糸球体病変に乏しく著しい尿細管間質性腎炎を 呈し...

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北里大学病院 腎臓内科 Key Word:尿細管間質性腎炎,全身性エリテマトーデス,免 疫複合体形成 症  例 症 例:66 歳 男性 主 訴:腎機能障害の指摘された。 現病歴:1992 年に尋常性乾癬と診断された。 1996 年に痛風発作を発症し,その後も発作を 繰り返していた。2009 4 月両側手・肘・肩・ 腰・膝・足にも関節痛を自覚した。血小板数 7.6 万/μ L,血清クレアチニン(Cr)値 0.97mg/ dlCRP0.63mg/dlANA640x,抗 dsDNA 抗体 288IU/mlCH50<5U を認めました。SLE を疑 われたが,ステロイド治療は行わず,半年間 で抗 dsDNA 抗体は 20IU/ml まで自然に低下し た。その後も関節痛は持続し痛散湯とロキソニ ンテープ 100mg で対応していた。腎機能障害 は徐々に増悪し,血清 Cr2.1mg/dl となったため 2012 9 月腎生検を施行した。 既往歴:特記事項なし アレルギー歴:なし 家族歴:腎疾患・自己免疫疾患の家族歴なし 父:糖尿病(92 歳で死亡),母:詳細不明(72 歳で死亡) 生活歴:喫煙:20 本/日 40 年間(20-60 才) 飲 酒: 缶ビール 3 4 本 / 日×約 46 年間(20 歳~) 入院時現症: 身長 169cm,体重 67kg意識清明, 体温 36.6℃,血圧 111/76mmHg,脈拍 73/分(整), 眼瞼結膜:貧血(-),眼球結膜:黄疸(-),視 力障害:なし,視野障害:なし,口腔:異常な し,扁桃:腫大なし,甲状腺:腫大なし,表在 リンパ節:触知せず,心音:純,肺野:背底部 に捻髪音あり,腹部:圧痛なし,肝胆脾腎:触 知せず,両下肢:浮腫なし,両肘・膝・手指Ⅳ Ⅴ指,右前頸部・左大腿外側に尋常性乾癬あり。 糸球体病変に乏しく著しい尿細管間質性腎炎を 呈したSLEの1例 島 田 芳 隆  青 山 東 五  竹 内 和 博 若 新 芙 美  酒 井 健 史  田 中   圭 岡 本 智 子  佐 野   隆  竹 内 康 雄 鎌 田 貢 壽 - 84 - 腎炎症例研究 30 巻 2014 年 - 84 -

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Page 1: 糸球体病変に乏しく著しい尿細管間質性腎炎を 呈し …...またmesangiumの一部に補体,C1q,C3も認 めております。尿細管基底膜に一致してC1q,C3が陽性となっております。また尿細管上皮

北里大学病院 腎臓内科 Key Word:尿細管間質性腎炎,全身性エリテマトーデス,免疫複合体形成

症  例症 例:66歳 男性主 訴:腎機能障害の指摘された。現病歴:1992年に尋常性乾癬と診断された。

1996年に痛風発作を発症し,その後も発作を繰り返していた。2009年4月両側手・肘・肩・腰・膝・足にも関節痛を自覚した。血小板数7.6万/μL,血清クレアチニン(Cr)値0.97mg/ dl,CRP0.63mg/dl,ANA640x,抗dsDNA抗体 288IU/ml,CH50<5Uを認めました。SLEを疑われたが,ステロイド治療は行わず,半年間で抗dsDNA抗体は20IU/mlまで自然に低下した。その後も関節痛は持続し痛散湯とロキソニンテープ100mgで対応していた。腎機能障害は徐々に増悪し,血清Cr2.1mg/dlとなったため2012年9月腎生検を施行した。既往歴:特記事項なしアレルギー歴:なし家族歴:腎疾患・自己免疫疾患の家族歴なし

父:糖尿病(92歳で死亡),母:詳細不明(72

歳で死亡)生活歴:喫煙:20本/日40年間(20-60才)飲 酒:缶ビール3~ 4本/日×約46年間(20

歳~)入院時現症:身長169cm,体重67kg,意識清明,

体温36.6℃,血圧111/76mmHg,脈拍73/分(整),眼瞼結膜:貧血(-),眼球結膜:黄疸(-),視力障害:なし,視野障害:なし,口腔:異常な

し,扁桃:腫大なし,甲状腺:腫大なし,表在リンパ節:触知せず,心音:純,肺野:背底部に捻髪音あり,腹部:圧痛なし,肝胆脾腎:触知せず,両下肢:浮腫なし,両肘・膝・手指ⅣⅤ指,右前頸部・左大腿外側に尋常性乾癬あり。

糸球体病変に乏しく著しい尿細管間質性腎炎を呈したSLEの1例

島 田 芳 隆  青 山 東 五  竹 内 和 博若 新 芙 美  酒 井 健 史  田 中   圭岡 本 智 子  佐 野   隆  竹 内 康 雄鎌 田 貢 壽

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腎炎症例研究 30巻 2014年

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Page 2: 糸球体病変に乏しく著しい尿細管間質性腎炎を 呈し …...またmesangiumの一部に補体,C1q,C3も認 めております。尿細管基底膜に一致してC1q,C3が陽性となっております。また尿細管上皮

尿一般比重 1.015PH 5.5 蛋白 (1+)蛋白定量 0.28g /g・Cr潜血 (-)糖 (-)赤血球 <1/HPF白血球 1.1/HPF円柱 なしBJP 陰性

尿生化学Osmo 568 mOsm/kgCr 109 mg/dlNa 131 mEq/LK 42 mEq/L NAG 13.1 U/LFENa 1.9 %FEUN 39.8 %

血算WBC 8.1×10³ /μLRBC 4.07 ×10⁶ /μLHb 13.3 g/dLPlt 13.8×10⁴ /μL網状赤血球 21.8 ‰

凝固系PT-INR <1.00APTT 21.0 secFIB 368 mg/dL

生化学TP 6.9 g/dLAlb 3.6 g/dLAST 27 IU/LALT 15 IU/L ALP 158 U/Lγ-GTP 60 U/L LDH 208 I U/L CK 158 I U/L UN 23.7 mg/dLCr 2.2 mg/dL(eGFR 24.6 mL/min)

UA 7.7 mg/dLNa 138 mEq/LK 3.9 mEq/LCl 108 mEq/LCa 8.2 mg/dLP 3.2 mg/dLMg 2.0 mg/dL

免疫CRP 0.22 mg/dL

IgG 1852 mg/dL (IgG4 32.1 mg/mL)

IgA 146 mg/dLIgM 154 mg/dL 抗RNP抗体 (-)抗Scl抗体 (-)抗sm抗体 (-)抗SS-A抗体 (-)抗SS-B抗体 (-)抗ds-DNA抗体 (-)

抗CL-β2GPI (-)カルジオリピンIgG抗体 18 U/mlループスアンチコアグラント 1.16 MPO-ANCA (-)C3 40 mg/dLC4 <2 mg/dL CH50 <5 U/mL免疫複合体 17.1クリオグロブリン (-)

感染症TPLA(-) RPR(-) HBsAg(-) HCVAb(-)

DLST:痛散湯・ロキソニンテープ 陰性

入院時検査所見

図 1

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図 2

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PAS x400 PAM x400

図 3

図 4

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PAM x200 Masson x100

図 5

IgG IgA

IgM

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図 6

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図 7

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図 8

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図 9

図 10

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CH50*10 C4*10

C3*10 Cr

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CH50

C3 C4

Cr

図 11

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1 52 F ARF UP 2㸩 + + + + 䠇 䠇 䠇 TBM

2 23 F RTA UP - + + + 䠇 -

3 30 F ARF UP - + + + + 䠇 䠇 䠇 M

4 42 F ARF UP ± + + + + 䠇 + + + 䠇 -

5 24 F ARF UP 㸩 + + + 䠇 䠇 䠇 + -

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7 3 M CKD UP 㸩 + + + + 䠇 䠇 䠇 䠇 -

8 25 F ARF UP 㸩 + + + 䠇 -

9 59 M ARF UP ± + + + 䠇 䠇 䠇 + TBM

10 30 F CKD UP ± + + + 䠇 䠇 + -

11 64 M CKD UP ± + + 䠇 䠇 + TBM

EDD:electron-dence deposits, TBM:tubular basement membrane, M:mesangium

結  語本例は糸球体病変に乏しく,糸球体病変をもってループス腎炎と診断することは困難であった。一方,著しい尿細管間質性病変を認め,尿細管基底膜に一致して IgG,IgA,C1q,C3が染色され,尿細管上皮細胞に一致して補体C4が染色された。この所見をもって尿細管間質性腎炎をループス腎炎として良いかご教示を頂きたい。

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討  論 島田 よろしくお願いします。「糸球体病変に乏しく,著しい尿細管間質性腎炎を呈したSLE

の一例」を報告させていただきます。 症例は66歳男性で,主訴は腎機能障害を指摘され,当院に来ています。 現病歴は,1992年に尋常性乾癬,1996年に痛風発作を発症し,その後も発作を繰り返しておりました。2009年4月に両側の手・肘・肩・腰・膝・足に関節痛を自覚し,そのときに血小板7.6万,血清クレアチニン0.97,CRP0.63,ANA640×,抗dsDNA抗体が288と,CH50<5U

を認めております。SLEを疑われましたが,ステロイド治療を行わず,半年間で抗dsDNA抗体は20まで低下し,その後も関節痛は持続し,痛散湯とロキソニンテープで対応しておりました。腎機能障害は徐々に増悪し,血清クレアチニンが2.1となったため,2012年9月に腎生検を施行しました。 既往歴,アレルギー歴,家族歴は,特記すべきことはなく,腎疾患の家族歴,自己免疫性疾患の家族歴はありません。 生活歴では,喫煙20本/dayを40年間,缶ビールを3から4本,毎日飲んでおります。 入院時現症では,身長169cm,体重67kg,体温,バイタルともに特に問題なく,貧血,黄疸もありません。視力障害,視野障害もなく,口腔も扁桃腫大もなく,甲状腺腫大もありません。表在リンパも触知せず,特に特記すべき所見はありませんでした。両肘,膝,手指Ⅳ,Ⅴ指,右前頸部,左大腿外側に尋常性乾癬が認められております。 入院時の検査所見では,NAGが13.1と高値。蛋白尿は1(+)でありました。 次に血算,凝固,生化学です。赤字部分が異常値です。低アルブミン血症と腎機能障害,あとは高尿酸血症が認められております。 免疫系と感染症,DLSTを表示します。IgG

は1852とやや高値で IgG4が32.1,抗カルジオ

リピン抗体陽性,低補体血症と免疫複合体が17.1と高値,クリオグロブリンは陰性でした。DLSTで,痛散湯,ロキソニンテープでは陰性を確認しております。 次に入院時の画像所見では,胸部レントゲンでは特記すべき事項はなく,ガリウムシンチでは,腎臓に異常集積を認めました。 腎生検の所見に移らせていただきます。尿細管間質にはびまん性に著明な単核球主体の細胞浸潤を認めております。 糸球体の約3分の1が全節性硬化に陥っており,mesangium細胞の増殖を軽度認める以外は特記すべき所見はありませんでした。 次に蛍光抗体法ですが,mesangiumの一部にIgG,IgA,IgMが陽性で,一部の尿細管基膜に一致して,IgG,IgAが陽性でした。 またmesangiumの一部に補体,C1q,C3も認めております。尿細管基底膜に一致してC1q,C3が陽性となっております。また尿細管上皮細胞に一致してC4が陽性を示しました。 次に電子顕微鏡所見です。上から間質,尿細管基底膜,内側が尿細管上皮細胞となっております。糸球体は電子顕微鏡の標本に見られなかったので評価はできないのですけれども,尿細管基底膜内に高電子密度物質の沈着を認めております。 次に IgG・IgG4の免疫染色を施行しましたが,IgG4は染色されておらず,陰性と判断しました。 ここで免疫複合体性の尿細管間質性腎炎を合併する疾患を挙げてみました。lupus腎炎,クリオグロブリン血症,シェーグレン症候群,MCTD,IgG4関連症候群,IgA腎症,膜性増殖性腎炎,感染性糸球体腎炎,移植腎などが挙げられます。今回の検査でクリオグロブリンは陰性で,シェーグレン症候群については,ドライマウスは認めず,SSA,SSBともに陰性でした。MCTDに関しても,特異抗体は陰性で,IgG4

関連腎炎は,IgG4,32と診断基準の必須要件を満たさず,IgG4の染色所見から除外しまし

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た。IgA腎症,膜性増殖性腎炎,感染性腎炎,感染糸球体腎炎に関しては,糸球体病変がそれぞれの疾患と一致しませんでしたので否定しました。 以上の除外診断から,ループス腎炎に合併した尿細管間質性腎炎と診断し,治療を開始しました。 治療経過ですけども,今回SLEによる尿細管間質性腎炎と診断し,ステロイド40mg/dayで内服を開始し,ステロイド30mg/dayと減量しています。治療開始後,補体C3,C4,CH50で正常化が見られるようになり,現在,ステロイド20mgで,腎機能の障害の増悪もなく経過しています。 このスライドでは,尿細管障害が優位なlupus腎炎の症例報告をまとめております。尿細管障害が優位なループス腎炎の症例報告は11例ありまして,60歳以下の女性の報告が多いです。急性腎不全を呈する症例のほか,慢性経過で発症する症例も見られます。尿所見は軽度の症例が多く認められました。光顕所見では,尿細管間質の線維化と炎症細胞浸潤が全例に見られ,尿細管萎縮も見られております。糸球体所見は,mesangium増殖所見が見られる症例をわずかに認めました。 蛍光抗体法では,尿細管基底膜に IgG,IgM,C3が主に結合し,C1qは11例中5例に結合しております。mesangium領域への結合は,一部の症例でした。 電子顕微鏡所見では尿細管基底膜への高電子密度物質の沈着物の症例が3例,mesangium領域は2例認めております。 全ての症例が中等度のステロイド治療に反応が良好で,再発が少ないと報告されております。 結語です。本症例は糸球体病変に乏しく,糸球体病変をもって lupus腎炎と診断することは困難であった。一方,著しい尿細管間質性病変を認め,尿細管基底膜に一致して IgG,IgA,C1q,C3が染色され,尿細管上皮細胞に一致して補体C4が染色されております。

 この所見をもって,尿細管間質性腎炎をlupus腎炎として判断してよいものかどうか,ご教示お願いいたします。以上です。座長 どうもありがとうございました。 本症例につきまして,臨床的に何かご質問はありますでしょうか。菊池 横須賀共済病院腎臓内科の菊池と申します。 SLEの病性を反映するときに,malar rashとかdiscoid rash,あるいは脱毛といったような病変は,この患者さんはどうでしょうか。島田 皮膚所見については,顔が少し赤い程度で,butterfly rush等はありませんでした。菊池 脱毛はどうでしょうか。島田 脱毛も特に認めてはおりません。菊池 ありがとうございます。座長 そのほかに何かございますか。金綱 慈恵医大柏病院,病理の金綱と申します。 高尿酸血症のある年配の男性ということで,1項目だけ除外として確認させていただきたいのですが,この方は,特に腎臓のほうには尿酸沈着は否定してよいとお考えでしょうか。島田 はい。そうです。所見としては認められておりません。金綱 はい。どうもありがとうございます。座長 そのほかに何かございますか。よろしいですか。では,病理の先生のご意見を伺いたいと思います。山口先生,よろしくお願いいたします。山口 この症例を最初に見たときには,最近話題になっていますG4関連腎症と,どういうふうに鑑別をすべきなのかなというのは,私も最初はちょっと悩みました。もちろん間質型のループス腎炎というのは,まれにわれわれも経験がある。ただ,症例によっていろいろなフェーズと言いますか,びまん型だったり,同じようなフェーズで比較的cellularな細胞浸潤が主体で,それがdominantな場合,あるいはpatchy

で線維化が優位な場合もあるんですけれども,G4との絡みで,どういうふうに鑑別していく

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かという話が中心になると思います。【スライド01】2本採られているのですが,G4

も同じなんですけれども,全体に採られたneedle biopsy全体に尿細管間質病変がこういうように広がっているというのも,G4でも同じように見られます。ですから,これだけ見ると区別がつかないんです。例えば,G4ですと,もう1本あって,全く知らん顔しているようなところがとられてくると,G4っぽいなということになります。 それから,もう一つは炎症が,尿細管間質病変というのは腎内に大体限局しているんですが,後腹膜線維症とかなんとかで,いわゆる皮膜外に炎症が及んでいる場合が多々あります,G4の場合は。髄質はあまりとられていないので,優位なことは言えないんですが,普通の尿細管間質病変というのは,outer medullaぐらいまでで,inner medullarのほうには行きませんので,そちらに炎症があれば,やはりG4かなという感じになります。 なんとなくリンパ濾胞様の集積が,この症例は散在性に見られています。【スライド02】皮膜外に行っているのかどうかという問題です。ここが皮膜のコラーゲンが見えていますので,これだけ見ると,皮膜外に炎症が波及しているようには見えません。それから濾胞様の構造はあります。だいぶ尿細管が壊れて,糸球体もつぶれて線維化が出てきてしまっています。糸球体は周りの圧迫でcollapse

しています。【スライド03】それから,ちょっと髄質に近いところの炎症の波及です。これが糸球体の可能性はありますけれども,vasa rectaがこの辺にありますので,outer medullaぐらいまでは炎症と線維化が及んでいる感じはいたします。【スライド04】一つ違和感があったのは,濾胞様の構造があるんですが,ちょっと分かりづらいんですけど,ヘモジデリンじゃないんですが,ちょっと断面だと見えないです。出血の痕みたいに,ヘモジデリンみたいなものが,ところど

ころ,macrophagesに貪食されたように見えているところがありました。【スライド05】それから,比較的フレッシュな

cellularな線維化の少ないところです。G4も同じように,あまり tubulitisというのは顕著じゃないんです。1個か2個ぐらいは,こういうように入っていますので,これだけではどっちなんだということは言えません。それから,エオジノが一緒に混ざってくることはあるのですが,これだと,あまりリンパ球プラズマ系が主体のように思います。【スライド06】糸球体は全く先ほどと同じで,年寄りのmesangiumのmatrixがfibrousなものに変わってしまうので,60歳以上かなと。少しcapillaryの中に炎症がありますけれども,ほとんど所見がないように思います。plasma cellが多くて,リンパ球も一緒に混ざっております。【スライド07】それから,この辺もplasma cell

が多いんです。後でも出てくるんですが,気になったのは組織球と言いますか,ちょっとgiant cell様の組織球が,ここだとちょっとはっきりしないです。尿細管炎は軽いということは,ここにも尿細管上皮内にリンパ球が2,3個入っていますから,マイルドな tubulitisということが言えると思います。【スライド08】あと,fibrosisの形態を,われわれはbirds eyeパターンとか,教科書的に最近は,storiform patternといって,病理は,花むしろ様というのはよく腫瘍で使うのですが,確かに線維化がだいぶ広がっていることは間違いないです。 それから,この萎縮した尿細管にdepositive

なものが出てくるということが多いんですが,この症例はちょっとはっきりしませんでした。電顕的にはdense depositはあります。【スライド09】ここなんです。遠くから見ると,分からないかもしれない。giant cellみたいなのがあるんです。それから,ここも組織球で大きなやつが,こういうように。ですから,lupus

の腎炎だろうとは思うんですが,それプラス何

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腎炎症例研究 30巻 2014年

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か,ちょっとgranulomatousな病変がありますので,薬剤とかといったものも一緒に混ざっているのかなという印象です。【スライド10】fibrosisが強くなりますと,細動脈の硝子化とか,だいぶ強くはなります。その辺は似てはいるんです,締め付けも強いんで。【スライド11】銀のパターンなので,確かに

plasma cellを囲むような,いわゆるbirds eyeに近いような。ただ,そんなにきれいではありません。こういうパターンはG4でも出てきます。【スライド12】ちょっとそういうパターンが崩れてしまっているかなという感じです。ですから,ぱらぱらとあって,線維化があまり十分ではないような場所も多いです。ただ,銀の染め方にもよりますので,一概になんだということは言えないように思います。【スライド13】こういうように,ほとんど銀繊維があまり出てきていないような間質炎の場所もある。なんとなくびまん性にわっと炎症細胞が広がっているというところです。【スライド14】これもそうです。あまり銀の関与がないということで,ぱらぱらプラズマ,リンパ球がびまん性に広がって,一部granulomatousになっている。【スライド15】ちょっとしつこいようで,あまり銀の発達がない様子。【スライド16】先ほどのgiant cellは,これです。これをどうとるかは,なかなか難しいんですが,この辺に組織球様のものが,ちょっと関与しているので,lupusだと肉芽腫性にはあまりならないわけで,これがなんなのかよく分かりませんけども。【スライド17】われわれは,extra glomerular

depositsというのは,lupus腎炎で染めますと3

割ぐらいはあるんです。一番多いのがTBMです。それから,peritubular capillariesとか,そんなところについてくるわけで,IgGとか,IgA

です。IgMはあまりはっきりしない。【スライド18】それから,C3もよく。ただ,この症例はC1qがTBMに意外ときれいに。ま

あ,上皮側にも出てしまっているのかもしれないです。C4はあまりはっきりしません。extra glomerular deposits。ただ,G4でも,IgGが1,4とか,C3,C1qが一緒に出ますので,これだけではなかなか鑑別は難しいように思います。【スライド19】電顕はこれしかなくて,TBMに

dense depositが一部塊をなして見られている。ただ,間質のほうにはないです。G4ですと,固有間質のほうにもdepositがあるし,TBM

もmassiveにくる場合もあります。この辺もdepositなので,ここだけの写真しかないので,どの程度かというのは分かりません。これは近位尿細管上皮だろうと思います。【スライド20】基本的には tubules interstitial

nephritisでdiffuseなので,G4とは言えなくて,先ほどG4を染めてnegativeですから,当然G4

は考えられない。lupus腎炎だろうというんですが,granulomatousな反応が一部ありますので,それ以外の関与の可能性もあると思います。【スライド21】ちょっと巨細胞は取り過ぎだと言われるかもしれませんけど。以上です。座長 ありがとうございました。重松先生お願いします。重松 この症例は間質の病変が立派なもので,やはり山口先生と同じように IgG4関連というものを,鑑別の一つにおかなければいけないと思いまして,それを中心に調べました。【スライド01】とにかく糸球体があることは分かるんですが,あとはびっしりとこういう単核の細胞の浸潤であります。間質病変がメーンだというのは分かります。【スライド02】それで,この細胞の浸潤と,残った尿細管群と,つぶれてしまった尿細管群。その中に一見それほど障害を受けていない糸球体が見られるという配置と言いますか,そういう構成でできています。【スライド03】山口先生もおっしゃっていたように,結構形質細胞が目立つんです。特にHE

の色が悪くなってしまって申し訳ないんですけど,HEで見ると,一番血球細胞の区別がよく

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分かります。あまり異型のない形質細胞が増殖をしています。【スライド04】そして,peritubular capillaritisもちょっと軽いけどある。軽い尿細管炎もある。このびっしりと細胞があるところは,ちょっと線維が増えているかなということが気になります。【スライド05】糸球体のほうはご覧のように,ちょっと管内に細胞が流れていますけれども,取り立てて激しい腎炎というものはない。mesangiumの軽度の増殖があるということが言えます。【スライド06】中に一つ係蹄血管内に血栓と言えるかどうか分かりませんけど,debrisを入れた,詰まったものが認められました。これはほかの標本でもあるんですかね。【スライド07】PAMでもある。【スライド08】それから,もう一つ,普通,腎生検を見ていますと,動脈があると静脈はすぐそばにあるんです。この場合には,静脈の位置がずれている。周りに細胞と線維性のものがあるような変化が見られます。IgG4の関連腎症で,よく静脈が周りの線維症でつぶされてしまうことが結構あるようで,そういう変化があるんじゃないかというので,ちょっとチェックをしました。【スライド09】PAS染色で見ると,静脈の周りが放射状というのかな,細線維が増えているように見えます。【スライド10】PAM染色をやると,それがよく分からない。【スライド11】けど,やはり細かいとfiberはどうも増えているようです。【スライド12】Massonで見ても,あまりはっきりした線維症がないということで,やはり間質の線維化というのは,IgG4で山口先生が報告されている,ああいう特異なパターンをとったものではどうもない。では,これは lupus関連の間質性腎炎でいけるじゃないかということになりました。

【スライド13】この程度です。大したことはないと。【スライド14】それで,お示しになりましたように,IgGが tubulesと糸球体にも一部ある。IgMもありますかね。【スライド15】それから,C3,C1qがかなり立派に出ています。【スライド16】それで,電顕で見ますと,間質に少しずつdepositが見られる。それから,ここに筋線維芽細胞が増殖しています。間質にはdepositはないようです。【スライド17】これはproximal tubuleの下にかなり,有意なelectron dense depositがある。【スライド18】パターンははっきりしませんけども,恐らく外から入ってきたんでしょうかね。こういう laminationを起こしているところにもあります。【スライド19】ほかのところよりも,ぽつりぽつりと,量はあまり多くないけど見られるというわけです。【スライド20】これは遊走細胞が少しはdeposit

と反応しているのが見られるかなと思ったんですけれども,かなり基底膜になじみを持って接してはいますけれども,特にdepositと直接の関係はどうもなさそうです。

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ということで,臨床的にSLEの診断基準を満たしておって,糸球体病変は軽いわけですけれども,そうすると ISN/RPSの分類によると,微小mesangium lupus腎炎,あるいはmesangium

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増殖性 lupus腎炎というふうな,非常に軽い糸球体病変があると見ていいと思います。 それから,間質には単核性のびまん性の尿細管間質炎があって,immune depositと思われるものがあるということで,これはやはり lupus

間質炎と診断できるでしょう。 それから,普通は糸球体に豊富な免疫沈着物があって,それが間質に漏れたようなかたちで間質に細胞反応があることが多いんですけれども,この例は反対に間質の浸潤がメーンなわけです。山口先生のように肉芽腫様に近いところもあるんじゃないかという見方もあるかと思いますが,恐らく lupusでも細胞反応から見ると,単核細胞優位の間質炎というようなものがあってもおかしくはないだろうと,私は考えました。以上です。座長 はい。どうもありがとうございました。 それではお二人の病理の先生の意見を踏まえたうえで,何かご質問ありますか。乳原 虎の門病院の乳原です。 SLEの場合には診断基準病ですから,幾つかそろえばSLEとして診断してもいいのかもしれませんが,一方で免疫沈着物を唯一膠原病の中で確認できる疾患で,免疫複合体病ということで確認できる疾患でもあります。 その中で,岡山大の槇野先生がよく記載されているんですけれども,SLEというのは,まずdsDNA抗体の上昇を中心とした抗核抗体で,これが抗原抗体反応で免疫複合体をつくる。その主体は IgGであるということなのです。それが,まず血管内をぐるぐる回る。その中で,糸球体の中に最初に捕まる。そうすると,必ず内皮下沈着,またはmesangium沈着が起こるということで,糸球体病変が lupus腎炎として一般的に理解されていると思います。 その延長上に,激しい場合にさらに免疫複合体がperitubular capillariesまで到達して,そこで炎症を起こせば,そこに間質性腎炎が起こってもいいだろうということで,私たちはちょうど虎の門病院で153例,lupus腎炎があるんです

けど,それで評価してみると,間質性腎炎を呈する場合の多くは,やはり激しい糸球体病変を呈しているというのが一般的だろうということが考えられます。 そう考えると,この症例の場合はdsDNAが陰性だということなのです。そういうものまでSLEにしてしまっていいかどうか。もちろん免疫複合体が沈着していることを考えますと,いいのかもしれませんが,最後の腎生検のときのは,なんかちょっとdsDNAが上がっているようなかたちでしたけど。島田 実際は,最初のときには出て,抄録には288。乳原 その後です。腎生検時の検査所見は,dsDNA(-)ということで書かれていたので。抄録には最初,ちょっと高いと書かれているんですけれども,大体そういうときは,dsDNA

による免疫複合体ができて沈着すると,それにまた補体が反応すると。低補体が起こるということで,そこから好中球,macrophagesとか,いろいろな炎症細胞が出てくるのです。dsDNA

抗体が(-)と書いてあるのは,一番左下です。そんなSLEがあるのかどうかと。dsDNAが高いということから始まると理解すると,抗核抗体が陽性であってもいいわけですから。座長 抗核抗体は。乳原 間違いですかね。ということで,理解していて,先日別な研究会で,山口先生が,「間質だけの,尿細管間質性腎炎があってもいい」と言われて,「そんなことありますかね」と僕は言ったので,それで挑戦的な症例かなと思って,どうだということで出てきた症例提示かなと思ったのですけれども,一般的には,今言ったようなことが,SLEを考えるとき,lupus腎炎を考えるときの基本的な考え方と思うんです。島田 最初,dsDNAが1回高値になった後,ステロイド治療を行わず,dsDNA抗体が下がってきました。腎生検のときのデータは,2009

年の9月です。1回高値だった2009年の4月の

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とき,1回高値で,その後はnegativeということです。乳原 普通はdsDNAが上がることで,免疫複合体ができるわけですから,そうすると高くないフレッシュなSLEがあり得るかどうかということなんです。むしろ,こういうのもあると言ってしまえば終わりかもしれませんけど。 やっぱりSLEは活動性が出てくると,必ずdsDNAが上がってくる。それが治療の指標になります。補体だけではない。補体の場合は別のことでも低下するので,両方が合わさるということが,SLEの活動性のポイントかなと思って見ているんです。 尿細管間質性腎炎が主体のときに,それをSLEに結び付けてしまうかどうか。それだけというのは,普通の lupus腎炎を合併した間質性腎炎とはまた別の問題もあるかなと思ったりはしますが。以上です。座長 ありがとうございます。 会場でどなたかdsDNAについて何かご意見のある方はいらっしゃいますか。ほとんど陽性のときに,腎炎が起きてくるんですけれども,糸球体腎炎しかほとんど見ていなくて,病理分類も間質尿細管病変は糸球体病変の程度にほとんど全部食べられてしまう。要するに独立した図子として残ってこなかったから,除外された区分になったと聞いていますけれども。こういうこともあるのかもしれないと,ちょっと片隅に留めておく必要があるかもしれないですね。 そのほかに何かございますか。はい,長濱先生。長濱 横浜市大,病理の長濱と申します。 一般的な病理医から見れば,ガリウムの集積があって,あれだけリンパ球が浸潤していれば,lymphomaを否定しなければいけないと思うんです。浸潤しているリンパ球というか,単核細胞のcharacterizeとかはされていますか。あるいは,κ・λで,κだけに,形質細胞が多かったなど,κ・λの偏移はどうだったかとか。島田 κ・λのほうは見ていないのと,リンパ

球のほうはcharacterizeは見ていません。長濱 ありがとうございます。 あとぶどう膜炎の合併とかは。島田 ぶどう膜炎はありませんでした。長濱 あとSLEよりも感染症のほうがだらだら持続しているような気がするんですけど,感染症で間質性腎炎という報告はあるかどうか,知っていたら教えてください。以上です。島田 すみません。その感染の間質性腎炎に関しては,僕のほうは勉強不足で,すみません,調べていないです。座長 鎌田先生,何かご存じですか。鎌田 乾癬炎がずっと持続したので,SLEではなく,乾癬性かもしれないなとも思っていました。島田 乾癬のほうの関節炎は,実は1回膠原病のほうで疑われて,精査されているのですけれども,そこでは乾癬性の関節炎ではないと診断されています。鎌田 そうですか。座長 そのほかに何かご質問。はい,どうぞ。青山 共同演者の北里大学の青山です。関節炎に関しては乾癬性のというところで,rheumatoid factorの結果が診断基準に合致しないところもあったので,関節所見含めて,関与は少ないと考えさせていただきました。 先ほどの乳原先生のお話の件になりますが,膠原病内科の先生もやはりdsDNA抗体が陰性になったということが非常に問題になっていて,この腎臓の病気は,本当に lupusでいいんだろうかと。自然に何もステロイドも使用しないで下がることがあるんだろうかというのが,非常に悩まれて,われわれに依頼があって,腎生検をした症例になります。 診断基準も,抄録では満たすというふうに書かせていただいたんですが,実際のところ血清学的なところで合致する部分が多くて,先ほどの皮膚所見もそうですし,関節炎というのもlupusと考えていいのかというところも非常に判断に悩んだところもあって,今回提示させて

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いただいたのが経緯となります。座長 はい。どうもありがとうございます。 何かそのほかに,ご質問等はありますか。先生のほうから何か伺っておきたいことはありますか。島田 大丈夫です。座長 間質性腎炎は鑑別疾患が非常に多くて,ただ免疫グロブリンが染まってくると,やはりそちらにどうしても引きずられた診断にいってしまうというふうに思います。島田先生,どうもありがとうございました。島田 ありがとうございました。失礼します。

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IgG IgM IgA

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山口先生 _22

Clin Nephrol. 2008 Jun;69(6):436-44. Predominant tubulointerstitial nephritis in a patient with systemic lupus erythematosus: phenotype of infiltrating cells. Omokawa A, Wakui H, Okuyama S, Togashi M, Ohtani H, Komatsuda A, Ichinohasama R, Sawada K. Source Third Department of Internal Medicine, Akita University School of Medicine, Akita, Japan. Abstract A 63-year-old man with systemic lupus erythematosus developed tubular proteinuria. All subclasses of serum IgG increased, and the largest IgG subclass increase was IgG4. A renal biopsy showed lupus nephritis (Class II) with severe tubulointerstitial nephritis (so-called predominant tubulointerstitial lupus nephritis, an unusual form of lupus nephritis). Immunofluorescence microscopy revealed positive granular staining for IgG, C3 and C1q in the mesangium and peritubular interstitium, and along the tubular basement membranes (TBM). Electron microscopy also showed electron-dense deposits in the mesangium and TBM. Immunophenotyping of interstitial infiltrating cells disclosed a predominance of T cells. CD8-positive cytotoxic T cells infiltrated the peritubular interstitium, and some of these cells infiltrated the tubules. B cell-rich lymphoid follicles were also observed. IgG subclass analyses showed glomerular IgG1, IgG2 and IgG4 deposition, positive staining of IgG4 in the peritubular interstitium and along the TBM, and abundant IgG1-, IgG3- and IgG4-positive plasma cells in the interstitium. The patient responded well to moderate-dose steroid therapy. This is the first report of immunophenotyping of interstitial infiltrates in predominant tubulointerstitial lupus nephritis. The results suggest CD8-positive cytotoxic T cell-mediated tubular injury. Furthermore, immune complexes containing IgG4 might be one of etiologic factors.

山口先生 _19

C3 C1䡍 C4

山口先生 _23

Lupus. 2011 Nov;20(13):1396-403. doi: 10.1177/0961203311416533. Discrepancies in glomerular and tubulointerstitial/vascular immune complex IgG subclasses in lupus nephritis. Satoskar AA, Brodsky SV, Nadasdy G, Bott C, Rovin B, Hebert L, Nadasdy T. Source Department of Pathology, The Ohio State University Medical Center, M018 Starling Loving Hall, 320 W 10th Ave, Columbus, OH 43210, USA. [email protected] Abstract BACKGROUND AND OBJECTIVES: Lupus nephritis is characterized by glomerular and extraglomerular immune complex deposition in the kidney. It is unclear whether the same circulating immune complexes deposit in the glomeruli and in extraglomerular structures, or whether they are pathogenetically different. Differences in the IgG subclass composition may point towards different pathways in the formation of glomerular and extraglomerular immune complexes. Therefore we investigated IgG subclass distribution in the immune complex deposits at these anatomic sites. DESIGN: A total of 84 biopsies diagnosed as lupus nephritis and classified according to the International Society of Nephrology/Renal Pathology Society (ISN/RPS) 2003 classification, were examined by direct immunofluorescence staining for IgG subclasses. The IgG subclass composition in the glomerular, tubular basement membrane (TBM) and vascular wall deposits was compared. We also correlated the presence/absence of interstitial inflammation and IgG subclasses in the TBM and vascular deposits. Lastly, we looked for correlation between staining for IgG subclasses and complement C1q and C3 staining. RESULTS: IgG staining was present in the TBM in 52/84 biopsies, and in the vascular walls in 40/84 biopsies. IgG subclass distribution was discrepant between glomerular and TBM deposits in 36/52 biopsies, and between glomerular and vascular deposits in 27/40 biopsies. Interstitial inflammation did not correlate with the presence of IgG staining or distribution of IgG subclasses in the TBM. Interstitial inflammation was more common in biopsies of African-American patients than Caucasian patients. The IgG subclass staining correlated with C1q staining in all the three compartments. CONCLUSIONS: The antibody composition of the glomerular and extraglomerular immune complex deposits appear to differ from each other. They may not represent the same preformed immune complexes from the circulation. It is likely that their pathogenesis and site of formation are different.

山口先生 _20

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⌮デ Tubulointerstitial nephritis, diffuse cortex/medulla= 9/1, global scelrosis/glomeruli=4/19 ග㢧䛷䛿䚸㛫㉁䛻䛿⓶㧊㉁䛻ர䜚䝸䞁䝟⌫䛻ஈ䛧䛟ዲ㓟⌫䛸ᙧ㉁⣽⬊ᾐ₶䛜䜋䜌䜃䜎䜣ᛶ䛻ぢ䜙䜜䚸ᒀ⣽⟶⅖䛿㒊䛷㍍ᗘ䛷䚸ᒀ⣽⟶ⴎ⦰䚸ᾘኻ䜢ᩓᅾᛶ䛻ㄆ䜑䚸ℐ⬊ᵝᵓ㐀䜢క䛳䛶䛔䜎䛩䚹㛫㉁⥺⥔䜒䛛䛺䜚ᣑ䛜䜚䚸⾑㕲䜢ᩓぢ䛧䚸㛫㉁⣽⬊䛜䜚ᅖ䜐ᵝ䛻bird‘s eye pattern䜢࿊䛩䜛ᵝ䛻ぢ䛘䜎䛩䚹㒊䛻ከ᰾ᕧ⣽⬊䛜ฟ⌧䛧䛶䛔䜎䛩䚹 ⣒⌫య䛻㍍ᗘ䛾⬺ഴ䛜ぢ䜙䜜䜎䛩䚹 ୰⬦◳䛿୰➼ᗘ䛷䚸㍍ᗘ䛾⣽⬦◪Ꮚ䛜ぢ䜙䜜䜎䛩䚹 ⺯ගᢠయἲ䛷䛿䚸IgG(+), IgM(±), IgA(±), C3(±), C1q(+): mesangial & TBM pattern䜢♧䛧䚸᭦䛻C1q(+)䛷ᒀ⣽⟶ቨ䛻䜒㝧ᛶ䜢ㄆ䜑䜛䚹 㟁㢧䛷䛿䚸㛫㉁䛻ᙧ㉁⣽⬊䜔䝸䞁䝟⌫ᾐ₶䛜ぢ䜙䜜䚸TBM䛾㒊䛻dense deposits䜢ㄆ䜑䜎䛩䚹 ௨䚸IgG4㛵㐃⭈䛸䛿␗䛺䜛䝹䞊䝥䝇ᒀ⣽⟶㛫㉁ᛶ⭈⅖䛜⪃䛘䜙䜜䜎䛩.᭦䛻䝅䝳䞊䜾䝺䞁ೃ⩌䜔ᡈ䛔䛿⸆ᛶ䛺䛹䛾䛾⬟ᛶ䜢♧၀䛧䜎䛩䚹

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重松先生 _17重松先生 _14

IgG

IgA

IgM

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C1q

C3

C4

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重松先生 _16 重松先生 _19

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