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社会教育における 人権・同和教育資料 (指導者用) 香川県教育委員会

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Page 1: 社会教育における 人権・同和教育資料成13年3月に「社会教育における人権・同和教育資料(指導者用)」を発行するな ど、その充実を期してまいりました。しかし、その後の社会情勢の変化等もあり、

社会教育における

人権・同和教育資料(指導者用)

香川県教育委員会

Page 2: 社会教育における 人権・同和教育資料成13年3月に「社会教育における人権・同和教育資料(指導者用)」を発行するな ど、その充実を期してまいりました。しかし、その後の社会情勢の変化等もあり、

は じ め に

「人権の世紀」といわれる 21 世紀に入って既に 10 年が経過しました。この間、

学校教育や社会教育のあらゆる場において、すべての人々の人権が守られ尊重され

る平和で豊かな社会の一日も早い実現を目指した活動が、積極的に取り組まれてき

ました。

しかしながら、私たちの身の回りの人権問題の現状を見たとき、同和問題をはじ

め、女性、子ども、高齢者、障害者等に関する様々な人権課題が依然として存在し

ています。また国際化や情報化などの社会の急激な変化に伴って、新たな人権侵害

も発生しています。これらの人権侵害を発生させる要因の一つとして、相手の考え

や気持ちなどが分かるような想像力や共感的に理解する力、自分の考えや気持ちを

適切に表現し、互いに分かり合うためのコミュニケーション能力などが十分に身に

付いていないことが指摘されています。

このことからも、人権尊重社会の実現のためには、私たち一人一人が、人権に関

する知的理解と豊かな人権感覚を基盤に、差別解消に向け、積極的に行動しようと

する意欲と態度を身に付ける必要があります。

こうした現状を踏まえ、県教育委員会では、同和問題を人権問題の重要な柱とし

て、これまでの同和教育の取組の成果や手法を生かしながら、様々な人権課題の解

決に向けた積極的な人権教育の推進に努めてきたところです。

なかでも、社会教育における指導者の養成を重要な課題の一つとしてとらえ、平

成 13 年3月に「社会教育における人権・同和教育資料(指導者用)」を発行するな

ど、その充実を期してまいりました。しかし、その後の社会情勢の変化等もあり、

このたび新たに「社会教育における人権・同和教育資料(指導者用)」を作成いたし

ました。

それぞれの市町におかれましては、本指導資料を参考にされ、資質と指導力に富

む、熱意あふれる指導者の養成を図るとともに、人権・同和教育の充実・発展に努

められるよう期待いたします。

平成23年3月

香 川 県 教 育 委 員 会 事 務 局

人権・同和教育課長 渡邊晋二

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も く じ

Ⅰ 本指導資料の活用について ……………………………………………………………… 1

Ⅱ 個別の人権課題について…………………………………………………………………… 3

女性の人権 ……………………………………………………………………………… 4

子どもの人権 …………………………………………………………………………… 8

高齢者の人権 …………………………………………………………………………… 12

障害者の人権 …………………………………………………………………………… 16

同和問題 ………………………………………………………………………………… 20

外国人の人権 …………………………………………………………………………… 26

ハンセン病回復者等の人権 …………………………………………………………… 30

インターネットによる人権侵害 ……………………………………………………… 34

性的少数者の人権 ……………………………………………………………………… 36

Ⅲ 参加体験型学習について ………………………………………………………………… 39

Ⅳ 資料 ………………………………………………………………………………………… 45

人権教育及び人権啓発の推進に関する法律 ………………………………………… 45

人権教育・啓発に関する基本計画(抜粋) ………………………………………… 46

香川県人権教育・啓発に関する基本計画(抄) …………………………………… 52

香川県人権教育基本方針 ……………………………………………………………… 59

個別の人権課題に関する関連法規等 ………………………………………………… 60

女性の人権

男女共同参画社会基本法 ………………………………………………………… 60

子どもの人権

児童憲章 …………………………………………………………………………… 62

高齢者の人権

高齢社会対策基本法 ……………………………………………………………… 63

障害者の人権

障害者基本法 ……………………………………………………………………… 65

同和問題

同和対策審議会答申(抄) ……………………………………………………… 68

ハンセン病回復者等の人権

らい予防法の廃止に関する法律 ………………………………………………… 70

ハンセン病問題の早期かつ全面的解決に向けての内閣総理大臣談話 ……… 71

インターネットによる人権侵害

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ……… 71

(プロバイダ制限責任法)

性的少数者の人権

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 ………………………… 72

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香川県人権啓発マスコットキャラクター

「人権かがやきくん」

Ⅰ 本指導資料の活用について

本指導資料は、社会教育における人権・同和教育の一層の推進を図ることを目的

に、以下の編集方針に基づき作成したものです。指導者は、学習者の実態やそれぞ

れの市町の現状等を踏まえ、人権・同和教育の充実・発展につながる効果的な活用

に取り組んでください。

1 編集の基本的な考え方

それぞれの市町の指導者として、効果的な講義や演習、フィールドワーク等の

指導を行うことができるよう、各人権課題について、目的、指導内容、指導方法

等について分かりやすく、また活用しやすく編集しました。

2 内容

■個別の人権課題について

ここでは、9つの人権課題を取り上げています。

「○○に関する課題」では、それぞれの人権課題について何が課題なのか、

どのような現状にあるのか、どのような偏見や差別があるのか、またその克

服のためにどのような取組が行われているのか等を紹介しています。

「知る」では、各種資料等について、できるだけ

身近なものを取り上げ、資料等の取り扱い方の視点

について解説を加え、実践に役立つよう工夫をして

います。

また、学習者に考えてもらいたいことを香川県人

権啓発マスコットキャラクターの“人権かがやきく

ん”の吹き出しに示しています。

「指導の観点」では、それぞれの人権課題を指導

するにあたって押さえておきたいポイントをまとめ

ています。

■参加体験型学習について

人権感覚の育成に効果的であるとされる参加体験型学習について、基礎・

基本となる指導方法を掲載しています。県教育委員会では、参加体験型学習

について、これまで多くの資料を作成し、各市町に配付しています。実践の

際には、本冊子とともに、これら関係資料を参考にすることができます(P.43

を参照)。

■資料

個別の人権課題についての指導等の際に参考となるような、国内外におけ

る人権教育に関する基本的な関連法規等を掲載しています。これらの関連法

規等に人権課題解決に向けた考え方等が示されており、基本的事項を理解す

ることに役立ちます。

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Ⅱ 個別の人権課題について

人権とは、人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利です。そ

して、誰もが生まれながらにしてもっている、人間が人間らしく生きていくための

誰からも侵されることのない基本的な権利です。

世界人権宣言は、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊

厳と権利とについて平等である」とうたい、自由や権利の保持が人類普遍の原理で

あることを明らかにしました。我が国でも、日本国憲法において、法の下の平等を

掲げ、自由権や生存権、教育を受ける権利、勤労の権利等の基本的人権の享有をす

べての国民に保障することを明記しており、人権尊重の考え方は次第に定着しつつ

あるといえます。

しかしながら、現実には女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、ハ

ンセン病回復者・HIV感染者等に関する人権侵害など、様々な人権課題が依然と

して存在しており、さらに、国際化や情報化などの社会の急激な変化に伴い、新た

な人権侵害も発生しています。平成 15 年に策定された「香川県人権教育・啓発に

関する基本計画」においては、上記の7課題に犯罪被害者等、インターネットによ

る人権侵害、その他の課題(アイヌの人々、刑を終えて出所した人、同性愛者等)

の3課題を加えた 10 課題を重要課題としています。また、平成 20 年、文部科学省

が公表した「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」では、

さらに、北朝鮮当局によって拉致された被害者等、性的指向(異性愛、同性愛、

両性愛)を理由とする偏見・差別、ホームレスの人権、性同一性障害者の人権、

人身取引(トラフィッキング)についても、それぞれの問題状況に応じて、必要

な取組が求められているとしています。

このような人権問題が生じる背景には、人々の中に見られる同質性・均一性を重

視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在等があり、また、より根本的には、

人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が十分に定着してい

ないことが挙げられています。このために、正当な権利を主張できないことや、物

事を合理的に判断して行動する心構えや習慣が身に付いておらず、偏見や差別意識

にとらわれた言動をとることなどの問題点も指摘されています(「人権教育・啓発

に関する基本計画」)。

様々な人権課題の解決に向けて、私たち一人一人が積極的に取り組んでいくこと

が求められています。人権について難しく考えるばかりでなく、身近な人権問題の

例を取り上げて、自分自身の問題としてとらえ、その解決に向けて努力していくこ

とが大切です。

本指導資料では、上記の個別の人権課題のうち、女性、子ども、高齢者、障害

者、同和問題、外国人、ハンセン病回復者等、インターネットによる人権侵害、

性的少数者の人権の9つの人権課題を取り上げています。

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女 性 の 人 権

日本国憲法では、性別によって政治的、経済的又は社会的関係において差別され

ない(第 14 条)ことや、婚姻や家族関係における両性の本質的平等(第 24 条)を

規定し、男女平等の理念を明らかにしています。

しかしながら、現実的には男女の役割を固定的にとらえる意識が社会に依然とし

て根強く残っていることから、社会生活の様々な場面において女性が不利益を受け

ることが少なからずあります。

このような社会を変えていくためには、人々の固定化された意識を変革していく

こととともに、男女共同参画社会の実現に向けた取組を進めていくことが必要です。

1 性別による固定的な役割分担とは…

人には生物学的な性別がある一方で、社会通念や慣習、文化として形づくられた

「男性像」、「女性像」があります。これらには男女共同参画社会の形成を妨げない

ものもありますが、中には「男は仕事、女は家事・育児」、「男性は主要な業務、女

性は補助的業務」というように、男女の性別だけを理由に固定的に役割を決めつけ

てしまうことがあります。

2 男女共同参画社会とは…

男女共同参画社会とは、男女が互いに人権を尊重し、責任を分かち合いつつ個性

と能力を発揮できる社会のことです。平成 11 年に男女共同参画社会基本法が施行

され、次の5つの基本理念が掲げられました。

① 男だから女だからといった差別をなくし、一人の人間としての能力を発揮できる社

会にしていこう。

② 社会の制度や、古いしきたりによって男女のどちらかが不利な立場になっていない

か考えよう。

③ 男女が社会の対等なパートナーとして、いろいろなことに参画できるようにしよう。

④ 男女が家族の中で協力し合って生み出した時間で、自分の趣味など、家庭生活以外

の活動ができるようにしよう。

⑤ 他の国々や国際機関と協力して男女共同参画社会をつくっていこう。

みなさんの周りにどのような性別による固定的な役割分担が残っているでしょうか?その中で、一方の性に対して不利益になるようなものはないでしょうか?

女性に関する課題

知 る

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3 性別による固定的な役割分担の意識について

性別による固定的な役割分担は、私たちの意識の中に潜んでいます。みなさんは、

家庭での役割分担について、どのような意識をもっていますか?

資料① 香川県民の家庭生活と家族観(男女の役割)についての意識について

43.6

42.1

40.8

18.1

23.6

23.5

10.9

16.2

17.4

6.7 1.1

1.2

0.6

19.6

11.2

8.4

5.7

9.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

4 世界の国々での女性の立場

日本では、男性に比べて女性の立場がまだまだ低いといわれています。GDIや

GEMの指数の高い国では、どのような教育がなされているでしょうか?

資料② 世界の国々の中での日本の女性の立場

順位 GDI GEM

1 オーストラリア スウェーデン

2 ノルウェー ノルウェー

3 アイスランド フィンランド

4 カナダ デンマーク

5 スウェーデン オランダ

6 フランス ベルギー

7 オランダ オーストラリア

8 フィンランド アイスランド

9 スペイン ドイツ

10 アイルランド ニュージーランド

日本(14 位) 日本(57 位)

調査国数 155 か国 109 か国

国際連合開発計画「人間開発報告書 2009」より

性別による固定的な役割分担が、一方の性にとって不利益とならないようにするためには、私たちの意識を変えていくことが必要です。それぞれの家庭では、どのようなことが実践できるか考えてみましょう!

■GDI…ジェンダー開発指数「健康的な生活」「知識」「生活水準」に基づく達成度を表す指数で、特に男女の不平等に着目した指数。

■GEM…ジェンダー・エンパワーメント指数例えば、国会議員の中の女性の割合など、女性が社会的、政治的、経済的にどのくらいの力をもっているかを表す指数。

1.夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである

2.女性は結婚したら、自分のことより、夫や子

どもなど家族を中心に生活した方がよい

3.女性は仕事をもつのはよいが、家事・育児・

介護はきちんとすべきである

わからない

賛成

どちらかと

いえば賛成

どちらかと

いえば反対

反対

無回答

香川県「平成 21 年度香川県男女共同参画社会に関する意識調査」(調査人数 795 人)より

GDI、GEM いずれも2位のノルウェーでは、幼児教育の中で右のような写真を見せて、子どものうちから、男女の役割が固定化しない価値観を育てています。みなさんの家庭ではいかがでしょうか?

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5 社会の中で男女がいきいきと活躍するために

最近では、我が国においても法整備が進み、育児休業制度など様々な面で、男女

が平等に社会で活躍できることを保障する制度等の見直しが進められています。

(1)育児や介護と両立するために

子育てや介護は女性だけの仕事ではありません。男女がともに協力し合って行わ

れるべきものです。子育てや介護と仕事の両立を手助けするため、育児・介護休業

法が制定され、男女ともに休業がとれるようになっています。その結果、イクメン

という言葉が生まれたように、育児などに積極的に関わっていこうとする男性が増

えていることは非常に喜ばしいことです。

(2)雇用についての男女同一の権利を保障するために

男女雇用機会均等法には、次のような規定が盛り込まれています。

○ 間接差別の禁止(例:募集にあたって、労働者の体格等を要件としたり、

昇進などについて転勤の経験を要件とする 等の禁止)

○ 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止

○ セクシャル・ハラスメント対策として、雇用管理上必要な措置を講ずる

○ 男性に対する差別禁止やセクシャル・ハラスメント対策について

(3)セクシャル・ハラスメント(セクハラ)のない社会にするために

相手が嫌がる性的な言葉やふるまいによって深い心の傷を負い、仕事がしづらく

なったり、働きにくくなったりする場合があります。セクハラは現在、職場におけ

る深刻な人権侵害の一つです。次のような行為もセクハラです。

○ 頼まれないのに肩をマッサージするなど身体に触れる

○ 聞くにたえないわい談を話す

○「女のくせに」「女だから」などの発言

○「男の子、女の子」「おじさん、おばさん」などと人格を認めない呼び方をする

○ 酒の席でお酌を強要する

○ しつこく食事やデートに誘う

○ 女性というだけの理由で職場のお茶くみをさせる など

男女雇用機会均等法では、セクハラの防止は、事業主の責務とされています。会

社ぐるみでセクハラの防止に努めなければなりません。

知っておこう!

人身取引(トラフィッキング)という言葉を知っていますか?

現在でも労働や売買春などの目的で、国境を越えた人身取引が行われています。日本にも数万

人の被害者がいるともいわれています。平成 21 年の国連女子差別撤廃委員会の日本に対する勧

告では、被害者の保護と支援、そして、根本的な解決を図るための取組が求められています。

セクハラをなくしていくためには、被害者が「嫌だ!」と声をあげられるような職場をつくっていくことが大切です。そのような職場こそ、みなさんにとって働きやすい職場ではないでしょうか。

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6 家庭で男女がいきいきと生活するために

家庭の中で、男女の役割分担はどのようになされているでしょうか。誰かの負担

が大きくなってはいないでしょうか?

資料③ 家庭での夫と妻の役割分担について

60.7

4.9

2.1

1.5

28.0

35.4

33.0

12.0

34.1

53.4

80.3

6.1

1.6

6.7

19.5

9.9

2.5 2.1

1.6

4.6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

7 ドメスティック・バイオレンス(DV)について

平成 18 年の内閣府の調査では、現在または過去に、配偶者や恋人から暴力等を

受けた経験のある女性は、全体の4分の1ほどいるということが明らかになりまし

た。また、そのうち 20 人に1人は、何度も暴力等を受けているそうです。このよ

うに相手を暴力で支配することをDVといいます。また、言葉による精神的な暴力

や、嫌がっているのに性行為を強要したり、避妊に協力しなかったりすることもD

Vに含まれます。

DVは、被害者が弱者の立場であるという理由から声をあげにくかったり、逃げ

たくても逃げられなかったりすることが被害を増大させる原因にもなっています。

現在は配偶者暴力防止法が制定され、各都道府県に配偶者暴力相談センターの設

置が定められています。香川県では、香川県子ども女性相談センターがこれにあた

ります。

○ 男女の役割を固定的にとらえる意識が、一方の性(特に女性)が不利益を受け

ることにつながる場合があることを理解し、その解決に向けて、自分が家庭や社

会においてどのように行動することができるかを考えることが大切である。

○ 性による不平等を解決するために、社会の制度が変わってきたことを理解する。

○ セクハラやDVなどの深刻な実態を知り、解決方法や未然に防ぐ方法を主体的

に考えることが大切である。

自分の家庭ではどうでしょうか?もし誰かの負担が大きくなっているのであれば、それを解決するためにどのようにすればよいか考えてみてください。

指導の観点

1.炊事、洗濯、掃除などの家事

2.子どもの世話、しつけや教育

3.親などの介護

4.収入を得ること

主に夫の役割

夫婦が同じ程度分担

主に妻の役割

その他

無回答等

香川県「平成 21 年度香川県男女共同参画社会に関する意識調査」(調査人数 610 人)より

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子 ど も の 人 権

いうまでもなく、子どもに対しても大人と同様に人権が保障されています。子ども

の人権の尊重と、その心身にわたる福祉の保障及び増進などに関しては、日本国憲法

をはじめ、教育基本法、児童福祉法や児童憲章などにおいてその基本原理や理念が示

され、また、国際的にも児童の権利に関する条約等において、権利保障の基準が明ら

かにされています。

しかし、子どもは大人に比べ社会的に弱い立場にあることから人権を侵害されやす

いので、社会的に保護され、守られなければなりません。ところが、子どもを取りま

く状況には、いじめ、体罰、児童虐待などの問題があることから、国民一人一人がよ

り一層子どもの人権について正しく理解し、行動することが必要です。

1 子どもに関する課題

(1)いじめについて

「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理

的な攻撃を受けたことにより、精神的苦痛を感じているもの」(文部科学省)のこと

です。

資料① いじめの認知件数の推移(全国) 資料② いじめの認知件数の推移(香川県)

文部科学省「平成 21 年度児童生徒の問題行動等 香川県教育委員会「平成 21 年度生徒指導上の

生徒指導上の諸問題に関する調査」より 諸問題の状況について」より

いじめや虐待を受ける子どもにも問題があると思っていませんか?

子どもの夢や悩みを知っていますか?

子ども自身が、自分の存在のすばらしさを感じることができるよう、子

どもの良さを認めていますか?

子どもに関する課題

知 る

60,897

48,89640,807 34,76651,310

43,50536,795

32,11112,307 8,355

6,737 5,642

384 341 309 259

124,898

101,097

84,648

72,778

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度

小学校 中学校 高等学校 特別支援学校 合計

(件)

361

116

404

33

908

554

216

149

439414 391

10877

530 0

1 1

707

594

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度

小学校 中学校 高等学校 特別支援学校 合計

(件)

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なお、起こった場所は学校の内外を問わず、個々の行為が「いじめ」にあたるかど

うかの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立っ

て(いじめられたとする児童生徒の気持ちを重視して)行うものとしています。

「いじめられる側にも問題がある」という意見を聞くこともありますが、決してそ

うではなく、「いじめは絶対に許されない」との強い認識に立った対応が、特に強く

求められています。いじめが起きた時は、まずは被害者を守り抜く姿勢を示すことが

重要です。さらに、問題発生の要因・背景を多面的に分析し、加害者たる児童生徒の

抱える問題等への理解を深めつつも、その行った行為に対しては、これを許さず毅然

とした指導を行わなければなりません。

また、いじめは周りの者がそそのかしたり、見て見ぬふりをしたりすることで、さ

らに助長されます。この問題を解決するためには、学校(園)はもとより社会全体の

意識改革が必要です。

平成 21 年度、香川県の公立小・中・高等学校・特別支援学校におけるいじめの認

知件数は 554 件であり、前年度より 40 件減少し、平成 18 年度以降最も少なくなって

います。小学校、高等学校は平成 18 年度以降連続して減少していますが、中学校で

は今回増加に転じています。

いじめを未然に防ぐには、家庭や地域の人が気になることがあったとき、すぐ学校

へ相談できるように、日ごろから連携を強めておくことが大切です。

(2)児童虐待について

児童虐待とは、本来子どもを守るべき親や親に代わる保護者が、子どもの体や心を

傷つけることをいい、子どもの心身に重大な影響を与える最も深刻な人権侵害です。

子どもが間違ったことをしたときには、愛情をもって本気で叱り、正しくしつける

ことは大切です。しかし、感情に任せて叱ることは子どものためにはなりません。子

どもがおびえたり、傷ついたり、ましてや命の危険にさらされるようでは、しつけと

はいえません。しつけのつもりで行った行為でも、子どもの心身に著しい害を及ぼす

ものであれば、それはしつけではなく、虐待となります。

資料③ 児童虐待相談対応件数の推移(全国) 資料④ 児童虐待相談対応件数の推移(香川県)

厚生労働省「平成 21 年度児童相談所における 香川県「平成 21 年度児童相談所における

児童虐待相談対応件数」より 児童虐待相談対応件数」より

420

468489

569

0

100

200

300

400

500

600

平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度

(件)

37,323

40,639

42,664

44,210

32,000

34,000

36,000

38,000

40,000

42,000

44,000

46,000

平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度

(件)

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香川県では、児童虐待相談件数が年々増加傾向にあり、香川県子ども女性相談セ

ンターと香川県西部子ども相談センターにおける平成 21 年度児童虐待相談対応件

数は、569 件と過去最高となり、前年度(489 件)に比べて 16%増加しています。

資料⑤ 児童虐待の4つの行為類型

① 身体的虐待 …… 殴る・蹴る、首を絞める、投げ落とす、溺れさせる、熱湯を

かける、戸外に閉め出す、縄などで体を拘束する。

② 性的虐待 ……… 子どもへの性交、性的行為の強要、性器や性交を見せる、ポ

ルノグラフィの被写体に子どもを強要する。

③ ネグレクト …… 食事・入浴・着替えなどの身の回りの世話を放棄する、乳幼

児を家や車内に放置して外出する、病気やけがをしても病院

へ連れて行かない、同居人による暴力を放置する。

④ 心理的虐待 …… 悪口を言う、無視する、兄弟姉妹間で差別的に扱う、子ども

の前でDV行為を行うなどして著しい心理的外傷を与える

言動を行う。

「児童虐待の防止に関する法律」より

児童虐待は、主として家庭内で起こるため表面化しにくく、また、その対応も概し

て困難な場合が多いのですが、虐待防止のためには、早期発見が重要です。

資料⑥ 子どもと親が発するSOSのサイン

また、発見した時は、速やかに関係機関へ通告しなければなりません。虐待通知義

務は、専門職における守秘義務よりも優先します。

子どもの様子

・不自然な傷が多い

・表情が乏しい

・衣服がいつも汚れている

・態度がおどおどしている

・家に帰りたがらない

・家出を繰り返す

・食事に対し異常な執着を示す

・他児に対して乱暴である

・性的なことに過度に関心がある

親の様子

・地域や親族との交流がなく、孤立し

ている

・子どもがなつかない

・子どもとの関わりが乏しい

・子どもへの態度や言葉が否定的であ

・子どもをしょっちゅうたたいている

・子どもをおいてよく外出している

【香川県内の相談機関】・香川県子ども女性相談センター・香川県西部子ども相談センター※子どもや家庭に関する様々な相談に応じてくれます。

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資料⑦ 子どもを虐待から守るための5か条

(3)「児童の権利に関する条約」について

この条約は、地球上のすべての 18 歳未満の子どもが社会的に保護され、基本的人

権が尊重されるようにという願いを込めて、平成元年に国連で採択されました。日本

も平成6年に批准しています。この条約では、特に子どもの4つの権利を守ることを

定めています。

資料⑧ 児童の権利に関する条約

子どもの人権に関して、家庭や地域社会における子育てや学校教育の在り方を見直

すとともに、大人社会における利己的な風潮や、金銭などの物質的な価値を優先する

考え方などを問い直していくことも必要です。

温かい言葉や態度によって励まされ、やる気を起こす子どもがいる一方で、何気な

い言葉や態度によって傷ついてしまう子どももいます。子どもが、自分は認められて

いる、信頼されていると感じることのできるように愛情を注ぐことが必要です。大人

たちが、未来を担う子どもたち一人一人の人格を尊重し、健全に育てていくことが求

められているのです。

○ 子どもの人権が十分に守られていないという社会の現実があることを認識し、

一人一人の子どもの人権を尊重していくことの大切さを理解する。

○ 子どもを取りまく様々な人権課題について正しく理解し、見て見ぬふりをする

のではなく、地域全体で子どもを見守り育てていく社会をつくり出していく。

○ 子どもの人権について、子どもたちに正しく伝え、人権を大切にする社会をつ

くり出していく。

その1 「おかしい」と感じたら迷わず連絡(通告)……(通告は義務=権利)その2 「しつけのつもり・・・」は言い訳 ………………(子どもの立場で判断)その3 ひとりで抱え込まない ……………(あなたにできることから即実行)その4 親の立場より子どもの立場 ……………………(子どもの命が最優先)その5 虐待はあなたの周りでも起こりうる …………(特別なことではない)

① 生きる権利 ……… 防げる病気などで命を奪われないこと。病気やけがをしたら治療を受けられることなど。

② 育つ権利 ………… 教育を受け、休んだり遊んだりできること。考えや信じることの自由が守られ、自分らしく育つことができることなど。

③ 守られる権利 …… あらゆる種類の虐待や搾取などから守られること。障害のある子どもや少数民族の子どもなどは特に守られることなど。

④ 参加する権利 …… 自由に意見をあらわしたり、集まってグループをつくったり、自由な活動を行ったりできることなど。

指導の観点

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高 齢 者 の 人 権

我が国では、医療水準が高まり、国民の健康が維持されるようになったことなど

による高齢者人口の増加並びに、少子化の進行による若年人口の減少を背景として

社会の高齢化が急速に進んでいます。このような中、長寿国であることをすべての

人々が喜ぶとともに、社会的に経験を積んだ高齢者が住み慣れた地域や家庭で、安

心して健康で明るく生きがいをもって暮らし、様々な分野において能力を発揮する

ことができる社会の実現が求められています。このような社会こそが、すべての人々

にとってよりよい社会であるともいえます。

しかしながら、近年、一人暮らし高齢者の課題や高齢者の自尊心を傷つける言動

による身体的・精神的虐待等が問題となっています。私たちは、地域全体で高齢者

を支える社会づくりを進め、高齢者が社会を構成する大切な一員として、安心して

いきいきと暮らせる長寿社会にふさわしい人権意識を育てていくことが大切です。

1 高齢者を取りまく状況

(1)我が国の高齢化の現状

平成 21 年 10 月1日現在、我が国の総人口は、1億 2,751 万人で、65 歳以上の高

齢者人口は過去最高の約 2,901 万人、総人口に占める割合(高齢化率)は 22.7%と

なり、5人に1人が高齢者(75 歳以上人口は約 1,371 万人で総人口に占める割合は

10.8%となり、10 人に1人が 75 歳以上)となっています。

資料① 高齢者、高齢化率と「高齢化社会・高齢社会・超高齢社会」

高齢者と高齢化率

昭和 31 年に国際連合が 65 歳以上を「高齢者」として、全人口に対する 65 歳以上の人口の比率を「高齢化率」としたことから、高齢者を 65 歳以上とすることが一般化したといわれています。

高齢化社会・高齢社会・超高齢社会

国連の定義として高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、高齢化率が 14%を超えると「高齢社会」と呼ぶようになりました。また高齢化率が 21%を超えた社会を「超高齢社会」と呼ぶことがあります。我が国では、昭和 45 年に「高齢化社会」に、平成6年に「高齢社会」になり、平成 19 年には「超高齢社会」になったとされています。

(2)香川県における高齢化率

香川県における高齢化率は、昭和 50 年に 10.5%(全国 7.9%)、平成 21 年に 25.4%

(同 22.7%)と推移し、また平成 47 年には 35.9%(同 33.7%)になると推計され

ており、全国的に見ても高齢化率の上昇が速い速度で進むことが予想されています。

高齢者に関する課題

知 る

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(3)社会における高齢者の現状 資料② 高齢者の人権上の問題

全国の 20 歳以上の者に対して、

高齢者に関して、人権上の問題が

あると思われることはどのような

ことかを聞いたところ、「悪徳商法

の被害者が多いこと」を挙げた者

の割合が54.3%と最も高く、以下、

「高齢者を邪魔者扱いし、つまは

じきにすること」「働ける能力を発

揮する機会が少ないこと」「病院で

の看護や養護施設において劣悪な

処遇や虐待をすること」などの順

となっています。

このことから、高齢者の中に虐

待を受けたり、社会から阻害され

たりしている人が存在することな

どが、高齢者に関する人権侵害といえます。

(4)高齢者に対するイメージ

みなさんは、高齢者をどのようにとらえていますか。内閣府の意識調査によると、

高齢者に対するイメージは、健康面や経済面については「心身がおとろえ、健康面

に不安が大きい」「収入が少なく、経済的な不安が大きい」とあるように否定的に

とらえている人がいる一方で、経験・知識や日常生活面については「経験や知識が

豊かである」「時間にしばられず、好きなことに取り組める」とあるように肯定的

にとらえている人がいることがわかります。

高齢者について、「年寄りだから」とか、「年寄りのくせに」と言ってみたり、

高齢者を消極的で元気がない、「老い」は暗くて汚い、というように思いこんだり

することが、高齢者に対する誤解や偏見につながっているのではないでしょうか。

資料③ 「『高齢者』『お年寄り』にどのようなイメージを持っているか」(3つまでの複数回答)

心身がおとろえ、健康面での不安が大きい 72.3% 周りの人とのふれあいが少なく、孤独である 19.4%

経験や知恵が豊かである 43.5% 健康的な生活習慣を実践している 11.3%

収入が少なく、経済的な不安が大きい 33.0% ボランティアや地域の活動で、社会に貢献している 7.7%

時間にしばられず、好きなことに取り組める 29.9% 貯蓄や住宅などの資産があり、経済的にゆとりがある 6.9%

古い考え方にとらわれがちである 27.1% 仕事をしていないため、社会の役に立っていない 6.2%

内閣府「平成15年度年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査」(全国の20歳以上の男女6,000人を対象に調査)より

■あなたは、高齢者に関する事柄で、人権上問題があると思われるのはどのようなことですか。(複数回答)

法務省「人権擁護に関する世論調査(平成 19 年6月調査)」(全国 20 歳以上の者 3,000 人を対象に調査)より

高齢者に関して、人権上の問題となっていることにどのようなことがあるのでしょうか。高齢者の人権擁護のための啓発活動にはどのようなものがあるのでしょうか。

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2 高齢者に対する人権侵害

(1)高齢者虐待

平成 18 年に施行された高齢者虐待防止法では、養護者(高齢者を現に養護して

いる家族、親族、同居人等)または養介護施設従事者等(老人福祉法及び介護保険

法で規定された施設・事業所の業務に従事する人)による、次のような行為を「高

齢者虐待」と定義しています。

資料④ 「高齢者虐待」の定義

① 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

② 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人による①、

③又は④に掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。

③ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷

を与える言動を行うこと。

④ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。

⑤ 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者か

ら不当に財産上の利益を得ること。

「高齢者虐待防止法」より

(2)高齢者虐待の現状

平成21年度、厚生労働省が全国の市町村と都道府県を対象にした調査結果による

と、養護者によって高齢者が虐待を受けたまたは受けたと思われたと判断した事例

は、15,615件(前年比4.9%増)に上ることがわかります。

資料⑤ 相談・通報件数及び虐待判断件数

平成20年度 平成21年度 前年比増減(増減率)

相談・通報件数 21,692件 23,404件 1,712件増(7.9%増)養護者による高齢者虐待

虐待判断件数 14,889件 15,615件 726件増(4.9%増)

相談・通報件数 451件 408件 43件減(9.5%減)養介護施設従事者等によ

る高齢者虐待 虐待判断件数 70件 76件 6件増(8.6%増)厚生労働省「平成 21 年度 高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」より

(3)高齢者虐待を防止するために

高齢者虐待防止法では、養介護施設、病院、保健所等、高齢者の福祉に業務上関

係のある団体、養介護施設従事者、医師、保健師、弁護士といった高齢者虐待を発

見しやすい立場にある人々には、高齢者虐待の早期発見に努めるよう求めています

(第5条)。また、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した

者は、生命又は身体に重大な危険が生じている場合、速やかに市町村に通報する義

務があります(第7条)。虐待の通報を受けた市町村は、虐待により生命または身

体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を、一時的に保護す

る措置などを行うことになっています(第9条)。

高齢者虐待をなくし、高齢者が住み慣れた地域や家庭で、人間としての尊厳を保

ちながら生活していくためには、 資料⑥ の相談・通報者にあるように、すべての

人々がそれぞれの立場で、高齢者を見守っていることが感じられるような地域社会

をつくっていくことが求められます。

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資料⑥ 養護者による高齢者虐待に関する相談・通報者(複数回答)

相談・通報者 人 数 構成割合 相談・通報者 人 数 構成割合

当該市町村行政職員 1,679人 7.2%介護支援専門員・

介護保険事業所職員10,346 人 44.2%

近隣住民・知人 1,318人 5.6%

家族・親族 2,908人 12.4% 虐待者自身 417人 1.8%

被虐待高齢者本人 2,728人 11.7% その他 2,041人 8.7%

民生委員 1,856人 7.9% 不明 113人 0.5%

警察 1,734人 7.4% 合計 25,140人※1件の事例に対し複数の者から相談・通報があった場合、それぞれの該当項目に重複して計上されるため、

合計人数は相談・通報件数 23,404 件と一致しない。構成割合は、相談・通報件数の 23,404 件に対するもの。厚生労働省「平成 21 年度 高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」より

3 高齢者の尊厳を守るために

我が国の社会を築いてきた高齢者一人一人の状況や願いは、それぞれ個人差があ

り多様です。

そのような実態を踏まえつつ、介護や福祉の観点から加齢による肉体的・精神的

おとろえに対する不安などを取り除き、一人一人の高齢者が人間としての生活を保

障される環境づくりを進めていく必要があります。そのためには、虐待や財産権の

侵害、社会参加の難しさなど、高齢者の人権に関する課題を正しく理解するととも

に、高齢者に対する尊敬や感謝の心を育てることが最も大切です。

また、高齢者に限らず、私たちは何らかの活動に参加し、その役割を果たすこと

を通して、社会の中で必要とされていると感じ、生きがいを得ています。社会的に

経験を積んだ高齢者が、若者や子どもたちなど幅広い層と交流することは、相互理

解を深めるだけでなく、私たちのふるさとの昔の遊びや郷土の歴史、郷土料理など

の貴重な文化を次の世代へ伝えていくよい機会にもなります。

○ 高齢化が進行する我が国において、高齢者の中に虐待を受けたり、社会から阻

害されたりしている人が存在することなどが、高齢者に関する人権侵害として問

題となっている。

○ 一人一人の高齢者の状況や願いは、それぞれ個人差があることに留意しつつ、

高齢者に対する身体的・精神的虐待や財産権の侵害、社会参加の難しさなど、高

齢者の人権に関する課題を正しく理解するとともに、高齢者に対する尊敬や感謝

の心を育てることが最も大切である。

○ 社会的に経験を積んだ高齢者が、若者や子どもたちなど幅広い層と交流するこ

とは、相互理解を深めるだけでなく、私たちのふるさとの昔の遊びや郷土の歴史、

郷土料理などの貴重な文化を次の世代へ伝えていくよい機会にもなる。

指導の観点

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障 害 者 の 人 権

障害者基本法第3条第1項は、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、そ

の尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」とし、また第2項は、「すべ

て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活

動に参加する機会を与えられる」と規定しています。

しかしながら、障害者は地域で安心して活動していくことを望んでいますが、周

囲からの心ない言葉や視線、人間としての尊厳を傷つけるような行い等、障害者の

人権を侵害するようなことが起こっています。また、障害のある人の自立や社会参

加を阻んでいる物理的な障壁も数多く残っていることなどが指摘されています。私

たちは、障害や障害者の人権についての正しい理解を深め、障害者の自立と社会参

加への支援を促進していく必要があります。

1 障害者を取りまく状況

(1)我が国の障害者の現状

障害者基本法では、障害者は、「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、

継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と定義されています。こ

れらの障害の他に発達障害もあります。発達障害者は、発達障害者支援法において、

「発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者」と定義されて

います。

我が国の障害者数は、内閣府の「平成 22 年度障害者白書」によると、身体障害

児・者は 366 万人、知的障害児・者は 55 万人、精神障害者は 323 万人とされてい

ます。

(2)障害者の雇用・就労

「障害者の雇用の促進に関する法律」において、障害者雇用率を一般の民間企業

は 1.8%、国や地方公共団体の非現業的機関は 2.1%と定めています。

資料① 民間企業における実雇用率と雇用される障害者の数の推移

※精神障害者は、平成18年4月1日から実雇用率に算定されることになった。内閣府「平成22年障害者白書」より

平成 11 年 平成 13 年 平成 15 年 平成 17 年 平成 19 年 平成 21 年

身体障害者 22.6 万人 22.2 万人 21.4 万人 22.9 万人 25.1 万人 26.8 万人

知的障害者 2.8 万人 3.1 万人 3.3 万人 4.0 万人 4.8 万人 5.7 万人

精神障害者 0.4 万人 0.8 万人

実 雇 用 率 1.49% 1.49% 1.48% 1.49% 1.55% 1.63%

障害者に関する課題

知 る

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2 障害の有無にかかわらず、ともに生きる社会の実現に向けて

(1)バリアフリーとユニバーサルデザイン

バリアフリーという言葉は、高齢者や障害者など特定の人を対象に、社会

生活上の障壁(バリア)となっているものを除去していくという考え方です。

具体的には、建築物や交通機関などの物理的なバリアを取り除くことを指す

ことが多くなっています。さらには、文化や情報に接する際のバリア(文字放

送や手話通訳の欠如によることなど)、心のバリア(障害に対する無知や無関心か

ら生じる偏見や差別)をも含めて取り除くという意味で用いられることもあります。

最近では、バリアフリーをさらに進めて、できる限りすべての人に利用可能とな

るように製品、建物、空間をデザインするユニバーサルデザインという考え方が、

様々な場面で提唱されています。

私たちは、誰にとっても、障害が身近なものである(高齢になるにつれて何らか

の障害が現れることなど)という視点から、障害者に関する人権問題を自身の課題

としてとらえていくことが大切です。そのような意味からも、はじめからすべて

の人が利用することを考え、みんなが生活しやすい環境づくりを支えるユニ

バーサルデザインの考え方は、とても重要になっています。

資料② ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザインは、自らも障害者であったアメリカのノースカロライナ州立大学の故ロナルド・L・メイス教授が、1980 年代、自らの理想や考え方を提唱したのが始まりといわれています。そして、メイス教授は、ユニバーサルデザインの概念を右の7つの原則にまとめ、製品や環境づくり等でのデザインの指針になるように提唱しました。

このような概念に基づいて、製品・建物・環境づくりをすることが、年齢・性別・身体・言語等、人がもつそれぞれの違いを超えて、すべての人々にとって暮らしやすい社会を実現することにつながります。

① 誰にでも公平に使用できること② 使う上で自由度が高いこと③ 使い方が簡単ですぐ分かること④ 必要な情報がすぐ理解できること⑤ うっかりミスや危険につながらないデザインである

こと⑥ 無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用

できること⑦ アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること

(2)バリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)

高齢者・障害者等の自立した日常生活と社会生活を確保するため、平成12年に公

共交通機関のバリアフリー化を推進する交通バリアフリー法が、平成14年にバリア

フリーの建物の建築を促進するハートビル法が制定されました。しかし、施設ごと

のバリアフリー化が進められたものの、連続的なバリアフリー化が図られていない

などの課題が指摘されていました。

そこで、一般的・総合的なバリアフリー施策を維持するために、交通バリアフリ

障害者や高齢者にとって何がバリアになっているのでしょうか。私たちの身の回りに「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」の考え方が取り入れられたものに、どのようなものがありますか。

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ー法とハートビル法を統合・拡充したバリアフリー新法が平成18年に公布、施行さ

れました。

これにより、従来対象となっていた建築物、公共交通機関、道路に加えて、路外

駐車場、都市公園にも、バリアフリー化基準(移動等円滑化基準)への適合が求め

られるなど、一層のバリアフリー化が促進されることとなりました。また、駅を中

心とした地区や、高齢者・障害者等が利用する施設が集中する地区において、面的

なバリアフリー化も進められています。さらに、第4条及び第7条において、バリ

アフリー化が促進されるよう、国民の理解を深め、協力を求めるといった国の責務

とともに、協力に努めるといった国民の責務を定めるなど、いわゆる心のバリアフ

リーの促進を規定しています。

資料③ バリアフリー新法

(国の責務)第4条2 国は、教育活動、広報活動等を通じて、移動等円滑化の促進に関する国民の理解を深めるととも

に、その実施に関する国民の協力を求めるよう努めなければならない。(国民の責務)第7条 国民は、高齢者、障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性について理

解を深めるとともに、これらの者の円滑な移動及び施設の利用を確保するために協力するよう努めなければならない。

(3)ノーマライゼーションの考え方

昭和 56 年に国際連合の呼びかけにより「完全参加と平等」というテーマを掲げ

て取り組まれた「国際障害者年」以降、障害のある人も障害のない人も同じように、

ともに生きる社会を目指すノーマライゼーションの理念の浸透によって、障害のあ

る人の社会参加や生活条件の向上が進んできました。

3 障害者一人一人に対する理解を深めるために

平成 16 年、内閣府は今後の効果的な啓発内容の検討の参考とするため、国民か

ら「障害について知っておきたいこと」や「障害について知って欲しいこと」につ

いて広く意見を募集しました。そして、寄せられた様々な意見を整理し、障害の内

容や必要な配慮について特に知って欲しいことを、例示したものから障害のある当

事者にメッセージとして選定してもらいました( 資料④ を参照)。

私たちは、障害の程度や発生時期は一人一人異なり、一見同じように見える障害

であっても、その人の状態や特性によって、その対応は全く異なることも認識しな

ければなりません。たとえば、視覚に障害のある人が安全に歩行するためには、路

面に識別のための凸凹(点字ブロック)が必要ですが、それは歩行に障害のある人

(車いすの利用者など)にとっては、障壁となる場合があります。そこで、両者と

もに困らないような環境づくりが大切になります。

また、障害は人それぞれで、その人の個性と同じように考えるとともに、障害者

の「困っていること」や「配慮して欲しいこと」は人によって異なることを前提に、

同じ社会に生きる人間としてともに助け合い支え合うことが大切です。まずは障害

者一人一人に対する理解を深めるきっかけとして、障害者と交流したり、ボランテ

ィア活動などに参加したりすることが効果的です。

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資料④ 障害のある当事者からのメッセージ

障害のある当事者からのメッセージの概要障害種別(応募者数) 上段の「障害」は「障害について知って欲しいこと」、下段の「配慮」は「必要な配慮について特に知って

欲しいこと」を障害種別にそれぞれ上位2位まで列記。

・視覚障害者が点字を使えるとは限らない(86.8%)

・エレベーターが止まった時に何階なのか分からない(86.3%)視覚障害

(205 人) 配

・視覚障害者もパソコンやインターネットを使っているので、音声読み上げソフトで対応できるように

配慮して(92.2%)・タッチパネル式の機械だとうまく操作できない(90.2%)

障害

・聴覚障害はコミュニケーションが困難な点につらさがある(87.2%)・音声での情報が理解できず、アナウンスされても分からない(83.0%)聴覚・言語障害

(141 人) 配慮

・電光掲示板やパネル等の視覚を通じた情報伝達の方法も考えて(87.2%)・テレビの字幕放送や手話入り放送を充実して(84.4%)

障害

・車いすを利用していると、ちょっとした段差や障害物があると前に進むことができない(68.3%)・車いすを利用していると、高いところには手が届かず、床にある物も拾いにくい(58.4%)肢体不自由

(101 人) 配慮

・和式のトイレでは利用できない者がいるので、公共トイレには必ず洋式トイレも設置して(75.2%)・障害者用の駐車スペースの絶対数が少ない上に、障害のない人が駐車していて利用できないことがあ

る(75.2%)

障害

・外見では分からないため、周りからは理解されにくい(89.1%)・障害のある臓器(心臓、肺など)だけに支障があるのではなく、それに伴い全身状態が悪く、毎日毎

日疲れが取れない疲労感に浸かった状態で、集中力や根気に欠け、トラブルになる場合も少なくない(78.3%)

内部障害

(92 人)配慮

・疲れやすいが、外見上分からないため、優先席に座りたくても座りにくい(79.3%)・内部障害のあることを周囲の人に認識してもらえるようなマークやサインがあると良い(69.6%)

障害

・抽象的な概念が理解しにくい(81.6%)・自分の意思を表現したり、質問したりすることが苦手(79.6%)知的障害

(49 人) 配慮

・分かりやすい言葉でゆっくり話して(79.6%)・働いて自立していくのに足りないものを補うことにより、共に生きる隣人として受け止めて(77.6%)

障害

・病気の苦しみも強いが、収入も少なく生活上の苦しみも強い(66.1%)・精神障害と分かる不利な扱いを受けることが多いため、精神障害であることを知られたくない者も多い(64.3%)精神障害

(168 人) 配慮

・精神障害者を特別視せず、その人らしさを尊重して、笑顔で優しく接して(65.5%)・精神障害をうち明けることは勇気が必要であり、うち明けられても勝手に他の人に言わないで

(56.5%)

・全国に 6.3%いると言われながら十分な理解と支援をなかなか受けられていないLD(学習障害)、

ADHD(注意欠陥/多動性障害)、アスペルガー、高機能自閉症などの発達障害者の存在(85.9%)・外見では分かりにくいため「態度が悪い」「親の躾が悪い」などと批判されやすい(83.9%)

発達障害

(255 人) 配慮

・教え方や学習の仕方をきめ細かくすることで克服できる部分が多い(81.6%)・視覚的なサポートがあると理解しやすい(65.9%)

平成16年12月3日(障害者週間の初日)から12月末までの期間で募集し、応募総数は、1,011人であった。そのうち、障害者本人が全体の7割近くを占め、知的障害と発達障害では代弁者からの応募が多かった。なお、視覚障害のある方からは、Eメールのほか点字による応募があった。

内閣府「「障害のある当事者からのメッセージ」の意見募集結果(平成17年3月)」より

○ 障害者は、地域で安心して活動していくことを望んでいるにもかかわらず、現

実には周囲から人権を侵害されたり、障害のある人の自立や社会参加を阻んでい

る物理的なバリアが数多く残っていたりしていることが指摘されている。

○ 障害は誰にでも起こりうる身近なものであること(高齢になるにつれて何らか

の障害が現れることなど)や障害の種類は多様なものであることを理解し、障害

者一人一人が社会の中でどのような能力を発揮できるかについて考えていくこと

が大切である。

○ 子どもの頃から障害者との交流やボランティア体験などの機会を増やし、地域

社会などの日常生活の場において、障害者の自立や社会参加を阻んでいる物理

的なバリアに加えて、文化や情報に接する際のバリア、心のバリアなどを取り除

く取組を推進していくことが求められている。

指導の観点

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同 和 問 題

同和問題とは、いわゆる同和地区と呼ばれる特定の地域出身であることや、そこ

に住んでいることを理由に、結婚を反対されたり、就職や日常生活の上で様々な差

別を受けたりするという、重大な社会問題です。

1 同和問題の正しい理解と認識

同和地区住民に関する差別意識は、根強いものがあり、数は少なくなってきてい

るものの、住んでいることを理由に、結婚を反対されたり、就職や日常生活の上で

様々な差別を受けたりすることがあります。また、悪質な差別落書きや、近年の情

報化社会を反映したインターネット上の差別表現など、まだまだ差別事象が見られ

ます。

同和問題の解決に向けて、県民一人一人が同和問題についての正しい理解と認識

を図り、自分自身の課題としてとらえることが必要なのです。

資料① 同和問題とは 資料② 「同和地区」という用語について

平成 14 年3月に特別措置法(以下、特措法)が切れた後も、「同和地区」という用語を使ってもよいのかということを聞くことがあります。「同和対策事業特別措置法」等、特措法の中では、「対象地域(歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域)」という用語を使用していました。したがって、特措法の失効に伴い、「対象地域」という用語は使用しなくなってきています。「同和地区」という用語も行政機関で使われてきたのですが、厳密にいうと、特措法で規定された用語ではなく、同対審答申が出される以前から使用されていたという経緯があります。

香川県では、他の用語に置き換えることが難しいことから、「同和地区」という用語を使用しています。ただし、使用にあたっては、使用する目的や状況をよく考慮した上で、正しく用いるように十分に配慮しています。

同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である。

同和問題は自分とは関係ないと思っていませんか?

同和問題は理解しているけれど「結婚となると別だ」と思っていませんか?

自分の家族が同和地区の人と結婚したいと言ったらどうしますか?

職場の同僚が同和地区の人だと知ったらどう思いますか?

同和問題はそっとしておけばなくなると考えていませんか?

同和問題のことをとりあげるから差別がなくならないと考えていませんか?

「同和対策審議会答申」より

知 る

同 和 問 題

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2 同和問題はどうして起こったのか

(1)中世の差別

14 世紀後半になると、ケガレをキヨメ

る職能に従事する人々を賤視し、同じ火

を使わない、同じ器を使わない、婚姻は

しない、居住地を別にするなど、共同体から排除する世俗的な差別が成立しました。

中世の身分は流動的であり、一つに固定されたものではありませんでした。武士に

しても職業の一つととらえられており、また、その多くは農業などを営んでいました。

被差別民もその居所や生業なりわい

、 浄じょう

穢え

観などにより、「かわらもの*」、「かわや*」、「え

た*」など、様々な名称で呼ばれていました。

資料③ ケガレとキヨメ

(2)近世の差別

江戸時代になると、皮の需要が減り、皮革業に従事してきた人々は手工業や農業に

移っていったのですが、世俗的な差別はそのまま続きました。江戸幕府は「宗門改め」

等の政策を用い、それまであった身分を居住地ごとに近世身分として固定していきま

した。さらに、17 世紀半ば以降になると、幕府や藩から様々な差別政策が打ち出され

資料④ 江戸時代の身分と役

*本資料では、身分を表す言葉として「賤称語」を掲載していますが、使用にあたっては十分に配慮するようお願いします。

「ケガレ」という言葉は、現在では「汚れている」とか「おぞましい」という意味で使われていますが、本来は、日常生活に大きな変更がなされることへの畏敬の念が含まれていました。民俗学では、日常の日を「ケ」といい、特別な日を「ハレ」として日常生活の中に特別な日を設けることで「五穀豊穣」や「無病息災」を願ってきたと考えています。しかし、「ケ」の日であるところに、病気や死、天変地異などの様々な要因により「ケ」が「カレ」(枯れ)た状態が生じます。これが「ケガレ」であり、人々は避けたい気持ちをもつと同時に、神の所業であるとの考えから畏敬の念を抱いてきました。

人々は、「ケガレ」を祓(はら)い、「ケ」の状態にもどすことを求め、「キヨメ」という「ケガレ」を専門的に祓う行為を行う人々が登場してきました。「キヨメ」の仕事としては、禁裏(き

んり)(宮中)・寺社などの聖なる場の清掃や作庭・池ざらえ、葬送・斃牛馬(へいぎゅうば)の処理、行刑の業務、呪術的な芸能(田楽・猿楽、万歳芸、ささら説教、人形廻しなど)などがありましたが、これらは神に通じたある特定の人たちだけに与えられた力として誰もができるものではないものと見なされ、畏敬の念をもって喜んで迎えられました。社会の秩序と生活を守る大切な仕事であり、その仕事は中世の文化を支える担い手ともなりました。

近年、部落史の研究が大きく進み、従来の見方や考え方が見直されてきています。歴史的な起源や、身分のとらえ方など新しい見方や考え方を正しく理解することが大切です。

江戸時代の身分は、武士、百姓、町人、「えた」・「ひにん*」などの被差別身分などがあり、領主に対して「役(やく)」が課せられました。武士は「軍役(ぐんやく)」、百姓は「年貢」を納めることと土木作業などの労働である「夫役(ぶやく)」(後に銀納で代替されました)など、「町人」は、特定の職業にかかる権利取得のための税や営業税「冥加(みょうが)・運上(うんじょう)」など、そして「えた」身分は皮革上納や下級警察業務などがその「役」でした。

このような「役」を務めることは社会的分業を果たすことであり、それぞれの身分は、社会を成り立たせるためになくてはならないものでした。また、このような身分でいることは、領主からその土地で住むことやそれぞれの生業を保障された証でした。それゆえ、当時の人々にとってそれぞれの身分があるのは当然であり、身分らしく生きることは大切なことでした。

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てきます。たとえば「えた」という賤称の強制、居住地の強制移転、風俗の取り締ま

り、行政書面の別紙などで、武士・百姓・町人身分とは別の身分として位置づけられ

たのです。それまでの世俗的な差別に加えて政治的な差別がかぶさって、賤視と排除

が政治的にも根拠づけられることとなり、世俗的・政治的差別の二重構造となったの

です。

当時の被差別民は、差別され惨めな生活に忍従していたのではなく、皮革、革細工、

竹細工、履物(雪駄)の製造と販売など、多様な仕事に従事するなど、たくましく生

き抜いていました。農業に従事し、百姓と同じように年貢を納めていた村も多くあり

ましたし、「えた」身分の医者、獣医、薬剤師業者も各地に存在した記録もあります。

他の身分の人たちと同様に、大切な役割を担ってきたのです。

(3)太政官布告第 61 号(いわゆる「解放令」) 資料⑤ 太政官布告 61 号

明治政府は、江戸時代の身分制度を解体し、

華族、士族、平民に再編成しました。その中で、

明治4(1871)年8月 28 日、「太政官布告第 61

号」を発しました。

このときまで平民とされていたのは百姓や町

人でしたが、布告により「えた」や「ひにん」

などの被差別身分の人々も新たに平民に編入さ

れることになり、制度上の身分差別から解放さ

れました。このことから、この布告は、「解放令」

と呼ばれています。

「解放令」は、近代国家建設に向けて国民を

統一的に統治するための政策の一つでした。そ

のために、これまで税を免除されていた旧被差

別身分の人たちの住む一部の屋敷地などにも課税されることとなりました。また、「死

牛馬勝手処理令」が出され、斃牛馬を無償で譲り受ける「特権」がなくなったり、警

察制度が整備されることにより下級警察業務の仕事もなくなったりするなど、旧被差

別身分の人たちは経済的な打撃を受けるようになりました。

村の政治は旧来の体制が利用されました。そのため、民衆に残る身分的差別意識は

解消されなかっただけでなく、旧百姓や旧町人は身分を引き下げられたとも感じ、「解

放令」が正しく伝えられなかったり、「解放令反対一揆」が引き起こされたりするなど、

かえって旧被差別身分の人たちに対する差別意識が強まることにもなりました。

明治政府が行った徴兵令や学制などの近代化に向けた政策は、火や食器、住まいな

どを旧被差別身分の人たちとともにしないとする、それまでの身分的差別慣行を破る

ものでした。その結果、世俗的差別がなくなっていない民衆の旧被差別身分の人たち

布告/穢多非人等之称被廃候条自今身分職業共平民同様タルヘキ事同上府県ヘ/穢多非人等ノ称被廃

候条、一般民籍ニ編入シ、身分職業共都テ同一ニ相成候様可取扱、尤地租其外除蠲ノ仕来モ有之候ハハ、引直シ方見込取調大蔵省ヘ可伺出事【読み下し】布告/「えた」「ひにん」等の称廃

せられ候条、自今身分職業共平民同様たるべき事同上府県へ/「えた」「ひにん」等

の称廃せられ候条、一般民籍に編入し、身分職業共すべて同一に相成り候様取り扱うべく、もっとも地租その外除蠲のしきたりもこれ有り候はば、引き直し方見込み取り調べ大蔵省へ伺い出るべき事※除蠲(じょけん):課税しないこと

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に対する「排除」の意識が強まり、差別行為が日常化するようになりました。

3 同和問題解決に向けた取組

(1)同和対策審議会答申

昭和35(1960)年、同和対策審議会が設置さ

れ、内閣総理大臣の諮問事項である「同和地区

に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」について審議を

重ね、昭和40(1965)年8月、内閣総理大臣に対してその方策を答申しました。

これが同和対策審議会答申です。答申の前文には、「同和問題は人類普遍の原理

である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基

本的人権にかかわる課題である」「その早急な解決こそ国の責務であり、同時に

国民的課題である」と述べられており、その後の総合的な対策の重要性を明らか

にしました。

資料⑥ 「同和対策審議会答申」と「特別措置法」

(2)香川県の取組

香川県においては、同和問題の解決に向け、各種施策を総合的に推進してきまし

た。とりわけ同和教育については、同和問題の解決を図る上で、教育の果たす役割

の大きいことから、昭和 50(1975)年に策定した「香川県同和教育基本方針」に基

づき、学校教育、社会教育の両面にわたり、その推進に努めてきました。

同和教育を通して培われた人権感覚は、他の人権課題の不合理を見抜き、すべて

の人権問題を解決する取組へとつながるものと考えられます。香川県では、同和問

題を人権問題の重要な柱として位置づけ、様々な人権課題の解決を目指す教育を人

権・同和教育と定めました。人権・同和教育は、同和教育がこれまで積み上げてき

た成果を生かしながら人権意識の高揚を図るとともに、人権課題の解決と人権が尊

重される社会の実現を目指す実践力に富む人間の育成を目的としています。平成 15

同和問題の解決に向けて、これまでどんな取組がなされてきたのでしょうか。

答申は、第一部に「同和問題の認識」、第二部に「同和対策の経過」、第三部に内閣総理大臣からの諮問に対する実質的な回答にあたる「同和対策の具体案」を示しています。さらに、結語の「同和行政の方向」では、「特別措置法」の制定、同和対策長期計画の策定などの課題を挙げ、それらの実現を求めています。

この答申を受け、昭和 44(1969)年に「同和対策事業特別措置法」が制定され、これに基づき同和対策事業が総合的に進められました。以後、「地域改善対策特別措置法」(昭和 57 年)、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(昭和 62 年)が制定されました。

平成8(1996)年地域改善対策協議会は、これまで四半世紀にわたって続いてきた同和対策事業を特別対策事業(特別措置法に基づき同和地区、同和関係者に対象を限定した事業)から一般対策事業(対象を限定しない事業)に移行するとの大枠を示し、残された課題については法的措置を含めて検討する旨の答申を出しました。これを受けて、翌年3月、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」は一部改正され、以後5年間の法的措置が講ぜられました。そして、平成 14(2002)年3月 31 日にこの法律は失効し、同和対策事業は一般対策に移行、または廃止されました。しかし、「一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組の放棄を意味するものでない」、「一般対策移行後は、従来にも増して」「地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実施していく主体的な姿勢が求められる」とも述べられています。

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(2003)年には「香川県人権教育基本方針」を策定しました。

また、国が平成 12(2000)年に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」を

制定し、平成 14(2002)年に「人権教育・啓発に関する基本計画」を策定したこと

を受け、平成 16(2004)年に「香川県人権教育・啓発に関する基本計画」を策定し、

県民の人権尊重意識のより一層の高揚を図っています。

4 同和問題の現状と課題

(1)全国高等学校統一用紙

全国高等学校統一用紙(統一

応募用紙)は、就職に際して、

応募者の人権を守り、不当な就職差別が行われないようにというねらいから、文部省

(現文部科学省)及び全国高等学校長協会などの協議の下に書式が統一されたもので、

昭和 48(1973)年から使用されています。

それまでは、各企業が独自に作成した「社用紙」と呼ばれる応募用紙が使われてい

ました。その中には、本籍、家族の職業、地位、学歴、住居状況などを記載させるも

のもありました。こうした、応募者の職業上の適性や能力とは無関係なことがらに選

考の根拠を求めることは、たとえば部落出身者かどうかを選考基準に用いることにつ

ながり、就職の機会均等を侵すことになります。

本県の高等学校等では、関係機関と連 資料⑦ 差別につながるおそれのある 12項目携

しながら企業に対して、統一応募用紙

の使用や面接の質問事項に差別につなが

るおそれのある項目(本県では 12 項目)

を含めないよう要請したり、生徒に対し

て差別につながるおそれのある質問には

答えないよう指導するなど、就職差別の

撤廃と公正な採用選考の実現に向けた取

組を進めています。しかしながら、面接

時に家族構成や保護者の職業などの差別

につながるおそれのある質問を行うなど、未だにこの趣旨を理解していない企業があ

ります。

そうした企業に対しては、統一応募用紙制定のいきさつや趣旨について十分な理解

を図り、公正な選考が行われるよう関係機関を中心に働きかけています。

年 代 主 な で き ご と

昭和 40(1965)

50(1975)

平成 8(1996)

12(2000)

14(2002)

15(2003)

16(2004)

〔 国 〕「同和対策審議会答申」

〔 県 〕「香川県同和教育基本方針」策定

〔 県 〕「香川県部落差別事象の発生の防止に関する条例」制定

〔 国 〕「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」制定

〔 国 〕「人権教育・啓発に関する基本計画」策定

〔 県 〕「香川県人権教育基本方針」策定

〔 県 〕「香川県人権教育・啓発に関する基本計画」策定

・本籍(戸籍謄本・抄本、住民票等の要求)・家族の職業・続柄、身元調査・家族の地位・学歴・収入・家族の資産・住居状況(部屋数・間取り、道順)・宗教・支持政党・生活信条・尊敬する人物・思想・生まれ育った場所・生活環境に関する作文

同和問題の現状と課題をみていきましょう。課題解決に向けて様々な取組が行われています。

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このような取組は、部落差別撤廃という理念の中で進められてきましたが、これが

すべての人の人権を守るためのものとして活用されているのです。

(2)えせ同和行為

えせ同和行為とは、「同和問題はこわい問題であり、避けたほうがよい」という誤

った意識に乗じ、同和問題を口実にして図書等の物品の購入の強要などにより、企業、

学校等に不利益を与えることにつながる行為です。

これらの行為は、同和問題に対する誤った意識を植え付け、新たな差別意識を生む

大きな要因となっており、これまでの同和教育や啓発の効果を大きく損なうものであ

り、部落差別解消への道に逆行するものです。

同和問題に対する正しい認識の欠如からくるその場しのぎの安易な妥協や恐怖心

などから、不当な要求に応じる例も見受けられ、えせ同和行為の横行を許す背景とも

なっています。

えせ同和行為を排除するためには、同和問題に対する正しい理解と、不当な要求を

はっきり断る毅然とした態度が必要です。

資料⑧ えせ同和行為対応の手引き「図書等物品購入の強要」

法務省啓発資料より

○ 同和問題に関する誤った知識、風評、偏見などから人を差別することがないよ

う、同和問題が起きた歴史的背景や、国や県が同和問題解決に向けて取り組んで

きた経緯などを学習し、同和問題に対する正しい理解と認識を深める。

○ 同和問題の解決は同和地区の人たちだけの課題ではなく、国民一人一人に課せ

られた課題であることを自覚し、自分の問題として、課題解決に向け主体的に取

り組むことの大切さについて理解を深める。

○ 就職差別解消への取組やえせ同和行為への具体的な対処方法を学び、差別解消

に向けた具体的な取組について学ぶ。

1 電話により購入の申し入れがあった場合(1) おびえず、あわてず対応し、相手方の要求に応ずるべきでないと考えたときは、たとえば「当

社では、その本を必要としないので、購入するつもりはありません」と明確に答える。(2) 相手方は、「とにかく送るから見てほしい」、「顔を立ててほしい」旨、懇願することもある。これ

に対しては「送ってきたら着払いで送り返す」旨伝え「購入するつもりはない」と繰り返し答える。(3) 断ると、相手方は「同和問題に対する理解がない」、「糾弾するぞ」とおどし始めることが多い。

これに対しては、「同和問題についての研修は行っている」、「同和問題についての研修や必要な資料等は、法務局等に相談して決定する」等と答える。

(4) また、執拗に購入を強要するときは、「このような物品の購入の申し入れの対応については、警察・法務局から指導を受けている」と言ってもよい。

(5) 断ったにもかかわらず、送ってきたら受け取りを拒否する。または、着払いで送り返す。誤って封を開けた場合でも、その上から包装して送り返して差し支えない。最近では、「着払いで送り返す」と言えば、送ってくることはないようである。

2 突然、送ってきた場合(1) 受け取りを拒否する。(2) 封を開けて気がついたときは、その上から包装して、着払いで送り返す。

指導の観点

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香川県の国籍別外国人登録者の構成比

外 国 人 の 人 権

日本国憲法は、権利の性質上、日本国民のみを対象としているものと解されるも

のを除き、我が国に在留する外国人についても等しく基本的人権の享有を保障して

います。しかし、現実には、在日韓国・朝鮮人との間で、歴史的経緯に由来する様々

な人権問題が生じています。また、近年の国際化社会を反映して、諸外国との人的

な交流が盛んになり、訪日外国人旅行者や外国人登録者が年々増加し、それらの

人々との間で、人権問題が発生するようになっています。外国人に関する人権侵害

としては、就労における差別や入居・入店拒否、在日韓国・朝鮮人児童・生徒に対

する暴力や嫌がらせなどがあります。

これらの人権侵害の背景には、他国の言語、宗教、文化、習慣等への理解不足か

らくる外国人に対する偏見や差別意識の存在などが挙げられます。私たちは、外国

人のもつ文化や習慣等の多様性を尊重し、国際化時代にふさわしい人権意識を育て

ていくことが大切です。

1 日本で暮らす外国人

(1)増加傾向にある外国人登録者数

国際化等の進展により、我が国における外国人登録者数は増加傾向にあり、平成

21 年末には 218 万 6,121 人となり、我が国の総人口1億 2,751 万人(平成 21 年 10

月1日推計)の 1.71%になっています。香川県でも増加傾向にあり、県在住の外国

人登録者数は、約 9,000 人(71 か国)、県人口の1%近くになっています。また、

県在住の外国人の国籍は、中国、フィリピン、韓国・朝鮮、ペルーの順になってお

り、アジア、南米出身者は全体の約 95%を占めています。

資料① 日本と香川県の外国人登録者

(各年末現在)

日 本 香川県

平成 11 年 1,556,113 人 5,585 人

平成 13 年 1,778,462 人 6,617 人

平成 15 年 1,915,030 人 7,458 人

平成 17 年 2,011,555 人 8,068 人

平成 19 年 2,152,973 人 8,708 人

平成 21 年 2,186,121 人 8,772 人

法務省、香川県総務部国際課資料より

外国人に関する課題

知 る

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また、外務省の「海外在留邦人数調査統計(平成 22 年速報版)」によると、我が

国の領域外に在留している日本人は、113 万 1,807 人(平成 21 年 10 月1日現在推

計)に上り、アメリカ合衆国(約 38 万人)、中国(約 13 万人)、オーストラリア(約

7万人)の順で多く、在留資格は、永住者 37 万 3,559 人(全体の 33.0%)となっ

ています。このように、我が国においても海外の国々においても、外国人との共生

は大切な人権課題となっています。

(2)香川県内在住の外国人住民が抱えている問題や要望

香川県で暮らす外国人住民が抱えている問題や要望にはどのようなものがある

のでしょうか。考えてみましょう。

資料② 香川県内在住の外国人住民に対する意識調査

私たちは、異なる文化や考え方を尊重し、互いに認め合いながら同じ地域社会の

一員として、外国人が暮らしやすい社会を築くために、コミュニケーション支援、

生活支援、多文化共生の地域づくりを推進していく必要があります。

2 外国人に対する人権侵害

(1)外国人に対する意識

我が国に居住している外国人に対して、生活上、様々な場面で人権問題が生じて

いるといわれていますが、その背景として、外国人に対する意識はどうでしょうか。

外国人の人権擁護については、「日本国籍を持たない人は、日本人と同じような権

利を持っていなくても仕方がない」と回答した人の割合が 25.1%となっています。

また、外国人が不利益な取扱いを受けることについては、33.1%の人が「差別だ」

■来日の目的 ■生活に必要だと思う情報(5つ以内)

■まわりの日本人との間で希望される交流 ■日本人でないことにより扱いが違うと感じることは

香川県総務部国際課「外国人住民とともに暮らす香川づくり推進計画のためのアンケート(平成 18 年度)」(依頼数 395 人、回収率 70.1%)より

日本語学習 138 人 交流活動 55 人

日常生活のルール 117 人 町の案内 49 人

保健・医療・福祉 76 人 住宅 30 人

仕事 73 人 就学 26 人

在留資格やビザ 72 人 行政サービス 21 人

イベント・観光 62 人 子育て・教育 9 人

防災 59 人 その他 1 人

人数 割合

仕事のため 132 48.2%

留学のため 55 20.1%

家族と共に 8 2.9%

結婚のため 7 2.6%

その他 72 26.2%

合計 274

ある 52 人 ない 178 人

「ある」の場合はその状況・飲食店の店員に無視されたり、変な目で見られる

・飲食店にいる客から嫌なことを言われる・外国人だから「これをしなければならない」「それはできない」などとよく言われる

など

もっと日本の習慣などを教えてほしい 108人

互いに文化交流をしたい 77 人

地域の行事などに参加したい 69 人

もっと親しくしたい 59 人

ボランティア活動などに参加したい 25 人

交流したくない 19 人

その他 1 人

私たちの地域で生活する様々な国の人々のもつ文化や外国人の人権を考えるために、交流活動を実施するとしたら、どのようなものが考えられますか。

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と認識していますが、一方で「風習・習慣や経済状態が違うのでやむを得ない」「日

本の事情に慣れるまでトラブルがあっても仕方がない」「外国人だから不利益な取

扱いを受けても仕方がない」と回答している人が、あわせて 57.1%となっており、

まだまだ外国人に対する厳しい意識があることは否めません。国際化が進展してい

く中で、多くの課題が残されています。

資料③ 外国人に対する意識調査

(2)在日韓国・朝鮮人への差別

昭和 27 年に制定された外国人登録法では、我が国に入国した外国人に対して、

指紋や署名などによらなければ人物確認ができないなどの理由から、指紋押捺が強

制されていました。これは、我が国に永住する在日韓国・朝鮮人の人々にも適用さ

れましたが、昭和 55 年からの指紋押捺拒否運動を通して指紋押捺は廃止され、現

在は署名・家族登録制度に変更されています。また、朝鮮高級学校は学校教育法で

定められた学校でないために、大学受験資格や高校総体への参加が認められていま

せんでしたが、近年、その規制も緩和されるようになりました。

また、歴史的経緯に由来して、在日韓国・朝鮮人は、民族名と日本名(通名)の

2つの名前をもち、多くの人々が通名で暮らさざるをえない状況が続いています。

たとえば、就職の際に採用されにくいなどの差別を受けるおそれがあるため、本名

を名乗れない場合があります。在日韓国・朝鮮人に限らず、雇用において本人の適

性や能力によらずに判断されることは、大きな人権侵害といえます。

資料④ 在日韓国・朝鮮人関係略年表

年 代 で き ご と

昭 和 2 7( 1 9 5 2)サンフランシスコ平和条約発効外国人登録法公布・施行(指紋押捺義務設定)

昭 和 3 0( 1 9 5 5) 外国人登録の指紋に関する政令施行(指紋押捺の強制開始)昭和 55(1980)年頃から 指紋押捺強制を不服として指紋押捺拒否運動が始まる。昭 和 6 0( 1 9 8 5) 指紋押捺拒否者が続出

平 成 3 ( 19 9 1)出入国管理特例法施行(戦前から在留する在日韓国・朝鮮人及びその子孫に対し、一律に永住権を認める=特別永住)

■日本に居住している外国人は、生活上のいろいろな面で差別されていると言われています

が、外国人の人権擁護について、あなたの意見は次のどちらに近いですか。

■日本に居住している外国人が不利益な取扱いを受けることがありますが,あなたはこのこ

とについてどう思いますか。

法務省「外国人の人権擁護に関する世論調査(平成 19 年6月調査)」(全国 20 歳以上の者 3,000 名を対象に調査)より

日本国籍を持たない人でも、日本人と同じように人権を守るべきだ 59.3%

日本国籍を持たない人は、日本人と同じような権利を持っていなくても仕方がない 25.1%

「どちらともいえない」及び「わからない」 15.6%

外国人に対する差別だ 31.7%

風習・習慣や経済状態が違うのでやむを得ない 33.7%

日本の事情に慣れるまでトラブルがあっても仕方がない 20.2%

外国人だから不利益な取扱いを受けても仕方がない 3.2%

「その他」及び「わからない」 11.2%

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平 成 4 ( 19 9 2)外国人登録法改正(永住者と特別永住者に対する指紋押捺全廃、署名・家族登録制度導入)

平 成 1 1( 1 9 9 9)外国人登録法改正(外国人に対する指紋押捺全廃、署名・家族登録制度に一本化)

資料⑤ 永住者と特別永住者

3 国際結婚の現状

昭和 50 年から 35 年ほどで、我が国の婚姻総数に占める国際結婚の数が約6倍と

急増し、近年では 20 組に1組が国際結婚です。

国際結婚は、言語、宗教、文化、習慣等の「違い」を前提としていることが多く、

生活上その「違い」が原因で生じた問題を互いに協力して解決しています。国際結

婚には限りませんが、私たちは一人一人の「違い」を前提として互いに協力して幸

せな家庭を築いていこうとしている家族を支えることのできる地域社会をつくって

いくことが求められています。

資料⑥ 我が国における婚姻件数からみた国際結婚の割合の推移

昭和50年 昭和55年 昭和60年 平成2年 平成7年 平成12年 平成17年 平成21年

婚 姻 総 数(件) 941,628 774,702 735,850 722,138 791,888 798,138 714,265 707,734

夫 婦 と も 日 本 人(件) 935,583 767,441 723,669 696,512 764,161 761,875 672,784 673,341

夫婦の一方が外国人(件) 6,045 7,261 12,181 25,626 27,727 36,263 41,481 34,393

国 際 結 婚 の 割 合 0.64% 0.94% 1.66% 3.55% 3.50% 4.54% 5.81% 4.86%

国際結婚の割合は、婚姻総数に占める「夫婦の一方が外国人」の件数から算出した。厚生労働省「人口動態統計」より

○ 国際化等の進展により、人、モノ、情報などがボーダレスに行き交う今日、我

が国においても海外の国々においても、異文化への理解を深め共生社会を築くこ

とは重要な課題となっている。

○ 外国人の人権が侵害される背景として、他国の言語、宗教、文化、慣習等への

理解不足からくる外国人に対する偏見や差別的意識がある。加えて在日韓国・朝

鮮人に関する問題については歴史的経緯に由来するものもある。

○ 外国人との交流を進めていく中で、国籍等にとらわれず一人一人の「違い」を

前提とした、国際化時代にふさわしい人権意識を育てていく地域社会を築くこと

が求められている。

永住者(特別永住者を除く)日本に永住できる在留資格。5年または 10 年以上日本に在留した人が、入管法に定める手続に

より、法務大臣に対し永住許可を申請し、慎重な審査の後、法務大臣から永住の許可を受けた者。(平成 21 年末現在、533,472 人、外国人登録者全体の 24.4%)

特別永住者サンフランシスコ平和条約発効により日本の国籍を離脱した者及びその子孫。主に在日韓国・

朝鮮人がこの資格を持っています。(平成 21 年末現在、409,565 人、外国人登録者全体の 18.7%)

指導の観点

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ハンセン病回復者等の人権

かつて、ハンセン病は不治の病で、顔や手足などの後遺症が目立つことから恐ろ

しい伝染病であると受けとめられていました。その後、ハンセン病は感染したとし

ても発病する可能性は極めて低い感染症であることが明らかになり、また、治療法

が確立しているにもかかわらず、隔離政策が継続されました。こうしたことによっ

て、社会では誤った認識からハンセン病に対する偏見が助長される中で、ハンセン

病患者・回復者やその家族が様々な差別を受けてきました。

我が国では、平成8年の「らい予防法廃止に関する法律」により隔離政策が終了

したものの、療養所入所者の多くは、長期間にわたる隔離などによって、引き続き

療養所に残らざるをえないなど、社会復帰が困難な状況にあります。今後、このよ

うな人権侵害の再発を防止するためには、ハンセン病についての歴史的経緯を踏ま

え、国の責任とともに、自治体や私たちの責任を明確にするとともに、ハンセン病、

ハンセン病回復者やその家族について正しく理解することが大切です。

1 ハンセン病について

ハンセン病は、「らい菌」によって、主に皮膚や末梢神経がおかされる感染症で

すが、その感染力は極めて弱く、感染しても発病する可能性はまれです。現在では

発病しても特効薬が開発されており、外来治療で完治します。

これまで、ハンセン病患者は、顔や手足など外見上、目に見えるところに症状が

現れることや特効薬が開発されていない等の理由から、様々な偏見や差別を受けて

きました。また、特効薬の使用によって完治していても、身体に障害が残っている

ため恐れられてきました。しかし、それは単に後遺症であり、その後遺症を見てハ

ンセン病は不治の病で、周りの人に感染するなどと考えることは誤った認識です。

2 ハンセン病回復者等への偏見や差別

(1)国の隔離政策の経緯

ハンセン病は、明治6(1873)年にノルウェーのハンセンによる「らい菌」の発

見により感染症であることが明らかになり、明治 30(1897)年の第1回国際らい会

議において「ノルウェー方式(ハンセン病の隔離は故郷において十分行われ、自宅

隔離が不完全なときは国立病院に救護隔離する、などとしている)」と呼ばれる患

者の人権に配慮した穏和な隔離政策が承認されました。また、昭和 35(1960)年に

は、WHOより外来治療管理の方向が勧告されました。しかし、我が国においては、

知 る

ハンセン病回復者等に関する課題

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らい予防法の廃止までハンセン病患者に対する隔離政策を推進し、多くの療養所を

設立しました。なぜ、国は隔離政策を推進したのでしょうか。その政策によって、

ハンセン病や患者等に対する偏見や差別が、どのように拡大したのでしょうか。

資料① ハンセン病関連年表

年 代 で き ご と 内 容

明治 40(1907)

年以前

ハンセン病は遺伝病、業病、不治の病等と恐れられ、また、患者は家族に迷惑がかかることを心配して、人目のつかない家の周辺、神社仏閣などで生活をした。

明治 40(1907)

「癩予防ニ関スル件」

の制定(隔離政策の始

まり)

ハンセン病に対して無策であると欧米先進国に批判された政府は、家を離れて生活するハンセン病患者(浮浪患者)を収容するために隔離政策を始めた。ハンセン病は感染症であることが判明したが、それまでの遺伝病、業病に感染症であるという認識が上乗せされ、偏見や差別意識が高まった。

昭和4(1929)無癩県運動が一部の

民間運動から始まる

ハンセン病患者のいない県にしようと、放浪患者や在宅患者のすべての人を強制隔離しようとした運動。

昭和6(1931) 「癩予防法」の制定

すべてのハンセン病患者を療養所に強制隔離する法律。国は迫る戦争に対処するために、心身ともに優秀な国民の創出を目指す優生政策の一環として、隔離政策を位置づけた。また、自治体等官民一体となった無癩県運動では、保健所等は、患者の隔離に際して、家、患者の移動経路に消毒を行った。消毒作業等によって、偏見と差別意識が一層深まった。

昭和 18(1943) プロミンの開発アメリカでハンセン病治療薬プロミンの有効性が確認される。

昭和 28(1953) 「らい予防法」の制定

ハンセン病に効果のある特効薬プロミンが使用されるようになっていたが、国は、戦前の隔離政策を継承する新たな「らい予防法」を制定した。この法律によって、入所者の社会復帰の機会は奪われ、生涯隔離を余儀なくされた。また、この頃、優生保護法に基づき、療養所内での堕胎手術等が行われた。

昭和 35(1960)WHOが外来治療管

理の方向を勧告

この頃から、病気が治って自主的に退所する人がみられたが、入所の際に家族などとの関係が断絶されていたため、療養所の外では十分な受け皿がなく、仕方なく療養所に戻る人もいた。

平成8(1996) 「らい予防法」の廃止 約 90 年続いた隔離政策等が終了した。

平成 13(2001)

らい予防法違憲国家

賠償請求訴訟で、原告

勝訴

九州の星塚敬愛園、菊池恵楓園の入所者ら 13 名が、熊本地方裁判所にらい予防法違憲国家賠償請求訴訟を提起。熊本地裁は、「ハンセン病は遅くても昭和 35(1960)年以降においては、隔離政策を用いなければならないほど特別の疾患ではなくなっていたにもかかわらず、隔離を継続させ、患者や家族の方々に対する差別的な社会認識を放置したことへの厚生大臣の法的責任を認める」との判決を出す。国は隔離政策の過ちを認めて謝罪した。

平成 15(2003) ホテル宿泊拒否事件熊本県内のホテルがハンセン病回復者であることを理由に宿泊を拒否。ハンセン病回復者に対する差別意識が社会に根強く残っていることが問題となった。

平成 21(2009)ハンセン病問題基本

法の制定

全国の国立療養所の維持を目指し、施設などを地域住民らの医療・介護施設として開放できるとした法律。

(2)全国のハンセン病療養所の現状

日本全国を5区に分けて、5つの公立ハンセン病療養所が設立されました。これらはのち国立療養所となり、現在 13 の国立療養所があります。なお、私立療養所は2つあります。

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資料② ハンセン病療養所の入所者数とその平均年齢 (平成 21 年5月1日現在 *は私立)

施 設 名(都県) 入所者数 平均年齢 施 設 名(都県) 入所者数 平均年齢

松丘保養園(青森) 141 人 79.5 歳 菊池恵楓園(熊本) 405 人 78.4 歳

東北新生園(宮城) 136 人 80.7 歳 星塚敬愛園(鹿児島) 242 人 80.9 歳

栗生楽泉園(群馬) 159 人 81.6 歳 奄美和光園(鹿児島) 51 人 82.1 歳

多摩全生園(東京) 297 人 80.8 歳 沖縄愛楽園(沖縄) 264 人 79.1 歳

駿河療養所(静岡) 105 人 79.4 歳 宮古南静園(沖縄) 87 人 81.4 歳

長島愛生園(岡山) 356 人 80.8 歳 *神山復生病院(静岡) 8 人 80.1 歳

邑久光明園(岡山) 205 人 81.2 歳 *待労院療養所(熊本) 7 人 80.1 歳

大島青松園(香川) 120 人 78.8 歳 合 計 2,583 人 80.2 歳

(3)国立療養所大島青松園について

平成 21 年5月現在、全国の国立療養所には約 2,600 名のハンセン病回復者が入

所しています。その中の1つ、大島青松園は、明治 42(1909)年4月1日に開園し、

平成 21 年には開園 100 年を迎えました。これまで、大島青松園には約 4,000 名が

入所しました。平成 21 年5月1日現在の入所者数は 120 名(男 64 名、女 56 名)、

平均年齢は 78.8 歳、在所平均年数は約 52 年です。ハンセン病は完治していますが、

体には後遺症が残っているため、その治療にあたっています。

平成8年にらい予防法が廃止されましたが、帰郷を果たした人は 33 名(男 18、

女 15 名)で、現在も多くの人は大島青松園での生活を続けています。入所者の中

には、本名を名乗れず、偽名で暮らしている人がいます。開園以来 2,080 名がこの

療養所で亡くなりました。2,062 名の遺骨が島の納骨堂に納められ、故郷の墓地に

埋葬されたのは 18 名です。

資料③ 大島青松園の概要 (平成 21 年 12 月1日現在)

(4)ハンセン病回復者に対する偏見や差別

平成8年にらい予防法が廃止されているのにもかかわらず、その7年後、熊本県

のホテルでハンセン病回復者に対する宿泊拒否が起こりました。ハンセン病やハン

セン病回復者に対する偏見や差別が、国民の多くに根強く残っていることが改めて

認識させられた事件でした。

資料④ 熊本県におけるホテル宿泊拒否事件

Q:このホテルが、ハンセン病回復者の宿泊を拒否したのは、なぜでしょうか。

熊本県は、平成 15 年9月にハンセン病回復者を対象に熊本県が実施する「ふるさと訪問事業」の

一環で、22 人分の宿泊を同県南小国町のあるホテルに依頼し、いったん承諾を得たが、11 月になっ

て県が、宿泊者は菊池恵楓園の入所者らであることを伝えると、ホテルは一転して「乳幼児などの他

の宿泊者に感染する恐れがある」として拒否。県が説得を続けたが応じなかった。

■入所者年齢 ■在園年数 ■入所時期

資料提供 大島青松園

年 齢 人数 期 間 人数 入所の根拠となった法律 新入所者数(割合) 年平均入所者数

90 歳以上 10 人 80 年以上 1人 癩予防ニ関スル件 1,242 人(37%) 56.4 人

80~89 歳 49 人 70~79 年 5人 癩予防法 1,814 人(54%) 88.5 人

70~79 歳 41 人 60~69 年 29 人 らい予防法 324 人( 9%) 7.5 人

60~69 歳 15 人 50~59 年 44 人 平成8年以降 0 人( 0%) 0.0 人

合 計 115 人 49 年未満 31 人 合 計 3,380 人(100%)

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Q:感染の恐れがないにも関わらず、ホテルが宿泊を拒否したのは、なぜでしょうか。

Q:ホテル側が「認識不足で迷惑をかけた」と謝罪しましたが、入所者側は、この謝罪文の受け取りを拒否しましたが、なぜでしょうか。

Q:入所者が謝罪文の受け取りを拒否したことが報道されると、今度は、全国から入所者や自治会に対する非難や中傷の電話や手紙が相次ぎました。回復者に対するこのような非難や中傷の電話や手紙が相次いだのは、なぜでしょうか。

熊本県は「正当な理由のない宿泊拒否は人権侵害にあたる」と申し入れを行った。しかし、ホテル

側はあくまでも拒否する考えで、県は同日、熊本地方法務局に事実を通報した。同日午後に記者会見

した同ホテルの総支配人は「感染するしないの問題はわれわれは実際分からないが、一般社会に広く

受け入れられる認識や体制が整っていない状況で、サービス業を営む当ホテルとして受け入れること

はできない」と語った。また「一般の宿泊客が百パーセント受け入れるか疑問」とも述べた。

3 大島青松園の今

(1)増える現地学習会と交流会

大島における現地学習会等はこれまで、年 20~30 団体の申し込みがありました

が、らい予防法廃止やらい予防法違憲国家賠償請求訴訟での原告勝訴を受けて、今

では、年 100 団体以上の現地学習会や交流会の申し込みがあり、ハンセン病に対す

る正しい理解と認識が深まっています。

資料⑤ 平成 21 年度大島青松園来園団体数等

県内各市町関係 県内学校関係 大学関係 他県市町、学校等 外来者数

17 団体 56 団体 4団体 49 団体 3,060 人

(2)大島案内ひきうけ会社

大島には高松市立庵治第二小学校があります。平成 13 年、生徒たちは、大島に

暮らす人々の様子や思いを島外の人々に知ってもらおうと、「大島案内ひきうけ会

社」をつくりました。島の一つ一つの施設や設備には様々な工夫や意味があること、

またハンセン病回復者の人々との交流学習で学んだ思い等について、島を案内しな

がら発信していく活動です。平成 19 年3月、学校は一時休校になりましたが、小

学校の卒業生が定期的に集まっての案内活動は続けられてきました。

○ ハンセン病は、現在、外来治療で完治する病気であるにもかかわらず、らい予

防法廃止後の宿泊拒否事件にみられるように、科学的認識が浸透しにくい傾向が

ある。このことが、ハンセン病回復者等に対して国民に根強く残っている偏見や

差別の原因の一つであると考えられる。

○ 私たち一人一人が、ハンセン病問題に対して関心をもち、正しい理解を深め、

ハンセン病回復者等の人権確立と社会復帰の支援に取り組む必要がある。

○ ハンセン病患者、回復者やその家族について正しく理解するために、現地研修

や交流学習等に参加するなど、効果的な啓発を行うことが求められている。

指導の観点

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インターネットによる人権侵害

インターネットの普及により、私たちの生活は便利で効率的なものになりました

が、誰かを傷つけたりトラブルに巻き込まれたりするケースが急増しています。

これらは、ホームページのような不特定多数の利用者に向けた情報発信や、電子

掲示板を利用したネットニュースのような不特定多数の利用者間の反復的な情報

の受発信等の中で、他人を誹謗中傷したり、差別を助長する有害な情報が掲載され

たりするもので、いずれも発信者に匿名性があることから起こっています。

さらに、携帯電話の普及により、携帯電話を使ってインターネットを利用する人

口が、パソコンを使ってインターネットを利用する人口を上回る時代となっていま

す。そのため、これまでインターネットと無縁だった人たちに対する正しい利用法

や犯罪に巻き込まれないための対処法等の啓発は、特に重視しなければなりません。

1 インターネットを利用している人々

現在は、小学生以下の子どもから、80 歳を越える高齢者まで、インターネットが

普及しています。特に、携帯電話を用いたインターネットの利用が増えてきており、

それに伴ってインターネットを利用した人権侵犯の事例も、年々増えてきています。

資料① 我が国におけるインターネットに関する人権侵犯事例数の推移

このような状況の中で、被害者にも加害者にもならないために、インターネット

や電子メール等で情報をやりとりする際のルールやマナー、さらには危険な情報に

出会ったときの対処法をきちんと身に付けておく必要があります。

インターネットに関する課題

知 る

156 272 282

418

515

9596 96

181

238

54

118 116

154 176

0

100

200

300

400

500

600

平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年

インターネットによる人権侵犯

うちプライバシー侵害

うち名誉毀損

(件)

法務省「平成 20 年における「人権侵犯事件」の状況について」より

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2 インターネットを利用した差別事象の例

「表現の自由」が保障されているからといって、ホームページや電子掲示板等に

何でも書き込んでよいかといえば、決してそうではありません。不特定多数の人々

が見ることを考えると、たとえ個人のホームページ上であっても、プライバシーの

保護や名誉毀損といった観点は非常に重要です。

資料② インターネットの掲示板などを利用した人権侵害の例

1 特定の地域が同和地区であるとする書き込み

2 本人の意に反した実名・住所・電話番号などの書き込み

3 犯罪を犯したとされる少年の顔写真や氏名の書き込み

4 特定の個人を「殺す」などの脅迫文の書き込み

3 インターネットによる人権侵害への対策

電子掲示板等に自己の権利を侵害された書き込みがあった場合は、掲示板の管理

者に削除を依頼することができます。また、悪質な書き込みの場合には、プロバイ

ダに対して発信者の情報の開示が請求できるプロバイダ責任制限法が施行されてお

り、被害者の申請により発信者の情報の開示が可能になりました。

いずれにしても、個人で解決できない場合は、まず、身近にいる人権擁護委員や

香川県人権・同和政策課などに相談したり、法務省が開設するインターネット人権

相談の窓口を利用することができます。

4 インターネットによる人権侵害を起こさないために

インターネットだからこうしなければならないという特別なことはありません。

普段の生活上で大切にしなければならないことは、インターネット上でも大切にし

なければならないという意識をもつことが大切です。また、悪意をもって発せられ

る根拠のないうわさやうそなどに左右されないことも大切です。

特に以下のことに気をつけてインターネットを活用しましょう。

≪相手の人権を尊重しよう≫

≪言葉の使い方に気をつけて≫

≪責任は自分にあります≫

≪個人情報を書き込まない≫

≪うわさやうそを書き込まない≫

○ インターネット上で、匿名で発言したり情報を掲載したりすることができるこ

とを利用した悪質な書き込み等があることを知るとともに、根拠のない書き込み

に左右されないことが大切であることを理解する。

○ インターネット上で大切にしなければならないことは、普段の生活上で大切に

しなければならないことと同じであることを理解する。

インターネットだからといって特別なことはないんだね。常に相手の立場に立って考える姿勢を大事にしましょう!

指導の観点

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性的少数者の人権

これまで日本の社会では、性について固定的に考える傾向が非常に強くありまし

た。たとえば、世の中には「男性」と「女性」しか存在せず、恋愛対象は異性であ

るというようにです。さらに、それこそが正常な姿であり、すべての人がそうある

べきだと考える人が多かったのではないでしょうか。

しかし、現実には、そのような枠組みに当てはまらない人々がいます。このよう

な人々の存在を無視し排除する考え方が、性的少数者を非常に苦しめてきました。

ある人が自分とは違う少数者であるという理由で偏見をもったり、差別したりする

ことなく、それぞれの生き方を尊重することが大切です。

1 性的少数者とはどのような人たちですか?

(1)同性愛者・両性愛者

同性の人を恋愛対象とする人を同性愛者、同性も異性も恋愛対象とする人を両性

愛者といいます。これまで日本では、根強い偏見と差別から、社会生活の様々な面

で人権にかかわる問題が発生してきました。医学的には、WHOが平成2年に「国

際障害疾病分類」から、それまで記載されていた同性愛の項目を削除するなど、同

性愛を治療を要する「障害」ではないとしています。同性愛者は、推定では 20~30

人に1人程度いるのではないかといわれています。

(2)性同一性障害のある人

心の中で「自分は戸籍上の性別とは別の性別である」と自覚していることで、社

会生活に支障をきたす人をいいます。自分の体に対する違和感が生じたり、他の人

から求められる性役割が自分の心と一致しないために、社会との摩擦が起きたりし

ています。平成 16 年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が

施行され、20 歳以上であることなどの条件を満たせば、戸籍上の性別が変更できる

ようになりました。性同一性障害のある人は、これまで数万人に1人いるといわれ

てきましたが、1,000 人に1人程度いるのではないかという専門家もいます。

(3)性分化疾患のある人

生殖器や染色体の状態が男性、女性のどちらにも当てはまらない、もしくは、ど

ちらにも当てはまる人をいいます。これまで多くは、生後すぐに性器などの目視に

よって性別を判断していたために、性分化疾患のある人は、自分の自覚する性別と

は逆の性別と判断される場合があり、社会生活に支障をきたす場合がありました。

性分化疾患のある人の実態は、これまでほとんど知られていませんでしたが、平成

性的少数者に関する課題

知 る

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16~20 年までの5年間で、医療機関を訪れた未成年者が少なくとも 3,000 人いるこ

とがわかっています。

2 人の性をどのようにとらえればよいのでしょうか?

人の性は、いろいろな要素からなっています。ここでは、次の4つの性に分けて

考えたいと思います。

○戸籍上の性別 … 生まれたときに決められた戸籍上の性別

○体の性 ………… 生殖器の有無、染色体などで判断できる生物学的な性別

○心の性 ………… 自分の自覚による性別(自分が男と思っているか女と思っているか)

○性的指向 ……… 恋愛対象がどちらの性に向かっているか

この4つの要素を利用して、戸籍上男性のモデルを考えてみましょう。

しかし、実際は人の性は多様で、下の図のように、人によってそれぞれの性の要

素が違った状態にあることは普通です。

このように考えると、性的指向が多数の人と違う状態である人が同性愛者や両性

愛者、心の性が多数の人と違う状態である人が性同一性障害のある人、体の性が多

数の人と違う状態である人が性分化疾患のある人と考えることができます。すなわ

ち、性的少数者は、それぞれの性の要素の一部が多数の人と違う状態にある人だと

考えられます。

人の性は多様です。その多様性を自然に受けとめられるように、正しい知識をも

つとともに、いろいろな人との出会いを大切にしましょう。

○ 戸籍上は便宜的に「男性」「女性」に分けられているが、実際の人の性は多様で、

単純に二分することはできないことを理解する。

○ 「違い」=「排除」とする意識が、性的少数者を苦しめていることを理解し、

自分にそのような傾向はないか考えることが大切である。

典型的な戸籍上男性のモデル

指導の観点

体の性

心の性

性的指向

男 女

体の性

心の性

性的指向

男 女

このモデルは、生殖器や染色体の状態が男性で、自分を男性と自覚し、女性を恋愛対象とする状態を表しています。

このモデルは上と比較して、女性的な心をもち、男性にも少し恋愛対象が向いている人を示しています。本来、性の要素は個人個人で違うものです。みなさん自身の性の要素はどのような状態でしょうか?

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Ⅲ 参加体験型学習について

1 人権感覚を育てよう

人権教育の目的を達成するためには、まず、人権や

人権擁護に関する基本的な知識を確実に学び、その内

容と意義についての知的理解を徹底し、深化すること

が必要となります。また、人権がもつ価値や重要性を

直感的に感受し、それを共感的に受けとめるような感

性や感覚、すなわち人権感覚を育成することがあわせ

て必要です。さらに、こうした知的理解と人権感覚を

基盤として、自分と他者との人権擁護を実践しようと

する意識、意欲や態度を向上させること、そしてその

意欲や態度を実際の行為に結びつける実践力や行動力

を育成することが求められています。

人権感覚は、単に言葉で教えられるものではなく、学習者が主体的に関与し、参

画し、体験することをとおしてはじめて身に付くものです。人権教育においては、

人間関係を築く能力やコミュニケーションの技能、他の人の立場に立って考えられ

るような想像力を培うことが求められています。このような中、人権についての知

的理解を深めるとともに人権感覚を十分に身に付けるために、効果的な手法として

注目されるのが、参加体験型学習なのです。

参加体験型学習として、障害者や高齢者との交流活動やボランティア体験、人権

を考えるシンポジウム等の取組が実施されています。しかし、ワークショップに関

しては、参考となる資料が少ないことや、指導者自身が体験したことがないために

イメージが浮かばないこと等から、取組が十分とはいえない状況にあります。

ここでは、職員研修や自治会啓発などで利用できるワークショップを中心に、参

加体験型学習について紹介します。

人権感覚

人権の価値やその重要性にかんがみ、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚である。

「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」より

ワークショップ

日本語に訳すと、「職場」、「作業場」、「工房」となりますが、参加体験型学習では、みんなで意見交換や共同作業を行いながら進める活動のことを意味します。

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互いに顔を見ながら学習が進みます

2 ワークショップ

(1)学習者同士がお互いに学び合う学習形態

よく行われている「講義型」の学習は、講師がもってい

る専門的な知識を学び手に伝達していくという形になって

おり、大学の講義や資格取得の講習会等では、この方法が

効率的です。

一方、ワークショップ形式の学習では、教える側と教え

られる側という明確な区分がありません。その学びの場に

参加している人みんなが、自分を振り返り見つめ直しなが

ら、それぞれの経験や知識を出し合う中で新たな気づきを

見つけていきます。

もちろん、こうした学びを促進していく人(「ファシリテ

ーター」と呼びます)は当然いますが、その人が一方的に

知識を伝達し、場を取り仕切るのではありません。学びの

場をつくるのはあくまでも学習者です。こうした学習者が

主体となる双方向的な学習形態をワークショップと呼んで

います。

[講義型学習]

[ワークショップ]

ファシリテーター

「促す人、活性化させる人」という意味で、学びを促進していく人、進行役になる人のことです。

講 義 型 学 習

ファシリテーター

講 師

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(2)ワークショップの流れ

ワークショップは、おおむね下の図のような構成になっています。

A アイスブレーキング(緊張ほぐし)

学習者は、「今からどんなことをするのだろう?」と緊張しているかもしれません。こ

の緊張を氷にたとえて、みんなでこの氷を砕いていく活動(緊張ほぐし)をアイスブレー

キングといいます。緊張をほぐすことで、次の活動で意見が出やすくなります。言葉をか

け合ったり、握手をしたりすることにより、学習者同士の緊張をほぐすことができます。

通常は、学習の最初に行いますが、途中で、雰囲気を変えたいときに使う場合もありま

す。お互いが十分に知り合っているような場合でも、アイスブレーキングを行うことによ

って、その後の活動を和やかな雰囲気の中で進めることができます。

B アクティビティ(活動)

アクティビティとは、テーマに合わせて、自分を振り返ったり、感情に働きかけたりし

て気づいたことを、話し合ったり、発表したりする活動です。

ワークショップでは、頭だけでなく、身体全体、感情もみんな含めて、学びを深めてい

くことを目指します。

C ふりかえリ

学習を通じて自分自身どう行動したか、どう感じたか、何

に気づいたかを振り返り、再確認します。「ふりかえり」と

いうこの活動がワークショップでは非常に大切になります。

この「ふりかえり」の中で、学習者のもっている価値観や

今までの経験、知識等が掘り起こされます。

D 共 有

一人一人が感じたこと、気づいたことを発表し合います。その中で、自分とは違う意見

や感想に触れて、また新しい「気づき」が生まれてきます。一人の「気づき」がその学び

の場に集まったみんなの「気づき」につながり、学びがさらに広がり深まっていきます。

E 全体のふりかえり

学習の最後にはすべての活動をとおしての「ふりかえり」を行います。活動の中で、一

人一人が「気づき」によって認識が深まれば、ファシリテーターが結論を出したり、価値

判断をしたりする必要はありません。その「気づき」を共有して学習を終えてもいいでし

ょう。

アイスブレーキング

アクティビティ

ふりかえり

共 有

全体のふりかえり

ふりかえりの意義

・活動の中で気づいたことを印象づけ、学びを深めます。

・学習者のもっている価値観や今までの経験・知識が掘り起こされます。

・態度や行動の変革につながります。

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3 アイスブレーキング(緊張ほぐし)

参加体験型学習においては、学習者一人一人が自分の意見をもち、他人の意見を

認め合いながら、お互いの意見を正当な方法で伝え合うことが必要です。

アイスブレーキングは、学習者の緊張をほぐし、安心感のある場をつくり上げる

ことが目的の活動ですが、本題への導入とすることもできます。ここでは、参加体

験型学習でよく用いるアイスブレーキングの手法を紹介します。

手 法 進 め 方

後出しじゃんけん

①2人一組になり、どちらが親になるか決める。

②子が後出しで、親に勝つじゃんけんを5回する。(後出し勝ちじゃんけん)

③子が後出しで、親に負けるじゃんけんを5回する。(後出し負けじゃんけ

ん)

④子と親を入れ替えて、②と③を行う。

⑤やってみて気づいたことを2人で話し合う。( 効果 勝つことに慣れた

自分を振り返る)

誕生日チェーン

①学習者全員が、「会話をしない」という条件で、誕生日の順に1列に並ぶ。

②並び終わると、順番に誕生日を発表する。

③「どのように自分の場所を探したか」「困ったことはなかったか」などに

ついて感想を発表するなどして活動を振り返る。( 効果 和やかな雰囲

気をつくる)

呼ばれたい名前

①この時間、この場所だけで呼ばれたい名前を考える。( 効果 自分につ

いて振り返る)

②用意されたシールや名札に呼ばれたい名前を記入する。

③会場を歩き回り、1対1で、できるだけ多くの人と呼ばれたい名前を使っ

て自己紹介し合う。( 効果 他者への関心を深め、和やかな雰囲気をつ

くる)

名刺で自己紹介

①ファシリテーターが出すテーマに沿って、自己紹介するための名刺(A4

用紙)をつくる。( 効果 自分について振り返る)

②作成した名刺を持って会場を歩き、限られた時間内でできるだけ多くの人

と、1対1で自己紹介し合う。( 効果 他者への関心を深める)

アイテムトーク

①自分を文房具、料理、魚などに例えると何か、考える。( 効果 自分に

ついて振り返る)

②そのように考えた理由を含めて、自己紹介する。( 効果 和やかな雰囲

気をつくる)

4つの文章、

1つはウソ

①A4用紙に自分を紹介する短文を考え、記入する。4つの短文のうち、1

つはウソを書く。( 効果 自分について振り返る)

②記入した用紙を持ち会場を歩き回り、それを元に1対1で、できるだけ多

くの人と自己紹介し合い、どれがウソかを当て合い、ウソだと思う理由も

聞く。( 効果 他者への関心を深め、和やかな雰囲気をつくる)

人権プレクイズ

①配られた用紙に書かれた人権課題に関する問題に対して、それぞれ正しけ

れば○を、誤っていれば×を記入する。

②答え合わせをする。( 効果 基本的な知識を確認する)

③解説を聞く。( 効果 これから行う人権学習について関心をもつ)

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4 参加体験型学習の手法

参加体験型学習は、学習者が主体的に取り組み、互いの気づきや考え方を表現し、

共有しながら、様々な人権課題の解決に向けて、人権意識の高揚を図ろうとするも

のです。ここでは、参加体験型学習でよく用いる手法を紹介します。学習にあたっ

ては、人権感覚が身に付くように、学習者の実態やねらいに応じた手法を選択する

ことが大切です。

手 法 方 法 特 色

ラ ン キ ン グあるテーマについて、いくつかの権利や条件などを順位づけし、その理由について話し合う。

討議の過程で自分の意見を発表するとともに、自分と違う意見や価値観を受けとめ、理解することができる。

ロ ー ル プ レ イ

すべての学習者または代表者が、学習のテーマに合わせて、場面を設定し、学習者が様々な役割をもって演技する。

それぞれの役や立場から、テーマに沿って具体的に考えたり、自分とは違う視点に気づいたり、自分とは違う立場の人への理解を深めることができる。

デ ィ ベ ー トあるテーマについて、「賛成派」と「反対派」に分かれ、一定のルールに従って、討論を繰り広げる。

テーマに対する認識を深め、問題解決のための能力を身に付けることができる。

フォトランゲージ

一枚もしくは数枚の写真やイラスト、絵等を使って、そこに写っているものや表現されているものを読み取りながら話し合う。

自分の中にある価値観や自分のものの見方について考えることができる。

シミュレーション

「車いす体験」や「アイマスク体験」など一定の状況を模擬的に設定し、その中で、体験的に行動・活動する。

言葉だけでは理解しにくい状況を体験することにより、その状況をより深く理解することができる。

フィールドワーク課題をもって現地に出向き、五感を働かせて、事実や現実から学ぶ。

現地での活動をとおして、課題について理解を深めるとともに、学習意欲を高めることができる。

5 参加体験型学習の活用に向けて

県教育委員会では、学校教育においては校種別の参加体験型学習資料を作成し、

また、社会教育においては文部科学省委託事業「人権教育推進のための調査研究事

業」の一環で開催したファシリテーターの養成講座の記録を冊子にしてまとめてき

ました。職員研修や自治体単位で行う研修等における参加体験型学習の手法の活用

にあたっては、本冊子とともに、次の関係資料を参考にすることができます。

■学校教育・「人権・同和教育指導資料 参加体験型学習資料 基 本 編」(平成 18 年3月発行)・「人権・同和教育指導資料 参加体験型学習資料 小 学 校 編」(平成 19 年3月発行)・「人権・同和教育指導資料 参加体験型学習資料 中 学 校 編」(平成 20 年3月発行)・「人権・同和教育指導資料 参加体験型学習資料 高等学校編」(平成 21 年3月発行)

■社会教育・「人権・同和教育指導資料 参加体験型学習資料 研修の手引き」(平成 19 年3月発行)・「平成 19 年度 人権教育ファシリテーター養成講座 記録」・「平成 19 年度 参加体験型学習実践講座 記録」・「平成 20 年度 人権教育ファシリテーター養成講座 参加体験型学習を活用した人権学習実践講座 記録」・「平成 21 年度 参加体験型学習を活用した人権学習実践講座 記録」