算数科がめざす アクティブ・ラーニング1 はじめに...

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教授用資料 滝井 章 元國學院大學人間開発学部教授 算数科がめざす アクティブ・ラーニング 小学校算数教授用資料

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教授用資料

滝井 章 元國學院大學人間開発学部教授

算数科がめざすアクティブ・ラーニング

小学校算数教授用資料

目 次

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.算数科とアクティブ・ラーニング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2  (1)主体的な学び/ 2

  (2)対話的な学び/ 3

  (3)深い学び/ 4

2.アクティブ・ラーニングの実践例(1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

3.アクティブ・ラーニングの実践例(2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

1

はじめに アクティブ・ラーニングとは,経済産業省が提言した「社会人基礎力」と同じ趣旨に立ったもので,文部科学省が大学教育に対して社会で求められる資質・能力を身に付けるために,知識教授型の授業からの脱却を求めたところから始まった(2008年「学士力答申」)。その流れの中に大学入試改革もある。 このアクティブ・ラーニングが小学校教育を対象とした舞台に姿を現したのは,2014年11月に開かれた中央教育審議会(中教審)に対して文部科学大臣が発した「初等中等教育における教育課程の在り方について(諮問)」からである。これを受け,2015年8月に発表された初等中等教育分科会の教育課程企画特別部会による答申の案における『論点整理』の中で,アクティブ・ラーニングとは「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び」と定義付けている。 このアクティブ・ラーニングの視点から算数授業を考えると,次の問いに向かい合うことになる。 「何のために算数授業があるのか」 もし,テストの点がとれるように「答え」を求める知識や技能を身に付けることを目的とするならば,つまり出された算数の問題を解決できるようにすることを算数授業の目的と考えるならば,「主体的に取り組む」「対話しながら考え合う」「深く考える」というアクティブ・ラーニングの視点に立った算数授業を考える必要はない。それこそ,例えば平行四辺形の面積の学習でも,面積の求め方を考えて面積が求められればよいだけのことである。しかし,もし算数授業の目的を,「出された問題が解ければよい」にとどめず,問題解決を通して社会で求められる,子どもが

社会に出てから子どもを支える力すなわち「生きて働く力」を育てることに置いた場合,「主体的に取り組む」「対話しながら考え合う」「深く考える」というアクティブ・ラーニングの視点に立った算数授業を考えることは不可欠と言える。例えば平行四辺形の面積で考えるならば,長方形を辺の長さを変えずにくずしていったときに「面積が変わるか変わらないか」「なぜ面積が変わると言えるか」「面積が変わるにつれてどこが変わるか」などについて興味をもった上で主体的に考え,それを友だちと考え合い,さらに公式まで見通して深く考える授業を展開しようと考えるであろう。 公立小学校で日々展開される授業は,入試に合格するための授業ではない。もちろん全国学力・学習状況調査でよい点数をとるためのものでもない。あくまでも目の前の子どもたち一人ひとりの将来のために展開されるべきものであるし,公立小学校の教壇に立ち,子どもたちと毎日相対し,目を,表情を見ながら授業に,学級経営に取り組んでいる先生は,誰もがその思いを胸に秘めている。だからこそ,「アクティブ・ラーニングの視点に立った授業はすでに取り組んでいる。何を今更」という声が聞かれる。 本冊子では,アクティブ・ラーニングの視点に立った授業を今までも取り組んでいるという先生には「自分が考えていた,めざしてきた,実践しようとしてきた算数授業は間違っていなかった」という確信を,教員経験が少ない先生には算数授業の目的を「算数の問題を解決できるようにする」を乗り越え,「将来子どものためになる力をつける」というレベルに拡張した意識をもっていただくことをねらいとしている。

2

のために残るものを提供する使命をもつ公立小学校教育では,「主体的な学び」を提供しなければならない。 主体的に学びに取り組む力を育てるには,まず主体的に学びに取り組む姿を,社会に出たときに求めらる力を前提にした上で明確にする必要がある。その代表例として次の3つを取り上げる。

① 疑問をもつ力② 多様に考える力③ シミュレーションする力  (他の場合を想定する力)

 「疑問をもつ力」については,子どもが迷子にならないようにわかりやすく,授業が混乱しないようにと考える先生の教育熱が仇になっているとも言える。しかし,この「疑問をもつ力」は社会に出たときに求められる重要な力である。「本当にこのプランでうまく進むのだろうか」「この話にのって大丈夫だろうか,リスクはないのだろうか」など主体的に疑問をもつことは,プロジェクトを万全の体制で進める上でも人に騙されない上でも重要となる。 この力をつけるために有効となる指導として,条件不足の問題を設定したり,先生が敢えて間違いを示しそこに疑問をもたせたりする指導が考えられる。 例えば,5年生「単位量あたりの大きさ」の導入の授業において,次のような問題を設定したとする。

1 算数科とアクティブ・ラーニング アクティブ・ラーニングの柱として,「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3つが挙げられている。算数科の授業におけるそれぞれの柱の意味,位置づけについて述べる。

(1)主体的な学び 全国の公立小学校の中で,主体的に学習に取り組むことを求めていない学校はおそらくないであろう。したがって,「主体的な学び」がアクティブ・ラーニングの柱,さらには評価の3観点の一つと言われてもピンと来ないと感じられる先生も多いのではないだろうか。 しかし,授業を参観すると,先生の板書をノートに写すだけという子どもの姿や,出された問題を解決し,答えを求めたら発表の時間まで何もしないという子どもの姿は確かによく目にする。このことから,「主体的な学び」は重要なこととはわかっているが,主体的に学ぶ姿を引き出すために何をすればよいかが見えていないことが問題であることがわかる。言い換えれば,子どもが主体的に学習に,授業に取り組めていないとしたら,その子どもが問題なのではなく,実現する具体的取り組みのイメージを先生がもてていないこと,すなわちそのイメージを提供できていないことが問題なのである。 言うまでもなく教え込まれた知識・技能は,時間の経過とともに薄れ,後には何も残らない。学校教育とは「忘れた後に何が残るか」で価値が決まる。その「忘れた後に残る」ものを生み出す原動力が「主体的な学び」である。それだけに,子ども一人ひとりの将来

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どもの中から「あり得ない」という声があがる。理由を問うと次のように明快に答える。 「 1─2は半分。その半分にたしているから答えは半分より大きくなるはず。でも,答えの2─5は半分より小さい。だからあり得ない。」 このように一見もっともらしいものに対して疑問をもち,あり得るかあり得ないかを自らに問いかけ考える姿は,「主体的な学び」の典型例と言える。

(2)対話的な学び 算数科の授業では,個人解決に重きが置かれることが多い。確かに子ども一人ひとりの問題解決能力をつけることは学校教育において重要な役割の一つであるし,子ども一人ひとりに解決にたどりつけたという満足感,自信をもたせることは,主体性をもたせる上でも重要である。しかし,個人解決するだけなら学校での学びは不要となる。ましてやIT化が進むこれからの時代,自宅のパソコンに問題を送り,個人解決した結果を学校に送信し,個別指導をすればことは足りることになってしまう。しかし,社会で求められる力はそこではない。個が自分なりの考えをもつことは重要だが,それをもちより考え合い,よりよいものを作り上げていくチーム力が求められる。公立小学校で行われている校内研究と同じである。それだけに,研究授業でよく見られる個人解決に大半の時間をとり,後半の話し合いの時間がとれず発表で終わってしまう,という授業は避けたいところである。 この「対話的な学び」を実現する上で重要な役割を果たすのが,ペアなどの少人数での話し合いである。この少人数での話し合いを取り入れないと,いつもの数人が活躍するだけで大半の子どもは参観しているだけという

 Aの部屋には6人,Bの部屋には8人います。どちらの部屋の方が混んでいると言えるでしょう。

 すると,子どもたちから「部屋の広さがわからなければどちらが混んでいるかはわからない」という声があがる。この段階で,子どもたちは「主体的な学び」の舞台にあがることになる。 また,6年生の「速さ」の導入でも,次のような問題の設定により「主体的な学び」を誘発する授業も実践できる。

 みくさんは50mを8秒で,れいこさんは80mを14秒で走りました。どちらの方が速いでしょう。

 人の走る速さを比べるのに,走った距離が違う中で比べることはあり得ない。100m走の金メダリストとマラソンの金メダリストのどちらが速いかなどという愚論があり得ないことからも明らかである。それを承知の上で敢えて上記のような問題を設定し,人の場合の走る距離が違う中での速さ比べなどあり得ないことに気付けば,「それでは疲れを感じる人ではなく,どのようなものなら距離が違っても速さ比べが成立するだろうか」を考えるという「主体的な学び」が発生する。 5年生「異分母分数のたし算,ひき算」でも,「主体的な学び」を生む授業が展開できる。導入の授業では,1─2+

1─3となる問題を設定し,答えを求めさせる授業が一般的である。問題提示し,立式を確認した後,個人解決に入る前に敢えて先生は「1─2+

1─3 だから答えは2─5だ

よね。」と投げかけるのである。すると,子

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で全体が考える場を設定したりする指導が重要となる。②� 全体発表の中で生まれた問題について考え合う少人数での話し合い 前述の①での少人数での話し合いが「発表,説明」をねらいとしているのに対して,ここでの少人数での話し合いは「考え合う」ことをねらいとしている。全体発表で出された考え方の図や式だけを見てどのように考えたかを,また発表に対して教師や子どもが質問したことに対して,少人数で話し合いながら考え合うことで,チーム力の基礎を培う。 この少人数での話し合いでは,何が問題になっているか,何を話し合うのかを明確にした上で取り組むことが重要となる。③� 友だちの発表などの内容が理解できているかを確認し合うための少人数での話し合い 公立小学校では,すべての子どもが友だちの発表を聞いて理解できれば苦労はない。また,わかったつもりになっているだけで,実はわかってはいないということもよくある。そこで,本当に理解できているかを確認したいときには,少人数グループで全員が説明し合う場を設定することが重要となる。自分の言葉で説明できていれば,理解できていると評価することができるからである。 ここで注意すべきは,先生が説明し合っている子どもたちの様子をよく観察し,説明できていない子どもがいないかを把握することである。理解が不十分なため説明できていない子どもには,個別に呼び,理解させる指導が重要となる。

(3)深い学び 算数科の授業の目的を「問題を解決できれ

授業になってしまう。それでは,活躍する子は偏った優越感を,参観しているだけの子は劣等感,教えてもらえばよいという受け身姿勢を身に付けてしまい,学級全体としても学級崩壊を招くことになりかねない。 少人数での話し合いを入れるタイミングについては,次の3ポイントがあげられる。

①� 個人解決終了時,全体発表の前で自分の考えを説明し合う少人数での話し合い②� 全体発表の中で生まれた問題について考え合う少人数での話し合い③� 友だちの発表などの内容が理解できているかを確認し合うための少人数での話し合い

 それぞれのねらいと注意点をここで整理してみることとする。①� 個人解決終了時,全体発表の前で自分の考えを説明し合う少人数での話し合い 従来の算数の授業では,個人解決のあと「練り上げ」と称して4人程度の子どもが前で発表するという展開が一般的であった。しかしこのような授業では,発表の機会は4人程度に限られてしまう。発表,説明という活動では,表現力とともに思考力の育成が実現できるだけに,発表の機会が4人程度にしか確保できないことは問題である。そこで,全体発表の前に少人数で発表し合う活動を取り入れる指導が重要となる。 ただし,全体発表の前に少人数での発表,説明の場を設定すると,全体発表に対するモチベーションが下がる危険性がある。そこで,教師が敢えて間違っている考え方を提示したり,子どもたちからは出なかった考え方を提示したり,発表に対して質問などをすること

5

ときに通じる,求められる役立つ力をつける」という視点に立った授業をめざす場合に必要となる学びである。

ばよい」と考える場合,「深い学び」はそれほど重要視する必要はない。ここで言う「深い学び」とは,次のような学びである。

① 多様に考える力②� さまざまな考え方の中から関連性を見いだす力③� いつでも使えるかを考える力,どのような場面で有効に使えるかを考える力

 つまり本質に目を向け,見抜く力の素地となる力である。これらの力は,社会に出たときに役立つ力である。 「多様に考える力」は,物事を一面だけで判断せず,さまざまなシミュレーションを立てる上で不可欠な,多面的に考える力へとつながる。また,物事だけでなく人に対しても多面的に見ることができるようになり,算数授業を通してのいじめのない学級作りにも極めて重要な取り組みである。 「さまざまな考え方の中から関連性を見いだす力」は,発表されたさまざまな考え方を点と見て終わりとするのではなく,点と点を結び付けるように関連付けてとらえ,一般性などを見いだす力へとつながる。 「いつでも使えるかを考える力,どのような場面で有効に使えるかを考える力」は,学んだことを疑うことなく知識として受け入れるのではなく,この考え方,戦略が通じる,使えるのはどのような条件が揃っているときかを理解し,それらを判断した上で使いこなすという力につながる。 以上のように,「深い学び」とは,「正しい答えが求められればよい」という「算数・数学ができる子」を育てるという発想に立った授業では必要なく,「算数授業で社会に出た

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 ここで四角形の角の和が求められたことで満足せずに「いろいろな求め方を考えよう」と「深い学び」の姿勢をもっている子どもは,対角線を2本引くことで四角形4つに分け,交わった点の1周分の360°をひいて内角の和が360°であることを導き出す。

 ここで全体発表とし,まずは①,②を発表させる。この求め方はほぼ全員がたどりついているだけに,サラッと流す。 次に③である。②の求め方にたどりついていない子どもがそれなりにいた場合には,180×4−360という式だけを示し,どのように考えたのかについて,少人数で話し合わせ,図をもとに確認させる。もしほとんどの子どもが自力でたどりつけていた場合は,発表させ確認のための少人数での話し合いを設定する。 次が本時における一つ目のアクティブ・ラーニングである。①,②と③を板書するときに敢えてスペースをあける。このスペースをつくることが,「何かあるのでは」という「主体的な学び」を生む。�

③ ア

イ ウ

① ②

2 アクティブ・ラーニングの実践例⑴  アクティブ・ラーニングの授業における実践例として,5年生「図形の角の和」の2つ目の課題にあたる「四角形の図形の角の和」の授業,3つ目の課題にあたる「多角形の図形の角の和」を紹介する。ちなみに前時には,三角形の内角の和が180°となることを学習しており,これが活用する基礎知識となる。 まず四角形を提示し,図形の角の和が何度になるかを,分度器を使わずに求めるという問題を設定する。

 子どもたちは,前時の学習を活用し,対角線を1本引くことで四角形を三角形2つに分け,180×2 から内角の和が360°であることを導き出す。

イ ウ

ア①

イ ウ

② ア

イ ウ

7

内角の和を求めることができない。そこで,少人数グループでの考え合いの場とする。「対話的な学び」である。すると,対角線ではなく,図形の内部に点をうち,その点から5つの頂点に向けて直線を引くと三角形を5つに分けられ,その点の1周分の360°をひけば内角の和が求められることにたどりつく。すなわち,前時に学習した四角形の場合に2本の対角線で求められたのはあくまでも四角形での話であり,「どの多角形でも」とはならないことが理解できる。ここが「深い学び」である。 この学びを通して,多角形の内角の和の求め方は3通り考えられること,それぞれの求め方が180×(□−2),180×(□−1)−180,180×□−360という一般式にまとめられることにもたどりつく。これも「深い学び」である。

 以上が5年生「図形の角」における「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」を取り入れたアクティブ・ラーニングの実践例である。

 「①,②は180×2,③は180×4−360だから,180×3−180があるかも」 子どもから生まれるこのような声も,「主体的な学び」であり,学びを深いものにする重要なステップである。 ここで,少人数での話し合いの場とし,考え合わせる。「対話的な学び」である。すると,辺上に1点をうち,向かい合う2つの頂点に向けて対角線を引くことで三角形を3つに分けるという求め方を導き出す。�

 次時では四角形の内角の和の求め方が五角形の内角の和を求めるときにも活用できるかを考える。ここが二つ目のアクティブ・ラーニングである。 五角形の内角の和を四角形の内角の和の求め方①,②,③,④で求めさせる。�

 ①,②では180× 3 で,④では180×4−180ですんなりと求めることができる。ところが,③については式の上からは180×5−360となるはずであるが,対角線が5本引けてしまい,

ア④

イ ウ

① ②

③ ④

8

いを通して考え合う「対話的な学び」である。 その後,全体発表・検討を行う。ここでは,黒板に貼られた複合図形に,面積を求めるのに必要と考える部分に赤線を引かせ,どのように面積を求めようと考えているかを考えさせる。示された図から求め方を読み取るという活動は,子どもの「主体的な学び」を誘発する上で有効である。 一通り発表が終わった後,黒板に貼られた面積を求めるのに長さが必要な部分に赤線が引かれた図を見て,分類する話し合いに入る。この分類の活動が,「さまざまな考え方の中から関連性を見いだす力」という「深い学び」である。ここでの話し合いの結果,多様に発表された必要な条件は,次の4通りの求め方に集約される。

①ア

イ ウ

エカ

②ア

イ ウ

エカ

③ア

イ ウ

エカ

3 アクティブ・ラーニングの実践例⑵  アクティブ・ラーニングの授業における実践例として,4年生「面積」の中盤に行う複合図形の面積の授業を紹介する。一時間では難しいため,二時間扱いとすることをお薦めする。ちなみに前時までに長方形,正方形の面積を学習している。また,前単元では,「式と計算」において,分配法則を学習しており,これらが活用する基礎学習となる。 面積を求める対象として次の図形を提示する。

 ここで,敢えて長さを示さないところが,アクティブ・ラーニングの授業とする一つ目のポイントである。 「面積を求めるには,どこの長さが必要だろうか。必要な部分に赤線を引きましょう。」 子どもには,長さがかきこまれていない上と同じ図形がいくつも載っているワークシートを配付し,赤鉛筆を用意させる。子どもたちは,どこの長さがわかれば面積が求められるかをシミュレーションをしながら考えるという「主体的な学び」に夢中になる。 何通りか考えた後,少人数での話し合いで,ワークシートにある面積を求める図形に赤線で長さが必要と考えた部分を指さしたりしながら自分の考えを発表・説明し,発表・説明された友だちの考えに対して意見交換しながら吟味する。この活動が,少人数での話し合

イ ウ

エカ

9

  2×4+6×12=80 80 ㎠

③ア

イ ウ

エカ

 ここからは次の授業である。前時の復習という位置付けで,次の複合図形を提示し,面積の求め方を考えるという問題設定をする。

 子どもたちはあくまでも前時の復習としての単なる練習問題ととらえる。ここが,「主体的な学び」を誘発するポイントである。

  8×12-2×8=80 80 ㎠

イ ウ

8㎝

4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

④ア

イ ウ

 ここで,①から④の考え方が理解できているかを,少人数での話し合いで一人ひとりに説明させることで理解を確かなものとする。この活動が「内容が理解できているかを確認し合う」という「対話的な学び」にあたる。確認できた段階で授業を終える。 最後に,図形の辺の長さを示し,①から④の考え方で面積を求める。

8㎝6㎝

8㎝

12 ㎝イ ウ

エカ

 2×4+6×4+6×8=80 80 ㎠

①ア

イ ウ

エカ

  8×4+6×8=80 80 ㎠

②ア

イ ウ

エカ

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 個人解決はすっと終わるであろう。しかし,すぐに答え合わせに入らず,敢えて時間をとることで,子どもたちに「何かまだあるのでは」という思いをもたせる。その上で,少人数での話し合いの場を設ける。すると,教室のあちこちから「ひょっとして!」という声が出始める。ここが,考え合うという「対話的な学び」を満喫する瞬間である。 ここで焦らずに時間を確保すると,次第に次のような声が聞かれる。 「ここをここに動かすと長方形になるよ。」 「ここをここに動かすとでこぼこがなくなって長方形になるよ。」 「もう一つ同じものをくっつけると長方形ができそう。」 少人数での話し合いを通して,グループごとに考え方を黒板掲示用紙にかかせる。かき終わった頃合いを見て,全体発表とする。

⑤ア

8㎝

4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

     (4×6)×3=72 72 ㎠

⑥ア

8㎝4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

〈①の求め方〉

〈②の求め方〉

〈③の求め方〉 

〈④の求め方〉

6㎝

6㎝ア

8㎝4㎝

4㎝

12 ㎝イ ウ

   4×6+4×6+4×6=72 72 ㎠

6㎝

6㎝8㎝

4㎝

4㎝

12 ㎝

イ ウ

     8×6+4×6=72 72 ㎠

8㎝

4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

     4×6+4×12=72 72 ㎠

8㎝4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

     8×12-4×6=72 72 ㎠

11

発表され,子どもたちは友だちにわかるように発表・説明しようとする「対話的な学び」,発表・説明された友だちの考えを理解しようとする「対話的な学び」を満喫する。 ここで授業を終わりとしないことが重要である。前時に取り組んだ複合図形を改めて掲示し,本時で取り組んだ図形との比較をさせることで,前時の図形では出されなかった面積の求め方が,なぜ本時の図形では出されたのかについて考える場を設定し,少人数グループで話し合わせる。ここが,考え合うという「対話的な学び」である。この活動を通して,次のようなことに子どもたちは気付く。

(ア)�昨日の図形では,オカの長さとウエの長さが違っていたが,今日の図形ではオカの長さとウエの長さが同じになっています。

(イ)�昨日の図形では,アカの長さとエオの長さが違っていたが,今日の図形ではアカの長さとエオの長さが同じになっています。

(ウ)�昨日の図形ではイウの長さとアカの長さには関係がなかったけれど,今日の図形ではイウの長さはアカの長さの2倍になっています。

(エ)�昨日の図形ではアイの長さとウエの長さには関係がなかったけれど,今日の図形ではアイの長さはウエの長さの2倍になっています。

 この少人数での話し合いで気付いたことを,全体で発表,説明し合い,共有する。その結果,前時で考えた求め方は長方形をつなげた形ならどのような形でも通じること,その中で条件がうまく合えば,切り取って移動

     (8+4)×6=72 72 ㎠

8㎝4㎝

4㎝

4㎝

6㎝

イ ウ

 前時では考えつかなかった求め方が多様に

⑦ア

8㎝4㎝

2㎝2㎝

6㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

2 ㎝2 ㎝

    (8+4)÷2×12=72 72 ㎠

8㎝

4㎝

6㎝

12 ㎝イ ウ

   8×(6+12)÷2=72 72 ㎠

8㎝ 8㎝4㎝

4㎝

6㎝

6㎝

6㎝12 ㎝

12 ㎝

イ ウ

12

おわりに アクティブ・ラーニングの授業では,児童一人ひとりが生き生きと主体的に算数授業に取り組み,理解を確かなものとするだけでなく,思考力,表現力を含めて社会に出たときに子どもたち一人ひとりを支える「生きて働く力」をつけることが期待できる。ただし,アクティブ・ラーニングの授業が有効に作用するためには,次の条件が不可欠となる。

⑴�話し合い,学び合いが成立する学級経営ができていること⑵�学びの意欲を喚起する問題設定,提示の工夫がなされていること⑶�「考える」「話し合う」「考え合う」「気付く」などが生まれる時間を確保できていること

 少なくとも知識・技能の習得を優先としていては,アクティブ・ラーニングの授業を設計することは難しい。すべての授業で取り組むのではなく,年間指導計画,単元指導計画を柔軟に立てる裁量,立案のための時間,その根拠とできるものがあることが重要となることを強調しておく。

させることで一回の計算で面積が求められる長方形に変形させたり,もう一つ同じ図形をつなげることでやはり一回の計算で面積が求められる長方形が作れ,求めた面積を半分にするという求め方ができることが理解できる。この活動が,「いつでも使えるかを考える,どのような場面で有効に使えるかを考える」という「深い学び」である。 ここで終わりとせずに,さらに似た勉強をしたことがなかったかを問いかける。すると,「式と計算」で学習した内容と似ていることに気付く。 「面積の勉強の前に勉強した『式と計算』で,97×23+3×23=(97+3)×23にできるのと似ていると思います。」 ここで,教科書を開き,「式と計算」での学習を振り返り,改めて分配法則が成立する場合の条件を確認する。これも,「いつでも使えるかを考える,どのような場面で有効に使えるかを考える」という「深い学び」である。

 以上が,「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」のすべてが織り込まれたアクティブ・ラーニングの典型的な実践例である。

【プロフィール】・東京都府中市立小柳小学校 世田谷区立喜多見小学校などの教諭を歴任(平成21年3月まで)・國學院大學 人間開発学部 教授 専門分野:教科教育学(算数・数学)(平成21年4月より平成27年3月まで)

・都留文科大学 非常勤講師(平成27年4月〜現職)

・日本数学教育学会 常任幹事      ・学級経営を語る会 会長・算数オープンエンドの問題研究会 会長 ・公立小学校の算数授業を考える会

【主な研究歴等】・平成2年 東京都教育委員会 教育研究員(小学校算数)・平成5年 東京都教育委員会 教育開発委員(小学校算数)・平成12年 日米算数教育共同セミナー研究員・平成13年 文部科学省『補習校のための指導計画指導案』作成・平成14年 “NewEducationEXPO大阪大会・岡山大会”講演・平成15年 文部科学省・国立教育政策研究所 『国際数学・理科教育動向調査の2003年調査(TIMSS2003)』調査分析委員・平成16年 国立教育政策研究所『教育課程実施状況調査』問題作成委員会委員(小学校算数)・平成17年 国立教育政策研究所『教育課程実施状況調査』結果分析委員会委員(小学校算数)・平成20年 文部科学省『小学校学習指導要領解説 算数編』作成委員

【主な論文・著書等】 ※下記以外にも多数執筆・平成11年 日本数学教育学より優秀論文受賞 『オープンエンドの問題を中心とした授業の有効性に関する研究』・平成12年『オープンエンドの問題を使った「楽しい算数」授業プラン』(日本標準)・平成13年『クラスを育てる算数授業』(東洋館出版社)・平成14年『楽しく学べる計算学習ワークシート』(東洋館出版社)・平成15年『小学校算数 診断テストと発展ワークシート1〜 6年』(東洋館出版社)・平成15年『確かな学力を育む とっておきの算数発展授業3〜 6年』(日本標準)・平成15年『豊かな学力を育てる教材・教具の開発と活用術』(明治図書)・平成16年『すぐに役立つクラスづくり50のわざ低・中・高学年』(日本標準)・平成17年『今日からできる! 授業のスキルアップ1〜 6年』(日本標準)・平成17年『わかる算数5年生ひらめきワーク』(日本放送出版協会)・平成18年『わかる算数6年生ひらめきワーク』(日本放送出版協会)・平成18年『Q&A77 学級づくりステップアップ』(東洋館出版社)・平成19年『シリーズ 算数の力を育てる』(東洋館出版社)・平成20年『小学校新学習指導要領 ポイントと授業づくり』(東洋館出版社)・平成21年『小学校算数移行内容全授業プラン』(1年〜 6年)(東洋館出版社)・平成21年『移行措置完全対応 算数 追加単元の全授業』(1年〜 6年)(日本標準) ・平成22年『考える力をのばすオープンエンドの算数授業ー算数的活動満載』(日本標準)

・文部科学省 検定教科書『新版たのしい算数』(大日本図書)執筆

滝たき

井い

章あきら

先生のご紹介

本 社/〒112ー0012中部支社/〒464ー0075関西支社/〒530ー0044九州支社/〒810ー0042http://www.dainippon-tosho.co.jp

東 京 都 文 京 区 大 塚 3 ー1 1 ー6名 古 屋 市 千 種 区 内 山1ー14ー19高 島 ビ ル大 阪 市 北 区 東 天 満2-9-4千 代 田ビル 東 館6階福岡市中央区赤坂1ー15ー33ダイアビル福岡赤坂7階

☎ 03(5940)8675☎ 052(733)6662☎ 06(6354)7315☎ 092(688)9595

01170272