欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況 とわが国自動車 ......

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………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 近年、日系企業の国際的展開と「モノづくり能力」の維持・強化との関係があらためて注目されて いる。本稿では上記の問題意識を念頭に、タイの自動車部品産業を事例として、日系企業が今後も勝 ち残っていくために進むべき方向について考察・提言する。 タイの自動車部品産業には、これまで多くの日系企業による投資(直接投資)が蓄積されてきた。 こうした歴史から、タイの自動車産業はいわば日系企業の牙城とでもいうべき産業集積であるとの見 方をされることが多い。しかし1990年代後半になり、タイの産業集積の中に欧米系部品メーカーと いうライバルが出現したことや、欧米流の部品調達方針が日本の自動車業界に採用されはじめたこと など、自動車産業の事業環境に変化が生じた。その変化の中で、日系の自動車部品企業は「系列外取 引」「グローバル経営」という自動車業界の新たな経営課題への取組みと、従来からの強みである「モ ノづくり能力」の維持・強化にむけた取組み、という二方面の課題を同時に解決しなければならなく なっている。 こうした環境変化への対応は個々の企業により異なる。本稿では、「取引関係」と「モノづくり」 の二つの軸を用いて、自動車部品メーカー各社を4種類に分類し、各分類の特性に応じた今後の方向 性について提言を試みた。 Abstract The relationship between the Japanese manufacturing companies’“international management” and the maintenancestrengthening of the “manufacturing capability” is emerging as an increasingly important issue. With due consideration to this issue, this paper examines and proposes strategies for the Japanese manufacturers to win over the global competition, taking Thailand’ s auto parts industry as an example. Many Japanese companies have accumulated capital through FDI in Thailand’ s auto parts industry, resulting in an industrial agglomeration. This leads many observers to view this industry as a Japanese companies’stronghold. In the late1990s, however, these companies experienced drastic changes in the business environment. The“Western”(American and European)auto 欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況 とわが国自動車部品メーカーの対応 *1 開発金融研究所 春日 ブラクストン株式会社 俊子 山口 揚平 比嘉庸一郎 星野 *1 本調査は、国際協力銀行がブラクストン株式会社に委託した「欧米系自動車部品メーカーのアジア進出状況とわが国自動車部 品メーカーの対応」調査(2002年8~10月実施)を要約したものである。本調査、また調査のフィードバックインタビュー・ 研究会を通じて、多くの企業の方々(欧米系企業7社を含む、約30社)や関係機関の方々、識者の方々のご協力・ご指摘を頂 いた。匿名性の観点から個々のお名前を記すことはできないが、この場を借りて深く御礼申し上げたい。 6 開発金融研究所報

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  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    要 旨

    近年、日系企業の国際的展開と「モノづくり能力」の維持・強化との関係があらためて注目されて

    いる。本稿では上記の問題意識を念頭に、タイの自動車部品産業を事例として、日系企業が今後も勝

    ち残っていくために進むべき方向について考察・提言する。

    タイの自動車部品産業には、これまで多くの日系企業による投資(直接投資)が蓄積されてきた。

    こうした歴史から、タイの自動車産業はいわば日系企業の牙城とでもいうべき産業集積であるとの見

    方をされることが多い。しかし1990年代後半になり、タイの産業集積の中に欧米系部品メーカーと

    いうライバルが出現したことや、欧米流の部品調達方針が日本の自動車業界に採用されはじめたこと

    など、自動車産業の事業環境に変化が生じた。その変化の中で、日系の自動車部品企業は「系列外取

    引」「グローバル経営」という自動車業界の新たな経営課題への取組みと、従来からの強みである「モ

    ノづくり能力」の維持・強化にむけた取組み、という二方面の課題を同時に解決しなければならなく

    なっている。

    こうした環境変化への対応は個々の企業により異なる。本稿では、「取引関係」と「モノづくり」

    の二つの軸を用いて、自動車部品メーカー各社を4種類に分類し、各分類の特性に応じた今後の方向

    性について提言を試みた。

    Abstract

    The relationship between the Japanese manufacturing companies’“international management”

    and the maintenance/strengthening of the “manufacturing capability” is emerging as an

    increasingly important issue. With due consideration to this issue, this paper examines and

    proposes strategies for the Japanese manufacturers to win over the global competition, taking

    Thailand’s auto parts industry as an example.

    Many Japanese companies have accumulated capital through FDI in Thailand’s auto parts

    industry, resulting in an industrial agglomeration. This leads many observers to view this industry

    as a Japanese companies’stronghold. In the late 1990s, however, these companies experienced

    drastic changes in the business environment. The“Western”(American and European)auto

    欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況

    とわが国自動車部品メーカーの対応*1

    開発金融研究所 春日 剛ブラクストン株式会社 岡 俊子

    山口 揚平比嘉庸一郎星野 薫

    *1 本調査は、国際協力銀行がブラクストン株式会社に委託した「欧米系自動車部品メーカーのアジア進出状況とわが国自動車部

    品メーカーの対応」調査(2002年8~10月実施)を要約したものである。本調査、また調査のフィードバックインタビュー・

    研究会を通じて、多くの企業の方々(欧米系企業7社を含む、約30社)や関係機関の方々、識者の方々のご協力・ご指摘を頂

    いた。匿名性の観点から個々のお名前を記すことはできないが、この場を借りて深く御礼申し上げたい。

    6 開発金融研究所報

  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    はじめに

    1996年*2以降、日本の自動車業界は完成車メー

    カーを中心に世界的な再編・資本提携の渦中にお

    かれてきた。完成車メーカー同士の提携自体は30

    年以上前から行われており*3、外国資本の日系自

    動車メーカーへの出資の歴史は古い。しかし、か

    つての資本参加は1967~1973年に実施されたわ

    が国の規制自由化を主な要因とするのに対し、近

    年は安全・環境技術開発のための対応(開発費負

    担や調達コスト削減)を直接の要因としている。

    したがって、1990年代以降の自動車業界の再編

    は、以前にも増してインパクトをもった業界再編

    である。

    部品メーカーの事業展開の動きは、完成車メー

    カーの世界的再編と無関係ではない。完成車メー

    カー間のクロスボーダーの再編を受け、日系部品

    メーカー各社は、これまでの系列取引だけでな

    く、欧米系完成車メーカーや欧米系部品メーカー

    という文化も経営手法も異なる企業体とどう向き

    合っていくのかを考えなければならなくなってい

    る*4。具体的には、自動車業界が変化していく中

    で、自社の位置付けを外国企業との比較の中で相

    対的に捉えなおし、経営の見直しを図る必要があ

    ると言える。

    今回、本稿がタイに注目するのは、かつて日系

    企業の独壇場であったタイに近年欧米系部品メー

    カーが多数進出しており、今後予想される欧米系

    部品メーカーとの競争、或いは積極的な業務提携

    に上手く対応していくために、欧米系部品メー

    カーの戦略、強み・弱みを浮き彫りにし、日系部

    品メーカーの打つべき施策を導出すべきであると

    考えるからである。これを背景として、本稿では

    以下の4点に沿って考察を進めていく。

    � タイの自動車産業では、近年どのような変化

    が起きているのか(第1章)。

    � 完成車メーカーの再編は、部品メーカーにど

    のような影響を与えるのか(第2章)。

    � 欧米系部品メーカーは、日系部品メーカーと

    どのように異なるのか(第3章)。

    � タイでの事例調査を踏まえ、今後の日系部品

    メーカーはどのような戦略を構築すべきかに

    ついての提言を試みる(第4章)。

    本稿を通じて、海外事業を展開する企業は、進

    出先の一国内だけで事業戦略を考えるのではな

    く、本社を巻き込んだグローバルレベルの事業戦

    略を考える事がますます重要となっていることを

    示すであろう。

    parts manufacturers emerged as new rivals in the Thai market. Moreover, the Japanese car

    manufacturers started to adopt the“Western”―style procurement policy, discarding the Japanese

    style. Facing such changes, Japanese auto parts manufacturers in Thailand need to simultaneously

    solve two sets of problems: i)how to cope with the new business environment exemplified by the

    collapse of vertical“keiretsu”and the global purchasing; and ii)how to maintain and strengthen

    their traditional comparative advantage, i.e., the excellent“manufacturing capability”.

    The strategies to cope with the new environment differ for each company. This paper

    categorizes the auto parts manufacturers into 4 groups, using“business relationships”and

    “objectives/methods of manufacturing”as two axes, then proposes strategies for each of these4

    categories.

    *2 この1996年、フォードがマツダに本格的に資本参加(出資比率33.4%)した。以降、1998年にGMがいすゞにへ資本参加(同

    48.5%)、1999年にはルノーが日産へ資本参加(同36.8%、のち44.4%)している。

    *3 例えば、1971年7月にGMがいすゞに資本参加・業務提携したのをはじめに、Chryslerの三菱自動車への資本参加(1971.9)、

    Fordの東洋工業(現マツダ)への資本参加(1979.11)などがある。

    *4 本稿では「欧米」とひとくくりに扱っているが、「モノづくりの観点からは、欧州企業と米国企業とは異なった思想を持って

    いる」とのコメントを現地専門家の方から頂いた。筆者もこの点には同意するものの、本稿ではタイへの進出経緯の類似性な

    どから「欧米」の分類を採用している。

    2003年6月 第16号 7

  • Ford�14.3%�

    DC/三菱�9.9%�

    トヨタ�1.4%�

    VW�18.2%�

    ■ 現在、アジアオセアニア地域では、北米および西欧地域と同規模の約1,600万台の完成車生産が行われている。�

    西欧地域�

    アジア・オセアニア地域�

    北米地域�

    1,646万台�

    167万台�

    74万台�

    アフリカ・�中近東地域�

    11カ国計�1,646万台� 3カ国計�

    1,565万台�

    10カ国計�1,602万台�

    南米地域�

    202万台�

    →アジア・オセアニア地域の� 市場規模は、北米・西欧地� 域に匹敵�

    東欧地域�

    1,602万台�

    1,565万台�

    GM�19.0%�

    大宇自�0.1%�

    日産/�Renault�14.2%�

    PSA�17.5%�

    ホンダ�0.7%�

    BMW�4.7%� BMW�

    0.8%�ホンダ�7.1%�

    VW 2.4%�トヨタ�7.0%�

    DC/三菱�18.7%�

    Ford�25.8%�

    日産/Renault�4.4%�

    GM�33.9%�

    GM�16.2%�

    大宇自�3.6%�

    Ford�6.0%�

    DC/三菱�8.8%�

    トヨタ�29.0%�

    VW�2.3%�

    PSA 0.3%�

    ホンダ�9.0%�

    現代自�15.4%�

    日産/Renault�9.4%�

    (アジア・オセアニア地域:日本、�韓国、中国、インド、台湾、タイ、�マレーシア、インドネシア、フィリ�ピン、オーストラリア)��(北米地域:アメリカ合衆国、カナ�ダ、メキシコ)��(西欧地域:ドイツ、フランス、スペ�イン、イギリス、イタリア、ベルギー、�スウェーデン、オーストリア、フィ�ンランド、ポルトガル、オランダ)�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    第1章 タイの自動車産業と欧米系企業の進出

    (1)概要

    完成車の生産台数

    世界の完成車の生産台数についてみると、

    2002年6月時点で西欧地域1,646万台、北米地域

    1,565万台、アジア・オセアニア地域が1,602万

    台となっており、アジア・オセアニア地域の生産

    台数が世界生産の約3割を占めている(図表1)。

    このことは、完成車メーカーに納品する部品メー

    カーにとって、納入先の約3割がアジア・オセア

    ニア地域に集中していることを表している。ま

    た、アジア・オセアニア地域の生産台数1,602万

    台のうち、日本での生産台数は約1,000万台*5、

    中国が230万台、ASEAN4*6が114万台となってお

    り、この中でタイの生産台数は約50万台弱を占め

    ている*7。これを過去5年間(1997―2001年)の

    時系列でみると、タイでは現在、通貨危機以前の

    水準である年間約50万台前後まで生産台数を戻し

    ており、2006年までには100万台に達すると予想

    されている。

    日系メーカーの進出

    タイの自動車産業の集積は、これまでの日系企

    業の投資蓄積に依るところが大きい。日系企業に

    よるこれまでの自動車関連の進出を見ると、トヨ

    タ自動車や日産自動車をはじめ、1960年代初頭

    から、タイ政府側の産業育成策・規制策に対応し

    ながら*8、40年以上にわたって多くの企業がタイ

    に進出してきた(図表2)。進出件数をみると、

    1980年代後半と1990年代半ばにそれぞれ拠点設

    置のピークを迎えており、日系部品メーカーの拠

    点数は現時点で日本を除くアジアで最大となって

    図表1 主要完成車メーカー地域別生産台数及び構成比率(2001年:乗用車・商用車計)

    出所)FOURIN「海外自動車月報No.202」(2002.6)よりブラクストン作成

    *5 2001年度の年間生産台数は約980万台、2002年度4―9月期の生産台数は499万台となっている。(�日本自動車工業会プレス

    リリースより)

    *6 タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの4カ国。

    *7 OCIA World Motor Vehicle Production by Country2000―2001より*8 例えば、1971年、タイ政府は完成車メーカーに対し、それまでSKD(Semi Knock Down)であった組立をCKD(Complete

    Knock Down)にするよう求めている。

    8 開発金融研究所報

  • 0�

    500�

    1,000�

    1,500�

    2,000�

    2,500�

    1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

    タイ� 中国�

    インドネシア�

    フィリピン�

    マレーシア�

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    50

    1962

    1963

    1964

    1965

    1966

    1967

    1968

    1969

    1970

    1971

    1972

    1973

    1974

    1975

    1976

    1977

    1978

    1979

    1980

    1981

    1982

    1983

    1984

    1985

    1986

    1987

    1988

    1989

    1990

    1991

    1992

    1993

    1994

    1995

    1996

    1997

    1998

    1999

    2000

    2001

    日本の自動車関連企業の進出年別内訳(2001年)�

    進出(社)�

    1212 20 02 21 0

    531 131 0 1

    3121 02

    8

    1817

    10

    3

    75

    17

    27

    44

    38

    18

    4

    7

    12

    (投資累計額:億円)�

    輸送機の直接投資累計�(日本からの投資累計額1989~2001年度累計)�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    いる*9。また事業内容について見ると、1980年代

    後半までの進出はガスケットなどのエンジン部品

    やコンデンサなどの電装品が比較的多く、1990

    年代半ばは高精度プラスチック部品や金型などの

    進出件数が多い。今後も、現地調達率向上・小規

    模企業への投資優遇措置などを背景として、過給

    機やシリンダーヘッドなどの高品質・高機能部品

    を生産する日系企業がタイに進出予定であり、裾

    野はさらに広がる見込みである*10。

    最近の変化

    タイの自動車生産における最近の変化として、

    輸出が伸びている点を指摘できる(図表3)。1997

    年の通貨危機後、国内市場の縮小とバーツ安に伴

    う輸出競争力向上、および完成車メーカーの工場

    稼働率維持を背景として、タイの拠点は国内市場

    への供給だけでなく、世界各国への輸出拠点とし

    ての性格を強めた。現在、タイで生産された自動

    車の約4割弱が輸出されており、アジアの生産拠

    点集約化と世界の1tピックアップ生産拠点の集

    約化に伴う生産拡大が進んでいる*11。

    また、部品メーカーにとっても、タイは輸出拠

    点となりつつある。図表4はタイの部品輸出の内

    訳を示したグラフであるが、これによると、タイ

    の部品輸出額は過去5年で3倍以上に増えてい

    る。また、輸出額の半分以上が欧州・米国を含む

    先進国向けであり、輸出品目にはエンジンやOE

    コンポーネントといった高機能・高付加価値部品

    も含まれる。このことから、タイは先進国向け

    (特定車種向け)の高機能・高付加価値部品の輸

    出拠点の役割も果たしているといえる*12。

    図表2 タイの日系完成車・部品メーカーの進出状況

    注)数字には完成車メーカー、部品メーカーを含む。 出所)財務省「対外および対内直接投資状況」注)2001年までに撤退した企業については含まない。出所)東洋経済(2001)「海外進出企業総覧」

    *9 東洋経済(2002)「海外進出企業総覧」によると、2001年現在の日系自動車部品メーカーの進出企業数は約300社となっている。

    *10 40年間の自動車産業の蓄積と裾野の広がりは、現地の2次部品メーカーとの取引などのノウハウも含め、日系部品メーカーが

    欧米系部品メーカーに対して勝っている。これによって得られる高い品質と高い現地調達率は、日系部品メーカーの強みであ

    り、タイの欧米系部品メーカー各社も認めるところである。(現地インタビューより)

    *11 タイの生産能力は2006年には現在の生産台数の2倍以上、約100万台に達すると予測されており、今後も生産台数の増加が見

    込まれている。例えば、トヨタはタイをアジア・オセアニア地域への輸出拠点と位置付け、2001年の生産台数7万7千台か

    ら2004年には30万台へ拡大する計画を立てている(日本経済新聞)。

    *12 また、同時に部品の輸入も増加しているが、これは日本からの輸入が多くを占める(2000年実績で全体の部品輸入額の78%)。

    今後完成車メーカーの調達原価削減の必要性から現地調達率の上昇が見込まれるため、部品の輸入額は輸出額ほど増加しない

    と推測される。

    2003年6月 第16号 9

  • 0�

    100�

    200�

    300�

    400�

    500�

    →自動車部品輸出は、� 過去5年で3倍以上に増加�

    1996年� 1997年� 1998年� 1999年� 2000年(推測値)�

    429

    354

    239

    131

    14%� 24%�31%�

    31%�25%� 22%�19%�

    18%�

    11%� 13%�1%�

    6%�

    0%� 0%�5%�

    5%�

    2%� 1%�5%�

    10%�

    3%� 7%�6%�

    5%�

    45%�33%�

    33%�

    26%�

    166

    (百万ドル)�

    日本 30%�

    米国 13%�

    南ア 10%�

    マレーシア 8%�

    スウェーデン 8%�ベルギー 4%�

    その他 27%�

    販売�

    生産�

    0

    100,000

    200,000

    300,000

    400,000

    500,000

    600,000

    700,000

    (単位:台)�

    1996年� 1997年� 2000年�1999年� 2001年�1998年�

    輸出�

    GM28%�三菱34%�

    日系�60%

    マツダ12%�

    トヨタ7%�

    ホンダ4%�その他3%�

    Ford12%�

    欧米系�

    50万台�

    40%�

    日 系�80%�

    60万台�

    15万台�

    トヨタ20%�

    三菱20%�

    いすゞ15%

    ホンダ10%�日産8%�マツダ7%� その他2%�

    Ford�8%�

    GM�10%�

    欧米系�20%�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    (2)欧米系企業の進出

    欧米系完成車メーカーの進出

    近年、欧米系の完成車メーカーがタイへの進出

    を積極化させている*13。また、今後もAFTAの

    発効に伴うASEAN域内需要への対応や、これま

    で低かったシェアを上昇させるべく更なる増産が

    計画されている*14。このため、以前より進出し

    ていた日系完成車メーカーとの競合が激化してい

    る。このように欧米系完成車メーカーが進出する

    背景には、欧米企業にとって東アジアは地理的に

    遠く、アジア展開が遅れがちであったという経緯

    がある*15。そして、�AFTA導入後のタイへの

    生産集約とASEAN他国への輸出拠点化をめざ

    す、�すでに多くの部品メーカーが進出していた

    図表4 タイからの部品輸出の推移

    注)2000年の数値は1―4月の数字を3倍した推測値である出所)Department of Customs, Trade Statistical Centre

    図表3 タイの自動車生産と輸出のメーカー別内訳

    出所)FOURIN「2002アジア自動車産業」、The Thai Automotive Industry Association Japan Automobile Manufacturers Association, Inc

    *13 日系完成車メーカーは1960年代頃からタイに進出しているが、欧米系完成車メーカーがタイに進出したのは主に1990年代後

    半になってからである。例えば、通貨危機後の1998年、Fordがマツダと合弁してAuto Allianceを設立したのをはじめ、2000

    年にはBMW、VWなどが進出し、同じく2000年の国産化規制撤廃後にはGMが生産拠点を設置している。

    *14 世界の生産台数に占める欧米系完成車メーカーのシェアは58%であるが、アジアにおいては28%、タイでは22%と、他地域

    と比較するとプレゼンスが低い。しかし、�先進国の需要が飽和状態にある一方で、アジアは成長が見込めること、�現在の

    マーケットシェアが低いためシェア拡大の余地がある、ことを理由に今後の拡大を目指しているものと考えられる。

    *15 この点について、在タイの専門家から「欧米メーカーのアジア進出については、未進出の地域に出てくる、というよりは失地

    回復(日本に追い出された地域を回復する)との意味合いが濃厚」とのコメントを頂いた。また、近年の欧米系完成車・部品

    メーカーのタイ進出について、日系メーカーが計画を20―30%上回って生産しているのに対し、VOLVO・GMなどは計画値

    を大幅に下回る生産しかしていないことから、現時点では「欧米系が急速にタイに進出している印象は弱い」とコメントする

    現地日系部品メーカーもあった。

    10 開発金融研究所報

  • オセアニア�・トヨタ(HiluxTiger(D-4D エンジン))2002年オセアニア輸出開始�・GM/いすゞ(新型1tピックアップ)2003年オーストラリア輸出開始(2004年時点で20,000台)�・日産(Sentra、Cefiro、Frontier)2002年輸出開始�

    →完成車輸出は今後も増加�→世界各地へ輸出�

    欧州、中近東�・GM/いすゞ(新型1tピックアップ)� 2003年輸出開始(2004年時点で45,000台)�

    日本�・ホンダ(Fit)12,000台� 2003年輸出開始�

    ASEAN 諸国�・トヨタ(NBC V KD セット)12,000台 2003年 ASEAN 諸国輸出開始�・トヨタ(HiluxTiger(D-4D エンジン))2002年 ASEAN 諸国輸出開始�・Auto Alliance(Ford/マツダ)(Ranger)2002年インドネシア、フィ� リピン(1,100台)輸出開始�・三菱(新型 Lancer)2002年インドネシア(1,000台)輸出開始�・三菱(新型 Lancer)2003年フィリピン(3,000台)輸出開始�・日産(Sentra、Cefiro、Frontier)2002年インドネシア輸出開始�

    米国�●以下の理由で、タイから米国に� は輸出されていない�・米国では、ピックアップトラッ� クは、最大積載量がより大きい� ものが好まれること、�・トラックには25%の関税がかか� ること�

    0

    20,000

    40,000

    60,000

    80,000

    100,000

    120,000

    1996 1997 1998 1999 2000 2001

    GMFordVolvoBMWMercedes-Benzその他�

    →欧米系は1990年以降にタイに進出、� プレゼンスを急拡大させている�

    (台)�

    約10万台�

    GM�約5万台�

    Ford�約4万台�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    ため集積が進んでいる、�タイは1tPUT*16で世

    界有数の市場であり、国内販売も見込めるタイで

    生産を行い、他国に輸出するのが最適であると考

    えられている、などを主な理由として、多くの完

    成車メーカーがタイに生産拠点を持った*17。図

    表5は完成車メーカーの2002年以降の生産計画

    であるが、タイからの完成車輸出や主要部品の輸

    出計画は、欧州や日本・ASEAN・オセアニア地

    域を対象としている。

    欧米系部品メーカーの進出

    欧米系完成車メーカーのアジア拠点強化に伴

    い、欧米系の有力部品メーカーもまたタイに進出

    し、その事業を拡大している*18(図表7)。

    欧米系部品メーカーのタイ進出のねらいには、

    �欧米系完成車メーカーのタイ進出への追随、�

    日系完成車メーカーとの取引拡大、がある。前者

    図表5 タイの主要完成車メーカーの完成車輸出動向と輸出計画(2002年以降)

    出所)各種資料よりブラクストン作成

    図表6 タイにおける欧米系完成車メーカーの生産台数

    出所)FOURIN「2002アジア自動車産業」

    *16 Pick Up Truckの略。タイ市場ではこのタイプの車が約60%を占めている。

    *17 欧米系完成車メーカーの生産台数は、1996年の1万台から、2001年には約10万台に達しており、このうち約7万台が輸出さ

    れている。

    *18 主な欧米系部品メーカーの進出について整理すると、1989年にドイツ系のFreudenbergが進出したのをはじめ、米系のDana

    (1994年)、通貨危機後にはVisteon(1998年)、Johnson Controls(1999年)、Delphi Automotive Systems(2000年)など、

    巨大な部品メーカーがタイに進出している。主要な生産部品についてみると、TRWのようにステアリングホイールからタイ

    ヤホイールまでの統合システムを提供するものや、Visteonのようにコックピットモジュールの製造が可能だと推測できる部

    品メーカーが進出している。また、Johnson Controlsのような内装の総合部品メーカーも進出している。

    2003年6月 第16号 11

  • 欧米系� 日系�

    1960年代�

    1970年代�

    1980年代�

    1990年代�

    2000年代�

    完成車メーカー� 完成車メーカー�サプライヤー� サプライヤー�

    76年 Volvo 製造販売会社設立�

    98年 Ford/マツダ合弁の Auto Alliance 生産開始�98年 BMW Thailand 設立�99年 VW Thai Yarnyon にてライセンス生産開始�00年 GM Thailand 生産開始�00年 BMW 生産開始�01年 Scania Siam 生産開始�

    →欧米系完成車メーカー向け供給� を狙いタイへ進出�

    →日系完成車メーカーへのア� プローチを狙いタイへ進出�

    62年 Siam Motors & Nissan 生産・販売開始�64年 Toyota Motor Thailand 生産・販売開始�66年 Isuzu Motors Thailand 設立�73年 Siam Nissan Automobile 設立�79年 Toyota Auto Body(プレス部品)生産開始�84年 Honda ライセンス生産開始�87年 Isuzu Engine Manufacturing 設立�87年 MMC Sittpol 設立�89年 Siam Toyota Manufacturing(エンジンユニッ

    ト製造)生産開始�89年 Isuzu Die Making(プレス加工)生産開始��92年 Honda Automobile Thailand 生産開始�92年 Mazda Engineering 生産開始�93年 Toyota Leasing(自動車販売金融)設立�96年 Siam Nissan Casting 設立���04年 トヨタ IMV 生産開始 生産能力を20万台→

    約30万台/年に増強�

    62年 Thai Yazaki Electric Wire 設立����72年 Denso Thailand 設立�74年 Dyna Metal Co., Ltd. 操業�81年 Thai Stanley Electric 操業 Thai Steel Cable

    (日本ケーブル・システム)操業�85年 EXEDY Friction Material 設立�86年 Thai Koito Co., Ltd. 操業�90年 Jibuhin(Thailand)Co., Ltd. 設立�93年 Thai Summit Mitsuba Electirc Mfg. 操業�95年 Toyota Gosei(Thailand)操業�   Thai Nippon Seiki 設立�   Thai Seat Belt Co., Ltd.(東海理化)操業�96年 Siam Kayaba Co., Ltd. 操業�   Siam Calsonic. Co., Ltd. 操業�97年 Thai Automotive Seating & Interior(ニッパ

    ツ)設立�98年 Siam Aisin Co., Ltd. 操業�03年 Toyodabo Filtration System(オイルフィル

    ター等)生産開始�

    89年 Freudenberg(独)�92年 Hayes Lemmerz International (米)�94年 Dana (米)�95年 Federal-Mogul (独)�96年 Autoliv(スウェーデン)� Arvin Meritor(米)� Robert Bosch (独)�97年 GKN (英)�98年 VisteonThailand(米)� TRW (米)�99年 Johnson Controls (米)�00年 Delphi Automotive Systems (米)�01年 Delphi 新工場稼動�02年 Tenneco Automotive (米)�

    出資比率�

    100%�

    100%�

    50%�

    Dana Spicer Thailand� 95%�

    TRW Steering & Suspension� 100%�

    Johnson Controls & Summit Interiors� 60%�

    Visteon�

    Dana�

    Lear�

    TRW�

    Johnson Controls�

    Delphi� 100%�

    欧�

    米�

    100%�

    50%�

    Autoliv(スウェーデン)�

    Robert Bosch(独)�

    GKN(英)�

    メーカー名� タイでの企業名�

    Autoliv(Thailand)�

    BJKC(Thailand)�

    GKN Driveshafts(Thailand)�

    VisteonThailand�

    General Seating(Thailand)�

    Delphi automotive Systems(Thailand)�

    →過半数以上の出資比率を確保し、経営権を掌握�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    については、特に1998年にFord/マツダがAuto

    Alliance Thailandを設置して以降、その動きは

    活発になっている。また後者は、未開拓顧客であ

    る日系完成車メーカーへの販売を増やしてシェア

    を確保するのがその狙いであるが、日系完成車

    メーカーは既にアジアで高いシェアを確保してい

    ることから、効率よく販路を拡大する上でタイは

    格好の立地である*19。このことから、今後のタ

    イにおける自動車部品業界では、特に欧米系部品

    メーカーのシェア拡大の動きに注目していく必要

    がある。

    さらに、欧米系部品メーカーは日系に対して以

    下の2点においてアドバンテージがある。�欧米

    系は株式保有比率規制が緩和された後に進出して

    きたため、現地子会社の設立当初から過半数の株

    式を所有し経営権を掌握しており、経営の自由度

    が高い(図表8)。これに対し日系は、旧来の合

    併形態のため未だ経営権を掌握できない企業もあ

    る。�欧米系は国産化比率規制廃止やAFTA発

    効による関税引き下げなどの規制緩和を見込むこ

    とができたため、ASEAN内でタイを当初から輸

    出拠点と位置付けて集中的に進出することがで

    き、投資効率が良い。これに対し日系は、

    ASEAN各国に分散した拠点の戦略的見直しが必

    要となっている。

    (3)事業環境の変化

    欧米系完成車メーカーのシェア

    こうした欧米系企業進出の受け皿となるタイの

    図表7 欧米系・日系の参入年表

    出所)各種資料よりブラクストン作成

    *19 各欧米系部品メーカーが具体的な数値目標を掲げている。例えば、「2005年を目途に非GM比率を50%まで引上げる(Del-

    phi)」、「アジア太平洋で売上高の2割を稼ぐ(Valeo)」など。

    図表8 主要欧米系サプライヤーのタイ子会社出資比率

    出所)Annual Report、ホームページ等より作成

    12 開発金融研究所報

  • 0%�

    25%�

    50%�

    75%�

    100%�

    1998年� 2001年�

    準欧米系�

    ホンダ�トヨタ�

    その他�

    GM�Ford

    トヨタ�

    ホンダ�

    三菱�

    日産�マツダ�

    いすゞ�

    Ford

    GM

    44.4%�

    33.4%�

    34.0%�

    48.5%�

    タイにおける完成車メーカー�のシェア構造の変化�

    20%�

    見かけ上の�欧米系のシェア�

    欧米系の�株式保有比率�

    事実上の�欧米系の�シェア�

    70%�

    購買意思�決定者� 部品購買方針・状況�

    日系ピュア�

    欧米系�

    ピュア�

    世界レベルで、総合的な部品供給が可能なグローバルサプライヤーへの発注が基本�

    欧米系完成車メーカーの資本傘下入りした関係上、購買方針が欧米型にシフト�

    欧米人が購買発注権限を掌握したことで、これまで付き合いがあり、同じ考え方を持っている欧米系サプライヤーを好む傾向�

    系列関係を大事にはしているが、一部で欧米系サプライヤーへの発注や、共同開発も開始�

    いすゞ�(GM)�マツダ�(Ford)�日産�

    (Renault)�三菱�

    (Daimler�Chrysler)�

    →�

    →�

    →�

    →�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    自動車業界の環境についてみてみる。在タイの部

    品メーカーは、在日本の部品メーカーに比べて業

    界再編の影響を受けやすい環境にある。それは、

    タイの完成車生産の日系・欧米系別の内訳に表れ

    る。図表9は、タイにおけるメーカー別の完成車

    生産のシェアを示している。これによると、確か

    にタイにおける欧米系完成車メーカーのシェア

    は、GM・Fordを合わせて約20%(約10万台)に

    すぎないように見える。

    しかし、いすゞやマツダ、三菱自動車などで

    は、欧米の資本参加に伴い購買方針においてその

    影響を受けていることから、見かけ上のシェアは

    日系が大半を占めているものの、完成車メーカー

    の調達方針に大きな影響を受ける部品メーカーに

    とっては、実質上70%程度が欧米系完成車メー

    カーの調達方針の影響下にあるといえる*20。そ

    して、欧米系完成車メーカーのこの地域への完成

    車供給を担う運営主体として、いすゞ、マツダ、

    三菱自動車などのタイ工場が稼動することになる

    と推測される。これを背景として、欧米系完成車

    メーカーの調達方針に通じた欧米系部品メーカー

    に受注を奪われるケースや、在タイの日系部品

    メーカーから「今は特に問題はない。が、次のモ

    デルチェンジではどうなるか正直わからず、不安

    だ」という声も聞かれている。つまり、完成車

    メーカーの調達方針の変化によって、これまでの

    部品納入の実績にかかわらず、次期モデルでの部

    品メーカー選定時に、継続して受注できるという

    保証がなくなっている。換言すれば、欧米系部品

    メーカーのシェア拡大の機会が増加していること

    になる。

    事業環境の変化

    以上のことから、タイの自動車部品メーカーを

    めぐる事業環境は、「欧米系企業の参入」、「調達

    方針の変化」という二点において大きく変化して

    いるといえる。特に調達方針の変化は、完成車

    メーカーの再編というタイから離れた業界動向の

    影響も受けている点で注目される。比較的系列の

    緩やかなタイの自動車産業では、こうした完成車

    メーカーの調達方針の変化が顕在化しやすい。し

    たがって、タイの日系部品メーカーは、こうした

    変化が何を背景とし、どう対処すればよいのかを

    考える必要がある。具体的には、タイにおける完

    成車メーカーの購買方針や要求水準がどう変化し

    ているのかを整理しなければならないのと同時

    に、欧米系部品メーカーが日系企業と比べてどう

    違うのかを検証し、その事業上の優位点を明確に

    *20 完成車メーカーによる部品メーカーの絞込みについては、FOURIN(2001)pp.5が参考となる。事実、現地日系部品メーカー

    数社へのインタビュー結果によると、部品メーカーの選定や調達のあり方に変化が起きている(あるいはこれから起きると予

    想する)との回答結果があった。(2002年9月のインタビューによる)

    図表9 タイにおける欧米系完成車メーカーのシェア

    出所)The Thai Automotive Industry Association Japan Automobile Manufacturers Association, Incよりブラクストン作成

    2003年6月 第16号 13

  • 促進�

    部品購買決定権者の変化� 部品購買方針の変化�

    影響�

    ●提案力�

    呼応�

    呼応�

    呼応�

    タイ市場を巻き込む自動車業界の変化� 完成車メーカーの部品調達方針の変化� 欧米系部品メーカーの属性�

    グローバル市場�の制覇願望�

    合従連衡の�必要性�

    部品調達コスト�削減の必要性�

    環境技術などの�開発費用負荷�

    欧米系による�日系完成車メー�カーの買収�

    完成車メーカー�によるグローバル�調達が現実化�

    日系完成車メー�カーの系列の弱�体化�

    →欧米人が購買発注権限� を掌握�

    →世界中の部品調達機能� を HQ(日本・米国等)� に集約�→タイ現地法人の発注権� 限は縮小�

    →①購買方針の欧米化� 欧米式の「クルマづくり」� 手法に即した購買方針の� 適用�

    →②グローバル調達� ・世界中で� ・同じ仕様の部品を� ・同じ価格で� ・同じタイミングで�

    →③系列を超えた取引� ・人間関係よりも、�  経済合理性を評価� ・系列外の企業や欧�  米系にも発注開始�

    ●欧米ルールの熟知� -ビジネススタイル等�

    ●グローバル供給体制�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    した上で、自社製品の特性や市場でのポジショニ

    ング、収益性などを参考に、次期の事業戦略を練

    らなければならない。

    第2章 調達方針の変化とタイへの影響

    (1)調達方針の変化

    完成車メーカーにとって、調達の方針・方法に

    最も大きな影響を与えるインセンティブは調達部

    品の原価削減である*21。無論そのための取組み

    は従来からなされているが、重要なのは、その手

    法が近年変化している点である*22。その要因と

    して、�調達方針の欧米化、�グローバル調達、

    �系列関係を超えた取引、などが挙げられ、これ

    らを背景として、日系完成車メーカーという「市

    場」へ、新たに欧米系部品メーカーが参入する素

    地が生まれている(図表10)。

    部品調達方針の欧米化

    完成車メーカー再編の中で、欧米系資本の入っ

    た日系完成車メーカーでは、調達管理責任者に欧

    米系完成車メーカーの出身者をおくことにより、

    調達方針が大きく変化している*23。例えば、い

    すゞとGMとの間の異なる車種間での部品共通化

    が進む場合、それがGM傘下の欧米系部品メー

    カーに有利な方向に進むのか、そうでないのかは

    重要な焦点となる*24。また、共通部品を利用す

    図表10 完成車メーカーの調達方針の変化と欧米系企業の対応

    出所)ブラクストン作成

    *21 調達原価は、製造原価の約60%を占めるといわれる。

    *22 サプライヤーシステムに詳しい藤本氏は「原価低減の主役は、1980年代までは生産現場の効率化、1990年代は設計の簡素化

    であった。しかし、国際競争が激化する中、購入単価そのもの(部品単価や賃金)を抑えようとする傾向も最近は目立つ。こ

    れを、日本型生産システムの長所を殺さずにできるのか、今後が注目される。」と述べている(藤本隆宏 日本経済新聞

    2002.6.19経済教室より抜粋)

    *23 例えば、調達原価削減について三菱自動車はDaimler Chryslerの手法をもとにしたコスト低減プログラム(COSMOS)を導

    入することで、年間600億円のコスト削減を目標としている。日産はNRPの達成後も、引き続き2002―2005年の3年間で15%

    の部品調達原価の削減を予定している。また共同購買については、日産・ルノーによる部品の共同購買組織(RNPO)が日産・

    ルノーの購買全体の約30%を担当しており、将来的にはその比率を70%まで引上げる予定である。マツダは購買部門の国内

    外区分を統合するなどの組織改編に加え、Escape/Tributeの海外調達率を30%(調達先は主に欧米系部品メーカー)にするとしており、いすゞもGMの世界購買システム(WWP:World Wide Purchasing)を採用し、GMの評価基準に従った調達へ

    と変化している。さらに、GM、いすゞ、スズキ、富士重工業は、共同で部品を購入する共同購買チーム(Alliance Purchas-

    ing Team)を発足した。共同購買対象は、ガラス、ジェネレーター、スターター、平鋼鈑、貴金属、触媒用担体、スピー

    カー、アンテナ、電気リレー、ホーン、スチールおよびアルミホイール、(冷却水)ホースなどとなっている。(各社プレスリ

    リースより)

    14 開発金融研究所報

  • 発注�

    発注�

    ■ 各地域でそれぞれ部品メーカーを選定� → 部品メーカーを1社/数社に� 集約して部品調達コスト削減�

    → グローバル調達�

    世界中で�同じ仕様の部品を�同じ価格で�同じタイミングで�

    発注�

    HQで�一括発注�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    るエリアが拡大した場合にも、例えば中国で受注

    を獲得した欧米部品メーカーがそれを実績として

    タイでも受注を獲得する、という可能性がある。

    このような状況においては、欧米型のやり方に適

    応できる欧米系部品メーカーが有利ではないかと

    推測される*25。

    グローバル調達

    部品調達コスト削減を動機として、日系・欧米

    系を問わず、調達全体がグローバル調達の方向へ

    見直されている*26(図表11、図表12)。その影響

    で、以前は現地で行われていた部品メーカー選定

    に関する意思決定が、最近では日本や米国のHQ

    (本部)で行われる傾向が強まっている。また、

    完成車メーカーがグローバル調達体制を構築する

    上で、別の地域へ向けて品質の高い部品を輸出

    (ないし現地生産)する機能をもつことがタイの

    部品メーカーには求められている*27。このよう

    なニーズの変化により、地理的な広がりとそれを

    補完できる組織的特徴(詳細は後述)を有する欧

    米系部品メーカーは、日系部品メーカーにとって

    脅威となる。

    図表11 グローバル調達の概念図

    出所)ブラクストン作成

    *24 調達コスト削減のため、完成車メーカーはプラットフォームをはじめとする部品の共通化を計画・実行している。1980年代

    の「ワールドカー構想」の挫折を教訓に、「各国・地域ごとの地域ニーズを取り込んだ自動車を生産する」という方針にもと

    づいた共通化がすすめられた。タイの場合、各地域や車種に応じた、適度なプラットフォームの共有化が基本戦略となってお

    り、この地域別戦略の中でタイはアジア地域の生産拠点として集約化しつつある。したがって部品メーカーは、こうしたアジ

    ア地域の部品共有化がどのように進むのかを注目するべきであるといえる。

    *25 ただし、現時点でサプライヤーシステムの構造・機能そのものが欧米化したわけではない。この点については、今後詳細な実

    態調査が必要と考えられる。

    *26 タイと他国との部品共通化のレベルは、�タイ専用部品、�アジア専用部品、�グローバル共通部品、という3つのレベルで

    分類できると考えられる。

    *27 タイはこの地域の輸出拠点としてだけでなく、先進国も含めた世界全体に自動車・部品を供給する役割も担っている。タイに

    おける部品輸出についてみると、完成車メーカーによる輸出と部品メーカーを併せた部品輸出総額は過去5年間に3倍以上増

    加している。近年では、タイでの生産が盛んなピックアップのKDセット輸出が増加したこと、1999年からAICO(ASEAN In-

    dustrial Cooperation)を利用したアセアン域内でのOE部品補完が増加したことが主な要因となっている。また、輸出品目の

    内訳についてみると、エンジンやOEコンポーネントといった高機能部品も含まれていることがわかる。このことから、タイ

    は高機能部品の輸出拠点としても機能しつつあることがわかる(例えば、トヨタが2003年から2004年にかけてNBCVとIMV

    の生産を開始し、タイがその部品生産の主要拠点となること、いすゞがコモンレールシステムを用いたディーゼルエンジンの

    集中生産を行うことなど)。

    2003年6月 第16号 15

  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    系列を超えた取引

    上記の環境変化とともに、完成車メーカーと部

    品メーカーとの協力関係の見直しがすすんでい

    る*28。これまで日系完成車メーカーは、調達や

    生産管理担当を部品メーカーに派遣して生産現場

    の効率化を行ったり、設計を共同で行ったりする

    などし、それを踏まえて部品原価を決定するとい

    う系列内での共存共栄の考え方で動いてきた。し

    かし最近では、例えば「○%削減」という形で購

    入原価そのものを先に決定し、その価格で供給で

    きなければその部品メーカーから購入しない、と

    いうドライな手法をとるケースが増えている。

    つまり、原価削減の手法が、これまでの日系自

    動車産業が得意としてきた所謂「系列」という企

    業間関係の中で調整される種類の手法ではなく、

    系列という枠組みを越えた手法を取るように変化

    している。そもそもタイにおける系列関係は日本

    に比べて弱いものであったが、最近では経済合理

    性を重視した取引がさらに加速している。このよ

    うな環境下では、自由な競争・取引環境の中で自

    社の優位性をアピールすることを得意とする欧米

    系部品メーカーが有利な立場にある*29。

    (2)欧米系脅威のケーススタディ

    上記のような完成車メーカーの調達方針の変化

    を受けて、タイでは�受注を欧米系部品メーカー

    に奪われる、�欧米系の積極的な事業展開、�完

    成車メーカーの欧米系部品メーカーに対する対応

    の変化、といった事象が見られた(図表13)。

    受注を欧米系部品メーカーに奪われる

    まず�のケースについては、日系・欧米系完成

    車メーカーによる共同開発車への部品供給が、そ

    図表12 完成車メーカーのグローバル調達動向

    いすゞ�原価公開方式の導入1998年よりサプライヤーに対し事前に目標原価を設定・公開して発注先を選定する購買方式の導入を開始。

    マツダ�購買部門統合1999年に購買部門を商品企画と統合、2000年に海外調達部と国内調達部を統合。

    日産

    �Renaultと調達統合1999年RenaultのOptima購買システムを導入すると発表。Renaultとの統合効果により2005年までに30億ドルの購買コスト削減を目指す。

    �RFQ方式採用欧米で一般化してきた同一仕様書による入札方式による発注先決定方法を採用。

    三菱

    �グローバル調達2000年グローバル調達を開始、30品目の部品・材料について、関連サプライヤーを一社または少数に限定。その他部品も調達先を世界規模で選定。

    �集中購買2000年乗用車部門、商用車部門間の共用部品・材料の集中購買方式導入を決定。

    ホンダ�世界五極最適調達からグローバル調達体制への移行それぞれの地域で最適部品の調達を行ってきた体制を、世界ネットワーク型体制に改め、部品ごとに調達先を一極集約し、コストの最適化を図る。

    トヨタ

    �グループ企業と調達統合1999年ダイハツ、日野と共同で、部品・資材購入情報を一元管理するデータベースを構築。1999年グループ車体組み立てメーカーの部品調達をトヨタに一本化、効率的部品調達により、グループ全体のコスト削減を実現する計画。

    出所)FOURIN「2002アジア自動車産業」より作成

    *28 例えば三菱自動車では、部品協力会である「柏会」が解散した。

    *29 日系企業の系列取引に関して、「日本企業の系列取引(「一社専属の閉鎖的取引」や「出資と役員派遣に基づく関係主義」)と

    モノづくりの競争優位との関係は薄い。競争優位の源泉として日本型サプライヤーシステムがあるが、これと系列取引とは似

    て非なるものであり、モノづくり強化のために欧米企業は系列ではなくサプライヤーシステムをむしろ取り入れてきた。した

    がって、モノづくり競争優位の観点からは、欧米系企業は日本型に近づいた、と言うことができるのではないか。」とのコメ

    ントを識者の方からいただいた。

    16 開発金融研究所報

  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    れまでの日系部品メーカーから欧米系部品メー

    カーに受注が流れるケース、完成車メーカーに直

    接納品するのではなく、欧米系部品メーカーを通

    じて納品するように指示が出るケースなどが挙げ

    られる。

    欧米系の積極的な事業展開

    また�のケースについては、買収先の日系企業

    を利用して日系完成車メーカーとの取引を開始す

    るケースや、欧米系部品メーカーが日系完成車

    メーカーの出身者を自社に配置して日系完成車

    メーカーとの取引を開始するケースがある。

    欧米系部品メーカーに対する対応の変化

    �については、部品メーカーの選定にあたって

    「カバレッジが広く汎用部品の一括受注・生産が

    得意な欧米系が有利である」、「日系・欧米系完成

    車メーカーの共同購入に伴い、欧米系部品メー

    カーへの発注の可能性が高くなる」などの見解が

    あり、これまで系列を重視してきた日系完成車

    メーカーまで、系列外取引を活発化している。こ

    うした変化は、タイに欧米系部品メーカーが参入

    していることを示している。

    その他のケース

    この他にも、現地調達・生産部品の品質を効率

    的に向上させるために、日系完成車/部品メー

    カーから技術者をヘッドハンティングしてくる

    ケースも見かけられた。この場合、現場の品質管

    理面では日本人技術者が監督し、経営戦略などの

    組織運営については欧米人がマネジメントする、

    という役割分担がされている。このような欧米系

    部品メーカーの人材調達は、日系企業にとって、

    現地欧米系部品メーカーの品質・生産効率改善に

    よる競争力向上や人材・品質管理ノウハウの流出

    による優位性の喪失となり、中期的な脅威とな

    る。確かに、欧米系部品メーカーのタイ進出の歴

    史は浅いが、事業展開・品質改善のスピードは速

    く、今後の状況次第では大きな脅威になると推測

    される。

    図表13 欧米系脅威のケーススタディ*30

    チェックポイント 意味・背景

    完成車メーカーの調達変化

    完成車メーカーの系列外発注は増えているか。 完成車メーカーの調達方針の変化が加速しているか。どのような部品の調達が変化しているか、把握できているか。

    完成車メーカーの最終的な調達決定権は日系にあるか欧米系にあるか。

    部品ごとの完成車メーカーの調達権限を把握できているか。自社の製品が共同購買の対象になっていないか。

    受注が決定するのはタイではなく東京やデトロイトではないか。

    部品ごとの調達決定プロセスへの注視・対応はできているか。

    欧米系部品メーカーとの競合

    競合する欧米系部品メーカーに日本人スタッフがいるか。

    日系部品メーカーの品質管理ノウハウが競合欧米系部品メーカーに伝わっていないか。

    部品の納品先を欧米系巨大部品メーカーにするよう完成車メーカー側から指示があるか。

    自社製品が巨大部品メーカーへの「モジュール」部品供給者に格下げになっていないか。

    出所)各種インタビュー

    *30 図表によると、発注の変化や日本人スタッフの引き抜きなど、日系部品メーカーにとって欧米系部品メーカーが今後とも「脅

    威ではない」とはいいにくい状況が浮かび上がる。例えば、汎用品や大量生産部品を生産している場合、欧米系部品メーカー

    に受注が流れたり、欧米系部品メーカーへ納品するように完成車メーカーから指示が出たりしている。したがって、図に示し

    た予兆が今後どのように変化していくかを見極めるには、完成車メーカーの調達方針、欧米系部品メーカーのオペレーション

    のそれぞれに注目していく必要があるといえる。ただし、すべての企業にこうした影響が現われるわけではない。ここでは、

    一般にどのような変化を予兆として捉えるべきかについて示すが、このことが変化に対する何らかの気付きとなれば幸いであ

    る。

    2003年6月 第16号 17

  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    第3章 日系と欧米系部品メーカーの比較

    (1)議論の整理

    企業組織と部品特性の関係

    現地インタビューを重ねるにつれ、タイだけで

    なく、世界に部品を供給する欧米系部品メーカー

    の「組織力」が目立ったことは見逃せない特徴で

    あった*31。こうした組織力と部品生産との調和

    がとれた場合、次期モデル以降の部品生産にあ

    たって欧米系部品メーカーが優位に立つ状況が予

    想される。仮にそうだとすると、日系・欧米系部

    品メーカーの事業を分析する際には、企業組織の

    あり方と、それらの組織が得意であろうと考えら

    れる部品特性との関係について考察しなければな

    らない。いいかえれば、品質の作りこみが必要で

    ある部品、部品共通化・大量供給が可能である部

    品など、部品ごとの特性と、そういった特性をも

    つ部品生産を効率的に達成する企業組織のあり方

    についての検討が必要である。この部分に焦点を

    あてることによって、欧米系部品メーカーと日系

    部品メーカー、それぞれの持つ組織的な強み/弱

    みを論じ、今後の戦略方針を考察することが出来

    る。

    分析の枠組み

    欧米系部品メーカーと日系部品メーカーの比較

    を「部品の特性と企業組織」の観点から分析する

    ために、まず、欧米系と日系部品メーカーの事業

    構造上の相違を、「組織」と「事業手法」の二つ

    の視点で分析する。すなわち、

    「組織」:欧米系部品メーカーは、世界中に拠点

    を持ち、圧倒的な売上規模をもっている。これに

    対し、日系部品メーカーの規模は、一部の企業を

    除いて比較的小さい。この規模の違いは何に起因

    し、どのような特長をもつのか。

    「事業手法」:日系部品メーカーは各個人のノウ

    ハウ・経験に基づいた「モノづくり」を重視し、

    生産工程の隅まで人的にコントロールすることで

    高いQCDレベルを追求している。これに対し、

    欧米系部品メーカーは、QS9000/ISOなどの管

    理システムにより生産活動をコントロールしてい

    る。この相違は何に起因し、どのような特長をも

    つのか。

    �組織の相違と意味

    規模の相違

    部品メーカーの組織における最も大きな相違

    は、日系と欧米系とでは規模が異なる点であ

    る*32(図表14)。

    欧米系部品メーカーが大規模化した理由の一つ

    に、 M&Aに積極的であった点が挙げられる*33。

    日系部品メーカーと欧米系部品メーカーの世界進

    出状況について、その形態について比較すると、

    欧米系がM&Aを活用していることがわかる。図

    表15は1999年以降の進出形態を日系と欧米系と

    で比較したものであるが、世界進出における欧米

    系部品メーカーの進出形態は、M&Aが45件と圧

    倒的に多い。その頻度についても、欧米系部品

    メーカーはわずか数年の間に多数のM&Aを仕掛

    けていることがわかる*34。

    *31 今回の調査の中で、タイの日系部品メーカーの行動基準や考え方を聞くと、圧倒的に「経営=オペレーション(生産活動)=

    QCD向上」という意識が強い。確かに、インタビュー先の欧米部品メーカーは日系部品メーカーの品質の高さを十分に認識

    していた。しかし、この激変する業界構造の中では、「経営=Strategy(戦略的行動)+Operation(生産活動)」のように考える

    必要がある。

    *32 欧米系部品メーカーは売上が大きく、世界の部品メーカーの売上高上位10社中、9社は欧米系である。これに対し、日系部品

    メーカーでは最も売上の大きいデンソーでさえ、その規模はDelphi(約3兆円)の約半分強(約2兆円弱)に過ぎない。また

    従業員数・拠点数で見ても、欧米系企業の組織の大きさがうかがえる(図表参照)。

    *33 M&Aを効果的にするためには、M&Aを許容・促進する企業文化が不可欠である。総じて欧米系企業における勤続年数は短

    く、各個人は短期的に業績を上げることが求められている。そのためトップおよび現場のマネージャーは、会社の長期的な業

    績よりも「自分が担当している短い期間の中で、どうやったら大きな業績を上げられるか」を考えるようになる。また欧米系

    企業の場合、会社は「独立した各個人の集まり」という性格を強く持っており、従業員の入れ替わりが激しい。そのため、会

    社自身が融合してその組織が大きくなることに対する現場の抵抗感はそれほど大きくなく、規模の経済を達成するためのM&

    A(合併)が行われやすい環境がある。

    18 開発金融研究所報

  • Delphi

    Visteon

    1949 1973 2000 200119991997

    設立�

    設立�

    設立�

    設立�

    1998

    Specialty Electronics 買収�Eaton Corporation のスイッチ/�エレクトロニクス部門買収�

    買収�

    16

    4536

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80日系、欧米系の世界進出形態�

    *1999年以降の進出形態を比較�

    (件)�

    北米系の買収�件数は、日系�の2.8倍�

    単独/合弁�

    日系、欧米系トッププレーヤーの設立以来の主な M&A

    (年)�

    デンソー�

    アイシン�精機�

    LIBERTY�MEXICANA S.A.DE�C.V. に資本参加�

    米国 PABA, Inc. を買収�

    米ゼクセルのカーナビ�ゲーション部門を買収�

    曙ブレーキ工業に5.85%資本参加�

    芦森工業と米 Delphii がシートベルトの合弁生産�

    マツダの完全子会社であったナルデックを買収�仏 Plastic Omnium の自動車インテリア部門を買収�韓国 DucYang Industry の50%委譲の株式を買収�萬都機械と Ford の折半出資で設立した Hall Climate�Control Corp. の出資比率を70%に引上げ�

    伊マニェティ・マレッリ�社の回転機器事業部門を�買収�

    伊マニェティ・マレッリ�社の空調機器事業部門を�買収�

    折半出資の合弁だった�米ピューロデンソー社�を完全子会社化�

    北米系�サプライヤー�

    欧州系�サプライヤー�

    日系�サプライヤー�

    (単位:百万ドル)�0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000

    Delphi Automotive Systems

    Visteon Corp.

    Robert Bosch GmbH

    デンソー�

    Lear Corp.

    Johnson Controls Inc.

    TRW Inc.

    Dana Corp.

    Magna International Inc.

    Valeo SA

    →日系と欧米系の組織上の最大の相違は、規模にある�

    2倍の差がある�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    大規模であることの意味

    大規模であることは、部品メーカーの完成車

    メーカーに対する交渉力や、エリアカバレッジ・

    プロダクトカバレッジの広さを意味する(図表

    16)。エリアカバレッジとは、世界のあらゆる地

    域で、同じ仕様の部品を、同じ価格で、同じタイ

    ミングで納入できるという地域的な供給能力の高

    さを意味する。プロダクトカバレッジは、自社内

    や外部の部品メーカーを通じて、数多くの部品を

    取りまとめて組立を行い、完成形にできるだけ近

    い形で納入するという、自動車の半完成製品作製

    能力を意味する*35。 M&Aによる大規模指向は、

    この両方のカバレッジを広げ、大規模・広範囲な

    部品供給体制を可能にしている。

    図表15 欧米系は、M&Aによって、規模を拡大

    出所)FOURIN(2001)「日米欧主要部品企業の世界生産体制」、各社ホームページ、報道より

    *34 尚、DelphiとVisteonには、以前はGMやFordの部品内製部門であったため、独立当初から大規模であったという個別事情が

    ある。

    *35 例えばDelphi、Visteonなどの欧米系部品メーカーは、世界の主要エリアへのカバレッジを持ち、プロダクトカバレッジも広

    い。ただしこの点について、「M&Aで規模が大きくなったので半製品のモノづくり能力が上がった、という話は聞かない。

    むしろ合併後もモノづくりの側面では苦労が多いようだ。」との有益なコメントをいただいた。

    図表14 世界の自動車部品サプライヤーの売上高上位10社

    注)1999年のランキング出所)FOURIN(2001)「日米欧主要部品企業の世界生産体制」

    2003年6月 第16号 19

  • ▲� ▲� ▲�

    日本�

    米国まで�

    欧州まで�

    中国まで�

    東欧まで�

    南米まで�

    ▲�

    Super Supplier

    専門的� 総合的�

    ASEAN まで�

    リージョナル�

    グローバル�

    単一機能部品�の生産能力�

    小モジュール化�対応力�

    大モジュール化�対応力�

    アッセンブリー�・半完成化能力�

    日系A社� 日系B社�

    日系C社�

    Delphi・Visteon�等の大手欧米系�

    多くの日系�Tier1的�

    サプライヤー�

    日系�Tier2的�

    サプライヤー�

    ②製品の総合供給体制 (プロダクトカバレッジ)�

    ①グローバル供給体制(エリアカバレッジ)�

    (例)�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    日系部品メーカーの規模

    その点、日系部品メーカーは、完成車メーカー

    を中心とした系列関係の中で分業体制を組み、各

    社それぞれが与えられた役割や個別の製品分野に

    特化し、品質の改善や専門性を高めてきた。その

    ため、各々の部品メーカーの規模は総じて大きく

    ない。そのかわり、専門性や改善の追及といった企

    業間関係を構築することで完成車メーカーのニーズ

    把握を容易にし、部品メーカーはニーズに合わせ

    た「作り込み」に特化することが可能となった*36。

    このように、欧米系部品メーカーが規模を追求

    して供給能力と部品生産能力のカバレッジを広げ

    ていたのに対し、多くの日系部品メーカーは、世

    界3大市場を中心に、比較的少ない種類の部品を

    専門的に生産していた。組織(経営面)の相違は

    このような点にある。

    �事業手法の相違と意味

    システム化の導入

    事業手法(生産面)の相違で特徴的なのは、欧

    米系企業は活動のあらゆる側面で「システム化」

    に取り組んでいる点である(図表17)。世界中に

    広がる大規模な企業組織を持ち、トップや現場担

    当者などの人材の入れ替わりが激しい欧米系部品

    メーカーにとって、人の流動化に対する生産の安

    定性を維持することは重要な経営課題である。つ

    まり、世界各地の人種や教育レベルの異なる従業

    員が、短期間に一定水準の業務を遂行できるよう

    になることや、従業員が入れ替わってもビジネス

    を継続できるしくみを整えることが必要となる。

    このため欧米系部品メーカーは、企業活動のあ

    らゆる側面*37において、「契約の重視」、「現地人

    への権限委譲」、「グローバルトレーニングの充

    実」、「部品メーカー選定基準の世界標準化」、「品

    質マネジメントシステムの遵守」などのしくみ(シ

    ステム)を構築し、その運用に努めているととも

    *36 日本の自動車部品メーカーの競争優位を説明する仮説の一つとして、�部品生産・組立システム全体の効率化をもたらす完成

    車メーカーとの「長期継続取引」、�価格競争だけでなく能力構築をもたらす「少数サプライヤー間の能力構築競争」、�承認

    図方式や無検査納入などに顕れる「まとめて任せる」方式、の三点が指摘されている。(藤本隆宏(2001)「生産マネジメント

    入門�」pp.160、日本経済新聞社より引用)

    *37 例えば、全般管理、人事・労務管理、調達活動、購買・物流、製造、出荷・物流、販売・マーケティング、サービスなど。

    図表16 グローバル供給体制と製品の総合供給体制

    出所)ブラクストン

    20 開発金融研究所報

  • サービス�

    調達活動�

    製造�

    技術開発�

    ・契約の重視�

    システム化の分類�企業の事業構造�

    全般管理(インフラ)�

    人事・労務管理�

    購買�物流�

    出荷�物流�

    販売・�マーケ�ティング�

    目的・意味合い�

    [海外法人経営手法]�・サプライヤー選定基準� の世界標準化�・品質マネジメントシス� テムの遵守(QS9000、� ISO/TS16949)�・現地(タイ人)への権� 限委譲�・グローバルトレーニン� グの充実�

    →担当者の入れ替わりによる� 権利・義務の不明確化を防� 止�

    →マニュアル化により、本国� と異なる民族・教育レベル� の従業員でも、短期間で本� 国と同様のビジネスを行う� ことが可能になる�

    →長期に亘るグローバルビジ� ネスの展開を可能にする�

    →世界中で知識・ルールを共� 有し、その一致をはかる�

    ①人種や教育レベルの異� なる従業員が、短期間� に一定水準の業務を遂� 行できるようになる��②人が入れ替わっても、� ビジネスは継続できる�

    欧米系サプライヤーは、企業活動のあらゆる側面で、システム化に取り組んでいる�

    …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    に、各生産拠点において裾野産業の基盤を整備し

    ている。例えば「品質マネジメントシステムの遵

    守」に つ い て み る と、QS9000*38やISO/TS

    16949*39など、完成車メーカー独自の基準があ

    る。また、部品メーカー各社も独自の規格を持っ

    ている*40。

    システム化の意味

    規格管理システムは、海外支社に対する本社の

    ハンドリングを強めるほか、短期間に広範囲で、

    製品の品質を一定レベルまで引上げる役割を担っ

    ている*41。また、「現地人への権限委譲」「グロー

    バルトレーニングの充実」についてみると、欧米

    系部品メーカーは世界中の従業員(マネジャーレ

    ベル)の知識・ルールの共有化を図っている。例

    えば、Delphi、Bosch、Arvin Meritorなど、タ

    イにおける代表的な欧米系部品メーカーは本国か

    ら数名しか駐在させず、現地マネジャーレベルに

    タイ人を積極的に登用しており、その中でこのよ

    うな人材育成システムを活用している*42。

    また、「契約の重視」については、次のような

    ことがいえる。欧米系部品メーカーにとって契約

    は、取引を明瞭にし、誰でも円滑に事業を遂行す

    るためのツールに他ならない。そして、たとえ担

    当が替わっても、どの国でも、後任者は契約に基

    づいて事業を継続することが可能となる。経営の

    システム化にあたり、欧米系部品メーカーは文書

    化(マニュアル化)を重視することで曖昧さを徹

    底的に排除しているのである*43。

    図表17 システム化の分類

    出所)ブラクストン

    *38 QS9000は、1994年に米国のビッグ・スリーによって開発された規格管理システム。欠陥予防、無駄の減少を強調し、コスト

    削減に結びつく継続的な改善を規定する基本的・具体的なシステム。

    *39 QS9000をベースにVDA6.1(ドイツ規格)、EAQF(フランス規格)、AVSQ(イタリア規格)を融合させたISOの自動車業界

    のための品ビッグ・スリーが部品メーカーを選定する際の要件として、こうした品質管理規格システムの遵守を挙げているた

    め、欧米系部品メーカーはこれら規格を重視している。国際的にQS9000、VDA6.1、EAQF、AVSQなどと同等のものと認

    められている。

    *40 例えば、DelphiではSPDP(Supplier Performance Development Program)という2次部品メーカー選定のための内部基準

    がある。

    *41 例えば、システム化による現地調達率向上への貢献は大きい。欧米系部品メーカーが参入から間もない時期に一定の品質を確

    保しつつ現地調達を拡大する背景には、各社のもつ品質管理システムが有効に機能していることがある。つまり品質管理規格

    システムに準拠することを取引要件とし、現地企業を含めた取引先企業への取得を奨励・支援することで、短い時間で一定の

    品質の現地調達部品を確保するのである。タイにおいても、現地企業に限らず、こうした品質規格システムの取得は積極的に

    行われている。

    *42 ただし、「タイ人への権限委譲をしなければグローバル化やコスト競争に勝てず、日系企業の競争力は落ちる。従って日系部

    品メーカーもタイ人を積極的にマネジメント層に登用すべき」とするのは早計である。欧米系部品メーカーは、現地マネジメ

    ントをシステムによって補完しているからこそタイ人への権限委譲が可能なのであり、彼らの事業構造・マネジメント構造は

    日系の「モノづくり型組織」とは根本的に異なることに留意する必要がある。

    *43 ただし、「運用上はある程度の『カスタマイズ』が行なわれる場合もある」とのことであった(現地インタビューによる)。

    2003年6月 第16号 21

  • タイ�

    本国人� 現地人�

    本社� 本社�

    従業員�

    マネジャー�

    トップ�

    システム化による海外法人経営は、急速なグローバル展開・統治を可能にする�

    欧米系サプライヤー� 日系サプライヤー�

    定型化�(文書化)�

    ②現地人への� 権限委譲�→各地域で� 長期的な� ビジネス� の継続�

    メキシコ� タイ� メキシコ�

    ③トレーニング� で知識・ルー� ルを共有�→権限委譲を� 行っても、各� 地域が一定の� 方向性を保持�

    暗黙知や企業�文化の形で意�識を共有�→時間を要する�

    経験豊富な日本人に�よるマネジメント��→短期間のグロー� バル展開には不利�

    拠点毎に独自の経営方針�→本社のグリップは弱い�

    ①定型化による世界一体型経営�・品質管理基準:QS9000�・サプライヤー選定基準�→本社のハンドリング力の強化�

    システム�欧米系�

    日 系�追 求�

    遵 守�

    品  質�

    確 保�

    ■品質管理基準�

    ■サプライヤー選定基準�

    ■全社的な従業員教育�

    …�

    ■「品質を確保」するためのシステム。�■しかし、「システムの遵守」自体が目的化する危険性がある。�

    こうしたシステム化の導入は、日系・欧米系の

    海外法人の経営手法における相違点にも関係す

    る。図表18のようなシステム化による海外法人経

    営により、欧米系部品メーカーは急速なグローバ

    ル展開とその後の統治を可能としている。これに

    対して日系部品メーカーは、経験と知見の共有に

    よる品質の高い「モノづくり」を展開するために、

    日本人自らが世界中の現地法人のマネジメントを

    行っており、タイもその例外ではない。事業手法

    (生産面)の相違はこのような点にある。

    (2)日系・欧米系それぞれの優位性

    欧米系部品メーカーの「システム化」の優位性

    こうした点を念頭におくと、欧米系部品メー

    カーと日系部品メーカーの海外法人経営手法の主

    な相違は、以下の点に絞られる(図表19)。まず

    「組織(経営面)」については、欧米系は出来る

    だけ事業のやり方を定型化(文書化)し、本社の

    ハンドリング力を高めている。いっぽう日系は技

    術者による指導・ノウハウの移転や本社―現地間

    の人間関係による統治が主体である。また「事業

    手法(生産面)」では、欧米系は、現地人への大

    幅な権限委譲を行い、マニュアル・社内トレーニ

    ングで品質などをコントロールしている*44。

    いっぽう日系は、現地日本人スタッフによる指導

    が主体である。

    このように、経営手法の中に「システム」が組

    み込まれているかどうかが日系・欧米系の事業手

    法の差にも影響していると考えられる。そして完

    図表18 欧米系と日系の海外邦人経営手法の相違

    出所)ブラクストン

    図表19「システム化」と「モノづくり」

    出所)ブラクストン

    22 開発金融研究所報

  • …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

    成車メーカーによるグローバル調達・部品共有化

    がすすむ分野においては、「システム優位」の経

    営形態をもつ欧米系部品メーカーに有利な状況を

    生んでいる。大規模で世界中に生産拠点を持つ欧

    米系部品メーカーは、こうした要求に対応する組

    織能力をもっているからである。

    日系部品メーカーの「モノづくり」の優位性

    大規模な組織に基づくグローバル供給体制(エ

    リアカバレッジ)と製品の総合供給体制(プロダ

    クトカバレッジ)に優位性がある欧米系に対し、

    日系部品メーカーは、「モノづくり」のQCDに優

    位性があり、完成車メーカーのニーズに柔軟に対

    応して製品・サービスの高付加価値化を図ってい

    る。

    日系部品メーカーがQCDに優れているのは、

    日本企業の組織的・企業間関係的な性質に因ると

    ころが大きい。タイの日系部品メーカーでも、

    QS9000やISO/TS16949といった欧米型の品質管

    理システムを導入している企業は多い。しかし多

    くの場合、欧米系メーカーとの取引要件であるた

    めに品質管理システムを導入したにすぎず、品質

    は人の経験・ノウハウによって「追求」されてい

    る*45。

    つまり、欧米系はシステムにより世界的な経営

    体制を確立しているものの、そのために生産現場

    において本来補完的であるはずのシステムの遵守

    自体が目的化してしまっている。いっぽう日系

    は、世界的な経営体制については不十分な面があ

    るものの、納期や完成車メーカーへの対応などの

    「柔軟性」も含めた広い意味での高い品質レベル

    を維持している点が目立つ、という整理ができ

    る*46。事実、多くのタイの欧米系部品メーカー

    に「日系は欧米系より品質が高い」と言わしめる

    に至っている*47。

    (3)優位性が有効に働く局面とは

    以上述べてきた欧米系部品メーカー、日系部品

    メーカーの相違をまとめると、欧米系部品メー

    カー・日系部品メーカーのそれぞれが持つ組織

    面・生産面での優位性は、以下のような市場環境

    で最も有効に機能すると推測される(図表20)。

    まず、欧米系部品メーカーの大規模な組織、シ

    ステム化という事業手法は、汎用品や共通部品の

    大量生産・モジュール化でスケールメリットを追

    求する場合に有利である。また販売先としては、

    欧米系完成車メーカー�