特別講演 ビッグデータ活用でイノベーションを起こすには ·...

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[特別講演] ビッグデータ活用でイノベーションを起こすには 稲田 修一 東京大学 先端科学技術研究センター あらまし 技術起点のイノベーションに加え、ユーザ起点のイノベーションを推進する必要性が 指摘されている。顧客やマーケットの動き、モノ・人・社会の動きをダイナミックに把握し、分 析・活用することで、イノベーションを推進することができるからである。この要の役割の一つ を果たすのがビッグデータ活用であり、この優劣が競争力を左右する。講演では、このビッグデ ータ活用を価値創造に結び付ける考え方と具体例について述べる。 キーワード ビッグデータ、ユーザ起点イノベーション、価値創造、知識、マネジメント 本文 現在は新しい技術の探求だけでなく、技術 の新しい活用領域の発見、新しい技術や製品を 普及させる仕組みづくり、デザインやインタフ ェース、そしてビッグデータ活用といった幅広 い領域がイノベーションの源泉になっている。 このようにイノベーションの源泉が変化す る中で、ビッグデータ活用の大きな役割の一つ は顧客やマーケットの動き、モノ・ヒト・社会 の動きをダイナミックに把握し、それを知識と して活用し、ユーザ起点のイノベーションを推 進することである。 ビッグデータは、商品の企画・生産・マーケ ティング・流通・販売・消費・保守・運用、イ ンフラ管理・農業生産・健康管理/医療・教育 の高度化等あらゆる領域で活用可能であり、こ の活用の優劣が企業、そして国家の競争力に影 響を与え始めている。 このビッグデータを活用した価値創造につ いては、十分な考察が必要である。一般には、 顧客や社会が抱えている課題やニーズを踏ま え、センシング等によりデータを収集・集積し、 データの処理・分析によりこれを知識として活 用し、新たな価値創造に結びつける。この時に 重要なのは、それをどのような範囲で考えるか である。製品やサービスの改善、マーケティン グの精密化だけでなく、ビジネスプロセス変革 や新しいビジネスモデル創造に踏み込めば、よ り大きな価値が創造される可能性が高くなる。 さらにそれを社会変革につなげることができ れば、その価値は一層大きなものとなる。 価値創造を実現するに当たっては、3つの S と1つの M を意識する必要がある。SpeedScaleScope Management である。知識は 集積することで価値を増す。スピーディに多く の知識を集積するには、オープンイノベーショ ンを促進し、さまざまな人や組織から知識を集 める仕組みづくりが有効な場合がある。 また、異なる分野の知識を総合して考察する ことにより有益な結果が得られることもある。 マネジメントの決断も知識の集積に大きな影 響を与える。マネジメントがビッグデータ活用 の価値を十分に認識し、この活用を積極的に促 進することが必要不可欠である。

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Page 1: 特別講演 ビッグデータ活用でイノベーションを起こすには · ビッグデータ活用でイノベーションを起こすには 稲田 修一 東京大学 先端科学技術研究センター

[特別講演]

ビッグデータ活用でイノベーションを起こすには

稲田 修一

東京大学 先端科学技術研究センター

あらまし 技術起点のイノベーションに加え、ユーザ起点のイノベーションを推進する必要性が

指摘されている。顧客やマーケットの動き、モノ・人・社会の動きをダイナミックに把握し、分

析・活用することで、イノベーションを推進することができるからである。この要の役割の一つ

を果たすのがビッグデータ活用であり、この優劣が競争力を左右する。講演では、このビッグデ

ータ活用を価値創造に結び付ける考え方と具体例について述べる。

キーワード ビッグデータ、ユーザ起点イノベーション、価値創造、知識、マネジメント

本文

現在は新しい技術の探求だけでなく、技術

の新しい活用領域の発見、新しい技術や製品を

普及させる仕組みづくり、デザインやインタフ

ェース、そしてビッグデータ活用といった幅広

い領域がイノベーションの源泉になっている。

このようにイノベーションの源泉が変化す

る中で、ビッグデータ活用の大きな役割の一つ

は顧客やマーケットの動き、モノ・ヒト・社会

の動きをダイナミックに把握し、それを知識と

して活用し、ユーザ起点のイノベーションを推

進することである。

ビッグデータは、商品の企画・生産・マーケ

ティング・流通・販売・消費・保守・運用、イ

ンフラ管理・農業生産・健康管理/医療・教育

の高度化等あらゆる領域で活用可能であり、こ

の活用の優劣が企業、そして国家の競争力に影

響を与え始めている。

このビッグデータを活用した価値創造につ

いては、十分な考察が必要である。一般には、

顧客や社会が抱えている課題やニーズを踏ま

え、センシング等によりデータを収集・集積し、

データの処理・分析によりこれを知識として活

用し、新たな価値創造に結びつける。この時に

重要なのは、それをどのような範囲で考えるか

である。製品やサービスの改善、マーケティン

グの精密化だけでなく、ビジネスプロセス変革

や新しいビジネスモデル創造に踏み込めば、よ

り大きな価値が創造される可能性が高くなる。

さらにそれを社会変革につなげることができ

れば、その価値は一層大きなものとなる。

価値創造を実現するに当たっては、3つの S

と1つの M を意識する必要がある。Speed、

Scale、ScopeとManagementである。知識は

集積することで価値を増す。スピーディに多く

の知識を集積するには、オープンイノベーショ

ンを促進し、さまざまな人や組織から知識を集

める仕組みづくりが有効な場合がある。

また、異なる分野の知識を総合して考察する

ことにより有益な結果が得られることもある。

マネジメントの決断も知識の集積に大きな影

響を与える。マネジメントがビッグデータ活用

の価値を十分に認識し、この活用を積極的に促

進することが必要不可欠である。

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ビッグデータ活用で イノベーションを起こすには

2014年2月28日

東京大学 先端科学技術研究センター

特任教授 稲田 修一

(電子情報通信学会第4回SWIM研究会)

女優アンジェリーナ・ジョリーのケース

将来の乳がん予防のための乳房切除+乳房再建手術 - 彼女は、がん抑制遺伝子BRCAの変異遺伝子を持っており、

将来乳がんになる可能性は87%、卵巣がんは50%との診断

- 確率の高い乳がんの対策として、乳房切除を選択

※ 切除せずにこまめに検査し、早期発見で対応する方法もあり

【出典】2013年5月17日日本経済新聞電子版より

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遺伝子検査と遺伝子変異の影響に関する医療データ の蓄積により、病気になる確率が分かる時代に

病気になる前に予防という選択肢が可能な時代に

医療ビッグデータが医療ビジネスを革新

健康管理/医療とビッグデータ

欧米を中心に、健康管理/医療ビッグデータを活用し、生活習慣病などの分野で医療の主体を「治療」から「予防」に変える試みが始まっている。その背景は、

- 健康管理データ収集の容易化・低廉化、医療データの一元化

- 健康管理/医療ビッグデータを活用した診断支援の可能性の増大

- 新規参入者のビジネスモデル開拓による医療改革の進展

◆ これにより、①シニア世代の生活の質の改善、②増え続ける医療費の抑制を期待。

米国政策シンクタンクのヘリテージ財団は、40万人×4年間の医療データを公開し、翌年病気になり入院する人を予測するコンテストを実施(2011.4~2013.4)。グランプリ賞金は3百万ドル(約3億円)。

【出典】http://www.heritagehealthprize.com/c/hhp

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国民医療

費総額

(兆円)

国内総生

産(GDP)

(兆円)

年度

国内総生産(兆円)

国民医療費 総額(兆円)

国民医療 2001年度 31.1兆円 費総額 2011年度 38.6兆円 (+24.1%)

注: 厚生労働省報道発表資料 「平成23年度国民医療費の概要」 (平成25年11月14日)の統計数字に基づき作成

国民医療費総額と国内総生産の推移

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国内 2001年度 501.7兆円 総生産 2011年度 473.3兆円 (-5.7%)

イノベーションの概念は元々は広い

日本

- イノベーション = 技術革新

シュンペーター博士(オーストリア出身の経済学者、イノベーション論を確立)

- イノベーション = 新しい技術の発明だけでなく、新しい アイディアから社会的意義のある新しい価値を創造し、社会 的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い 変革(1911年)

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わが国のイノベーションの概念は狭すぎる。本来は、制度・経済的な枠組み構築、デザイン、インタフェース、人々の認識、データ活用などを含む広い概念。

(参考)二つのイノベーション

改良型イノベーション ⇒ 価値の実現 価値軸が明確で共有されている(自動車において、燃料の単位容量あたりの走行距離が長いのが善、短いのが悪、など)

既存の技術領域でベターな解を求めるアプローチ

必要な知識・スキルが連続的であることが多い

発見型イノベーション ⇒ 価値の発見 既存の価値軸にはない、新しい価値を見出だす

必要な知識・スキルが非連続であることが多い

その新しい価値は共有されていない

→多くの人がすぐに理解できるようなアウトプットでないことが多い

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最近の主なイノベーション例

技術の新しい活用領域の発見

Google グラフ理論 ⇒ 検索エンジン

アマゾン 行動履歴情報の分析 ⇒ ネット通販

社会変革のための仕組みづくり

EU 再生エネルギー促進指令

⇒ 再生エネルギー

斬新なデザイン・インタフェース

アップル ⇒ スマホ、タブレット

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イノベーションの起点の変化

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グローバルな環境変化の影響で「技術探求型イノベーション」に加え、「ユーザー起点イノベーション」が重要になっている。ビッグデータ活用は、これを推進する一つの手段。

【出典】経済産業省「フロンティア人材研究会報告書」(2012年3月)

ユーザ起点イノベーションの例

ワールプール(米国白物家電) 新しいアイデアを試すため、チームで市場に入り1か月間生活。各

大陸にCoEを設置し、現地ニーズに適した製品を開発等。

セールスフォース・ドットコム(米国営業支援・顧客管理アプリケーション)

企業向けソフトウェア・アプリケーションを「所有」からクラウド環境での「利用」に転換。

コマツ(建設機械) KOMTRAXというM2Mシステムを用いユーザ側における建設機械の稼働状況を把握。運用・保守サービスの高度化、効果的なマーケティング等に活用。建設工事等の自動化に発展中。

NTTドコモ(移動体通信サービス) 携帯電話契約者の位置情報等を統計情報として集計。防災、観光、都市計画などに活用。

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ビッグデータ活用とイノベーション

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ビッグデータ活用はイノベーションを推進。データの収集・分析によるモノ・人・社会の「見える化」がイノベーションの源泉。

その理由は、情報により人は「判断」や「行動」を変え、それが社会の変革に結び付く可能性があるから。

しかも、ビッグデータ活用の範囲は拡大。 課題発見 ⇒ 課題解決 部分最適 ⇒ 全体最適 過去分析 ⇒ 未来予測

このような動きの中で、ビッグデータ活用とデータ収集ツールであるセンサーやM2Mの重要性が増大。

人々の動線の把握と地域振興

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◆ 携帯電話の位置情報機能の活用により、時間ごとのエリア人口の推 移、人々の動線などの把握し、街づくり、観光振興などに活用可能。 ◆ 携帯/スマホの中のICカードを活用することも可能。

☆ 兵庫県豊岡市城崎温泉 ① 携帯/スマホ、ICカードによるデジタル外湯券の発行 ② 現金を持たずに外湯めぐりやショッピングが可能に

☆ 利用履歴の蓄積で温泉街の動線が明らかに ☆ 観光客の数、訪問場所などを時間ごとに数値化 ☆ イベントの効果や広告宣伝の効果が数値で把握可能 ☆ データの収集/活用で暗黙知が定量化された形式知に

街の賑わいや動線の把握

【出典】 城崎温泉観光協会ホームページ

ソーシャルメディアの活用と災害対応

NHKでは放送内容やツィートなどの情報をデータ分析し、報道に偏りが出ないよう、取材漏れの地域がないようにする取り組みなどを検討中。

しかし、災害対策関係機関においてデータの共用と活用をどうするかは今後の大きな課題。

【図の出典】NHK放送文化研究所 村上圭子専任研究員講演資料より 11

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ビッグデータの活用領域

コストとメリットに依存するが、あらゆる領域が有望。

- 商品の企画・生産・マーケティング・流通・販売・消費・

運用・保守

- エネルギー管理・都市管理・交通管理等の高度化

- 工場生産、建設・土木工事の効率化

- 建築物/構造物の保全

- 環境管理/災害防止

- 農業生産の高度化

- 健康管理/医療の高度化(生活習慣病等の予防、病気の早期

発見等)

- 教育の高度化

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ビッグデータ活用の価値はどこにあるのか

データ処理・ 分析・活用

データの収集

センシング

ネットワーク

プラットフォーム

アプリケーション

顧客や社会が 抱えている課題等

顧客や社会が抱えている課題や

ニーズを踏まえ、センシング等に

より必要なデータを収集。データ

の処理、分析によりこれを情報や

知識として活用し、新たな価値を

創造。

創造される 価値の大小

製品やサービスの改善 マーケティングの精密化 < ビジネスプロセスの変革

ビジネスモデルの創造 < 社会変革

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社会インフラ(橋梁)のモニタリング

加速度計

変位計 温度計

ひずみ計

橋梁にセンサーを取り付け、リアルタイム、継続的に橋の状態を監視。異常検知や経年劣化予測、保守計画の策定などに活用。車重・車種推定も行い、過積載車両の監視にも活用。【出典 NTTデータホームページ】 橋梁の安全性とデータの因果関係解明は今後の課題。なお、安全性の確保方策については、無人飛行体などロボット活用による動画撮影などの方法も検討されている。

・ひずみ ・振動 ・傾斜 ・移動

・異常検出 ・保全計画策定

収集するデータ

活用方法

東京ゲートブリッジ(恐竜橋)

橋梁モニタリングシステム

(図の出典)ICTを活用した街づくりとグローバル展開に関する懇談会 ICT街づくり推進部会(第5回) 14

M2Mシステムの発展動向とその効用

個別のM2Mシステムごとに、M2Mデバイス、ネットワーク、M2Mプラットフォーム、アプリケーションを構築する「垂直統合型」のシステム構築

⇒ M2Mに必要な機能(データ集積・分析、ユーザ管理、デ

バイス管理、課金、認証などを共通機能化し、一つのプ

ラットフォーム上にまとめた「水平展開型」のシステム構築

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各種M2Mシステム構築の迅速化、低コスト化 M2Mシステムの規模に応じたリソース確保の容易化と規模拡大に対する柔軟性確保

集積したデータの複数アプリケーションでの活用の容易化 エコシステムの構築による多くのプレイヤーの参画促進

これらの促進のため、oneM2Mを中心とした国際標準化活動

共通プラットフォーム構築によるM2Mシステムの水平展開

コアネットワーク

インフラ用サービスインタフェース 自動車用サービスインタフェース 医療用サービスインタフェース

電力 メータ

水道 メータ

ガス メータ

運送 トラック

電気 自動車

タクシー

血圧 センサー

介護 ベッド

ネットワーク 制御サーバ

サービス 管理サーバ

電力 水道 ガス 介護 医療 電気車 サービス

カー シェア

運輸 アプリケーション

共通M2Mプラットフォーム (サービス)

ゲートウェイ

デバイス

ゲートウェイ機能

3G、LTE、固定網 等

Bluetooth 宅内PLC 宅外PLC WiFi Zigbee

関連する通信規格

NFC

膨大な数のデバイスが接続されても安定した M2M通信を可能とするための通信制御技術

ビッグデータ 処理解析技術

セキュリティ対策/プライバシー保護技術

RFID ucode

(凡例) 技術的課題

インタフェース

インタフェース

さまざまなM2Mシステムを効率的に水平展開するため、アプリケーション、共通M2Mプラットフォーム(サービス)、コアネットワーク、ゲートウェイ/デバイスなどのレイヤ機能の充実、レイヤ間インタフェースの標準化が必要。

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でも、M2Mの標準化だけで十分なのだろうか?

数少ない分野の大規模システムと多くの分野の小規模システムの併存が予想される。

小規模システムであっても、利用者ごとにカスタマイズが必要な場合が多いと考えられる。

しかもデータ活用にはその集積が不可欠。

社会変革を推進する政策との同期 計測技術、評価手法・プロセスの開発・標準化等 小規模システムの効率的提供とカスタマイズの効率化等 ⇒ エコシステム活用と開発環境、提供環境の構築等 「断トツ」のアプリケーション、ツール、デバイス等の開発と提

供(他ベンダーへの提供を含む)(二番ではダメ!) 情報や知識の集積には、3つのSと1つのMが重要。 Speed Scale Scope Management

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M2Mシステムを活用するビジネスの特徴

戦略的取組が不可欠

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計測技術、評価手法・プロセスの標準化等の例

計測技術の開発・標準化の例

- 味覚センサーの開発と味覚の数値化

評価手法・プロセスの標準化の例

- Probabilistic diagnostic and prognostic system

(ProDAPS) for engine health management

- 世銀による道路路面の平坦性を評価するための世界共通

指標である国際ラフネス指数の作成

⇒ 車の走行時の加速度等の変化データの集積・分析に

よる路面性状の安価で簡易な評価を可能に

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Vehicle Intelligent Monitoring System (VIMS)

簡易で安価な路面性状評価システム

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鉛直加速度

応答

IRI (International Roughness Index)

加速度計

GPS

舗装路面

PC

普通走行

• 世界銀行により1986に提唱

• 乗り心地の定量的指標

• 道路プロジェクトの評価に利用され

ている.

【出典】 東京大学社会基盤学専攻 長山講師 日本学術振興会FICT10委員会 (2014.1.9)講演「社会基盤学の取り組みとセンシング技術の利用」より

Vehicle Intelligent Monitoring System (VIMS)

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コスト

精度

高性能検査車

目視点検

low high

low

high

VIMS 定量的で迅速

な評価

定量的 だが,高価,

時間を要する

定性的

【出典】 東京大学社会基盤学専攻 長山講師 日本学術振興会FICT10委員会 (2014.1.9)講演「社会基盤学の取り組みとセンシング技術の利用」より

エコシステムの例:EnOcean社

2001年起業、ミュンヘン市郊外(ドイツ)にある「バッテリー不要の無線発信技術」の会社。

技術を300社以上の企業に提供し、1000種類以上の製品が市場で販売されている。25万以上のビルで製品を利用。

主な応用製品は、ビルで用いられる照明スイッチ、空調制御機器、窓の開閉検知、動体センサー、ファクトリーオートメーション用スイッチなど。

非営利団体のEnOcean Allianceを2008年4月に設立。 EnOcean社技術の進歩と拡大を目的に活動。通信プロトコル部分(ISO/IEC 14543-3-10)と多数のアプリケーションプロファイルを作成し、異なる製品間のインターオペラビリティ確保を容易化。

開発支援環境を構築。⇒ ユーザ企業は、無線スイッチや無線モジュールの部分にエネルギーを注ぐことなく、本来の製品開発に集中することが可能。

ニッチ市場で独占的な地位を享受。

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保守・運用の高度化と製造業のサービス業化(コマツKOMTRAX)

GPSより位置情報を取得

建設機械の所在地、稼働状況などの情報を収集

サーバー 携帯電話基地局/通信衛星

GPS衛星

コマツ製の建設機械

情報を集積、分析

営業拠点

販売した建設機械の稼働状況などの情報

稼働状況などを元に営業等(情報の活用)

◆ 建設機械の所在地、車両の状態や稼働状況を知るため、センサーやGPS装置を取 り付け、携帯電話や通信衛星経由で情報をサーバーに収集、集積、分析、活用。これ により、①建設機械の故障原因推定の容易化、修理の迅速化 ②建設機械の盗難防 止 ③顧客側へのコスト削減提案 ④製品の需要動向予測 などを実現。 ◆ コマツがすごいのは、2001年に当時の坂根社長の判断でKOMTRAXを標準装備とし たこと。しかし、KOMTRAX搭載数が6万台を超えたのは2007年5月。2009年3月末が13 万台、2010年末が20万台、そして2013年3月末には30万台を超えている。

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農産物の単位面積当たり収穫量の比較 (オランダ vs 日本)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

トマト きゅうり なす

オラ

ンダ

日本

(単位:kg/10a)

注:国際連合食糧農業機関(FAO)の統計データベースの統計数字に基づき作成

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野菜の収穫量(2011年)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

1966 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006 2011

オラ

ンダ

日本

(年)

(単位:kg/10a)

トマトの単位面積当たり 収穫量の推移

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農業における経営管理の高度化

高度な農業経営の実施のため、経営方針と目標を設定。その実現に向け、さまざまなScopeから農業経営に必要なデータを収集、集積し、その活用により、生産管理やマーケティングを最適化。PDCAサイクル回しによる改善で目標を達成。

農業経営

衛星リモートセンシングデータ

航空リモートセンシングデータ

圃場センシングデータ

気象データ 各種マーケティングデータ 生産管理データ

農業経営の見える化及び最適化

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農地の大規模化 農作業のオートメーション

機械学習技術の適用領域

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機械学習技術はプラント管理等で活用され始めている。

プラント内に設置されたセンサーから微小震動などの 大量データを取得。機械学習などの技術により正常稼働 時の振る舞いモデルを自動的に導出。正常モデルとリア ルタイムデータの比較、過去の不具合事例の予兆データ などからプラントの異常予兆を監視・検知。⇒ 人間が 気付かなかったものもdeepに見て検出。安全性の向上に 貢献。

この機械学習の技術は、工場設備の故障検知、インフ ラの劣化検知、品質管理の精度向上、情報セキュリティ 対策などにも活用可能と考えられており、適用領域の拡 大に向けた検討がさまざまな企業で進められている。 (Scope Economy)

情報や知識の集積のために

情報や知識は集積することで価値を増す。したがって、「一極集中」する傾向。

スピーディに情報や知識を集積するには、ビジョンを示し、オープン化によりさまざまな人や組織から集めることが不可欠。異なる分野の情報や知識が有益な場合も多い。この実現には、経験と情熱とマネジメントの理解・支援が不可欠。

現在、企業においてもさまざまな取り組みを実施中。 ex. GE:オープン・イノベーション(ex. 75,000人のサイエンティス

トの組織化)

インダストリアル・インターネット構想。IoTによるデータ収集

+機械学習による分析をさまざまな業種に適用。それぞれの分

野でベストプラクティスを発見し、それを他分野にも適用等。

企業の枠にとらわれると、市場から退出の可能性。

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ビッグデータ利活用による今後のイノベーション例

一部データの取得ではなく、相当量データの取得によるイノベーション ⇒ マーケティング、政策評価等

※ 相当量のデータを集める仕組みがあれば、例えば、日々の経済の動き

が見える化、政策効果の定量的検証等がリアルタイムに可能となる。

取得データの精度向上によるイノベーション ⇒ 環境、災害防止、海洋資源保全(ex. 魚介類の資源量)等

※ センサーの数と性能の不足で精度が悪い。レーダーやセンサーの価格

破壊と性能向上が大きなブレイクスルーに。

センシングデータと診断技術のマリッジによるイノベーション ⇒ 建築物や構造物(橋、トンネル、道路、堤防等)の保全、健康管理/医療、教育等

※ 例えば構築物の保全では、現時点ではセンサーデータで安全性を判断

できるレベルに達していないが、これが判断できるようになれば安全性

が大幅にアップすると同時に建築や工事の検査手法が抜本的に変化。

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まとめに代えて

技術起点だけでなく、ビッグデータ活用を含む顧客・マーケット起点、モノ・人・社会起点のイノベーションを組織全体で推進する。

イノベーションに必要なリソースを幅広く集める。コアコンピ―タンス確保は重要であるが、自社リソース活用にこだわり、イノベーションを小さくとらえてはいけない。情報や知識はコアとなるリソース。

「価値」が何かを見極め、それをとる戦略を立てる。

予想される未来をストーリーとして書いてみる。魅力的なストーリーが書けただろうか?

失敗を恐れてはいけない。また、失敗にペナルティを課してもいけない。イノベーションの大半は失敗するが、イノベーションが起きない企業は衰退する。

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