増え続ける訪日客に対する...

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No.151 増え続ける訪日客に対する 受け入れ体制について 2013年の訪日外客数は1,000万人を初めて突破し、過去最高となった。うち台湾からは221万人(前 年 比 5 0 %増)と、国・地 域 別にみると韓 国に次いで2位を記 録した。今 後さらに福 岡へ訪 日 客を呼び込 むためには、観 光に関するインフラの整 備、魅 力あるローカル情 報の発 信 等、ソフト・ハード両 面での取 組みにより訪 日 客の満 足 度を高め、S N S 等で「口コミ」の発 信 者となってもらうことが必 要である。 増加する訪日客の現状 日 本 政 府 観 光 局( J N T O )によると、2 0 1 3 年 の訪日外客数は1,000万人を初めて突破し、過 去最高となった(図1)。観光庁が取り組むビジッ ト・ジャパン(VJ)事業が2003年に開始されて 以降、訪日客数は順調に拡大している。この勢い は今年に入っても続いており、観光庁の久保長官 は2014年の訪日客数について、年間1,200万 人 台を目 指すとの見 解を示している。 公益財団法人交流協会 台北事務所(研修生) 後藤 俊治 図1:訪日外国人旅行者数の推移(出典:JNTOホームページ) 増加の要因としては、円安の影響、格安航空 会社(LCC)の就航拡大による路線数の増加、 東南アジア諸国向け観光査証(ビザ)の発給要件 の緩 和などが考えられる。 政府は、東京オリンピックが開催される2020 年をめどに、訪日客2,000万人の目標を掲げてお り、オリンピック効果により日本への注目度がアッ プするこの機会を捉えて、国を挙げた更なる訪日 客 誘 致の取 組みが進められるものと思われる。 中でも、台湾からの2013年の訪日客数は221 16 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2014.12

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No.151

増え続ける訪日客に対する受け入れ体制について

 2013年の訪日外客数は1,000万人を初めて突破し、過去最高となった。うち台湾からは221万人(前年比50%増)と、国・地域別にみると韓国に次いで2位を記録した。今後さらに福岡へ訪日客を呼び込むためには、観光に関するインフラの整備、魅力あるローカル情報の発信等、ソフト・ハード両面での取組みにより訪日客の満足度を高め、SNS等で「口コミ」の発信者となってもらうことが必要である。

増加する訪日客の現状1

 日本政府観光局(JNTO)によると、2013年

の訪日外客数は1,000万人を初めて突破し、過

去最高となった(図1)。観光庁が取り組むビジッ

ト・ジャパン(VJ )事業が2003年に開始されて

以降、訪日客数は順調に拡大している。この勢い

は今年に入っても続いており、観光庁の久保長官

は2014年の訪日客数について、 年間1,200万

人台を目指すとの見解を示している。

公益財団法人交流協会台北事務所(研修生)

後藤 俊治

図1:訪日外国人旅行者数の推移(出典:JNTOホームページ)

 増加の要因としては、円安の影響、格安航空

会社(LCC )の就航拡大による路線数の増加、

東南アジア諸国向け観光査証(ビザ)の発給要件

の緩和などが考えられる。

 政府は、東京オリンピックが開催される2020

年をめどに、訪日客2,000万人の目標を掲げてお

り、オリンピック効果により日本への注目度がアッ

プするこの機会を捉えて、国を挙げた更なる訪日

客誘致の取組みが進められるものと思われる。

 中でも、台湾からの2013年の訪日客数は221

16 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2014.12

Page 2: 増え続ける訪日客に対する 受け入れ体制について...で行こうとしても、車内にスーツケース置場がな いため、タクシーで移動せざるを得ない。」などの

図2:訪日台湾人の消費動向 (出典:観光庁「訪日外国人の消費動向 平成25年年次報告書」)

万人(前年比50%増)と、訪日客の5人に1人を

占め、国・地域別にみると韓国に次いで2位を記

録した。台湾からの訪日客数は、2013年2月か

ら18か月連続で各月の過去最高を更新し続けて

いるが、さらに、2014年1月~7月推計値では、

前年比で3割以上上回るペースで伸びており、国・

地域別で韓国を抜き1位となっている。

台湾からの訪日客の特徴・動向2

 台湾からの訪日客について観光庁の資料をもと

に見てみると、観光・レジャー目的の割合が高く、

しかもリピーターが多いため、主要な観光地は既

に訪問済み、もしくは詳しい人が多い(図2)。そ

のため、魅力的な観光情報の発信と同時に、台湾

ではまだあまり知られていない独自の観光情報を

提供し、訪日客を飽きさせない工夫を行う等、そ

の特徴に応じた取組みが重要となる。

 また、旅行の際の情報源としては、個人のブロ

グ・インターネットの割合が高い。さらに、旅行

者の過半数を女性が占め、特に20~30 代が多い

ことから、こうした対象を意識した情報発信も効

果的である。一方、他国・地域よりも、旅行会社

のウェブサイトやパンフレットも役立ったという

割合も高いことから、現地旅行会社への効果的な

PRも引き続き不可欠だ。

 なお、訪日客に人気の土産品としては、「菓子

類」「衣類」「医薬品・健康グッズ」が挙げられる。「医

薬品」は日本人の感覚からすると若干違和感があ

るが、安全・安心な日本製へのニーズは高い。

訪日客を取り込むための取組み例3

 こうした増加する訪日客に対し、日本各地では

様々な取組みが行われている。

 東京メトロと東京都交通局では、外国人と首都

圏以外から東京を訪れる旅行者を対象として、通

常よりお得な乗り放題きっぷ「Tokyo Subway

Ticket」(1日~3日券)を発売しているほか、オ

フラインでも使える乗換アプリ(中国語繁体字に

も対応)の提供も行っている。

 また、台湾でブームとなっているサイクリング

を通した新たな観光PRの取組みもある。広島県

と愛媛県を結ぶ「しまなみサイクリングコース」

は、台湾中部の「日月潭サイクリングコース」と、

日本国内初となるサイクリングコースに関する姉

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妹協定の締結へ向け準備を進めている。双方は協

定締結の効果として、交流の拡大と知名度の向上

による観光客の増加を狙っている。両コースは、

2014年に日本で公開された日台合作のサイクリ

ングロードムービー「南風」でも採り上げられ、注

目度が高まっている。

 その他、日台双方の路線の魅力を発信し合う姉

妹鉄道協定の締結も盛んだ。2013年4月には江

ノ島電鉄(神奈川県)と台湾北部の平渓線(新北市)

が、2014年4月には由利高原鉄道・鳥海山ろく

線(秋田県)と台湾の平渓線が、相次いで協定を

締結している。さらに、2014年10月には、いす

み鉄道(千葉県)と、台湾中部の集集線(南投県)

が協定を締結しており、鉄道交流の進展がみられ

る。

 江ノ島電鉄と平渓線の取組みでは、互いの使用

済み1日乗車券を交換できるサービスを実施して

いる。具体的には、江ノ電の使用済み1日乗車券

を平渓線に持参すると「平渓線1日周遊券」が無

償で提供され、同様に平渓線の使用済み1日周遊

券は「江ノ電の1日乗車券」と交換できる。キャ

ンペーン開始から1年間での利用は5,000人を超

え、2014年3月末で終了予定だったこのキャン

ペーンは、2015年3月末まで1年間延長された

(図3)。

訪日客の受け入れ体制に関する課題4

 しかしながら、急増する訪日客に対し、日本側

の受け入れ体制がまだ追い付いていない場合も多

い。

 まず挙げられるのは、インフラ面の整備である。

海外からの訪日客を本格的に受け入れ始めてまだ

間もないため、外国語標記や無料Wi-Fi(ワイ

ファイ)環境の整備等が不十分であることは、従

来より指摘されている。旅行先で情報の収集・確

認ができる無料Wi-Fi環境の整備は必須事項で

ある。宿泊ホテルを選ぶ際、無料Wi-Fi環境の有

無を判断基準の一つとする旅行者は多い。

 また、台湾からの訪日客は、日本の四季折々の

風景、特に雪や桜、紅葉などに非常に興味がある。

こういった名所の見ごろは期間限定のものである

ため、人気観光地には観光客が一斉に押しかけ、

観光バスの手配が追いつかない等の問題も起きて

いる。国土交通省は、時限的に貸切バスの営業

区域の緩和を行うことでこれに対応しているが、

根本的な解決とは言えず、今後いかに季節・場所

を分散化するかがカギとなる。本県としても、メ

ジャーな観光資源のみならず、これまで海外向け

に発信してこなかったローカルな魅力を発信して

いくことが必要となってくる。

図3:江ノ電・平渓線との乗車券交流� (出典:江ノ島電鉄株式会社)

18 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2014.12

Page 4: 増え続ける訪日客に対する 受け入れ体制について...で行こうとしても、車内にスーツケース置場がな いため、タクシーで移動せざるを得ない。」などの

 また、交通インフラの面では、台湾の旅行会社

から「福岡空港から中心市街地までは地下鉄でつ

ながり、距離的にも近いが、国内線ターミナルま

でバス移動する必要があり、若干分かりづらい。」、

「国際線ターミナルから路線バスで中心市街地ま

で行こうとしても、車内にスーツケース置場がな

いため、タクシーで移動せざるを得ない。」などの

指摘があった。旅行者の目線に立った体制整備に

より、リピート率を更に増やすことができるのでは

なかろうか。

福岡への訪日客増加のために5

 訪日客を増やすためには、前項で挙げたソフト・

ハード両面での課題の解決により、実際に訪れた

人の満足度を高めることが必要である。既に福岡

市では、自治体主体としては最大級の「Fukuoka

Ci ty Wi-F i 」1を整備している。2014年8月に

は利用手順の簡素化や、専用サイトによる利用エ

リアなどの情報発信も開始されており、本県とし

ても訪日客の利便性向上のため、積極的にPRす

べきだと考える。

 また、訪日客の分散化のための魅力的なローカ

ル情報の発信には、有名ブロガーの招聘が効果的

である。発言の影響力も大きく、また、我々が気

付かない福岡の良さを発見してもらうことも可能

となるなど費用対効果が高いと思われる。特に、

今後増加が見込まれる個人旅行者に対しては、イ

ンターネットを活用した情報発信の重要性はます

ます高まる。県域を超えた協力体制で観光ルート

の創設・PRに引き続き取り組むことはもちろん、

ウェブサイトを多言語で展開し、国ごとに人気の

視点やポイントを変えてPRする等、きめ細かな取

り組みも必要だ。

 加えて、受け入れる側である我々の意識も変え

ていかねばならない。海外から多くの訪日客を受

け入れているという意識を常に持つことで、困っ

ている旅行者へ声をかけたり、自然な交流が活発

になれば、福岡を訪れる訪日客の満足度はさらに

高まり、結果として、台湾から福岡への訪日客の

増加につながるのではないだろうか。

1 福岡市が提供する、観光客の利便性向上等を目的とした無

料の公衆無線LANサービス。平成26年7月29日からは、

5言語対応「Fukuoka Ci ty Wi-F i専用サイト」(日本語、

英語・韓国語・中国語(簡体字・繁体字))をオープンし、

訪日客を含めた観光客の更なる利便性の向上を図っている。

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