実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を...

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2008 年度 大学教育研究重点配分経費研究成果報告書 実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を有する教員の養成 理科教育講座(物理領域) 岩山 勉、矢崎 太一、牛田 憲行 テーマの目的・概要 児童・生徒の学力低下や理科離れが進んでいると指摘されるようになって久しいが、本 学では「訪問科学実験」をはじめとして様々な活動を行っている。しかし、これらの活動 を進めるうちに、子どもたちの「理科離れ」はこれまで指摘されてきたほど進んでいない のではないかという認識に変わってきた。あまり興味を示さない子供も「おもしろい理科 実験」(興味の持てる)に関わることで目が輝いてくるからである。 このことは、現在の理科教育が机上論が中心で、その本当のおもしろさが児童・生徒に伝 え切れていないことを強く示唆している。つまり、私たちも含めた多くの教員が「理科離 し」に荷担している可能性が極めて高い。新学習指導要領では、理科の実験や自然体験が 一層重視され、「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と 自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての『実感を伴った』理解 を図り、科学的な見方や考え方を養う」とされている。 理科の学生に限定しても、「物理」は好き嫌いのはっきりする分野である。自身が「実感 を伴った」実験を行っていない学生に、将来教員になってから、その様な指導を期待する ことはとても無理である。学生実験(2,3年生配当)において少しでも「経験」を積ま せることで、「理科離し」の連鎖を断ち切ることが急務であると考える。また、指導要領で は「観察、実験、栽培、飼育及びものづくりの指導については、指導内容に応じてコンピ ュータ、視聴覚機器などを適切に活用できるようにすること」と明示されているが、入学 時に購入したコンピュータは、実験においてもワード、エクセルの使用程度にとどまって いるのが現状である。このプロジェクトは、(1)「実感を伴った実験を自ら企画立案し実行 できる」力を養うことと、(2)「学生実験においてコンピュータを有効に活用する」ことを 目的として、理科実験の得意な教員の養成を目指した。 具体的には、2、3年生配当の、物理学実験、物理学実験Ⅰ、Ⅱ、物理教材実験、エレ クトロニクス実験等において、 (1) 高性能デジタルカメラの学生実験への活用 (3) 新学習指導要領に対応した物理教材の導入 (2) コンピュータのデータロガーとしての活用 などの実験内容改善を行った。詳細は次頁以降の実験テキストを参照願いたい。

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Page 1: 実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を …実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を有する教員の養成

2008 年度 大学教育研究重点配分経費研究成果報告書

実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を有する教員の養成

理科教育講座(物理領域) 岩山 勉、矢崎 太一、牛田 憲行 テーマの目的・概要 児童・生徒の学力低下や理科離れが進んでいると指摘されるようになって久しいが、本

学では「訪問科学実験」をはじめとして様々な活動を行っている。しかし、これらの活動

を進めるうちに、子どもたちの「理科離れ」はこれまで指摘されてきたほど進んでいない

のではないかという認識に変わってきた。あまり興味を示さない子供も「おもしろい理科

実験」(興味の持てる)に関わることで目が輝いてくるからである。 このことは、現在の理科教育が机上論が中心で、その本当のおもしろさが児童・生徒に伝

え切れていないことを強く示唆している。つまり、私たちも含めた多くの教員が「理科離

し」に荷担している可能性が極めて高い。新学習指導要領では、理科の実験や自然体験が

一層重視され、「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と

自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての『実感を伴った』理解

を図り、科学的な見方や考え方を養う」とされている。 理科の学生に限定しても、「物理」は好き嫌いのはっきりする分野である。自身が「実感

を伴った」実験を行っていない学生に、将来教員になってから、その様な指導を期待する

ことはとても無理である。学生実験(2,3年生配当)において少しでも「経験」を積ま

せることで、「理科離し」の連鎖を断ち切ることが急務であると考える。また、指導要領で

は「観察、実験、栽培、飼育及びものづくりの指導については、指導内容に応じてコンピ

ュータ、視聴覚機器などを適切に活用できるようにすること」と明示されているが、入学

時に購入したコンピュータは、実験においてもワード、エクセルの使用程度にとどまって

いるのが現状である。このプロジェクトは、(1)「実感を伴った実験を自ら企画立案し実行

できる」力を養うことと、(2)「学生実験においてコンピュータを有効に活用する」ことを

目的として、理科実験の得意な教員の養成を目指した。 具体的には、2、3年生配当の、物理学実験、物理学実験Ⅰ、Ⅱ、物理教材実験、エレ

クトロニクス実験等において、 (1) 高性能デジタルカメラの学生実験への活用 (3) 新学習指導要領に対応した物理教材の導入 (2) コンピュータのデータロガーとしての活用 などの実験内容改善を行った。詳細は次頁以降の実験テキストを参照願いたい。

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ハイスピードデジタルムービー、高速連写による物理現象の観察

目的

ハイスピードムービー、高速連写ができるデジタルカメラを使って身の回りの物理現象

を観察する。さらに、これまで、記録タイマー、スパークタイマー、ストロボライト等を

用いて測定されていた自由落下等の運動をデジタルカメラの連写機能を使って時間分解測

定し、そのデータを解析することを学ぶ。

デジタルカメラの概要 実験で使用するデジタルカメラはカシオ製

EX-F1 である。基本的なスペック等はカシオのH

Pを参照すること。ここでは、実験に必要な機能

に限定して概略、使用方法等を説明する。 600 万画素の超高速 CMOS センサーを搭載し、

1秒間に 60 コマの連写と、1秒間に 300 コマのハ

イスピード動画(300fps)が可能である。連写速

度は1秒間に 1 枚~60 枚で指定できる。内部バッ

ファは 60 枚分あるので、例えば1秒間に 10 コマ

の連写をすると 6 秒分撮影することができる。動

画については有効 600 万画素 CCD をフルに使わず、その一部を使用し、狭い範囲に限定し

た場合は1秒間に 1200 コマ(1200fps)までの超高速撮影が可能であるが、その場合は画

像サイズが極端に小さくなり、さらに暗くなるのであまり実用的ではない。300fps のハイ

スピード動画は 512×384 ピクセルで1秒間に 300 コマ、そしてそれを1秒間に 30 コマの

動画として記録する。すなわち、1 秒の動画を 10 秒かけて再生することになるので、10 倍

の超スローモーションが得られる(1200fps の場合は 40 倍)。

基本的な操作方法はマニュアルを読めばわかるが、本体の背面に動画専用のボタンがあり、

これを押すことでいつでも動画を撮ることができる。このボタンの周りに動画モード切り

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替えレバーがあり、HS(ハイスピード)、HD(ハイビジョン)、STD(スタンダード)動

画を変更することができる。

本実験での高速動画撮影では、HS モードで1秒あたり、300 コマ、600 コマ、1200 コ

マを決めて撮影する。動画はフレームレートであり1秒あたり 30 コマの動画として記録さ

れる(再生時は1秒あたり 30 コマのスロー動画)。なお、動画は QuickTime Movie(movファイル)で記録される。 次ページ以下で、動画撮影データをキャプチャしたものと連写撮影をしたもののうちで、

典型的な例を示してある。当然のことながら、高速撮影の場合、十分な明るさの照明が必

須である。 実験内容・報告事項 各自、これはと思う素材を見つけ撮影(動画・連写)を行うこと。単に「おもしろい」

だけではなく、撮影後、そのデータを定量的に解析し、撮影データとともにレポートとし

て提出すること。

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ミルククラウン

1 2

3 4

5 6

7 8

クラッカー

1 2

3 4

5 6

7 8

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水 風 船

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シャボン玉

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ボール投げ(高速連写)

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抵抗器・ニクロム線・コンデンサ・手回し発電機を用いた実験

目的

新指導要領(小学校理科)では、理科の実験や自然体験が一層重視され、 ・ 自然に親しむ(知的好奇心・探究心・目的意識・問題意識) ・ 見通しをもった観察・実験を行う(意欲的・主体的活動) ・ 問題解決の能力を育てる(結果の整理、相互の話し合い) ・ 実感を伴った理解を図る(具体的体験・主体的問題解決・日常生活とのかかわり) ・ 科学的な見方や考え方を養う(実証性・再現性・客観性) ことが目標とされており 主体的な問題発見 → 実験・観察による問題解決 → 実感を伴った理解

のプロセスによって、児童が、理科を学ぶことの意義や有用性を実感し、学ぶ意欲や科学

への関心を高めることが重要となる。 ここでは、小学校で学ぶ(直接は学ばないが指導する場合に知識が必要なことがらを含

む)、「電気の働き」、「電流の働き」、「電気の利用」の学習内容を中心とした実験を行う。

具体的な実験内容・方法等は指示しないので、「主体的に」実験内容、方法を工夫して、指

導時の留意点等を検討する。特に、学習指導要領との関連性に注意しながら実験を行う。 実験のために用意してあるもの (電流・電圧計、マルチメータ等の計測機器以外) オームの法則実験 抵抗器(10、20、30Ω)、乾電池 等

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電池の内部抵抗測定実験 抵抗(1、2、3、5、10、20、30Ω)、乾電池 等

ニクロム線の発熱実験 ニクロム線(φ0.20、0.26、0.30、0.40 mm)、サーモテープ、乾電池、手回し発電機 等

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電磁石の実験 電磁石(コイル)、鉄くぎ、鉄球、クリップ、乾電池 等

コンデンサによる蓄電・放電実験(LEDと豆電球の発光効率の比較実験) 蓄電・放電実験器(コンデンサ)、手回し発電機、LED(発光ダイオード)、豆電球 等

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LEDの場合 豆電球の場合

報告事項 これらのうちから最低1テーマを選び、何を目的として、どのような実験を行い(工夫

した点)、何を明らかとした(わかったこと)のかをまとめて報告すること。あわせて、指

導する場合に留意すべき点も記載すること。

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オシロスコープとデジタルデータロガ を利用した波形観測

Part 1 :アナログオシロスコープ

目的 オシロスコープは周期的電圧波形の時間変化

をブラウン管を用いて、目で見てその波形や周期(振

動数)および振幅の計測を可能にさせてくれる装置で

ある。 だから、たとえば、心臓の周期的(?)鼓動や

音圧の周期的変動の信号をセンサーによって電圧に

変換さえできれば、波形を目てその周期や振幅を知る

ことができるのである。 オシロスコープは時間的に

変動する自然現象を実験的に理解するには必要不可

欠な装置である。 発振器は任意の振幅および周期の

電圧波形を発生する装置である。 オシロスコープの

使い方を理解するために発振器をダミー信号の発生

器として利用する。 オシロスコープの仕組みを理解

し、その使い方に慣れることが本実験の目的である。

基本的知識 Fig.1 に示周期的波形は以下のような周

期関数で数学的に表現できる。

ここでtは時間、V は電圧を示す。この波形には特徴

的な電圧と時間がある。 A(volt)を振幅、T (sec)を周期と呼ぶ。また周期の逆数 f(=1/T )を振動数

または周波数(Hz)と呼ぶ。cos の内部を位相と呼び、

Φは t=0 での位相(初期位相)を示す。オシロスコー

プで波形を観測し、これらの物理量を測定してみよう。

実験装置および実験準備 オシロスコープ 1 台

(Fig.2A)、 発振器 1台(Fig.2B)、および BNC コ

ード3本(Fig.2C)があることを確認する。 特に BNC

コードは3種類揃っていることを確認する。BNC コー

ドは発振器とオシロスコープと接続し、発振器からの

電圧信号を転送する役割を果たす。

オシロスコープと発振器のマニュアルは必要に応じ

て活用せよ。またテキストは実験を始める前に必ず読

んで問題点・疑問点を整理しておくこと。

オシロスコープは大きく分けて4つの部分から構成

される。電子銃、水平偏向電極、垂直偏向電極および

同期回路である。以下に各々の役割・操作方法を簡単

に示すので、オシロスコープの原理をテキストおよび

マニュアルを利用して理解してみよう。

電子銃と蛍光面 ヒーター(H)によって陰極端子(K)

を熱すると陰極から熱電子放出される(Fig.3)。 陽

極端子(P)との間に図のような電圧を印加すると放出

さた電子は加速される。電子は K-P 間では等加速度運

V = A cos ( 2πt / T +Φ )・・・(1)

時間

T

A 電

Fig.1

Fig.2A

Fig.2B

Fig.2C

H

K P L

Fig.3

Fig.4

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動をし、P-L 間では等速度運動を行う。図には省略さ

れているが、K と P の間には熱電子をビーム(電子ビ

ーム)として加速および集束する制御格子(グリッド)

が設置されている。この部分を電子銃と呼ぶ。電子銃

から出た電子線が蛍光面(L)にあたると蛍光を発する。

我々はこの蛍光面での輝点を観測することができる。

実験1(蛍光面の調整): オシロスコープの電源①を

入れ、電子銃から発した電子線が蛍光面の中心に当た

り、Fig.4 のように蛍光を発することを観測せよ。ま

た摘み③④⑥を適当に調整し、マニュアルを参考にし

てその役割を理解せよ。

水平偏向電極(X) 陽極(P)を通過した電子線が蛍光

面に達する前に電圧が印加された水平偏向電極板(単

に2枚の金属の板)を通ると、そこで電子線は電極板

の間に生じた電場によって力を受け図のような軌跡

をたどる(Fig.5a はオシロスコープを上から見た図で

ある)。だから電子線の蛍光面にあたる位置は中心か

らずれる。この場合の蛍光面から見た模式図を Fig.5b

に示す。

実験 2(水平軸電圧入力): 水平軸に印加する電圧 Vx

をオシロスコープの摘み○29を時計方向に回すことに

よって変化させ、電子線の蛍光面に当たる位置が変化

することを確認せよ。摘みを反時計方向に回し、電圧

(電場)の方向を変え、同様に観測せよ。

水平軸の電圧の時間的変化がFig.6のようなのこぎ

り型ならば、電子線が蛍光面に当たって光る輝点は時

間的にどのように変化するだろうか? 摘み○29を使

って Fig.6 のような電圧変化をさせ、輝点のだいたい

の様子を調べてみよ。 輝点が蛍光面の左から右に繰

り返し移動する(「掃引される」と言う)のが観測さ

れるはずである。またのこぎり波形の周期を短くした

らどうなるだろうか?

オシロスコープは鋸波形の電圧を水平軸に印加し

て自動的に輝点を掃引することができる。また鋸波形

の周期も極めて小さくできる(たとえば10-7sec以下)。

摘み○26を反時計方向にいっぱい回して輝点を x軸(時

間軸)方向に自動掃引せよ。摘みを時計方向に回して

いくと鋸波形の周期(掃引時間)を短くできる。輝点

はどうなるだろうか? Fig.7 が観測されることを確

認せよ。

垂直偏向電極 水平偏向電極に印加された鋸波形電

圧によって掃引された電子線が蛍光面に達する前に

Fig.8 に示すように、垂直方向に電圧(VY)が印加さ

れた垂直偏向電極(Y)を通過したら電子線はどうな

るだろうか? VY が(1)に示すような周期的振動電圧

が印加されたら蛍光面の輝点はどのような軌跡をた

H

K P L

水平軸入力端子

垂直軸入力端

Y

X

Vx

X

Y

VY

H

K P L

X

水平軸入力端子

X

Vx

Fig.5a

Fig.5b

Vx

Fig.6

Fig.7

Fig.8

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どるだろうか?

実験 3(垂直軸電圧入力): 摘み○26を反時計方向にい

っぱいまわし、掃引しながら垂直軸に電圧を印加して

みる。摘み○19を変化させ垂直軸方向の電圧を変え、蛍

光面上の輝点の軌跡を観測せよ。

摘み⑩を手で周期的に回転させ(1)式のような振動

波形を垂直軸方向に印加して輝点の軌跡を観測して

みよ。ただし振動数は1Hz(周期は1sec)程度とす

る。蛍光面には X軸を時間軸として(1)式のような

単振動波形が観測されるはずである。すなわち、X 軸

方向に電子線を掃引しながらY軸方向に観測したい電

圧信号を入力すればその時間波形が蛍光面上で目で

観測することができるのである。

発振器を使ってみよう

発振器の出力を Fig.9 のように BNC コードを利用

してスピーカに接続せよ。発振器のスイッチを ON し

てスピーカからの音を聞いてみよう。各種摘みを動

かしスピーカからの音を聞きながら、摘みの機能を

調べよ。特に 440Hz、880Hz の音を聞いてみよ(NHK

の時報に対応する周波数である)。人間の耳は何 Hz

まで聞き取れるか? また何Hz程度の振動数の変化

を聞き分けられるか? 振動数と振幅を変化させな

がら出力される音を聞いて遊んでみよ。人間の耳は

振幅変化よりも周波数変化に対して敏感である。

実験 4(周期的電圧波形を蛍光面上で観察してみよう)

発振器から振動数が分かっている周期的電圧波形

を発生させ、その時間波形をオシロスコープで観測し

てみる。Fig.10 のように BNC コードを利用して発振器

からの信号をとオシロスコープのチャンネル1(CH1)

に接続する(CH2でもよい)。ただし発振器からの信

号の振動数は 20kHZ(20000Hz)に調節せよ。振幅を連

続的に変化させてみよう。 Fig.10 のような振動波形

が観測されることを確認せよ。この波形から以下のよ

うにしてオシロスコープを用いて振動数と振幅を決

定できる。

X 軸(時間軸): Fig.11 はオシロスコープの時間

軸を調整する部分である。オシロスコープのマニュア

ルを見ながら各々の摘みを適当に回してみて、それら

がどのような機能を持つか調べてみる。特に摘み○26は

X 軸(時間軸)のスケールを示す。たとえば2msec/div

を選択して波形を観測するならば X 軸の1division

(1区分)が2msec(=2x10-3sec)であることを示す

(Fig.12 参)。発振器からの信号がおよそ2kHz であ

ることをオシロスコープ上で確認せよ。

Fig.9

Fig.10

Y

2 msec/div 2 msec

X

2 v/div

2 volt

Fig.12

Fig.13

Fig.11

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Y 軸(信号電圧): Fig.13 はオシロスコープの CH1

または CH2に入力された信号電圧の Y 軸を調整する

部分を示す。オシロスコープのマニュアルを見ながら

各々の摘みを適当に回してみて、それらがどのような

機能を持つか調べてみる。特に摘み⑬は Y軸のスケー

ルを示す。たとえば2v/div を選択して波形を観測す

るならば Y軸の1division(1区分)が2volt である

ことを示す(Fig.12 参)。入力された電圧信号の振幅

を測定せよ。また同じ信号を CH2 に入力して同じこと

を試してみよ。モード選択(Fig.14)の部分も何を行

う部分か触って確かめてみよう。AC-GND-DC スイッチ

は何のためにあるのだろうか? 触って確かめてみ

よう。

以上のように、未知の周期的電圧信号をオシロスコ

ープを利用してその波形や振幅および周波数を観測

することができる。オシロスコープはまさに交流電圧

計であり、時間的に変動する自然現象を実験的に理解

するのには必要不可欠な測定器である。

同期回路 輝点を掃引するための鋸波形の振動数 fx

と信号電圧の振動数 fy の比が整数でない場合、オシ

ロスコープ上の信号波形は決して静止しない

(Fig.15のような静止しない波形が観測される)。波

形を静止させるためには振動数の比が整数値に調整

されなければならない。この事を「同期をとる」とい

う。同期を取るための調整部分を Fig.14 に示す。波

形が静止しない場合は摘み○34を AUTO モードで注意深

く回し、波形が静止するように同期をとる。

実験 5 オシロスコープと発振器を使いこなそう

① 発振器から適当な振動波形を出力しオシロスコー

プで振動数や振幅を測定してみよう。

② CH1 および CH2 を使って波形を観測してみよう。

③ オシロスコープの他の部分についてマニュアルを

利用しどんな機能を持っているか調べてみよう。

④ スピーカを BNC ケーブルと通してオシロスコープ

につなぎ自分の音声の波形を見てみよう。

チェックポイント

① 発振器から指定した振動数の電圧信号をスピー

カで音に変換し耳で聞くことができるか。

② 発振器から指定した振幅および振動数の波形を

出力し、それをオシロスコープ上で静止させ観測

することができるか。

③ オシロスコープ上の信号波形の振動数および振

幅を読みとることができるか。

オシロスコープの他の機能:リサージュ図形: Fig.17に示すように、VX が鋸波形でなく(2)式のような単振動

Fig.15

X

Y

VY

Vx

Fig.17

Fig.16

Fig.14

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波形で、また VYが振動数や振幅の異なった(3)式のよう

な単振動波形の場合、VXと VY関係をオシロスコープ上

で観測できる。 観測される図形をリサージュ図形と呼

ぶ。(2),(3)式から時間を消去した図形を示す。 たとえば、両者の振幅が同じで(A=B)また振動数も

等しければ(f1=f2), 位相差Φの値によって Fig.18 の

ようなリサージュ図形が観測されるはずである。 実験6 リサージュ図形を観測してみよう 2つの発振器を利用して、それぞれの信号をオシロス

コープの CH1と CH2に入力してリサージュ図形を観測

してみよう。この時、摘み○26は X-Y モードを選択せよ。

また振動数の比は1:1に調整すること。異なる発振器

を使用しているのでその比は決して厳密に1:1にはな

らない。だから位相Φ は時間と共に少しづつ変化し、結

果的に Fig.18 のような図形が観測されることになる。確

認せよ。 一般に振動数の比が簡単な整数値(たとえば 1:1, 1:2, 1:3, 2:3,・・・)の場合はどのような図形を示すであろ

うか? 調べてスケッチしてみよう。観測例を Fig.13に示す。リサージュ図形は周波数の特定をするには便利

な方法である。1つの発振器で適当な振動数の波形を

CH1 に入力し、別の発振器の出力を CH2 につなぎリサ

ージュ図形を観測することによって CH1 の波形の振動

数を決定することができる。試してみよ。 チェックポイント ① 2つの発振器を用いて、それらの振動数の比が簡単

な整数値であるときリサージュ図形をオシロスコー

プ上に描くことができるか。 ② リサージュ図形をみて2つの振動数の比を特定でき

るか。 ③ リサージュ図形と発振器を利用して未知の周期的信

号の振動数を決定することができるか。

おわりに 発振器とオシロスコープを使いこなせる自信がついた

だろうか。自然界には時間的に変動する現象で満ち溢れ

ている。時間的に変動しない現象には、面白い科学(物

理)は存在しないであろう。時間のスケールに違いはあ

れ、物理現象も生命現象も社会現象(株価の変動)も興

味ある現象には必ず時間依存性がある。オシロスコープ

はこれらの現象を理解するのに極めて重要な装置である。

近はデジタルオシロスコープによって周期的でない波

VX = A cos 2πf1t ・・・(2)

VY = B cos ( 2πf2t +Φ )・・・(3)

Fig.19

Φ=0 Φ=π/2

Φ=π Φ=π/4

VX

VY

Fig.18

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形の観測ができるようになった。どんな新しい装置がで

きても基本はこのテキストで充分である。3年の実験・

卒業研究では、ここでの知識が直接役に立つはずである。

Part2 データロガを用いた波形観測 目的 デジタルデータロガを用いて波形観測し,デジタ

ルデータの取り扱いについて学ぶ。 システム構成 上図に示すようにアプリケーションソ

フトをインストールしたパーソナルコンピュータ と、

EZ5840 データロガーハードユニットを USB1.1 により

接続する。ハードユニットは、USB ケーブルを通じて PC

から動作電源を確保するため、外部電源は必要ない。

実験1 も基本的なオシロスコープとしての使い方 ハードユニットを介してターゲット機器の信号を、2 チャ

ネル独立して表示する(オシロモード)。画面上に表示さ

れる各ボタンやジョグダイアルを操作して、Part1で学ん

だハードウェアによるオシロスコープと同様の操作感で、

入力波形の表示等の設定を行うことができる。(次ページ

の図を参照)

オシロモード

1)表示切替え

CH1、CH2、Both(1 画面にCH1、CH2 同時表示)

2)画面ハードコピー機能

波形表示部のスクリーンショットを、ビットマップイメ

ージ(* .bmp 形式)でペースト取り込み。

3)トリガ機能

Slope(Positive、Negative)、Mode(AUTO 、NORM、

SINGLE)、Level の組み合わせによるオートスタート/

ストップ機能(マニュアル参照)

Page 18: 実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を …実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を有する教員の養成

実験2 データロガーを信号記録装置として使用

画面上に表示されるコントロールボタンを操作して、タ

ーゲット機器の信号を2 チャネル同時に記録し、波形フ

ァイル(*.ddt) として保存できることを確認する(ロ

ガーモード)。記録できる時間はサンプリングレートの

設定によって変わるが、ファイルサイズで 大約2GB ま

で記録可能である。モニタ画面( 時間軸)により、波形

をリアルタイムに表示しながら記録することができる。

保存した波形ファイル(* .ddt) は、信号発生器「ファ

ンクションジェネラータ」から出力することができる。(マ

ニュアル参照)

ロガーモード、モニタ画面(時間軸)(記録時)

入力スケール

±1V、±10V より選択

サンプリングレート

44100 、22050 、8820 、4410 、2205 、882 、

441、100 、50、20、10、5、2、1[S/s] より選択

動作状態表示

データロガーの現在の動作状態を[Status:] 、[Data:

に各々表示します。(マニュアル参照)

モニタ表示

記録中の波形を、上下二段に分けてモニタ画面(時間軸)

に表示する。(マニュアル参照)

記録の前にオシロモードで信号波形をチェックする

こと。画面上にpart1のオシロスコープの操作感を実現し

た。記録終了後には、波形表示の時間幅を変えたり、記

録波形と演算結果を並べて表示したり、解析作業を強力

に支援する。(マニュアル参照)

Page 19: 実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を …実感を伴った理解を図るための物理実験教材を開発する力を有する教員の養成

実験3 信号解析装置としての使い方

ロガーモードにより、PC のハードディスクに記録した信

号を読み込んで再生したり、様々な演算機能、検索機能

による解析を行うことができる(例として高速フーリエ

変換ソフトを使用)。トリガ検索後、検出ポイントがイ

ベントマークとしてグラフィカルに表示されます。また、

記録した波形の一部を切り取り編集したり、基準波形と

して保存することができる。

ロガーモード、モニタ画面(時間軸)(再生時)

演算機能

四則演算、実効値/ 平均値、相関、フーリエ変換、コヒ

ーレンス

フーリエ変換、コヒーレンス実行後は、モニタ画面に周

波数軸波形を表示

検索機能

レベルトリガ、エンベロープトリガ、また、検索シーケ

ンス編集画面によるシーケンス検索(マニュアル参照)

実験4 ファイルへのデータの保存

ファイル名を入力し、「保存」ボタンを押すと、「チャ

ネル選択」ダイアログが表示される。ここで保存するチャ

ネルを指定し、「保存」ボタンを押す。ファイルの保存中、

および保存処理の終了は、「データロガー」ダイアログの

ステータス表示で確認できる。ファイルは、ヘッダ部とデ

ータ部に分かれます。ヘッダ部とデータ部には、区切りを

認識させるために、先頭には識別子(HEADER,DATA) を設

けます。ヘッダ部は、ファイルの先頭から必要な情報を列

挙する。

各自,配布されたマニュアルを必ずよく読んでおくこと。