第一話...5 魔拳のデイドリーマー 7 第一話 長女アクィラ、来訪...
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5 魔拳のデイドリーマー 7
第一話 長女アクィラ、来訪
港町『チャウラ』にて、なじみの面め
ん
々めん
や新あ
ら
たな知り合いと『幽ゆ
う
霊れい
船せん
』騒そ
う
動どう
に巻き込まれ
た僕ことミナト。
無事にほとんどの問題を解決できたんだけど、ある日僕らが滞た
い
在ざい
している漁
りょう
師し
宿やど
に、一
人の客人が現れた。ふらっと立ち寄ることは絶対にありえなさそうな……超ビッグネーム
の女性だ。
『魔法大臣』――この国、ネスティア王国における魔法部門のトップ。
魔法関連における膨ぼ
う
大だい
な知識と他の追つ
い
随ずい
を許さない卓た
く
越えつ
した魔法技能を有し、数々の偉い
大だい
な功こ
う
績せき
を挙あ
げた者のみが到と
う
達たつ
できる頂
ちょう
点てん
に君く
ん
臨りん
する、王国最強の魔法使いが、宿の部屋
で僕を待ち受けていたのだ。
……見た目からはそう思えないんだけども。
「んー、面お
も
影かげ
はまあ、あるといえばありますけど……そんなに似てないですね、お母様には」
今現在、至し
近きん
距離で僕の顔を覗の
ぞ
き込んでいる彼女の名は、アクィラ・ヨーウィー。
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67 魔拳のデイドリーマー 7
「というか、珍しいね。ミナト君が積極的に仲間にしたがるなんてさ」
姉さんに続いてそう言ったのは情報屋のザリー。ああ、確かにそうかも。
ザリーをはじめ、冒険者のシェリーさんも奴ど
隷れい
だったナナさんも、いつのまにか仲良く
なってた。その後で向こうからアプローチしてきて……って感じ。断こ
とわる
理由も無いし僕も
嬉しかったから、受け入れて仲間になったのだ。
確かに言われてみれば、今回はなんだか逆っぽく思える。
ミュウちゃんは遠え
ん
慮りょ
したいって言ってるけど、僕が積極的に勧か
ん
誘ゆう
してる……って感じ。
宿で仲良くなって、大一番の海上決戦では力を合わせた術じ
ゅつ
を使って、アイデアを出し
合って共
きょう
闘とう
して……何かもう、感覚的には半分仲間みたく思ってたのかも。
あのまま自然解散となったなら、僕も何も言わずに別れたと思うんだけど、ミュウちゃ
ん自身が仲間になることに前向きだと知って、欲が出たのかもしれない。
なかなか気を許せる人がいないこの業界。気が合う友達ってのは貴き
重ちょうだ
し、できれば近
くにいていつも一緒に笑っていたいと、最近よく思う。
一方的な感情ならともかく、相手も多少なりともそう思ってくれてるなら、なおさらだ。
「ふぅん……ミナト君って、初めて会った頃より積極的になった、かな?」
ザリーの言葉にシェリーさんが応じる。
「みたいね。ふふっ。でもやっぱり、ミナト君くらい優秀な男は、そのくらいがちょうど
先に説明した通り、ネスティア王国の魔法大臣にして『燻く
ん
天てん
のアクィラ』の通称で知ら
れる、超一流の魔法使いだ。
そして同時に、キャドリーユ家『長女』、つまり僕の一番上の姉でもある。
確かにノエル姉さんに似た……奥深さでいえばノエル姉さんすら超こ
える、実力者特有の
圧力というか、存在感みたいなものがある。
……しかし、さっきからの言動が全す
べ
てを台だ
い
無な
しにしていた。
人んち(宿だけど)に来るなり居い
眠ねむ
りするわ、自己紹介もそこそこに世間話を始めるわ、
何の前ま
え
触ぶ
れもなく唐と
う
突とつ
に人の顔を凝
ぎょう
視し
するわ……何、この状況?
何やら僕に用事があって来たらしいんだけど、今はクリーム色の髪をした少女、ミュウ
ちゃんに興
きょう
味み
津しん
々しん
だった。
ミュウちゃんをパッと見で僕の新しい仲間だと判断した姉さんに対し、ミュウちゃん自
身が「私なんかが無理ですよ」とやや自じ
虐ぎゃく
的に否定したところ、意外そうな顔をされた。
「そうなんですか?
仲もよいようですし、てっきり新しいお仲間かと」
「そうだったら嬉う
れ
しいんだけどね」
「そうなれたら嬉しいのですがね」
一いっ
緒しょ
に答える僕とミュウちゃん。
「……意見が一致しているのに仲間にならないのが、まず不思議ですね」
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89 魔拳のデイドリーマー 7
ザリーとナナさんの援え
ん
護ご
射しゃ
撃げき
も受けて、エルクはきっぱりそう言い切った。
そんな自信たっぷりの宣せ
ん
言げん
に、ミュウちゃんはしばし唖あ
然ぜん
とする。
少し時間をかけて言葉の意味を咀そ
嚼しゃくし
呑の
み込んだ後、ゆっくりと周りを、仲良くなった
僕らを見渡し、ちょっと困ったような表情を浮かべた。
「そこまで言われると……私もちょっと、欲に負けそうになってしまいます」
おっ、揺ゆ
らいでる?
「困りました。そこまで言ってもらえるのなら首を縦た
て
に振りたいのが本ほ
ん
音ね
ですが、仲間に
なっても足を引っ張るだけ、というのは目に見えていますし……」
「『今は』でしょ?
それ。だったら、これから訓練でも何でもすればいいじゃない。ミュ
ウちゃん才能あるし、きっと伸びると思うよ?」
ミュウちゃんは鍛き
た
えれば強くなると言ったのは、正
しょう
真しん
正しょう
銘めい
の本音だからね。
「……それも、打算的な『思いつき』ですか?」
「かもね。エルク風に言うならだけど」
「私も実際そんな感じだったしね。信じられる?
実は私、五ヶ月前までEランクだった
のよ?
こいつに関わったせいで、こうなっちゃったけどね」
エルクが自分を指ゆ
び
差さ
して自じ
虐ぎゃく(
?)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の
三くらいまで開いて、驚いていた。
いいわよね。もうちょっと欲よ
く
張ば
ってがっついてもいいくらいよ」
「すぐそういう、甲か
斐い
性しょうと
かに結む
す
びつけるのはどうかと思いますが……まあ親しい人に、
無用な遠え
ん
慮りょ
をしなくなってきたのは嬉しいですね、私としても」
ナナさんにまでそう言われ、僕はため息をつく。
「それぞれ好き勝手言ってくれるなーもー。エルクも同じ感じ?」
「んー、私は別に、驚きも喜びもしないわよ。他人に迷惑かからない程度に、あんたが欲
望に忠
ちゅう
実じつ
だってことは、もともと知ってたしね」
もっとも古い付き合いとなるエルクが、横目でミュウちゃんを見た。
「あんたがこの子……ミュウを仲間にしたいって思ったんなら、ちゃんと理由もあるんで
しょ。変な言い回しだけど、あんたの『思いつき』は単なる『気まぐれ』とは違う。少な
くとも私達とこの子、どっちかには有ゆ
う
益えき
なはずよ」
「あ、それには僕も同感だね。ミナト君、仲良くする人はきちんと選ぶし」
「確かに。相手がいくらかわいくても、真ま
面じ
目め
で一い
っ
生しょう
懸けん
命めい
でも、有益でない相手とは付き
合いませんし……その逆も然し
か
り、って感じですし」
「そゆこと。結局のところこいつは、単純な思いつきで行動してるように見えて、実は結
構打だ
算さん
的なのよ。そのミナトのお眼め
鏡がね
に適か
な
ったんなら、ミュウと私達がこれからも付き合っ
てくのは、決して損そ
ん
じゃないと思うわ」
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1011 魔拳のデイドリーマー 7
ンバー全員が『あー……』って感じの顔になる。
僕らの『特訓』を見たことがあったら、ミュウちゃんもこの意味がわかったかもね。
黙だま
って話を聞いていたアクィラ姉さんは、おそらくノエル姉さんかブルース兄さんあた
りから僕の発明癖ぐ
せ
を聞いてたのだろう、『あらあら』みたいな顔。
もっとも、エルクの懸け
念ねん
は当たりなんだけどね。自分で言うのもなんだけど。
実際ミュウちゃんを仲間にしたい理由のひとつは、彼女ら『ケルビム族』が使う異質な
魔法技能の数々である。
普通の魔法使いも使う『金か
な
縛しば
り』や『浄
じょう
化か
』なんてものもあれば、他に類る
い
を見ない『未
来予知』や『変身』、
果ては色々と試た
め
したいことが多すぎる『召
しょう
喚かん
術じゅつ』
なんてものまで……
いかん、すでに頭の中が暴走気味だ。
ミュウちゃん自身と一緒に、学術的にも謎な
ぞ
が多いらしいその召喚技能を磨み
が
き上げ、鍛え
上げ、研と
ぎ澄す
ませていく……ああ、なんて魅み
力りょく
的てき
で有ゆ
う
意い
義ぎ
になりそうな予感!
「ちょっとあんた、すでに目が危あ
ぶ
ない!
あの、アクィラさん?
いらしていただいた早々
に申し訳ないんですけど、お姉さんとしてこいつ叱し
か
っていただけませんか?
私達じゃ何
を言っても暖の
れん簾
に腕う
で
押お
しなんです!」
早くも僕の心の内を察さ
っ
知ち
した我エ
ル
クが嫁が、この中で一番僕を止められそうな一ア
ク
ィ
ラ
番上の姉に
懇こん
願がん
するも……。
そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐と
う
突とつ
に僕にジト目を向ける。
「ただまあ、不安要素があるとすれば……それもミナト、なんだけどね」
「っていうと?」
「聞いた話じゃ、ミュウちゃんって亜あ
人じん
の希き
少しょう
種しゅ
なんでしょ?
それも、特殊な魔法をい
くつも使いこなせる。そんな相手を前にして、果たしてこいつが好奇心を暴ぼ
う
走そう
させないよ
うに我が
慢まん
できるか、ってことよ」
「え?
いや、別に我慢するつもりはなかったけど」
「ないんかいっ!!!」
びしっと、いい角度でエルクの手刀が僕の脳の
う
天てん
に直撃した。
「……あのー?」
「ったくやっぱりかコイツは。あー、ミュウ?
さっきは仲間になるよう言っといてなん
だけどさ、ちょっと待って。事前にこのバカに念入りに言い聞かせとかないと、ミュウが
すぐにこいつの毒ど
く
牙が
にかかっちゃう可能性が非常に高いわ」
「おや?
お兄さんもしかして……割わ
り
と肉食系で?
身内には遠え
ん
慮りょ
ないとか?」
「いや、いっそそうだったら、まだやんちゃとか健け
ん
全ぜん
とかいうセリフで説明できる分、よ
かったかもしれないんだけど……」
その説明に、意味がわからないっぽいミュウちゃんが首をかしげ、それ以外のチームメ
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1213 魔拳のデイドリーマー 7
「あらあら、生き生きしちゃってミナトったら。さっきは似てないなんて思っちゃったけ
ど、よくよく考えればこのはしゃぎよう、獲え
物もの
を見つけたときのお母様にそっくり」
「……何だか今さらになって、別な不安を感じますね」
慌あわ
てふためくエルクを見てか、額ひ
たいに
でっかいマンガ汗を浮かべるミュウちゃん。それを
尻しり
目め
に、僕のテンションはどんどん上がっていった。
すると、唐と
う
突とつ
に姉さんが何か思いついたように、僕からミュウちゃんに視線を移す。
「まあ、こんなわけですのでミュウちゃん……どうでしょう?
お試し的な意味ででも結
構ですし、うちの愚ぐ
弟てい
と少し行動を共にしてみては?
おそらく損になることはありませ
んし……今ならもうひとつ、あなたにとって好都合なことがあるかもしれませんよ?」
「と、言いますと?」
好都合な点?
ミュウちゃんに対して?
何だろう。
姉さんは僕らからの疑問の視線を受け、再び僕を見た。
「ええとですね、盛せ
い
大だい
に脱だ
っ
線せん
したせいで忘れていたんですが……私、あなたに用があった
んですよ、ミナト。それをまず話さないといけませんね」
ようやく本題らしい。
「ええと、どこだったか……あったあった、これこれ。ミナト、あなたにコレを届と
ど
けて、
返事を聞くために私が来たんですよ」
「あらあら、ごめんなさいねエルクさん、うちの弟が。ミナト、あなたの性格はブルース
から聞いていますから、彼女の能力に興味が尽つ
きないのは仕方ないでしょう。でも、やり
すぎて周りを困らせてはいけませんよ?」
「わかってるよ姉さん……ところでさ、召喚術って確か、死にかけの魔物とか精せ
い
霊れい
と『契
約』すると、使えるようになるんだよね?
姉さんわかる?
あと、この近くに強そうだっ
たり、面お
も
白しろ
そうな魔物が出るところとか知らない?」
「舌の根も乾か
わ
かないうちにあんたねえ!!」
「召喚術ですか?
それなら私に聞かずとも、あなたが持ってる『ネクロノミコン』にも
詳くわ
しいことが書いてあると思いますよ?
それと面白い魔物なら、ここから東に三十キロ
ほど行ったところに、最近確か……」
「アクィラさんも!
なんで答えて火に油を注そ
そ
ごうとしてるんですか!?
こいつにそうい
う情報教えると危ないから止や
め……」
「そっか、そんなのもいるんだ(ガリガリガリ!)。じゃあやっぱり最初に(ガリガリ!)
手つけるなら『召喚術』かなー。応用も利き
きそうな(ガリガリガリガリ!!)感じだし……」
「あんた、どっから出したそのペンとノート!?
しかもそれ、あんた愛用の、オリジナル
魔法考案用ネタノートじゃないのよ!?
ってわあああ!?
すでに二、三個、ミュウ用の魔
法のアイデア書きなぐられてるし!
まさかのもう手遅れ!?」
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1415 魔拳のデイドリーマー 7
下記日程において、一度会談の場を設もう
けたい。
了りょう
承しょうの
場合は、この手紙を持ってきた使者にその旨むね
を伝えた上、王都ネフリムへ来られ
たし。
なお、かかる経費は全てこちらで負ふ
担たん
するものとする。
アーバレオン・ネストラクタス
ドレーク・ルーテルス』
見ようによってはちょっと偉え
ら
そうな――いや、実際に偉いんだろうけど――文面。そ
の最後には二人分の連名が。判は
ん
子こ
まで押してあるし。
ドレーク……一番上の兄さんはわかるけど、一緒に名前が書いてあるこの人、誰?
僕が聞こうとしたら、それよりも早く、僕の後う
し
ろから手紙を覗の
ぞ
き込み、珍め
ずらし
く驚きと動ど
う
揺よう
を前面に出したザリーが、声を震わせた。
「あ、あの……アクィラ、さん?」
「はい?」
「えっと……僕の記憶が正た
だ
しければ、この、ミナト君のお兄さんの上に書かれてる名前……」
一いっ
拍ぱく
。
「……ネスティア王国の、現国王様じゃ?」
姉さんは手て
提さ
げカバンから、手紙と思お
ぼ
しき封ふ
う
筒とう
をひとつ取り出した。
上品な白色の封筒だ。いわゆる『封ふ
う
蝋ろう
』って奴で封ふ
う
をしてあるあたりが、なんだか高級
かつ、ファンタジーちっくな感じがする。
そしてもうひとつ、封の部分に、何やら金色の紋も
ん
章しょうみ
たいなものが……。
それを見た瞬間、視界の端は
し
にいたナナさんがぎょっとしたのが見えた。えっ、何そのリ
アクション?
どういう意味?
何がわかったの?
その答えは、ナナさんが口を開くよりも早く、アクィラ姉さんによってもたらされた。
「あなたへの『召
しょう
喚かん
状じょう』
です、ミナト。近いうちに、王都に来るように……と」
「……『召喚状』?」
「ええ。さ、どうぞ開けてください。姉さん、返事をもらって帰らなきゃいけないですから」
姉さんに急せ
かされ、言われるままに開ける僕。
するとその中には、ふたつ折りにされた手紙が入っていた。
細かくて美び
麗れい
な模も
様よう
が描え
が
かれている(印刷かな?)、一発で高級品とわかるその便び
ん
箋せん
には、
黒いインクで用件が簡か
ん
潔けつ
に書かれていた。
『ミナト・キャドリーユ殿
突然の通達になることをお許し願いたい。
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1617 魔拳のデイドリーマー 7
な大物が唐突に現れるこのパターンは、どうにかならないもんかね。
いや、今回は厳げ
ん
密みつ
に言えば、一応準備期間はあるのか。王様に会うまでに。
「これってさ……実質強制だよね?」
断るって選択肢が最初から無い気がするんだ。一国のトップが、わざわざこんな書面ま
で用意してんのに……断れるはずないじゃん、僕みたいな一市民が。
「そうですね。まあ、断ろうと思えば断れますが、心し
ん
証しょうが
ちょっと悪くなっちゃうかもで
す。お母様ぐらいの戦せ
ん
功こう
と実力があれば、その辺は力
ちから
尽ず
くで無視できちゃうんですけど」
ってことはあの人は断ってたんかい。相あ
い
変か
わらず底そ
こ
知し
れない人だ……。
「はぁ……わかったよ、行くよ」
「はい、そう伝えますね。日程はその手紙の通り、今から一ヶ月後ですので、準備はその
間にお願いします」
「はいはい……でも姉さん。いくら僕が母さんの身内だからって、わざわざ王都に呼んで、
王様自み
ずから
が面会するなんてことあるの?」
まあその他に、王国軍の総帥の弟、っていう肩か
た
書が
きも一応あるけどさ。
それに、母さんの『身内』ってムダに多いはずなんだけど、もしかして全員呼んでるのかな?
「そうですね。まあ確かに、お母様の身内だから、というだけの理由ではないでしょうけ
ど……注目されるのは仕方ないと思いますよ?
そのお母様だって、冒険者になって半年
……゙え!?
ちょ……何それ!?
マジ!?
それってつまり、僕がこの国の王様に呼び出し食らったってこと!?
なんで!?
「国王陛へ
い
下か
と、騎士団総そ
う
帥すい『
天てん
戟げき
のドレーク』連名の手紙って、私でも見たことありませんよ」
ナナさんまでそんなことを。
ていうか、だからマジなんで!?
長男であるドレーク兄さんが、会っておきたいという理由で僕を呼ぶならわかるけど、
なぜ一い
ち
市し
民みん
を国のトップが呼び出すの!?
「もしかして……また母さんがらみ?」
「まあ、率そ
っ
直ちょくに
言えばそうですね。リリンお母様のチーム『女じ
ょ
楼ろう
蜘ぐ
蛛も
』は、この国でも多
くの武ぶ
勇ゆう
伝でん
を残してらっしゃいますから。中には、一部の権力者が必死になって隠か
く
してる
話もいくつか」
「またっすか……」
ギルドマスターのアイリーンさんという前例があるから、まさかと思って聞いてみたら、
ドンピシャだったよ。
尊そん
敬けい
はしてるけど、つくづく面め
ん
倒どう
事ごと
を呼び込むな……母さんの身内っていう立場は。
そのおかげで助かってることも多々あるから文句は無いんだけど……いつもいつも色ん
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1819 魔拳のデイドリーマー 7
軍人時代は雲の上の上司だったんだろうし、無理ないけど。
しかしなるほど。自身も元貴族であり『直属騎士団』として日常的に貴族と接していた
ナナさんは、そういう面にも明るいのか。こりゃ頼りがいがある。
「まあ、そういうわけですから。観光するくらいの気持ちで来るといいですよ」
「観光って……王都の中だけならまだしも、お城までそんな気で行っちゃダメでしょ」
「そんなことはないですよ?
お城の中には、見たことがないものもあるでしょうし。亜
人の兵士だとか、騎き
獣じゅうと
して飼し
育いく
してる珍め
ずらし
い魔物だとか、色々いますから」
聞けば、種族で差別しない基本方針に加え、人材に多様性を持たせてあらゆる状況に即
時対応できる軍隊を作る、っていう方針が国にあるらしい。
純じゅん
粋すい
な人間が一番多いとはいえ、『獣人』『ドワーフ』『マーマン』『エルフ』、さらには『古
代種族』なんかも混ま
じってるらしい。豪ご
う
華か
だな、そりゃ。
説明している最中、ふと姉さんが『あ』と気づいたような顔になった。
「まあでも、さすがに男の『夢サ
キュバス魔
』はいませんね。その意味では、もしかしたらミナトは
興味を引かれて、軍に誘さ
そ
われるかもしれません。もちろん形式的にですけど」
「え?」
複数の人間の口から、そんな疑問の声が出た。
何だと思って視線を上げると、ザリー、シェリーさん、ナナさん、ミュウちゃんの四人
経た
たずにAAAランクになるなんて滅め
茶ちゃ
苦く
茶ちゃ
な経歴、持ってませんでしたし」
「あ、なるほど。まさかとは思うけど……強制的に冒険者を辞や
めさせられて、軍に入れら
れたりなんてこと、ないよね?
さすがに嫌い
や
なんだけど」
「その点は大丈夫でしょう。陛下は寛か
ん
大だい
な方ですから、そのような横お
う
暴ぼう
はなさいません。
ましてやお母様の身内に対して、反感を買うようなことは極力避さ
けるでしょう。だからと
いって下し
た
手て
に出たり、腫は
れ物も
の
扱あつかい
はしないでしょうけれど」
「あ、よかった。それを聞いて安心した」
「ただ……」
ただ?
「貴族の中には、そういうことを考える人達も多少なりいます。そこは注意が必要かもし
れませんね。そのあたりの対応は……」
そこで姉さんは、ナナさんに視線を向けた。
「彼女に聞けばいいでしょう。遅くなりましたが、お久しぶりですね、シェリンクス元副隊長」
「は、はいっ。ご、ご記憶いただけているとは光栄です、大臣!」
「ふふっ、そのように緊き
ん
張ちょうな
さらないでください。ご覧ら
ん
の通り、少々世せ
間けん
知し
らずで頼た
よ
りな
い弟ですから、よろしくお願いしますね」
にこっと笑って穏お
だ
やかに言う姉さんとは対照的に、ナナさんはガチガチだった。まあ、
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2021 魔拳のデイドリーマー 7
が、きょとんとした表情でこっちを見つめている。
何だろ、その目……って、ああ、そうだ。
僕、エルク以外に話してなかったんだっけ。僕が突然変へ
ん
異い
の『雄お
す
の夢サ
キュバス魔
』だって。
「ああ、ごめん。実は……」
かくかくしかじか。
「へー、そうだったんだ?
知らなかったよ」
「まあ確かに、進んで他人に話すようなことじゃないわね。私も『ネガエルフ』だって素す
性じょうを
隠してたし、それはわかるわ」
そんなことを言うザリーやシェリーさんに続き、ナナさんも口を開く。
「それを私達にも話してくれたってことは……その、秘密を打ち明けるくらいに信頼して
いただけた、ってことでいいんでしょうか?」
「いや、ごめん。話すの忘れてただけ」
「……あ、そう」
呆あき
れ顔になるシェリーさん。
「……気き
苦ぐ
労ろう
の多そうなチームですねー」
「慣れるわよ、じきに」
苦にが
笑わら
いのミュウちゃんに、そっとエルクがつぶやいた。
そんな力の抜ける会話の中で、僕が結果的にこの数ヶ月秘密にしていた新事実は、あっ
さりチームメンバー全員の知るところとなった。
にしてもさあ、とシェリーさん。
「私の村の伝で
ん
承しょうに
もあるけど……『夢サ
キュバス魔
』の男版って、要するに『淫
インキュバス
魔』よね?」
「かもね。実際は、夢サ
キュバス魔
の雄ってのは伝説だけの存在で実在しないっぽいけど。僕の場合、
ただの突然変異らしいし」
「だったらさあ……男とはいえ、いや男だからこそ、そんなお色い
ろ
気け
担当みたいな存在のミナ
ト君が、身近にこんな美女がいるのに手をつけないって、間違ってると思うのよ、やっぱり」
そんなシェリーに、すかさずエルクが突っ込む。
「あんたは結局そこに帰き
結けつ
すんのかい、この色ボケ女」
「何とでも言ってちょうだい。お義姉さま
4
4
4
4
4
はそのあたり、どうお考えかしら」
「あらあら、聞いてはいたけど、随ず
い
分ぶん
と積極的なんですね。色い
ろ
恋こい
沙ざ
汰た
は本人の自由ですか
ら、姉弟であれ口出しする気はありませんよ?」
姉さんはにっこりと笑いながらこっちに丸投げ。おいおい……ちょっとは助けてよ。
「まあ、元々『恋多き種族』ですからね。もしそういうことになっても、ある意味仕方な
いでしょう。お母様があんな感じですし」
あんな感じって、十一男十五女のことですね、わかります。
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2223 魔拳のデイドリーマー 7
わかりますけど、狙ね
ら
われている弟の現状を、「仕方ない」なんて言葉で片付けてほしく
ない今日この頃。
「……まあ、それだけじゃないんですけどね、夢サ
キュバス魔
の特異性
4
4
4
は」
「何か言った、姉さん?」
「いいえ、何も?」
何かぼそっと聞こえたような気がしたんだけど……気のせいかな?
結局その後、姉さんは世間話に花を咲さ
かせた後、おそらくは王都へ帰っていった。
会談に応じる、という僕の返事を持って。
あーもう、一い
ち
難なん
去ってまた一難、って感じだなあ。大仕事がひとつ終わったと思ったら、
今度は王様から呼び出しとは。何事もなく終わるといいんだけど……。
第二話 『邪じ
ゃ
香こう
猫ねこ
』の船出
幽霊船騒動が終
しゅう
息そく
してから、今日で二週間。
予定を大お
お
幅はば
に延の
ばして、僕らはここ『チャウラ』に滞在していた。
騒そう
動どう
のせいで一時採さ
い
集しゅうが
中断された『蒼そ
う
海かい
鉱こう
石せき
』を取り尽くすため……ってのもあるけ
ど、もうひとつ。
一応『お試し』ではあるけれど、新たに僕らのチームに加わることになったミュウちゃ
んの準備のため、時間が必要だったからだ。
漁師宿『マリアナ亭』の看か
ん
板ばん
娘むすめと
言っていいミュウちゃんである。店を、この町を出る
ということを残念がる人も多かった。
けど結局は、娘を送り出す親の心境なのか。かわいい子には旅をさせよ的な思考を経へ
て、
快こころよ
く送り出すことにしたようだった。
その際、「娘をよろしく頼む」だとか「うちの子を泣かせたら承知しないぞ」みたいな
ことを、結構な人数の漁師、海あ
女ま
さん達に言われた。ミュウちゃん、愛されてるなあ。
そんなわけで、かなり長めに準備期間があったので、通算一ヶ月ほどもチャウラに滞在
していたわけだ。
……そしてその間、僕はただ時間を潰つ
ぶ
していたわけではない。色々と、好きなように動
かせてもらった。
この一ヶ月弱の間にあったことは、僕の知的好奇心を刺し
激げき
してしょうがなかったんだ
よ……ふっふっふ……。
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2425 魔拳のデイドリーマー 7
☆☆☆
『ウォルカ』への帰き
還かん
をいよいよ翌日に控ひ
か
えたある日のこと。
『特訓』の場には、数日前からミュウちゃんも参加していた。
といっても、ミュウちゃんは本人の希望通り、基き
礎そ
的……つまりまともな魔法の訓練を
行っており、僕の『否4
常識魔法』(エルク命名)の練習はしてない。
してないけど、隣と
なりで
見てる。見学してる。
「……えーとですね」
「何?」
「エルクさんが、私をお兄さんの仲間にしたくないと考えた理由が、コレを見るとよーく
わかります……手遅れですけど」
「ね、言った通りだったでしょ……手遅れよ」
心なしか遠い目をしたミュウちゃんと、全身から『だから言ったのに……』的な空気を
漂ただよ
わせるエルクとの会話である。
その視線の先には……。
高熱の砂を地面にぶつける魔法で人じ
ん
為い
的てき
な『乾か
ん
燥そう
』を引き起こし、水分を根こそぎ奪う
ば
い
取って草木を枯か
らし、水み
ず
溜た
まりを干ひ
上あ
がらせるザリー。
斬ざん
撃げき
と同時に、その切り口に幾い
く
重え
もの炎を薔ば
薇ら
のように燃え上がらせ、的ま
と
にした木で
偶く
人
形を爆ば
く
破は
四し
散さん
させるシェリーさん。
超高圧で連れ
ん
射しゃ
した水の弾丸で、女性のウエストほどもある丸太を蜂は
ち
の巣す
にして、最終的
に『撃ち倒し』てしまうナナさん……といった面メ
ン
子ツ
がいたりする。
うんうん、順調だねみんな。僕発案の『否常識魔法』の訓練は。
こないだ、『蒼海鉱石』の品質チェックがてら様子を見に来たノエル姉さんが、この光
景を前に「ちょっと目ぇ離した隙す
き
に……ナナは何しとったんや!」って、かすれた声で言
いつつ膝ひ
ざ
から崩く
ず
れ落ちてたことからも、それがわかる。
いや、もうね。この『否常識魔法』の特訓は王都の兄さん達から警戒されるレベルになっ
ちゃってんだから、開き直っていけるとこまでいっちゃおうと思って。
近いうち、ミュウちゃんも多分ここに加わります。そこんとこよろしく。
「……さよなら、普通の冒険者人生」
エルクが切せ
つ
なげにつぶやいた言葉は、朝のさわやかな空気に溶と
けて消えた。
「ゆくゆくは私もああなるのかと思うと……って、お兄さん?
何してるんですか?」
遠い目で『特訓』を見ていたミュウちゃんだが、ふと、僕が持っているものに気付いた
らしい。
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2627 魔拳のデイドリーマー 7
隣のエルクが僕の手元を見て……納得した表情になる。僕が持っているものが何かと、
僕が何を考えているかを理解して。
先に言っておくと、ネタ帳ち
ょうと
いう名の魔改造ノートではない。
持っているのはふたつ。
ひとつは、この国『ネスティア王国』の地図。
王都『ネフリム』、冒険者ギルド本部がある大都市『ウォルカ』、今いる港町『チャウラ』、
かつて行ったことがある『ミネット』や『トロン』、さらには『真し
ん
紅く
の森』や『花の谷』
などなど。
それらの地名がきっちり示された丁て
い
寧ねい
な地図だ。
もうひとつは、数日前にスウラさんからもらった、最近の船せ
ん
舶ぱく
襲撃事件に関する軍の報
告書。原本じゃなく写う
つ
しだけど。
エルクは僕が眉み
間けん
にしわを寄せている理由を、数日前、エルクも一緒に行った『検け
ん
分ぶん
』
の記憶と結び付けて、きっちり理解した。
「……ミナト。やっぱ、気になる?」
「そりゃあね。もう多分この辺にいないってのはわかってるけど……それでも、さ」
ぱらぱらと資料をめくる僕は、その中の一い
っ
節せつ
に再度目を通す。
スウラさんが『幽霊船は複数いる』と推測するきっかけになった、襲撃状況をまとめた
部分。
僕が気になっているのは、魔物の襲撃が疑う
たがわ
れる、とされた報告だ。
『乗組員は全滅していたが、捕ほ
虜りょ
と思おぼ
しき女性数名が生存しており、話を聞くことに成功。
襲撃は夜や
間かん
だったためよく見えなかったが、襲撃者は大おお
柄がら
な黒い体で、黄色または金色
の刃物のようなもので海賊達を切り刻き
ざ
んだ。
噛か
みつき痕あと
が死体や船内の損そん
壊かい
部分に認められたことや、尻しっ
尾ぽ
の生は
えたトカゲのように
見えたという証言もあるため、襲撃は魔物の類
たぐい
によるものではないかと考えられる』
黒い大きなトカゲ。人間と見間違う二足歩行。
黄色または金色の刃物……おそらく爪つ
め
だ。
この時点で、僕の頭に浮かぶ魔物はひとつだけだ。
さらに最近、僕はこの予想を決定的に裏付ける経験をした。
あの晩……そう、アクィラ姉さんが訪た
ず
ねてきて色々と話したとき、帰り際ぎ
わ
の姉さんがさ
りげなく、しかしとんでもなく気になることを言ったのだ。
最近『ある魔物』が付ふ
近きん
で目撃された。そして、その魔物が一時期棲す
み処か
にしていたら
しい洞ど
う
窟くつ
も見つかった、と。
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2829 魔拳のデイドリーマー 7
それを聞いた僕は、翌日の早朝、姉さんから聞いた場所に行ってみた。
少し町から離れた、海岸沿ぞ
いにある洞窟だ。
おそらく、海から潮し
お
風かぜ
が吹き付けるからだろう。洞窟に残っていた『匂に
お
い』は、ひどく
希き
薄はく
なものだった。
が、それは間違いなく、記憶にあるものと一致する。
……僕の中で生まれた『嫌な予感』は、確信となった。
「……やっぱ生きてたか、あのトカゲ」
『ディアボロス亜あ
種しゅ
』。
忘れもしない、『花の谷』で戦った推す
い
定てい
ランクAAAの怪か
い
物ぶつ
。僕が生まれ育った樹じ
ゅ
海かい
を
出て最初に出会った、超のつくくらい『強敵』の魔物だ。
『ダークジョーカー』を発動した後は、一方的な戦いで勝利したとはいえ、そこまではほ
ぼ互ご
角かく
だった。
大型の魔物も一撃で殺せる僕の拳こ
ぶしを
受けて、平然と立ち上がって反撃してくるわ。
剣が刺さ
さらない僕の体でも、直撃したらタダじゃすまない威い
力りょくの
攻撃を、平然と、しか
も機械みたいな精せ
い
密みつ
さで繰く
り出すわ。
フェイントなんてものを使い、さらには戦闘中に僕が使った格闘技能を即座に学習して
体得する知能があるわで……とにかくとんでもない敵だった。
何度かヒヤッとさせられたし、手を抜いて戦える魔物でなかったのは間違いない。
そんな怪物が、この近くで最近目撃されたのだ。
地図を見るに、あの『花の谷』を流れる川の河か
口こう
が、ここからかなり東にある。
おそらく僕との戦いに敗や
ぶ
れたあのトカゲは、川に流され沿え
ん
岸がん
部ぶ
までやって来て、動ける
くらいに傷が回復するのを待ち、あの洞窟に棲す
み着いたんだろう。
船を襲撃したのは、多分その滞在中だ。海を散歩中に遭そ
う
遇ぐう
して、興味本位で乗り込んだ
ら攻撃されたので、遠慮なく全滅させたのかもしれない。
乗組員がアンデッドにならなかったのも、幽霊船ではなく、こいつに殺や
られたからだろう。
そして、体が万全、もしくはそれに近い状態になるのを待って、この地を去った。
洞窟の匂いの度合いや、姉さんに聞いた目撃情報の分ぶ
ん
布ぷ
からして、去ってからおそらく
一ヶ月ちょいってとこか。
ニアミスしてたのか……あの化け物と。おっそろしいな。
僕は地図片手に、あの化け物がどこに行ったのかと考えてたんだけど、行動パターンも
知らないのに、そんなことわかるわけもない。
正確な地理知識や方向感覚があるとは限らないし、そもそも、どこに現れたところで厄や
っ
介かい
なのは変わりない。
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3031 魔拳のデイドリーマー 7
もしまた僕らの目の前に現れたなら、戦闘は避けられないだろう。
「出くわしたら厄介よね……ミナト、何とかできそう?」
「まあ……多分」
ノエル姉さんとの修し
ゅ
業ぎょうで
、僕は強くなった。けど、油断なんてもんは絶対にできない。
忘れちゃだめだ。あの時のあいつは、まだ子供だったってことを。
何年も親の庇ひ
護ご
がなければ生きられない人間とは違う。野生動物や魔物の成長速度って
のは、想像を超えて凄す
さ
まじいものだ。
「っていうかあの魔物、前回戦ったときすでに推定AAAだったんでしょ?
どっちみち
ミナト以外は相手できないのよね……」
「まあ、遭遇したら僕が戦うつもりだけどさ」
できれば、出会いたくないけどもね……。
その後しばらく『訓練』を続けた後、少し休
きゅう
憩けい
を挟は
さ
んだとき、ふとザリーが尋ねてきた。
「そういえばさ、ミナト君。昨日の夜、シェーンちゃんとミュウちゃんと一緒に出かけた
よね?
あれ、どこ行ってたの?」
その会話が聞こえたのか、汗あ
せ
を拭ふ
いていた他のメンバーも興味深そうに集まってくる。
特に、シェリーさん。
「え、何々?
もしかして逢あ
い引び
き?
私達というものがいながら」
いつものようにエルクがため息をついた。
「あんたの思考はすぐそれか……で、どこ行ってたの?」
「んー、ちょっと海まで……ミュウちゃんを甘やかしに
4
4
4
4
4
」
「は?」
その瞬間、眉間にしわを寄せたエルクは、おそらく悟さ
と
ったのだろう。『あ、コイツ早速
何かやらかしたんじゃね?』と。
……結論から言おう、当たりである。
『召喚術』。
繰り返しになるが、今現在、僕が最も興味をそそられている不思議魔法である。
事前に『ネクロノミコン』で予習したところ、その概が
い
要よう
はこんな感じ。
契約によって魔物や精霊を使し
役えき
し、戦わせたり移動用に使ったりする、行こ
う
使し
そのものに
特殊な才能が必要な、極き
わ
めて特殊かつレアな魔法。
その『契約』には、二通りの方法がある。
まずひとつは、瀕ひ
ん
死し
の魔物に魔力を与えたり、魔力で仮の魂
たましいを
作るなどして死んだばか
りの魔物を蘇そ
生せい
させ、自分の僕し
もべと
して使役する絶対服ふ
く
従じゅうの
方法。
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3233 魔拳のデイドリーマー 7
知能の低い魔物を使役するときや、単に戦闘用の僕し
もべと
契約するときによく用も
ち
いられるほ
か、偶然死にかけの魔物を見つけたときにも使える。
欠点としては、魔物のポテンシャルにもよるけども、高い知能を保た
も
つことが難しく、複
雑な作戦を理解できない。
そしてもうひとつは、魔物や精霊に了承を得た上で協力関係を結ぶ、友好的な契約。
ある程度の知性を持つ魔物にしか使えないものの、戦闘用にせよそれ以外の場合にせよ、
高い知能を保持したまま使役できる。
欠点としては、自じ
我が
を保ったままであるがゆえに、前者の場合ほど絶対的に服ふ
く
従じゅうさ
せら
れないってことだ。実質、仲良くなって言うことを聞いてもらうしかない。
どちらも一い
っ
長ちょう
一いっ
短たん
。使い勝手の良さの種類が違う。
さて、なぜこんな話をしたかというと、さっきの「ミュウちゃんを甘やかしに」という
発言に関係がある。
甘やかす前の時点で、ミュウちゃんが使える召喚獣は二種類だった。
ひとつは小鳥型の魔物を四匹。戦闘能力は皆か
い
無む
。
で、もうひとつは犬型の魔物……中型犬くらいの大きさが一匹。
たまたま見つけた死にかけの小鳥型魔物と、シェーンが仕し
留と
めた直後の犬型魔物と『契
約』して、召喚獣にしたらしい。どちらも、絶対服従タイプの方法で。
そんなミュウちゃんを、昨き
のう日
、一お
ととい
昨日と僕は連つ
れ出した。
そして、エルクの予想というか懸念どおり、僕はやりすぎたらしい。
……そういや、前にエルクに言われたことあったっけ。自作の、すごいレベル(エルク
談)の魔法を、仲間とはいえ他人にぽんぽん譲ゆ
ず
り渡すのはどうなのか、と。
その時にエルクが、僕に対して述の
べた評価が、次のようなもの。
『敵に厳き
び
しく、他人に適て
き
当とう
。味方に優しく、身内に甘い』
うん、まさに至し
言げん
だと思う。
そしてその例に漏も
れず、今回僕がミュウちゃんを甘やかした結果どうなったかと言う
と……。
「えーと、『ネクロフィッシュ』に『スクウィード』、それに『アーマードクラム』……こ
いつらをどうしたって?」
「えっと、ちょっくら海に行ってハントして、召喚獣としてプレゼントしました」
「あんた……」
額ひたいに
手を添そ
えて呆れるエルク。
僕らの目の前には、新たに契約したそれら(いずれも絶対服従型の契約)の召喚獣を従
えたミュウちゃんがいた。
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3435 魔拳のデイドリーマー 7
彼女の右隣には、全長三メートルになろうかという巨大な二枚貝。楕だ
円えん
形で、ぱっと見
途と
轍てつ
もない強度、硬こ
う
度ど
だと思える甲こ
う
殻かく
をしている。
名前は『アーマードクラム』。移動はひどく鈍ど
ん
重じゅうだ
けども、土ど
石せき
流りゅうに
さらされても割わ
れ
ない殻か
ら
を持つ鉄て
っ
壁ぺき
の魔物だ。
……うん、戦ったらホント硬か
た
かった。てかC
クラム
lam
って……ハマグリかな?
左斜な
な
め後ろには、それより巨大なイカの魔物。
名前は『スクウィード』。大きさは五メートルにもなり、触
しょく
手しゅ
は伸し
ん
縮しゅく
性せい
がある。
これまた戦ったら厄介だった。リーチの長い手足が十本もある上に、イカ墨す
み
に魔力を混
ぜ込んだ砲ほ
う
弾だん
を飛ばしてきたし。
そしてミュウちゃんの周囲には、骨だけの魚がふよふよと数匹浮かんでいた。大きさは
アロワナくらいで、その口元から鋭す
るどい
牙きば
を何本も覗の
ぞ
かせている。
名前は『ネクロフィッシュ』。
瘴しょう
気き
に当てられたりして死んだ肉食魚の魔物がアンデッド化した存在だ。凶
きょう
暴ぼう
かつ雑ざ
っ
食しょく
で何でも食べ、水中に限らず空中も泳げる。
「……あんたはこいつらを、仲間になった記念にって、ミュウにプレゼントしたわけね?」
エルクがジト目を僕に向けてきた。
「うん。あの、ほら。自衛手段は多いほうがいいしさ。安全面からしても」
「うそつけ。面白くなって調子に乗ったんでしょどーせ」
「えっと……ちなみに補足しますと、三種類ともランクBの魔物ですね。このあたりの海
域で見られる魔物ではトップクラスの危険度じゃないかと。『ネクロフィッシュ』はこの
あたりにはいないはずですので、おそらく……」
と、ナナさんが説明してくれた。
「『幽霊船』の副産物、ってとこか……」
強力かつ殺さ
っ
傷しょう
力りょく
抜ばつ
群ぐん
の召喚獣を前に、唖然として固まるエルク達。ぼそぼそ交か
わされる
会話に力がないのが哀あ
わ
れだ。まあ、僕のせいなんだけど。
冒険者である僕らの『仲間』となる以上、危険なこともあるだろう。
なので、きっちり自分の身を守れるように、エルクやザリー、シェリーさんやナナさん
は『特訓』を重か
さ
ねて実力をつけ、僕オリジナルの魔法でパワーアップしている。
ミュウちゃんにもそれが必要だ。
模も
擬ぎ
戦せん
を交ま
じ
えて検け
ん
証しょうし
たところ、ミュウちゃんは意外に体力があった。持じ
久きゅう
力りょくも
瞬しゅん
発ぱつ
力りょく
も、下へ
手た
な成人男性より上のレベル。体が小さく身軽だからかも。
けど、冒険者としてやっていくには不安が多々あった。魔法も多少使えるけど実戦レベ
ルには程ほ
ど
遠とお
い。知識、経験の不足もあって……出会った当初のエルクより評価は低くなっ
てしまう。
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3637 魔拳のデイドリーマー 7
もちろん、地じ
道みち
な訓練をこの先も続けていくことで、基礎的な部分から魔法の地力を高
め、いつかはオリジナル魔法も進し
ん
呈てい
するつもりである。
兄さん達に睨に
ら
まれようとも、だ。もう割り切ったというか、開き直った。
しかし、当面の力不足はどうにかしなきゃいけない。
なので、いざってときに備そ
な
えるため、この辺で手に入る強力かつ使い勝手のよさそうな
魔物をプレゼントしたわけ。
選んだのは、防御力の高い壁役『アーマードクラム』、中~遠距離もお任ま
か
せの攻防一体
の援え
ん
護ご
係『スクウィード』、攻撃役の肉食アンデッド魚『ネクロフィッシュ』の三種類。
ちなみに『ネクロフィッシュ』は四匹契約した。
まあ、最終的にはミュウちゃん自身、こいつらの助けがほぼ必要なくなるくらいには強
くなると思うけどね。当てずっぽうじゃなく、ホントに。
『ネクロノミコン』でさらに調し
ら
べた結果わかったんだけど、『ケルビム族』は優秀な種族
であり、魔法が得意な代わりに肉体がひ弱なんてこともない。
魔力適性が最強ランクなのだから、前ぜ
ん
途と
有ゆう
望ぼう
なことこの上ないだろう。
ちなみにケルビム族は、その独特で神秘的な魔法を特別視され、地域によっては『呪じ
ゅ
術じゅつ
師し
』『巫み
女こ
』『仙せ
ん
人にん
』なんて呼ばれてたりもするそうだ。
このロリ仙人……もといちっちゃな新メンバーが、これからどういう風に成長するかは
想像できないけども、とにかく楽しみである。
……と、ここで終われたらまだ平和だったんだけど、実はもうひとつ、ミュウちゃんに
プレゼントした『召喚獣』がいた。
ただこいつはミュウちゃんの護ご
衛えい
用ではなく、僕の完全な興味本位。ミュウちゃんに頼
み込んで契約してもらっただけだ。
その魔物にはちょっと問題があって、よっぽどエルク達に怒られるんじゃないかと、僕
は恐
きょう
々きょうと
しているのである。
正直にそう話したら、エルク達は不安そうな顔をしつつも、確認しないわけにはいかな
いので、ミュウちゃんに召喚するよう頼む。
その際、僕はミュウちゃんと手を繋つ
な
ぎ『他者強化』の応用で魔力を分け与える。大量に。
実はこの魔物、契約できたはいいけど、いざ喚よ
び出すとなるとミュウちゃん単体の魔力
だけじゃ足た
りないのだ。
なので、こうして僕が協力しないといけない。
なんじゃそりゃ、って話だけども、彼女一人で『コレ』を喚よ
び出すシチュエーションは
そうそうないと思うので、まあいいとしよう。
僕の魔力も大量に使ってミュウちゃんが作り出した、直径数十メートルはありそうな魔
法陣の中から、魔物がその姿を徐じ
ょ
々じょ
に見せ始める。
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38
「……ミナト」
エルクの声は少し震えていた。
「何?」
「これなの?
契約した『魔物』って」
「うん。一応分類は『魔物』だからね」
「……そういや、そうだったわね」
「『契約』しとくと便利でしょ?
戦力にはならないけど、使い方次第では足代わりにも
なるかもしれないし。あと、なんとなくかっこいいし」
「なるほど、確かにそうね。あんたのセンスが多分に反映された『かっこいい』って評価
についてはコメントを避けるけど、契約理由には確かに一理あるかもしれないわ。でも……」
そこでエルクは一い
っ
拍ぱく
置いて、額に青あ
お
筋すじ
を浮かべた。
「だからって……だからって『幽霊船』そのものと契約して使役するバカがいるかぁぁあ
ああ!!」
一応魔物として『瀕ひ
ん
死し
』状態だった『オルトヘイム号』。
沈ちん
没ぼつ
地点まで行ってミュウちゃんに契約してもらった結果、大量の魔力消費によって喚
![Page 21: 第一話...5 魔拳のデイドリーマー 7 第一話 長女アクィラ、来訪 港町『チャウラ』にて、なじみの 面めん 々めん や 新あら たな知り合いと『](https://reader031.vdocuments.site/reader031/viewer/2022011923/605607c164fc1e354a0998c6/html5/thumbnails/21.jpg)
4041 魔拳のデイドリーマー 7
び出せるようになったその船体を視界の端は
し
に捉と
ら
えながら……僕はエルク渾こ
ん
身しん
の鉄ツ
ッコミ拳
で宙を
舞った。
ちなみに、相そ
う
続ぞく
権けん
を持ってそうなシェーンの許可は、ちゃんと取ってある。
あと、船内にあった人骨その他は、きちんと埋ま
い
葬そう
して弔と
むらい
ました。
シェーンの希望で、海がよく見える丘に、手作りだけど墓ぼ
標ひょうも
立てて。
☆☆☆
ひとしきりエルクに怒られ、「むやみに喚び出さないように!」と釘く
ぎ
を刺されたところで、
僕らはチャウラの冒険者ギルドに寄った。
今まで忙しかったり忘れてたりしてできていなかった、『チーム登録』のためである。
ちょうど新メンバー(暫ざ
ん
定てい
)も入ったところなので、今のうちにやっちゃおうってこと
で、メンバー全員でやって来たのだ。
受付のお姉さんに事情を説明し、申込用紙をもらう。
必要事じ
項こう
を記入……つっても、三つしかないけど。
まずは、メンバー全員の名前ね。冒険者じゃないけど、外部協力者ってことで、ナナさ
んとミュウちゃんも加えてきっちり六人分、と。
なお、一番上の『リーダー』欄ら
ん
には、だいぶ前に決まった通り僕の名前。
次、どんな依頼を専門に受けるかは……特に決まってないから書かなくていいな。
そして最後に『チーム名』。これが一番迷った。
どんな名前がいいか、ここ一ヶ月くらいずっと考えてたんだけど、いいのが思い浮かば
ない。
候補を皆から出してもらいもしたけど、それぞれセンスが違うし、全然決まらなかった。
エルクやザリーは無ぶ
難なん
な名前を提案するし、シェリーさんは遊び心満点のもの、ナナさ
んは軍人時代の感覚が抜けないのか堅か
た
苦くる
しい感じ。
僕は前世で、ゲームの主人公キャラの名前を決めるのに三十分くらいかかってた人間だ。
優ゆう
柔じゅう
不ふ
断だん
さはハンパじゃない。
結果、案あ
ん
の定
じょう
全然決まらなかった。
そんなある日のこと。僕は、僕ら六人の『共通点』に気付いた。
きっかけは、身軽に動いて思いもかけない攻撃を鋭く繰り出すことから、最近冒険者の
間でエルクが『山や
ま
猫ねこ
』と呼ばれ始めた……って話を、ザリーに聞いたこと。
なるほど。確かにそんな感じかも、と思った。
エルクは魔法を使えるようになったとはいえ、今も依い
然ぜん
として身軽さを武器にした戦闘