線量計材料に依存しない...

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線量計材料に依存しない 新しい吸収線量の解析技術 『首都大学東京・新技術説明会』 日時:平成27年9月25日(金) 場所:JST東京別館ホール 首都大学東京 人間健康科学研究科 放射線科学域 准教授 眞正 浄光

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線量計材料に依存しない新しい吸収線量の解析技術

『首都大学東京・新技術説明会』日時:平成27年9月25日(金)場所:JST東京別館ホール

首都大学東京人間健康科学研究科 放射線科学域

准教授 眞正 浄光

既に実用化されている蓄積型の放射線線量測定法には、

熱蛍光特性を利用したTLDがある。小型で線量率依存性が小

さく、ある点における積算線量の測定に適しているが、精度が

低く(±5%)放射線治療で求められる計測精度(1%以下)に遠く

及ばない。

また、TL効率が変化することにより線量測定が可能な線量

域が限定される等の問題も重なり、利用頻度は減り積極的に

使用されてない。

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本研究課題の背景(従来技術とその問題点)

3

本研究課題の背景(医療現場で求められる線量計とは)

~高精度放射線治療について~

• 従来よりも放射線をがんに選択的に集中させる。がん周辺の正常臓器の被曝線量を減らすことが可能である。

→治療効果大

・強度変調放射線治療 (Intensity Modulated Radiotherapy : IMRT)

・定位放射線治療 (Stereotactic Radiotherapy : SRT)

・画像誘導放射線治療 (Image-Guided Radiotherapy : IGRT)

・陽子線/重粒子線治療 (Proton Beam /Heavy-ion Radiotherapy)

強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiotherapy : IMRT)

画像:財団法人癌研究会HPより

従来の放射線治療照射中、形は一定

IMRT照射中、形が変形する

リニアック

放射線をがん病巣へ選択的に照射する→治療効果大

マルチリーフコリメータ

4

定位放射線治療 (Stereotactic Radiotherapy : SRT)

前後対向2門

定位照射

サイバーナイフ

病巣の場所から最も適した照射位置を104か所の中から割り出してそれらを記憶し、さらに身体が動けばそれに対応して修正を加えつつ照射できる。ガンマナイフやエックスナイフは頭部が中心であるが、サイバーナイフは胸腹部まで適応できる。

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医療に求められる精度

千葉県がんセンター 河内徹氏提供※AAPM : American Association of Physicists in Medicine, TG : Task group

6

7

従来技術の問題点①精度が低い

BeO:Na (UD170A)とCaSO4:Tm(UD110S)の繰り返し使用の誤差(平成23, 24年度 首都大学東京学生実験の結果より)

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図.昇温速度に対するTLの再現性

低昇温率によるグロー曲線測定装置

市販の読み取り装置より2桁以上

遅くした測定が可能

解決法①グロー曲線測定の昇温速度を遅くする

①昇温速度が速いときは、精密に昇温させることが機器の性能の問題

から難しい →遅くすると制御可能に

②市販のTLD読み取り装置は±10 ℃程度の精度で昇温しているため、

素子の読み出し温度にも差が生じる→遅くすると±0.1℃程度の精度

③読み出し温度範囲の境界付近にも小さな捕獲準位が複数存在してい

るため、この温度制御の精度がTL読み出し値に誤差を生じさせる

→遅くすると誤差が小さくなる

9

昇温速度を遅くすると再現性が飛躍的に向上する理由

従来技術の問題点②

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UD-170AのTL効率

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

1 10 100

TL

/ D

ose

(a.u

.)

Dose (Gy)

X-ray 6 MV 熱蛍光素子BeO: Na (UD-170A) は,松下電器産業株式会社 (現: Panasonic) によって製造され,BeOセラミック粒を2ϕ ×

12 mmのガラス管に注入したものである.実効原子番号が7.6と生体組織に近く,エネルギー依存性が小さいため,生体組織の吸収線量の測定に適している.

しかし,UD - 170Aは0.25 Gy (60Co γ線において) から線量に対する発光効率が上昇し超直線性が現れるため,線量測定が可能な線量域が限定される.

線量と熱蛍光量の関係のみを利用しているため、線量測定が可能な線量域が限定される

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解決法②グロー曲線の線量依存性を利用する

低昇温率で測定したBeO:Na(UD-170A)のグロー曲線

0

0.5

1

1.5

2

0 50 100 150 200 250 300 350

X-ray 1 Gy X-ray 2 Gy

TL

Inte

nsity

(a.u

.)

Temperature(°C)

X-ray 6 MV

BeOのグロー曲線(X線1 Gy) BeOのグロー曲線(X線20 Gy)

0

5000

1 104

1.5 104

2 104

2.5 104

3 104

3.5 104

0 50 100 150 200 250 300 350

ExperimentalFittingPeak APeak BPeak CPeak DPeak EPeak FPeak GPeak HPeak IPeak JPeak KPeak LPeak M

TL

Inte

nsity

(a.u

.)

Temperature (°C)

X-ray 1 GyFOM: 0.74%

0

2 105

4 105

6 105

8 105

1 106

1.2 106

1.4 106

0 50 100 150 200 250 300 350

ExperimentalFittingPeak APeak BPeak CPeak DPeak EPeak FPeak GPeak HPeak IPeak JPeak KPeak LPeak M

TL

Inte

nsity

(a.u

.)

Temperature (°C)

X-ray 20 GyFOM : 0.25%

グロー成分を分離すると各グロー成分によって線量依存性が異なるが明らかになった

12

0

5

10

15

0 10 20 30 40 50 60

Peak L : pattern 1T

L /

Dos

e (a

.u.)

Dose (Gy)

0

5

10

15

0 10 20 30 40 50 60

Peak L : pattern 1Peak G : pattern 2

TL

/ D

ose

(a.u

.)

Dose (Gy)

0

5

10

15

0 10 20 30 40 50 60

Peak L : pattern 1Peak G : pattern 2Peak A : pattern 3

TL

/ D

ose

(a.u

.)

Dose (Gy)

各成分の線量依存性

Pattern 3:Peak A~D(ピーク温度216~248℃)⇒1~10 GyまでTL効率が上昇し,10~50 Gyでは変化しない

Pattern 1:Peak H~M(ピーク温度128~173℃)⇒1~50 Gyの領域でTL効率に変化なし

Pattern 2:Peak E~F(ピーク温度185~203℃)⇒1~10 GyまでTL効率は変化しないが,10~50 GyでTL効率が上昇する

各グロー成分のピーク比や、特定の成分の熱蛍光量と線量との関係を用いると、治療領域の線量でも測定可能となる

超直線性に影響

13

14

市販の装置では、温度制御が±10℃なので

①素子の温度を一定の昇温率で加熱できない

②素子の温度を把握することができない

正確なグロー曲線(熱蛍光特性)を取得できない↓

精度が悪い↓

グロー成分の数を正確に把握できない↓

線量や線質に対する正確な熱蛍光特性を把握できない↓

熱蛍光特性を十分に生かすことができない

従来技術の問題点について~まとめ~

想定される用途

本技術の特徴をさらに生かすためには、これまでデメリットとされてきた熱蛍光特性の線量依存性やエネルギー依存性、線質依存性などの基礎特性を詳しく調査すること、および多くの熱蛍光素子の熱蛍光特性を低昇温率のグロー曲線測定法により明らかにすることが重要である。

基礎特性が明らかになれば、その特性を利用して多線種が混在する場における線種ごとの線量測定や、簡易的なLET算出法など、多くの新しい利用法が創出される可能性が高い。

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●放射線治療におけるポイント線量評価●各臓器線量の評価●個人被ばく線量測定●福島原発内の高線量場における線量測定

新技術の特徴(従来技術との比較)

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●精密なグロー成分解析とその熱蛍光特性の関係性を利用した新しい線量測定法であり、殆どのTL素子に適応可能である

●低昇温率のグロー曲線測定法により、測定精度を飛躍的に向上させることに成功した

(±5~10% → 1%以下)

●線量依存性のために線量測定が可能な線量域が限定されていたが、その特性を利用した線量測定に成功したため、測定可能な線量域を大幅に広くすることに成功した

(~0.25Gy → 100Gy以上)

実用化に向けた課題

既存のTLD素子を利用して、低昇温率のグロー曲線測定装置

による成分解析と、各成分の線量応答性を調査し、そのデータを基にした線量測定法は開発済み。しかし、解析ソフトの開発に未着手である。

現在、BeO(UD-170A)について本手法の有用性を確認しているが他のTL素子についての検討が十分でない。

今後は、多くのTL素子に関する基礎データを取得し、本手法による新たなTL素子による線量測定を可能にする。また、他の線

量計では実現困難な多線種が混在する場における線種ごとの線量測定や、簡易的なLET算出法など、独自性の高い新しい利用法も創出していく。

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企業に期待すること

●放射線計測関連企業、医療機器メーカー、放射線感応素子の

材料メーカー

・低昇温率によるグロー曲線測定装置の事業化を見据えた連携

・グロー曲線フィッティング解析技術に関する共同研究

・放射線感応素子材料の熱蛍光特性調査および、線量測定への

応用に関する共同研究

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関連する知的財産権

・発明の名称 :吸収線量の解析方法

・出願番号 :2015- 19778

・出願人 :公立大学法人首都大学東京

・発明者 :眞正 浄光、大坪 圭介

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お問い合わせ先

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首都大学東京 URA室主任URA 中西 俊彦

TEL 042-677-2759

FAX 042-677-5640

e-mail [email protected]