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精神・神経疾患克服に向けた国内外の 脳科学研究の動向について 脳科学研究戦略推進プログラム プログラムスーパーバイザー 理化学研究所脳神経科学研究センター 副センター長 加藤忠史 資料1

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Page 1: 精神・神経疾患克服に向けた国内外の 脳科学研究の動向につ …精神・神経疾患による経済損失 日本 • 認知症 :14.5兆円/年1 (さらに有病率が急速に増加中)

精神・神経疾患克服に向けた国内外の脳科学研究の動向について

脳科学研究戦略推進プログラムプログラムスーパーバイザー

理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長

加藤忠史

資料1

Page 2: 精神・神経疾患克服に向けた国内外の 脳科学研究の動向につ …精神・神経疾患による経済損失 日本 • 認知症 :14.5兆円/年1 (さらに有病率が急速に増加中)

精神・神経疾患は大きな生活の障害をもたらす

18.8%

10.6%

17.4%

6.9%6.1%5.8%

5.3%

4.6%4.5%

4.1%

3.8% 12.2%

精神疾患(物質使用障害を含む)

神経疾患

筋骨格疾患

意図的でない怪我

感覚器疾患

泌尿生殖器系疾患

心血管疾患

口腔疾患

糖尿病

悪性新生物

呼吸器疾患

その他

精神疾患+神経疾患=29.4%

YLDs (The Years Lost due to Disability): 障害により失われた年数(WHO, 2015) 日本の値を示す。

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精神・神経疾患による経済損失

日本• 認知症 :14.5兆円/年1

(さらに有病率が急速に増加中)• 統合失調症 :2兆7800億円/年2

• うつ病 :2兆円/年3

参考• 自閉スペクトラム症 : 25.5兆円4(米国)

1厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究事業). 2015. わが国における認知症の経済的影響に関する研究平成 26 年度 総括・分担研究報告書.2Sado et al, Neuropsychiatr Dis Treat 9: 787-798, 2013、3Sado et al, Psychiatry Clin Neurosci 65: 442-450, 20114Buescher et al, JAMA Pediatr 168: 721-728, 2014

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Direct 9%

Morbidity46%

Mortality45%

うつ病:2兆円/年

Costの分類• Direct: 医療費• Morbidity: 履患により喪失した所得• Mortality: 疾患で死亡したことによる喪失した所得

4

日本におけるうつ病と統合失調症による経済損失

(Sado et al, Psychiatry Clin Neurosci 65: 442-450, 2011)

Direct 28%

Morbidity67%

Mortality5%

統合失調症:2.77兆円/年(Sado et al, Neuropsychiatr Dis Treat 9: 787-798, 2013)

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精神・神経疾患克服への取り組み

• 2015年4月28日脳科学委員会に「戦略的に推進すべき脳科学研究に関する作業部会」を設置

• 2015年10月13日社会への貢献を見据えた今後の脳科学研究の推進方策について-中間取りまとめ-

• 2016年度より「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)」開始(2016年1月25日締め切りにて公募)

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社会への貢献を見据えた今後の脳科学研究の推進方策について-中間取りまとめ(2015年)

• 認知症、うつ病等の精神・神経疾患対策が喫緊の社会的課題• 病態概念や疾患関連分子の解明からトランスレーショナル

医学研究に至る多段階の研究を効率良く推進する必要がある• 認知症、うつ病に代表される精神・神経疾患の病態には未解

明の部分も多く存在することから、予防・診断・治療法の開発に向けた戦略には多様性が求められる

• 精神・神経疾患の創薬研究においては疾患モデル動物による基礎研究では成果が得られつつある一方で、臨床試験では有効性が得られていない

⇒ 今後特に推進すべき研究課題の第一として、「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服」が挙げられた

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精神・神経疾患の研究方法

分子・DNA

神経回路

シナプス

臨床症状

細胞

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精神・神経疾患の研究方法

分子・DNA

神経回路

シナプス

臨床症状

細胞

臨床研究 基礎研究

動物モデルiPS細胞死後脳

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臨床と基礎研究の連携強化による認知症・うつ病・発達障害などの精神神経疾患の克服

分子メカニズム解明(ゲノム、インフォーマティクス)

(1)発症メカニズムの探求(2)新しい診断技術の開発と早期発見(3)病態を反映したモデル動物の開発(4)新しい疾患概念と革新的治療技術

の相互に密接な関係を持つ4項目に加え、(5)リソース・データ蓄積 により基礎・臨床連携の統合的推進

病態を反映したモデル動物の開発(遺伝子改変、

神経回路操作)

革新的治療技術(遺伝子治療、抗体等

のバイオ医薬)

iPS細胞由来神経組織、ヒト脳試料等を使い治療標的分子からバイオ医薬へ

臨床試験における活用

認知症の早期診断・介入

脳病態に基づく疾患分類

新しい診断技術の開発(脳画像、血液等)

産学共同での創薬開発

iPS細胞由来神経組織

iPS細胞、脳組織等のバイオリソース

脳画像等のデータ蓄積

DNAリソース

脳プロ融合脳

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臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(脳プロ 融合脳)

医薬品医薬品

医療機器医療機器

再生医療・遺伝子治療再生医療・遺伝子治療

ゲノム・データ基盤ゲノム・データ基盤

基盤技術基盤技術

認知症

睡眠制御技術、新規モデル動物

核酸医薬

mGluR5R-PET

抗体薬、FABPリガ

ンド等

発達障害統合失調症

CNVデノボ変異

モデル動物、脳オルガノ

イド

表情解析、OXTR-PET

オキシトシン、ピリドキサミン等

うつ病双極性障害

GWASデノボ変異

モデル動物による神経回路解析

AMPA-PETNeuro-

feedback

R-ケタミン、PUFA

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精神・神経疾患研究の最近の進歩と残された課題

最近の進歩1. 大規模ゲノム研究2. 大規模MRIデータ解析3. 新規治療法の開発4. モデル動物の神経回路解析技術5. 新規診断法の開発

残された課題1. 認知症の臨床試験における困難2. 臨床と基礎の双方向トランスレーション3. データ駆動型研究の推進4. 創薬に活用可能なバイオマーカーの必要性5. 創薬に向けた非競争的フェーズでの産学連携

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1. 大規模ゲノム研究自閉スペクトラム症(ASD)国内262トリオ家系(海外と合わせ4244家系)のエクソーム解析で病因パスウェイ同定(神経発生、転写制御等)(Takata et al, Cell Reports 2018)【脳プロ】

双極性障害国内2964名のGWASで関連遺伝子(FADS1/2)同定(Ikeda et al, MolPsychiatry 2018)【脳プロ】79家系でde novo変異の役割発見(Kataoka, Matoba et al, Mol Psychiatry 2016)【理研】

統合失調症統合失調症2458名、ASD 1108名のCNV解析で病態パスウェイの重なりを同定(Kushima et al, Cell Reports 2018)【脳プロ】

国内外の動向• ポリジェニックリスク

スコア(PRS)を用いた臨床診断・症状との関連研究

• PRSと治療反応性• 他疾患との遺伝的相関• 人種間(欧系人とアジ

ア人等)の比較

CNV: copy number variation GWAS: Genome Wide Association StudyFADS: Fatty Acid Desaturase

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2. 大規模MRIデータ解析自閉スペクトラム症(ASD)国内181名のrs-fcMRIデータで判別法作成、米国の88名の独立群で確認 (Yahata et al, Nature Commun 2016)【脳プロ】

双極性障害・うつ病計1531名のMRIデータでうつ病と双極性障害の脳形態差異を同定 (Matsuo et al, Cereb Cortex 2019)【脳プロ】

統合失調症統合失調症884名、対照群1680名のMRIデータで淡蒼球左右差などを発見 (Okada et al, MolPsychiatry 2016)【革新脳】

国内外の動向• 国際コンソーシアムに

よる大規模(数千人)イメージングジェネティクス解析(ENIGMA)

• 7T超高磁場MRI装置を米国FDAが承認(2017)⇒臨床応用へ

• fMRIのニューロフィードバック療法への応用

rs-fcMRI: resting state functional connectivity MRI (Magnetic Resonance Imaging)

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3. 新規治療法の開発認知症BBB通過型抗Aβ抗体(医歯大・特開2017-105802)タウのスプライシングを制御する核酸医薬 (名大・特願2018-127872)、レビー小体型/前頭側頭型認知症の治療法開発【脳プロ】

うつ病R-ケタミン→導出し米国で臨床試験開始 (千葉大、特開2018-145207)【脳プロ】

国内外の動向• うつ病に対して、即効性はある

が副作用もあるS-ケタミンをFDAが承認

• 産後うつ病に対してニューロステロイドBrexanoloneをFDAが承認(60h点滴、367万円)

• 双極性障害患者iPS由来神経細胞の表現型がリチウムで改善

• アルツハイマー病モデルマウスで40Hzの光刺激がAβを減らす(Iaccarino et al, Nature 2016)

自閉スペクトラム症(ASD)オキシトシン点鼻剤の臨床試験(Yamasue et al, Mol Psychiatry 2018)

統合失調症病的CNV患者iPS細胞由来神経細胞/マウスによるスクリーニング系を用いた創薬(名大・特願2018-194682)【脳プロ】

神経突起長化合物X

化合物Y

BBB: Blood Brain barrier

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4. モデル動物の神経回路解析技術認知症APPノックインマウス (Saito et al, Nature Neurosci 2014) 【理研】がADの世界標準モデルに

双極性障害うつ状態反復マウスによる原因神経回路同定(Kasahara et al, Mol Psychiatry 2016) 【理研】

国内外の動向• マウスを用いた神経回路操作

法、in vivo解析法(2 photonimaging等)が格段に進歩し、精神・神経疾患研究への応用が進む

• マウス・マーモセット等を用いた神経回路解明の進歩(Allen Institute, 革新脳)

• 例:セロトニンによる腹側海馬の抑制が意欲維持に重要(Yoshida et al, Nature Neurosci 2019)、ケタミンによるスパイン増加がうつ症状に関連(Moda-Sava et al, Science 2019)

自閉スペクトラム症(ASD)ASDモデルでスパイン動態の変化 (Isshiki et al, Nature Commun 2014) 【脳プロ】

統合失調症50倍リスク3q29欠失モデルマウスの大脳皮質過剰興奮同定(Baba M, et al. Neuropsychopharmacol in press)【脳プロ・革新脳連携】

APP: アミロイド前駆蛋白 AD: アルツハイマー病

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5. 新規診断法認知症タウ/アミロイドPETの応用、新規プローブ開発【脳プロ】レビー小体型、前頭側頭型認知症の診断法開発【脳プロ】血中Aβの質量分析による診断法(Nakamura et al, Nature 2018)

自閉スペクトラム症(ASD)表情の定量解析(Owada et al, Brain 2019) が臨床試験バイオマーカーとして有用【脳プロ】

国内外の動向• モバイルデバイスによる

ライフログのAI解析による診断法

• マルチオミックスによるバイオマーカーの網羅的探索により候補物質が次々と報告

疾患横断的AMPA受容体を標的とした新規PETプローブの開発(横市大・特許6241974)【脳プロ】

(Maruyama et al, Neuron 2013)

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残された課題(1) 認知症の臨床試験における困難

• 2016年 ソラネズマブ*の承認申請断念(イーライリリー)• 2018年 BACE1阻害薬ベルベセスタットの臨床試験中止(MSD)• 2019年 クレネズマブ*の臨床試験中止(ロシュ)

アデュカヌマブ*の臨床試験+中止(Biogen、エーザイ)• いずれも主な中止理由は効果不十分(脳脊髄液中のAβレベルやPETによる

Aβ蓄積に対しては有効であった)

対策• 超早期の診断マーカー開発、超早期からの予防治療が必要• 毒性の高いAβ分子種やタウを標的とした治療法の開発が必要• 霊長類のモデルが必要?(⇒革新脳)• 更なる新規治療標的の検討も必要• DLB(早期診断マーカー:REM wo Atonia活用可能)を対象とした検討も必要

*抗Aβ抗体+対象は早期認知症、軽度認知障害(MCI)

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残された課題(2) 臨床と基礎の双方向トランスレーション

基礎⇒臨床• 患者ゲノム変異のモデルマウス作出、マウスによる神経回路操

作、in vivo imaging研究は進展• モデルマウス研究で得られた知見の臨床への還元は今後の課題臨床⇒基礎• 臨床試験で効果が確認された治療のメカニズムを動物実験で確

認する研究は未だ途上

対策• 新しいタイプの臨床と基礎の双方向連携研究の枠組みが必要

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新機軸トランスレーション研究の一例

医師主導試験でオキシトシン点鼻薬のASDへの効果を検証

オキシトシン点鼻薬の脳内薬物動態をマウスで検証

ASDモデルマウスに対するオキシトシン点鼻薬の効果を検証

臨床試験のGWASで得られた治療反応関連遺伝子⇒モデルマウス作成⇒メカニズム検証

臨床試験で疑われた慢性投与による効果減弱のメカニズムをマウスで検証

臨床試験で有効性が認められた指標をモデルマウスにおける治療効果判定に利用

基礎研究 臨床研究

脳プロ融合脳・発達障害 山末グループ

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新機軸トランスレーション研究の新たな方向性

患者で見出されたゲノム変異を持つモデルマウスで神経回路病態を発見

患者死後脳の解析で検証

rs-fcMRIで対応する神経回路の病態を検証?

原因神経回路を描出可能なPETリガンドの開発?

神経回路病態と現行の治療法への反応性の関係の検証

基礎研究 臨床研究

将来的には神経回路を標的とした治療法(ニューロフィードバック、バイオ創薬、ニューロモデュレーション等を含む)の検討へ

死後脳リソースの重要性

死後脳リソースの重要性

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残された課題(3) データ駆動型研究の推進

• ヒト死後脳研究では多くの困難(生前・死後のアーチファクト、薬の影響、疾患による死因の差異etc)

• 海外ではヒト脳各部位、各細胞種、各発達段階のトランスクリプトームデータが整備されつつある

• モデル動物で得られた神経回路解析の結果をリバーストランスレーションするためには、データ駆動型研究の推進も必要

• 日本では未だ人材不足。死後脳リソース、ゲノムデータも不足

対策• 死後脳リソースの強化• ゲノム研究の大規模化とデータ蓄積基盤の強化• バイオインフォーマティクス人材の育成

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データ駆動型研究の一例

国内+海外のASD 4244家系のエクソーム解析でde novo変異を同定 (Takata et al, Cell Reports 2018)

トランスクリプトームデータベース(GTEx)→前部帯状回、基底核等

BrainSpanデータベース→ 胎生中期

細胞種特異的トランスクリプトームデータ→ D1受容体陽性中型有棘細胞(D1-MSN)

薬による発現変化のデータベース(DSigDB)→ バルプロ酸*による変化と類似→ 逆の変化を起こす薬が候補薬?

*胎生期のバルプロ酸曝露はASDのリスク 候補薬の効果の検証へ

実験データ バイオインフォーマティクス解析 新たな実験計画へ

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残された課題(4)創薬に活用可能なバイオマーカーの必要性

• マルチオミックス解析による疾患横断的な分子マーカーの探索は行われ、多くの候補分子が同定されている

• 疾患横断的な画像・生理バイオマーカーも見出されつつある

今後の課題• バイオマーカーに基づくデータ駆動型の新たな精神・神経疾患

の分類法(バイオタイプ)の検討• 臨床研究によるバイオタイプと治療反応性の検証• 精神疾患・神経疾患の枠を超えた病態理解へ

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残された課題(5)創薬に向けた非競争的フェーズでの産学連携

(精神・神経疾患の治療法開発のための産学官連携のあり方に関する提言 日本学術会議 2017年7月)

• 精神・神経疾患の治療法の開発は容易でなく、巨大製薬企業が撤退• この危機を克服して新たな治療法を開発するには、産学官連携が必要

→ バイオリソースの充実、バイオマーカー開発、臨床データ共有データベース構築などの体制整備

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まとめ

• 認知症克服のため、超早期診断マーカー開発、超早期からの予防治療が必要

• 臨床と基礎の双方向トランスレーションが重要• 創薬に活用可能なバイオマーカーの開発、バイオ

マーカーに基づくバイオタイプの検討が必要• データ駆動型研究の基盤となるリソース・データの

整備、バイオインフォーマティクス人材育成が必要• 疾患概念をまたぐ分野融合研究が必要• 創薬に向けた非競争的フェーズでの産学連携が重要