数学的に考える資質・能力の育成 · 2020. 9. 1. · 1...

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平成29年度(2017年度) 研究員派遣による学校支援に関する研究 学ぶ力向上のための研究員派遣による学校支援のあり方Ⅲ 数学的に考える資質・能力を育成するための 小学校算数科の授業の手立てと評価の工夫 -数学的な見方・考え方を働かせた学習活動を通して- 内容の要約 □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□□ □□□□キーワード □□□□□□数学的に考える資質・能力 数学的な見方・考え方 授業改善のサイクル 単元計画 「授業プランシート」 評価問題 Ⅰ 主題設定の理由 Ⅱ 研究の目標 Ⅲ 研究の仮説 Ⅳ 研究についての基本的な考え方 1 数学的に考える資質・能力とは 2 数学的な見方・考え方について 3 数学的に考える資質・能力の育成 につながる授業改善のサイクル Ⅴ 研究の進め方 1 研究の方法 2 研究の経過 (1) (1) (1) (2) (2) (2) (2) (4) (4) (4) Ⅵ 研究の内容とその成果 1 算数科における授業の手立ての 工夫 2 評価問題の作成と活用の工夫 3 授業改善のサイクルに継続して 取り組んだ成果 Ⅶ 研究のまとめと今後の課題 1 研究のまとめ 2 今後の課題 文 献 (4) (4) (9) (11) (12) (12) (12) 滋賀県総合教育センター □□小学校学習指導要領解説算数編(平成29年6月)では、算数科の授業改善に関 わって、数学的な見方・考え方を働かせる学習活動や学習評価の充実を図るこ とが示されている。そこで本研究では、授業の手立ての工夫として、身に付け たい数学的に考える資質・能力を明らかにした単元計画や「授業プランシート」 の作成と活用を行い、評価の工夫として、評価問題の作成と活用を行った。こ のように数学的な見方・考え方を働かせた授業を実践し、評価して、授業の手 立てを検討・修正していく授業改善のサイクルに継続して取り組んだ結果、数 学的に考える資質・能力の育成につながった。

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Page 1: 数学的に考える資質・能力の育成 · 2020. 9. 1. · 1 数学的に考える資質・能力とは 学習指導要領解説では、小学校算数科・中学校数学科を通した数学的に考える資質・能力(「知識及

平成29年度(2017年度) 研究員派遣による学校支援に関する研究

学ぶ力向上のための研究員派遣による学校支援のあり方Ⅲ

数学的に考える資質・能力を育成するための 小学校算数科の授業の手立てと評価の工夫

-数学的な見方・考え方を働かせた学習活動を通して-

内容の要約

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□□

□□□□キーワード

□□□□□□数学的に考える資質・能力 数学的な見方・考え方 授業改善のサイクル

単元計画 「授業プランシート」 評価問題

目 次

Ⅰ 主題設定の理由

Ⅱ 研究の目標

Ⅲ 研究の仮説

Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 数学的に考える資質・能力とは

2 数学的な見方・考え方について

3 数学的に考える資質・能力の育成

につながる授業改善のサイクル

Ⅴ 研究の進め方

1 研究の方法

2 研究の経過

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

(2)

(2)

(4)

(4)

(4)

Ⅵ 研究の内容とその成果

1 算数科における授業の手立ての

工夫

2 評価問題の作成と活用の工夫

3 授業改善のサイクルに継続して

取り組んだ成果

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

2 今後の課題

文 献

(4)

(4)

(9)

(11)

(12)

(12)

(12)

滋賀県総合教育センター

木□里□□聡

小学校学習指導要領解説算数編(平成29年6月)では、算数科の授業改善に関

わって、数学的な見方・考え方を働かせる学習活動や学習評価の充実を図るこ

とが示されている。そこで本研究では、授業の手立ての工夫として、身に付け

たい数学的に考える資質・能力を明らかにした単元計画や「授業プランシート」

の作成と活用を行い、評価の工夫として、評価問題の作成と活用を行った。こ

のように数学的な見方・考え方を働かせた授業を実践し、評価して、授業の手

立てを検討・修正していく授業改善のサイクルに継続して取り組んだ結果、数

学的に考える資質・能力の育成につながった。

⑫ ⑥

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平成29年度(2017年度) 研究員派遣による学校支援に関する研究 研究概要図

数学的に考える資質・能力の育成

単元計画・

「授業プランシート」・

評価問題の作成

授業の手立ての改善

「授業プランシート」

の活用

評価問題の活用

児童が数学的な見

方・考え方を働か

せる授業の実践

数学的に考える資質・能力のつな

がりを明らかにした系統図の作成

重点時間の設定

「授業プランシート」の作成

評価問題の作成

評価問題の結果を受けて授業

の手立てを検討・修正 身に付けたい数学的に考える

資質・能力を評価

評価問題の結果を分析

して課題を確認

大事な内容は単元を

通して繰り返し指導

必要に応じて個別指導

で習熟を図る

重点時間は「授業プ

ランシート」を作成

数学的な考え方

カードの活用

既習事項を問う

問題と重点時間

で身に付けたい

数学的に考える

資質・能力を問う

問題

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

- 1 -

研究員派遣による学校支援に関する研究

学ぶ力向上のための研究員派遣による学校支援のあり方Ⅲ

数学的に考える資質・能力を育成するための 小学校算数科の授業の手立てと評価の工夫

-数学的な見方・考え方を働かせた学習活動を通して-

Ⅰ 主 題 設 定 の 理 由

小学校学習指導要領解説算数編(平成29年6月、以下、学習指導要領解説という。)では、身に付けた

い数学的に考える資質・能力が明らかにされた。その中で、数学的な見方・考え方は数学的に考える資

質・能力の育成に大きく関わるものであり、学習の過程で、児童がどのような数学的な見方・考え方を

働かせて数学的活動を行い、どのような知識・技能および思考力・判断力・表現力等を身に付けるのか

ということを、指導者が明示する必要性について示された。また、身に付けたい数学的に考える資質・

能力のつながりを踏まえて指導することや、学習評価を充実していくことも示された。

平成28年度の小学校派遣研究では、児童の数学的な思考力・表現力の育成に取り組んだ。予習と本時

の学びを連動させた単元計画や、交流場面の充実を支援する「学び把握シート」等を活用した授業づく

りに取り組んだ結果、数量や図形の関係に着目して考えたり、仲間と対話しながら課題解決をしたりす

る児童の姿が見られた。しかし、課題として、「学び把握シート」をさらに効果的なものとするために、

数学的な見方・考え方と付けたい力との関連を明らかにすることが挙げられた。また、児童が身に付け

た力を評価する評価問題の作成やその活用方法を探る必要性も挙げられた。

これらのことから、指導者が数学的に考える資質・能力のつながりおよびその評価方法を明らかにし

ていくことは、学びの本質に深く関わることであり、そのためには教材研究をさらに深めていくことが

大切であると考える。

そこで、本研究では、派遣研究員受入校の指導者(以下、指導者という。)と協働で身に付けたい数学

的に考える資質・能力のつながりを明らかにした系統図を作成し、単元計画に位置付ける。また、数学

的な見方・考え方の視点を取り入れた「授業プランシート」を作成・活用し、児童が数学的な見方・考

え方を働かせる授業の手立てと、その評価方法を探る。このように、数学的な見方・考え方を働かせた

授業を実践し、評価して、授業の手立てを検討・修正していくという授業改善のサイクルに継続して取

り組むことによって授業の質を高め、児童の数学的に考える資質・能力を育成したいと考え、本主題を

設定した。

Ⅱ 研 究 の 目 標

指導者と協働で、算数科における授業の手立てと評価の工夫を充実させる授業改善のサイクルに継続

的に取り組むことを通して、児童の数学的に考える資質・能力の育成を目指す。

Ⅲ 研 究 の 仮 説

指導者と協働で、身に付けたい数学的に考える資質・能力のつながりを明らかにした系統図を単元計

画に位置付け、「授業プランシート」を活用した授業の手立てを行い、身に付けたい数学的に考える資質

・能力を評価する評価問題やその活用方法の工夫等、授業改善のサイクルに継続的に取り組めば、児童

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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は数学的な見方・考え方を働かせて問題解決を進め、数学的に考える資質・能力を育成することができ

るだろう。

Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 数学的に考える資質・能力とは

学習指導要領解説では、小学校算数科・中学校数学科を通した数学的に考える資質・能力(「知識及

び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」)について示されている(表1)。

本研究では、平成28年度の小学校派遣研究の課題を受けて「思考力・判断力・表現力等」の観点に焦

点を当て、授業の手立てと評価の工夫を進める。

表1 数学的に考える資質・能力「思考力・判断力・表現力等」(小学校学習指導要領解説算数編より一部抜粋)

A 数と計算 B 図形 C 測定 C 変化と関係 D データの活用

第3

学年

数とその表現や数量の関係に着目し、必要に応じて具体物や図等を用いて数の表し方や計算の仕方等を考察する力

平面図形の特徴を図形を構成する要素に着目して捉えたり、身の回りの事象を図形の性質から考察したりする力

身の回りにあるものの特徴を量に着目して捉え、量の単位を用いて的確に表現する力

身の回りの事象をデータの特徴に着目して捉え、簡潔に表現したり適切に判断したりする力

第4

学年

数とその表現や数量の関係に着目し、目的に合った表現方法を用いて数の性質や計算の仕方等を考察する力

図形を構成する要素及びそれらの位置関係に着目し、図形の性質や図形の計量について考察する力

伴って変わる二つの数量やそれらの関係に着目し、変化や対応の特徴を見いだして、二つの数量の関係を表や式を用いて考察する力

目的に応じてデータを収集し、データの特徴や傾向に着目して表やグラフに的確に表現し、それらを用いて問題解決したり、解決の過程や結果を多面的に捉え考察したりする力

2 数学的な見方・考え方について

小学校算数科の数学的な見方・考え方について、学習指導要領解説では「事象を数量や図形及びそ

れらの関係等に着目して捉え、根拠を基に筋道を立てて考え、統合的・発展的に考えること」と示さ

れ、帰納的に考える活動や演繹的に考える活動等、事例を挙げて解説している。学習過程の中で、数

学的な見方・考え方を働かせて問題解決を進めることにより、数学的に考える資質・能力は拡張・一

般化され、より成長すると述べられている。

数学的な見方については、単元や時間によって

着目する視点は異なるので、単元や時間ごとに設

定する。数学的な考え方については、指導者と協

議して、児童にもわかりやすい表現に改めて、表

2に示す五つの視点を設定した。また、授業で活

用できる数学的な考え方カードを作成した(図1)。授業

において、指導者は適切な場面で数学的な考え方カード

を児童に提示し、どのように考えるのかを可視化する手

立てとして活用する。

3 数学的に考える資質・能力の育成につな

がる授業改善のサイクル

本研究では、算数科における授業の手立

ての工夫として、数学的に考える資質・能

力のつながりを明らかにした系統図を位

置付けた単元計画の作成、「授業プランシ

ート」の作成と活用を行う。また、評価の

表2 働かせたい数学的な考え方の視点 小学校学習指導要領

解説算数編で示され

た視点 指導者と協議して設定した視点

根拠を基に筋道

を立てて考え、統

合的・発展的に考

える

・きまりを見つける

・前に学習したやり方と同じように考える

・前に学習したことを生かして理由を説明する

・にていることやちがうことを整理する

・学習したことからその先を考える

図1 数学的な考え方カード

にていることちがうことを整理する

その先を考える

きまりを見つける

同じように考える

理由を説明する

図2 授業改善のサイクル

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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工夫として、身に付けたい数学的に考える資質・能力を評価する評価問題(以下、評価問題という。)

の作成と活用を行う。児童の数学的に考える資質・能力を育成するためには、単元計画の作成を適切

に行い、それを基に数学的な見方・考え方を働かせた授業を実践し、評価して、授業の手立てを検討

・修正していく授業改善のサイクルに継続して取り組むことにより、授業の質を高めていくことが大

切であると考える(p.2の図2)。

(1) 単元計画・「授業プランシート」・評価問題の作成(Plan)

単元計画を作成するにあたり、関連する単元において身に付けたい数学的に考える資質・能力を

指導者と共に協議し、つながりを系統図に表して単元計画に位置付ける。この系統図を基に、単元

の中で特に児童が数学的な見方・考え方を働かせる時間を重点時間として設定する。

単元の中の重点時間では「授業プラ

ンシート」を作成し、クラス全体での

交流場面の見通しに役立てる(図3)。

この「授業プランシート」には、児童

に働かせたい数学的な考え方の視点

と、それを促す指導者の発問事例を示

している。指導者は、数学的な見方・

考え方を働かせた児童の姿を具体的に

書き出すことで、学習のゴールイメージを明確にもち、支援を具体化させる。

そして、単元計画を基に、これまでの派遣研究の成果物である単元末の評価問題や、滋賀県学び

確認テスト等も参考にして、評価問題を単元の学習に入る前に作成する。問題作成にあたっては、

出題のねらい、解答の事例を示し、評価に生かせるようにする。

(2) 「授業プランシート」の活用(Do)

単元の中の重点時間では「授業プランシート」を活用し、クラス全体での交流場面の充実を図る。

指導者は、机間指導しながらクラス全体での交流場面で取り上げる児童の考えを精選する。交流場

面では、数学的な見方・考え方を働かせることを促す発問や支援を行い、児童が課題解決に取り組

み、数学的に考える資質・能力を育成する授業を実践する。

(3) 評価問題の活用(Check)

単元の学習に入る前、重点時間、単元末に、それぞれの評価問題を行う。児童が評価問題を解く

姿とその解答から学習状況を把握し、次時の指導に役立てる。

ア 単元の学習に入る前に行う評価問題

単元の学習に入る前に行い、既習事項の定着について児童の実態をつかみ、指導に生かす。

イ 単元の中の重点時間で行う評価問題

重点時間に行い、その時間で身に付けたい数学的に考える資質・能力を評価し、単元を通した

授業改善に生かす。

ウ 単元末で行う評価問題

単元末に行い、単元を通して身に付けたい数学的に考える資質・能力の定着を評価する。

(4) 授業の手立ての改善(Action)

評価問題の結果を受けて、随時授業の手立てを検討・修正する。単元を通して授業改善を進める

図3 「授業プランシート」の一部

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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ことで、児童の学習状況に合わせて必要な支援を適切に行い、身に付けたい数学的に考える資質・

能力の育成を図る。

Ⅴ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

(1) 派遣研究員受入校の算数科における児童および指導者の意識調査から、学習状況や課題を把握し、

研究の目標に沿って学校支援の内容を設定する。

(2) 派遣研究員受入校の課題を踏まえ、数学的に考える資質・能力を育成するための授業の手立てと

評価方法を提案し、協議のうえ、内容を決定する。

(3) 指導者と複数指導(TT)を行う中で、児童が数学的な見方・考え方を働かせる授業を実践しながら、

授業の手立てと評価のあり方を探究する。

(4) 派遣研究協議会を実施し、各校での取組について交流・協議する。

(5) 各校での取組内容、成果と課題についてまとめる。

2 研究の経過

4月

4月~12月

5月

8月

研究構想、推進計画の立案

派遣研究(甲賀市、竜王町の小学校各1校、

原則各校週1回派遣)

児童質問紙調査および教員の意識調査(第

1回)の実施

第1回派遣研究協議会(1学期の取組の成

果と課題、2学期の方向性)

11月

11月~12月

2月

3月

児童質問紙調査および教員の意識調査

(第2回)の実施

第2回派遣研究協議会(研究の成果と課

題、研究のまとめ方)

研究論文原稿執筆

研究発表大会

研究のまとめ

Ⅵ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 算数科における授業の手立ての工夫

(1) 身に付けたい数学的に考える資質・能力を明らかにした単元計画の作成

授業づくりを進めるうえで、単元を通してどのような数学的に考える資質・能力を育成するのか

を明らかにすることを大切にした。そこで、図4に示す単元計画の作成の流れに沿って指導者と協

議を進めた。

ア 身に付けたい数学的に考える資質・能力のつながりを明らかにした系統図の作成

系統図を作成するにあたり、まず学習指導要領解説で、単元の目標や指導事項等を確認した後、

学習する単元について各社の教科書比較を行

い、身に付けたい資質・能力や単元の大まかな

進め方について見通しをもった。次に、学習指

導要領解説で身に付けたい数学的に考える資質

・能力を再度確認し、学習する内容に関連する

単元を系統図に書き出した。そして、関連する

単元について、該当する学習指導要領解説や他

学年の教科書も調べ、数学的に考える資質・能

力を系統図に書き加えた。このことにより、各

単元における指導の重点を整理して捉えられ、

身に付けたい数学的に考える資質・能力のつな

①学習指導要領解説で、単元の目標や指導事項等を確認した後、教科書比較を行い、身に付けたい資質・能力や単元の大まかな進め方について見通しをもつ

②学習する内容に関連する単元を系統図に書き出す

③学習指導要領解説や各学年の教科書を参考に、各単元ごとに身に付けたい数学的に考える資質・能力を系統図に書き加え、つながりを明らかにする

④単元を通して身に付けたい数学的に考える資質・能力を具体的に設定する

⑤特に児童が数学的な見方・考え方を働かせ、数学的に考える資質・能力を育成する時間を、重点時間として単元計画に位置付ける

図4 単元計画の作成の流れ

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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がりを明らかにしていくことができた。図5の系統図を位置付けた単元計画は、第3学年「はし

たの数を表そう」の授業構想において、指導者と協議して作成し、単元を通して身に付けたい数

学的に考える資質・能力を具体的に設定したものである。

イ 重点時間の設定

系統図を作成することにより、単元の中で数学的に考える資質・能力の育成に大きく関係する

時間を見いだすことができた。そこで、数学的な見方・考え方を働かせ、数学的に考える資質・

能力を育成する時間を、指導の重点時間として単元計画に位置付けた(図5)。

ウ 単元計画の作成による効果

単元計画の作成に継続して取り組んだ所感について指導者に聞き取りをしたところ、「系統図

が単元計画に付け加えられたことで、既習事項が具体的に分かり、導入等でしっかりと復習する

ことができた」「次の学年につながる内容が分かったので、この単元ではどこまで押さえないと

いけないかを意識するようになった」等、系統図を作成する効果を実感したことがうかがえた。

このように、実際に作成した系統図や所感から、次の二つについて授業改善が推進されたと考え

る。一つ目は、児童が既習事項を活用して課題解決を進める支援が行われるようになったことで

ある。指導者が、既習事項を想起させる掲示物や具体物、ヒントカード等を事前に準備すること

で、児童は見通しをもって自力解決を進めることができた。二つ目は、図5の系統図に示す「○

系統図

身に付けたい数学的に考える資質・能力

のつながりを系統図に示す

系統図を基に重点

時間を設定する

評価問題を作成

する

図5 系統図を位置付けて、児童に身に付けたい数学的に考える資質・能力を明らかにした単元計画の

一部(下線、矢印筆者)

重点時間

重点時間

重点時間

単元計画

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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をもとにした□個分という考え方」のように、指導者が各単元間で共通する数学的に考える資質

・能力を見いだせるようになったことである。複数の単元にわたり繰り返し活用される数学的に

考える資質・能力を、特に指導の重点として意識し、単元を通して児童が活用する学習活動を繰

り返し設定し、指導を充実させることができた。

(2) 数学的な見方・考え方の視点を取り入れた「授業プランシート」の活用

クラス全体での交流場面において、児童がどのように数学的な見方・考え方を働かせ、どのよう

な数学的に考える資質・能力を育成するのか、指導者が見通しをもって指導にあたる手立てとして

「授業プランシート」を作成し、重点時間に活用した。

ア 数学的な見方・考え方の視点を取り入れた「授業プランシート」の作成

「授業プランシート」作成の手順として、①本時のねらいとまとめの整合を図る。②本時のま

とめ到達に向けて児童がどのように数学的な見方・考え方を働かせるのかを予想し、具体的な児

童の姿を書き出す。③全体での交流場面で、児童のどの考えをどの順番で取り上げるのかをイメ

ージして書き出す。④数学的な見方・考え方を働かせることを促す発問や支援を書き出す。

このように、児童の学びの姿を具体的に書き出し、学習のゴールイメージを明確にもち、支援

の具体化へとつなげていった(図6)。

イ 作成された「授業プランシート」の実際

7ページの図7は、第3学年「大きい数の計算を考えよう」の単元で作成された「授業プラン

シート」である。このシートでは、本時のねらい達成に向けて、全体交流で取り上げる児童の考

えを三つに精選した。特に、23を20と3に分けて計算することを児童に意識付けるために、2位

数を何十と端数に分解した図(以下、サクランボ図という。)を最後に取り上げるように提示の順

番を工夫した。また、2位数×1位数のかけ算の計算方法を一般化するために、数学的な見方・

考え方を働かせる場面を2回設定する工夫がされた。シートの作成を経験していく中で、指導者

は児童の考えが多様に予想できるようになっただけでなく、全体交流で取り上げる児童の考え

を、本時のねらい達成に向けて精選するようになった。また、児童がどのように考えるのかをイ

メージして、数学的な見方・考え方を働かせることを促す発問も工夫できるようになった。

図6 支援の具体化へとつなげる「授業プランシート」活用の手引き

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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ウ 「授業プランシート」の作成・活用による効果

「授業プランシート」の作成・活用に継続して取り組んだ所感について指導者に聞き取りをし

たところ、「児童にどのような発言や気付きを出させたいのかを考えるようになった」「その時

間に考えさせたいことが明確になり、数学的な考え方カードを使うことで、発問もシンプルでわ

かりやすくなった」等の「授業プランシート」の効果を実感したことがうかがえた。このように、

実際に作成した「授業プランシート」や所感からは、次の二つについて授業改善が推進されたと

考える。一つ目は、クラス全体での交流場面を組み立てることができるようになり、児童の自力

解決の時間に、指導者はしっかりと意図をもって机間指導に臨むことができた。二つ目は、全体

交流にかかる時間の短縮につながり、授業の終末に習熟を図る時間をとることができた。

エ 数学的な見方・考え方を働かせる授業の実際

授業の手立ての工夫として、身に付けたい数学的に考える資質・能力のつながりを明らかにし

た系統図を位置付けた単元計画の作成と「授業プランシート」の作成・活用に継続して取り組ん

だ結果、児童が数学的な見方・考え方を働かせる授業が行われた。以下に授業の実際を示す。

(ア) 第3学年「かけ算の筆算」での実践「にていることやちがうことを整理する」

第3学年「かけ算の筆算」の単元において、23×3の答えの求め方について考える学習活動

を行った。クラス全体での交流場面では、図7の「授業プランシート」に基づき、アレイ図、

お金の図、サクランボ図を使った三通りの計算の仕方について児童に説明させた後、指導者は

数学的な見方・考え方を働かせることを促す発問①として「三つの方法の似ているところはど

こかな」と問いかけ、数学的な考え方カードの「にていることやちがうことを整理する」のカ

ードを黒板に貼り出した。児童の説明を補う板書の支援もあり、児童は23の分け方に着目して

似ているところを考え、どの方法も23を20と3に分けて計算していることに気付くことができ

た。さらに、指導者は「他の数字の計算ならどうなるかな」と問いかけて、12×4、43×2、

31×3の三つの計算カードを提示した。そこで、数学的な見方・考え方を働かせることを促す

発問②として「これらの計算は、どのように数を分けていると言えるかな」と問いかけた。児

と3に分けて計算することを児童に意識付けるた

めに、サクランボ図を最後に取り上げた

図7 第3学年「大きい数の計算を考えよう」の単元で作成された「授業プランシート」(下線、囲み線

筆者、授業の実際は、p.7、p.8に記載)

②2位数×1位数のかけ算の計算方

法を一般化するために、数学的な

見方・考え方を働かせる場面を2

回設定した

23

20

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

- 8 -

童は、数の分け方に着目

して似ているところを考

え、それぞれ何十と端数

に分けて計算しているこ

とに気付くことができ

た。そこから2位数×1

位数の計算方法を一般化

し、次時に学習するかけ

算の筆算へとつなげるこ

とができた。この時間で

児童が気付いた、数を分

解して既習の計算に帰着

させる方法は、単元の後

半で学習する3位数×1

位数の計算の仕方を考え

るときにも生かされ、3

位数を何百と何十と端数

に分けて計算して合わせ

る方法で解決する児童の

姿が見られた(図8)。

(イ) 第4学年「垂直・平行と四角形」での実践「見いだした性質を根拠として理由を説明する」

第4学年「垂直・平行

と四角形」の単元におい

て、ワークシートに書き

出した多様な四角形を分

類する学習活動を行っ

た。初めに、九つの四角

形について、第2学年で

学習した直角の数に着目

し、直角が二つある四角

形、直角が一つだけの四

角形、直角が無い四角形

の三つに分類した。次に、

第4学年で学習してきた

内容を振り返り、垂直や

平行の視点を想起させ、

「4年生のわざ(学習し

たこと)をつかって四角

形をグループ分けしたら

どうなるかな」と問いか

け、九つの四角形を改め

て分類させた。

にていることちがうことを整理する

にていることちがうことを整理する

にていることちがうことを整理する

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

- 9 -

クラス全体での交流場面では、二つの班を取り上げ、分類方法について児童に説明させた後、

指導者は、数学的な見方・考え方を働かせることを促す発問①として「二つの班は、どの4年

生のわざに注目して分けていますか」と問いかけた。児童は、向かい合う辺の位置関係に着目

して似ているところを考え、どちらの班も平行が何組かで分けられていることに気付くことが

できた。また、平行四辺形や台形の用語について関連させてまとめることができた。さらに、

指導者は新たに長方形のカードをクラス全体に示し、数学的な見方・考え方を働かせることを

促す発問②として「長方形は、今日学習した四角形(平行四辺形、台形)のどれに当てはまりま

すか。理由も説明しましょう」と問いかけた。児童は、長方形は平行が何組あるかに着目して、

新たな視点で長方形の性質を考察した。その結果、長方形は二組の向かい合う辺が平行である

ことを根拠として、平行四辺形と同じ性質をもっていることを説明することができた(p.8の図

9)。

数学的な考え方カードを活用し始めた頃は、指導者が先に数学的な考え方カードを提示し、

意識的に数学的な見方・考え方を働かせることを促す指導が多くを占めていた。しかし、思考

を促すための教具の活用や、異なる解決方法の中から共通点を見いだす活動を継続する等の支

援の工夫により、児童から「この続きはどうなるのだろう。何かきまりがありそうだ」「やり

方は違うけど、何か似ているところはないのかな」といった疑問が生まれ、児童が主体的に数

学的な見方・考え方を働かせ、思考を深める授業改善が進められた。

2 評価問題の作成と活用の工夫

(1) 授業に生かす評価問題の作成の工夫

単元の学習に入る前、重点時間、単元末の3種類の評価問題を、指導者と実際に解き、出題の意

図を説明して、この問題を児童全員が解けることを目指した授業の工夫について協議を進めた。夏

季休業中からは、単元計画を基に、協働で評価問題づくりに取り組み、指導者自身で作成できるよ

うに支援した。

ア 評価問題の作成の工夫

評価問題を作成する際は、まず各社の教科書に載っている

問題を調べて分析したり、滋賀県学び確認テストを参考にし

たりして進めた。単元計画で設定した身に付けたい数学的に

考える資質・能力を問う問題になっているかどうかを吟味し、

必要に応じて思考の過程を問う記述式の問題も取り入れた。

重点時間や単元末の評価問題の基本的な構成として、既習事

項を問う問題と、重点時間で身に付けたい数学的に考える資

質・能力を問う問題を設定し、児童の伸びを評価できるよう

に工夫した(図10)。その他の工夫として、問題ごとに児童自

身が分かった度合いを花びらの枚数で表す自己評価の欄や、

単元末の評価問題には、意識の変容を見取る振り返りの自由

記述欄を設けた。また、生活場面の問題を解決したり、発展

的に考えたりするチャレンジ問題を取り入れ、数学的に考え

る資質・能力の深まりを評価するようにした。

イ 評価問題の作成による効果

評価問題の作成に継続して取り組んだ所感について指導者に聞き取りをしたところ、「評価問

題を単元の学習に入る前に確認することで、この時間にこういうことができる力を付けられるよ

図10 単元末の評価問題の一例

(下線、矢印筆者)

既習事項を問う問題

重点時間で身に付けたい数学的に

考える資質・能力を問う問題

振り返りの自由記述欄

自己評価の欄

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うに指導するということが分かり、めあてやまとめが明確になった」「支援の必要な児童に対し

て、どのような支援が必要なのか見通しをもつことができた」等の効果を実感したことがうかが

えた。このように、実際に作成された評価問題や所感から、評価問題を作成することによって、

授業改善が推進されたと考える。特に、児童のつまずきの予測がしやすくなり、教具や掲示物、

ヒントカード等で必要な支援を具体化することができた。

(2) 指導に生かす評価問題の活用の工夫

指導者との協議で、図形領域は他領域に比べて、学習内容の定着について個人差が大きいことが

課題として挙げられた。また、児童に図形の性質を考察させるときに、辺の数や長さ、角の数や大

きさ、辺の位置関係等の着目する視点が多く、指導に難しさを感じている課題も明らかになった。

そこで、第4学年「垂直・平行と四角形」を重点単元として、評価問題の結果を指導に生かす実践

を進めた。児童が図形の性質について着目する視点を明確にもって考察するための支援の工夫と、

児童の変容を以下に示す。

ア 単元の学習に入る前に行う評価問題の結果を受けた手立ての工夫

単元の学習に入る前

に行う評価問題を実施

したところ、いろいろ

な図形を直角の数に着

目して分類する問題の

完全正答率が40%弱で

あった。そこで、図形の

構成要素である辺や角

についての掲示物を作成した。単元の学習を進めるにあたり土台となる既習事項を想起させて確

認したうえで、第1時の学習へとつなげていった(図11)。

イ 単元の中の重点時間で行う評価問題の結果を受けた手立ての工夫

重点時間であ

る第1時、第6

時、第14時では、

その時間の終わ

りに評価問題を

実施し、児童の理

解状況を把握し

た。第1時の評価

問題について、垂

直と直角の説明

に合う絵を選ぶ

選択式の問題に

ついては概ねで

きていたが、垂直

と直角の違いに

ついて記述で説

明する問題については正答率が45%であり、学習したことを自分の言葉で説明できることに課題

図12 重点時間で行う評価問題の結果を受けた手立ての工夫

②の図形の構

成要素である

直角の数に着

目して分類す

る力に課題が

見られた

既習事項の直角や辺に

ついて想起させた

図11 単元の学習に入る前に活用する評価問題の結果を受けた手立ての工夫

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が見られた。そこで、第2時の学習に入る前に、垂直と直角の違いについて復習して学習内容の

補充を行った。その後もペアで、垂直や直角を身体で表現する役と、直角と垂直の違いを説明す

る役を交互に行う活動等を単元を通して繰り返し行い、学習したことを自分の言葉で説明できる

ように指導の手立てを工夫した。

第6時では、多様な図形を直角の数に着目して分類する問題と、向かい合う辺の関係に着目し

て分類する問題についての完全正答率は約80%であったが、個人差も見られた。提示された視点

に合わせて図形の性質を捉え、全ての図形を適切に分類できるようになるには、第6時の学習内

容について、児童の学習状況に合わせてさらなる習熟の時間が必要であった。この結果を受け、

第7時以降では、図形の構成要素に着目するのか、位置関係に着目するのか、着目する視点の違

いを板書して強調し、クラス全体で押さえたうえで学習を進めていくようにした。また、着目す

る視点を変えると、見いだされる図形の性質が異なることを掲示物で可視化し、図形の見方を豊

かにする支援を行った。さらに、学習内容の定着に課題が見られる児童には、その都度、個別指

導を実施した。第14時でも同様の支援を行い、単元を通して身に付けたい数学的に考える資質・

能力の育成を図った(p.10の図12)。

ウ 単元末に行う評価問題の工夫と児童の変容

単元を通した児童の学習状況について協議し、課題が見られ

た垂直と直角の違いを問う問題を、事前に作成しておいた単元

末の評価問題に追加して実施した(図13)。重点時間の評価問題

と単元末の評価問題の正答率を比較し、児童が身に付けた数学

的に考える資質・能力の変容を見取った。また、重点時間の評

価問題において、つまずきの見られた児童については、単元末

の振り返りから変容を比較して評価した。

評価問題の正答率の比較では、両項目共に数値が上昇した

(表3)。児童の単元末の振り返りからは、第2学年で学習した

視点と、本単元で新たに学習した視点の違いに留意して図形を

分類できるようになったことや、垂直と直角の違いを説

明できるようになったことを自覚していることがうか

がえる(図14)。評価問題の結果を指導に生かし、単元を

通して授業改善のサイクルを充実させることで、児童の

数学的に考える資質・能力が育成されたと考える。

3 授業改善のサイクルに継続して取り組んだ成果

派遣研究員受入校の児童を対象に、事前調査と同様に、算数科の授業に関する質問紙調査を行った。

12ページの図15に示すように児童質問紙調査の結果から、児童は既習事項と新しく学習したことを整

理して捉えることや、学習したことを生かし、他の数字や生活の場面で生かせるかを考える姿勢が育

まれてきていることがうかがえる。さらに、これまでの授業改善の取組を通した所感について指導者

に聞き取りをしたところ、「他教科においても、きまりを見つける等の数学的な考え方を働かせて思

考する児童の姿が見られるようになった」等、児童の成長を実感していることがうかがえた。

表3 評価問題の正答率の比較

図形の構成要素および位置

関係に着目し、その違いに

留意しながら図形を分類す

る問題

垂直と直角の違いを言

葉で説明する問題

重点時間 80% 45%

単元末 90% 90%

・前は、2年でならったわざしか考えていなかったけど、4年のわざもあるのだなと思いました。だから両

方のわざを使いこなせるようになりました

・さいしょ、垂直と直角のちがいが分かりませんでした。でも、垂直は2本の直線が直角に交わっているこ

と、直角は90°の角のことと知りました。よく考えてみると、ぜんぜんちがうことが分かりました

・身のまわりには、この単元を学習して分かったことがたくさんかくれているのじゃないかと思いました

図14 単元末の児童の振り返り(原文から抜粋)

図13 単元末の評価問題の一部

追加した問題

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研究員派遣による学校支援に関する研究(算数科)

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本研究での取組を通して、指導者は系統図を単

元計画に位置付けて指導の見通しをもち、児童が

数学的な見方・考え方を働かせる授業を実践し、

評価して不十分なところは、単元を通した支援の

工夫により定着を図る一連のPDCAサイクルを定

着させることができた。このことにより、授業の

質が高まり、児童が算数科で身に付けた数学的に

考える資質・能力が、算数科だけでなく他の教科

や生活場面でも生かされるようになったと考え

る。

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

(1) 身に付けたい数学的に考える資質・能力を明らかにした単元計画を作成する過程において、系統

図を作成し、それを基に重点時間の設定をすることは、単元の見通しをもった指導の工夫を推進し、

数学的に考える資質・能力の育成につながる有効な授業の手立てであった。

(2) 「授業プランシート」の活用により、全体での交流場面の見通しをもてたことで、指導者の支援

が適切に行われ、児童は主体的に数学的な見方・考え方を働かせて数学的活動に取り組み、まとめ

につなげることができた。

(3) 評価問題の活用により、指導者は評価の結果を指導に反映させながら授業改善を進め、数学的に

考える資質・能力の育成を図ることができた。

2 今後の課題

(1) 数学的な見方・考え方は多様であり、本研究において指導者との協議で設定した数学的な考え方

の五つの視点以外についても、学年の発達に応じた視点を設定し、研究を進めていく必要がある。

(2) 身に付けたい数学的に考える資質・能力のつながりを明らかにした系統図を、他学年・他領域に

おいても作成し、指導に生かす必要がある。

文 献

滋賀県総合教育センター「学ぶ力向上のための研究員派遣による学校支援のあり方Ⅱ-算数科-」、平成28年(2016年)

片桐重男著『新版 数学的な考え方とその指導 第1巻』、明示図書出版、平成16年(2004年)

研 究 協 力 校

甲賀市立綾野小学校

竜王町立竜王小学校

研 究 協 力 員

甲賀市立綾野小学校教諭 西田 直生・山上 博之

竜王町立竜王小学校教諭 松山亜都紀・万歳 真菜・大林 洋介

図15 算数科の授業に関する質問紙調査結果の比較

60

23

32

28

6

36

2

13

よくあてはまる あてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

56

10

29

26

12

40

3

24

よくあてはまる あてはまる あまりあてはまらない あてはまらない

(第3、4学年対象 数字は% 回答総数125)

算数の授業で、今までに学習したことと、新しく学習したことの違いを説明できている

算数の授業で、取り組んだ問題について、他の数字や生活の場面ではどうなるのかを考えている

5月(事前)

11月(事後)

5月(事前)

11月(事後)