する水辺の島に市役所・

企業本社・メディアや文化施設等の社会を構成する多

一般 4 62

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27

題を考えるラウ

ンドテーブル ③2014/12/14 ④2015/1/30

様な機関が集積する特異なエリアである。本企画では、

それらを構成する多様な個人が当事者となって、中之

島の社会的課題や解決に繋がるアイデアについて考え

るテーブルをつくり、様々な対話を繰り広げた。

会場のようす(アートエリア B1)

異業種対話:中

之島夜会 ①2015/8/21 ②2015/10/23 ③2015/11/6 ④2016/6/10 ⑤2016/12/2

大阪中之島は、水都大阪を象徴する水辺の島に市役所・

企業本社・メディアや文化施設等の社会を構成する多

様な機関が集積する特異なエリアである。本企画では、

それらを構成する多様な個人が当事者となって、中之

島のフィールドワークやディスカッションなど行うこ

とで、イノベーションに必要な個々の創造的思考(ク

リエイティブ・シンキング)を養うとともに、中之島

の将来的なまちづくりへと繋がるネットワーク構築を

目指す。「夜会」では、中之島☓文化・芸術をキーワー

ドに各種の企画が行われた。 【第 1 夜】現代美術・アート×中之島 【第 2 夜】鉄道文化・アート×中之島 【第 3 夜】音楽×中之島 【第 4 夜】アート×中之島 【第 5 夜】建築×中之島

【第 1 夜】現代美術・アート×中之島(中之島バンクス)

一般 5 106

異業種対話:防

災ワークショッ

①2015/9/14 ②2015/10/2 ③2015/10/16 ④2015/11/30 ⑤2016/5/12 ⑥2016/6/22 ⑦2016/8/24 ⑧2016/12/24

前年度の中之島の社会的課題について考えるラウンド

テーブルにおいて「中之島のエリア防災」については

参加者の関心が高いことや、中之島まちみらい協議会

によって開催され、参加者から好評であった防災ワー

クショップ(図上訓練)について継続性の視点から、

本事業の一環として、防災に関するワークショップを

行った。2015 年度末に策定を目標としている安全確保

計画の機運を高めることと、企業間のコミュニケーシ

ョン機会を増やすことで、安全確保計画策定後のエリ

ア防災体制に繋がることを目標とした。また 2016 年

度には、大阪府、大阪市、大阪市北区と協働で防災に

まつわるトークプログラムを企画した。

一般 8 192

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28

①中之島エリアの防災ワークショップ (対象地区:中之島2丁目・3丁目一部) ②中之島エリアの防災ワークショップ (対象地区:中之島3丁目一部・4丁目) ③中之島エリアの防災ワークショップ (対象地区:ほたるまち、中之島5丁目・6丁目) ④中之島エリアの防災ワークショップ (防災講演会) ⑤ラボカフェ「中之島から防災・減災を考える、その

1」(大阪府) ⑥中之島エリアの防災ワークショップ ラボカフェ「中之島から防災・減災を考える、その 2」(大阪市) ⑦ラボカフェ「中之島から防災・減災を考える、その

3」(大阪市・北区)

防災ワークショップ・グループワークのようす

(アートエリア B1) シンポジウム: Innovation is GREAT~英国

と創る未来~日

英ロボットシン

ポジウム「ロボ

ットコンパニオ

ンと未来社会」

2015 年 11 月 11 日

(チラシより)遠くない未来、人類とロボットはどの

ように共存しているのか。ロボットが社会生活に与え

る変化とは。2012 年、英国政府はロボットと自律シ

ステムを8大優先的成長分野の1つと位置付け、英国

初のロボット戦略、UK RAS 2020 Strategy を昨年 9月に発表、様々な大学および関連企業に投資を行って

います。本シンポジウムでは、日本と英国を代表する

ロボット研究者が「ロボットコンパニオンと未来社

会」をテーマに、それぞれの最先端を紹介し国際コラ

ボレーションの可能性を探ります。

講師:石黒浩氏(大阪大学 教授)(アートエリア B1)

一般 1 92

シンポジウム:

大阪大学シンポ

ジウム「成熟す

る社会の生態系

〜クリエイティ

2015 年 12 月 20 日

(チラシより)成熟社会とは“量的拡大のみを追求す

る経済成長が終息に向かう中で、精神的豊かさや生活

の質の向上を重視する、平和で自由な社会”です。文

化と経済が織りなす都市の資本を現代に引き継ぐ“中

之島”は、成熟社会の拠点形成の可能性に満ちていま

一般 1 298

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29

ブアイランド中

之島の共創に向

けて〜」

す。そして都心の中州である“中之島”は、かつて蔵

屋敷がひしめく物流の拠点、現代では行政・メディ

ア・文化施設・鉄道といった社会を構成するさまざま

な機関が集中し、パリのシテ島やニューヨークのマン

ハッタン島などに類する、“国際都市の島”でもあり

ます。そこで、大阪大学シンポジウムでは、成熟する

社会の都市文化論をテーマに、大学の知、企業の革新

性、芸術文化の先駆的感性が相互作用する生態系と未

来の共創について、公人そして個人としての対話を繰

り広げます。

登壇者によるディスカッション(グランキューブ大阪)

シンポジウム クリエイティブ

アイランド中之

島の可能性〜都

市魅力創造拠点

の醸成にむけて

2017 年 3 月 8 日

(チラシより)経済的合理性に基づく私たちの社会は、

効率的で便利な生活を可能にしています。その一方で、

行き過ぎた効率化はシステムへの依存性を高め、それ

らが破綻した時に直面するダメージの大きさを、私た

ちは、日々、感じ考え続けているのではないでしょう

か。 様々な問題に直面したときに新しくて有意義な着想

を生み出すためには、“私たち”一人一人が物事を多面

的に捉え、柔軟な応用力へと導く“創造的思考(クリ

エイティブ・シンキング)”は有効です。そしてそのプ

ロセスには、未知の領域に思考を進める冒険心や既成

の枠組みから外れることを楽しむ好奇心と同時に、他

者への想像力が不可欠です。また、そうした個人を抱

擁する寛容な社会の実現が重要でしょう。 水都大阪のシンボルとして国際的な文化・学術の交

流機能を有する「中之島」は、世界的見地からも“ク

リエイティブ・アイランド”としての可能性に満ちて

います。近い将来、中之島のポテンシャルを活かした

組織連携や様々な個人が当事者としてかかわる仕組み

には、何が必要なのでしょうか。 大阪の文化を象徴し、2018 年に 100 周年を迎える

中央公会堂にて、大学・企業などの組織人として、国

際文化の専門家・クリエイターなどの個人として、ク

リエイティブ・シンキングを実践する登壇者が、都市

魅力創造拠点の醸成にむけた対話を繰り広げます。

一般 1 107

シンポジウム:

大阪大学シンポ

ジウム

2017 年 3 月 24 日

大阪大学シンポジウムと一連の催しとして開催される

「阪大フェスタ」にて、本事業の活動や成果について

ポスター発表を行う。

一般 1 のべ

807

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30

企画展示: サーチプロジェ

クト vol.4 「ニ

ュー“コロニー

/アイランド”

~都市空間にお

ける“島”のサイ

エンスとその気

配~」

2015年 3月 24日〜6 月 28 日

サーチプロジェクトは、社会的な事象や人々の思考や

感性を視覚的に表現するアートやデザインと科学的課

題を踏まえた企画展示を行い、展示を通じて参加者が、

見て・考え、意味生成のプロセスを発話や筆記等の複

合的な思考表現によって共有する機会を創出すること

を目的としている。vol.4 では研究者、建築家チーム、

メディア・アーティストをプロジェクトメンバーに迎

え、"島やコロニーの実験・創造性"と"粘菌の知と工学

的ネットワーク"をテーマに、生誕 400 年を迎える人工

島"中之島"の地下空間で「ニュー" コロニー/アイラン

ド"」を生成した。本プロジェクトを通じて、様々な社

会的課題を内包する都市環境やネットワークの在り方

について、新たな感覚で知覚し複眼的に思考する機会

を創出した。

サーチプロジェクト vol.4 広報チラシ

一般 1 のべ

3002

企画展示: サーチプロジェ

クト vol.5「ニュ

ー "コロニー/

ア イ ラ ン ド "2 ~災害にまつわ

る 所 作 と 対 話

~」

2016 年 3 月 11日〜6 月 26 日

上記サーチプロジェクトの第二弾として実施された。

vol.5 では、東日本大震災発生から5年目の年を意識

し、惑星・地球に位置する日本列島そのものや地球の

営みから起こる「災害」について着目、企画テーマや

内容を熟慮して企画展を構成した。会場を一軒の家に

見立てて展示環境を構成し、作品やプロジェクト、過

去の災害に関する資料を様々なメディアに変換して日

常生活の空間に配置した。この日常的イメージの場に

おいて、惑星学や災害文化などの研究者、アーティス

トや公共施設、そして“わたしたち” が集い、ともに

災害にまつわる所作について考え、様々な視点から対

話を繰り広げることで、改めて、この日本列島という

“島” に生きることについて、向き合う機会を創出し

た。

サーチプロジェクト vol.5 広報チラシ

一般 1 のべ

3465

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31

企画展示: サーチプロジェ

クト vol.6「ニュ

ー "コロニー/

ア イ ラ ン ド "3 ~わたしのかな

たへ~」

2017年 3月 28日〜6 月 25 日

上記サーチプロジェクトの第三弾として実施。これま

でアート&サイエンスの展覧会を通じて、「菌類」や「災

害」をテーマに"都市・社会・地球"などについて言及し

てきた「ニュー"コロニー/アイランド"」展の vol.6 で

は、"わたしたち自身"に視点を移す。 例えば、人体の内部では、体内で分泌される神経位伝

達物質とそれを受けた身体の変化、あるいは古い細胞

が死滅して新しい細胞に置き換わる運動など、とても

ダイナミックな出来事が刻一刻と繰り広げられてい

る。しかし一方で、わたしたちはそのことを意識せず

(できず)に生きる動物でもある。本展では、体の内

部でおこる目に見えないぐらい小さく、しかし大きく

人間を変化させるさまざまな事象や、眩暈や忘我の恍

惚を求めて危険を承知で浮遊感に身を委ねる遊びの欲

望などに着目し、"わたしたち"の内にある、巨大な宇宙

と似て非なる未知なる世界(彼方)について考察を深

める機会を創出した。

サーチプロジェクト vol.6 広報チラシ

一般 1 期 間 中

の べ

3000 程

度 ※ 3/28〜31(4日 間 )

72 名

公開講座 ① 2015/2/27 ② 2015/3/9 ③ 2015/3/23

大阪市と大阪大学が共同で市民に提供する、アットホ

ームな雰囲気の少人数制レクチャー。大阪大学の様々

な分野の専門知識を生かして、市民の方との知的交流

を促進し、地域社会の活性化につなげることを目的に

実施された。 ① 感染症の猛威とその対策研究~感染症はなく

せるのか?~」 ② 「知覚を揺さぶるプロジェクションマッピン

グ」 ③ 「障がい者の生活をまちに開く」

「障がい者の生活をまちに開く」(アイ・スポット)

一般 3 105

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32

子どもワークシ

ョップ:マチカ

ネワニロボット

作成ワークショ

ップ

2015 年 1 月 12 日

大阪大学の敷地内で見つかった古代ワニ(マチカネワ

ニ)をモデルに、ロボット制作ワークショップを行

い、子供とその保護者に科学技術へ親しんでもらう企

画を行った。ワニ型ロボットが完成するように、市販

のロボットキットを加工したものを利用してのワーク

ショップであった。市販のものとはいえ工程が多く、

小学生にはかなり難しい作業であった。しかし、講師

やスタッフの巧みなサポートもあり、参加者全員が見

事に歩行するロボットを完成することができた。

完成したマチカネワニロボット

小学生

とその

保護者

1 40

外部評価委員会 ①2015/3/20 ②2016/3/18 ③2017/3/27

外部評価委員を迎え、当該年度の実施内容に関する報

告、中間ヒアリング内容の報告(今後の課題の共有含

む)、実施事業への評価検証を含む意見交換を行なっ

た。また、次年度以降の方向性、及び、評価指標の提

案を頂いた。

3 27

運営委員会 ①2015/3/20 ②2016/3/18 ③2017/3/27

運営委員として参加期間の代表者を迎え、当該年度の

実施内容に関する報告、中間ヒアリング内容の報告(今

後の課題の共有含む)、実施事業への評価検証を含む意

見交換を行なった。また、次年度以降の方向性、及び、

評価指標の提案を頂いた。

3 36

異業種対話企画

会議 2014 年 8 月〜

2017 年 3 月 ラウンドテーブル、中之島夜会、防災ワークショップ

などの企画会議を行った。 23 のべ

118 大阪大学シンポ

ジウム「成熟す

る社会の生態系

〜クリエイティ

ブアイランド中

之島の共創に向

けて〜」企画会

2015 年 8 月〜

2016 年 12 月 大阪大学シンポジウム「成熟する社会の生態系〜クリ

エイティブアイランド中之島の共創に向けて〜」の企

画および諸調整打合せを行った。

19 のべ 84

知デリ企画会議 2014 年 12 月

〜2015年11月 アート&テクノロジー知術研究プロジェクト (知デ

リ)の企画および諸調整打合せを行った。 9 のべ 81

企画展示: サーチプロジェ

クト vol.4 「ニ

ュー“コロニー

/アイランド”

~都市空間にお

ける“島”のサイ

エンスとその気

配~」

2015 年 2 月〜

2015 年 3 月 企画展示:サーチプロジェクト vol.4 「ニュー“コロ

ニー/アイランド” ~都市空間における“島”のサ

イエンスとその気配~」の企画およびリサーチ、諸調

整打合せを行った。

4 のべ 25

企画展示: サーチプロジェ

クト vol.5「ニュ

ー "コロニー/

2016 年 1 月〜

2016 年 3 月 企画展示:サーチプロジェクト vol.5「ニュー"コロニ

ー/アイランド"2 ~災害にまつわる所作と対話~」の

企画およびリサーチ、諸調整打合せを行った。

4 のべ8

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33

4.ネットワークの活用・構築の達成状況

■企業等 30 社で構成される「中之島まちみらい協議会」との企画委員会では、中之島の社会的課題で

ある帰宅困難者対策を含む都市再生安全確保計画(エリア防災計画)の策定にむけた諸活動と、大阪

府市の行政とのプログラムを実現したことで、産官学の防災ネットワークの構築に貢献するととも

に、支援終了後も共同・連携事業や補助金申請も視野に入れた展開を目指している。また、まちづく

り・都市魅力創造とオフィスワーカーの人づくりに着目した「中之島夜会」を段階的に企画・開催し

たことにより信頼関係や事業参加への関心度を高め今後のる展開を目指すことが可能となった。

■シンボル事業の関連機関代表者によるラウンドテーブル(シンポジウム)では、実施後に京阪電鉄

と大阪大学による包括提携が締結され、加えて本シンポジウムで大阪大学の西尾総長が発表した「大

阪大学中之島アゴラ構想」の提案(中之島 4丁目エリアの展開)を大阪市長・大阪府知事に行い【大

阪府 大阪市 大阪商工会議所 関西経済同友会 関西経済連合会 大阪大学 中之島まちみらい協議会】

による推進協議会が設置された。

■本事業の HUB として位置付けてきたアートエリア B1では、事務局機能の強化を含めて一般社団法

人化され、より他組織の事業や共同企画の展開が可能な基盤整備ができたと言える。事実、学術・芸

術に着目したまちづくりの調査業務の受託や、まちみらい協議会との共同による事業費獲得に向け

た準備なども行っている。

主な連携機関による委員会等:ネットワークの活用・構築の状況

運営委員会 博物館、広報社学連携などの学内アウトリーチは元より、アートエリア B1事務局、中

之島まちみらい協議会メンバーの参加を含め、個別の活動の枠組みを越えた展開

を目指し、各所の連携を模索した関係を構築。

ラボカフェ企画会議 ラボカフェ(対話プログラム)の企画立案と実施において、複眼的な科学リテラシーに

資する複合的なテーマや外部講師など対外ネットワークを構築。

企画委員会

(中之島ラウンドテーブル)

中之島のメディアや交通等ネットワークを担う機関(朝日放送、朝日新聞、京阪電

車)の部長・局長の方々と、学術・文化を担う公益的な機関(国立国際美術館・副館

長)による各機関トップラウンドテーブルの実現に向けた検討会議を経て、各代表に

よるシンポジウムを開催。基調講演やシンポジウムを通じた中之島のネットワーク強

化に関するキックオフの機会となり、事後、京阪電鉄と大阪大学が包括提携を行っ

た。また、本シンポジウムで大阪大学が発表した中之島 4 丁目エリアに関する「大阪

大学中之島アゴラ構想」の提案を、大阪大学から大阪市長・大阪府知事に対して行

ア イ ラ ン ド "2 ~災害にまつわ

る 所 作 と 対 話

~」企画会議 企画展示: サーチプロジェ

クト vol.6「ニュ

ー "コロニー/

ア イ ラ ン ド "3 ~わたしのかな

たへ~」企画会

2016 年 12 月

〜2017 年 3 月 企画展示:サーチプロジェクト vol.6「ニュー"コロニ

ー/アイランド"3 ~わたしのかなたへ~」の企画およ

びリサーチ、諸調整打合せを行った。

3 のべ 15

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34

い【大阪府 大阪市 大阪商工会議所 関西経済同友会 関西経済連合会 大阪大学

中之島まちみらい協議会】による中之島アゴラ構想推進協議会が設置された。

企画委員会

(異業種カフェ)

中之島およびその周辺に主体を置く企業等 30 社が加盟する「中之島まちみらい協

議会」の幹事会メンバーから、都市プロモーション分科会、まちづくり分科会(エリア

防災・スマートコミュニティ)の中心人物(関西電力、竹中工務店)と、デザインミュー

ジアムの代表者で本委員会を構成。企画会議と複数のプログラムを実施。協議会の

幹事会や総会でも本支援事業に関する報告や次なる展開なども視野に入れた議論

も展開されているという。また、アートエリア B1他と共同で事業予算獲得に関する各

種申請などの準備も共同している。

アートエリアB1運営委員会 京阪電車・ダンスボックス・大阪大学(企業・NPO・大学)の三者による運営委員会、

および下部組織である実務者会議では、これまでのアートやデザインを主軸にした

企画展開から、社会的課題やサイエンスに関する企画展開を目指し、各種調査や準

備を実施。企画展「サーチプロジェクト」ではアート&サイエンスや災害など社会的課

題に関するシリーズ三部作と言える企画展「ニュー:コロニー/アイランド 1,2,3」を開

催。また、事業予算獲得に関する各種申請業務やアートエリア B1以外の企画に関

する事務局的役割を担うべく、事務局を社団法人化した。

5.成果及び波及効果

成果1 科学リテラシーに資する知のネットワークの構築

■多分野における「対話の機会」と複数の場所・多様な手法・多岐にわたる恊働者と提供し、いわゆ

る「欠如モデル型」の科学技術コミュニケーション手法の解決へと繋がり、「科学技術」に興味があ

る人だけではなく、複数の分野に興味がある人々は元より、科学に関する専門的知識をもつ者も含む

多様な人々が、当事者として対話するための場づくりを実現した。

■大阪大学が社学連携事業として企業とNPOと共同運営する大阪・中之島のなにわ橋駅コンコースのコ

ミュニティースペース「アートエリアB1」に事務局機能を置くことによって、支援終了後も本企画の

成果を発展させた展開やネットワークを強化するビジョンの実現に不可欠な地盤固めになった。

■地域社会の生態系(ネットワーク)と未来を共創する可能性について討議したシンボル事業(ラウ

ンドテーブル)企画により、社会的影響力のある機関の代表者が、公人=組織論に留まらず意見を交

換することによって、社会的責務と連携体制の強化に繋がる実績根拠となった。事実、企画実施後に

は京阪電鉄と大阪大学の包括提携が締結され、シンポジウムで大阪大学総長が発表した「大阪大学中

之島アゴラ構想」の提案から発展し【大阪府 大阪市 大阪商工会議所 関西経済同友会 関西経済連合

会 大阪大学 中之島まちみらい協議会】による中之島アゴラ構想推進協議会が設置された。加えて支

援最終年度を総括したシンポジウムでも同テーマを発展的な対話を繰り広げ、ネットワークを強化し

た。

成果2 アウトリーチ活動の多様なモデルの提唱・新しいタイプの産学連携の試行

アート&サイエンスのビジュアルコミュニケーションを目的とした企画展サーチプロジェクト「ニュ

ー“コロニー&アイランド”」の三カ年開催や異分野プロフェッショナルの公開対談企画「知デリ」

を通じて、最先端研究のアウトリーチ活動の多様な企画モデルの実現と学術・芸術の社会的価値に関

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する数々の企画実践そのものが、都市再生や社会構造に深く寄与することの実証となったと考える。

その根拠にはゲスト講師同士が共同研究を発足し科研費に申請・採択されたという展開や、HUB 機関で

あるアートエリア B1事務局では調査業務の受託につながった。

成果3 HUB 機能の基盤整備・コミュニティーとメディアとしての場の生成

大学と企業と NPO の社学連携によるコミュニティースペース「アートエリア B1」を、多様な機関との

ネットワーク構築に不可欠な基盤の拠点として位置づけたことにより、ゼロベースでは困難なネット

ワークの HUB 機関の設置という課題が解決され、より十全なプロジェクト・マネジメントが実現し、

三者の枠組みを越えた、より公益性の高いネットワークが形成された。これらにより3年間におよ

ぶ、本企画の主体者(機関・組織・団体・個人・場所等)の持続的かつ長期的な関わり方が可能とな

る、本企画(活動)の社会的価値を将来的に提唱し続ける【独自のコミュニティーとメディアとして

の場】の生成と保持が可能となっている。

成果4 「クリエイティブアイランド中之島」コンセプトの抽出

約3Km の中之島は、都市の中州・島の特異性を有する世界各国の類例(ナント島/ナント/フランス=約

5km、シテ島/パリ/フランス=約5km、ルーズベルト島/ニューヨーク/アメリカ=約3km、サウス・バン

ク地区、ロンドン/イギリス=約4km、ムゼーウムス島/ベルリン/ドイツ=約2km、ユールゴーデン島/ス

トックホル/スウェーデン=約4km)と比較しても、海外からの企業・人材の受け皿となる都市拠点化を

推進し、国全体の成長を牽引する国際都市大阪の中核となり得る。土地開発の観点から言えば、まちづ

くりの規模としては極めて広域であり、ひとつのテーマでは括る事ができない多様な要素、属性、地権

者によるゾーニングが展開している特殊なエリアである。川に囲まれた人工島である中之島地域は、島

全域が広域避難区域に指定されているため、エリア防災(都市防災プラン)や、スマートコミュニティ

としての実装実験(モデル)の可能性が多分に含まれている。そこで多様な機関や都市機能が集中する

中之島全体を一つの創造拠点(ラボラトリー)と見立て、人的ネットワークや各所の利点を独自の視点

でキュレーション(情報収集・分析・新結合)し、社会的課題解決に向けた活動を展開するためのコン

セプトとして、【クリエイティブアイランド中之島】を掲げる。

【キーワード】

・中之島の人・場・歴史の3つのポテンシャルを活用した創造的な都市開発と都市魅力創出の布石

・中之島の今後のロードマップ(※下記)に関する合同プロモーションの構想の検証

(国立国際美術館40周年、フェスティバルタワーオープン、中央公会堂100周年、京阪中之島

線およびアートエリア B110周年、ABC 放送移転10周年、近代美術館開館他)

・クリエイティブアイランド、中之島国際学術芸術祭などの構想

・大学機関と文化施設や企業・行政の産官学連携の恊働企画の実現(中之島アゴラ構想への発展)

・各所の HUB となり個人が持続的に関わることが可能なコミュニティーメディア(拠点)の生成

・都市の中州・島の特異性を有する世界各国の類例と中之島の可能性の明確化

(ナント島/フランス、シテ島/パリ、ルーズベルト島/ニューヨーク、ムゼーウムス島/ベルリンと同

等の国際都市の中核としての可能性)

・エリア防災(都市防災プラン)やスマートコミュニティとしての実装実験(モデル)の可能性

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6.自己評価

主には、支援期間中の三ヶ年(26,27,28 年度)を段階的に捉えた「デザインとアートと科学技術の

融合」によるヴィジュアル・シンキング・ストラテジー(VTS)の企画展「サーチプロジェクト “ニ

ューコロニー/アイランド 2,3”」。企業等約30社で構成される「中之島まちみらい協議会」との

共同企画では「中之島から防災・減災を考える」シリーズと「中之島夜会」。また、昨年度のシンボ

ル事業として開催した大阪大学シンポジウムで本学総長が掲げた【中之島アゴラ構想】については、

今年度もクローズアップするシンポジウム「クリエイティブアイランド中之島の可能性」など、支援

終了後の展開に関連する事業を実施できたことは意義深いと考える。

◼社会的課題(防災・まちづくり)に関する官民連携と今後の展開

異業種カフェ「中之島から防災・減災を考える」シリーズでは、官民連携の【官】を重視し、大阪府、

大阪市、北区の危機管理室の防災計画担当者などを講師に迎えた対話プログラムを開催。日本有数のビ

ジネス街である中之島を通じて、都市型のエリア防災に関する検証と本支援終了後の共同事業の実現に

向けた補助金申請などの検討ができたことは成果と考える。また、中之島まちみらい協議会との恊働に

て実施された「中之島の社会的課題を考えるラウンドテーブル-0〜4(異業種カフェ)」や「中之島夜会」

においては、「都市の中州・島の特異性を有する世界各国の類例と中之島の可能性」を明らかにし、支

援終了後の活動コンセプトとして「クリエイティブアイランド中之島」を抽出している。

◼ネットワーク構築と今後の展開の布石(「クリエイティブアイランド中之島」・「中之島アゴラ構想」)

中之島の将来的なまちづくりに繋がる創造的思考(クリエイティブ・シンキング)やネットワーク

構築を目的とした「中之島夜会」では、過去2年間の本支援事業で検証された世界的見地から都市魅

力創造拠点として、「クリエイティブアイランド中之島」というコンセプトを見出した。また、当該

年度の始めには、京阪電鉄と大阪大学の包括提携が締結され、昨年度のシンポジウムで大阪大学総長

が発表した「大阪大学中之島アゴラ構想」の提案から発展したと言っても過言ではない、【大阪府 大

阪市 大阪商工会議所 関西経済同友会 関西経済連合会 大阪大学 中之島まちみらい協議会】による

「中之島アゴラ構想推進協議会」が設置されている。よって、本事業の目標である中之島のポテンシ

ャルを活かした社会的課題に資する、より公共性の高いネットワーク事業への布石を投じることがで

きたと考える。

◼科学リテラシーに資するアウトリーチ活動の多様な企画モデル(アート&サイエンス)の実現

アート&サイエンスのテーマ展「ニューコロニーアイランド 3~わたしのかなたへ~」を企画。2015

年度=都市形成(中之島)と生物(粘菌)→2016 年度=日本列島・惑星・地球についで、最終年は人

間そのものに着目。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅栄誉教授の研究「オートファジー」から

着想・発展させ、細胞内で起きている様々な現象とその力学を体験する会場構成によって、最先端の

研究内容を、私たちの身近な事項として捉えられるようなアウトリーチ活動を提唱することができた。

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◼三カ年事業の総括発表、および、デプスインタビューによる定性的評価検証

三カ年事業の総括発表、および、デプスインタビューによる定性的評価検証としては、「大阪大学シ

ンポジウム ~新たな価値創造のモードと人材育成~」および「阪大フェスタ」において本事業の広報

活動。および、三ヶ年のネットワーク形成事業の HUB として位置付けていたアートエリア B1の来場

者やボランティアスタッフなどへのインタビューを実施。外部評価委員会や運営委員会においては三

ヶ年の総括を行った。

【デプスインタビュー(※P25 参照)による定性的評価・効果(抜粋)】

(社会的課題に関して)

・ラボカフェや企画展(対話と展覧会)は連動し、非常に批判・批評的な方々が続投されており、

社会に対して無くてはならない問い掛けは普遍的。

・サイエンスや社会的なテーマなど幅広く、平日の仕事帰りに、ふらりと寄れる場所で、普段の

生活の中では絶対に接し得ないほど幅広い分野の内容の専門家が登壇し、気軽に質疑応答もでき

て、生の体験として蓄積されていけるというのは貴重。

(複眼思考に関して)

・自分の認識を広げる場所で新しい考え方を持てるような役割があり、一つの場所で、これだけ広

いテーマを扱っている所は希少。

・従来のアートスペースなどではリピーターや同じようなタイプの人が8割程度の印象があるが、

アートエリアB1は幅広い層が来場する。

・毎回の企画展では、出店内容など目的を持っていると思われる方が3or4割。固定客と思われるリピ

ーターが1or2割。その他(通りすがり等)が4割程度。

(ネットワーク形成・HUB機能について)

・中之島の他施設は、ある意味で複眼ではなく単眼の施設ばかりなので、(アートエリアB1は)

成立ち自体が複合的なので分野が違う機関間の交通整理ができ、中之島のHUBになる。

・大阪市内で働いていても中之島は特別な場所という認識がある。自分の親世代(60-70年代)も同

様の認識で、中之島は色んな機関が集中していてステイタスになる場所である。

・(アートエリアB1は)公共交通機関のスペースということもあって、自由に出入り

ができ、関心のない人に場を開き、人を選ばない(様々な種を落として行ける)とても豊かな場所。

以上、客観的な定性評価の根拠となるデプスインタビューの結果(検証)からは、社会的課題について

異なる立場の人々が出会い、対話する拠点と、複眼思考の重要性をテーマとしてきた本事業が、一定水

準以上の評価(効果)があり、目標を達成したと考える。

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【定量的評価指標】

支援事業期間の三カ年、JST 作成アンケートとは別に、ネットワークの HUB 機関である「アートエリア

B1」のアンケートも実施している。職業・年齢・性別などの属性、満足度、居住地域(拠点地=大阪府

以外の分布)をグラフ化した。

会社員31%

無職14%学生

10%公務員

6%

自営業5%

主婦3%

パート・アルバイ

ト2%

その他15%

未記入14%

職業

男性52%

女性35%

未記入13%

性別

満足50%

やや満足

28%

普通9%

やや不満1%

未記入12%

満足度

50代21%

40代18%

30代18%

60代15%

20代16%

70歳以上4%

20歳未満2%

未記入6%

年齢

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・年齢は 50代、40 代、30 代が過半数を占め、男性・女性の比率は、やや男性が多い。その要因として

は、開催地である中之島地域がビジネス街であることや、科学技術というテーマへの関心度を反映し

た結果として読み取ることもできる。

・来場・参加者の居住地域の半数は(支援事業の開催地である)大阪府を占めるが、1/4 強は他府県の

居住区の方もおられるという点では、日本国内への(企画意図など)情報発信ができていると考える。

・満足度は8割を超えており、主題設定の妥当性と実施内容の充実度を示す指標として考えられる。

以上、客観的な定量評価の根拠となるアンケートの結果(簡易検証)からは、社会で活躍する世代層の

参加が多く、中之島地域のみならず全国的な関心度を集める社会的課題について取り上げ、満足度の高

い実施内容を達成したと考える。

大阪府内31%

大阪市内25%

他都道府県27%

未記入17%

居住地域

【他都道府県の内訳】

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7.外部評価

外部評価委員(委員長)

1)本事業の先駆的実験性、社会的意義について

世界には科学だけで解き明かせない領域があり、少なくとも科学だけで解決できない領域

があることを科学的に理解することこそ、津波と原発事故の後の科学がなすべき第一歩であ

ろう。それがなされるかどうかが、科学に関わる事業の正否を問う。どこまで掘り下げられ

たかはともかく、これを成そうという姿勢が見られることは、本事業の社会的意義である。

2)科学リテラシーに資する複眼思考の必要性について

したがって、科学技術への信頼回復という視点は、前項に指摘した基礎作業の上になされる

べきで、科学に携わる者だけが科学を独占してはならないのであって、そのために複眼的思

考、多方向コミュニケーションが不可欠であり、その観点から様々な社会実験の端緒を切り

開いている点が評価できる。

3)社会的課題解決のためのネットワーク構築について

大阪は、長く商人を中心としたビジネスネットワークはもちろん、全国的な知的ネットワ

ークのハブ機能を果たしてきた伝統がある。近代では、これに工業を含め、さらには食文化や

娯楽観光のビジネスを含めた文化的な社会的ネットワークが機能してきた。その結果、必ず

しも官に頼らない民における自治が確立され伝統となってきていた。近年、この民主体の自

治がやや弱体化し、東京へのコンプレックスが台頭してきている。これは、大阪の活力の源泉

についての自己認識の放棄であり、その結果、大阪の草の根自治の崩壊を招きつつある。東京

を羨むのではなく、東京から羨ましがられる大阪をめざすには、船場まで視野に入れた中之

島という他に例を見ない貴重な資源の再評価と活用を目指すネットワークの構築は重要であ

り、その試みは評価できる。

4)対話による産学連携の仕組みづくりと拠点形成について

中之島での産学連携を築いてきたことは評価できる。それが、真に仕組みとして機能するた

めには、まさにアートエリア B1 が地域創造拠点として機能しなければならない。阪大のサテラ

イトオフィスを含めて恒常的に人が交流している拠点とするためには、一段の飛躍が必要であ

る。イベントの積み重ねだけではなく、常駐のネットワーカーによる拠点形成を期待したい。

そのためには、京阪電鉄を中心に、関係企業を含めたさらに高次元の主体的な参画による創造

拠点形成に転換されることを期待したい。

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外部評価委員

1)本事業の先駆的実験性、社会的意義について

初年度の評価においても述べたように、本事業は、(1) 科学技術コミュニケーションに、

アート・文化などの異分野のコミュニケーション活動を融合させて展開する点、(2) 都市の

中心部に設定されたコミュニティスペースの拠点としての活用、(3) 中之島という、大都市

の中の特徴ある区域の地域課題への取り組みなどの点で、先駆的実験性を有していると評価

できる。(1)および(2)に関しては、実施した諸活動を通じて、科学技術コミュニケーション

の対象が、従来の活動ではリーチできなかった人々に広がったことが成果として評価でき

る。また、(2)および(3)に関して、中之島地域の防災とまちづくりという具体的課題への取

り組みの前進につなげられた点で、事業成果の社会的意義が評価できる。都市河川の中洲・

島を舞台とした取り組みという観点も含め、開発・展開した手法等について、国際的な情報

発信を期待したい。

2)科学リテラシーに資する複眼思考の必要性について

本事業を通じて、多様な人々が集い、科学技術や関連する社会課題について考え、対話する

場の創成がなされた点は評価できる。そのような対話や場を通じて、個人およびコミュニテ

ィとしてのリテラシーが高められたことが期待できる。その効果の評価、可視化は興味深い

研究課題となりうるであろう。

3)社会的課題解決のためのネットワーク構築について

本事業を通じて構築されたネットワークが、「中之島アゴラ構想」として大阪大学が提案し、

経済団体、行政等も参加する形で推進されようとしている点は高く評価できる。構想の今後

の展開・具現化に期待したい。

4)対話による産学連携の仕組みづくりと拠点形成について

シンボル事業として実施した、産学からのパネリストによるシンポジウムや、中之島夜会な

どが、対話による産学連携の仕組みづくりの意欲的な試みとして評価できる。その真の社会的

価値は、創出された「仕組み」や拠点の持続性とそこから生み出されるもので評価されるべき

であり、「中之島アゴラ構想」の今後の展開・具現化などについて、中・長期的に見守ってゆく

こと、あるいはそれを支援することが重要であると考える。

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外部評価委員

1)本事業の先駆的実験性、社会的意義について

・本事業は28年度においても、アートエリア B1を中核に様々な施設に展開し、さらにカフ

ェという手法も活用して、約50の企画を実施し、3 年間にわたって継続的に地域の知的

ネットワークを活性化させた点は、最大の成果と考える。

・産学官の連携において、アカデミズムが企画を牽引することで民間の企業が参加しやすい

環境を醸成したことは、事業終了後も大きな遺産となったと考える。

・IT技術が日常生活の細部にまで浸透した現代で、科学技術が社会のリスクとならないよう

馴致していく上で、リテラシーを高める手法が同時に発展しなくてはならない。本事業は、

媒介としてのアートの可能性を十分に実証したといえる。そうした点は、継続的に検証さ

れるべきである。

2)科学リテラシーに資する複眼思考の必要性について

・今後発展するだろう AI 技術や IOT 技術、遺伝子工学などによって、日常生活は激変するだ

けでなく、個人データの多様な活用や分析により、生活者の自己認識や社会的ステイタスそ

のものが、従来とは違う見方、あるいは再定義を迫られることになる可能性がある。そうし

た事態に併走しながら、生活のあらゆる側面からセーフティーネットしての生活者のネッ

トワークの構築が求められる。本事業が試みた複眼思考は防災からロボットまで、科学リテ

ラシーへの貢献だけでなく、そうした科学への相対化や、批判的な視点の提供の試みとして

も意義があった。

3)社会的課題解決のためのネットワーク構築について

・本事業は、主に大阪・中之島を拠点に展開されたことから、ネットワーク構築に特殊性があ

った。生活者が一部の高層マンションの居住者に限られることから、実質的には、地域の企

業や組織が緩やかに形成していた複数のネットワークを顕在化させ、新たな結びつきを生

み出すことができた。

・半面、企業や組織、行政では担当者が交代することで、本事業が遺した知的、人的な資産の

継承が困難になりやすい。さらに、企業や組織が自己利益の追求を超えて、社会的価値創造

ための共通の課題を共有することは容易ではない。

・本事業でも検討された防災は、共有しやすい共通課題だが、当該地域のネットワークの特性

にあわせた社会的課題を、さらに増やしていくことが重要だと考える。

4)対話による産学連携の仕組みづくりと拠点形成について

・中之島や周辺エリアには、文化施設、鉄道、メディアなど、公共性の強い企業や団体があり、

それぞれに市民を対象としたイベントや交流の場を設けている。今後は、そした、孤立しが

ちな場を効果的に結びつけるための工夫を産学連携で行うことで、本事業を超えた「対話」

の場を拡散させていくことが望ましい。

・まだ、中之島周辺エリアに蓄積された知的、文化的リソースは十分に探索され、共有されてい

るとは言いがたい。対話とは単に、人的交流だけでなく、眠っているリソースを結びつけて

新たな価値を生み出す「対話」は、地域にますます必要になっている。「産」が蓄積している

リソースを「棚卸し」する上で、産学連携という形で、アカデミズムが介在することの意義

は大きい。本事業の後も、「学」を媒介者とした「産」の結びつきを継続する仕組みを構築し

てほしい。

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8.成果の展開、発展させるビジョン

【支援終了後のイメージ】 提案企画の実践を通じて、双方向型科学技術コミュニケーションやアウトリーチ活動等の多様なモデ

ルとともに、社会的課題に対応するさまざまな実践知が蓄積されると考える。また、本事業を通じて明

らかになった「都市の中州・島の特異性を有する世界各国の類例と中之島の可能性」(約3Km の中之島の

類例=ナント島/ナント/フランス=約5km、シテ島/パリ/フランス=約5km、ルーズベルト島/ニューヨーク/

アメリカ=約3km、サウス・バンク地区、ロンドン/イギリス=約4km、ムゼーウムス島/ベルリン/ドイツ=約

2km、ユールゴーデン島/ストックホル/スウェーデン=約4km)や、「クリエイティブアイランド中之島」と

いうキーワード(ブランディング・コンセプト)を軸に、支援終了後も、「特定都市再生緊急整備地域」(都

市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域)である中之島のポテンシャルを活用し、「アートエ

リア B1」の HUB 機能を活用して、本企画(活動)の主体者(機関・組織・団体・個人・場所等)との

多義的なシンクタンク機能を模索し、新たな企画展開を目指す。

【将来ビジョン】 ・既存の価値(中之島の 3つのポテンシャル)に関するさらなる調査/開拓/開発

・新しい価値(大学の都心回帰を含めた社学・産官学連携の中枢として機能するラボラトリー)の創造

■主な事業案

・ 国全体の成長を牽引する都市・大阪の中核地域への発展事業(「中之島アゴラ構想」の推進)

・ 中之島の都市機能を強化する知と感性のネットワーク事業

(「クリエイティブアイランド中之島」をテーマにした推進プロジェクト)

・ 多様な個人が当事者として持続的に関わる仕組みづくりの継続

・ 単独企業や同業他社では困難な社会的な主題に関するオープンイノベーション事業

・ 人文・社会科学の視点を取り入れた領域横断による科学技術イノベーション事業

・ 2020 年東京オリンピックの関連事業(都市型国際事業で求められる複数都市の事業展開)

■主な企画・プログラム案

・実施企画(企画展やシンポジウムの採録を踏まえた次なる展開に資する資料(企画)作成

・災害やエリア防災に関する政策提言を視野に入れたラウンドテーブルのシリーズ化

・中之島まちみらい協議会との共同企画(ラウンドテーブルや中之島夜会、防災企画)の進化と深化

・学生と行政・企業の共同企画や文系学生の未来を志向したシンポジウム

以上