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Copyright © 2012 JETRO. All rights reserved. 中南米の国際企業 (トランスラティーナス) 2012 年 12 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部 中南米課

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中南米の国際企業

(トランスラティーナス)

2012年 12月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外調査部 中南米課

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アンケート返送先 FAX: 03-3587-2485

e-mail:[email protected]

日本貿易振興機構 海外調査部 中南米課宛

● ジェトロアンケート ●

調査タイトル:中南米の国際企業(トランスラティーナス)調査

ジェトロでは、中南米で生まれ今やグローバル企業となったトランスラティーナスの活

動を紹介し、中南米ビジネスを展開しようとする日本企業の皆様へのご参考とするため

に本調査を実施いたしました。報告書をお読みいただいた後、是非アンケートにご協力を

お願い致します。今後の調査テーマ選定などの参考にさせていただきます。

■質問1:今回、本報告書で提供させていただきました「中南米の国際企業(トランスラ

ティーナス)調査」について、どのように思われましたでしょうか?(○をひとつ)

4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなかった

■ 質問2:①使用用途、②上記のように判断された理由、③その他、本報告書に関するご

感想をご記入下さい。

■ 質問3:今後のジェトロの調査テーマについてご希望等がございましたら、ご記入願い

ます。

■お客様の会社名等をご記入ください。(任意記入)

ご所属

□企業・団体

□個人

会社・団体名

部署名

※ご提供頂いたお客様の情報については、ジェトロ個人情報保護方針(http://www.jetro.go.jp/privacy/)に基づき、適正に管理運用させていただ

きます。また、上記のアンケートにご記載いただいた内容については、ジェトロの事業活動の評価及び業務改善、事業フォローアップのために利

用いたします。

~ご協力有難うございました~

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はじめに

本報告書は、ジェトロの『通商弘報』に掲載された、中南米主要各国(ブラジル、メキ

シコ、アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラ)における国際企業に関す

る記事を一冊に取りまとめたものである。中南米の主要国では近年、安定した経済成長を

背景に企業の動きが活発化している。その中南米地域を代表する企業が対外投資を拡大し

グローバル市場でのプレゼンスを高める動きに着目し、国連ラテンアメリカ・カリブ経済

委員会(ECLAC)の報告書では、これらの企業を「トランスラティーナス(Translatinas)」

と表現し取り上げるようになった。中南米で育まれ世界に羽ばたこうとするトランスラテ

ィーナスの活動を本報告書でご紹介することにより、中南米ビジネスを展開しようとする

日本企業の皆様のご参考となれば幸いである。

日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外調査部 中南米課

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目次

第1章 総論 .................................................................................................. 1

第 2章 国別トランスラティーナス ................................................................ 3

ブラジル ......................................................................................................................... 3

①ゲルダウ:積極的な海外投資を継続 .......................................................................... 4

②ブラスケム:北米事業を強化 ..................................................................................... 5

③エンブラエル:世界中に製造拠点を展開するエンブラエル ...................................... 6

④WEG:海外ビジネス好調で売上増 ................................................................................ 8

⑤メタルフリオ:業務用冷凍・冷蔵設備の国際企業に成長.......................................... 9

⑥ペトロブラス:今後 5年で 2,365億ドルを投資 ...................................................... 11

メキシコ ........................................................................................................................ 13

①メクシチェム:オランダの PVCチューブ大手を買収 ............................................... 14

②メタルサ:世界各国で自動車部品を製造するメタルサ ........................................... 18

③ネマック:アジア進出に力入れるアルミ自動車部品大手ネマック ......................... 20

④ビンボ:配送網とブランド戦略で成長する製パン企業ビンボ ................................ 23

⑤マベ:提携戦略で国際展開を拡大する白物家電大手マベ........................................ 26

⑥アメリカモビル:電話サービス以外でも影響力を強める通信大手アメリカモビル 29

その他(アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラ) ............................ 34

アルゼンチン ................................................................................................................. 35

インプサ:ブラジルとマレーシアに発電機などの製造拠点........................................ 35

チリ ............................................................................................................................... 37

ホルティフルツ:世界中にベリーを輸出するホルティフルツ .................................... 37

ペルー ........................................................................................................................... 40

①グルーポ・アヘ:低価格コーラ飲料を売り込むグルーポ・アへ ............................. 40

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②チナ・ウォック、タヤ 925:サービス産業の海外進出広がる ................................. 41

コロンビア .................................................................................................................... 43

金融・保険大手グルーポ・スラ:M&Aで中南米 8ヵ国に進出 ................................... 43

ベネズエラ .................................................................................................................... 47

ポラール:成長戦略を海外に見いだす食品大手ポラール ........................................... 47

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第1章 総論

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の報告によると、2011 年に中南米諸国の対外

投資額は219億1,100万ドルに達した。大型投資案件の有無などで各年の投資額は大きく上下す

るが、2000~05 年の年平均が約 100 億ドルだったことを考えれば急増したといえる。また同報告

は、海外展開を行う「トランスラティーナス(Translatinas)」と称される有力地場企業が、対外投資

を牽引していると指摘している。トランスラティーナスは日本企業にとっても有望なビジネスパート

ナーになり得る存在だ。

<1990 年代に頭角>

新興市場の 1 つに数えられる中南米地域では、欧米や日本、韓国、中国企業が積極的に

ビジネスを展開しており、外国企業のプレゼンスが強い。

他方、国営企業の民営化や経済開放政策の採用、規制緩和などを経た中南米地域の有力

地場企業は、域内各国の経済成長とともにビジネスを拡大させ、そのフィールドを域内外

に広げている。こうした企業は「トランスラティーナス」と呼ばれ、1990 年代前半から頭

角を現し始めた。同時期の中南米主要国からの対外直接投資額は年間平均で約 30 億ドルだ

ったが、2000 年代前半は 100 億ドル前後となり、10 年には 449 億 2,400 万ドルに達した

(表参照)。11 年は 219 億 1,100 万ドルと前年比で半減したが、トランスラティーナスは中

南米地域でのビジネスにおいて一大勢力に成長している。

中南米地域の有力地場企業としては、ブラジル国営石油会社のペトロブラスや石油化学

大手のブラスケム、メキシコのセメントメーカー・セメックスや化学品大手メクシチェム、

さらに、同地域最大の小売業グループであるチリのセンコスッドなども代表的な例だ。ト

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ランスラティーナスと呼ばれる企業はこれら 3 ヵ国の企業が多い。ただ、最近では企業規

模の大小に関係なく、アルゼンチンやペルー、コロンビア、ベネズエラなどでもトランス

ラティーナスが出現しており、その裾野は確実に広がっている。

その業種は、中南米地域の代表的な産業分野の鉱業だけでなく、航空機や自動車部品、

家電製品、食品といった製造業から、通信、外食、金融などのサービス業まで多種多様で、

業種の面でも裾野が広がっている。

<日本企業のパートナーとしても有望>

日本企業が中南米ビジネスを展開する際、重要なポイントの 1 つは現地でのパートナー

選びだといわれる。トランスラティーナスは自国市場でのビジネス基盤を固めた上で域内

外の国へ進出しており、特に域内でビジネス展開を進めているトランスラティーナスは中

南米市場を目指す日本企業にとって貴重なパートナーになり得る存在だ。本拠国に加え、

域内他国での取引などの関係構築にもつながるためだ。また、域外第三国に進出している

トランスラティーナスは、当該国の地場企業や海外企業に加え、日本企業の新たな顧客候

補になり得るだろう。さらには、トランスラティーナスと共同で、中南米地域や第三国市

場を開拓できる可能性もある。

トランスラティーナスの中には、メキシコの自動車部品メーカー・メタルサやブラジル

の航空機メーカー・エンブラエルのように既に日本企業と取引関係を結んでいる企業もあ

る。海外ビジネスに積極的なトランスラティーナスと日本企業とのさらなる連携が期待さ

れる。

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第 2 章 国別トランスラティーナス

ブラジル

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①ゲルダウ:積極的な海外投資を継続

(参考 WEB:http://www.gerdau.com.br/)

ブラジル最大の鉄鋼メーカーであるゲルダウ(Gerdau)の 2012 年第 2 四半期の純売上高は前

年同期比 11%増となり、12 年上半期では 10%増を記録した。欧州債務危機の影響で輸出が振

るわなかったものの、国内向けおよび中南米での販売量が増加した。同社は 2012~16 年に 103

億レアル(1 レアル=約 38.4 円)に及ぶ投資計画を維持し、メキシコ、インドでも合弁会社を通じた

製造投資を継続する構えだ。

<輸出は減少も国内向け販売量が伸びる>

海外拠点を含めた粗鋼生産量でブラジル首位のゲルダウは 8 月 2 日、2012 年第 2 四半期

の決算を発表した。それによると、純売上高は前年同期比 11%増の 99 億 7,500 万レアル、

純利益は 9%増の 5 億 4,900 万レアルを記録した。また、12 年上半期でみると、純売上高

は前年同期比 10%増の 191 億 7,400 万レアル、純利益は 4%増の 9 億 4,600 万レアルとな

っている。

一方、2012 年上半期の鋼材販売量は、前年同期比 1%減の 950 万 3,000 トンだった(表

参照)。そのうち、ブラジル拠点による販売が約 4 割を占めている。内訳をみると、国内向

け販売量が 9%増の 268 万 7,000 トンと増加したが、ブラジルからの輸出販売量は 23%減

の 100 万 7,000 トンと大きく減少した。同社では欧州債務危機による影響で輸出が落ち込

んだ一方、国内向けは建設市場の拡大が業績を支えたと分析している。なお、北米(米国、

カナダ)における鋼材販売量は 1%増の 334 万 5,000 トン、ブラジル以外の中南米は 6%増

の 135 万 6,000 トン。中南米ではチリ、ペルーの 2 ヵ国で建設分野の好況が影響したとし

ている。

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ゲルダウは 2012~16 年に 103 億レアルを投資する計画を発表しており、現状では投資

額を維持するものの、投資プロジェクトをより選別し、資本投下のタイミングも柔軟にす

るとしている。国内では関連会社のゲルダウ・アソミナスにおける生産設備増強に加え、

原料となる鉄鉱石の自社調達に向けた投資について言及した。同社では 2014 年のサッカ

ー・ワールドカップ、2016 年のリオデジャネイロ夏季五輪といった国際イベントに伴う建

設需要の増加に加え、深海油田開発や政府が進めるインフラ投資プロジェクトなどで今後

も国内では手堅い鋼材需要が見込めるとしている。

<メキシコとインドに生産拠点設立>

一方、国外ではメキシコ、インドにおける投資が言及されている。ゲルダウはメキシコ

にある合弁会社ゲルダウ・コルサ(Gerdau Corsa)による新たな製鉄所プロジェクトを進

めている。投資総額は 11 億レアルで、粗鋼生産量年間 100 万トン、鋼板 70 万トンの生産

拠点を 2014 年後半にも稼働させる計画だ。同プロジェクトはメキシコの鉄鋼分野における

輸入代替に資するとしている。またインドでは、現地メーカーとの合弁会社カルヤニ・ゲ

ルダウ(Kalyani Gerdau)が 2012 年 8 月に高炉を稼働させ、粗鋼生産能力年 35 万トンで

生産するとしている。同拠点では今後、圧延鋼板などの製造設備を拡充し投資を継続する

計画だ。

<外国企業買収で粗鋼生産が世界 14 位に>

世界鉄鋼協会(WSA)の資料によると、メーカー別の粗鋼生産量でゲルダウは 2011 年

に 2,050 万トン、世界第 14 位という地位にある。これだけの規模に成長した背景には外国

企業の買収が挙げられる。ゲルダウ発表資料によると、同社の粗鋼生産能力は 2,530 万ト

ンだが、そのうち国内は 910 万トンと全体の 36%にすぎない。同社は 1999 年に米アメリ・

スチールを買収したことで北米市場への参入を本格化、さらに 2005 年にスペインのシデノ

ールに 40%出資し欧州市場にも参入した。ゲルダウはスクラップを溶解して建築用鋼材を

生産するミニミルのビジネスが主体だが、シデノールの買収により高付加価値鋼材のビジネ

スにも道を開いた。同社は 2012 年 5 月現在、中南米ではブラジルのほか、ウルグアイ、ア

ルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビア、グアテマラ、メキシコ、ドミニカ共和国、ベネズ

エラに進出、中南米域外では米国、カナダ、インド、スペインに進出している。

②ブラスケム:北米事業を強化

(参考 WEB:http://www.braskem.com.br/)

石油化学大手のブラスケムは、米国石油化学メーカーのスノコ・ケミカルズやダウ・ケミカルの

ポリプロピレン事業を買収し、米国最大のポリプロピレン製造企業となったが、2012 年 7 月 2 日に

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新たにスノコの製造設備取得を発表した。ブラスケムは現在、メキシコでも 30 億ドルを投資し、石

油化学品製造拠点の立ち上げプロジェクトを行うなど、国際展開に力を入れている。

<スノコの製造設備を取得>

ブラスケムは 7 月 2 日、スノコがペンシアルベニア州に所有するプロピレンの精留塔(ス

プリッター)設備を取得すると発表した。ブラスケムは 2010 年 4 月にスノコの子会社スノ

コ・ケミカルズのポリプロピレン事業を 3 億 5,000 万ドルで買収し、その原料はスノコが

供給していた。今回の設備取得に関しては、スノコが 11 年からブラスケムに原料を供給し

ていた精製所の閉鎖を示唆していたことが背景にある。ブラスケムは、北米での事業継続

のための重要な一歩だとしている(設備取得の投資額は非公表)。

<メキシコではイデサと合弁会社設立>

ブラスケムは熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル)分野で

は南米最大の石油化学メーカーだ。同社は 2011 年 10 月、ダウ・ケミカルのポリプロピレ

ン事業を 3 億 2,300 万ドルで買収して米国とドイツの製造拠点を傘下に収め、米国最大の

ポリプロピレン製造業者になった。現在、海外の製造拠点は、米国内ではペンシルベニア

州、テキサス州、ウェストバージニア州に合計 5 ヵ所、欧州ではドイツに 2 ヵ所ある。

さらに同社は、メキシコの大手化学メーカーであるイデサとの合弁会社ブラスケム・イ

デサ(ブラスケム 65%、イデサ 35%)を設立し、ポリエチレンなどの石油化学品製造拠点

をメキシコのベラクルス州に立ち上げるプロジェクトを実施している。事業総投資額は 30

億ドル、2015 年に操業開始予定だ。このほかに、ペルーでは 11 年 11 月に国営石油会社ペ

トロペルーと石油化学事業のフィジビリティー・スタディーに関する覚書を締結したほか、

ベネズエラでも国営石油化学会社ペキベンとともに石油化学事業の立ち上げを検討してい

る。なお、ブラスケムの 11 年の売上高は前年比 25%増の 199 億ドルと大幅に増加、その

うち輸出が 33%、国際事業(海外拠点の売上高)が 10%を占めている。

なお、ブラスケムはサトウキビを原料としたバイオプラスチック樹脂「グリーンポリエ

チレン」を製造しており、10 年 9 月に世界に先駆けて国内に年産 20 万トンの製造工場を

稼働した。食品容器などの用途での需要を見込み世界各国に販売網を広げており、日本で

は双日が 12 年 7 月 5 日、アジア向け販売代理権を獲得したと発表している。

③エンブラエル:世界中に製造拠点を展開するエンブラエル

(参考 WEB:http://www.embraer.com/)

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世界有数の航空機メーカーのエンブラエルは、1994 年に民営化を遂げ中型・小型旅客機を中

心に海外への積極的な売り込みを続けている。また、2002 年に中国に現地企業との合弁会社を

設立し、11 年には米国工場、12 年にはポルトガル工場を建設するなど、海外の生産拠点を拡充

している。

<商用機が売り上げの 67%>

ブラジルを代表する国際企業の 1 つがエンブラエルだ。南米最大の都市サンパウロから

東に約 80 キロ離れたサンジョゼ・ドス・カンポスに本社を構える。1969 年に国営航空機

メーカーとして設立され、94 年に民営化された。現在では、エアバス、ボーイング、ボン

バルディアと並ぶ世界有数の航空機メーカーに成長した。

エンブラエルの 2012 年上半期の売上高をみると、総売上高 28 億 7,320 万ドルのうち、

商用旅客機部門が 19 億 3,570 万ドル(構成比 67.4%)を占め、軍用航空機部門が 4 億 9,790

万ドル(17.3%)、小型ビジネス旅客機部門が 4 億 1,260 万ドル(14.4%)、その他が 2,700

万ドル(0.9%)。納入機体数は商用旅客機が 56 機、小型ビジネス旅客機が 33 機となって

いる。

<世界 60 の航空会社に納入>

エンブラエルは国内でも有数の輸出企業として知られており、2004 年から 12 年上半期

までの間、世界 42 ヵ国 60 の航空会社に 858 機の商用機を納めている。

最近の商談成約の話題としては、ベネズエラの国営航空会社コンビアサとの間で 6 機の

エンブラエルの主力商用旅客機(Embraer190)の販売契約が、ルセフ大統領とベネズエラ

のチャベス大統領によって締結されたことが挙げられる。この契約では 14 機のオプション

契約も盛り込まれているが、南米南部共同市場(メルコスール)新規加盟国となったベネ

ズエラが、ブラジルの製造業にとって有望な輸出市場に成り得ると印象付けた。

<米国での事業は拡大>

エンブラエルの主要工場はサンジョゼ・ドス・カンポスにあるほか、サンパウロ州ガビ

オン・ペイショットにも生産拠点がある。一方、海外に目を向けると、2011 年 2 月から米

国フロリダ州メルボルンでも小型ビジネス旅客機(Phenom 100)の生産が開始されている。

さらに、12 年 3 月にはそこで研究開発(R&D)センターを新設する投資が発表されており、

米国での事業は拡大傾向だ。

欧州向け投資では、2012 年 9 月下旬からポルトガルのエボラ工場での生産が開始される

予定だ。エンブラエルは同工場に 1 億 8,000 万ユーロを投じており、15 年には最大 400 人

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の雇用を創出する海外での一大拠点を目指している。

またアジアでは、2002 年から中国黒龍江省ハルビンに合弁工場を持っている。ブラジル、

中国両政府の間では 12 年 6 月、同工場でこれまでの中型旅客機だけではなく、小型ビジネ

ス旅客機の製造も開始することで合意している。

④WEG:海外ビジネス好調で売上増

(参考 WEB:http://www.weg.net/br)

電動機大手の WEG は、2012 年上半期の海外売り上げが 43%増と好調だった。景気低迷の国

内市場の売り上げは 4%増にとどまっている。WEG は 11 年にインド工場を稼働するなど海外展開

に力を入れており、20 年までに総売上高を 11 年の 4 倍にする目標を掲げている。

<売上高の 50%を海外が占める>

南部サンタカタリーナ州のジャラグア・ド・スル市に本社を置く WEG が、海外売り上げ

増により業績を拡大している。2012 年上半期の純売上高は、前年同期比 21%増の 28 億

9,900 万レアル(1 レアル=約 39.1 円)だった。内訳をみると国内が 4%増の 14 億 4,400

万レアルだったのに対し、海外は 43%増の 14 億 5,500 万レアルを記録した。売り上げに占

める海外シェアは 2007 年通年実績で 41%だったが、2012 年上半期は 50%となった(図参

照)。海外売り上げの増加の要因は、12 年上半期のドル高レアル安という為替の影響もある

とみられるが、同社は、高い品質と最新技術を駆使した商品ラインアップにより WEG ブラ

ンドが海外市場で評価された結果だと話している。

<中国、インドにも製造拠点>

WEG の海外生産拠点はアルゼンチン、メキシコ、米国の米州以外に、欧州ではポルトガ

ル、オーストリア、アジアでは中国、インドにある。2012 年第 2 四半期売上高(15 億 2,900

万レアル)で海外市場の地域別シェアをみると、北米がトップで 30%、欧州が 28%、アフ

リカが 17%、南米・中米(ブラジルを除く)が 14%、アジア・オセアニアが 12%と続く。

1990 年代に海外支店を置き始め、日本にも 1994 年に支店を開設し、2000 年代に入って生

産拠点を買収するようになった。生産拠点の買収は 2000 年にメキシコ、アルゼンチンで、

2002 年にポルトガルで、2004 年に中国で行われている。特に中国では江蘇省にある「南通

電機製造」を買収して「ウェッグ南通」を設立、現地では三相モーターと高電圧モーター

を製造している。また、インドでは 2011 年 2 月に 6,000 万ドルを投じてタミル・ナドゥ州

に電動機の工場を稼働させている。

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WEG は 2011 年の売上高 52 億レアルを 20 年に 200 億レアルに引き上げる目標を掲げて

いる。これを達成するには買収も重要な手段と捉えており、今後も買収を含めた海外展開

を検討する方針だ。

⑤メタルフリオ:業務用冷凍・冷蔵設備の国際企業に成長

(参考 WEB:http://www.metalfrio.com.br/)

メタルフリオ・ソリューションズ(Metalfrio Solutions)は国内や中南米市場で、業務用冷凍・冷蔵

設備のリーディングカンパニーとされる。一時期は外資系企業の出資を受け入れたが、その後独

立した地場資本会社となり、2006 年以降、欧州や米州での企業買収などを通じて国際企業へと

成長した。

<いったん外資の傘下に入り 2004 年に独立>

サンパウロ州に本社を置く業務用冷凍・冷蔵設備(アイス・コールド・マーチャンダイ

ザーというセグメントの商品)を製造するメタルフリオは、民間調査会社の調べで、同分

野で中南米最大のメーカーだ。国内のレストランなどにある飲料やアイスクリームなどの

設備については、国内の市場シェアの 4 割を占めるという。

同社は 1960 年、冷凍・冷蔵設備の部品製造を始め、その後、飲料やアイスクリームの内

需拡大に着目し、業務用冷凍・冷蔵設備の製造に乗り出した。順調に業績を拡大していた

が、1989 年に台所用家電製造のブラジル企業コンチネンタル(Continental)が同社資本の

過半を取得、さらに 2001 年にドイツ系ボッシュの関連会社 BSH がコンチネンタルを買収

し、併せてメタルフリオの全株式を追加取得したことで、外資系企業の傘下に入った。し

かし、2004 年に BSH がメタルフリオの株式を売却、その後、メタルフリオは独立した地

場資本企業として再出発した。

<トルコ、北欧企業を買収し欧州事業を強化>

メタルフリオは海外進出に力を入れ、2006 年にトルコで現地企業 OzLider との合弁会社

を立ち上げ、欧州市場向け製品の製造販売を開始した。その後、同分野の大手だったデン

マーク企業の Caravell と Derby のデンマークおよびロシア市場での資産を買収し、欧州市

場での事業基盤を固めた。メタルフリオは競合企業の買収により、欧州市場で実績のある

企業の技術やデザインを吸収すると同時に、買収先企業の商圏だった西欧、ロシア・東欧、

オーストラリアでの流通網やサポートサービス網などを手中に収めている。

米州では2007年にメキシコの現地企業リフリジェラシオン・ニエト(Refrigeracion Nieto)

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の全株式を取得し、北米市場と南米アンデス地域向けの輸出拠点を手に入れた。さらに同

年に同じく現地企業エネルフリゼル(Enerfreezer)を買収し、リフリジェラシオン・ニエ

トのオペレーションに統合し、事業強化を図っている。

また 2008 年には、トルコのアイス・コールド・マーチャンダイザー設備でトップシェア

を持つクリマサン(Klimasan)の親会社セノカク(Senocak)の株式 71%を 4,600 万ユー

ロで取得、トルコ、ウクライナ、ロシアなどへの事業を拡大した。

メタルフリオは現在、生産拠点をブラジル、メキシコ、トルコ、ロシアに置き、全体の

製造能力は年産 130 万台の規模という。販売、流通拠点は米国、デンマーク、ウクライナ

に置いている。

<欧州債務危機が業績に影響>

同社の年間純売上高は 2011 年に 7 億 5,500 万レアル(1 レアル=約 38 円)と、国際展

開を本格的に開始した 2006 年から 5 年間で約 2.6 倍に増えた(図参照)。ただし 2012 年に

入り、欧州債務危機の深刻化や国内経済の減速で業績は伸び悩んでいる。同社の 2012 年第

2 四半期決算資料によると、純売上高は前年同期比 13.7%減の 2 億 190 万レアルとなった。

そのうち欧州事業が 28.2%減の 6,700 万レアル、米州事業が 4.1%減の 1 億 3,500 万レア

ルと、欧州事業の低迷が目立つ。2006 年に稼働させたマトグロッソ・ド・スル州トレス・

ラゴアス市の工場に設備投資することで生産性を高め、さらにブラジル北東部に建設予定

の新工場やロシア工場の拡張にも投資し、業績回復を図ろうとしている。

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⑥ペトロブラス:今後 5年で 2,365億ドルを投資

(参考 WEB:http://www.petrobras.com.br/)

国営石油会社ペトロブラスが 2012年6月に発表した「2012~16年事業計画」は、前年に発表し

た 5 ヵ年事業計画より 5.3%増の投資額を見込んでいる。その一方、これまでの投資プロジェクト

に遅れが生じていることを勘案し、原油生産計画は下方修正した。12 年 2 月に就任したフォスタ

ー新総裁は、投資プロジェクトの審査体制を強化するなど組織改革に着手している。

<深海油田プレサル開発にも注力>

ペトロブラスの「2012~16 年事業計画」によると、この 5 年間の投資総額は 2,365 億ド

ル(年平均 473 億ドル)と、11 年に発表された「11~2015 年事業計画」に比べ 5.3%増額

されている(注 1)。

投資総額の内訳をみると、採掘・生産分野が 60.0%を占め 1,418 億ドル、精製・輸送・

販売分野が 27.7%の 655 億ドル、ガス・エネルギー分野が 5.8%の 138 億ドルと続く(い

ずれも海外での投資額を含む、表参照)。採掘・生産分野の国内投資額は 1,316 億ドル、そ

のうち 51%は深海油田のプレサルの開発に投じられる。同社資料によると、11 年の原油・

天然ガス液(NGL)生産量は、日量 202 万 2,000 バレルで、うちプレサル油田のシェアは

5%。この比率を 16 年には 30%に引き上げる計画だ。

<事業体制の引き締め図る>

国内での原油・NGL の生産計画をみると、前回の計画では 15 年(5 ヵ年事業計画の最終

年)に日量 307 万バレルを見込んでいたが、今回の計画では 16 年(同)に日量 250 万バレ

ルに下方修正されている。ペトロブラスはその理由を、開発計画の見直しに伴うものとし

ながらも、これまでの計画が楽観的すぎたことを公に認めている。また、これまで個々の

投資案件の承認システムに不備があったとし、今後は投資実行を判断するまでに 3 つのス

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テージ(注 2)を設ける工程管理の導入も発表した。

ペトロブラスは 12 年 2 月に、社内生え抜きのエンジニアのグラッサス・フォスター氏を

新総裁に迎えた。今回の事業計画発表では、深海油田プレサル開発などで投資額が急速に

膨らんだ同社の事業体制を引き締めようとする姿勢が強く印象付けられた。

<ローカルコンテンツ管理を重視>

事業計画の遅れの要因の 1 つに、「ローカルコンテンツ要求」もある。これはペトロブラ

スが発注する案件の中で、国内調達の難しい案件でも一定のローカルコンテンツ要求があ

り、結果的にコスト増加や納期の遅れにつながっているというものだ(注 3)。

しかしフォスター総裁は、ローカルコンテンツ要求の及ばない外国企業に発注した海洋

掘削リグでも納品が遅れている点を強調、中国や韓国に発注され 12 年に納品されるはずの

14 のリグについては、83 日から 864 日の納期の遅れがあるとしている。納期の遅れの要因

は、海洋掘削リグの発注が世界的に一時期に集中してしまったためとみられている。ペト

ロブラスでは今後も国内の産業競争力を最大限に引き出し、納期やコストなど面で改善を

図るべくローカルコンテンツ管理を重視する方針だ。

<海外事業はスリム化>

なお、海外事業については、5 年間で 107 億ドルが計上されているが、ブラジル国内の石

油開発に資源を集中するためスリム化を図る傾向が見て取れる。107 億ドルのうち既に着手

された案件は 60 億ドルで、採掘・生産分野が 83%を占める。同社は世界 27 ヵ国で事業を

行い、うち隣国アルゼンチンをはじめとした南米、北米、アフリカなどで石油関連事業を

展開している。11 年の海外での原油・NGL 生産量は日量 14 万 7,500 バレルで、地域別に

みると南米が 54%、アフリカが 39%を占めている。なお、アジアでは 08 年に日本の沖縄

県にある石油精製会社南西石油を買収したほか、中国の北京にも事務所を構え、同国向け

原油輸出を増やしている。

(注 1)今回の事業計画の前提条件では、原油価格(ブレント)は 12 年に 1 バレル当たり

110.82 ドル、長期シナリオでは 90 ドル、為替は 12 年が 1 ドル=1.90 レアル、長期

シナリオでは 1.73 レアルとしている。

(注 2)第 1 段階は投資機会の確認、第 2 段階は計画コンセプト、第 3 段階は基本計画とい

うように、それぞれのステージを区別し、第 3 段階に達した案件から投資の実施可

否を判断し、予算執行を行う仕組み。

(注 3)ローカルコンテンツ要求は案件ごとに国内調達率が定められ、平均 55%程度とい

われている。

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メキシコ

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①メクシチェム:オランダの PVCチューブ大手を買収

(参考 WEB:http://www.mexichem.com/)

化学品製造大手メクシチェムは 2012 年 5 月 24 日、オランダの塩化ビニール(PVC)チューブ大

手ワビンの買収を株式公開買い付け(TOB)により完了した、と発表した。ワビンの買収により、メ

クシチェムは欧州 25 ヵ国に拠点を持つことになり、欧州の PVC チューブ市場で大きな影響力を持

つようになる。

<米州の多くの国の PVC 市場でシェア 1 位>

メクシチェムのプレスリリース(5 月 24 日)によると、5 月 8~23 日に行われた TOB

により取得したワビンの株式総数は 4,918 万 5,497 株、取引総額は約 5 億 1,600 万ユーロ

に及ぶ。メクシチェムとワビンの両社は 2 月 8 日、この買収に合意し、TOB は 5 月 8 日に

開始された。両社の統合により、年間の総売り上げが 40 億ユーロに達するプラスチック製

チューブのシステム・サプライヤーが誕生することになる。

メクシチェムは、メキシコを代表する化学品製造大手で、PVC 部門(Mexichem Cloro

-Vinilo)、フッ素部門(Mexichem Fluor)、総合ソリューション部門(Mexichem Soluciones

Integrales)の 3 部門を持つ。企業グループとしての前身は、1957 年に創業し鉄製ケーブ

ルの製造・販売を主要なビジネスとしていたカメサ・グループで、78 年からメキシコ証券

取引所(BMV)に上場している。

カメサ・グループは 99 年、メキシコ人投資家グループよりメクシチェム(前年に化学品

企業 2 社が合併して設立された会社)の株式 50.4%を取得し、カメサ・グループ内に化学

品部門を創設した。その後 2003 年末にフランスのトタルが所有していたメクシチェム株式

43.4%を取得、残り 6.2%も 04 年 4 月に TOB により取得し、メクシチェムを 100%傘下に

収めた。05 年 6 月には鉄製ケーブル部門を米国のケーブル製造大手 WRCA(当時。現在の

名称は WireCo WorldGroup)に売却して事業を化学品部門に集中、同年 9 月にグループ名

を「カメサ」から「メクシチェム」に改称した。

PVC 部門の製品は、カセイソーダ、塩素、PVC 樹脂、PVC コンパウンドなどで、フッ

素部門の製品は、蛍石、フッ化水素酸、フッ素化合物、総合ソリューション部門の製品は

PVC チューブやジオテキタイルなどだ。メクシチェム・グループの 11 年の総売り上げのう

ち、PVC 部門が 43.7%、フッ素部門が 20.6%、総合ソリューション部門が 35.7%を占める。

同社は積極的な企業買収で、各部門で勢力を拡大し、中南米を代表する多国籍化学企業

となった(添付資料参照)。特に中南米市場での影響力は強く、多くの国で PVC チューブ

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のサプライヤーとして最大のシェアを持っている(表参照)。

<米州から欧州へ勢力範囲を拡大>

メクシチェムの大きな事業柱は PVC 関連製品だ。PVC の生産チェーンでは、中南米諸国

が主な市場となっていたが、今回のワビン買収で一気に欧州 25ヵ国に勢力範囲を拡大した。

PVC 部門でメクシチェムがメキシコ国内の大手から中南米のトップメーカーに飛躍した

契機となったのは、07 年 2 月のアマンコの買収だ。アマンコはブラジルのサンパウロに本

社を置くチューブ・配管メーカーで、中南米 14 ヵ国に 19 工場を持ち、29 ヵ国に製品を販

売していた。従業員は 06 年時点で 7,000 人余り。メクシチェムは総額 5 億ドルを投じたこ

の買収により、中南米での勢力範囲を大きく拡大した。

その後、07 年 3 月にはコロンビアの PVC 樹脂メーカーのペトロキミカ・コロンビアー

ナ(PETCO)を買収し、アンデス地域の勢力を拡大した。08 年にはブラジル、アルゼンチ

ン、コロンビア、メキシコ、ペルーの 5 ヵ国で合計 7 社を買収した。

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09~10 年にもメキシコとペルーで PVC チューブを製造する企業を買収し、両国で PVC

チューブ製造最大手の地位を築いた。11 年 1 月には、米国の化学大手ロックウッド・ホー

ルディングスから PVC 化合物製造のアルファゲイリーを買収し、米国、カナダ、英国の

PVC 化合物工場を傘下に加えた。

メクシチェムは PVC 製品分野で、住宅建設市場と農業用灌漑設備市場を重要視している

が、ワビンは欧州で、住宅分野を含む幅広いプラスチック製の配管システム・サプライヤ

ーであるため、最適なパートナーといえる。

ワビンの従業員は欧州 25 ヵ国で約 6,000 人、11 年の売り上げは 14 億ユーロに達する。

ワビンを傘下に加えたことにより、メクシチェムは米州の PVC チューブ・サプライヤーか

ら世界の PVC チューブ・サプライヤーに大きく飛躍することになる。

<フッ素部門では日本にも進出>

メクシチェムのもう 1 つの大きな事業柱はフッ素部門だ。同社は世界最大の蛍石(フッ

化カルシウム)鉱山をサンルイスポトシ州に所有しており、10 年初めまでは原料の蛍石と

中間製品のフッ化水素酸が主要製品だった。10 年 3 月に英国に本社を置く化学大手の

INEOS からフッ素部門の Ineos Flour を買収し、最終製品であるフッ素化合物(代替フロ

ン)の製造チェーンまでをグループ内に加えた。

Ineos Flour 買収で、INEOS が英国、米国、日本(広島県三原市)、台湾に所有していた

フッ素化合物製造工場を傘下に加えた結果、メクシチェム・グループのフッ素部門の売り

上げは、09 年の 25 億 3,134 万ペソ(1 ペソ=約 5.4 円)から 10 年の 69 億 2,665 万ペソへ

と約 2.7 倍に拡大。同部門のグループ売り上げ全体に占める比率は、09 年の 8.3%から 10

年には 19.0%、11 年には 20.6%へと拡大した。

フッ素化合物はエアコンなどの冷媒として用いられるため、家庭用や業務用の冷房設備

などに加え、世界的な自動車生産の拡大に応じて輸送機器用にも需要が高まっている。フ

ッ化水素酸は半導体の洗浄工程で用いられるため、IT 産業の成長もフッ素部門の需要を高

める要因となっている。

メクシチェムはフッ素部門チェーンの生産能力を強化する目的で、約 4,200 万ドルを投

じて建設中だったベラクルス州南部の硫黄(フッ化水素酸の原料)工場(年間生産能力 21

万トン)の稼働を 10 年 5 月に開始。同年 6 月には 4,000 万ドルを投じて建設中だったタマ

ウリパス州マタモロス市のフッ化水素酸第 2 工場(年間生産能力 3 万トン)の稼働も開始

した。

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11 年 5 月末には、休止中の昭和電工の冷媒ガス工場(川崎市)を約 2,600 万ドルで買収

し、11 年 11 月に操業を再開させた。同工場の生産能力は年間 5,000 トンで、INEOS から

買収した既存工場を補完するかたちで冷媒ガス分野の生産能力をさらに強化した。

添付資料

メクシチェム社による主な企業買収

年月 被買収企業名 国籍 製品 備考

2004年5月 Química Flúor メキシコ フッ化水素酸

カルソ・グループ傘下のFrisco社から買収。世界最大

の蛍石鉱山を持つ北米第2位のフッ化水素酸製造企業

となる。

2004年6月 Grupo Primex メキシコ PVC樹脂 同買収でメキシコ最大のPVC樹脂メーカーに。

2006年3月 Bayshore Group 米国 PVC化合物 同買収を機に米国のPVC市場に進出。

2007年2月 Grupo Amanco ブラジル チューブ,ホース類Amancoの2006年売上は8億ドル。中南米14ヵ国に19工

場。

2007年3月Petroquímica Colombiana

(Petco)コロンビア PVC樹脂 Petcoの2006年売上は3億7,500万ドル。

2007年6月 Geon Polímeros Andinos コロンビア PVC化合物50%の株式を取得。残り50%は米PolyOne Corportion

が所有していたが、2009年10月に残り50%も買収。

2007年8月 Frigocel Mexicana メキシコ 発泡スチロール メキシコ中央部の競合企業を買収。

2008年1月 Plastubos ブラジル PVCチューブ株式70%を取得。残り30%の買収オプション(今後3~

5年以内)も。

2008年1月 Dripsa アルゼンチン 灌漑・農業用水用設備同買収後、農業ソリューション部門(後に総合ソリューション部に改称)を創設。

2008年2月 Fluorita de Rio Verde メキシコ 蛍石 蛍石鉱山と2ヵ所の加工工場を買収。

2008年6月 Geotextiles del Perú ペルー ジオテキスタイル ペルーのジオテキスタイル大手を買収。

2008年6月 Qumir メキシコ リン酸塩,同化合物塩化ビニル生産チェーン統合強化のため、リン酸塩を

生産するQuimiriを買収。

2008年6月 Bidim ブラジル ジオテキスタイルジオテキスタイルをメルコスール市場に供給するブラ

ジル企業。2007年売上は3,300万ドル。

2008年11月 Colpozos コロンビア 灌漑・農業用水ベネズエラ,エクアドル,ペルー,中米にも拠点を持つ。2007年売上は1,180万ドル。

2009年3月 Tubos Flexibles メキシコPVCチューブ等チューブ

カルソ・グループ傘下のナコブレから買収。50年の歴

史を持ち,国内4ヵ所に工場を持つ。

2010年1月 Plastisur ペルーPVCチューブ等チューブ

類同買収でペルーのPVCチューブ市場で最大手に。

2010年3月 INEOS Flour英国、米国、

日本、台湾

フッ素化学品

(冷媒)

IEOSSグループからフッ素化合物(冷媒)事業を買収。

これにより、英、米、日、台湾の冷媒製造工場を傘下に。

2010年10月 Polycid, Plásticos Rex メキシコ PVC樹脂,PVCチューブ大手財閥Cydsaグループより買収。PVC部門の国内での影響力を拡大。

2011年1月 AlphaGary 米国 PVC化合物Rockwood Holdingsから買収。米国、カナダ、英国の工場を傘下に。

2011年5月 昭和電工 日本 フッ素化合物フッ素化合物生産のため川崎市にある昭和電工の冷

媒ガス工場を買収。

2011年 未公開 韓国 フッ化水素酸メキシコから蛍石を輸出し、アジアにおけるフッ化水素酸の中国に代わる代替供給源となることを目指す。

(出所)メクシチェム社年次報告書等より作成

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②メタルサ:世界各国で自動車部品を製造するメタルサ

(参考 WEB:http://www.metalsa.com/)

自動車部品製造大手のメタルサ(Metalsa)は、世界の主要自動車メーカーとの取引があり、米

州域内にとどまらずアジアでも事業を展開する。日系自動車メーカーへの営業強化のため、日本

に事務所を開設し、インドで製造拠点を稼働させたほか、タイにも新たな工場を建設中だ。2010

年には米国企業デーナを買収し、事業範囲を英国や南米、オーストラリアなど世界に拡大してい

る。

<横浜に続き名古屋にも拠点>

メタルサは 1956 年、メキシコ北部ヌエボレオン州の州都モンテレイに設立された。工業

都市であるモンテレイの企業家サンブラーノ家が所有するプロエサグループの自動車部門

がメタルサで、トラック用シャーシなど大型プレス部品を製造している。

プロエサグループはメタルサの他、アグリビジネス、医療の部門も有する。従業員総数

は約 8,000 人、アグリビジネス部門には冷凍濃縮オレンジ果汁を対日輸出しているシトロ

フルーツがある。

以前から、トヨタの「タンドラ」(米国テキサス州サン・アントニオ工場で生産)、日産

の「NP300」(メキシコ・モレロス州クエルナバカ工場で生産)向けなどピックアップ用シ

ャーシフレームを製造しており、日本企業との取引関係があったが、日本の自動車メーカ

ーに対する営業を強化するため、2008 年に横浜に事務所を開いた。

2010 年 3 月に米国の自動車部品大手デーナ(DANA Holding )の構造部品部門を買収し、

デーナが持っていたトヨタやフォード向けのシャーシなど構造部品生産・供給契約を継承

した。この買収によって、トヨタとの取引が大幅に拡大し、トヨタ本社とのコンタクトを

円滑にするため、10 年 6 月には名古屋に現地法人を開設した。

<アジアを重視しインドやタイにも進出>

メタルサは成長市場のアジアを重視している。アジアにおける拠点としては、日本の 2

ヵ所の営業・技術サポート拠点に加えて、インドに駐在員事務所と工場をつくり、タイに

も工場を建設中だ。

インドでは 2008 年にマハラシュトラ州プネーに駐在員事務所を開設するとともに、ジャ

ールカンド州ジャムシェードプルの工場建設に着工した。この工場は 10 年 5 月から生産を

始め、当初はタタ・モーターズとマヒンドラ・ナビスターの中・大型トラック用サイドレ

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ールを生産(年産 18 万個)した。現在はボルボの大型トラック(「Mack」ブランド)のサ

イドレールやシャーシフレームの受注もあり、ボルボ向けの生産が拡大している。

メタルサは 2011 年にボルボのタイ工場向けのプロジェクトを受注した。当初インド工場

から出荷を予定していたが、ボルボの要請によりタイ・ラヨーン県に工場を建設すること

を決め、12 年に着工している。

メタルサ日本法人代表のホセ・トレビーニョ氏によると、アジア地域において日本の自

動車メーカーとの取引を強化したいという。アジア最大の自動車生産国である中国でのビ

ジネスに関心はあるが、具体的なプロジェクトを獲得する前に進出を決定することについ

ては慎重姿勢だという。

<デーナ買収で 11 ヵ国に拠点>

メタルサはデーナから構造部品部門を買収したことで、デーナが持っていた米国、英国、

オーストラリア、アルゼンチン、ブラジルにおける 10 ヵ所の構造部品製造工場を傘下に加

え、2011 年 1 月にはベネズエラ政府当局の承認を得てデーナのベネズエラ工場も傘下に加

えた。

デーナの構造部品部門の買収は、メタルサを世界 11 ヵ国に拠点(うち 8 ヵ国に生産拠点)

を持つグローバル企業に変貌させた(表参照)。現時点で、メタルサの全世界の従業員数は

約 6,300 人に達する。トヨタとの関係は以前にも増して強化された。トレビーニョ氏によ

ると、2011 年の同社売上高(約 15 億ドル)のうち約 25%がトヨタ向けなっている。フォ

ード向けも大きく、全体の 25%弱を占める。

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デーナ買収後の設備投資にも積極的だ。2011 年 10 月にはアルゼンチンのタラール工場

における 3,780 万ドルの拡張投資計画を発表した。トヨタの「ハイラックス」、フォード

の「T6」、フォルクスワーゲン(VW)の「アマロック」などのシャーシ・構造部品製造に

充てるという(アルゼンチン主要紙 2011 年 10 月 25、26 日)。

なお、ブラジルのオザスコ工場でもスウェーデンのスカニア向けの塗装ラインが完成し、

1 日当たり 500 組の塗装能力が加わった。米国ケンタッキー州エリザベスタウン工場の拡張

投資(7,200 万ドル)も発表されており、フォード向けの製造ラインを強化する(「ミレニ

オ」紙 2012 年 5 月 7 日)。

③ネマック:アジア進出に力入れるアルミ自動車部品大手ネマック

(参考 WEB:http://www.nemak.com/)

メキシコのアルミ自動車部品製造のネマックは、急速にアジア展開を進めている。5 月に中国

の重慶に工場建設を開始した。さらに重慶では、6 月に米国アルミ自動車部品企業の JL フレンチ

を買収し、中国資本との合弁企業を傘下に置いた。同月には、インドのチェンナイでも操業を開始

した。

<海外進出でビッグスリー依存からの脱却図る>

ネマックはアルミ製シリンダーヘッドやアルミ製エンジンブロックを主力製品として生

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産している。北米・中南米・欧州の 3 地域合計で 2011 年の同社のシェアは、アルミ製シリ

ンダーヘッドが 50%、アルミ製エンジンブロックが 30%(同社年次報告書 2011 年版)。ア

ジアは同社にとってかつては空白の市場だったが、このところ自動車産業の成長著しい地

域に進出している。

国際自動車工業会(OICA)によると、アジア(日本を除く、オーストラリアを含む)で

の自動車生産は 2000 年の 778 万台から 2011 年には 3,222 万台と 4 倍となった。世界の自

動車生産全体に占めるアジア(同)のシェアも、2000 年の 13.3%から 2011 年には 40.2%

に大きく拡大した。

ネマックはメキシコ有数の複合企業のアルファ・グループを構成する企業の 1 つ。1979

年に同グループとフォード(米国)の合弁企業として設立された。フォードの出資比率は

設立当時 25%だったが、現在では 6.76%に減少している。

ネマックの海外展開は 2000 年に始まる。同年、合弁相手フォードのカナダの工場を買収

した(表 1 参照)。その後、欧州、中南米に主として M&A により生産拠点を持つようにな

った。欧州、中南米に進出し、米国ビッグスリー〔ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、

クライスラー〕依存からの脱却を図った。

全売上高に占めるビッグスリーの割合は 2005 年の 86%(フォード 52%、GM14%、ク

ライスラー20%)から、11 年には 56%(フォード 29%、GM18%、クライスラー9%)に

低下している。11 年のビッグスリー以外の顧客としてネマックが年次報告書で公表してい

るのは、BMW(6%)、現代自動車(6%)、フォルクスワーゲン(4%)となっている。

アジアへの進出は 2007 年にテクシド・アルミニウムを買収し、中国の南京に生産拠点を

得たことが最初。テクシド・アルミニウムは、フィアット・グループ(イタリア)に属し

ていたが、経営再建のために米国の投資ファンドに売却されていた。2008 年以降、アジア

進出はしばらくなかったが、12 年に入り前述のとおり、中国、インドで生産拠点を設置し

た。

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<複合企業の強みを生かす>

ネマックは現在、北米(米国、カナダ)、中南米(メキシコ、ブラジル、アルゼンチン)、

欧州(ドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア)、アジア

(中国、インド)の合計 13 ヵ国に製造拠点を持つ。ここ 10 年余りの間に海外展開を進め

アジアにまで進出できたのは、複合企業(事業多角化)の強みを生かしたことが大きい。

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ネマックが属するアルファ・グループは、自動車部品のほか、石油化学、食品、通信、

資源開発の 5 部門から成る。自動車部品部門(ネマック)は、石油化学部門に次ぐ売り上

げを達成しているが、営業利益率は最も低い。2011 年の決算では、食品部門が 9.1%、石

油化学部門が8.9%であるのに対し、自動車部品部門は6.6%にとどまっている(表2参照)。

これに対し、設備投資額では自動車部品部門が最大で、グループ全体の半分以上(57.5%)

を占めている。他の部門での収益を活用して自動車部品部門の拡大を図っている。

④ビンボ:配送網とブランド戦略で成長する製パン企業ビンボ

(参考 WEB:http://www.bimbo.com.mx/)

中南米を代表する製パン大手のビンボグループは、効率的な配送網、キャラクターを使った圧

倒的なブランド認知で、中南米各国や欧米先進国にも展開している。アジア戦略も開始するなど

活動の幅を広げるが、相次ぐ拡大投資に収益性の懸念も出ている。

<徹底したイメージ戦略で急成長>

ビンボグループ(メキシコ証券取引所に 1980 年上場)は、1945 年にスペイン系移民を

含む 5 人により設立された製パン・製菓業に始まる。各種資料によると、主食がトルティ

ージャのメキシコに、欧米のパン製造技術を持ち込み、積極的な宣伝広告でパン文化の普

及に努めることで、急成長したとされる。

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特に、流通網への投資に力を入れるのが特徴だ。パンは製造後に急速に劣化しやすいた

め、製造後の消費者へのリードタイムを短くする必要がある。また中南米全体の特徴とし

て、昔ながらの雑貨・食料品店が多く、配送先が数多く分散していることにも対応しなけ

ればならない。ビンボは工場を全国に分散させ、トラック輸送に多額の投資をして、独自

の配送網を確立した。メキシコ国内では外資の付け入る隙を与えなかった。今では総配送

ルートは全世界で 5 万通りにも及ぶという。

また、トレードマークを生かした広告宣伝にも力を入れている。例えば、創業期からの

主要ブランドである製パンの「ビンボ」は、白い小熊がイメージキャラクターだ。現在に

至るまであらゆる広告媒体で一貫して使い続け、中南米でこのキャラクターを見れば、誰

しも同社の食パンをイメージできるほどになっている。

<海外は買収で営業基盤を確立>

海外展開は 1980 年代に始まる。84 年に米国ヒューストンに初めて輸出を行った。89 年

にビンボ・セントロアメリカを設立。グアテマラに国外最初の工場を設立した。90 年代に

は、チリのアレサ、ベネズエラのトップ製パン企業オルスムを買収。エルサルバドル、コ

スタリカ、アルゼンチン、ペルーにはビンボの子会社を設立した。コロンビアではビスケ

ット製造で有力なノエルに出資、2001 年にはブラジルのプルスビータを買収し、一気に中

南米のトップ企業に登りつめた。

米国では 1998 年に、テキサスを本拠地とする 1904 年創立の製パン老舗ミセスベアーズ

を買収し、11 の工場と 3,000 人の従業員を新たに取り込んだ。2002 年にはカナダのジョー

ジウェストンの米国法人を買収して、「オロウィート」「エンテンマンズ」「トーマス」「ボ

ボリ」のブランドを手に入れた。さらにチェコのパークレーンを買収し、欧州にも足掛か

りを持った。アジアでは 2006 年、スペインのパンリコの中国法人を買収するかたちで中国

に進出。北京に 2 工場を展開している(表 1 参照)。

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直近の 2011 年にも 3 つの買収を行っている。11 年 9 月にアルゼンチンの製パン・流通大

手ファーゴを買収した。5 工場、従業員 1,500 人規模で、年商 1 億 5,000 万ドル。買収額は

16 億 800 万ペソ(1 ペソ=約 6.1 円)だった。同社は「ファーゴ」「ラクタル」「オールナ

チュラル」などのブランドを所有している。

2011 年 11 月には米国でサラリーの米国フレッシュベーカリー部門を 102 億 300 万ペソ

で買収。カリフォルニア州での「サラリー」「アースグレインズ」などのブランド、その他

工場、設備、配送ルートなどの資産を取得した。欧州部門では 2011 年 12 月に同じくサラ

リーのスペイン、ポルトガルでのフレッシュベーカリー部門を買収した。買収額は1億1,500

万ユーロ。「ザ・ビンボ」「シルエッテ」「マルティネス」「イーグル」などのブランドと、7

つの工場、800 以上の配送ルートを獲得した。

<海外配送網の改善により収益性向上を目指す>

2011 年末時点でグループ全体の売上高は 1,337 億 1,200 万ペソで、進出国数は 19 ヵ国、

販売拠点 200 万ヵ所、総工場数 156 ヵ所、総従業員数 12 万 7,000 人を超える。CNN エク

スパンシオンによるメキシコトップ 500ランキングでは 2011年は 11位(2010年は 10位)

だった。

ただし、海外事業が順風満帆ということではない。同社の2012年上半期の財務諸表では、

売上高では既に米国がメキシコを抜き、トップに立っている。粗利益については、米国で

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は原材料費高や平均販売価格の低下などの圧力を受けているものの、生産工程での歩留ま

り向上などの努力でメキシコのオペレーションに遜色ない水準にあるとしている。しかし、

営業利益率、経常利益率ともにメキシコより低い(表 2 参照)。2011 年上半期の米国部門の

営業利益率は 8.1%で、メキシコ部門の 9.1%とあまり差がなかったが、2012 年に入って悪

化している。同社では、11 年のサラリー買収後、配送網に多くの無駄なコストがあり、マ

ージンが「希釈」されたとし、同社得意の配送網改善により効率的オペレーションを目指

すという。

一方で、他中南米部門については、収益性は改善傾向にある。営業利益率、経常利益率

のいずれもマイナスだが、前年同期に比べそれぞれ 4.1 ポイント、5.2 ポイントも改善した。

売上高総利益率も同様に 4.2 ポイント改善している。2011 年のアルゼンチンでのファーゴ

買収後、この地域でも同様に配送網の改善などに投資を集中しているとしているが、拡大

に伴い固定費を吸収するだけの十分な売上高がついてきていないようだ。

また、各種報道によると、同社は 2014 年に 4 億 5,000 万ドル、16 年には 5 億 6,400 万

ドルの債務返済期限が迫っている。同社 IR 担当役員のアルマンド・ヒネル氏によると、12

年度の投資額目標を当初は 7 億 5,000 万ドルに設定していたが、5 億 5,000 万ドルに 2 億ド

ル程度下方修正するとしている。フィッチレーティング(6 月 6 日)の分析によると、12

年はコモディティー価格や為替の変動に加えて、米国とスペイン、ポルトガルのサラリー

フレッシュベーカリー部門買収による営業マージンの希釈効果を伴うほか、営業外費用も

拡大するとしている。ただし一時的なものだとして、引き続き同社の潤沢なキャッシュフ

ローや営業基盤により安定感があるとしている。

⑤マベ:提携戦略で国際展開を拡大する白物家電大手マベ

(参考 WEB:http://www.mabe.com.mx/)

中南米を代表する白物家電メーカーのマベ(MABE)は、提携先のグローバルブランドと地域ブ

ランドを組み合わせて各国で生産、販売を行い、シェアを拡大してきた。近年ロシアでの拠点も設

立し、アジア進出もうかがう。

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<GE との提携が飛躍のきっかけ>

マベは 1947 年、マバルディ(Mabardi)家とべロンド(Berrondo)家が台所家具製造企

業として創業した。50 年代にガスレンジや冷蔵庫の製造を開始、60 年代初頭には国内で白

物家電輸出のリーディングカンパニーとなった。特筆されるのは、1987 年に GE との提携

関係が始まったことだ(注 1)。GE はメキシコ市場戦略として、直轄するよりも現地資本

と提携し、メキシコの低い労働コストを利用することを選択。これにより、中央高原北部

のサン・ルイス・ポトシに工場が設立され、国内市場向けだけでなく、米国市場向けガス

レンジ、冷蔵庫などの主要製品の開発、設計、生産もメキシコで行うようになった。

このモデルが軌道に乗り、マベは中南米への展開を進めた。GE ブランドの中南米での流

通を請け負い、90 年代にベネズエラ、エクアドル、ペルー、アルゼンチンの地域ブランド

とジョイントベンチャーや戦略的提携関係を進め、コロンビアには工場も設置した。これ

ら各国では、GE、マベ、現地ブランドをミックスして流通させた。このころ、メキシコの

中央部ケレタロにガスレンジ、洗濯機、冷蔵庫など、GE とマベの主要製品の研究開発(R

&D)センターを設立し、盤石の体制を築いた。

<CIS 展開狙いロシアにも進出>

2000 年代に入っても新市場への進出が続き、2003 年にはブラジルで、GE アプライアン

スとダコ(DAKO)を統合してマベ・ブラジルを設立(表参照)。2005 年には、カナダで

の GE の製造パートナー、カムコ(CAMCO)を買収。2008 年にはチリで GE 製品の流通

販売を開始し、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、メキシコで製造した製品

を供給している。同年、中米のリーディングカンパニーだったアトラス・エレクトリカ(Atlas

Electrica)を買収、コスタリカの工場でマベ、アトラス、セトロン(Cetron)ブランドの

冷蔵庫、ガスレンジの生産を開始した。

2008 年にはスペイン系企業ファゴール(Fagor)との提携により、ロシアに進出。ファ

ゴールの「デ・ディートリッヒ(De Dietrich)」ブランドとともにマベブランドを供給して

いる。ロシアから CIS 地域への展開を狙ったものだ(同社ウェブサイトより)。

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<ブラジル事業の不調で純損失に>

株式公開企業ではないため最新かつ詳細なデータは入手できないものの、各種資料、報

道などによると、各国市場でのマベの白物家電シェアは、メキシコ 47%、コロンビア 43%、

ベネズエラ 60%、カナダ 26%などと強さを発揮している。「CNN エクスパンシオン」誌が

発表したメキシコ主要 500 社ランキング 2011 年では、売上高ベースで 44 位(2010 年 40

位)だ。11 年の売上高は 451 億 4,351 万ペソ(1 ペソ=約 6.1 円)、営業利益 10 億 4,435

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万ペソ、純損失 5 億 8,800 万ペソとなっている。

マベの格付けを 2012 年 2 月 7 日付で「BB+」から「BBB-」に格下げしたフィッチ・

レーティングスによると、ブラジルでのドイツ系 BSH ボッシュ買収(2009 年)後のブラ

ジル事業の再編成・整理統合がもたついた結果、損失が拡大、利益圧迫要因になったとい

う。

<米州地域での優位は揺るがず>

冷蔵庫をはじめ大きな白物家電の場合、輸送コストの点で、中国から完成品を送るより

も、メキシコや米州各国で生産するマベの地理的メリットが大きい。ブランド力でも、GE

との提携関係が解消されない限り、米州地域での優位は揺るぎそうにない(注 2)。

一方、アジアでは、生産拠点を持たないマベにとってブランド力のみならずコスト面で

も不安が残る。そのため、ロシア・CIS 地域でどう成果を出そうとしているのか注目され

る。ただし、既にマベは中間材の 10%近くを 120 社の中国企業から調達しており、中国に

調達オフィスを開設し、4 人の駐在員を配置している(「レフォルマ」紙 2011 年 3 月 10 日)。

(注 1)GE はマベの株式の 48%を所有。マベは株式非公開企業。

(注 2)各種報道によると、GE との現提携契約は 2012 年末に切れるが、2 年以上前まで

にどちらかが解消の提案をしない限りは自動継続するとされている。

⑥アメリカモビル:電話サービス以外でも影響力を強める通信大手アメリカモビル

(参考 WEB:http://www.americamovil.com/amx/en/)

「フォーブス」誌の世界企業ランキングで 3 年連続第 1 位にランクされているメキシコ最大の富

豪カルロス・スリム氏が所有するアメリカモビル(America Movil)は、米州最大の携帯電話事業者

だ。最近は有料テレビやインターネット分野でも積極的に事業展開している。2012 年に入ると欧

州企業の買収にも着手し、事業のフィールドが米州から世界に広がりつつある。

<米州の通信最大手グループ>

アメリカモビルは 2000年 9月にメキシコの通信会社テルメックスから分離独立して設立

された携帯電話会社。テルメックスはスリム氏が所有するメキシコ最大の通信企業で、国

内固定電話市場シェアが約 8 割、固定インターネット市場シェアが約 7 割に及ぶガリバー

企業だ。

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スリム家は 2010 年、テルメックス(国外ビジネス部門のテルメックス・インターナショ

ナルを含む)をアメリカモビルの傘下に加え、1 つの通信企業グループにまとめることを決

定、テルメックスをアメリカモビルの固定電話・インターネット部門とした。これにより、

アメリカモビルは固定・携帯の双方を営む巨大な通信企業グループとなった。

アメリカモビルはスリム家が持つ豊富な資金力を生かして中南米携帯電話市場で積極的

な企業買収を展開した。2000年以前に傘下に収めていたのはグアテマラのテルグア(Telgua)

とエクアドルのコネセル(Conecel)だけだったが、国外企業の積極的な買収により、同社

にとって国外収入の比率が高まっている。2011年の連結営業収入は約475億5,300万ドル、

このうちメキシコ国内が 38.5%、国外が 61.5%で国外での営業収入が全体の 6 割以上を占

めている。携帯電話の契約者数でみても、メキシコ国内の比率は全体の 27.2%にすぎない。

中南米最大の携帯市場のブラジルには 2000 年 11 月、ベル・カナダ・インターナショナ

ル(BCI)と米国 SBC インターナショナル(SBCI)との合弁でテレコム・アメリカスを設立

したが、その合弁 2 社の株式を買収し、100%子会社化している。さらに、2003 年に米国

ベルサウスが所有していた BSE とブラジル資本 BCP の 2 社を買収し、利用者数およびサ

ービスエリアを拡大した。

その後も積極的な M&A を繰り返し、2002 年にはコロンビアとニカラグア、03 年には

エルサルバドルとアルゼンチン、04 年にはホンジュラスとウルグアイ、05 年にはパラグア

イ、チリ、ペルーに進出を果たした。06 年には米国ベライゾンからドミニカ共和国のベラ

イゾン・ドミニカーナの株式 100%とプエルトリコの PRT の株式 52%を買収する契約を締

結した。

2008 年 5 月にパナマで携帯電話通信事業権を獲得し、09 年からサービスを開始した。11

年 1 月にはコスタリカでも同事業権を獲得して同年 11 月からサービスを始めた。さらに 11

年 11 月、ホンジュラスの携帯電話事業者ディヒセル(Digicel)を買収し、ホンジュラスに

おける勢力を拡大した。

2012 年 6 月に米国の仮想移動体通信事業者(MVNO)のシンプル・モバイル(Simple

Mobile)の株式 100%を、同社の在米子会社であるトラクフォン(TracFone Wireless)経

由で買収し、100 万人を超える在米利用者を傘下に加えた。

2011 年末時点で、米州 18 ヵ国・地域(メキシコを含む)で携帯電話サービスを展開し

ており、中南米カリブ地域における同社の携帯電話利用者総数は 2 億 2,199 万人、同地域

携帯電話市場の 35.1%を占める。なお、進出当初は各国で買収した企業のブランドをその

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まま利用していたが、現在はメキシコ、コロンビア、エクアドル、米国を除く 14 ヵ国では

「クラロ」(Claro)というブランド名に統一している。

<積極的な通信インフラ投資でシェア拡大>

企業買収以外に同社が力を入れているのは、積極的なインフラ投資だ。進出を果たした

国で同社は当初、世界 200 ヵ国以上で利用されていたデジタル携帯電話方式 GSM のネッ

トワークを広げるための積極的なインフラ投資を展開した。

GSM は、当時でも国際ローミング可能な範囲が広く、国境を越えて働くビジネスパーソ

ンなどには利用しやすかった。また、SIM カードを用いたアカウント管理などプリペイド

携帯電話に適しているため、進出先の多くが所得水準の低い開発途上国でプリペイド方式

の利用比率が高い同社にとっては、非常に適した規格だった。同社はプリペイドとポスト

ペイドの両方式を柔軟に利用できる料金体系を整備し、進出後の新顧客開拓にも力を入れ

た。

近年は GSM に加え、第 3 世代(3G)携帯電話サービス網の拡大に向け、積極的な投資

を行っている。2007 年 11 月にアルゼンチン、チリ、ブラジル、コロンビアで 3G 携帯電話

サービスを開始し、メキシコでも 08 年 3 月から 3G サービスを開始している。11 年末時点

では 16 ヵ国で 3G 携帯電話サービスを展開している。

アメリカモビルの最大の競合相手はスペインのテレフォニカ・モビレスだ。テレフォニ

カ・モビレスは 2004 年にベルサウスが所有する 10 ヵ国の携帯電話企業を買収して一挙に

勢力を拡大したが、11 年末時点での中南米カリブ地域における携帯電話利用契約総数は 1

億 6,630 万人、市場シェアは 26.3%と、アメリカモビルに大きく差をつけられている(表

参照)。

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<有料テレビ市場にも積極投資>

近年はテルメックスを統合したこともあり、携帯電話以外の部門、特に有料テレビやイ

ンターネット部門での事業を拡大している。2008 年 8 月にニカラグアのケーブルテレビ・

家庭用インターネット・業務用データ通信事業者のエステサ・ホールディング(Estesa

Holding)を買収した。

2011 年 4 月にはブラジルの固定回線部門の現地法人エンブラテルを通じて衛星通信(テ

レビ、インターネット、電話)事業者のスターワン(StarOne)の株式 20%を GE サテラ

イト・ホールディングス(GE Satelite Holdings)から買収し、以前からエンブラテルが所

有していた 80%の株式と合わせて 100%子会社化した。

2012 年 1 月には米国マイアミに本拠を置く中南米・米国ヒスパニック市場向けのオンラ

イン・エンターテインメント事業者である DLA の株式 100%をクラクソン・インタラクテ

ィブ・グループ(Claxson Interactive Group)から買収した。さらに、同年 3 月にブラジ

ルのケーブルテレビ事業者ネッチ・セルビソス・ジ・コムニカソン(NET)の株式の過半

数以上を買収し、ブラジルにおける有料テレビ事業をさらに強化した。

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<欧州にも勢力圏を拡大>

積極的な企業買収で勢力を拡大してきたアメリカモビルは、2012 年には米州以外にも手

を伸ばすようになった。6 月に欧州 5 ヵ国(オランダ、ベルギー、ドイツ、フランス、スペ

イン)で電話通信・インターネット事業を営むオランダの通信大手 KPN の 2.82%の株式を

公開買い付け(TOB)により買収、以前から所有していた分と合わせて 27.73%の KPN 株

式を所有し、大株主として強い影響力を持つようになった。

また、オーストリア、チェコ、ベラルーシ、クロアチア、スロベニア、リヒテンシュタ

イン、マケドニア、セルビアで固定・移動通信事業を展開するオーストリアの通信大手テ

レコム・オーストリア(Telekom Austria)の株式取得も狙っており、6 月 15 日までに 5%

の同社株式を買収し、現在追加で 16%分の株式を買収する交渉が進行中だ。同買収が完了

すると、以前から所有していた 2%分の株式と合わせて 23%のテレコム株式を所有するこ

とになり、同社の経営に大きく関与することが可能となる(6 月 15 日付のアメリカモビル

投資家向けプレスリリース)。

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その他(アルゼンチン、チリ、ペルー、

コロンビア、ベネズエラ)

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―― アルゼンチン ――

インプサ:ブラジルとマレーシアに発電機などの製造拠点

(参考 WEB:http://www.impsa.com)

インプサ(IMPSA)は水力発電機と風力発電機を主力ビジネスとして近年、国際展開をしてきた。

風力発電ではブラジル市場の拡大に応じて販売を伸ばし、水力発電やガントリークレーンのビジ

ネスをマレーシアの拠点を軸に展開している。

<ブラジル風力発電市場で国際化の足場>

メンドサ市に本社を置くインプサは 1907 年創業と、アルゼンチンの中では長い歴史を持

つ発電機メーカーだ。主に水力発電機、風力発電機を製造しており、同社の資料では 2011

年に中南米の水力発電機市場シェアの 30%、風力発電機ではブラジル市場で 19%と最大の

シェアを占めている。

インプサの製造拠点はメンドサ市と、ブラジルのペルナンブコ州スアッペ市、マレーシ

アのルムト市の 3 ヵ所にある。2008 年に設立されたスアッペ工場はブラジル北東部にあり、

同地域には主な納入先となる風力発電所が多く立地している。同工場は年産 400 機の風力

発電機の製造能力を有する。また、同社は国内外で風力発電所の運営も手掛けている。同

社が関与するプロジェクトの総発電能力は、ブラジルで 923 メガワット(MW)とアルゼ

ンチン国内の 155MW よりはるかに大きい。2012 年第 1 四半期決算資料によると、同社の

売上高の 5 割をブラジルの風力発電事業が占める。

ブラジルでは、水力発電分野でも 2011 年 2 月、同国で建設が進む大規模水力発電所ベロ

モンテで設置予定の 650MW のフランシスタービン 18 基のうち 4 基を受注、受注額は 4 億

7,900 万ドルに上る。このため、スアッペ工場の拡張工事を行っている。

<アジアでは水力発電などの機材を製造・販売>

アジアでは、主に水力発電関連機材とガントリークレーンの製造・販売を行っている。

インプサは 1990 年代にフィリピンで水力発電所向け BROT(建設-改修-操業-移転)案

件を受注したのを皮切りに、2000 年代にはインドネシアで水力発電プロジェクトに参加し

た。また、2004 年にマレーシアのルムト市の現地工場を買収し、大型クレーンや発電機な

どの製造を開始しており、2005 年にマレーシアの港湾に大型ガントリークレーンを納入し

ている。

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近年の案件では、2011 年 4 月にマレーシア政府系電力会社テナガ・ナショナル(TNB)

の子会社、TNB リペア・アンド・メンテナンス(TNB Remaco)との間で、サバ州テノム

パンギ水力発電所の改修業務の受注契約に調印した。受注額は 1,300 万ドルで、改修用の

主要機材はルムト工場で製造するとしている。

<風力発電市場の拡大が成長を牽引>

インプサの売上高推移をみると、2007 年の 2 億 8,500 万ドルから 11 年に 11 億 8,100 万

ドルと急成長している。その背景にあるのは、ここ数年のブラジル風力発電市場の拡大だ。

ブラジルのエネルギー研究公社(EPE)によると、2006 年に 237MW だった同国内の風

力発電容量は 11 年に 1,315MW、14 年には 7,000MW に拡大するとみられる。11 年末の発

電機器の受注残高は、39 億 6,800 万ドル。そのうち風力発電機が 30 億 2,000 万ドルと全体

の 76%を占め、残りの 9 億 4,800 万ドルが水力発電機だ(図参照)。2007 年当時は受注残

高 9 億 9,200 万ドル全てが水力発電機だった。風力発電機の受注実績が同社の成長を支え

たことが分かる。このブラジル市場での成功をてこに、その他の中南米諸国やアジアでも

風力発電事業を拡大できるかが注目される。

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―― チリ ――

ホルティフルツ:世界中にベリーを輸出するホルティフルツ

(参考 WEB:http://www.hortifrut.com/)

チリは南半球有数のベリー類生産国だが、そこでひときわ輝く企業がある。ブルーベリーの端

境期を埋めるため、北半球の米国にも生産・物流拠点を持ち、「全てのベリーを全ての日に全て

の国々へ」というミッションを実現しているホルティフルツだ。チリの企業は、規模の小さい国内市

場ではなく、輸出を前提としたビジネスモデルを持っている企業が多いが、同社もそうしたグロー

バルな食品企業の 1 つといえよう。

<拡大するブルーベリーの世界市場>

チリは南北に長く、気候が多様で果物栽培が盛んだ。ベリー類は、チリが競争力を持っ

ている主要産品の 1 つだが、中でも最近、活況を呈しているのはブルーベリー業界だ。過

去 3 年の輸出動向をみると、2011 年は 2009 年と比べて重量ベースで 2.1 倍、金額ベース

で 2.2 倍と驚異的な伸びを示している(表 1 参照)。ブルーベリーは、他のベリー類よりも

長期保存が可能なので、冷凍ものよりも生鮮ものの輸出が多いのが他のベリー類と大きく

異なる点だ。生鮮ブルーベリーの輸出(国・地域別)をみると、米国向けが重量ベースで

83%を占めるなど今のところ偏りがみられるが、香港、日本もトップ 5 に入っている。

チリ・ブルーベリー委員会によると、全国 1 万 2,500 ヘクタールで栽培されており、その

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栽培地域も北部の乾燥地帯から南部の冷涼な地域に及ぶ。以前は中南部、南部が中心だっ

たが、灌漑技術の導入、米国南東部で栽培されている品種の導入によって北部乾燥地域に

まで栽培範囲が広がってきた。そのため、生産期間も 10 月中旬(北部乾燥地帯)から 4 月

(南部)と非常に長く、チリ産ブルーベリーの強みとなっている。

<世界でトップのブルーベリー販売企業>

チリのブルーベリー取り扱い最大手のホルティフルツは、7 月 11 日にサンティアゴ証券

取引所に上場を果たした。同証券取引所にとっては 2012 年 2 社目の上場案件ということで

投資家の注目を集めた。「ディアリオ・フィナンシエロ」紙(7 月 12 日)によると、同社株

は 1 株 320 ペソ(1 ペソ=0.16 円)で初日の取引を終え、同社は 6,700 万ドルの資金調達

に成功した。同紙報道では、チリ年金基金(AFP)が公募株数全体の 20%を取得した。

ホルティフルツは 1980 年初頭創業で、ブルーベリーやイチゴ、ブラックベリーなどのベ

リー類を取り扱う持ち株会社だ。同社資料によると、世界 1 位のブルーベリー販売者で、

イチゴ類全体の販売企業としても世界 2 位。販売先は世界 37 ヵ国に及んでいる。2011 年

の同社のベリー類生産量は 2 万 7,590 トンで売上高 1 億 8,260 万ドル、営業利益は 1,892

万 9,000 ドルとなっている。主力はブルーベリーで生産量全体の 43%(1 万 1,902 トン)、

売上高の 56%を占める(表 2 参照)。

「全てのベリーを全ての日に全ての国々へ」を掲げ、南半球と北半球の生産拠点を軸に

して世界の主要市場に文字通り 1 年中ベリー類を供給している企業だ。

<今後は中国、韓国などアジアへの拡大目指す>

現在、ブルーベリーにとって最も重要な市場は米国とカナダだ。同社によると、北米の

主要な生鮮果物の中でブルーベリーが最も売れ筋(全体の 18.9%、注)であり、かつ 1 人

当たりの年間消費量も 526 グラムと欧州(82 グラム)、新興国(1.9 グラム)より圧倒的に

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多いことから、現時点では北米が最大の市場となっている。

ただし同社は、今後、欧州や新興国でも消費が伸びるとみており、特に 2011 年 11 月に

中国がチリ産ブルーベリーに門戸を開いたことに注目している。なお、12 年 6 月に、韓国

の李明博(イ・ミョンバク)大統領のチリ訪問に合わせ、チリ産ブルーベリーが韓国へ輸

出できることが決まった。

2012 年第 1 四半期時点では、売上高の 74%が北米、14%が欧州、7%が南米で、アジア

は 5%となっている。ベリー類は通常 8 年で成木となるが、同社の場合、8 年成木が植えら

れている耕地は全体の 18%にすぎず、残りの耕地は今後収量増加が見込める若木が植えら

れているため需要の急増にも対応できそうだ。

<世界中に広がる生産・物流拠点>

同社は、1990 年に米国、94 年にメキシコに子会社を設置するなど早くからグローバル展

開をしていたこともあり、従業員 532 人のうち、172 人が海外に駐在している。生産契約

先はチリ(全体の生産重量の 48%を占める)以外に、メキシコ(30%)、スペイン(12%)

のほかアルゼンチン、ウルグアイ、グアテマラ、米国、モロッコ、ポーランドなど 700 に

及び、これらの国に 12 ヵ所のベリー集積センターを持つ。また、販売拠点は米国、南米南

部共同市場(メルコスール)諸国、欧州、中国などに 28 ヵ所ある。ちなみに、会計上の連

結子会社はチリ国内に 14、海外に 8(スペイン 3、米国 2、ブラジル 1、メキシコ 1、アル

ゼンチン 1)の構成となっている。

ブルーベリーやブラックベリーはアントシアニンなどの抗酸化物質を多く含む食品とし

て、生活習慣病対策が社会問題になっている米国などでの需要が伸びていたが、今後、生

活水準が上がる新興市場での需要の伸びも期待できる。「ディアリオ・フィナンシエロ」電

子版(7 月 12 日)によると、ビクトル・モーラー社長は、株式公開で得た資金で取り扱い

ベリーの種類を増やしたり、新たな市場の開拓につなげたりしたいとコメントしている。

(注)ホルティフルツ資料による(元データは Fresh Look Marketing, last 52 week to 11

September 2011)。

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―― ペルー ――

①グルーポ・アヘ:低価格コーラ飲料を売り込むグルーポ・アへ

(参考 WEB:http://www.ajegroup.com/)

コーラ飲料製造で世界展開を図るグルーポ・アヘは 1988 年の創業以来、一貫して中低所得層

を顧客ターゲットとする戦略を取り、アジア地域にも進出している。テロの活発な時代に生まれた

企業で、その経験をベースに、世界の新興市場の拡大とともに成長を続けている。

<中南米とアジアに 22 工場>

グルーポ・アヘは「コーラ・レアル」「ビッグ・コーラ」などの名称で販売するコーラ

飲料を中心に、炭酸飲料、清涼飲料水などを製造している。中南米地域ではブラジル、メ

キシコ、コロンビア、エクアドル、コスタリカなど、アジア地域ではインド、タイ、イン

ドネシア、ベトナムなど、合わせて 20 ヵ国に進出している。中南米とアジアに 22 工場を

持ち、固有の物流拠点は約 120 ヵ所、従業員は 2 万人を数える。

グルーポ・アヘがどの国でも中低所得層を顧客ターゲットとする一貫した戦略を取るの

は、誕生のいきさつと関係する。同社はペルー南部の都市アヤクチョを発祥の地とし、1988

年に創業した。当時のアヤクチョでは炭酸飲料の販売は限られていた。当時、ペルーはテ

ログループの活動により治安が悪化していたため、首都リマからアヤクチョまで炭酸飲料

をトラックで運搬することを拒む者が多かった。そこで、創業家のアニャーニョス一家が

コーラ飲料をつくり、地元向けに販売したところ好評だった。なお、リマ市内での「コー

ラ・レアル」500 ミリリットルは現在 1 ソル(約 30 円)(「コカ・コーラ」は 1.5 ソル)。

事業活動のコンセプトは、飲料を低コストでつくって人々に届けることにあり、海外展

開の際もそれを守り続けている。

海外展開を進める中で、グループ会社の管理にも工夫がみられる。例えば、スペインに

現地法人を設置し、グループの財務管理拠点と位置付けている。ペルーと同じスペイン語

であること、中南米地域とアジア地域の中間に位置し時差を考慮しても連絡を取りやすい

ことから、資金調達の拠点としてスペインを選択した。

<バルサとスポンサー契約>

広報戦略にも力を入れる。2009 年から、スペインのプロサッカーチーム「FC バルセロ

ナ」とスポンサー契約を結んでいる。同チームはスペイン国内だけでなく、世界中に熱狂

的なファンを持つことで知られている。また、南米出身のスター選手メッシが所属してお

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り、同社製品の宣伝効果が高いと判断したという。

②チナ・ウォック、タヤ 925:サービス産業の海外進出広がる

(参考 WEB:http://www.chinawok.com.pe/、http://www.thaya925.com/)

外食産業を中心に地場のサービス産業が海外進出に力を入れている。ペルーならではの料理、

文化などを前面に出し、差別化を図る戦略が海外の消費者の支持を集めているようだ。

<外国にある SC にフランチャイズ出店する中華料理店>

高級ブティックが並ぶニューヨークのエンパイアステートビルの近くに、シーフードを

提供する店「ラ・マル(La Mar)」がある。ペルーの名物シェフ、ガストン氏が手掛けるペ

ルー料理店だ。首都リマに本店があるラ・マルは、米国(ニューヨーク、サンフランシス

コ)、メキシコ、ブラジル、チリ、パナマに店を構え、ペルーの魚料理「セビッチェ」や白

ブドウの蒸留酒でつくる「ピスコサワー」を提供している。

ペルーは中南米で「グルメの国」といわれている。魚介類も肉も使いバラエティーに富

んだペルー料理は「中南米料理の中で最も日本人の舌に合う」と評価する日本人もいる。

ペルー料理の要素を取り込んだ中華料理のファストフード・チェーン「チナ・ウォック

(China Wok)」は国内外に 82 店を展開している。ペルー国内に 32 店、中南米地域のチリ、

エクアドル、コスタリカ、パナマ、エルサルバドル、グアテマラに、合わせて 50 店ある。

1999 年に創業し、リマ市内の高級ショッピングセンター(SC)「ジョッキープラザ」内

に初店舗を開設した。評判が良かったため、その後、SC 内への店舗設置を基本的なかたち

として出店を拡大。2003 年に海外初店舗をエクアドルに出した。その後、中米とチリへ進

出。舌の肥えたペルー人が認めた味を手ごろな価格で楽しめるとあって、海外店舗は順調

に増加し、チリには 1 ヵ国だけで 16 店を数える。

同社は国内よりも海外に店舗を多く有する。その理由として、フランチャイズ方式によ

る海外 SC への展開という戦略が成功したことと、ペルーの小売業界は近代化が遅れており

国内の SC 数が限られていたことが挙げられる。国内の SC 開発はようやく地方都市でも始

まり、2010 年には国内 8 ヵ所の SC に店舗を開設した。国内外で店舗装飾、機材、経営者

と従業員のマニュアル、店舗のロケーション調査など幅広くサポートする体制を敷いてい

る。

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<アイマラ語の社名にこだわる銀細工の装飾品メーカー>

2006 年に創業した「タヤ 925(Thaya925)」は、バルダレス氏とバレンシア氏の女性 2

人が経営する銀細工アクセサリーメーカーだ。ペルーはプレ・インカ時代から銀細工の文

化があるため、同社はペルー産の銀を用いることにこだわり、イヤリング、ネックレスな

どを製作・販売する。「タヤ」とはスペインによる征服前から使われているアイマラ語で、

空気や風を意味するという。また、「925」はスターリングシルバーの純度を指し、社名に

もこだわっている。同社は米国、ドイツ、イタリアなどに輸出しているほか、フランチャ

イズ方式によりチリに店舗を展開している。また、コロンビア進出も検討している。

ペルー輸出観光促進公社(Promperu)のトーレス輸出部長によると、観光と運輸を除い

たサービスの輸出は 2012 年に前年比 1 割増の 6 億 6,000 万ドルを見込む。輸出分野も広が

り、外食、調査・コンサルタント、建設などのエンジニアリング、コールセンター、ソフ

トウエア開発などに加え、3D アニメーション、健康サービス分野などでも新たな動きが期

待されるという。

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―― コロンビア ――

金融・保険大手グルーポ・スラ:M&Aで中南米 8ヵ国に進出

(参考 WEB:http://www.gruposuramericana.com/)

コロンビアの有力金融・保険企業グループのグルーポ・スラ(Grupo Sura)は、傘下に金融・保

険・事業部門の有力企業を擁し、2011 年にオランダ系大手金融・保険業 ING の中南米拠点を取

得するなど合併・買収(M&A)を通じ中南米 8 ヵ国に進出している。

<食品・セメント・保険企業がグループの中核>

グルーポ・スラの 2011 年の連結財務諸表によると、同グループの総資産は 32 兆 3,013

億ペソ(1 ペソ=約 0.04 円、前年比 41.0%増)、売上高は 9 兆 3,965 億ペソ(5.4%増)、純

利益が 3,398 億ペソ(50.5%減)だった。売上高の 79.2%が一般保険事業、次いで 12.1%

が医療保険事業で、両部門合計で 91.3%を占める。

連結従業員数は、2010 年の 7,152 人から 11 年に 1 万 5,639 人と約 2.2 倍になった(11

年はグルーポ・スラによるオランダ系金融・保険企業 ING の中南米拠点営業譲り受けに伴

う営業資産に従事する 6,743 人を含む)。12 年上半期の純利益は約 1 億 8,480 万ドル(前年

同期比約 2.1 倍)。

グルーポ・スラは、北部メデジン市で1921年に開業したチョコレート製造企業が母体で、

その後セメント製造のセメントス・アルゴス(1934 年)、保険のスルアメリカーナ・デ・セ

グロス(1945 年)を加え、グループ企業の基礎を形成した。1975 年以降、敵対的買収から

グループを保護するため、グループ内の中核企業間で株式を持ち合い(注)、90 年代に事業

拡張が顕著となった。2000 年代に入ると M&A を通じて戦略的事業展開を強力に進めた。

同社の事業は主に、事業投資(金融・保険・年金基金およびポートフォリオ投資)と戦

略的パートナーを通じた資産運用管理などだ。事業投資の金融・保険分野ではコロンビア

最大の保険企業スルアメリカーナ(Suramericana)の株式の 81.1%を保有し、国内最大の

金融機関バンコロンビア(Bancolombia)の株も 44.6%持つ(表 1 参照)。ポートフォリオ

投資では、インベルシオネス・アルゴス(Inversiones Argos)の 35.8%、グルーポ・ヌツ

レサ(Grupo Nutreza)の 35.2%を保有し、2011 年連結損益では株式投資による配当金・

持分法利益、投資再評価益を合計すると売上高の 5.8%を占め、グループの重要な収入源と

なっている。

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<オランダ系金融大手の営業拠点を取得し、さらに躍進>

グルーポ・スラが力を入れているのは、金融サービス、一般保険(生保・損保)、社会保

険(医療、労災)などだ。継続事業体として事業を進めるため、新規企業を興し、市場参

入し、当該市場での事業展開を拡大させ、グループ内の事業シナジー(相乗)効果を得る、

という事業サイクルを円滑に行うことを基本方針としている。このため、国内だけでなく

海外市場にも進出し、このサイクルを形成することが同社の社是となっている。

グルーポ・スラの海外投資基準は、a.対象市場の政治・社会・マクロ経済情勢の安定性、

b.グルーポ・スラのビジネス成長の期待度、c.対象市場でリーディング企業確立の可能性、

d.M&A による対象企業支配権獲得の可能性、e.グルーポ・スラの事業・環境・社会活動面

での高評価獲得の可能性、f.企業統治コンプライアンス基準の厳格度、g.健全な企業評価獲

得の可能性、などだ。これらの基準を満たした上で、チリ、コスタリカ、ドミニカ共和国、

エルサルバドル、メキシコ、パナマ、ペルー、ウルグアイなど中南米 8 ヵ国に投資した。

2011 年のグルーポ・スラ最大の実績は、世銀金融開発公社(IFC)、ボリバルグループ

(Bolivar Group)、バンコロンビア、ゼネラルアトランティック投資ファンド(General

Atlantic Investment Fund)と共同で、オランダ系金融・保険大手 ING が中南米 5 ヵ国(チ

リ、コロンビア、メキシコ、ペルー、ウルグアイ)に保有する年金・保険・投資ファンド

などの営業資産を 36 億 1,400 万ドルで取得したことだ(表 2 参照)。これによりグルーポ・

スラは、中南米の年金市場で最大のプレーヤーとしての地位を獲得し、さらにポートフォ

リオ投資でも有力金融市場への橋頭堡(ほ)を築いた。

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2011 年のグルーポ・スラの海外向け M&A 活動としてはこのほか、エルサルバドル最大

の年金ファンド AFP クレセール(AFP Crecer)の買収(1 億 300 万ドル、年金市場で 53.2%

を占める)、スルアメリカーナによるドミニカ共和国のプロセグーロス(PROSEGUROS)

の買収(2,350 万ドル、保険市場で 11%を占める)などもある。

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<2012 年も M&A を柱とした事業を推進>

グルーポ・スラの総帥ダビド・ボハニニ・ガルシア最高経営責任者(CEO)は、当地主

要紙誌の企業特集号に常に登場する人物だ。経済専門誌「ディネロ」の「コロンビア経済

界で最も影響力のある 100 人」の特集号(2012 年 6 月 22 日号)で、1 位がコロンビア最

大の金融・通信・不動産コングロマリットのアバル・グループ(Grupo Aval)の創設者、2

位がマスコミ・飲料大手コングロマリットのオルガニサシオン・アルディラ・ルージェ

(Organizacion Ardila Lulle)の創設者、3 位がコロンビア石油公社エコペトロール

(Ecopetrol)社長などに続いて、ボハニニ社長は 13 位にランクされた。

「ラ・レプブリカ」紙発行の「5,000 企業特集」(2012 年 4 月号)の中で、ボハニニ社長

は 2012 年の目標として、「(2011 年の大型投資を通じて獲得した)各市場での営業拡大、

顧客への新しいサービス提供、中南米市場でのリーダーシップ追求を目指す」と抱負を語

っている。その後、「ポルタフォリオ」紙(9 月 6 日)のインタビューで、「コロンビアの好

景気が当グループの活動源泉であり、2012 年は生保・年金投資基金分野での海外投資活動

に注力する。現在スーラ・アセット・マネジメント(Sura Asset Management)によるペ

ルー保険大手インビタ・セグーロス・デ・ビーダ(InVita Seguros de Vida)の株式の 70%

を取得するため、ペルー金融当局の認可待ちで、1 億 4,000 万ドル規模の投資となる。12

年の連結売り上げ収入を 15%増と見込んでいる」など、引き続き積極的な海外投資活動を

明らかにしている。

(注)中核 3 企業は、グルーポ・スラ(金融・保険)、グルーポ・ヌツレサ(調整食品)、

インベルシオネス・アルゴス(セメント、エネルギー)。

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―― ベネズエラ ――

ポラール:成長戦略を海外に見いだす食品大手ポラール

(参考 WEB:http://www.empresas-polar.com/)

ポラール(Empresa Polar)は 70 年以上の歴史を持つベネズエラ最大手の食品メーカーだ。国

内投資を中心に成長してきたが、近年外国への事業展開を加速させている。

<飲料、食品から生活雑貨まで手掛ける>

ポラールはアルコール飲料部門のセルベサ・ポラール、食料品・生活雑貨部門のアリメ

ント・ポラールそして清涼飲料部門のペプシコーラ・ベネズエラと、3 つの会社で構成され

るグループ企業。製造拠点は国内に 28、コロンビアと米国に各 1 ヵ所。コロンビアではト

ウモロコシ加工食品、オートミール、ペットフードなどを製造・販売しており、米国では

麦芽を使用した清涼飲料を製造している。2011 年に発行された同社の会社案内によると、

年間販売額はグループ全体で、石油を除く GDP の 3%、財政収入の 3.83%を占める。従業

員数はグループ全体で 3 万人を超え、国内労働人口の 1.3%が同社により雇用されている。

食品が主力だが、洗剤、せっけんなどの生活雑貨も製造販売しており、スーパーマーケ

ットでポラールの商品を買わずにレジを通ることは難しい。

<ペプシコなどとメキシコ事業を拡大>

ポラールは国内投資を中心に事業を拡大してきたが、近年は外国への投資が目立ってい

る。2011 年 7 月にゲウペック、ペプシコとメキシコで新会社設立を発表した。

新会社は、ペプシコの製品をメキシコで製造・販売する予定。既にゲウペックはメキシ

コでペプシコの製品の瓶詰めと販売を行っていたが、ポラールの経営参加により、販売網

拡大を目指す。

ペプシコはプレスリリースで、新会社の設立により、メキシコで 287 ヵ所の流通拠点と

95 万ヵ所の販売拠点に加えて、170 万世帯への宅配システムが構築されると発表。メキシ

コ全土に販売網ができると強調した。

新会社の設立時期は未定だが、ベネズエラでの報道によると、設立当初の出資比率はゲ

ウペックが全体の 51%、ポラールが 29%、ペプシコが 20%となる予定(「エルウニベルサ

ル」紙 2011 年 11 月 18 日)。

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<コロンビアではペットフードと食品分野に投資>

また、ポラールは 2010 年、11 年とコロンビアへの投資も発表している。10 年に 700 万

ドルを投じてペットフード工場を設立、年間 3 万トンのペットフードを生産し、コロンビ

アで 25%のシェアを目指すという。チリの「アメリカエコノミア」誌(2010 年 8 月 17 日)

によると、コロンビアのペットフード市場は年間 12万 4,000トンで、この 10年間に年率7%

で市場が拡大したとされる。

そして食品分野では 2011 年 9 月、アリメント・ポラール・コロンビアのホセ・アントニ

オ社長は、コロンビアでの売上高を 3 年間で 2 倍にするため 5,000 万ドルの投資を行うと

発表した。ポラールのコロンビア進出は 1996 年。主力商品のトウモロコシ粉のシェアは同

国で既に 45%近くに達しており、今後さらに新商品を投入する予定。11 年の売上高は前年

比 15%増の 1 億 2,000 万ドルと想定される(11 年の最終売上高は未発表)。

<スペイン企業レチェパスクアルと共同でヨーグルト工場を建設>

国内では海外企業との共同事業にも積極的な姿勢を見せている。同社は 2010 年 11 月に、

スペインのレチェパスクアルグループと共同でベネズエラ国内にヨーグルト工場を建設す

ると発表。2012 年 11 月 21 日に共同出資会社パスクアルアンディーノの工場稼働を開始し

た。レチェパスクアルはポラールがベネズエラに持つ販売網を活用し消費市場開拓を目指

す。他方、ポラールはレチェパスクアルが持つ賞味期限の長いヨーグルト製造技術の導入

が可能になると両者の思惑が合致した形だ。

ポラールのメンドーサ社長はこの会社の設立により現在ベネズエラで販売されている他

のヨーグルトよりも 20%安い価格で提供できるようになるだろうと発表した。また、120

人の直接雇用が生まれ、600 人の間接雇用が創出されることを強調した。

2011 年時点で全国にセルベサ・ポラールは 96 の販売拠点と 8 の製造拠点を有している。

アリメント・ポラールは 49 の販売拠点と 13 の製造拠点、ペプシコーラ・ベネズエラは 46

の販売拠点と 7 の瓶詰拠点を持っている。ポラールはベネズエラの食品市場を開拓するの

に最も有望な企業と考えられるだろう。

ベネズエラでは法律によって生活必需品の価格が固定されており、大きな利益を挙げる

のは困難な状況にある。国内市場におけるビジネスの難しさを前に、外国企業と協力し商

品力の向上をはかり、さらに海外市場に打って出る同社の試みは注目に値する。

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「中南米の国際企業(トランスラティーナス)」

2012 年 12 月発行

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