具体的な防除手法...具 体的な防除手法 (1)防除 の 考え方...
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○具体的な防除手法
(1)防除の考え方
本種の拡散を防止し、根絶を確実なものとする上で、最も根本的で効果的な防除手
法は伐採です。特にフラスが 10 か所以上から排出されている樹木などは、内部に多
くの幼虫が潜伏していることが見込まれ、他の手法では十分な効果があげられない可
能性もあることから、樹勢なども考慮しつつ、伐採を検討してみることが望まれます。
しかし実際には、伐採は多くの費用が必要となるとともに、さまざまな事情からそ
の実施は容易ではありません。
このため、現時点の本種の防除は、被害の部位や程度を把握したうえで、
・薬剤(農薬)による殺虫
・羽化した成虫の拡散を物理的に防止するネット掛け
・発生源となっている樹木の伐採(や大枝の剪定など)
・針金等による刺殺や補殺など直接的な駆除
等の手法を組み合わせて実施することとなります。
各手法は、本種の幼虫や成虫の生活史に応じ、適切な時期に実施します(図-1)。
なお、以下の記述内容は絶対的なものではありません。本種の生態の新たな解明、
現場での様々な工夫、新しい製品の開発など、ノウハウは日を追って蓄積されていま
す。防除の取組は、現場の状況に応じて検討し、実施していくものとします。
図-1 生活史と防除の内容・時期
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(2)個別の手法の解説
1)薬剤(農薬)
現時点で本種に使用可能な農薬には、幼虫を殺虫するものと成虫を殺虫するものの
2 種類があります。農薬は、使用する作物(樹種)毎に対象害虫として本種またはカ
ミキリムシ類が登録されているものしか使用できないため、使用にあたっては必ず登
録内容を確認してください。
*農薬登録情報 https://www.acis.famic.go.jp/index_kensaku.htm
表-1 本種の防除に使用可能な農薬一覧(2019 年 5 月 15 日現在)
【幼虫を対象としたもの】
農薬の種類 農薬の名称 適用作物名
メタフルミゾン水和剤 アクセルフロアブル さくら
フェンプロパトリンエアゾル
ロビンフッド、
ベニカカミキリムシエアゾ
ール
うめ、もも、おうとう、
果樹類*1、樹木類
ペルメトリンエアゾル 園芸用キンチョールE さくら
アセタミプリド液剤 マツグリーン液剤2 さくら
スタイナーネマ カーポカプサ
エ剤 バイオセーフ
うめ、もも、食用さくら(葉)、
さくら
ジノテフラン液剤 ウッドスター さくら
チアメトキサム液剤 アトラック液剤 さくら
*1 かんきつ、りんご、なし、びわ、もも、うめ、おうとう、ぶどう、かき、マンゴー、いちょう (種子)、
くり、ペカン、アーモンド、くるみ、食用つばき (種子)を除く
【成虫を対象としたもの】
農薬の種類 農薬の名称 適用作物名
ボーベリア ブロンニアティ剤 バイオリサ・カミキリ 果樹類、さくら、食用さくら(葉)
MEP乳剤 スミパイン乳剤 樹木類
メタフルミゾン水和剤 アクセルフロアブル うめ、さくら
チアメトキサム水溶剤 アクタラ顆粒水溶剤 もも、ネクタリン、おうとう、
小粒核果類*2、うめ
アセタミプリド水溶剤 モスピラン顆粒水溶剤 もも、うめ、すもも、さくら
アセタミプリド液剤 マツグリーン液剤2 さくら
DMTP乳剤 スプラサイドM もも
DMTP水和剤 スプラサイド水和剤 もも、うめ、すもも
シクラニリプロール液剤 テッパン液剤 もも、すもも
*2 うめを除く
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昨年度までに使用実績のある主な農薬のタイプの使用方法は以下の通りです。
A.噴射タイプ
フラスの出ている穴(排出孔)の中に噴射・注入し、穴の付近にいる幼虫を駆除
します。
【時期】
幼虫の活動期(概ね 4 月~10 月)
【具体的な使用方法】
① 幼虫が生息している排出孔を特定して農薬を投入するため、フラスが出ている排
出孔を確認します(写真-1)。
写真-1 フラスが排出されている孔の確認
② 排出孔表面のフラスを指などで掻き落とした後、千枚通しなどを用いて、排出孔
の中のフラスを掻き出します(写真-2・写真-3)。
写真-2 排出孔表面の処理 写真-3 排出孔内部の処理
提供:住友化学株式会社 出典:地方独立行政法人
大阪府立環境農林水産総合研究所
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③ 排出孔内部のフラスを洗い流すと同時に、ノズルの目詰まりを防ぐため、殺虫剤
を噴射しながらノズルを挿入します(写真-4)。
提供:住友化学株式会社 提供:住友化学園芸株式会社
写真-4 殺虫剤の使用例(ノズルの使い方)
④ 殺虫効果を高めるため、薬液は逆流するまで注入します(写真-5)。注入後は処
理済みの排出孔付近に画鋲などを刺して目印するとともに(写真-6)、地面や樹
上に溜まったフラスをきれいに取り除いておくと、後の経過観察に有効です。
写真-5 薬液が逆流するまで注入 写真-6 目印に刺したピン
提供:住友化学株式会社
⑤ 概ね 1 週間後に、薬剤を注入した排出孔からのフラス排出の有無を確認します。
引き続きフラスが排出されている場合は、再び殺虫剤を注入しますが、この際、農
薬ごとに定められた使用回数を厳守します。
【注意事項】
殺虫剤や掻き出したフラスが目や口内に入り込むのを防ぐため、必ずマスクやゴー
グルをします。公園等では看板等の掲示により、作業に関する注意喚起を行います。
*農薬飛散による被害の発生を防ぐ一般的な指針
https://www.acis.famic.go.jp/acis/ref_hisanstop.pdf
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B.接触タイプ
自然界に生息する昆虫病原性糸状菌「ボーベリア ブロンニアティ(Beauveria
brongniartii)」を利用したもの(農薬名「バイオリサ」)です。シート状のパルプ
不織布に糸状菌が付着しており、本種はこのシートに接触すると菌に感染し、10 日間
ほどで死に至ります(写真-7、8)。
写真-7 生物農薬(農薬名バイオリサ)
提供:埼玉県生態系保護協会 草加・八潮支部
写真-8 生物農薬で昆虫病原性糸状菌(ボーベリア)に
感染させたクビアカツヤカミキリ 提供:国立研究開発法人 森林研究・整備機構
【時期】
成虫の発生期(概ね 5 月~9月中旬)
*ネット巻と併用する場合にはそれに準じる
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【使用方法】
本薬剤は、本種が接触する可能性のある主幹または主幹の分枝部に巻き付けて使用
します(写真-9、写真-10)。特にネット被覆(次ページ)と併用し、羽化した成虫
をネット内に留めて効果的に菌に感染させ、速やかに駆除することで、ネット内での
交尾・産卵やネットからの脱出・拡散を防止することができます(*)。
シートは最終的に自然分解するため、回収しなくても環境上の問題はありませんが、
景観等への配慮のため、使用後はできるだけ撤去するものとします。
*ネット被覆内を頻繁に点検することが可能な場合、ネット上部の隙間を抜け出た成虫を狙って、
ネットの外に設置するなどの手法も可能
写真-9 生物農薬の設置イメージ
提供:国立研究開発法人 森林研究・整備機構
写真-10 生物農薬とネット被覆を併用した事例
提供:埼玉県生態系保護協会 草加・八潮支部
【注意事項】
薬剤の有効期間は 30 日間とされていますが、高温乾燥や多雨、直射日光、ナメク
ジ類の食害などにより短くなることがあります。
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3)伐採・抜根等
伐採は、伐採木の中に生息する全ての幼虫や蛹を駆除して被害の継続や拡大を防止
するとともに、倒木や落枝による被害の防止できる、最も効果的な防除法です。
伐採後の幹や枝は、そのまま放置すると内部で幼虫が成長して羽化・脱出する可能
性があるため、原則として速やかに全量を焼却またはチップ化して処分します。
【時期】
伐採の時期は、伐採後に保管している幹や枝から成虫が発生して拡散する(概ね 5
月から 8 月)のを避けるため、原則として 9 月から 4 月までの間に行います。
【手順】
A.伐採
基本的には地上部を全て伐採します(写真-15・写真-16)。被害木の大半が無傷で、
枝の一部だけが被害を受けている場合には、被害を受けた枝を全て切り落とし、処分
する場合もあります。
写真-15 幹や枝の伐採① 写真-16 幹や枝の伐採②
どちらも提供:国立研究開発法人 森林研究・整備機構
B.根株処理
幼虫は、幹や枝だけでなく根の部分にも入り込みます。伐採した後の根株から成虫
が発生する可能性もあるため、伐採後はできるだけ抜根します。
抜根が困難な場合には、モルタルやコーキング剤などでのコーティング、盛り土、
目の細かいネットやビニールシート(*)などで切り口を被覆し、成虫の脱出を防ぎ
ます(写真-17)。
*ネットやビニールシートによる被覆の場合には、その後 2~3 年間は成虫の発生時期に当該被覆
部分の見回りが必要
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写真-17 コーティングの事例
(左:塗布処理された切り株、右:コーキング材) どちらも提供:国立研究開発法人 森林研究・整備機構
C.焼却・チップ化による処分
伐採後の幹や枝、抜根した根は、速やかに焼却またはチップ化して処分します(写
真-18、19)。チップは短辺を 10mm 以下にし、幼虫を確実に殺傷します。
写真-18 伐採後に出てきた幼虫 写真-19 チップ化処理
どちらも提供:国立研究開発法人 森林研究・整備機構
D.処分のための一時保管・運搬
伐採後、その場で速やかに焼却またはチップ化ができない場合は、幼虫や蛹の残
存や、羽化した成虫の拡散を防止するため、事前周知を行った上で、処分する幹や
枝を厳重に密閉した状態で一時保管や処分地までの運搬を行ってください。
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4)直接的な駆除
直接的な駆除として、成虫の捕殺と幼虫の刺殺があります。
捕殺は、被害状況調査やネット被覆箇所の巡回などにおいて、成虫を見つけた場合
にその場で踏みつぶすなどの方法で行います。
刺殺は、フラスが出ている排出孔に針金などを差し込み、幼虫を突き刺して殺す方
法です(写真-20)。効果を上げるためには、フラスを排出している排出孔を漏らさ
ず実施することが必要ですが、針金が幼虫まで届かないことも多く、他の手法と比べ
れば防除効果は低くなります。
写真-20 針金による刺殺