確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/pdf/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科...

57
確率の基本 青空学園数学科 2019 10 14 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま まに解いているところがある.すべての事象の確率の和が 1 ということ以外には,解答を検算する 方法がなく,答えに確信が持てない人も多い.確率は,高校数学の中では現実との接点をもつ数少 ない分野で,問題文を読んで,試行の意味を読み取る力が必要である. 確率論は数学の理論として明確である.高校教科書は,これを踏まえたものでなければならな い.しかし,実際には感覚的で直感的な記述に終始している.しかも,1 年課程と 2 年課程に分割 されているため,双方学んではじめて理解できることが,曖昧なままになっている. そのために,自分で考える高校生には,かえってわかりにくい.だが,教科書の記述にある様々 の不備や論理の穴を見いだし,自分の力で乗り越えることこそ,高校生のほんとうの勉強だ. それで,その一助にと,学校での確率を少しは習ったことを前提に,確率論の骨格がつかめるよ うに,ごく基本をまとめた.教科書範囲をやや越えるところもある.分かりにくいときは,くりか えし考え,順次理解してほしい. 1

Upload: others

Post on 27-Apr-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

確率の基本

青空学園数学科

2019 年 10 月 14 日

近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

まに解いているところがある.すべての事象の確率の和が 1ということ以外には,解答を検算する

方法がなく,答えに確信が持てない人も多い.確率は,高校数学の中では現実との接点をもつ数少

ない分野で,問題文を読んで,試行の意味を読み取る力が必要である.

確率論は数学の理論として明確である.高校教科書は,これを踏まえたものでなければならな

い.しかし,実際には感覚的で直感的な記述に終始している.しかも,1年課程と 2年課程に分割

されているため,双方学んではじめて理解できることが,曖昧なままになっている.

そのために,自分で考える高校生には,かえってわかりにくい.だが,教科書の記述にある様々

の不備や論理の穴を見いだし,自分の力で乗り越えることこそ,高校生のほんとうの勉強だ.

それで,その一助にと,学校での確率を少しは習ったことを前提に,確率論の骨格がつかめるよ

うに,ごく基本をまとめた.教科書範囲をやや越えるところもある.分かりにくいときは,くりか

えし考え,順次理解してほしい.

1

Page 2: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

目 次

1 確率論の始まり 3

1.1 同様に確からしい . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2 確率は賭け事の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2 確率論の基礎 6

2.1 言葉の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 確率とは何か . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.3 確率公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.4 根元事象の確率が等しいとき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

3 条件付き確率 12

3.1 条件付き確率の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.2 事象の独立 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3 確率空間の積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4 確率分布 17

4.1 確率変数と確率分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4.2 期待値の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

4.3 和の期待値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

4.4 確率変数の独立 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

4.5 二項分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

4.6 標本空間の積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

5 無限標本空間 27

5.1 酔歩の確率 1 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

5.2 酔歩の確率 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

5.3 連続的な確率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35

6 解答 38

6.1 確認問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

6.2 演習問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

2

Page 3: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

1 確率論の始まり

1.1 同様に確からしい

確率とは何か.その基本が分からなければいつまでも苦手である.また,確率問題では,事象の

確率をどのように定めるのか,あるいは「何が同様に確からしいのか」を定めるのか,それが指示

されず,そこを常識の範囲で考えなければならないこともあり,そこにも難しさがある.次の例を

考えよう.

例 1 区別のつかない硬貨を 2枚同時に投げる.2枚の表裏が一致する確率を求めよ.

解答 硬貨が区別されないので試行の結果は (表,表),(表,裏),(裏,裏)の 3通りある.このう

ち 2枚の表裏が一致する場合は 2通り.よって求める確率は2

3.

この解答は正しくない.では,なぜ正しくないのか,指摘できるだろうか.

上の例の計算では,該当する出方の総数を,すべての出方の場合の数で割っている.つまり,「区

別がないのだから (表,表),(表,裏),(裏,裏)の 3通りは起こる確率は等しい」と勝手にして

いる.

1枚の硬貨が表であるか裏であるかが同様に確かで,各確率は1

2である.よって 1枚目の硬貨が

表裏か,2枚目の硬貨が表裏かを区別しなければならない.(1枚目,2枚目)の出方は

(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)

の 4通りある.これらが同様に確かとなる.このうち 2枚の表裏が一致する場合は 2通り.よって

求める確率は2

4としなければならない.

(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)の 4通りが同様に確かである根拠は何か.それは

(i) 1枚の硬貨を投げたときに,表がでるか裏がでるかが同様に確からしい.

(ii) 2枚の硬貨を投げる試行で,各々の硬貨についての事象は互いに影響しない.

ということである.つまり 1枚の硬貨について表が出る確率,裏が出る確率がそれぞれ1

2.1枚目

が表であれ,裏であれ,2枚目が表になるか裏になるかは,同様に確かである.すると 2枚の硬貨

を投げるなら,それぞれの硬貨の表裏の組合せ,「(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)」の 4通

りが同様に確からしい.事象の総数が 4であるから,各確率はそれぞれ1

4である.ここまで考え

れば,納得がいく.

この方面で間違いやすい問題を紹介する.次の問題の (4)を注意して解いてみよう.

問題 1 [2000年長崎総合科学大学] 解答 1

12人の人がボールを 1個ずつ持っていて,順番に A,B,C の箱のいずれかに入れていくもの

とする.このとき,次の各問いに答えよ.ただし,同名の人はなく,空の箱があってもよいものと

する.

(1) ボールに自分の名前を書いて箱に入れていく場合,ボールの入り方は何通りあるか.

(2) ボールに自分の名前を書いて箱に入れていく場合,A にちょうど 8個のボールが入る入り方

は何通りあるか.

3

Page 4: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(3) ボールに名前を書かずに箱に入れていく場合,A,B,C の箱に入ったボールの個数の組み

合わせは何通りあるか.

(4) ボールに名前を書かずに箱に入れていく場合,8個以上のボールが入る箱がある確率を求めよ.

1.2 確率は賭け事の理論

このような問題をその根拠から考えるために,改めて,確率について,基本から考えよう.

「同様に確からしい」ということを考えたのは,もともとは賭け事にはじまる.人間は昔から賭

け事が大好きだ.サイコロは,紀元前 3500年頃,エジプトの第一王朝の時代の遺跡から発掘され

ている.そのころは動物のかかとの骨で作ったもので,1,3,4,6のものが使われていた.壁画

にも残っている.もともと賭は占いと一体で,このサイコロは賭け事にも占いにも使われていたら

しい.

長い間,賭は勘と経験で行われてきた.最初に「確率」を考えたのはイタリアのカルダノ(Hi-

eronimo Cardano,1501~1576)だ.この人はルネサンス期の人で,3次方程式,4次方程式の解の

公式を最初に発見したことで知られているが,本職は賭博師ではなかったかといわれている.『サ

イコロ遊びについて』などいくつかの書物があるが,ようするにサイコロ賭博の手引き書だった.

彼は「確からしさ (favourable)」という考え方をつかんでいた.

サイコロを 2つ投げて,その目の和に賭けるとすれば,いくつに賭けるのがいちばん有利か,と

いった問題に解答を出している.彼は

目の和が 2であるのは (1, 1) の 1通り

目の和が 3であるのは (1, 2) (2, 1) の 2通り

目の和が 4であるのは (1, 3) (2, 2) (3, 1) の 3通り

目の和が 5であるのは (1, 4) (2, 3) (3, 2) (4, 1) の 4通り

目の和が 6であるのは (1, 5) (2, 4) (3, 3) (4, 2) (5, 1) の 5通り

目の和が 7であるのは (1, 6) (2, 5) (3, 4) (4, 3) (5, 2) (6, 1) の 6通り

目の和が 8であるのは (2, 6) (3, 5) (4, 4) (5, 3) (6, 2) の 5通り

目の和が 9であるのは (3, 6) (4, 5) (5, 4) (6, 3) の 4通り

目の和が 10であるのは (4, 6) (5, 5) (6, 4) の 3通り

目の和が 11であるのは (5, 6) (6, 5) の 2通り

目の和が 12であるのは (6, 6) の 1通り

とすべての場合を書きあげ,7に賭けるのがいちばん有利だと結論を出してる.

次に登場するのはあのガリレオ(Galileo Galelei,1564~1642)だ.彼はあるとき親しい賭博師

から相談を受けた.科学者とか数学者は賭博の相談役だったのだ.

3つのサイコロを同時に投げ,その目の和に賭けるとき,目の和が 9になるのは

(1, 2, 6) (1, 3, 5) (1, 4, 4) (2, 2, 5) (2, 3, 4) (3, 3, 3)

の 6通りだ.目の和が 10になるのも

(1, 3, 6) (1, 4, 5) (2, 2, 6) (2, 3, 5) (2, 4, 4) (3, 3, 4)

の 6通りだ.しかし多くの勝負をしてきた経験からするとどうも 10に賭けるほうが,

ほんの少しだが有利なようだ.これはなぜなのか.

4

Page 5: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

硬貨の場合と同様に,

(i) 一つ一つのサイコロでどの目が出るかは同様に確からしい.

(ii) また,3つのサイコロの結果は互いに影響しあわない.

とする.すると硬貨の場合と同様に,3つのサイコロを区別して考えなければならず,すべての目

の出方は 63 = 216通りとなり,この一つ一つが同様に確からしい.このとき,3つの目が (1, 3, 6)

となるのは,この並べ方だけあり,6通り.3つの目が (2, 2, 5)となるのは,この並べ方だけあり,

3通り.だからそれぞれの目の組合せが起きる確率は6

216と

3

216になる.つまり,これらは同様

に確からしくはない.目の和が 9になる確率は

6 + 6 + 3 + 3 + 6 + 1

216=

25

216

であり,それに対して目の和が 10になる確率は

6 + 6 + 3 + 6 + 3 + 3

216=

27

216

である.

組合せも順列もない時代,やはりガリレオはあらゆる場合を書き出してこのことを説明してい

る.これを経験から見抜いた賭博師も偉い! しかしこれを説明したガリレオはもっと偉い.

確率論はさらに,パスカル(Blaise Pascal,1623~1662)とフェルマ(Pierre de Fermat,1601~

1665)で発展する.この 2人の往復書簡には,高校生が勉強する確率のほとんどすべてが出てくる.

例 2 今,A と B が互いに 32円ずつ出して勝負している.互いの実力は同じである.1回勝つ

と 1点もらえて,先に 3点獲得した方が優勝し賭金 64円をもらう.A が 2点獲得し Bが 1点獲得

しているときに,やむを得ない事情で勝負を中止しなければならなくなった.64円をどのように

分配すべきか.

これは「分配の問題」といわれる.ここで「期待値」の考え方がふくらんでいる.後でこの解答

も考えよう.

パスカルはこれらの研究を完全な論文にまとめようとする意図をもっていたらしい.後にパリ科

学アカデミーとなる機関にあてた 1654年の書簡の中で,次のように述べている.

正当に競い合っている演技者双方に,不確定な未来がつねに正確に配当されるよう

にするための,理にかなった計算は,うまくできませんでした.

確かに,偶然の推理を探究すればするほど,調べてわかることはほんのちょっぴりし

かありません.あいまいさ,例えばくじ引きという事象は,必然性よりむしろ全く偶然

性に左右されることが自然なのでして,それによって報酬が分配されるのであります.

それゆえ,いままではそのような事柄は不確かなものだとしてきました.しかし,い

ま経験にさからってまでも偶然を支配している論拠をはっきりとさせたいと存じます.

もち論,そのようなことを幾何学的方法(数学的方法ということ)によって学問的

な保証をとりつけ,確実性がこの種の偶然性にも関係している事実を大胆に打ち出そ

うと思っています.

そして,数学が不確実な事象をひき起こすサイコロと結びついていることを示し,加

えて偶然と確実の相矛盾したものを統一的にとらえ,統一されたものは偶然とも確実

5

Page 6: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

とも指名できないものでありますから,“サイコロの幾何学”という表題の本を手にとっ

た人はきっとびっくりするに違いないと思います.

この計画は実現せず,パスカルは 1662年に 39歳の若さで亡くなる.だが,この確信に満ちた文

章は確率論の宣言といってよいほどのものである.ここに確率論は誕生した.

2 確率論の基礎

2.1 言葉の定義

教科書の「確率」の章は,いろんな言葉 (「試行」,「事象」,「根元事象」等々)の定義からはじ

まっている.しかしそれはあまり重視されない.教科書の書き方もていねいではない.

これらの概念は,賭け事の仕組みなどを長い時間をかけて考えることで得られた,確率的な現象

を捉えるための考え方の枠組みだ.いちどじっくりと考え確認したい.わからなければ先生に質問

することを勧めたい.

これらの言葉をここでも改めて定義しよう.

試行 同じ条件のもとで繰りかえしおこなうことができ,その結果が確定する行為.

何度も,硬貨を投げる試行を繰りかえすと,統計的に,縁を下に硬貨が立って止まることはない

ことや,それぞれの硬貨の表がでる回数と裏がでる回数とは,だんだん等しくなっていくこと,等

がわかる.硬貨は動き続け,表になるか裏になるか決まらない,というようなことは,起こらない.

この経験から逆に,試行の結果は表か裏のいずれかになり,しかも表が上になるか裏が上になる

かは同様に確からしいものとする,と確率を考える前提が生まれる.サイコロでは均質に作ってあ

ればどの目が出るのもほぼ同じ割合になる.どの目が出るのも同様に確からしいとする.

そして試行とは,100円硬貨と 10円硬貨を同時に投げるような行為のこと.その結果は「100円

硬貨が表で 10円硬貨が表」のように確定し記述される.

サイコロを 1個投げる行為では,結果として 1から 6のうちのいずれかの目が定まるからこれも

試行である.

このように,何が同様に確かであるかを確定して,はじめて数学の問題になる.

数学の問題としては,その試行で何が同様に確からしいのかが明記されなければ解けない.ただ

この部分が常識に任されるときもあるので,その場合は現実にどうなるかを自分で考えなければな

らない.

標本空間 試行によって確定する結果全体の集合.

例えば上の 100円硬貨と 10円硬貨を投げる試行では,「100円硬貨表で 10円硬貨表」を簡単の

ために (表,表)のように表すことにすると,集合 {(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)}が標本空間である.

高校数学では,ほとんどの場合,標本空間は有限集合である.無限個であり,しかもそれが連続

的に変化しうる場合と,そうでない場合(これを「離散的無限」という)も,出題されたこともあ

る.連続な場合については,一部後に述べる.

6

Page 7: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

事象 試行から生じる結果によって定まる事柄のこと.事象は,そのことがらを満たす標本空

間の部分集合となる.

例えば 100円硬貨と 10円硬貨を投げる試行で,100円硬貨が表であるという事象は,(表,表)

という結果と (表,裏)という結果の集合である.つまり,100円硬貨が表であるという事柄は,集

合 {(表,表),(表,裏)}と表される.事象は標本空間の部分集合,これをしっかりとおさえること.

根元事象 試行で確定する結果の 1つだけによって表される事象.つまりその事象に該当する

結果の集合がただ1つの要素からなるもの.

それは言いかえると,その試行ではより小さい集合の和集合に分割できないような事象である.

試行の結果を事象という観点から集合としてとらえたものが根元事象である.

例えば,100円硬貨と 10円硬貨の 2枚の硬貨を投げる試行で,硬貨の裏表に注目した結果は,そ

れぞれの硬貨が裏か表かということである.これはこれ以上分けることができない.よって 2枚の

硬貨を投げて起こりうる結果は (表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)の 4つあり,それらを要

素とする 4つの集合 {(表,表)},{(表,裏)},{(裏,表)},{(裏,裏)}が根元事象である.それに対して 100円硬貨が表であるという事象は,{(表,表)} ∪ {(表,裏)}と 2つの集合の和

集合で表されたので,根元事象ではない.

全事象 標本空間自体によって定まる事象.試行によって確定する結果全体の集合,

根元事象全体の集合なので全事象と言う.全事象は「全ての結果」として定まる事象であって,

「全ての事象」という意味ではない.「全ての事象」は標本空間の全ての部分集合である.

空事象 空集合によって定まる事象.

これは「何も起こらない」という事象である.

余事象 ある事象に対応する集合の,補集合によって定まる事象.

和事象 ある事象とある事象に対応する 2つの集合の,和集合によって定まる事象.

積事象 ある事象とある事象に対応する 2つの集合の,積集合(共通部分)によって定まる事象.

以上の定義は,集合論の用語を確率論の用語に置きかえただけであって,確率そのものはまだ現

われていない.

7

Page 8: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

2.2 確率とは何か

定義 1 (確率の定義) U を試行の結果の集合,つまり標本空間とする.U の部分集合全体の

集合を Bとする.これは事象の集合である.Bの要素 (つまりは 1つの事象) に対して実数値を対応させる関数 pが次の性質を持つとき,関

数 pを確率と呼ぶ.

A, B ∈ Bとする.

(1) p(A) >= 0

(2) p(U) = 1

(3) A ∩B = ∅のとき p(A ∪B) = p(A) + p(B)

これを確率の公理という.このとき標本空間 U に確率 pが定義されているという.そして,標

本空間と確率 pの組 (U, p)を確率空間という.

例 3 サイコロを振る試行を考える.サイコロを振った結果は 1の目から 6の目なので

U = {1, 2, 3, 4, 5, 6}

となる.これらの部分集合の全体が Bなので,

B = {{1, 2, 3, 4, 5, 6}, {1, 2, 3, 4, 5, }, · · · , {6}, ∅}

これらの総数は,6つの結果を選ぶか選ばないかで決まるので 26 個ある.

確率の定義の (2)と (3)より

1 = p({1, 2, 3, 4, 5, 6}) = p({1}) + · · ·+ p({6})

だから根元事象の確率が全て等しければ

p({1}) = · · · = p({6}) = 1

6

となる.また,目が奇数になる確率は

p({1, 3, 5}) = p({1}) + p({3}) + p({5}) = 1

6+

1

6+

1

6=

1

2

である.

サイコロに細工がしてあって,1の目が出る確率が1

2で他の目が出る確率が各々

1

10ということ

もあり得る.この場合,標本空間は上の例と同じだが,その確率が違う.この場合の確率を qとす

ると

q({1, 3, 5}) = q({1}) + q({3}) + q({5}) = 1

2+

1

10+

1

10=

7

10

となる.

このように (U, p)となるか (U, q)となるかは現実の問題であって,いずれであるかは,入試問

題などでは本来問題文の中で与えられねばならない.

Bは U の部分集合全体である必要はなく,

8

Page 9: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(1) ∅ ∈ B.

(2) A ∈ Bなら A ∈ B.

(3) A, B ∈ Bなら A ∪B ∈ B.

をみたすものであればよい.第 2の条件から,U ∈ B,A, B ∈ Bなら A∩B ∈ Bも成り立つことに注意しよう.

このような性質を持つ U の部分集合の集合を有限加法集合族という.確率空間はこれを指示し

て U(B, p)と書く.

例 4 ジョーカーを除く 52枚のトランプから 1枚引く試行では,標本空間 U は 52個の要素から

なる.ここでトランプの番号のみを問題とする場合は,Bとして,Aの 4枚,2の 4枚,…,Kの

4枚の集合をもとにして,これから条件にしたがって作られる部分集合の集合とすることができる.

この場合も,Bを U とそのすべての部分集合とし,Aである事象,など番号を事象で考えても

よい.高校数学の確率ではこれで十分である.そこで,以下の記述では,Bは U の部分集合全体

とする

2.3 確率公式

標本空間 U の事象 Aに対して Aの余事象を Aと書く.2つの事象 Aと B に対して,その和和

事象を A ∪B と書く.2つの事象 Aと B に対して,の積事象を A ∩B と書く.

これらは,集合の記号をそのまま用いている.

定理 1

p(A) = p(U)− p(A) = 1− p(A)

p(A ∪B) = p(A) + p(B)− p(A ∩B)

が成り立つ.

証明 A ∪A = U で A ∩A = ∅なので確率の定義 (3)から

p(U) = p(A) + p(A) = 1

∴ p(A) = 1− p(A)

次に

A ∪B = A ∪ (A ∩B)

= {A ∩ (B ∪B)} ∪ (A ∩B)

= (A ∩B) ∪ (A ∩B) ∪ (A ∩B)

A = (A ∩B) ∪ (A ∩B)

B = (A ∩B) ∪ (A ∩B)

9

Page 10: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

とそれぞれ共通部分のない事象の和に分割できる.ゆえに

p(A ∪B) = p(A ∩B) + p(A ∩B) + p(A ∩B)

p(A) = p(A ∩B) + p(A ∩B)

p(B) = p(A ∩B) + p(A ∩B)

これから

p(A ∪B) = p(A) + p(B)− p(A ∩B)

である. □

注意 1 ほとんどの教科書は,集合の要素の個数の公式

n(A ∪B) = n(A) + n(B)− n(A ∩B)

から導いているが,これは根元事象が同様に確かなときしか当てはまらない.

さらに教科書は,この公式から

A ∩B = ∅ のとき p(A ∪B) = p(A) + p(B)

を導いているが,これは論の立て方がまったく逆である.

A ∩B = ∅ のとき,事象 Aと事象 B は互いに排反であるという.確率の公理から

事象 Aと事象 B が互いに排反のとき p(A ∪B) = p(A) + p(B)

である.

確率を全ての事象に確率値を対応させる関数として定義した.事象はすべて根元事象の和集合に

なるので,根元事象の確率が定まっていれば,一般の事象の確率はそれを構成する根元事象の確率

の和になるのではないか.

根元事象が有限個の場合はその通りなのだ.また無限個あっても 1, 2, 3, · · ·と数えられるような可算無限の場合も含めて,事象 Aの確率 p(A)は

p(A) =∑u∈A

p(u)

でよい.

ところが連続的な確率の場合にはこれでは定義にならない.これについては,最後の「連続的確

率」を参照してほしい.

以下,「無限標本空間」までは標本空間が有限集合であるものとする.

2.4 根元事象の確率が等しいとき

定理 2 標本空間が有限集合で,根元事象の確率がすべて等しいとき,事象 Aの確率は

p(A) =n(A)

n(U)

で与えられる.ただし n( )は集合の要素の個数を表す.

10

Page 11: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

証明 標本空間 U がN 個の要素からなるとし,

U = {u1, u2, · · · , uN}

とする.またその確率を pとする.

1 = p(U) = p({u1, u2, · · · , uN})

= p(u1) + p(u2) + · · ·+ p(uN )

そして p(u1) = p(u2) = · · · = p(uN )であるから結局

p(u1) = p(u2) = · · · = p(uN ) =1

N

となる.A = {u′1, u′

2, · · · , u′r}をある事象とすると

p(A) = p({u′1, u′

2, · · · , u′r})

= p(u′1) + p(u′

2) + · · ·+ p(u′r)

=1

N+

1

N+ · · ·+ 1

N=

r

N

である. □

確認した現在の教科書の多くは,「ある事象 Aの起こることが期待される割合を,事象 Aの確

率といい,これを P (A)で表す」と,書いている.これはまったく経験的な言葉であり,数学の定

義にはなっていない.

そして,根源事象がすべて同様に確からしいときとの条件の下で,定理 2の式を確率の定義とし

ている.そして,確率の定義 1を,「確率の性質」としている.これは逆ではないだろうか.

例題 1 n本のくじの中に 5本の当たりくじがある. 8 人の人が一本ずつ引く.その中に 3 本の

当たりが出る事象を Aとする.確率 P (A)を求めよ.

解答

(1) くじも人も区別する場合:

n本のくじから 8枚を選び,8人にわたす.n(U) = nP8.該当事象は,誰が当たるかを決め,

そこに当たりくじを,残る 5人に外れくじをわたす場合の数だけある.

P (A) =8C3 · 5P3 · n−5P5

nP8

(2) くじは区別し,人は区別しない場合:

n本のくじから 8枚を選ぶ.n(U) = nC8.該当事象は,当たりから 3本,外れから 5本を選

ぶ場合の数だけある.

P (A) =5C3 · n−5C5

nC8

(3) くじは区別せず,当たりか外れかのみを区別する場合:

すべてのくじを並べ,端から 8本とる.n本のどこに当たりがあるか,すべての当たりの配

置を U とする.n(U) = nC5.該当事象は,端の 8本のうち 3本当たり,残る n− 8本中に

2本当たりがある配置の数だけある.

P (A) =8C3 · n−8C2

nC5

11

Page 12: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

よって求める確率は次のようになる.

P (A) =3360(n− 8)(n− 9)

n(n− 1)(n− 2)(n− 3)(n− 4)

途中の式はこのように当然異なるが,最後の確率は一致している.

3 条件付き確率

3.1 条件付き確率の定義

確率空間 (U, p)と 2つの事象 Aと B があるとする.実数 pA(B)を

pA(B) =p(A ∩B)

p(A)

で定める.定義から,pA(A) = 1である.

これを,事象 Aが起こったという条件のもとで B が起こる確率という意味で, 条件付き確率と

いう.

条件付き確率 pAは,集合 U を標本空間とする

確率になっている.

つまり,(U, pA)が集合 U を標本空間とする新

たな確率空間となる.

U

A

B

A ∩B

それを確認する.確率の定義の条件をみたせばよい.

(1) pA(B) =p(A ∩B)

p(A)>= 0

(2) pA(U) =p(U ∩A)

p(A)=

p(A)

p(A)= 1

(3) B ∩ C = ∅のとき,(B ∪ C) ∩A = (B ∩A) ∪ (C ∩A)で (B ∩A) ∩ (C ∩A) = ∅なので,

pA(B ∪ C) =p((B ∪ C) ∩A)

p(A)=

p((B ∩A) ∪ (C ∩A))

p(A)

=p(B ∩A) + p(C ∩A)

p(A)= pA(B) + pA(C)

pA(A) =p(A ∩A)

p(A)=

p(A)

p(A)= 1であるから,確率空間 (U, pA)はまた,Aを標本空間とする確

率空間 (A, pA)ともみなすことができる.

なお,根元事象が同様に確からしく,集合の要素の個数で確率が決まるときは,

pA(B) =p(A ∩B)

p(A)=

n(A ∩B)

n(U)

n(A)

n(U)

=n(A ∩B)

n(A)

である.

12

Page 13: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

確認問題 1 解答 1

白玉 5個と赤玉 3個が入っている袋から,1個ずつ順に 3個の球を取りだした.1番目の玉が赤

であるとき,3番目の玉が白である確率を求めよ.

問題 2 [2002年センター試験追試数学�・B改題] 解答 2

5枚の赤いカードに,2,3,4,5,6という数がそれぞれ一つずつ書いてあり,5枚の青いカー

ドにも,7,8,9,10,11という数がそれぞれ一つずつ書いてある.赤いカードのうちから 1枚,

青いカードのうちから 1枚引いて,書かれてある数をそれぞれ X, Y として確率変数 X, Y を定

め,Z = 2X + Y として確率変数 Z を定める.

(1) X と Z が素数になる確率を求めよ.

(2) Z が素数になるという条件のもとで,X が素数になる条件つき確率と,Y が素数になる条

件つき確率を求めよ.

(3) X が素数になるという事象と Z が素数になるという事象,および,Y が素数になるという

事象と Z が素数になるという事象は,それぞれ独立か独立でないか,理由をつけて答えよ.

(4) X と Z の平均 (期待値)を求めよ.

問題 3 [2004 センター試験・本試験,数学�・B改題] 解答 3

二つのさいころ Aと Bがあり,各面に 1, 2, 3, 4, 5, 6 という目が書かれている.これらのさ

いころについて,Aのさいころの各面には 1, 3, 4, 5, 6, 8 のシールを貼り,Bのさいころの各面

には 1, 2, 2, 3, 3, 4 の目のシールを貼った.

はじめに硬貨を投げ,次に Aと Bのさいころを同時に投げる次の試行を行う.

• 硬貨を投げて表が出れば,両方のさいころのシールをすべてはがして二つのさいころを同時に投げる.

• 硬貨を投げて裏が出れば,両方ともシールをはがさずに二つのさいころを同時に投げる.

この試行について次の問いに答えよ.ただし,シールの有無にかかわらず,さいころの各面の出方

は同様に確からしいとする.

(1) 目の和が 3の倍数であるという条件のもとで,二つのさいころの目の差が 2以下である条件

つき確率求めよ.

(2) この試行における二つのさいころの目の和を表す確率変数を X とする.硬貨を投げて表が

出たとき,同時に投げた二つのさいころの目の和の期待値,およびこの試行における X の

期待値を求めよ.

問題 4 [03千葉大] 解答 4

kを整数とし qを実数とする.A,Bの 2人が次のようなゲームを行う.まず Aが 3枚の硬貨を

投げ,表の出た枚数をX とする.X > kなら Aの勝ち,X < kなら Bの勝ちとする.X = kの

ときは当たる確率が q のくじを Aが引き,当たれば Aの勝ち,そうでなければ Bの勝ちとする.

A,Bとも,勝った場合にはX + 1円の賞金がもらえ,負けた場合には何ももらえない (0円もら

う)とする.ここで kおよび qの値は,Aと Bのもらう賞金の期待値が等しくなるように定める.

(1) kと qの値を求めよ.

13

Page 14: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(2) 上のゲームを 2回行ったとき,Bの賞金総額が 3円であった.このとき,Aの賞金総額も 3

円である条件付き確率を求めよ.

3.2 事象の独立

定義 2 確率空間 (U, p)の 2つの事象 Aと B に対して

pA(B) = p(B)

が成り立つとき,事象 Aと B は互いに独立という.

言うまでもなく,この等式は

p(A ∩B) = p(A)p(B)

と同値である.根元事象が同様に確からしく,集合の要素の個数で確

率が決まるときは,図のように

n(A ∩B)

n(A)=

n(B)

n(U)

となるということである.

BA

U

確認問題 2 解答 2

いずれの目が出る確率も同様に確かなサイコロがある.このサイコロの 1の目からmの目まで

の面を赤く塗り,m+ 1の目から 6の目までの面を青く塗る.ただし 1 <= m <= 5とする.このサ

イコロを投げるとき,赤の面が出るという事象を A,偶数の面が出るという事象を B とする.事

象 Aと事象 B が独立となるようなmの値を求めよ.

事象の独立と試行の独立 「試行の独立」,あるいは「独立試行」という用語は,教育現場に混乱

をもたらしている.

ある教科書は「同じ状態のもとでくりかえすことができる」ことを試行の条件として書く.その

うえで「2つの試行が互いに他方の結果に影響しないとき,これらの試行は独立である」と書く.

そして,独立でない試行の例として,くじを 1回目に引く試行を S,2回目に引く試行を Tとし

たうえで,「引いたくじをもとに戻さない場合」をあげる.

しかしこの場合,1回目に当たりを引くか外れを引くかで,2回目にくじを引く条件が異なる.2

回目の Tは「同じ状態のもとでくりかえすことができる」という条件に反するので,試行とは言

えないのではないか.このような疑問が寄せられた.これは当然である.

また,この教科書は

2つの独立な試行 S,T を行うとき,Sで Aが起こり,T で Bが起こる事象を C と

すると,事象 C の確率は

P (C) = P (A)P (B)

と書く.事象の独立は,積事象の確率が確率の積になることとして定義された.ところが,この記

述では,何の論証もなしに,この等式が提示される.いったいこの等式は「2つの試行 S,T が独

立である」ことの定義なのか,あるいは結論として出てくるものなのか不明である.

14

Page 15: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

ではどのように考えるべきなのか.

試行とは,手順「戻して n回引く」とか,「戻さずに n回引く」などの規則にもとづく一連の行

為全体を意味し,それによって定まる確率空間を基礎とする,というのが確率論の立場である.

n回くじを引くとき,その結果は(◯××◯…)のような n個の◯と×の順列の全体である.戻

すときも戻さないときも,その確率は計算できる.そのなかで 1回目当たりという事象は (◯△

△…)(△はどちらでもよい)の形をした部分集合であり,その確率も計算できる.2回目当たりと

いう事象は (△◯△…)の形をした部分集合,1,2回目当たりという事象は (◯◯△…)の形をした

部分集合である.その確率も計算できる.

これが任意の k回目と l回目で計算でき,その事象が独立か否かが定まる.k回目の事象と l回

目の事象が,各 kと lで独立なとき,その試行を「独立試行」という.それぞれの回の確率的行為

が独立という意味ではない.n回くじを引くという試行の性質なのである.

実際,かつては教科書もそのようになっていた.手元にある 1969年の実教出版の教科書では,

「独立試行」の「独立」はこの手順の性質としてつけられた形容詞であって,1回 1回の確率的行

為が独立という意味ではない.

このように,独立試行という概念は,事象の独立のなかに含むことができ,またそうしてこそ,

確率論の記述となる.

3.3 確率空間の積

教科書では「独立な試行の確率」の冒頭に,「1個のさいころを投げる試行と,1枚の硬貨を投げ

る試行において,互いにその結果に影響を及ぼさない.これらの試行は独立であるという」などと

書かれている.

しかし,これもまた,事象の独立を経てはじめてその意味が明確になることなのである.それ

は,別個の試行で定まる確率空間の積ということである.

100円硬貨と 10円硬貨を投げる試行を考える.われわれはすでに,100円硬貨を投げる試行の

標本空間は,要素は 2個,表と裏.10円硬貨を投げる試行の標本空間も,要素は 2個,表と裏.そ

れを x軸と y軸にとるように (表,裏)の組で考えた.

2つの集合の要素の組の全体の集合を,それらの集合の積という.これをもとにすれば,確率空

間の積が考えられ,そこではじめてそれぞれの試行が独立であることをとらえることができる.そ

れを考えてみよう.

2つの確率空間 (U1, p1)と (U2, p2)があり,p1と p2はそれぞれ U1と U2の事象だけで定まり,

たがいに U2 と U1 の事象とは無関係であるとする.つまり,U1 の uが起こったとき,U2 ではそ

の何れもが,p2 で定まる確率で起こりうる,U2,U1 でも同様ということである.

U1 = {u1, u2, · · · , us}

U2 = {v1, v2, · · · , vt}

とする.u = u1, u2, · · · , us と v = v1, v2, · · · , vt に対して確率 p1(u)と p2(v)が定まっている.

新たな標本空間 U を

U = {(u, v) | u ∈ U1, v ∈ U2}

で定め,この標本空間に確率 qを

q{(u, v)} = p1(u) · p2(v)

15

Page 16: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

で定める.これが U の確率になっていることはすぐに検証できる.集合 U を (U1, U2)のように

書こう.同様に U1, U2 のそれぞれの部分集合 A, B に対して,U = (U1, U2)の部分集合

{(u, v) | u ∈ A, v ∈ B}

を (A, B)のように書こう.この U のなかで部分集合

(A, U2) = {(u, v) | u ∈ A, v ∈ U2}

を考える.p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定まり,たがいに U2 と U1 の事象とは無

関係であるとの仮定から,Aに対してすべての v ∈ U2 に対して,(A, v) ∈ U である.つまり,

(A, U2) ⊂ U である.この結果,もとの試行 U1 の事象 Aを U に埋め込むことができる.同様に

U2 の事象 B に対して (U1, B)で,B を U に埋め込む.

p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定まり,たがいに U2 と U1 の事象とは無関係である

との仮定が,埋め込みができることと同値である.

任意の U1 の事象 Aと U2 の事象 B に対して,このようにして埋め込まれた U の事象 (A, U2)

と (U1, B)は互いに独立である.

証明

(A, U2) ∩ (U1, B) = (A, B)

なので

q{(A, U2)} =∑

u∈A, v∈U2

p1(u)p2(v) =∑u∈A

p1(u)

{∑v∈U2

p2(v)

}

=

{∑u∈A

p1(u)

}{∑v∈U2

p2(v)

}= p1(A)

q{(U1, B)} =∑

u∈U1, v∈B

p1(u)p2(v) =∑u∈U1

p1(u)

{∑v∈B

p2(v)

}

=

{∑u∈U1

p1(u)

}{∑v∈B

p2(v)

}= p2(B)

q{(A, U2) ∩ (U1, B)} = q{(A, B)} =∑

u∈A, v∈B

p1(u)p2(v)

=∑u∈A

p1(u)

{∑v∈B

p2(v)

}=∑u∈A

p1(u)p2(B)

=

{∑u∈A

p1(u)

}p2(B) = p1(A)p2(B)

より

q{(A, U2) ∩ (U1, B)} = q{(A, U2)}q{(U1, B)}

が任意の Aと B について成立する.つまり,U の事象 (A, U2)と (U1, B)は互いに独立である.

これによって

(1) p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定る.

16

Page 17: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(2) 埋め込みが可能である.

(3) Aと B の埋め込まれた事象が独立である.

が順次成り立った.また,先の教科書の記述は,2つの試行による 2つの標本空間の積において,

埋め込まれたそれぞれの事象が独立であることを示している,と解釈できる.

注意 2 標本空間 U での確率を

q{(u, v)} = p1(A) · p2(B)

で定め,その後で U の性質を調べた.しかし,これは根元事象の確率が必ずしも等しくない場合

を含めて考えるためである.

U1の根元事象の確率が相等しく,U2の根元事象の確率も相等しく,かつ,2つの標本空間 U1と

U2 の積集合に,事象 Aや B が (A, U2),(U1, B)の形で埋め込めることができるとする.

それぞれの事象の U1,U2 での確率は,n(A)

n(U1),

n(B)

n(U2)である.そして,

n(A, B) = n(A)n(B), n(U) = n(U1)n(U2)

なので,n(A, B)

n(U)=

n(A)

n(U1)· n(B)

n(U2)

が成り立つ.

よって標本空間 U での事象 (A, B)の確率は

p1(A)p2(B)

となり,また Aと B を U に埋め込んだ事象が互いに独立であることも,自明である.

逆にいうと,先の U の確率 qの定義は自然なものである.

標本空間 2個の積は,n個の積にそのまま一般化される.

4 確率分布

4.1 確率変数と確率分布

確率空間 (U, p)があるとする.U の要素である試行の結果に対して実数値が定まるとき,その

実数を定める規則を確率変数という.

同じことになるが,根元事象に実数値を定める規則,といってもよい.

U の要素 uに対して実数 X(u)が定まる,つまり U から実数への写像が確率変数である.数 a

に対しX = aである確率とは,数の値が aとなるような結果の集合で定まる事象の確率のことに

なる.

A = {u | X(u) = a, u ∈ U}

とすると

P (X = a) = p(A)

17

Page 18: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

である.これはまた

P (X = a) =∑

u:X(u)=a

p(u)

とも表せる.P (X = a)で確率変数X が値 aをとる確率を表す.

確率変数X のとる値の全体が x1, x2, · · · , xnであるとすると,X は値 x1, x2, · · · , xnに対し

て確率 p1 = P (X = x1), p2 = P (X = x2), · · · , pn = P (X = xn)を対応させる.この対応を X

の確率分布と言う.

例 5 確率変数X を,サイコロを振って 3の倍数が出れば 2点,その他の目では 1点とする.す

ると確率変数X のとる値は 1か 2で,確率分布は

P (X = 1) =2

3, P (X = 2) =

1

3

となる.

4.2 期待値の定義

定義 3 確率変数 X が n 個の値 xi (i = 1, 2, · · · , n) を取り,その確率がそれぞれ qi (i =

1, 2, · · · , n)であるとする.このとき

E(X) =

n∑i=1

xiqi

を確率変数X の期待値という.

次の定義と同値である.

(U, p)を確率空間とし,u1, u2, , uN を U の全ての要素,つまりあらゆる試行の結果とする.

期待値 E(X)は

E(X) =∑uj∈U

p(uj)X(uj)

である.

証明

qi =∑

l:X(ul)=xi

p(ul)

なので

E(X) =

n∑i=1

xi

∑l:X(ul)=xi

p(ul)

=

n∑i=1

∑l:X(ul)=xi

xip(ul)

=

n∑i=1

∑l:X(ul)=xi

X(ul)p(ul) =∑u∈U

X(u)p(u)

となる. □

同じ値をとるものをまとめて考えるのが最初の定義であり,これは,まとめないままで U 全体

にわたって和をとることと同じになる.

18

Page 19: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

分配問題を解く はじめに紹介したパスカルとフェルマの往復書簡中で議論されている問題を考

えよう.2人は,ド・メレという人から出された「分配問題」を議論し,いろんな方法で考えてい

る.一般的な解法はパスカルが出している.例 2を一般化しよう.

例題 2 今,A と B が互いに c円ずつ出して勝負している.Aが勝つ確率は pで Bが勝つ確率

は qであるとする.p+ q = 1である.1回勝つと 1点もらえて,先にN 点獲得した方が優勝し賭

金 2c円をもらう.A が a点獲得し Bが b点獲得しているときに,やむを得ない事情で勝負を中止

しなければならなくなった.2c円をどのように分配すべきか.

解答 Aが勝つためにはあとN − a点,Bが勝つためにはあとN − b点必要.これをもとに,こ

の後引き続いて勝負をしたとして,Aの勝つ確率,Bの勝つ確率を計算し,その比に応じて分配す

るしかない.

つまり,この時点で A のもらえる期待値,B のもらえる期待値を計算するということになる.

r = N − a, s = N − bとおいて計算する.最大 r + s− 1回勝負すればいずれかの勝ちが決まる.

そこで n = r+ s− 1とする.Aが r回勝つまでに Bが k回勝つとすると,その事象は,r− 1 + k

回中 k回 Bが勝ち,r + k回目に Aが勝つ事象なので,その確率は

r−1+kCkpr−1qkp

である.よって Aが勝つ確率は

pr

(s−1∑k=0

r−1+kCkqk

)となる □

例 2では r = 1, s = 2, p = q =1

2なので,Aが勝つ確率は

1

2

(1 +

1

2

)=

3

4

Aと Bがもらえる期待値は

A : 64× 3

4+ 0× 1

4= 48 (円)

B : 0× 3

4+ 64× 1

4= 16 (円)

であり,この金額を分配すればよい.

パスカルはこの計算をするのにいわゆる「パスカルの三角形」を使っている.パスカルの三角形

は確率の計算で使われはじめたのだ.

確認問題 3 解答 3

袋の中に赤玉 4個と白玉 5個が入っている.この中から,元に戻さずに 1個ずつ球を取りだして

いく.この試行に最初から 1番,2番と番号をつける.確率変数 X を,最初に赤玉が出る試行の

番号と定める.X の確率分布と期待値を求めよ.

19

Page 20: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

4.3 和の期待値

確率変数X が x1, x2, · · · , xn の値を取り,その確率が p1, p2, · · · , pn であるとする.つまり

P (X = xi) = pi (i = 1, 2, · · · , n)であるとする.

確率変数 Y は y1, y2, · · · , ym の値を取り,その確率が q1, q2, · · · , qm であるとする.つまり

P (Y = yi) = qi (i = 1, 2, · · · , m)であるとする.

値 xi+ yj を確率 P (X = xi, Y = yj)でとる確率変数を,確率変数X と Y の和といい,X +Y

と書く.

定理 3 確率変数X + Y の期待値 E(X + Y ) は E(X) + E(Y ) と一致する.

証明

n∑i=1

P (X = xi, Y = yj) = P (Y = yj) = qj

m∑j=1

P (X = xi, Y = yj) = P (X = xi) = pi

なので

E(X + Y ) =

n∑i=1

m∑j=1

(xi + yj)P (X = xi, Y = yj)

=

n∑i=1

m∑j=1

xiP (X = xi, Y = yj) +

n∑i=1

m∑j=1

yjP (X = xi, Y = yj)

=

n∑i=1

xipi +

m∑j=1

yjqj

= E(X) + E(Y )

である. □

注意 3 P (X = xi, Y = yj)はX = xi かつ Y = yj となる確率を表す.

注意 4 本定理は,n個の確率変数,X1, X2, · · · , Xn に関する等式,

E

(n∑

k=1

Xk

)=

n∑k=1

E(Xk

に一般化される.証明は,数学的帰納法による.

このような性質を,線形性という.期待値は線形性をもつ.

期待値は根元事象の全体にわたる和であるという観点から E(X + Y ) = E(X) +E(Y )を示すこ

ともできる.X の値が xi であり,Y の値が yj であるような事象を Ai,j とおく.すると標本空間

U は互いに排反な事象 Ai,j の和になる.そして

P (X = xi, Y = yj) = p(Aij) =∑

u∈Ai,j

p(u)

20

Page 21: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

である.u ∈ Aij に対して

xi + yj = X(u) + Y (u)

なので

(xi + yj)P (X = xi, Y = yj) = (xi + yj)

∑u∈Ai,j

p(u)

=

∑u∈Ai,j

(X(u) + Y (u)) p(u)

したがって

E(X + Y ) =

n∑i=1

m∑j=1

(xi + yj)P (X = xi, Y = yj)

=

n∑i=1

m∑j=1

∑u∈Ai,j

(X(u) + Y (u)) p(u)

=∑u∈U

(X(u) + Y (u)) p(u)

=∑u∈U

X(u)p(u) +∑u∈U

Y (u)p(u) = E(X) + E(Y )

確認問題 4 解答 4

10円硬貨 3枚,50円硬貨 5枚を同時に投げる.確率変数X を表の出た硬貨の金額の和とする.

X の期待値を求めよ.

問題 5 [04北大前期理系] 解答 5

ある人がサイコロを振る試行によって,部屋 A,Bを移動する. サイコロの目の数が 1,3のと

きに限り部屋を移る.また各試行の結果,部屋 Aに居る場合はその人の持ち点に 1点を加え,部

屋 Bに居る場合は 1点を減らす.持ち点は負になることもあるとする.第 n試行の結果,部屋 A,

Bに居る確率をそれぞれ PA(n), PB(n)と表す.最初にその人は部屋 Aに居るものとし (つまり,

PA(0) = 1, PB(0) = 0とする),持ち点は 1とする.

(1) PA(1), PA(2), PA(3)および PB(1), PB(2), PB(3)を求めよ.また,第 3試行の結果,その

人が得る持ち点の期待値 E(3)を求めよ.

(2) PA(n+ 1), PB(n+ 1)を PA(n), PB(n)を用いて表せ.

(3) PA(n), PB(n)を nを用いて表せ.

(4) 第 n試行の結果,その人が得る持ち点の期待値 E(n)を求めよ.

分散と標準偏差 ある確率変数X に対し,その期待値を E(X)とする.期待値は同じでも,確率

変数の値が大きく変化しているときや,期待値の近くにかたまっている場合など,散らばり具合は

いろいろある.それを数値化するために,

V (X) = E((X − E(X))2)

21

Page 22: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

とおく.(X − E(X))2 は新たな確率変数であり,その期待値が V (X)である.この値を分散とい

う.各確率変数の値が期待値からどれだけ離れているかは |X −E(X)|である.その平方の期待値が分散である.

V (X)は期待値の線形性を用いて簡単にすることができる.

V (X) = E((X − E(X))2)

= E(X2 − 2E(X)X + E(X))2)

= E(X2)− 2E(X)E(X) + E(E(X)2)

= E(X2)− 2(E(X))2 + E(X)2

= E(X2)− (E(X))2

この式は分散の意味は見えにくいが,計算はこちらが便利である.

そして,平方の期待値の平方根,つまり

σ(X) =√

V (X)

を標準偏差という.

4.4 確率変数の独立

確率変数X, Y が互いに独立であるとは,X のとる任意の値 aと Y のとる任意の値 bについて

P (X = a, Y = b) = P (X = a)P (Y = b)

が成り立つことを言う.確率変数X と Y が互いに独立であるときは,確率変数XY の期待値は

E(XY ) = E(X)E(Y )

が成り立つ.実際,

E(XY ) =

n∑i=1

m∑j=1

(xiyj)P (X = xi, Y = yj)

=

n∑i=1

m∑j=1

(xiyj)P (X = xi)P (Y = yj)

=

n∑i=1

xiP (X = xi)

m∑j=1

yjP (Y = yj)

=

{n∑

i=1

xiP (X = xi)

}m∑j=1

yjP (Y = yj)

= E(X)E(Y )

積についても,期待値は根元事象の全体にわたる和であるという観点からE(XY ) = E(X)E(Y )

を示せないか.それはできない.事象の独立性が基本なのだが,根元事象は互いに独立ではないの

で,根元事象に帰着させることは出来ない.

22

Page 23: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

問題 6 [90京大前期理系] 解答 6

正N 角形の頂点に 0, 1, · · · , N − 1と時計回りに番号がつけてある.頂点 0を出発点とし,サ

イコロを投げて出た目の数だけ頂点を時計まわりに移動し,着いた頂点の番号をX とする.次に

もう一度サイコロを投げて出た目の数だけ,頂点X から時計まわりに移動し,着いた頂点の番号

を Y とする.このようにして定めた確率変数X, Y について

(1) N = 5, 6のそれぞれの場合について,X と Y は互いに独立か.

(2) X と Y が互いに独立となるN (N >= 3)をすべて求めよ.

ただし,確率変数X, Y が互いに独立であるとは,X = iとなる確率 P (X = i)と,X = i, Y = j

となる確率 P (X = i, Y = j)との間に,次の等式が任意の i, j (0 <= i, j <= N − 1)について成り

立つことである.

(∗) P (X = i, Y = j) = P (X = i)P (Y = j)

4.5 二項分布

ある操作を n回行い,それを一つの試行とする.k回目にあることが起こるか起こらないかを問

題にする.この確率空間で,各 kと l (1 <= k, l <= n)に対して,k回目にそのことが起こる事象の

確率と,l回目にそのことが起こる事象の確率がすべて等しく pであり,かつ k回目にそのことが

起こる事象と,l回目にそのことが起こる事象がたがいの独立であるとする.

このような試行を反復試行という.標本空間は

(× , × , · · · , × )

(○, × , · · · , × ), (× , ○, · · · , × ), · · ·· · ·(○, ○, · · · , ○)

と,n回の結果を並べたもの全体である.ただし,○はあることが起こったこと,×は起こらな

かったことを意味する.

このとき,n回中にそのことが起こる回数という確率変数をXとする.この確率変数は,0 <= k <= n

の範囲の整数 kに対して

P (X = k) = nCkpk(1− p)n−k

であり,k < 0, n < kに対しては P (X = k) = 0となる.この確率分布を,二項分布という.

実際,その独立性により,k回起こる各々の確率が pkqn−kで,それが nCk通りあるから,X = k

となる確率は nCkpkqn−k である.

この確率分布は,二項定理

(p+ q)n =

n∑k=0

nCkpkqn−k

の pについて k次の項が k回起こる場合の確率を与えるので二項分布という.このとき,起こる

回数の期待値 E は

E =

n∑k=1

knCkpk(1− p)n−k = np

となる.二項係数の基本公式([04年九大前期文理系]解答 8参照)

knCk = nn−1Ck−1

23

Page 24: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

から,

∴ E =

n∑k=1

knCkpk(1− p)n−k

=

n∑k=1

nn−1Ck−1pk(1− p)n−k

= np

n∑k=1

n−1Ck−1pk−1(1− p)n−k

= np{p+ (1− p)}n−1 = np

このように,反復試行の確率は,二項分布という分布を与えるモデルとしてとらえたとき,はじ

めてその発展的な意味がつかめる.ここで,二項分布に係わる問題を紹介しよう.

問題 7 [85京大理系] 解答 7

2枚の硬貨があり,1枚ずつ投げたとき表の出る確率をそれぞれ a,b とする.2枚同時に投げた

とき,表の出た硬貨の枚数を X とする.従って,確率変数 X は値 0,1,2 をとり,その確率分

布は a,b により定まる.逆に X の分布を指定したとき,その分布を与えるような a,b の値が存

在するかどうか,また存在する場合には,どれだけあるか,次の 2つの場合について答えよ.

(i) X は 2項分布,すなわち P (X = k) = 2Ckpk(1− p)2−k (k = 0, 1, 2)

ただし,p (0 < p < 1)はあらかじめ指定した定数である.

(ii) X は一様分布,すなわち P (X = k) =1

3(k = 0,1,2)

問題 8 [04九大前期文理系] 解答 8

nを 3以上の自然数とする.スイッチを入れると等確率で赤色または青色に輝く電球が横一列に

n個並んでいる.これらの n個の電球のスイッチを同時に入れたあと,左から電球の色を見てい

き,色の変化の回数を調べる.

(1) 赤青…青,赤赤青…青,……のように左端が赤色で色の変化がちようど 1回起きる確率を求

めよ.

(2) 色の変化が少なくとも 2回起きる確率を求めよ.

(3) 色の変化がちょうどm回 (0 <= m <= n− 1)起きる確率を求めよ.

(4) 色の変化の回数の期待値を求めよ.

二項分布の分散と標準偏差 二項定理

(p+ q)n =

n∑k=0

knCkpkqn−k

の両辺を,pで 1回微分した式と 2回微分した式はそれぞれ,

n(p+ q)n−1 =

n∑k=1

knCkpk−1qn−k

n(n− 1)(p+ q)n−2 =

n∑k=2

k(k − 1)nCkpk−2qn−k

24

Page 25: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

である.よって

np(p+ q)n−1 + n(n− 1)p2(p+ q)n−2 =

n∑k=1

k2nCkpkqn−k

が成り立つ.

二項分布X の期待値 E(X)は,先に見たように

E(X) = np

であった.また,上の計算から

E(X2) =

n∑k=1

k2nCkpk(1− p)n−k

= np(p+ 1− p)n−1 + n(n− 1)p2(p+ 1− p)n−2 = np+ n(n− 1)p2

となるので,

V (X) = E(X2)− (E(X))2 = np+ n(n− 1)p2 − n2p2 = np(1− p) = npq

よってまた,標準偏差は

σ(X) =√npq

である.

4.6 標本空間の積

これはすでに 100円硬貨と 10円硬貨を投げる試行でおこなっている.100円硬貨を投げる試行

の標本空間は,要素は 2個,表と裏.10円硬貨を投げる試行の標本空間も,要素は 2個,表と裏.

それを x軸と y軸にとるように (表,裏)の組で考えた.

これを少し一般化しよう.

2つの確率空間 (U1, p1)と (U2, p2)があり,p1と p2はそれぞれ U1と U2の事象だけで定まり,

たがいに U2 と U1 の事象とは無関係であるとする.つまり,U1 の uが起こったとき,U2 ではそ

の何れもが,p2 で定まる確率で起こりうる,U2,U1 でも同様ということである.

U1 = {u1, u2, · · · , us}

U2 = {v1, v2, · · · , vt}

とする.u = u1, u2, · · · , us と v = v1, v2, · · · , vt に対して確率 p1(u)と p2(v)が定まっている.

新たな標本空間 U を

U = {(u, v) | u ∈ U1, v ∈ U2}

で定め,この標本空間に確率 qを

q{(u, v)} = p1(u) · p2(v)

で定める.これが U の確率になっていることはすぐに検証できる.集合 U を (U1, U2)のように

書こう.同様に U1, U2 のそれぞれの部分集合 A, B に対して,U = (U1, U2)の部分集合

{(u, v) | u ∈ A, v ∈ B}

25

Page 26: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

を (A, B)のように書こう.この U のなかで部分集合

(A, U2) = {(u, v) | u ∈ A, v ∈ U2}

を考える.p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定まり,たがいに U2 と U1 の事象とは無

関係であるとの仮定から,Aに対してすべての v ∈ U2 に対して,(A, v) ∈ U である.つまり,

(A, U2) ⊂ U である.この結果,もとの試行 U1 の事象 Aを U に埋め込むことができる.同様に

U2 の事象 B に対して (U1, B)で,B を U に埋め込む.

p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定まり,たがいに U2 と U1 の事象とは無関係である

との仮定が,埋め込みができることと同値である.

定理 4 任意の U1 の事象 Aと U2 の事象 B に対して,このようにして埋め込まれた U の事象

(A, U2)と (U1, B)は互いに独立である.

証明

(A, U2) ∩ (U1, B) = (A, B)

なので

q{(A, U2)} =∑

u∈A, v∈U2

p1(u)p2(v) =∑u∈A

p1(u)

{∑v∈U2

p2(v)

}

=

{∑u∈A

p1(u)

}{∑v∈U2

p2(v)

}= p1(A)

q{(U1, B)} =∑

u∈U1, v∈B

p1(u)p2(v) =∑u∈U1

p1(u)

{∑v∈B

p2(v)

}

=

{∑u∈U1

p1(u)

}{∑v∈B

p2(v)

}= p2(B)

q{(A, U2) ∩ (U1, B)} = q{(A, B)} =∑

u∈A, v∈B

p1(u)p2(v)

=∑u∈A

p1(u)

{∑v∈B

p2(v)

}=∑u∈A

p1(u)p2(B)

=

{∑u∈A

p1(u)

}p2(B) = p1(A)p2(B)

より

q{(A, U2) ∩ (U1, B)} = q{(A, U2)}q{(U1, B)}

が任意の Aと B について成立する.つまり,U の事象 (A, U2)と (U1, B)は互いに独立である.

これによって

(1) p1 と p2 はそれぞれ U1 と U2 の事象だけで定る.

(2) 埋め込みが可能である.

(3) Aと B の埋め込まれた事象が独立である.

26

Page 27: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

が順次成り立った.

注意 5 標本空間 U での確率を

q{(u, v)} = p1(A) · p2(B)

で定め,その後で U の性質を調べた.しかし,これは根元事象の確率が必ずしも等しくない場合

を含めて考えるためである.

U1の根元事象の確率が相等しく,U2の根元事象の確率も相等しく,かつ,2つの標本空間 U1と

U2 の積集合に,事象 Aや B が (A, U2),(U1, B)の形で埋め込めることができるとする.

それぞれの事象の U1,U2 での確率は,n(A)

n(U1),

n(B)

n(U2)である.そして,

n(A, B) = n(A)n(B), n(U) = n(U1)n(U2)

なので,n(A, B)

n(U)=

n(A)

n(U1)· n(B)

n(U2)

が成り立つ.

よって標本空間 U での事象 (A, B)の確率は

p1(A)p2(B)

となり,また Aと B を U に埋め込んだ事象が互いに独立であることも,自明である.

逆にいうと,先の U の確率 qの定義は自然なものである.

標本空間 2個の積は,n個の積にそのまま一般化される.

5 無限標本空間

5.1 酔歩の確率 1

次の問題を考えてみよう.

例題 3 南北に走る幅 10mの車道がある.車道の西側には歩道があり,東側には川が流れている.

歩道を歩く酔っ払いが,歩道から 1mのところに飛び出した.歩道に戻ろうとしているが,酔っ

払っているので,毎秒,2

3の確率で西の歩道の方へ 1m,

1

3の確率で東の川の方へ 1m,動いてい

る.川に落ちればそこで動けない.歩道に戻ればもう動かない.

歩道から n (0 ≦ n ≦ 10)mのところにいて,歩道に戻る確率を pn,川に落ちて動けなくなる確

率を qn とする.ただしどれだけ時間がかかってもよいとする.

(1) 1 ≦ n ≦ 9に対して,pn を pn−1, pn+1 で表せ.

(2) pn, qn を nで表せ.

27

Page 28: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

解答 (1)

nmにいて歩道に戻れるのは,次の一歩が歩道向かうか川に向かうかで場合に分けられる.

歩道に 1m近づいて,そこから確率 pn−1で戻れるか,川に 1m近づいて,そこから確率 pn+1で

戻れるか,いずれかである.

これから

pn =2

3pn−1 +

1

3pn+1

が成り立つ.qn も同様に

qn =2

3qn−1 +

1

3qn+1

が成り立つ.

(2) pn は定義から

p0 = 1, p10 = 0

であり,qn は定義から

q0 = 0, q10 = 1

である.

pn の漸化式は

pn+1 − 3pn + 2pn−1 = 0

となり,これより

pn+1 − 2pn = pn − 2pn−1

pn+1 − pn = 2(pn − pn−1)

と変形される.これより

pn+1 − 2pn = p1 − 2p0

pn+1 − pn = 2n(p1 − p0)

この結果

pn = 2n(p1 − p0)− p1 + 2p0

である.qn についても同様に

qn = 2n(q1 − q0)− q1 + 2q0

が成り立つ.よって

pn = 2n(p1 − 1)− p1 + 2

qn = 2nq1 − q1

n = 10のときの条件から

p10 = 210(p1 − 1)− p1 + 2 = 0

q10 = 210q1 − q1 = 1

となるので,

p1 =210 − 2

210 − 1, q1 =

1

210 − 1

28

Page 29: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

である.これより

pn =210 − 2n

210 − 1

qn =2n − 1

210 − 1

である.

このような確率は酔歩の確率などといわれる.試行の回数はいくら多くてもよく,その意味で無

限回試行の確率の典型的な例となる.

nm のところにいて k回で歩道に戻る確率を Pn(k)とすると,

pn =

∞∑k=1

Pn(k)

となる.このとき,Pn(k)は求めなくても,その和の極限値は求まることが出来ることが多い.pn

の位置 nに関する漸化式は,有限回の試行の回数 kに関する漸化式を立てるのとはまったく別の

考え方であり,この違いをよく認識しておくことが重要である.

また,本問の場合 pn + qn = 1は自明なことではなく,このようにそれぞれを求めてはじめて示

されることである.

問題 9 [95京大理系後期] 解答 9

Aと Bの 2人が次のようなゲームを行う. n を自然数とし,Aはそれぞれ 0, 1, 2, · · · , n と書

かれた (n+1) 枚の札をもっている.Bはそれぞれ 1, 2, · · · , n と書かれた n 枚の札をもっている

とする.第 1回目に Bが Aの持札から 1枚の札をとり,もし番号が一致する札があればその 2枚

をその場に捨てる.番号が一致しない札はそのまま持ち続ける.次に Bに持札があれば,Aが B

の持札から 1枚の札をとり,Bと同じことをする.こうして先に札のなくなったほうを勝とする.

Aが勝つ確率を pn ,Bが勝つ確率を qn とする.ただし相手の札を取るとき,どの札も等しい確

率でとるものとする.

(1) p1, p2, q1, q2 を求めよ.

(2) pn + qn = 1,(n+ 2)pn − npn−2 = 1 (n = 3, 4, 5, · · ·)であることを示せ.

(3) pn を求めよ.

次の問題は,酔歩ではない無限回試行の確率である.

問題 10 [97慶応大] 解答 10

太郎君は硬貨を 2枚,花子さんは硬貨を 3枚もっている.いま,次のようなゲームをする.ジャ

ンケンをし,太郎君が勝ったならば花子さんから 1枚もらえ,太郎君が負けたならば花子さんに 1

枚渡す.ただし,太郎君がジャンケンに勝つ確率は2

5であり,どちらかのもっている硬貨の枚数

が 0となったときにその者が敗者となってゲームは終わる.

An を,太郎君が n 枚もっている状態においてそれ以降に太郎君が勝つ確率とする.

(1) n >= 1として An+1 , An , An−1 の間に成り立つ関係式を求めよ.

(2) このゲームで太郎君の勝つ確率を求めよ.

29

Page 30: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

次の問題は,平面上を動く酔歩の例である.

問題 11 解答 11

図のような,横 3m,縦 4mのいかだがある.点

線の区画は幅が 1mである.点Aの位置に柱が立っ

ている.

いま酔っ払いが点 P にいる.この人は 1 歩が

1mで上下左右に等しい確率で動く.※印のとこ

ろに行けば海に落ちてしまう.柱の位置に行けば

そこで柱につかまり助かる.この酔っ払いが海に

落ちることなく,柱のある所に行く確率を求めよ.

●※

※ ※

P

A

5.2 酔歩の確率 2

次の入試問題を考えてみよう.

例題 4 (2017昭和大医) 次の問いに答えよ.

公平なサイコロを 1回振るごとに,偶数の目が出たら 1(万円)獲得し,奇数の目が出たら 1(万

円)損失するという賭けを行う.所持金 0でこの賭けを n回繰り返した際の損益額の合計を Zn(万

円)とする.ただし,Z0 = 0とする.

(1) Mn = max0<=i<=n

Ziとするとき,確率 P (M4 = k),k = 0, 1, 2, 3, 4の値をそれぞれ求めよ.た

だし, max0<=i<=n

Zi は 0 <= i <= nにおける Zi の最大値を表す.

(2) Tn = #{i|i = 0, 1, 2, · · · , n− 1, (Zi = 0 ∩ Zi+1 = 1) ∪ (Zi = 1 ∩ Zi+1 = 0)}とするとき,確率 P (T4 = k),k = 0, 1, 2, 3, 4の値をそれぞれ求めよ.ただし,#Aは集合 Aの要素の

個数を表す.

(3) 任意の kに対して P (M5 = k)と P (T5 = k)の間に成り立つ関係を求めよ.

解答

(1) 1と −1の値をとる確率変数Xi は,0 <= iに対し、

P (Xi = 1) = P (Xi = −1) =1

2

であるとする.このとき

Zi = X1 +X2 + · · ·+Xi

である.0 <= i <= nに対し,(i, Zi)を座標平面上にとる.

n = 4のとき.試行の総数は 24 である.左図をもとに,条件を満たす (0, 0)からの経路の総数

を数えることにより,次の結果を得る.

30

Page 31: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

M4 = 4 : ↗↗↗↗

P (M4 = 4) =1

16

M4 = 3 : ↗↗↗↘

P (M4 = 3) =1

16

M4 = 2 : ↗↗↘↗, ↗↗↘↘, ↗↘↗↗, ↘↗↗↗

P (M4 = 2) =4

16=

1

4

M4 = 1 : ↗↘↘↘, ↗↘↘↗, ↗↘↗↘, ↘↗↗↘

P (M4 = 1) =4

16=

1

4そして,

4∑k=0

P (M4 = k) = 1

より,

P (M4 = 0) = 1−(

1

16+

1

16+

1

4+

1

4

)=

3

8

(2) 同様に考える.

T4 = 4 : ↗↘↗↘

P (T4 = 4) =1

16

T4 = 3 : ↗↘↗↗

P (T4 = 3) =1

16

T4 = 2 : ↗↘↘↘, ↗↘↘↗, ↗↗↘↘, ↘↗↗↘

P (T4 = 2) =4

16=

1

4

T4 = 1 : ↗↗↗↗, ↗↗↗↘, ↗↗↘↗, ↘↗↗↗

P (T4 = 1) =4

16=

1

4

そして,4∑

k=0

P (T4 = k) = 1

より,

P (T4 = 0) = 1−(

1

16+

1

16+

1

4+

1

4

)=

3

8

(3) (2)と同様に,P (M5 = 5) = 1,P (T5 = 5) = 1である.また,P (M5 = 0)と P (T5 = 0)が

他の事象の和の余事象であることも同様である.

そこで,1 <= k <= 4に対して,P (M5 = k)と P (T5 = k)をそれぞれ,P (M4 = k − 1), P (M4 =

k + 1)と P (T4 = k − 1), P (T4 = k + 1)で表す.

P (M5 = k)について.M5 = kとなる事象は,

X1 = 1なら,そこからはじめて残る 4回の試行で y = 1からの正方向の最大偏位が k−1となり,

31

Page 32: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

X1 = −1なら,そこからはじめて残る 4回の試行で y = −1からの正方向の最大偏位が k+1と

なるような事象である.

よって,

P (M5 = k) =1

2P (M4 = k − 1) +

1

2P (M4 = k + 1)

が成り立つ.

P (T5 = k)について.T5 = kとなる事象は,

X1 = 1のとき.2回目からはじめて残る 4回の試行で,(Zi = 1)∩(Zi+1 = 2)か (Zi = 2)∩(Zi+1 =

1)が k− 1回起こるとする.このとき,その n >= 1の部分でのXi = ±1をXi = ∓1に置きかえて

得られる試行を考えると,1回目の試行とあわせて T5 = kとなる事象が得られる.

逆に,X1 = 1 で T5 = k となる事象から逆の置きかえで,(Zi = 1) ∩ (Zi+1 = 2) か (Zi =

2) ∩ (Zi+1 = 1)が k − 1回起こる事象が得られる.

⇐⇒

k = 3

X1 = −1 なら,2 回目からはじめて残る 4 回の試行で,(Zi = −1) ∩ (Zi+1 = 0) か (Zi =

0) ∩ (Zi+1 = −1)が k + 1回起こるとする.最初に (Zj = −1) ∩ (Zj+1 = 0)となる j + 1に対し,

n >= j + 1の部分でのXi = ±1をXi = ∓1に置きかえて得られる試行を考えると,これによって

T5 = kとなる事象ががつ得られる.

逆に,X1 = −1で T5 = k となる事象から逆の置きかえで,(Zi = −1) ∩ (Zi+1 = 0)か (Zi =

0) ∩ (Zi+1 = −1)が k + 1回起こる事象が得られる.

j j + 1 ⇐⇒

k = 1

したがって,

P (T5 = k) =1

2P (T4 = k − 1) +

1

2P (T4 = k + 1)

が成り立つ.

n = 4のときは

P (M4 = k) = P (T4 = k)

であったので,この漸化式と k = 0, 5のときの考察から

P (M5 = k) = P (T5 = k)

が任意の kに対して成り立つ.

これを一般化してみよう.以下,P (A)で事象Aの確率を表し,#Aは集合Aの要素の個数を表

すものとする.

32

Page 33: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

例題 5 1と −1の値をとる確率変数Xi を,0 <= iに対し、

P (Xi = 1) = P (Xi = −1) =1

2

で定める.そして,

Zi = X1 +X2 + · · ·+Xi

とおく.

(1) Mn = max0<=i<=n

Zi とするとき,確率 P (Mn = k)を nと kを用いて表せ.

(2) Tn = #{i|i = 0, 1, 2, · · · , n− 1, (Zi = 0∧Zi+1 = 1)∨ (Zi = 1∧Zi+1 = 0)}とする. この

とき,任意の自然数 nと 0 <= k <= nに対して

P (Mn = k) = P (Tn = k)

が成り立つことを示せ.

解答

(1) 1 <= kを固定し,k >= bとなる bをとる.

P (Mn >= k, Zn = b) = P (Zn = 2k − b) · · · 1⃝

が成り立つ.

なぜなら,

Mn >= k, Zn = bとなる一つの事象に対して,最初にMi = kとなる iを定め,j >= iの範囲の

j に対しXj = ±1なら,これをXj = ∓1におきかえた事象をとると,これは,Zn = 2k − bを満

たす.

逆に,Zn = 2k − bとなる一つの事象に対して,2k − b >= k より最初にMi = k となる iがあ

る.j >= iの範囲の jに対しXj = ±1なら,これをXj = ∓1におきかえた事象をとると,これは,

Mn >= k, Zn = bを満たす.

この対応は一対一であるので 1⃝ が成り立つ.したがって,

P (Mn >= k) = P (Zn >= k + 1) +

k∑b=0

P (Zn = 2k − b) = P (Zn >= k + 1) + P (Zn >= k)

である.よって,

P (Mn = k) = P (Mn >= k)− P (Mn >= k + 1)

= P (Zn >= k + 1) + P (Zn >= k)− P (Zn >= k + 2)− P (Zn >= k + 1)

= P (Zn = k, k + 1)

n回中,Xi = 1となる iが p個,Xi = −1となる iが q個とする.Zn = kということは p+q = n

かつ p− q = kなので,n+ k = 2pである.したがって P (Zn = k), P (Zn = k + 1)の一方は 0で

ある.

したがって,n+ kが偶数のとき.

P (Zn = k, k + 1) =1

2nnCn+k

2

33

Page 34: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

n+ kが奇数のとき.

P (Zn = k, k + 1) =1

2nnCn+k+1

2

である.これをまとめて,

P (Mn = k) = nCn+ k + 1

2

· 2−n

と表すことができる.ここに [x]は xを超えない最大の整数を表す.

(2) すべての nに対して,P (Mn = n) = 2−n,P (Tn = n) = 2−nなので,P (Mn = n) = P (Tn =

n)である.

また,n∑

k=0

P (Mn = k) = 1,

n∑k=0

P (Tn = k) = 1

である.

これから n = 1のとき題意は成立する.

自然数 n >= 2に対して,1 <= k <= n− 1のとき,

P (Mn = k) = P (Tn = k)

が成り立つことを示せば,0 <= k <= nのとき成立する.

自然数 n >= 2に対して,1 <= k <= n− 1のとき,

P (Mn = k) = P (Tn = k)

が成り立つことを数学的帰納法で示す.

そこで,1 <= k <= n−1に対して,P (Mn = k)とP (Tn = k)をそれぞれ,P (Mn = k−1), P (Mn =

k + 1)と P (Tn = k − 1), P (Tn = k + 1)で表す.

P (Mn = k)について,Mn = kとなる事象は,

X1 = 1なら,そこからはじめて残る n − 1回の試行で y = 1からの正方向の最大偏位が k − 1

となり,X1 = −1なら,そこからはじめて残る n− 1回の試行で y = −1からの正方向の最大偏位

が k + 1となるような事象である.

P (Tn = k)について,Tn = kとなる事象は,

X1 = 1のとき.2回目からはじめて残る n − 1回の試行で,(Zi = 1) ∩ (Zi+1 = 2)か (Zi =

2) ∩ (Zi+1 = 1)が k − 1回起こるとする.このとき,その n >= 1の部分でのXi = ±1をXi = ∓1

に置きかえて得られる試行を考えると,1回目の試行とあわせて Tn = kとなる事象が得られる.

逆に,X1 = 1 で Tn = k となる事象から逆の置きかえで,(Zi = 1) ∩ (Zi+1 = 2) か (Zi =

2) ∩ (Zi+1 = 1)が k − 1回起こる事象が得られる.

X1 = −1なら,2回目からはじめて残る n − 1回の試行で,(Zi = −1) ∩ (Zi+1 = 0)か (Zi =

0) ∩ (Zi+1 = −1)が k + 1回起こるとする.最初に (Zj = −1) ∩ (Zj+1 = 0)となる j + 1に対し,

n >= j + 1の部分でのXi = ±1をXi = ∓1に置きかえて得られる試行を考えると,これによって

Tn = kとなる事象が 1つ得られる.

逆に,X1 = −1で Tn = k となる事象から逆の置きかえで,(Zi = −1) ∩ (Zi+1 = 0)か (Zi =

0) ∩ (Zi+1 = −1)が k + 1回起こる事象が得られる.

34

Page 35: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

上から,漸化式

P (Mn+1 = k) =1

2P (Mn = k − 1) +

1

2P (Mn = k + 1)

P (Tn+1 = k) =1

2P (Tn = k − 1) +

1

2P (Tn = k + 1)

が成り立つ.n = 1のときの成立から,n = 2, k = 1が成立し,k = 0, 2のときの考察とあわせ

て,0 <= k <= 2に対して成立する.

nのとき,0 <= k <= nに対して成立するとすると,漸化式が等しいので,n+1のとき,1 <= k <= n

について成立し,k = 0, n+ 1のときの考察とあわせて,0 <= k <= n+ 1について成立する.

よって,

P (Mn = k) = P (Tn = k)

が成り立つことが示された.

5.3 連続的な確率

例えば,ある人が 6時から 7時のいずれかの時刻に駅に着く.6時から 7時のいずれかの時刻に

着く確率も等しい.

この場合,試行の結果は,着く時刻の全体である.6時 5分から 10分の間に着く確率は何か.

これは5

60=

1

12である.

このことは理解しやすい.しかし根元事象の確率,ちょうど 6時 3分に着く確率は 0である.こ

こに違いがある.

いずれにせよ,確率空間が,実数の区間,平面領域,あるいは空間領域となり,その何れが起こ

るかが同様に確からしいとする.

そして,その一部が該当する事象に対応するばあい,その事象の確率が,長さの比や面積,体積

の比になることは,理解しやすい.

連続的な確率もときに入試問題として出題されるが,その場合は何をもって確率とするのかが指

示される.

一般的には,和に変えて積分が必要になる.確率の考え方が理解できているときには,積分の意

味を理解すれば,これを連続的な確率の場合に一般化すること自体は難しくない.

以下は,数学 IIIの微積分が必要である.

確認問題 5 解答 5

次の確率を求めよ.

(1) 1本の線分を無作為に 2ヵ所で切断し,三つの線分を得る.こうして得られた 3本の線分が

三角形を作る確率.

(2) 同じ長さの 3本の線分を無作為に切断し,一方の側を取り出す.こうして得られた 3本の新

たな線分が三角形を作る確率.

(3) 1本の線分を無作為に 2ヵ所で切断し,三つの線分を得る.こうして得られた 3本の線分が

鋭角三角形を作る確率.

(4) 同じ長さの 3本の線分を無作為に切断し,一方の側を取り出す.こうして得られた 3本の新

たな線分が鋭角三角形を作る確率.

35

Page 36: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

連続的な確率で,もっとも有名であり重要なものはビュッホンの針と言われる問題である.

例 6 平面上に互いの距離が 2a である多くの平行線が引かれている.この平面上に長さが 2a の

細い針を落とす.このとき針が一つの直線と交わる確率を求めよ.

解答

x

θ

2a

長さが 2a の針の中点が一つの直線から x の距離のところに落ちるとする.針と,直線と直交す

る方向のなす角を θ とする.対称性を考慮し

0 <= x <= a , 0 <= θ <=π

2

としてよい.

このときこのとき針がこの直線と交わるのは

a cos θ >= x

のときである. xθ 平面の領域

S1 = {(x, θ) | 0 <= x <= a , 0 <= θ <=π

2}

のなかで領域

S2 = {(x, θ) | (x, θ) ∈ S1, a cos θ >= x}

の占める面積は ∫ π2

0

a cos θ dθ = a

ゆえに求める確率は S1 の面積がaπ

2であるから

aaπ2

=2

π

となる.

問題 12 [01東大後期理科] 解答 12

36

Page 37: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(1) 図 1のように,等間隔 h で格子状に互いに直交する 2組の無数

の平行線が引いてある平面が与えられている.その上に半径 1

の円 C を無作為に落とすとき,この円がちょうど 2本の線と

交わる確率 p を求めよ.

(2) 図 2のように,半径√2+ 1の円が重複なく,かつ隣り合う円と

接して無数に敷き詰められた平面がある.この上に半径 1の円

C を無作為に落とすとき,その円 C が平面上のちょうど 3つ

の円と交わる確率 q を求めよ.

ただし解答にあたり次のことを用いてよい.

平面上に共に原点 O を始点とする一次独立な 2つのベクトル a,bを考え,点O と a,b,a+b

の 3つのぺクトルの終点の 4点を頂点とする平行四辺形を E とする. E の領域 F に対して, F

を aと bの整数係数の一次結合ma+ nbによって平行移動したもの全体の和集合を D とする.即

ち記号で書くと

D = {x+ma+ nb | x ∈ F, m ∈ Z, n ∈ Z}

とおく.ここで Z は整数全体を表す.

このとき平面に 1点 P を無作為に落とすとき,その点が D 内に落ちる確率は,F の面積の平

行四辺形 E の面積に対する比になっている.

37

Page 38: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

6 解答

6.1 確認問題

解答 1 問題 1

1番の玉が赤である事象を A,3番の玉が白である事象を B とする.

P (A) =3

8

P (A ∩B) =3

8×(2

7· 56+

5

7· 46

)

∴ PA(B) =P (A ∩B)

P (A)=

5

7

解答 2 問題 2

事象 Aと事象 B が独立となるということは

P (A) · P (B) = P (A ∩B)

となればよい.

P (A) =m

6, P (B) =

1

2

である.ここで[m

2

]で,mが偶数なら

m

2をmが奇数なら

m− 1

2を表すことにすると

P (A ∩B) =

[m

2

]6

である.したがって,

P (A) · P (B) = P (A ∩B) ⇐⇒[m

2

]=

m

2

である.つまり事象 Aと事象 B が独立となるようなmの値は 2か 4である.

解答 3 問題 3

X のとりうる値の範囲は 1から 6である.X = kとなる事象は,白玉が k − 1回続いた後,赤

玉が出る事象である.

P (X = 1) =4

9

P (X = 2) =5

9· 48=

5

18

P (X = 3) =5

9· 48· 47=

10

63

P (X = 4) =5

9· 48· 37· 46=

5

63

38

Page 39: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

P (X = 5) =5

9· 48· 37· 26· 45=

2

63

P (X = 6) =5

9· 48· 37· 26· 15· 44=

1

126

∴ E = 1 · 49+ 2 · 5

18+ 3 · 10

63+ 4 · 5

63+ 5 · 2

63+ 6 · 1

126= 2

解答 4 問題 4

10円硬貨のうち表が出た硬貨の金額の合計を X1,50円硬貨のうち表が出た硬貨の金額の合計

をX2 とする.

確率変数X1,X2 の確率分布はそれぞれ次のようになる.

X1 10 20 30

確率 3C1

(1

2

)3

3C2

(1

2

)3

3C3

(1

2

)3

X2 10 20 30 40 50

確率 5C1

(1

2

)5

5C2

(1

2

)5

5C3

(1

2

)5

5C4

(1

2

)5

5C5

(1

2

)5

ゆえに

E(X1) = 10 · 3C1

(1

2

)3

+ 20 · 3C2

(1

2

)3

+ 30 · 3C3

(1

2

)3

=30 + 60 + 30

8= 15

E(X2) = 10 · 5C1

(1

2

)5

+ 20 · 5C2

(1

2

)5

+ 30 · 5C3

(1

2

)5

+ 40 · 5C4

(1

2

)5

+ 50 · 5C5

(1

2

)5

=50(5 + 20 + 30 + 20 + 5)

32= 125

∴ E(X) = E(X1) + E(X2) = 15 + 125 = 140

解答 5 問題 5

(1) 線分の長さを 1にして一般性を失わない.長さ x (> 0), y (> 0) と 1− x− y (> 0) に切断

したとする.こうして得られた 3本の線分が三角形を作る条件は

x+ y > 1− (x+ y), x+ 1− (x+ y) > y, 1− (x+ y) + y > x

である.

従って求める確率は領域

D1 = {(x, y) | x > 0, y > 0, 1 > x+ y}

の面積に対する,領域

D2 = {(x, y)|(x, y) ∈ D1, 2(x+ y) > 1, 1 > 2x, 1 > 2y}

39

Page 40: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

の面積の比である.(図 1)

従って求める確率は1

4

(2) 3本の線分の長さを 1にしてよい.取り出された各線分の長さを 0 < x, y, z < 1 とする.こ

うして得られた 3本の新たな線分が三角形を作る条件は

x+ y > z, y + z > x, z + x > y

従って求める確率は立方体

T1 = {(x, y, z) | 1 > x > 0, 1 > y > 0, 1 > z > 0}

の体積に対する,立体

T2 = {(x, y, z)|(x, y, z) ∈ T1, x+ y > z, y + z > x, z + x > y}

の体積の比である.

T2 の体積を求める. z = t での切断面は図 2のようになりその面積は

1−{1

2t2 + 2 · 1

2(1− t)2

}= −3

2t2 + 2t

よって T2 の体積は ∫ 1

0

(−3

2t2 + 2t

)dt =

[−1

2t3 + t2

]10

=1

2

従って求める確率は1

2

(3) (1)のもとで得られた 3本の線分が鋭角三角形を作る条件は D2 の条件に加えて

x2 + y2 > {1− (x+ y)}2, x2 + {1− (x+ y)}2 > y2, {1− (x+ y)}2 + y2 > x2

である.その領域を D3 とする.この条件は

y > 1− 1

2− 2x, y < −x+

1

2− 2x, x < −y +

1

2− 2y

と書き表される.

D3 の面積 (境界を含む)は, D2 の面積から,図 3の領域 (イ)一つ,と領域 (ロ)を二つ分

を減じたものである.

(イ)の面積は∫ 12

0

{1− 1

2− 2x−(1

2− x

)}dx =

∫ 12

0

(1

2+ x− 1

2− 2x

)dx

となりこれは (ロ)の面積に等しい.この値を求める.∫ 12

0

(1

2+ x− 1

2− 2x

)dx =

[1

2x+

1

2x2 +

1

2log(1− x)

] 12

0

=3

8− 1

2log 2

40

Page 41: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

ゆえに D3 の面積は

1

2

(1

2

)2

− 3 ·{3

8− 1

2log 2

}=

3

2log 2− 1

従って 3本の線分が鋭角三角形を作る確率は

3 log 2− 2

(4) (2)のもとで得られた 3本の線分が鋭角三角形を作る条件は T2 の条件に加えて

x2 + y2 > z2, x2 + z2 > y2, z2 + y2 > x2

である.この立体を T3 とする.

T3 の体積 (境界を含む)をもとめる. z = t での切断面において, T2 の切断面から,図 4の

領域 (ハ)一つ,と領域 (ニ)を二つ分を減じたものである.

(ハ)の面積は1

4πt2 − 1

2t2

したがって 0 <= t <= 1 を動かすときその体積は∫ 1

0

(1

4πt2 − 1

2t2)

dt =

[1

12πt3 − 1

6t3]10

=1

12π − 1

6

(ニ)の部分から定まる体積は条件の対称性から (ハ)の部分から定まる体積に等しい.

ゆえに T3 の面積は T2 の体積が1

2であったので,

1

2− 3 ·

{1

12π − 1

6

}= 1− 1

従って 3本の線分が鋭角三角形を作る確率は

1− 1

41

Page 42: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

O

y

x

図 1

1

1

12

12

O

y

x

図 2

1

1

t

t

O

y

x

図 3

1

1

12

12

O

y

x

図 4

1

1

t

t

(イ)

(ロ)

(ハ)

(ニ)

6.2 演習問題

解答 1 問題 1

(1) 12人はそれぞれ 3通りずつの入れ方がある.

312 = 531441 (通り)

(2) 12人のうちどの 8人が A の箱にボールを入れるかが 12C8 = 12C4 = 495通りあり,残る 4

人が B,C の箱に入れる入れ方が 24 = 16通りあるから,求める入れ方は

495× 16 = 7920 (通り)

(3) A,B,C の各箱に入るボールの個数を x, y, z とすると

x+ y + z = 12, x >= 0, y >= 0, z >= 0 · · · 1⃝

1⃝ の解 {x, y, z} の個数が求めるものである.これは 3種類のものから重複を許して 12個

とる方法の数であるから

3H12 = 3+12−1C12 = 14C2 = 91

(4) 「一つ一つのボールを A,B,C の箱のいずれかに入れる」がこれ以上分解でき ない「根元

事象」で,それが同様に確からしい.それらの事象の総数は 312 ある.そのなかで A の箱

にちょうど k 個入るのは (2)と同様に

12Ck × 212−k (通り)

42

Page 43: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

したがって A の箱に 8個以上入るのは12∑k=8

12Ck × 212−k (通り)

これを計算すると 9969(通り)である.

(求める確率) =3C1 · 9969

312=

3323

59049

注意 (4)で次の解答は誤りである.

4個のボールを A,B,C の箱に分けて入れる方法の数は (3)と同じように

3H4 = 3+4−1C4 = 6C2 = 15

通りある.

残る 8個のボールを一緒にして A,B,C のどれかに入れる方法は 3通りあるから

(求める確率) =15× 3

91=

45

91

本問では何が「同様に確からしい」のか.これは「順番に A,B,C の箱のいずれかに入れてい

く行爲」が無作為になされ,その結果「一つ一つのボールが A,B,C の箱のいずれに入るかが同

様に確からしい」としなければならない.

したがって次の三つの事象は同様に確からしい.

(i) 太郎君がボールを A に入れ,次郎君がボールを B に入れ,他の人が C に入れた事象

(ii) 太郎君がボールを B に入れ,次郎君がボールを A に入れ,他の人が C に入れた事象

(iii) 太郎君がボールを A に入れ,次郎君もボールを A に入れ,他の人が C に入れた事象

どの 2人でも同じことであるから,10個が C にはいる事象の中で,A,B に 1個ずつ入る事象の

方が,Aに 2個入る事象の 2倍起こりやすい.ところがこの解では問題の (1)と (2)の事象が同一

視されて,10個が C にはいる事象の中で,A,B に 1個ずつ入る事象と Aに 2個入る事象の確率

が等しいとされてしまうので,間違いである.

解答 2 問題 2

(1) 確率変数X が素数になるという事象を xのように小文字で表す.以下,その他の文字につい

ても同様である.

赤いカードの素数は 2, 3, 5なので

P (x) =3

5

X と Y のそれぞれの値に対して Z のとる値は次のようになる.

Y \X 2 3 4 5 6

7 11 13 15 17 19

8 12 14 16 18 20

9 13 15 17 19 21

10 14 16 18 20 22

11 15 17 19 21 23

43

Page 44: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

このうち Z が素数になるのは,10 通り.

P (z) =10

25=

2

5

(2) Z が素数になるという条件のもとで X が素数になる条件つき確率を Pz(x)と表す.その他

も同様とする.

(1)の表から zが素数で xが素数なのは 6通りある.

P (x ∩ z) =6

25

∴ Pz(x) =6

25÷ 2

5=

3

5

同様に (1)の表から zが素数で yが素数なのは 7通りある.

P (y ∩ z) =7

25

∴ Pz(y) =7

25÷ 2

5=

7

10

(3) P (x) =3

5かつ Pz(x) =

3

5なのでX が素数になるという事象と Z が素数になるという事象

は独立である.

P (y) =2

5かつ Pz(y) =

7

10なので Y が素数になるという事象と Z が素数になるという事象

は独立でない.

(4)

E(X) =1

5(2 + 3 + 4 + 5 + 6) = 4

E(Y ) =1

5(7 + 8 + 9 + 10 + 11) = 9

∴ E(Z) = E(2X + Y ) = 2E(X) + E(Y ) = 17

解答 3 問題 3

(1) A,Bとも 1, 2, 3, 4, 5, 6の場合,ここから 2つを選んで目の和が 3の倍数になるのは

(1, 2) (1, 5) (3, 6) (6, 6)

(2, 1) (2, 4) (4, 5)

(3, 3) (5, 4)

(4, 2) (6, 3)

(5, 1)

で,その確率は12

36=

1

3

44

Page 45: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

次に Aが 1, 3, 4, 5, 6, 8で,Bが 1, 2, 2, 3, 3, 4 の場合,目の和が 3の倍数になるのは,

重なりをそれぞれ書きあげると

(1, 2) (3, 3) (5, 4) (8, 4)

(1, 2) (3, 3) (6, 3)

(4, 2) (6, 3)

(4, 2) (8, 1)

(5, 1)

で,その確率は12

36=

1

3である.

したがってこの試行で目の和が 3の倍数であるという確率は1

2· 13+

1

2· 13=

1

3である.

このうち二つのさいころの目の差が 2以下である事象は,第 1の場合は 8通りあり確率は8

36=

2

9である.第 2の場合は 7通りあり確率は

7

36である.

ゆえに求める条件つき確率は (1

2· 29+

1

2· 7

36

)÷ 1

3=

5

8

(2) 面が 1, 2, 3, 4, 5, 6であるサイコロ 1個を投げたときの目の期待値をX1,

面が 1, 3, 4, 5, 6, 8であるサイコロ 1個を投げたときの目の期待値をX2,

面が 1, 2, 2, 3, 3, 4であるサイコロ 1個を投げたときの目の期待値をX3 とする.

硬貨を投げて表が出たとき同時に投げた二つのさいころの目の和の期待値を Y とすると,

Y = X1 +X1 なので

E(Y ) = E(X1 +X1) = 2E(X1) = 2 · 1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6

6= 7

E(X) =1

2E(Y ) +

1

2E(X2 +X3)

=1

2

(7 +

1 + 3 + 4 + 5 + 6 + 8

6+

1 + 2 + 2 + 3 + 3 + 4

6

)= 7

解答 4 問題 4

(1) 表の出た枚数がX のとき Aか B のいずれかがX + 1をもらう.

Aがもらう賞金の期待値を EA,B がもらう賞金の期待値を EB とする.もらえる賞金は 1

円から 4円である.

EA + EB = 1 · 3C0

(1

2

)3

+ 2 · 3C1

(1

2

)3

+ 3 · 3C2

(1

2

)3

+ 4 · 3C3

(1

2

)3

=5

2

したがって EA = EB なら,EA = EB =5

4でなければならない.EAか EB のいずれかが

5

4となるような kと qの値を求めればよい.

k <= −1なら EB = 0,3 <= kなら EA = 0である.ゆえに k = 0, 1, 2が必要である.

45

Page 46: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(i) k = 0のとき.B が勝ちうるのはX = 0のとき.このとき B が勝つ確率は

3C0

(1

2

)3

× (1− q)

で,賞金は 1点. ゆえに5

4= EB より

5

4= 3C0

(1

2

)3

× (1− q)

0 <= q <= 1の qでこれを満たすものはない.

(ii) k = 1のとき.B が勝ちうるのはX = 0, 1のとき.

X = 0で B が勝つ確率は

3C0

(1

2

)3

で,賞金は 1点.

X = 1で B が勝つ確率は

3C1

(1

2

)3

× (1− q)

で,賞金は 2点.

ゆえに5

4= EB より

5

4= 3C0

(1

2

)3

+ 2 · 3C1

(1

2

)3

× (1− q)

0 <= q <= 1の qでこれを満たすものはない.

(iii) k = 2のとき.Aが勝ちうるのはX = 2, 3のとき.

X = 2で Aが勝つ確率は

3C2

(1

2

)3

× q

で,賞金は 3点.

X = 3で Aが勝つ確率は

3C3

(1

2

)3

で,賞金は 4点.

ゆえに5

4= EA より

5

4= 3 · 3C2

(1

2

)3

× q + 4 · 3C3

(1

2

)3

q =2

3である.

(iv) k = 3のとき.Aが勝ちうるのはX = 3のとき.Aが勝つ確率は

3C3

(1

2

)3

q

46

Page 47: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

で,賞金は 4点.

ゆえに5

4= EA より

5

4= 4 · 3C3

(1

2

)3

× q

0 <= q <= 1の qでこれを満たすものはない.

∴ k = 2, q =2

3

(2) X = 0, 1, 2, 3のそれぞれと,X = 2のときはさらにくじの当たりはずれで場合に分ける

と,Aと B の賞金額が確定する.

X 0 1 2ではずれ 2で当り 3

確率1

8

3

8

3

8· 13=

1

8

3

8· 23=

2

8

1

8

Aの賞金 0 0 0 3 4

B の賞金 1 2 3 0 0

上のゲームを 2回行ったとき,Bの賞金総額が 3円であるのは,0円と 3円か,1円と 2円

場合なので,2回のうちいずれの回にどちらが起こるかを考えると,その確率は

2×{1

8·(2

8+

1

8

)+

1

8· 38

}=

3

16

このとき,Aの賞金総額も 3円であるのは.2ではずれと 2で当りが 1度ずつ起こるときな

ので,

2× 1

8· 28=

1

16

求める条件付き確率は1

16÷ 3

16=

1

3

である.

解答 5 問題 5

(1) 部屋を移る確率は1

3,移らない確率は

2

3である.したがって

PA(n+ 1) =2

3PA(n) +

1

3PB(n)

PB(n+ 1) =1

3PA(n) +

2

3PB(n)

· · · 1⃝

ただし PA(n) + PB(n) = 1である.これから

PA(1) =2

3PA(0) +

1

3PB(0) =

2

3, PB(1) = 1− PA(1) =

1

3

PA(2) =2

3PA(1) +

1

3PB(1) =

5

9, PB(2) = 1− PA(2) =

4

9

PA(3) =2

3PA(2) +

1

3PB(2) =

14

27, PB(3) = 1− PA(3) =

13

27

47

Page 48: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

また,3回で起こりうる持ち点は 4, 2, 0, −2で

持ち点 4 2 −2

部屋 AAA AAB, ABA, BAA BBB

確率(2

3

)3 (2

3

)2(1

3

)+ 2

(2

3

)(1

3

)2 (1

3

)(2

3

)2

E(3) = 4 · 8

27+ 2 · 8

27+ (−2)

4

27=

40

27

(2) (1)に解答あり.

(3) 1⃝ から

PA(n+ 1)− PB(n+ 1) =1

3{PA(n)− PB(n)}

∴ PA(n)− PB(n) =

(1

3

)n

{PA(0)− PB(0)} =

(1

3

)n

PA(n) + PB(n) = 1とあわせて

PA(n) =1

2

{1 +

(1

3

)n}PB(n) =

1

2

{1−

(1

3

)n}(4) k回目の試行による持ち点の増減量をXk とする.

E(n) = 1 + E(X1 +X2 + · · ·+Xn) = 1 +

n∑k=1

E(Xk)

ここで

E(Xk) = 1 · PA(k) + (−1) · PB(k) =

(1

3

)k

∴ E(n) = 1 +

n∑k=1

E(Xk) = 1 +

n∑k=1

(1

3

)k

=

1−(1

3

)n+1

1− 1

3

=3

2

{1−

(1

3

)n+1}

[注]n = 3のとき計算すると,

3

2

{1−

(1

3

)4}

=3

2· 8081

=40

27

(1)ではそれぞれの持ち点に対する確率を計算したが,(4)の方法の方が簡明である.

解答 6 問題 6

48

Page 49: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(1) N = 5のとき.X = 0, Y = 0となるのは,5の目が連続する場合なので

P (X = 0, Y = 0) =1

6· 16=

1

36

一方 Y = 0となるのは,2つの目の出方が

(1, 4), (2, 3), (3, 2), (4, 1), (6, 4), (4, 6), (5, 5)

となる場合なので 7通りある.

∴ P (X = 0)P (Y = 0) =1

6· 7

36̸= 1

36

つまり 2つの確率変数X と Y は独立ではない.

N = 6のとき.X を iに固定する.このとき 2回目に出る目を xとすれば Y = jとなるのは

i+ x = j + (6の倍数)

のとき.この xは x = j − i+ (6の倍数)より j − iを 6で割った余りなのでただ一つである.

∴ P (X = i, Y = j) =1

6· 16=

1

36

一方 Y = jとなるのは,1回目の結果がX = i (i = 0, 1, 2, · · · , 5)のいずれに対しても,2

回目に出るべき目は j − iを 6で割った余りなのでただ一つである.

∴ P (X = i)P (Y = j)

=1

6· 6C1

(1

6

)2

=1

36

つまり 2つの確率変数X と Y は独立である.

(2) N = 3のとき.X を iに固定する.このとき 2回目に出る目を xとすれば Y = jとなるのは

i+ x = j + (3の倍数)

のとき.この xは,x = j − i+ (3の倍数)より j − iを 3で割った余りなので 2つある.

∴ P (X = i, Y = j) =2

6· 26=

1

9

一方 Y = j となるのは,X が i = 1, 2, 3のいずれに対しても,2回目の目は j − iを 3で

割った余りなので 2つある.

∴ P (X = i)P (Y = j)

=2

6· 3C1

(2

6

)2

=1

9

つまり 2つの確率変数X と Y は独立である.

N = 4のとき.X = 0, Y = 0となるのは,4の目が連続する場合なので

P (X = 0, Y = 0) =1

6· 16=

1

36

49

Page 50: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

一方 Y = 0となるのは,2つの目の出方が

(1, 3), (2, 2), (3, 1), (6, 2), (5, 3), (4, 4), (3, 5), (2, 4), (6, 6)

となる場合なので 9通りある.

∴ P (X = 0)P (Y = 0) =1

6· 9

36̸= 1

36

2つの確率変数X と Y は独立ではない.

N >= 7のとき.X = 6のとき,Y = 6となることはない.

∴ P (X = 6, Y = 6) = 0

一方 Y = 6となるのは,2つの目の出方が

(1, 5), · · ·

といくつかあり,P (X = 6) =1

6なので

P (X = 6)P (Y = 6) ̸= 0

つまり 2つの確率変数X と Y は独立ではない.

解答 7 問題 7

(i)

P (X = 0) = (1− a)(1− b)

P (X = 1) = a(1− b) + (1− a)b

P (X = 2) = ab

であるから

(1− a)(1− b) = (1− p)2

a(1− b) + (1− a)b = 2p(1− p)

ab = p2

となる a, bが存在するかどうかが問題である.

この第 2,第 3式を加えることで,a+ b = 2p.a+ b = 2p, ab = p2 は第 1式も満たす.

よって,aと bは

t2 − 2pt+ p2 = 0

の 2解となる.これから」a = b = p.pは 0 < p < 1なので,0 < a, b < 1も満たされて

いる.

任意の p (0 < p < 1)に対して,条件を満たす aと bが存在する.

50

Page 51: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(ii) 同様に考え

(1− a)(1− b) =1

3

a(1− b) + (1− a)b =1

3

ab =1

3

とならねばならない.これから a+ b = 1が必要である.aと bは

t2 − t+1

3= 0

の 2解となるが,これは実数解をもたない.よって条件を満たす aと bは存在しない.

解答 8 問題 8

(1) 色の変化が起こる場所 (電球と電球の間と考えればよい)は n− 1通りある.1つの場所で色

が変化する確率は青赤か赤青なので

1

2· 12+

1

2· 12=

1

2

ゆえに 1回だけ色が変化する確率は

n−1C1

(1

2

)n−1

左端が赤色の場合と青の場合が1

2ずつなので,求める確率は

n− 1

2n

(2) 1つの場所で色が変化しない確率も1

2である.ゆえに n − 1カ所で色が変化しない確率は

1

2n−1である.

また 1回変化する確率は n−1C1

2n−1である.

したがって色の変化が少なくとも 2回起きる確率は,

1−(n− 1

2n−1+

1

2n−1

)= 1− n

2n−1

(3) 同様に考えn−1Cm

2n−1

(4) 色の変化の回数をX とおく.

E(X) =

n−1∑m=1

mn−1Cm

2n−1=

1

2n−1

n−1∑m=1

mn−1Cm

51

Page 52: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

=1

2n−1

n−1∑m=1

m(n− 1)!

(n− 1−m)!m!=

1

2n−1

n−1∑m=1

(n− 1)(n− 2)!

{n− 2− (m− 1)}!(m− 1)!

=1

2n−1

n−1∑m=1

(n− 1)n−2Cm−1 =n− 1

2n−1

n−2∑k=0

n−2Ck

=n− 1

2n−12n−2 =

n− 1

2

注意

二項整数の性質

knCk = nn−1Ck−1 (1 <= k <= n− 1)

を用いている.上のように直接計算 (これが方法 1)してもよいが次のようにも示せる.

方法 2

二項定理より

(1 + x)n =

n∑k=0

nCkxk

この両辺を x で微分する.

n(1 + x)n−1 =

n∑k=1

knCkxk−1

両辺の xk−1 の係数を比較して

nn−1Ck−1 = knCk (1 <= k <= n− 1)

方法 3

n 人から k 人の委員とその中の委員長を選ぶ選び方を考える.

n 人から k 人の委員をまず選び, k 人の中から委員長 1人を選ぶ,とすると,nCk × k 通

りの選び方がある.

n 人から委員長を先に選び,その後 n − 1 人から残る k − 1 人の委員を選ぶ,とすると,

n× n−1Ck−1 通りの選び方がある.

∴ knCk = nn−1Ck−1 (1 <= k <= n− 1)

(4)の別解

確率変数Xk を

Xk =

{1 (k番目の場所で変化する)

0 (k番目の場所で変化しない)

で定める.

X = X1 +X1 +X2 + · · ·+Xn−1

である.また

E(Xk) = 0 · 12+ 1 · 1

2= ·1

2

である.

∴ E(X) =

n−1∑k=1

E(Xk) =n− 1

2

52

Page 53: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

解答 9 問題 9

(1) n = 1のとき,Bが勝つのは,1を引いて勝つか,または,0を引いて Aの立場になりそこ

からは確率 p1で勝つときである.Aが勝つのは,Bが最初に 0を引いて,Bの立場になりそ

こからは確率 q1 で勝つときである.

q1 =1

2+

1

2p1, p1 =

1

2q1

これを解いて

p1 =1

3, q1 =

2

3

同様に考え

q2 =2

3+

1

3p2, p2 =

1

3q2

より,

p2 =1

4, q2 =

3

4

(2) 同様に考え n >= 3のとき, pn =

1

n+ 1qn +

n

n+ 1pn−2

qn =1

n+ 1pn +

n

n+ 1qn−2

2式の辺々加えて計算すると,

pn + qn = pn−2 + qn−2

となる.nが奇数が偶数かで分けて考え,(1)の結果より,

pn + qn = p1 + q1 = 1, pn + qn = p2 + q2 = 1

である.これから,qn = 1− pn なので,

pn =1

n+ 1(1− pn) +

n

n+ 1pn−2

これより (n+ 2)pn − npn−2 = 1 (n = 3, 4, 5, · · ·)を得る.

(3) (2)より,nが偶数のとき,n = 2mとおくと 2(m+ 1)p2m − 2mp2(m−1) = 1となるので,

m∑k=2

{2(k + 1)p2k − 2kp2(k−1)

}= 2(m+ 1)p2m − 4p2 = m− 1

したがって (n+ 2)pn =n

2である.

同様に nが奇数のとき,n = 2m+ 1とおくと (2m+ 3)p2m+1 − (2m+ 1)p2m−1 = 1となる

ので,m∑

k=1

{(2k + 3)p2k+1 − (2k + 1)p2k−1} = (2m+ 3)p2m+1 − 3p1 = m

53

Page 54: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

したがって (n+ 2)pn =n− 1

2+ 1である.よって,

pn =

n

2(n+ 1)(n :偶数)

n+ 1

2(n+ 2)(n :奇数)

解答 10 問題 10

(1) 太郎君の硬貨が n 枚のときから始めて花子さんの硬貨が 0枚になるのは,太郎君がジャンケ

ンに勝って n+ 1 枚の硬貨になった後花子さんの硬貨が 0枚になるか,太郎君がジャンケン

に負けて n− 1 枚の硬貨になった後花子さんの硬貨が 0枚になるか,である.

∴  An =2

5An+1 +

3

5An−1  · · · 1⃝

(2) 題意より A0 = 0, A5 = 1 である.

1⃝ から An+1 −An =

3

2(An −An−1)

An+1 −3

2An = An − 3

2An−1

従って An+1 −An =

(3

2

)n

(A1 −A0)

An+1 −3

2An = A1 −

3

2A0

これから1

2An =

(3

2

)n

A1 −A1

A5 = 1 より A1 =16

211

∴  A2 = 2 ·(9

4− 1

)· 16

211=

40

211

これがこのゲームで太郎君の勝つ確率である.

解答 11 問題 11

54

Page 55: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

図のように,点 Q~点 Tをとる.点 Pから点

Tのそれぞれのところから,柱のある所に行く確

率を p, q, r, s, tとする.

点Pにいるとき,海に落ちないためには次の一

歩でQか Rに行かねばならず,Qか Rに行きつ

けば,そこから柱のある所に行く確率は q,r で

ある.よって

p =1

4q +

1

4r

が成り立つ.点 Sにいるときは,そこからただち

に Aにも行けるので,それを考え

●※

※ ※

P

A

Q

R S

T

s =1

4q +

1

4r +

1

4

が成り立つ.他も同様であるから,p, q, r, s, tに関する連立 1次方程式

p =1

4q +

1

4r

q =1

4p+

1

4s

r =1

4p+

1

4s+

1

4t

s =1

4q +

1

4r +

1

4

t =1

4r +

1

4

が成り立つ.sと tを消去することにより

p =1

4q +

1

4r

q =1

4p+

1

16q +

1

16r +

1

16

r =1

4p+

1

16q +

1

16r +

1

16+

1

16r +

1

16

=1

4p+

1

16q +

1

8r +

1

8

さらに第 1式から r = 4p− q.これを第 2,第 3式に代入することにより pと qの方程式{52p− 15q = 2

−8p+ 16q = 1

を得る.これを解いて p =47

712を得る.これが Pにいる酔っ払いが海に落ちることなく柱のある

所に行く確率である.

【解説】本問の場合,nに関する漸化式を立てる方法も考えられる.

n回の試行の後に海に落ちることなく点 P~点 Tのそれぞれにいる確率を pn, qn, rn, sn, tnと

する.すると次の連立漸化式が成り立つ.

55

Page 56: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

この連立漸化式の作り方と,解答の連立方程式の作り方の違い,つまり,前に進むか後ろを考え

るか,の違いに注意しよう.

pn =1

4qn−1 +

1

4rn−1

qn =1

4pn−1 +

1

4sn−1

rn =1

4pn−1 +

1

4sn−1 +

1

4tn−1

sn =1

4qn−1 +

1

4rn−1

tn =1

4rn−1

そして,初期条件が

p0 = 1, q0 = r0 = s0 = t0 = 0

である.

もしこれで sn,tnが求まれば,求める確率は,何回目かの後,Sか Tにいて,かつそこから A

に行く確率なので,1

4

∞∑n=3

(sn + tn)

となる.

ところが,この連立漸化式が簡単には解けない.このとき,nに関する漸化式を立てるという方

法の他に,「ある状態から始めてある結果が出る確率」を文字において,1回の試行での状態の変化

をもとに,確率の連立方程式を立てるという方法がある.これが本問の解答の方法である.

解答 12 問題 12

(1) ただし書きより,題意を満たす円 C の中心が存在する領域の一つの正方形内部にある部分

が,正方形に対して占める比が,求める確率である.図 3のように

(i) h > 2 のときは正方形の 1つの頂点に対して,1辺 1の正方形の内部が中心の存在しう

る範囲.

∴ p =4

h2

(ii) 2 >= h >= 1 のときは,円が他の頂点を通る直線と共有点をもたない範囲なので正方形の

1つの頂点に対して,1辺 h− 1 の正方形の内部.

∴ p =4(h− 1)2

h2

(iii) h > 1 のときは明らかに p = 0

1h− 1図 1

56

Page 57: 確率の基本aozoragakuen.sakura.ne.jp/PDF/probability.pdf確率の基本 青空学園数学科 2019 年10 月14 日 近年,確率の苦手な人が増えた.確率の問題を,正しいのか間違っているのかよくわからないま

(2) 同様の理由で,半径√2+ 1 の円の中心を結ぶ正三角形の内部に占める,円 C の存在領域の

比が求める確率である.

A

B

図 2

θ

√2 + 2 2

√2 + 2

図 3

O

O1

Q

図 2で AB の長さを求める.

AB = 2√3(√2 + 1)− 2(

√2 + 1) = 2 ·

√3− 1√2− 1

> 1

したがって円 C が 4つの円と交わることはない.

点 P を中心とする半径√2+ 1 の円と円 C が共有点をもつのは,C の中心が P を中心とす

る半径√2の円の外部,半径

√2 + 2の円の内部にあればよい.

したがって C が 3円と交わるのは,図 3の斜線の領域に C の中心が来るときである.この

面積を求める.

領域上の境界の点 Q を座標を入れて

Q((√2 + 2) cos θ, (

√2 + 2) sin θ)

とおく. QO1 も√2 + 2 なので

(√2 + 2)2 = {(

√2 + 2) cos θ(2

√2 + 2)}2 + {(

√2 + 2) sin θ}2

これを解いて cos θ =1√2.ゆえに θ =

π

4.

したがって,求める領域を原点から見る角度はπ

6である.

領域の Q など各頂点を結ぶ正三角形の 1辺の長さを x とおく.△QOO1 についての余弦定

理より

x2 = 2(√2 + 2)2 − 2(

√2 + 2)2 cos

π

6= 2(

√2 + 2)2

(1−

√3

2

)正三角形の外にある爪形の面積 s は

s =1

2· π6(√2 + 2)2 − 1

2· sin π

6(√2 + 2)2 = (

√2 + 1)2

6− 1

2

)ゆえに求める面積 S は

S =1

2·√3

2x2 + 3s = (

√2 + 1)2

2+

√3− 3

)∴ q =

S

1

2·√3

2{2(

√2 + 1)}2

=

√3π

6+ 1−

√3

57