歴史を刻む神戸旧居留地の建築たち...「神戸市旧居留地・北野地区街並み研修会」...
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平成 29年度 兵庫県建築士会明石支部 研修会資料(編集:田村嘉朗)
平成 29年 12月 2日実施
歴史を刻む神戸旧居留地の建築たち
A 海岸ビルジング 【旧日濠ビル】
・ 明治 44(1911)年竣工/設計:河合浩蔵/施工:旗手組/煉瓦造・花
崗岩張り、地上 3 階/※国登録有形文化財・神戸市景観形成重要建築
物
・ 貿易会社兼松商店(現兼松の前身)の本店として建設。 設計は海岸
ビルや奥平野浄水場旧急速濾過場上屋、神戸地方裁判所、旧小寺家厩
舎(国重要文化財)などを手がけた河合浩蔵。
・ コーニス上に巨大なペデュメントが載せられ海岸通で最も壮麗な建
築物の一つと称されていたが、戦災で失われた。内部、吹き抜け天井
の色鮮やかなステンドグラスが特徴だが、これらは後の改修である。
B 神戸郵船ビル 【旧日本郵船神戸支店】
・ 1868 年の初代米国領事館の跡地に 1918 年、曾禰達蔵・
中條精一郎の設計により旧日本郵船神戸支店として建設。
銅葺きの屋根と円形ドームを戴いていたが、1945 年の神戸
大空襲で焼失。
・ 1994 年の日本設計、大林組・藤木工務店施工による耐震
補強工事で 1995 年の阪神・淡路大震災を軽微な被害で乗り
越えた。このリフォームは、第 5 回 BELCA 賞を受賞。
⑦ 海岸ビル 【旧三井物産神戸支店】
・ 大正 7(1918)年竣工/設計:河合浩蔵/施工:竹中工務店/RC 造 4 階建
※国登録有形文化財・神戸市景観形成重要建築物
・ 新海岸ビル:平成 10(1998 年 )竣工/設計 施工:竹中工務店/ SRC 造 15 階建
・ 設計者は神戸に事務所を構え、神戸地方裁判所、相楽
園の重要文化財小寺家厩舎等も設計。
・ 当時ヨーロッパで流行していたセセッションの影響
(オットーワーグナー:シュタインホーフ教会など)を
強く受け、装飾類の彫りは浅く徹底した幾何学化がなさ
れている。
・ カーン式と呼ばれる特殊な構法を用いたが、阪神淡路
大震災によって半壊、当初の石材を利用して改築された。
カーン式が唯一残るのは東本願寺函館別院( 1915 年建替
え)。
・ 再建にあたり玄関扉に竣工当時の木製ドアとEVホー
ルに 6 本の御影石柱が残されている。
⑥ 商船三井ビル 【旧大阪商船神戸支店】
・ 大正 11(1922)年竣工/設計:渡辺節建築事務所、構造設
計:内藤多仲/施工:大林組構造: SRC 造 7 階建地階付
※神戸市景観形成重要建築物
・ 渡辺節は欧米を視察し、特にアメリカの高層建築技術に
影響を受けたと言われる。
・ アメリカンボザールと呼ばれる様式を踏まえながらも、
外観に古典的なオーダーを用いず、本来柱頭があるところ
にメダイヨンと呼ばれる装飾が施されて、簡素化が図られ
ている。
・ テラコッタを外壁に、プラスターを内装に使用する等、日本初となる技術を数多く導入する
ことに成功している。東京の丸ビル(先代)、大阪市のダイビル(大阪ビルヂング)本館亡き
今、大正期の大規模オフィスビルとして現存するものは本物件のみとなっている。
⑤ 神港ビルジング
・ 昭和 14(1939)年竣工/設計:木下建築事務所/施工:竹中工務店
/ SRC 造 8 階建
・ 神港ビルは、戦後 GHQ に接収され、コーベ・ベース・ヘッドクォ
ータズ(神戸基地司令部)がおかれた。周辺の様式建築と異なり、
目立った装飾は見当たらないが、1、2 階と 7、8 階の間に控えめなが
ら胴縁が廻り、古典主義の特徴である基壇・胴部・頂部という三層
構成をかろうじて保っている。南西角にある塔屋は、アメリカの摩
天楼の意匠につながるアールデコと呼ばれるデザインに特徴的なモ
チーフのレリーフで飾られている。
③ チャータードビル 【旧チャータード銀行神戸支店】
・ 昭和 13(1938)年竣工/設計: JH モーガン/施工:大倉土
木/ RC 造 4 階建
・ 2 層分の高さを持つ 1 階と 2, 3 階が胴蛇腹で 2 分され、 1
階部分は様式建築の 5 本のイオニア式柱と水平部材によりオ
ーダーを構成している。2,3 階は開口部の装飾が無く、柱の
上や出入り口上部のペデュメントの彫りが浅く、軽快な意匠
となっている。
① 神戸市立博物館 【旧横浜正金銀行】
・ 昭和 10(1935)年竣工/設計:桜井小太郎/施工:竹中
工務店/ RC 造 3 階建 地下 1 階/
※国登録有形文化財・神戸市景観形成重要建築物
・ 戦後、横浜正金銀行が解体されてからは東京銀行神戸
支店として利用されます。その後、市の所有となり、昭
和 57 年に一部増築し博物館としてオープン。
・ 京町筋に面した正面に 6 本のドリス式半円柱。側面に
は壁柱を廻らし、全体的に古典主義様式。桜井小太郎は
日本人初の英国公認建築士で、丸の内ビルディング旧館の設計者。
神戸では、これ以後戦時色が濃くなり始め、明治以来続いてきた様式主義建築の最後。
② 旧居留地 15 番館 【旧アメリカ合衆国領事館】
・ 明治 13(1880)年頃竣工/設計 施工:不明/木骨煉瓦造
2 階建/※国指定重要文化財/現在は株式会社ノザワの所有
・ 神戸最古の「異人館」、日本最古の商館。
・ 阪神淡路大震災で全壊したが、アメリカの公文書館で明治
19( 1886)年当時の写真が確認されたことから、復旧工事に
役立てられ、 1998 年に完成。創建当時の塗装色に変更され、木柵と門扉も再建されている。
・ 木軸の間に煉瓦を積んだ木骨煉瓦造。南側の両端にペディメントを付け、解放的なベランダ
を持つコロニアルスタイルの居留地時代を代表する洋館。外壁はスタッコ仕上げで、軒蛇腹、
胴蛇腹を廻らし、東側外壁は石積み風の目地を持つ。
・ 東玄関脇の歩道には日本最古の近代下水道である「旧神戸居留地煉瓦造下水道」(工事期間
1868 年 - 1872 年)の遺構(国の登録有形文化財)が展示されている。
⑧ あいおいニッセイ同和損保神戸ビル(同和火災海上ビル)【旧神戸海上保険ビル】
・ 昭和 10(1935)年竣工/設計:長谷部竹腰建築事務所/施工:
竹中工務店/ RC 造 4 階建地階付
・ 簡素な中にも 1 階から 3 階に届くアーチにロマネスク様式の
デザインが取り入れられている。設計の長谷部竹腰建築事務所
は日建設計の前身。
④ 旧居留地 38 番館 【旧ナショナルシティバンク神戸支店】
・ 昭和 4(1929)年竣工/設計:ヴォーリズ建築事務所/施工:竹
中工務店/ SRC 造 3 階建/大丸 (現大丸松坂屋百貨店 )所有
※神戸市景観形成重要建築物
・ 南側正面にイオニア式の円柱を 4 本並べ、両端には目地を目
立たせた石積みで引き締めている。東面は角柱の付柱が 7 本並
んでおり、アメリカンボザール様式でまとめている。
・ 北側と西側に隣接する大丸神戸店の倉庫として使われていた。
現在は店舗の一部として用いられている。1980 年代、旧居留地が「最も神戸らしい街」に再
生するきっかけとなる象徴的な建物の一つでもある。
【超簡単説明:各自、後ほど自習の事】
●コーニス:軒・壁の頂部、階と階の区切りなどの柱に支えられた水平部分
●ペディメント:切妻屋根の、妻側屋根下部と水平材に 囲まれた三角形の部分。「破風(はふ)」
●セセッション:1890 年代にドイツ圏の各地で起こった美術家の運動。〈分離派〉と訳される。
●BELCA 賞:長期にわたる適切な維持保全や優れた改修を実施した既存の建築物を表彰。
●カーン式:地震の少ない米国式異形鉄筋システム。関東大震災で大きく被害を受けた。
●アメリカンボザール:米のアール・ヌーボー(近代デザイン)に対して古典様式系の建築様式。
●テラコッタ:陶器や建築用素材などに使われる素焼きの焼き物。
●アールデコ:パリを中心とする 1920‐30 年代の装飾様式。戦間期で大恐慌による混乱を反映。
●イオニア式、ドリス式:古代ギリシャ建築の列柱様式の一。コリント式と合わせ三大様式。
●コロニアルスタイル:欧州の植民地に発達した建築・工芸の様式。本国の様式を模倣したもの
●ロマネスクス様式:中世西ヨーロッパの建築様式で、ゴシック建築以前の建築を指す。
◆参考文献:神戸建築物語第4回旧居留地物語、平成 29 年いきいき下町協議会「河合構造の建
築と近代洋風建築物の保存再生を巡るツアー」関係資料、各建築物ウィキペディア
・ A: 海岸ビルジング
・ B: 神戸郵船ビル
1. 神戸市立博物館
2. 旧神戸居留地 15 番館
3. チャータードビル
4. 旧居留地 38 番館
5. 神港ビルヂング
6. 商船三井ビル
7. 海岸ビル
8. あいおいニッセイ同和損保神戸ビル
南京町
A
B
ツアールート
「神戸市旧居留地・北野地区街並み研修会」
テーマ:神戸近代文化の検証【旧居留地と北野をめぐる近代洋風建築研修】
項目 時刻 地点 概要 備考 明石駅出発 10:00 山陽明石駅東口高架下 集合/貸切バス移動 オリエンテーション:田村
旧居留地街歩き 11:00 国道2号沿い 徒歩90分 括弧番号は施設案内図番号
講師:田村嘉朗
①海岸ビルジンク ゙ ②神戸商船ビル ③海岸ビル(7) 現地説明① 集合確認
④商船三井ビル(6) ⑤神港ビルジング(5) ⑥チャータードビル(3) 11:50 ⑦神戸市立博物館(1) 現地説明② 集合確認
⑧旧居留地15番館(2) ⑨同和火災海上ビル(8) ⑩旧居留地38番館(4) 昼食 12:30 上海料理「蓮」 南京町/自由散策
13:30 南京町 貸切バス移動 北野町街歩き 14:00 北野工房のまち(北野小
学校)到着 徒歩180分 北野工房のまち下車/トイレ
講師:野口志乃さん合流
14:15 旧グラシアニ邸 街並み散策 14:45 北野町北西街区 街並み散策 14:50 風見鶏の館・萌黄の館 入館:料金@650円 北野町広場にて休憩/トイレ
15:20 北野町広場出発 ※ラインの館工事中 15:40 北野通りトーマス坂交差点 16:10 ブラジル移住ミュージアム 入館:無料 一時解散
17:00 北野工房のまち(北野小
学校)出発 集合/貸切バス移動 北野工房のまち散策
休憩/トイレ
明石駅到着 18:00 山陽明石駅東口高架下 解散 ※ 旧居留地の事前学習はバス車内で実施。なお、事務所ビルが多いので館内の案内は制限されており、ほぼ外
観のみの散策となる。 ※ 北野町での現地説明は観光地の街中であり、歩きながらの説明ができないので、要点ヶ所ごとに分節して説
明の後、当該箇所の街歩きを実施。これを繰り返し行っていく予定。
初冬の候、建築士会明石支部の皆様におかれましてはては、益々ご健勝のことお慶び申し上げます。 また、平素は支部活動に対し、ご理解とご協力を賜り、誠に有難うございます。 今年度は、神戸市旧居留地他街並み研修会を開催致します。 年末のお忙しい時期とは存じますが、会員皆様のご参加を心よりお待ちしております。
(公社)兵庫県建築士会明石支部 支部長 嶋本浩史
開催日:平成29年12月 2日(土)
午前10:00 山陽明石駅東口高架下 (三井住友信託銀行北側) バス移動
午前11:00~午後12:30 旧居留地到着 街並み研修
午後12:30~午後1時30分上海料理「連」南京町店 昼食
午後1:30~バス移動午後2:00~午後5:00
北野地区街並み研修午後6:00 山陽明石駅東口高架下着 解散
※見学会講師: 兵庫県建築士会明石支部顧問田村 嘉朗 氏
いえ・まち・がーでん 北野工作室室長 野口 志乃 氏
会費
建築士会会員の方¥2000-
会員で無い方¥3000-
会費は当日徴集させて頂きます
※会員の方は○をご記入下さい ※当該事業はCPD単位取得申請中です。
平成29年度 兵庫県建築士会 明石支部
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