処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...in the...

9
処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草地から発生する 温室効果ガス揮散量 Measurement of Greenhouse Gas Emissions from Grassland: Emissions from Dairy Cattle Manure Slurry Applied after Two Different Treatment Processes 中山 博敬 横濱 充宏 ** 桑原 淳 *** NAKAYAMA Hiroyuki , YOKOHAMA Mitsuhiro and KUWABARA Jun 液状の乳牛ふん尿スラリーは、バイオガスプラントで嫌気発酵処理されて消化液になるか、肥培か んがい施設で曝気処理されて曝気処理液となり、それぞれ液肥として圃場に散布される。本研究では 草地における温室効果ガス揮散量の低減に向けた検討データを得るため、処理方法の異なる乳牛ふん 尿スラリーを採草用牧草地表面へ散布した場合の温室効果ガス揮散量を測定した。試験区は合計6試 験区とし、処理区として発酵処理前の原料液区、曝気処理液区、異なる3つのバイオガスプラントか らそれぞれ採取した消化液区を設け、対照区として化学肥料区を設けた。測定したガス揮散量は、二 酸化炭素揮散量(以下、CO 2 フラックスと表記)、メタン揮散量(以下、CH 4 フラックスと表記)および 一酸化二窒素揮散量(以下、N 2 Oフラックスと表記)である。なお、CO 2 フラックスはすべての試験区 で測定し、CH 4 フラックスおよび N 2 O フラックスは消化液を散布した区のうちの1試験区、曝気処理 液区および化学肥料区の合計3試験区で測定した。測定期間は2013年4月19日から11月17日、2014年5 月4日から11月16日である。結果、CO 2 フラックスは2013年では化学肥料区に対して、曝気処理液区 および3種類の消化液を散布したすべての消化液区で大きい値を示し、統計学的に有意な差が認めら れた。また2014年では化学肥料区に対して、原料液区、曝気処理液区および3種類の消化液を散布し たすべての消化液区で CO 2 フラックスが大きい値を示し、有意な差が認められた。CH 4 フラックスは 試験区間の有意な差は認められなかった。N 2 O フラックスは2013年の消化液区において化学肥料区 よりも大きい値を示し、また2014年の曝気処理液区において化学肥料区よりも大きい値を示し、両年 とも有意な差が認められた。 《キーワード:ふん尿スラリー;牧草地;温室効果ガス》 Liquid manure slurry from dairy cattle is processed into digested slurry by anaerobic digestion at biogas plants, or into aerated slurry at slurry irrigation facilities. Both types of slurry are applied to agricultural fields as liquid fertilizers. In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was applied to the surface of grassland, and the fluxes of CO 2 , N 2 O, and CH 4 volatilized from the grasslands were measured. Measurement data will be used to find ways to reduce greenhouse gas volatilization from the grassland. At the testing locations, digested slurry from three biogas plants, aerated slurry, or untreated dairy cattle manure slurry was spread. As a control, chemical fertilizers alone were applied at a separate location. The CO 2 flux was measured at all the testing locations. CH 4 and N 2 O fluxes were measured at one testing location to which digested slurry was applied, and at locations where aerated slurry or chemical fertilizers were spread. Measurements were taken from April 19 through November 17, 2013, and from May 4 through November 16, 2014. The CO 2 flux at every testing location where either type of treated dairy cattle manure slurry was spread was significantly greater than that at the testing location where chemical fertilizers alone were used, except for the location to which untreated cattle manure slurry was applied in 2013. The CH 4 flux did not significantly differ among all the testing locations. For the 2013 measurements, the N 2 O flux was significantly greater at the 報 文 寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 19

Upload: others

Post on 24-Jan-2021

6 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草地から発生する温室効果ガス揮散量

Measurement of Greenhouse Gas Emissions from Grassland: Emissions from DairyCattle Manure Slurry Applied after Two Different Treatment Processes

中山 博敬* 横濱 充宏** 桑原 淳***

NAKAYAMA Hiroyuki , YOKOHAMA Mitsuhiro and KUWABARA Jun

 液状の乳牛ふん尿スラリーは、バイオガスプラントで嫌気発酵処理されて消化液になるか、肥培かんがい施設で曝気処理されて曝気処理液となり、それぞれ液肥として圃場に散布される。本研究では草地における温室効果ガス揮散量の低減に向けた検討データを得るため、処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを採草用牧草地表面へ散布した場合の温室効果ガス揮散量を測定した。試験区は合計6試験区とし、処理区として発酵処理前の原料液区、曝気処理液区、異なる3つのバイオガスプラントからそれぞれ採取した消化液区を設け、対照区として化学肥料区を設けた。測定したガス揮散量は、二酸化炭素揮散量(以下、CO2フラックスと表記)、メタン揮散量(以下、CH4フラックスと表記)および一酸化二窒素揮散量(以下、N2O フラックスと表記)である。なお、CO2フラックスはすべての試験区で測定し、CH4フラックスおよび N2O フラックスは消化液を散布した区のうちの1試験区、曝気処理液区および化学肥料区の合計3試験区で測定した。測定期間は2013年4月19日から11月17日、2014年5月4日から11月16日である。結果、CO2フラックスは2013年では化学肥料区に対して、曝気処理液区および3種類の消化液を散布したすべての消化液区で大きい値を示し、統計学的に有意な差が認められた。また2014年では化学肥料区に対して、原料液区、曝気処理液区および3種類の消化液を散布したすべての消化液区で CO2フラックスが大きい値を示し、有意な差が認められた。CH4フラックスは試験区間の有意な差は認められなかった。N2O フラックスは2013年の消化液区において化学肥料区よりも大きい値を示し、また2014年の曝気処理液区において化学肥料区よりも大きい値を示し、両年とも有意な差が認められた。

《キーワード:ふん尿スラリー;牧草地;温室効果ガス》

 Liquid manure slurry from dairy cattle is processed into digested slurry by anaerobic digestion at biogas plants, or into aerated slurry at slurry irrigation facilities. Both types of slurry are applied to agricultural fields as liquid fertilizers. In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was applied to the surface of grassland, and the fluxes of CO2, N2O, and CH4 volatilized from the grasslands were measured. Measurement data will be used to find ways to reduce greenhouse gas volatilization from the grassland. At the testing locations, digested slurry from three biogas plants, aerated slurry, or untreated dairy cattle manure slurry was spread. As a control, chemical fertilizers alone were applied at a separate location. The CO2 flux was measured at all the testing locations. CH4 and N2O fluxes were measured at one testing location to which digested slurry was applied, and at locations where aerated slurry or chemical fertilizers were spread. Measurements were taken from April 19 through November 17, 2013, and from May 4 through November 16, 2014. The CO2 flux at every testing location where either type of treated dairy cattle manure slurry was spread was significantly greater than that at the testing location where chemical fertilizers alone were used, except for the location to which untreated cattle manure slurry was applied in 2013. The CH4 flux did not significantly differ among all the testing locations. For the 2013 measurements, the N2O flux was significantly greater at the

報 文

寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 19

Page 2: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

0

20

40

60

80

100

120

140

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

80000

90000

100000

1

10-1

1

1.はじめに

 北海道の乳用牛の飼養頭数は、1993年の92万7千頭をピークに漸減し、2014年現在では日本全国の約57%を占める79万5千頭が飼育されている1)。一方、北海道の酪農家戸数は減少しつづけており、酪農家1戸当たりの乳用牛飼養頭数は年々増加している(図-1)。また、フリーストール牛舎導入農家割合が増加傾向にあり2)、フリーストール牛舎などから発生する乳牛ふん尿スラリーの適正な処理が重要となっている。 乳牛ふん尿スラリーの処理方法には、嫌気性発酵処理と好気性発酵処理がある3)。嫌気性発酵処理では、無酸素状態の発酵槽で、嫌気性微生物の働きによって有機物を分解する。好気性発酵処理では、通気によって好気性微生物の働きを活性化させて有機物を分解する。どちらの発酵処理でも、発酵処理後の液体は圃場へ散布し、肥料として利用される。一方、乳牛ふん尿スラリーを施用した圃場からは、一酸化二窒素(N2O)、メタン(CH4)、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが発生する。圃場への乳牛ふん尿スラリー散布方法は、スラリータンカーを用いて圃場の表面に散布するのが一般的である。 そこで本研究では、草地における温室効果ガス揮散量の低減に向けた検討データを得るため、処理方法が異なる乳牛ふん尿スラリーを牧草地表面に散布した場合の温室効果ガス揮散量の違いを明らかにする。

2.材料および方法

2.1 乳牛ふん尿スラリーの種類および採取施設

 表-1に分析に供した乳牛ふん尿スラリーの種類および採取施設を示す。試料は3種類あり、うち2種類は嫌気性発酵施設であるバイオガスプラントにおける発酵前の液体(以下、原料液)および発酵後の液体(以下、消化液)である。また、残りの1種類は、肥培かんがい施設における好気性発酵後の液体(以下、曝気処理液)である。各試料は、試験区へ散布する直前に各施設から採取し、肥料成分を分析した。分析結果を表-2、3

に示す。

表-1 乳牛ふん尿スラリーの種類および採取施設

表-2 乳牛ふん尿スラリー分析値(2013年)

表-3 乳牛ふん尿スラリー分析値(2014年)

図-1 北海道の酪農家戸数と1戸あたりの飼養頭数

testing locations where digested slurry was applied than at the location where chemical fertilizers alone were utilized. For the 2014 measurements, the N2O flux was significantly greater at the testing locations where aerated slurry was applied than at the location where chemical fertilizers alone were spread.

《Keywords:manure slurry;grassland;greenhouse gas》

20 寒地土木研究所月報 №754 2016年3月

Page 3: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

リウム含有量により決定された。不足する成分は、化学肥料により補った。化学肥料は硫酸アンモニウム、過リン酸石灰および硫酸カリを用いた。表-5、6に乳牛ふん尿スラリー散布量と散布した乳牛ふん尿スラリー中に含まれる全炭素量を示す。また、表-7、8に各試験区の施肥量を示す。表-7、8に示したふん尿スラリーの化学肥料換算値は、基準肥効率および補正係数を用いて換算した値である。各試験区への施肥方法は、化学肥料を散布した後、取手付きビーカーに入れた乳牛ふん尿スラリーを試験区全体へ表面散布した(写真

-1)。施肥日は2013年の早春が5月16日、一番草刈取後が7月4日であり、2014年の早春が5月14日、一番草刈取後が7月17日である。

2.2 調査圃場および試験区の設定

 試験圃場は北海道東部に位置する採草用牧草地である。この圃場は2000年8月に更新しており、土壌は黒色火山性土に分類される。この牧草地内に、図-2に示した試験区を設けた。試験区は、横一列を一つのブロックと考え、一つのブロックを10区画に分け、種類の異なる肥料を施用した。各ブロック内での処理位置は、乱数表を用いて無作為に配置した。ブロック内の10区画の試験区のうち6区画で温室効果ガスを測定し、残りの4区画は予備区または他の試験に使用した。温室効果ガスを測定した試験区名と測定ガスの種類を表

-4に示す。

図-2 温室効果ガス計測試験区

表-4 試験区名と測定ガスの種類

表-5 乳牛ふん尿スラリー散布量と全炭素量(2013年)

表-6 乳牛ふん尿スラリー散布量と全炭素量(2014年)

写真-1 乳牛ふん尿スラリーの施肥状況

2.3 各試験区への施肥量

 各試験区への年間施肥量は、北海道施肥ガイド2010に記載された施肥標準量4)と同じになるように決定した。なお、乳牛ふん尿スラリー中の肥料成分のすべてが化学肥料と同等に作物に吸収されるわけではなく、乳牛ふん尿スラリー中の肥料成分が作物に吸収される割合は基準肥効率として定められている4)。北海道施肥ガイド2010によれば、乳牛ふん尿スラリーの窒素、リン酸、カリのそれぞれの基準肥効率は0.4、0.4、0.8であり、この基準肥効率を乳牛ふん尿スラリーの各肥料成分分析値に乗じることにより、化学肥料に換算することができる。また、基準肥効率とは別に乳牛ふん尿スラリーの品質と散布時期による補正係数が定められている4)。本試験で使用した乳牛ふん尿スラリー中にはカリウムが多く含まれている。そのため、乳牛ふん尿スラリー散布量の上限は、一部の試験区を除きカ

寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 21

Page 4: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

2014、Shimazu,JAPAN)を用いて行った。CO2の測定およびガス採取は午前と午後に1回ずつ行い、3日連続で実施した。施肥直後のみ、1週間連続で測定した。なお、チャンバーは1 ~ 2週間毎に他のブロックへ移設し、チャンバー移設時には移設先の地上部の植物体を刈り取って除去した。これは、同一地点での観測では常に地上部の植物体が刈り取られた状態となり、翌年の牧草の再生長に影響を及ぼすと考えたためである。2013年の測定期間は4月19日から11月17日まで、2014年の測定期間は5月4日から11月16日までである。その間、両年とも、一番草の刈取りが6月下旬に、二番草の刈取りが8月下旬に実施された。刈取り方法は、試験区内は小型電動バリカンを用いて行った。また、試験区周辺はチャンバーを一時撤去し、トラクターで牽引するディスクモアーで刈り取りを行った。

表-7 各試験区への施肥量(2013年)

表-8 各試験区への施肥量(2014年)

写真-2 自動開閉式チャンバー

2.4 温室効果ガス測定方法

 温室効果ガスの測定はチャンバー法により行った(写

真-2)。チャンバーの大きさは、内寸30cm×30cm×30cm である。このチャンバーは任意の設定時間でふたを自動開閉することができる。CO2の測定は、赤外線式 CO2分析計(LI-820または LI-6252、LI-COR、USA)を用い、チャンバーと CO2分析計間で気体を循環させ、測定値を1分ごとにロガーへ記録した。赤外線式 CO2

分析計は、較正ガスを用いて1 ~ 2 ヶ月毎に較正を行った。CH4と N2O 分析用気体の採取は、チャンバー内の気体をシリンジで約30ml 採取し、15ml の真空バイアルビンに圧入した。この採取操作を、ふたを閉めた直後、ふたを閉めてから10分後および20分後におこなった。CH4および N2O の分析は、バイアルビン中の試料ガス濃度の減衰が非常に小さい採取後5日以内に5)、ガスクロマトグラフィー(CH4:GC-14B、N2O:GC-

3.結果

3.1 気温および雨量

 図-3に2013年の、図-4に2014年の調査期間中の日平均気温と日降水量を示す。なお、気温は調査圃場から約14km 離れた地点にある気象庁のアメダスで観測した値であり、降水量は調査圃場内で観測した値である。2013年は9 ~ 10月の降雨が多く、2014年は7 ~ 8月の降雨が多い年であった。

22 寒地土木研究所月報 №754 2016年3月

Page 5: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

0

40

80

120

160

0

10

20

30

40

2013/4/25 2013/5/25 2013/6/25 2013/7/25 2013/8/25 2013/9/25 2013/10/25

mm

0

40

80

120

160

0

10

20

30

40

2014/4/25 2014/5/25 2014/6/25 2014/7/25 2014/8/25 2014/9/25 2014/10/25

mm

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

4/19

5/10

5/31

6/21

7/12 8/2

8/23

9/13

10/4

10/25

11/15

CO2flux(m

gC/m

2 /h)

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

4/19

5/10

5/31

6/21

7/12 8/2

8/23

9/13

10/4

10/25

11/15

CO2flux(m

gC/m

2 /h)

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

5/4

5/18 6/1

6/15

6/29

7/13

7/27

8/10

8/24 9/7

9/21

10/5

10/19

11/2

11/16

CO2flux(m

gC/m

2 /h)

3.2 CO2フラックス

 図-5、6に2013年の CO2フラックスを示す。すべての乳牛ふん尿スラリー散布区において、化学肥料区と比較して施肥直後の CO2フラックスが大きい値を示した。図-7、8に2014年の CO2フラックスを示す。2013年と同様に、各種の乳牛ふん尿スラリー散布直後のCO2フラックスが大きい値を示した。表-9に、試験区毎の CO2フラックスの平均値±標準偏差を示す。2013年の CO2フラックス平均値は、原料液 A 区を除いた他の乳牛ふん尿スラリー散布区では化学肥料区に対して大きい値を示し、統計学的に有意な差が認められた。2014年の CO2フラックスは、すべての乳牛ふん尿スラリー散布区において、化学肥料区に対して有意に大きい値を示した。

図-6 CO2フラックス(2013その2)

図-7 CO2フラックス(2014その1)

図-5 CO2フラックス(2013その1)

図-3 日平均気温および日降水量(2013)

図-4 日平均気温および日降水量(2014)

寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 23

Page 6: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,6005/4

5/18 6/1

6/15

6/29

7/13

7/27

8/10

8/24 9/7

9/21

10/5

10/19

11/2

11/16

CO2flux(m

gC/m

2 /h)

-4,000

-2,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

4/19

5/10

5/31

6/21

7/12 8/2

8/23

9/13

10/4

10/25

11/15

CH4flux(μgC/m

2 /h)

-4,000

-2,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

5/4

5/18 6/1

6/15

6/29

7/13

7/27

8/10

8/24 9/7

9/21

10/5

10/19

CH4flux(μgC/m

2 /h)

図-9 CH4フラックス(2013)

図-10 CH4フラックス(2014)

表-10 CH4フラックス平均値

図-8 CO2フラックス(2014その2)

表-9 CO2フラックス平均値

3.3 CH4フラックス

 図-9に2013年の CH4フラックスを、図-10に2014年の CH4フラックスを示す。乳牛ふん尿スラリー散布直後に、CH4フラックスの大きな値が観測された。表-

10に試験区毎の CH4フラックスの平均値±標準偏差を示す。2013年および2014年の両年とも、化学肥料区の平均値はマイナスとなった。また、消化液 C 区および曝気処理液区の平均値はプラスとなったが、いずれの試験区の間にも有意な差は認められなかった。

3.4 N2O フラックス

 図-11に2013年の N2O フラックスを、図-12に2014年の N2O フラックスを示す。両年とも、春の施肥時には N2O フラックスは大きい値を示さなかったが、夏の施肥時には、消化液 C 区および曝気処理液区で大きい値を示した。表-11に試験区毎の N2O フラックスの平均値±標準偏差を示す。乳牛ふん尿スラリー散布区では両年とも化学肥料区と比較して大きい値を示

24 寒地土木研究所月報 №754 2016年3月

Page 7: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

CO2フラックスが大きくなることが確認されたと述べている。本研究の結果も、乳牛ふん尿スラリーによる炭素供給により CO2フラックスが大きくなったことが要因の一つとして考えられる。ただし、表-5に示したように、2013年に散布した乳牛ふん尿スラリー中に含まれる全炭素量は原料液 A 区で最も多いが、2013年の原料液A区のCO2フラックスは大きくなっておらず、今回の結果からはその理由を明らかにできなかった。 藤川ら6)は、消化液区および無施肥区のどちらの区においても、CH4フラックスは負の値を取り、土壌中に CH4が吸収されていることが確認されたと述べている。また、消化液区のガスフラックスの平均値の方が無施肥区より大きい傾向がみられたと述べている。一方、中村ら7)は、消化液施用直後にごく微量の CH4の発生が見られたが、CH4の発生、吸収の明確な傾向は見られなかったと述べている。本研究では、消化液 C区および曝気処理液区において、乳牛ふん尿スラリー散布直後に CH4フラックスの増加が観測された。嫌気性発酵では CH4が発生するため、消化液からは CH4が揮散する。また、好気性発酵後の曝気処理液からもCH4が発生する場合がある8)。すなわち、乳牛ふん尿スラリー散布直後の CH4フラックスの増加は、乳牛ふん尿スラリー中の CH4が大気中へ放出されたためと考えられる。ただし、藤川ら6)の結果は消化液を散布した裸地圃場での測定値であり、中村ら7)の結果は、コマツナまたはホウレンソウを栽培しているライシメーターでの測定値である。本研究では牧草地へ乳牛ふん尿スラリーを散布した結果であり、地表面での乳牛ふん尿スラリーの滞留状況や土壌中への浸透速度が裸地圃場やライシメーターとは異なると思われるが、これらが CH4フラックスの違いにどのように影響しているかは明確ではない。 中村ら7)は、土壌が乾燥したライシメーターに硫安を施用した直後では N2O 発生量が増加せず、その後の降雨で土壌水分量が多くなった後、N2O の発生量が増加したと述べている。また、消化液施用量が多いほどN2O の発生量が多く、その要因として、消化液施用にともない土壌水分量が増加したことをあげている。本研究では、2013年の春施肥時には散布前の24時間に16mm の降雨があり、2014年の春施用時には散布前の4日間に降雨はなく、散布後24時間に8mm の降雨が観測されており、土壌の乾燥状態に関係なく、両年とも春施用時には N2O フラックスが増加していない。一方、一番草刈取後の施肥時には、2013年では3つの試験区すべてで、2014年では消化液 C 区と曝気処理液区で

し、2013年は消化液 C 区が、2014年は曝気処理液区が化学肥料区よりも有意に大きい値を示した。

-100

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

4/19

5/10

5/31

6/21

7/12 8/2

8/23

9/13

10/4

10/25

11/15

N2Oflu

x(μg

N/m

2 /h)

-100

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

5/4

5/18 6/1

6/15

6/29

7/13

7/27

8/10

8/24 9/7

9/21

10/5

10/19

N2Oflu

x(μg

N/m

2 /h)

図-12 N2O フラックス(2014)

表-11 N2O フラックス平均値

図-11 N2O フラックス(2013)

4.考察

 藤川ら6)は、消化液区の CO2フラックスの平均値は無施肥区より大きく、C を含む消化液の施用によって

寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 25

Page 8: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

2014年の曝気処理液区において化学肥料区よりも大きい値を示し、両年とも有意な差が認められた。畑地に消化液を散布した既往の文献では CO2フラックスおよび N2O フラックスの増加が報告されており、本研究の結果から、牧草地への乳牛ふん尿スラリー散布においても、CO2フラックスおよび N2O フラックスの増加が認められた。

謝辞

 メタンおよび一酸化二窒素の分析は、資源保全チーム技術職員の佐藤雪華氏にご協力いただいた。ここに記して感謝いたします。

参考文献

1) 農林水産省:畜産統計調査、[http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tikusan/(2015.3.8)]

2) 北海道農政部畜産振興課:新搾乳システムの普及状況について、2014.

3) (独)北海道開発土木研究所:積雪寒冷地における乳牛ふん尿を対象とした共同利用型バイオガスシステム導入の参考資料、22-25、2006.

4) 北海道農政部:北海道施肥ガイド2010、pp.180-213、2010.

5) 長田隆、田中康男、和木美代子:バイアル瓶を採気容器としたガスサンプリングによる温室効果ガス 測 定、 農 研 機 構 研 究 成 果 情 報、[http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/3010017255

(2015.12.26)]6) 藤川智紀、中村真人、柚山義人:メタン発酵消化

液の施用による土壌から大気への温室効果ガス発生量の変化、農業農村工学会論文集、No.254、pp.85-95、2008.

7) 中村真人、藤川智紀、柚山義人、前田守弘、山岡賢:メタン発酵消化液の施用が畑地土壌からの温室効果ガス発生と窒素溶脱に及ぼす影響、農業農村工学会論文集、No.264、pp.17-26、2009.

8) 帯広開発建設部:平成9年度十勝地域環境保全型農業高度化検討委員会報告書.

N2O フラックスが増加している。2013年は施肥直後から小雨が降り出し、施肥後24時間で18mm の降雨が観測され、2014年は施肥2日前に9mm の降雨が観測された。また、2013、2014年の両年とも9月に N2O フラックスが増加しており、2013年は観測前日に2mm の降雨が、2014年は10.5mm の降雨が観測されている。このように、N2O フラックス増加前の降雨量は大小さまざまであり、今回の結果からは土壌水分量と N2O フラックスの関係は判然としなかった。年間のフラックスの平均値では、表-11に示したように消化液および曝気処理液散布区の N2O フラックスが大きい値を示した。藤川ら6)および中村ら7)の報告では、消化液散布区で N2O フラックスが増加したと述べられており、本試験でも調査年による違いはあるものの、乳牛ふん尿スラリー散布区において N2O フラックスが増加する結果となった。 本研究では、乳牛ふん尿スラリー散布時に発生するガスとして CO2、CH4、N2O を測定した。乳牛ふん尿スラリー散布区の CH4フラックスは、化学肥料区と比較して有意な差は認められなかった。一方、乳牛ふん尿スラリー散布区の CO2フラックスおよび N2O フラックスは、化学肥料区と比較して有意に大きい値を示した。すなわち、牧草地への乳牛ふん尿スラリー散布においても、畑地への施用時と同様に、CO2フラックスおよび N2O フラックスの増加が認められた。

5.まとめ

 液状の乳牛ふん尿スラリーは、バイオガスプラントで嫌気発酵処理されて消化液になるか、肥培かんがい施設で曝気処理されて曝気処理液となり、それぞれ液肥として圃場に散布される。本研究では草地における温室効果ガス揮散量の低減に向けた検討データを得るため、処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを採草用牧草地表面へ散布した場合の温室効果ガス揮散量を測定した。 その結果、CO2フラックスは2013年の原料液区を除いたすべての乳牛ふん尿スラリー散布区において化学肥料区よりも大きい値を示し、統計学的に有意な差が認められた。CH4フラックスは2013年および2014年の両年とも、化学肥料区の平均値がマイナスとなり、また、消化液 C 区および曝気処理液区の平均値はプラスとなったが、いずれの試験区の間にも有意な差は認められなかった。N2O フラックスは、2013年の消化液区において化学肥料区よりも大きい値を示し、また

26 寒地土木研究所月報 №754 2016年3月

Page 9: 処理方法の異なる乳牛ふん尿スラリーを散布した採草用牧草 …...In the experiments in this study, dairy cattle manure slurry treated in each of these ways was

横濱 充宏**

YOKOHAMA Mitsuhiro

寒地土木研究所寒地農業基盤研究グループ上席研究員(特命事項担当)

桑原 淳***

KUWABARA Jun

寒地土木研究所寒地農業基盤研究グループ資源保全チーム研究員

中山 博敬*

NAKAYAMA Hiroyuki

寒地土木研究所寒地農業基盤研究グループ資源保全チーム主任研究員博士(農学)技術士(農業部門)

寒地土木研究所月報 №754 2016年3月 27