統合失調症 - 役に立つ薬の情報~専門薬学3 第一章.統合失調症とは...

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統合失調症 深井 良祐 [著] Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine.

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統合失調症

深井 良祐 [著]

Pharmaceutical education for the general public.

Advanced level text to learn medicine.

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目次

第一章. 統合失調症とは P. 3

1-1. 統合失調症の概要 P.3

1-2. 統合失調症の症状 P.5

1-3. 統合失調症の経過 P.8

1-4. 統合失調症における治療のポイント P.9

第二章. 脳の構造と統合失調症 P. 10

2-1. 神経伝達物質とは P.10

2-2. 陽性症状と陰性症状での脳機能 P.11

2-3. 陰性症状とセロトニン P.12

第三章. 抗精神病薬(定型抗精神病薬) P. 13

3-1. 定型抗精神病薬の作用機序 P.13

3-2. 定型抗精神病薬による副作用 P.14

第四章. 抗精神病薬(非定型抗精神病薬) P. 16

4-1. D2受容体・5-HT2受容体遮断薬(SDA) P.16

4-2. 多元受容体標的化抗精神薬(MARTA) P.17

4-3. D2受容体パーシャルアゴニスト P.18

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第一章.統合失調症とは

心の病気と呼ばれる疾患の中で、うつ病と並ぶ代表的な疾患として統合失調症があります。心の

病気を医学用語で精神疾患と呼び、これは脳の神経伝達物質に異常が起こっている病気です。

うつ病や統合失調症によって様々な症状が表れますが、これらは決して「怠け者」という訳では

ありません。病気である以上は「気合い」や「根性」などで治るものでもありません。

そのため、これらの症状は「病気によって起こる」という事を認識して治療する必要があります。

1-1. 統合失調症の概要

統合失調症は人種や性別に関係なく、100 人に 1 人の割合で発症すると言われています。そ

のため、統合失調症はありふれた病気の一つです。

この病気では「脳」の機能に障害が起こっています。もっと正確に言えば、神経伝達物質の

働きに異常が起こっています。

脳内で働く神経伝達物質は感情や思考、意欲、情報処理、そしてコミュニケーション能力な

ど、多くの機能に関与しています。

物事を考えて処理する機能は脳が担っているため、これらの機能に異常が起こると当然なが

ら判断力の低下や感情コントロールが難しくなります。

ただ重要なことは、「統合失調症は治療可能な病気である」という事です。

統合失調症はあくまでも精神疾患の一つです。そのため、適切な治療を行えばうつ病を治療

できるのと同じように、統合失調症も不治の病ではありません。さらに、入院ではなく通院に

よって治療可能なケースもあります。

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・統合失調症の発症

統合失調症は 10 代後半から 30 代頃にかけて最も多く発症します。つまり、思春期から青年

期に統合失調症は発症しやすいです。

※70~80%が思春期から 30 歳までに統合失調症を発症します

うつ病では多くの心理ストレスや環境因子が加わることによって発症しますが、統合失調症

も同じようにストレスや環境が関わっています。

これによって脳内に存在する神経伝達物質のバランスが崩れてしまうと、統合失調症を発症

してしまいます。

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1-2. 統合失調症の症状

統合失調症の症状としては、主に陽性症状と陰性症状の二つに分けられます。ただし、もっ

と細かく分ければ、ここに認知障害が加わって三種類になります。

それぞれの症状としては以下のようになります。

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・陽性症状

統合失調症によって表れる陽性症状は、この病気特有の症状です。そして、この陽性症状を

簡単に考えれば「本来、心の中にないものが存在する」となります。

もともと心の中にはないものが、聞こえたり見えたりすることによって、幻聴や被害妄想な

どが表れます。脳内の神経伝達物質に異常が起こっているため、正常な人にはないものが存在

するようになります。

これら陽性症状は統合失調症を発症して間もない頃や再発時に多く見られます。

陽性症状 特徴

幻覚 ・誰かが自分の悪口を言っている

・奇妙なものが見える(幻視)、体に変な感覚がある(体感幻視)

妄想 ・非現実的なことで悩む

・誰かに見張られている、自分は偉大な人物である

他人に

支配されやすい

・自分と他人との境界線が曖昧になってしまう

・自分の行動や考えは他人によって支配されている

考えがまとまらない ・話の内容が次々に変わる

・考えがまとまらず、相手は何を言っているのか理解できない

異常な行動 ・極度に緊張することで、衝動的な行動を起こす

・その逆に外からの刺激に全く反応しなくなる

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・陰性症状

陽性症状に対して、陰性症状では「本来、心の中にあるはずのものが存在しない」と考える

ことができます。

正常な人では感情や意欲がありますが、統合失調症による陰性症状ではこれらもともと備わ

っているものがない状態となります。そのため、社会的引きこもりや無関心などの症状が表れ

てしまいます。

なお、これら陰性症状は統合失調症を発症してから少し経過した後(急性期の後)に多く見

られます。統合失調症によって長期的に表れる症状として、この陰性症状があります。

陰性症状 特徴

感情の減退 ・喜怒哀楽が乏しくなる

・意欲や気力、集中力が低くなって興味や関心を示さなくなる

思考能力の低下 ・言葉の数が極端に少なくなる

・思考力の低下によって、会話の内容が薄くなる

コミュニケーション

への支障

・他人との係わり合いを避ける

・ぼ~っと過ごす日々が続く

・認知障害

脳で判断する認知機能としては記憶や注意、思考、判断などがあります。統合失調症は脳の

神経伝達物質に異常が起こることで陽性症状や陰性症状を発症しているため、これら認知機能

に対しても機能障害が起こっています。

認知機能が障害されているために、注意力が散漫になってしまったり作業能力が低くなった

りします。

認知障害 特徴

選択的注意の低下 ・わずかな刺激や情報に対しても反応してしまう

・相手の話よりも周りの雑音や動きに反応してしまう

過去の記憶や類似点との

比較が難しい

・間違った情報を結びつけてしまう

・似た名前を並べることができない

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1-3. 統合失調症の経過

統合失調症の一般的な経過としては、次の四つに分けて考えます。

① 前駆期

病気を発症する前段階です。睡眠障害や感情の起伏など、統合失調症を発症する何らかの兆

候があらわれます。

② 急性期

幻覚・幻聴、妄想、奇妙な行動などの陽性症状が表れます。ただし、本人は「自分は病気で

ある」という認識はありません。

急性期は数週間の期間で症状が表れます。

③ 休息期

主に陽性症状が表れる急性期が過ぎると、今度は意欲・集中力の低下や疲労感が強くなる陰

性症状が表れるようになります。

この時期にストレスが加わると急性期に逆戻りしてしまう可能性があります。そのため、精

神状態が不安定な時期でもあります。

休息期は数週間から数ヶ月の期間経過をたどります。

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④ 回復期

回復期では少しずつ病気の症状が治まっていきます。この時期から外出したい気持ちが出た

り、本を集中して読めたりするようになります。

ただし、認知障害やコミュニケーションの支障などの症状が長く続くこともあります。回復

期では数ヶ月から何年もの時間を経る必要があります。

1-4. 統合失調症における治療のポイント

統合失調症の治療は、薬を使った治療を中

心に行います。急性期から回復期にかけて治

療の基本となるのが薬物療法です。

症状が治まっていたとしても服用の中断は

再発の大きなリスクとなります。

薬を適切に継続服用している場合と勝手に

服用を中断した場合では、適切に継続服用し

ている場合の方が再発率を 5 分の 1 まで低下

させることができます。

ただし、薬だけの治療だけでなく精神療法も行われます。精神療法では、患者さんの心理・

精神面をサポートします。病気の症状への理解や面接を通すことで、精神的な安定を行います。

また、社会復帰のためにリハビリテーションも重要となります。統合失調症の急性期を過ぎ

た後にリハビリテーションが行われ、認知障害などを初めとする機能障害からの回復を目指し

ます。

リハビリテーションでは作業療法士の指導のもとで行う園芸や料理などによって、充実感や

達成感を体験させます。また、対人コミュニケーションを円滑に行うためのトレーニングであ

る SST(ソーシャルスキル・トレーニング)なども行われます。

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第二章.脳の構造と統合失調症

2-1. 神経伝達物質とは

脳の中に存在する神経伝達物質とは、神経細胞同士で情報伝達のやり取りを行う物質のこと

を指します。この物質が存在するために物事を考えたり、意欲や活力が起こったりします。

神経細胞と神経細胞との間には隙間があります。そのため、そのままの状態ではシグナルと

して神経を伝わりません。そこで、この神経細胞同士の隙間で情報伝達を行うための物質とし

て神経伝達物質があります。

このような神経伝達物質の中でも、特に脳内(中枢)で働く物質としてはノルアドレナリン

やセロトニン、ドパミン、アセチルコリンなどがあります。

これら様々な神経伝達物質が作用することによって複雑な脳機能を実行できるようになって

います。

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2-2. 陽性症状と陰性症状での脳機能

統合失調症を考える上で重要となる神経伝達物質としてドパミンがあります。このドパミンに異

常が起こることによって、統合失調症を発症してしまいます。

この時、統合失調症ではドパミンが過剰になることによって症状が引き起こされます。特に陽性

症状が表れているときはドパミンが過剰になっています。ドパミンが過剰になることによって、幻

覚や妄想などの症状が引き起こされます。

そのため、このドパミン量を減少させるように働く薬は統合失調症による陽性症状を改善させる

ことができます。

ただし、脳の全ての経路でドパミンが過剰になっている訳ではありません。統合失調症によって

ドパミンの分泌が亢進している部位は脳の中でも中脳辺縁系と呼ばれる部分です。

その一方で、ドパミン機能の低下が起こっている部分も存在します。このような部分として

中脳皮質系があります。陰性症状では意欲減退や集中力の低下が起こりますが、このドパミン

量の低下が陰性症状を引き起こすと考えられています。

そのため、「ドパミン量が過剰になっている陽性症状」と「ドパミンが減少している陰性症状」

があるため、統合失調症では相反する症状が隠れているようになります。

陽性症状を改善させるためにドパミンを強力に阻害すると、中脳皮質系のドパミンまで抑え

て陰性症状を強く引き出してしまう恐れがあります。

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2-3. 陰性症状とセロトニン

ドパミンだけを阻害する場合では陽性症状を改善させることが出来ても、陰性症状までは改

善させることができません。

そこで、統合失調症による陰性症状を改善させるためにはドパミン阻害作用だけでなく、セ

ロトニン阻害作用も併せ持たせる必要があります。このセロトニンまで阻害することによって、

統合失調症の陰性症状まで改善させることができます。

ただし、セロトニンだけを阻害しても陰性症状は改善しないため、陰性症状の改善にはドパ

ミン阻害作用に加えてセロトニンまで阻害する必要があります。

ドパミンを阻害しすぎると陰性症状が悪化するため、ドパミン阻害作用を緩やかにする必要

があります。これにセロトニン阻害作用を加えることによって統合失調症による陰性症状を改

善させます。

このようにして、統合失調症による陽性症状と陰性症状の両方を改善させることができます。

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第三章.抗精神病薬(定型抗精神病薬)

3-1. 定型抗精神病薬の作用機序

統合失調症治療薬は抗精神病薬とも呼ばれます。このような抗精神病薬として始めに開発された

薬に定型抗精神病薬(従来型の抗精神病薬:第一世代の抗精神病薬)があります。

定型抗精神病薬はドパミンに対してのみ抑制する作用をもっています。ドパミンの働きを強力に

抑制するため、もともとドパミンが過剰になっている陽性症状に対しては大きな改善効果を持ちま

す。

神経伝達物質の一つであるドパミンはドパミン受容体に作用することでシグナルを伝えます。こ

の時、ドパミン受容体としては主に D1受容体と D2受容体の二つがあります。

ドパミンはこれらドパミン受容体に作用することでその効果を発揮させますが、定型抗精神病薬

はこの中でも D2受容体を阻害する働きがあります。

ドパミンが作用するための D2受容体を阻害されるため、ドパミンが受容体に結合できなくなりま

す。その結果、ドパミンの作用が弱まります。

このようにして、従来型の抗精神病薬である定型抗精神病薬は D2受容体を阻害することによって

ドパミンの作用を抑えます。これによって、統合失調症の陽性症状を改善させることができます。

このような、定型抗精神病薬としてクロルプロマジン(商品名:コントミン、ウインタミン)、ハ

ロペリドール(商品名:セレネース)などがあります。

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3-2. 定型抗精神病薬による副作用

・パーキンソン症候群(パーキンソニズム)

統合失調症の陽性症状では脳内でのドパミン量が増えている状態となっています。そのため、ド

パミンが作用する D2受容体の阻害作用をもつ定型抗精神病薬は「統合失調症による陽性症状」を抑

制することが出来ます。

このように、脳内のドパミン量が増えることによって統合失調症の症状が表れますが、この反対

に脳内のドパミン量が少なくなることによって発症する有名な病気としてパーキンソン病がありま

す。

定型抗精神病薬はドパミンの作用を弱めることで陽性症状を改善しますが、ドパミンの作用を抑

制するという事は「その作用が強すぎるとドパミン量が少なくなりすぎてしまう」という事も意味

しています。

そのため、定型抗精神病薬によってドパミンの作用が弱まり過ぎるとパーキンソン病と同じ症状

が表れてしまいます。これをパーキンソン症候群(パーキンソニズム)と呼びます。

ただし、薬の服用によって起こるパーキンソン症候群では、薬の服用を中止するとその副作用の

症状も治まります。そのため、完治が困難であるパーキンソン病とは区別されます。

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・高プロラクチン血症

定型向精神病薬(従来型の抗精神病薬)の副作用としては、パーキンソン症候群以外にも高プロ

ラクチン血症があります。

プロラクチンはホルモンの一種であり、このホルモンは乳汁の分泌を促す作用があります。その

ため、出産後は乳汁の分泌を促すためにプロラクチンの合成が促進されます。

また、プロラクチンは排卵を抑制することで妊娠を抑えます。出産後で母乳が必要な乳児はまだ

小さいため、この乳児を守るためにもプロラクチンによって乳汁分泌が促進されている間は次の妊

娠も抑制されます。

このように、プロラクチンは妊娠に関わるホルモンの一つとなります。ただし、中には「その他

の原因によって、出産後でないにもかかわらずプロラクチン濃度が高くなっている場合」がありま

す。この状態が高プロラクチン血症です。

高プロラクチン血症の状態では授乳期でなくても乳汁分泌が起こり、無月経排卵(排卵を伴わな

い月経)を起こすようになります。

このような結果、生理不順や無排卵によって不妊を引き起こすようになります。

そして、このプロラクチンの分泌は D2受容体の活性化によって抑えられます。ドパミンは D2受

容体に結合することで、この受容体を活性化させます。つまり、ドパミンはプロラクチンの分泌を

抑制する働きがあります。

それに対して、定型抗精神病薬は D2受容体を阻害する作用があります。プロラクチン分泌を抑制

している D2受容体を阻害するため、定型抗精神病薬はプロラクチン分泌を促進させるように働きま

す。

このようにして、定型抗精神病薬の副作用として高プロラクチン血症が表れます。

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第四章.抗精神病薬(非定型抗精神病薬)

4-1. D2受容体・5-HT2受容体遮断薬(SDA)

前述の通り、定型抗精神病薬(従来型の抗精神病薬:第一世代の抗精神病薬)は統合失調症の陽

性症状を改善します。しかし、その作用機序からパーキンソン症候群や高プロラクチン血症が副作

用として表れます。

そこで、これら定型抗精神病薬に対して使用される言葉として非定型抗精神病薬があります。な

お、非定型抗精神病薬は第二世代抗精神病薬とも呼ばれています。

非定型抗精神病薬では D2 受容体の遮断作用が弱くなっており、その代わりとしてセロトニン 2

受容体(5-HT2受容体)の阻害作用を併せ持っています。

このように、非定型抗精神病薬はドパミンのみならずセロトニンまで阻害することによって、統

合失調症の陰性症状まで改善させることができます。それだけでなく、D2受容体阻害作用も弱くし

ているのでパーキンソン症候群や高プロラクチン血症などの副作用も軽減しています。

このように、ドパミン 2 受容体(D2受容体)とセロトニン 2 受容体(5-HT2受容体)の阻害作用

によって統合失調症を治療する薬としてリスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(商

品名:ルーラン)、パリペリドン(商品名:インヴェガ)などがあります。

この種類の薬はセロトニンとドパミンの阻害剤として SDA(セロトニン・ドパミンアンタゴニ

スト:Serotonin-Dopamine Antagonist)と呼ばれることもあります。なお、アンタゴニストとは

「阻害剤」を意味します。

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・より詳しい作用機序

セロトニン受容体(5-HT 受容体)には様々な種類があります。その中でも非定型抗精神病薬によ

る統合失調症を改善させる作用はセロトニン 2A 受容体(5-HT2A受容体)の阻害によります。

4-2. 多元受容体標的化抗精神薬(MARTA)

D2受容体と 5-HT2受容体を遮断することで、統合失調症の陽性症状・陰性症状の両方を改善でき

ることを先に述べました。抗精神病薬の中にはこれら D2受容体・5-HT2受容体に加えて、他の多く

の脳内受容体を遮断する医薬品があります。

このような作用をする薬を多元受容体標的化抗精神薬(MARTA)と呼びます。

「多元受容体標的化抗精神薬」などの難しい言葉を覚える必要はありませんが、これら医薬品が

作用する概念をおさえて頂ければと思います。

多元受容体標的化抗精神薬(MARTA)は D2 受容体・5-HT2 受容体の阻害作用だけでなく、アド

レナリンα1受容体やヒスタミン 1 受容体(H1受容体)にも作用します。

このように多くの受容体に作用するため、抗精神病作用だけでなく双極性障害(躁うつ病)など

に使用される事もあります。

これら D2受容体・5-HT2受容体以外の様々な受容体に作用することによって統合失調症を治療す

る薬としてオランザピン(商品名:ジプレキサ)、クエチアピン(商品名:セロクエル)などがあ

ります。

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4-3. D2受容体パーシャルアゴニスト

※パーシャルアゴニストに関しては「くすりについて③」に詳しく記載しているため、そちらを

参考にして下さい。

統合失調症の陽性症状が表れる急性期ではドパミンが過剰になっています。そのため、このド

パミンの作用を抑える D2受容体阻害薬は陽性症状を抑えることができます。

しかし、急性期が過ぎた後に表れる陰性症状ではドパミン量が減少しています。そのため、

陰性症状の改善まで考慮すると D2受容体を阻害するだけでは不十分であることが分かります。

そのために、セロトニン受容体(5-HT 受容体)の阻害作用を併せ持つ医薬品が開発されまし

た。

そこで、今度は陽性症状におけるドパミン量を抑制し、その反対に陰性症状でのドパミン量

を増やす医薬品が考え出されました。これは、D2受容体のパーシャルアゴニストにすることで

可能となっています。

パーシャルアゴニストであるため、ドパミンが過剰になっている陽性症状では D2受容体を阻

害するように働きます。その反対にドパミンが不足している陰性症状では D2受容体を適度に活

性化するように作用します。

つまり、受容体を中途半端に活性化させるドパミン受容体パーシャルアゴニストは陽性症状

と陰性症状の両方を改善させることができます。

このように、ドパミン受容体を適度に活性化することで統合失調症を治療する薬としてアリ

ピプラゾール(商品名:エビリファイ)があります。

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○ 統合失調症の主な治療薬

主な作用機序 一般名 商品名

D2受容体のみを阻害

(定型抗精神病薬)

クロルプロマジン

コントミン

ウインタミン

ハロペリドール セレネース

D2受容体・5-HT2受容体遮断薬:SDA

(非定型抗精神病薬)

リスペリドン リスパダール

ペロスピロン ルーラン

パリペリドン インヴェガ

ブロナンセリン ロナセン

多元受容体標的化抗精神薬:MARTA

(非定型抗精神病薬)

オランザピン ジプレキサ

クエチアピン セロクエル

D2受容体パーシャルアゴニスト

(非定型抗精神病薬) アリピプラゾール エビリファイ