目標管理型災害対応論...2020. 10. 27 人と防災未来センター...

2020. 10. 27

人と防災未来センター

アドバンスト／防災監・危機管理監コース

高原耕平（主任研究員）

目標管理型災害対応論

1. 本講義の目的

• 防災監（危機管理監）・庁内防災エキスパートの役割と求められる能力を理解する。

• その役割を遂行し、能力を向上させるための土台となる基本的な考え方と関連知識を学び取る。

本講義の構成• 1. 本講義の目的• 2. 防災監／庁内防災エキスパートに求められる役割と能力

• 防災監／庁内防災エキスパートの役割• 災害対応の3階層• 防災監／庁内防災エキスパートに求められる能力

• 3. 基本的な考え方と関連知識• A 一貫した方法に基づいた災害対応の指揮・調整

• A-1 目標管理型災害対応• A-2 庁内・庁外組織との調整• A-3 フェーズを意識した本部体制の組み替えと調整• A-4 資源管理• A-5 職員の安全・健康管理

• B 首長の補佐• 首長にしかできないこと• 補佐の要点

• C 人材育成・組織育成の指針設定• C-1 職員を育てる• C-2 組織を鍛える• C-3 体制を整える

• 4. まとめ

2. 防災監／庁内防災エキスパートに求められる役割と能力

• 近年の災害対応の動向• 防災監／庁内防災エキスパートの役割• 災害対応の3階層• 防災監／庁内防災エキスパートに求められる能力

近年の災害対応の動向

① 支援体制の複層化

② 自治体・被災者支援法制の進化

③ 被災の長期化

④ 防災と福祉の連携

⑤ 災害の「情報化」

防災監／庁内防災エキスパートの役割

■ 災害対策本部（事務局）の実質的なリーダー、マネージャー• 首長は防災対応の実務的知識を有していないことが多い。• 防災監等が、実質的なコンダクター（指揮者）として、

関係部局を束ね、マネジメントする。

■ 庁内と外部組織の間を調整するコーディネーター• 外部の防災関係機関との窓口となり、庁内との調整を行

うと共に、必要な資源について外部応援を確保する。

■ 災害対策本部長（首長）へのアドバイザー• 専門的な防災知識を元に、災害対策本部長（首長）に、

適切なアドバイスを行う。

■ 平時からチームの災害対応能力を高めるヘッドコーチ

災害対応の３階層

戦略Strategy

■「当面の目標」を超えた全体的な目標■そこに向けた取り組みの指針となるような原則・考え方

■戦術的な成果と戦略上の目標の達成をつなぐ計画・構想

■災害状況に対する個別的・具体的・技術的な対応、業務

戦術Tactics

防災監／庁内防災Ex

一般職員

首長

作戦Operation

防災監／庁内防災エキスパートに求められる能力

■ 一貫した方法に基づいた災害対応の指揮・調整（リーダー、マネージャー、コーディネーターとして）

■ 首長の補佐（アドバイザーとして）

■ 人材育成・組織育成の指針設定（ヘッドコーチとして）

3. 基本的な考え方と関連知識

A 一貫した方法に基づいた災害対応の指揮・調整A-1 目標管理型災害対応A-2 フェーズを意識した本部体制の組換と調整A-3 資源管理A-4 外部機関との調整A-5 職員の安全・健康管理

場当たり的な災害対応の例

X市本部会議

• 産業振興部「本日の食料は5,300食準備しました」

• 教育委員会「体育館がいっぱいのため、物資の保管場所がありません」

• 消防「避難所からの搬送は20件です」

• 市長「5日目の夜を迎え、被災者も職員もつかれきっている。休憩を取りながらもうひとふんばりしましょう」

• 単なる情報の報告にとどまっている• 担当部長が自ら重要事項の判断をせず、そのまま報告している

• 5,300食は不足なのか、十分なのか？• 搬送20件の内容・内訳は？対応は進んでいる？

• 市長から明確な指示が無い

なぜそうなってしまうのか？

◀一貫した方法が無いとき

とにかく目の前のことをやるしかない！

うまくいくの…？

課題だらけだ！

明日のことなんて考えられない

目標はここだな

現状はこうだ

いま大事な課題はこれ

一貫した方法が有るとき▶

「目標管理型災害対応」の導入

「関係者全体で被害の全体像に関する共通認識をもって、目標を明確にした対応計画〔目標と対応方針〕を作成し、戦略的な広報を行う災害対応」

（人と防災未来センター編「目標管理型危機管理本部運営図上訓練（SEMO）の開発」5頁、2010.3）

現状認識将来の状況予測

目標設定対応方針の決定

戦略的広報

① ② ③ ④ ⑤

目標管理型災害対応のプロセス

被災者と庁内は今、どのような状態か？

今後どのような状態になるのか？

被災者・被災社会を、いつまでにどのような状態にするか？

目標を達成するために、何をいつまでに実施するか？

目標と方針を明示し、今後の見通しと協力要請を明確に発信

現状認識

将来の状況予測

目標設定

対応方針の決定

戦略的広報

① ② ③ ④ ⑤目標管理型災害対応のプロセス

①現状認識

• 「被災者が現在直面している困難」を認識• 「災害対応本部の現状」を認識

• 災害対応関係者が「状況認識の統一」を図る

現状認識


目標設定


戦略的広報


①現状認識

報告「○○が不足しています！」報告「道路が寸断しています！」報告「避難所が○○箇所、避難者は◇◇人」

…ということは、どのような状況なのか？

「住民の半数以上が劣悪な状況下にある」「自組織の人員だけでは対応しきれないかも」「救出救助に全力を注げばまだ助かる命がある」

被災者と対応本部が「現在」「どのような状態」にあるのか、関係者間で統一した認識を持つ。

現状認識


目標設定


戦略的広報


推計の重要性

• 初動期は正確な数字を把握することは困難（被害家屋数、避難者数、必要な物資量など）

• 桁を合わせる程度の「おおまかな量」を見積もって動き出す。

• 「根拠のある数字が出てから動く」では出遅れる！

現状認識


目標設定


戦略的広報


②将来の状況予測

• 被災者の健康・生活と、被災社会の状況が、今後どのようになるのか（どう悪化するか）を予測する。

「3日後、１週間後、２週間後、１ヶ月後にはどうなっている？」「この状況だと、避難所でインフルエンザが蔓延するかもしれない」「いまは気が張っているが、そろそろ心身のストレスが限界を超える」

• 身近なひと（高齢者、子ども、障碍を持つひと等）の立場で想像してみる。

• 被災経験を持つ応援職員や他自治体に聞いてみる。

現状認識


目標設定


戦略的広報


情報の収集・整理・分析

• インフォメーション（報告されたままの断片的な情報）を、インテリジェンス（体系化され、判断に寄与する情報）に加工する。

• 「今日は幾つか？」にとどまらず「どのような傾向か？」を把握する。

• 「収集すべき情報の種類」と「情報整理の方法（方針）」を提示する。

現状認識


目標設定


戦略的広報



○月●日 X市避難者情報

避難所人数

A小学校 111人

B小学校 222人

C公民館 33人

・・

○〇〇 □□□人

＜インフォメーション＞＜インテリジェンス＞


避難所人数収容率前日の収容率

増減

Ａ小学校 111人 40% 30%＋10ポイント

Ｂ小学校 222人 100% 160%-60ポイント

Ｃ公民館 33人 120% 80%＋40ポイント

現状認識


目標設定


戦略的広報




避難所人数

A小学校 111人

B小学校 222人

C公民館 33人

・・

○〇〇 □□□人

＜インフォメーション＞＜インテリジェンス＞

現状認識


目標設定


戦略的広報



生活支援及びライフライン等の復旧、復旧・復興の取り組み状況

*遺体収容

**安否確認

葬祭・埋葬

弔慰金支給

食料

燃料

日用品

電気

水ガス

固定電話

ＩＴ環境

携帯電話

アクセス道路

下水

行政機能

警察機能

常備消防機能

医療提供

一般外来

学校再開

商店再開

仮設候補地

仮設着工

り災調査

り災発行

生活再建支援金

義援金

農林被害調査

水産業被害調査

中小企業相談窓口

雇用相談窓口

復興計画

ガレキ撤去

（道路

）

ガ

レ

キ

撤

去

（民

有

地

）

ガレキ処理

都市計画等

陸前高田市Ｙ R Y Ｒ YG Y YG Y Y Y Ｙ Y Y G Y Y G Y G R G R Ｙ Y Y Y R R Y Y G G ＹＹＧＹＢＲ大槌町Ｙ R Y Ｒ YG Y YG Y Y Y Ｙ Y Y G Y Y G Y G R G R Ｙ Y Y Y R R Y Y G G ＹＹＧＹＢＲ山田町Ｙ R Y Ｒ YG YG YG Y Y Y Ｙ Y Y G Y YG G Y G R G R Ｙ Y Y Y R R Y Y G G Ｙ G ＹＢＲ釜石市Ｙ R Y Ｒ YG YG YG Y Y Y Ｙ Y Y G Y YG G Y G G G Y Ｙ Y Y Y R R Y Y G G Y ＹＧＹＢＲ大船渡市Ｙ R G Ｒ YG YG YG Y Y Y Ｙ Y Y G Y YG G G G G G Y Ｙ Y Y Y R R Y Y G G ＹＧＹＧＹＢＲ田野畑村Ｙ R G Ｒ G YG G G G G G G Y G G G G G G G G Y Ｙ Y Y Y R Y Y Y G G Ｙ G Y ＢＲ野田村Ｙ G G Ｒ YG G YG G G G G Y YG G Y G G Y G G G Y Ｙ Y Y Y R Y Y Y G G Ｙ G Y ＢＲ

宮古市Ｙ R G Ｒ YG YG YG G G G Ｙ Y Y G YG G G Y G G G Y Ｙ Y Y Y R Y Y Y G G ＹＹＧ Y ＢＲ

岩泉町Ｙ G G Ｒ YG YG YG G G G G G Y G G G G G G G G Y G G Y Y R Y Y Y G G Ｙ G ＹＧＢＲ久慈市ＹＹ G Ｒ G G G G G G G G G G YG G G YG G G G Y G Y YG Y R Y Y Y G G Y G ＹＧＢＲ洋野町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y G G YG Y R R Y Y G G Ｙ G ＹＧＢＲ普代村 G Ｙ G G G G G G G G G Y G G G G Y G G G Y YG YG R R Y Y G G Ｙ G ＹＧＢＲ遠野市 G Y Ｒ G G G G G G G G G G Y G G G G G G G YG YG R R Y北上市 G G G G G G G G G G G G Y G G G G G G G Y YG R R Y一関市 G G G G G G G G G G G G Y G G G G G G G YG YG R R Y住田町 G Ｙ G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y盛岡市 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G YG Y R R Y

花巻市 G Ｙ G G G G G G G G G G Y G G G G G G G Y Y R Y Y

奥州市 G G G G G G G G G G G G Y G G G G G G G YG YG R Y Y

藤沢町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G YG Y R G Y

二戸市 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G YG Y R G Y八幡平市 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y雫石町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y葛巻町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y岩手町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y滝沢村 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y

紫波町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R G Y

矢巾町 G G Ｒ G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R G Y西和賀町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y金ケ崎町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y平泉町 G G R G G G G G G G G G G Y G G G G G G G Y Y R R Y軽米町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y九戸村 G Ｙ G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y一戸町 G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G Y Y R R Y

自衛隊資料

人的被害資料

埋火葬支援Ｔ

生活支援

（福祉

）Ｔ

情報対策Ｔ

燃料特命Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

情報対策Ｔ

完了

県土整備部下水道課

市町村支援Ｔ

完了

情報対策Ｔ

医療班

一般外来

完了

産業振興

（商工

）Ｔ

住宅対策Ｔ

住宅対策Ｔ

生活支援Ｔ

（福祉

）

市町村支援Ｔ

生活支援Ｔ

（福祉

）

生活支援Ｔ

（福祉

）

産

業

振

興

（農

林

水

産

）

産

業

振

興

（農

林

水

産

）

完了

完了

総合企画Ｔ

ガレキＴ

ガレキＴ

廃棄物対策Ｔ

都市計画課

人命被災者支援産業・雇用ライフライン社会機能復旧・復興生活支援

出典：牧紀男「標準的な災害対応システム論」講義資料

「外部応援部隊がひと目で情報を把握できるか」が目安

現状認識


目標設定


戦略的広報


③目標設定

• 被災者・被災社会を「いつまでに」「こうする」という目標を設定する。

• 例「年が明けるまでに、避難者全員を仮設に」

• 目標の基準• 評価可能であること• 達成の手段に多様性があること• 明確な表現であること• さらに将来の目標につながること

現状認識


目標設定


戦略的広報


④対応方針の決定

• 目標を達成するために行政組織が全庁的に共有する大局的な対応方針を決定する。

• 目標と対応方針を元に、各部局やチームが個別業務の計画を作成し、実施してゆく。

• 「いつまでに、何をやるのか」を明確に

現状認識


目標設定


戦略的広報


任務命令という考え方

■ 任務命令 Mission Command• リーダーが作戦全体の意図や目標を提示し、達成のための方法やそのための段階設定は現場に任せる組織運営手法。

• 任務命令を用いて分権的に活動を行う場合、全体管理が必要。定期的な報告機会を必ず設定する。

任務命令における決定権限の分担例

リーダーが提示すべき事項

✓ 意図（なんのために：Why）✓ 完了時期（いつまでに：When）✓ 目標（何をしてほしい：What）

現場で考えるべき事項✓ 分担（誰がどこを：Who, Where）✓ 方法（どのようにして：How）

現状認識


目標設定


戦略的広報


個別業務計画の作成

1) Ends：達成されるべき状態⇒年内の仮設住宅等の目処をたてる

2) Ways：最適な方法⇒意向調査をふまえた、みなし仮設と建設仮設の併用

3) Means：必要な資源⇒仮設住宅用地、建設業者、空家の確保

4) Risks：計画の実行に対する障害⇒期日までの用地確保、意向調査に係る住民合意、みなし仮設の不足、入居条件と入居者のミスマッチ

■ 計画立案者が検討すべき4つの事項

（U.S.J.C.S, JP5-0 “Joint Operation Planning”）

現状認識


目標設定


戦略的広報


⑤戦略的広報

• 災害対応の目標と対応方針を、住民と外部社会と職員へ向けて、記者会見・報道・HP・SNS・臨時広報紙・首長の直接の語りかけ等を通じて明確に示す。

外部社会

住民

庁内

目標と方針明確な表現

指示団結

説明と共感

納得と協力要請

支援

被害にあわれた方と直接お話をすると、復旧状況には、地域間で大きな差が生じており、

まだまだ多くの方が支援を求めている現状と、先の見えない不安に押しつぶされそうになっ

ている様子に心を痛めております。

こうした中、本市をはじめとする県内41市町村を対象に災害救助法が適用されたことを受

けて、来週には、被災者支援について具体的な検討を始め、被災された皆様の先行きの不安

を取り除けるよう努めてまいります。

本日の東京電力の会見では、1週間以内に概ね復旧ということですが、内容からはあまり期

待を持てるものではありませんでした。

引き続き、国や県、関係団体等との連携を強化し、様々な方面からご支援をいただきなが

ら、ライフラインや物資の確保に努めてまいります。（君津市長石井宏子 2019/9/13）

このたびの台風15号により被災された市民、事業所の

皆様に心よりお見舞い申し上げます。

停電の発生から、もう5日目の夜を迎えました。

本日もわずかに復旧が進みましたが、皆様さぞお疲れ

のことと思います。現状認識を提示

目標と方針を明示

市の主体的な判断を提示

現状認識


目標設定


戦略的広報


市長メッセージの事例

目標管理型災害対応の具体的事例

2019年度台風第15号での千葉県君津市の対応

（飯田市危機管理室提供）

目標管理型災害対応の具体的事例

2019年交番襲撃事件での大阪府吹田市の対応

経緯• 2019年6月、大阪府吹田市の交番で警察官が襲撃され、拳銃が奪われる。

（※重傷の巡査は7ヶ月後に復職）• 犯人が拳銃を持ったまま市内に潜んでいることが推測された。

吹田市危機管理室の対応（前年の大阪府北部地震の経験から目標管理型災害対応を導入）

• 状況認識「刃物による事件」「拳銃強奪事件」の2事件と捉える• 将来の状況予測犯人の目的不明。追い詰められると何をしてくるか不明。• 目標設定市民の生命を最優先とする。• 対応方針の決定最高レベルのリスク管理。• 戦略的広報市民と事業者へ協力依頼。

戦術レベルでの具体的な各部での行動計画• 明朝までに逮捕されなければ、保育園と小学校を休校にする• →休めない親をサポートするため、事業者に働きかけ

現状認識将来の状況予測

目標設定対応方針の決定

戦略的広報

① ② ③ ④ ⑤

目標管理型災害対応のプロセス

被災者と庁内は今、どのような状態か？

今後どのような状態になるのか？

被災者・被災社会を、いつまでにどのような状態にするか？

目標を達成するために、何をいつまでに実施するか？

目標と方針を明示し、今後の見通しと協力要請を明確に発信

推計が重要インフォメーションをインテリジェンスに

方針から対応計画へ適切な任務命令

評価可能、手段多様明確、大局的

記者対応、発信方法推計が重要


A 一貫した方法に基づいた災害対応の指揮・調整A-1 目標管理型災害対応A-2 庁内・庁外組織との調整A-3 フェーズを意識した本部体制の組み替えと調整A-4 資源管理A-5 職員の安全・健康管理

A-2. 庁内・庁外組織との調整

• 災害対応では、「どの部局の担当か」が曖昧な業務が大量に発生する。

• 担当者レベルの話し合いでは調整が付かない

• 権限を有する部局長レベルでの会議や、首長のトップダウンで決定する。

（現場レベルに任せない）

• 庁外の関係者との調整は、災害対策本部会議や合同調整会議等で行う。

A-3. フェーズを意識した本部体制の組み替えと調整

本部長

副本部長

健康福祉部

土木部市民部

本部事務局

本部たちあげ直後＝地域防どおりの本部体制

本部長

副本部長

健康福祉部

土木部市民部

本部事務局

避難所環境改善PT

柔軟に組み替えた本部体制

被災者ニーズの変化

想定外の課題の発生

特定部署への業務集中

• 元のタテ割り体制では、ニーズと業務の変化に対応できないことも• 災害状況・フェーズに合わせて組織体制を柔軟に組み替える

A-3. フェーズを意識した本部体制の組み替えと調整

• 平時組織移行型平時の庁内部局がほぼそのまま対策本部組織に移行する

• 組織横断型必要なサービス機能を「保健医療教育」「被災者救援」「食料物資」「生活基盤対策」「生活再建支援」「治安対策」と分類し、これらの応急対策部業務を複数の平時部局が実施（新潟県、中越沖地震）

• プロジェクトチーム型新たに生じた課題に対し、臨時のPTを編成して対応。• 課題指定型（セミPT型）

新たに生じた課題に対し、（複数の）応急対策部を関連付ける（佐賀県、2019年豪雨）

• スペシャルチーム型（強化PT型）特に緊急性の高い課題に対し、決裁権を持つ管理職をリーダーとするSTを編成し、現地に派遣する（熊本県、2020年豪雨）

• 新規部署型長期的に対応が必要な課題に対し、新規部署を創設して職員を配置する（「生活再建支援部」「復興部」など）

A-4. 資源の調達

平時

人員資機材施設

見積もり発注

納品

人員

参集できない！業務ノウハウが無い！業務過多！

資機材

足りない！使い方がわからない！壊れてた！

業務内容や各種調達はおおむね「いつもどおり」

施設

損壊した！他用途とかぶってた！

想定外に必要になる消耗品や資機材！

平常時とは異なる業務！

災害！

種類具体例制約の例対策の例

物資レトルト食品ペットボトル衣服

数量不足ニーズ不一致

事前集積県・国・協定先へ応援要請

設備・機材無線機段ボールベッド仮設トイレ

数量不足故障操作方法が不明

事前集積県・国・協定先へ応援要請

施設・空間避難所物資集配所廃棄物仮置場罹災証明書発行スペース

浸水の危険性地震で損壊停電他の用途と重複

耐震補強代替施設確保

移動・輸送手段トラックヘリ

燃料不足運転人員不足

協定による事前準備

インフラ道路通信サービス

通行止め渋滞

応援による啓開迂回路の事前設定

人員一般職員専門職

職員自身の被災代替要員の育成職員受援

財源災害救助法復興基金

救助法の適用逃し法制度の確認

A-5. 職員の安全・健康管理

■ 対応業務中・直後の被災• 2019年東日本台風の対応後、宮城県南相馬市の25歳男性職

員が帰宅中に車が水没、死亡。

• 2011年東日本大震災では地方公務員約300名、消防団員203名が殉職（公務災害認定）。

■ 対応業務の負担

• 熊本地震の対応に従事していた50代の阿蘇市職員が自死。後に公務災害として認定。

• 遺体収容等にあたる救助者の「惨事ストレス」は研究が始まっている• 他方で、被災住民と接し続ける職員の「対応業務ストレス」についてはほとんど対策されていない

• 防災計画と訓練に職員の安全・健康管理の観点を組み込むことが必要


B 首長の補佐災害時、首長が直面した課題首長が持つ３つの「顔」首長にしかできないこと事例東日本大震災「補佐」の要点

１．情報、被災イメージの不足直後の情報不足、被災社会についての想定、イメージ力の不足

２．自宅・家族の被災、登庁困難負傷した家族への対応、登庁手段、手順が未定。

３．施設、設備の制約庁舎や避難所が使えない。職務に集中できない。

４．関係機関の調整国、県、市町村間の情報連携、調整の難航、視察の受入負担

５．人員、専門知識の不足本部長（首長）を補佐する人員、担当者の不足

６．費用、制度の制約財政負担が不安で、十分な対策を指示できない

７．マスコミ、情報発信市民に情報が伝わっていない。マスコミ対応の負担が大きい。

災害時、首長が直面した課題

住民に向けた顔• 住民へのメッセー

ジの発信• 被災地状況のアン

テナ

地域外の様々な主体向けの顔

• 外部支援の要請• 外部への情報発信

行政職員に向けた顔• 災害対応業務全体の方向づけ

と重点の指示• 職員のモチベーションの向上

首長が持つ３つの「顔」

参照）越山健治,災害時の地方自治体首長の役割に関する一般的考察,2008年地域安全学会梗概集,pp.103-106

行政機構の長

住民の代表地域を代表する交渉役

■ 意思決定（目標の決定）• 住民と行政が目指すべき目標を決定する。

• 平時のルールの枠外の決断を下す。

• 決定した目標を住民に説明する。

■ 他組織への要請（目標の達成）• 国や県などの行政機関や民間組織（企業、メディア、

ボランティア団体など）に応援を要請／働きかける。

（権限の及ばない他組織を動かす）

首長にしかできないこと

住民代表

行政の長

交渉役

（河北新報 2011年5月1日）

意思決定の事例

東日本大震災・宮城県災害対策本部会議

■ 第12回災害対策本部会議（2011年3月14日）

環境生活部：被災地から遺体の埋葬を急ぐように要望あり。県警に対して検死の人員増強を要求

県警：人命救助などに人員を投入するべき

村井知事の判断：「人命救助を優先に」

意思決定＋戦略的広報の事例

大阪府北部地震・高槻市

■謝罪すべきは謝罪する。隠さない。推測を言わない。

今回のケースでは、首長が出て会見したことがよかったと感じた。首長自らが会見に臨ん

だことで「逃げた感じ」が出なかったという意見を多くいただいた。会見では、言い訳をせ

ず、事実を淡々と説明したことがよかったと思う。推測を言わないことも大切だ。職員にも、

「会見では、事実のとおり隠さず話をすること、分からないことは分からないとはっきり言

うこと、推測は言わないこと」と指示した。その後もさまざまな場面で記者の囲み取材を受

けた。こういう場合も、逃げずに対応したほうがいいと感じた。（高槻市長濱田剛史）

総務省消防庁編「市町村長による危機管理の要諦 H30年度の災害を中心とした事例集」

ブロック塀の倒壊で児童が亡くなったZ小学校の件でマスコ

ミの対応をする必要があり、自身当日の午後3時に記者会見を

開いた。その時点では、ブロック塀が倒れた理由は分からな

かったが、学校の施設が原因で児童が亡くなったのは明らか

だったので、市として責任を取るべきだと考え、謝罪した。

意思決定の事例

山形県沖を震源とする地震・山形県鶴岡市

総務省消防庁編「市町村長による危機管理の要諦 R元年度の災害を中心とした事例集」


これから協議して、深夜になれば学校や児童生徒への連絡が遅れる。

次の日の登校をどうするのかということは早く決めるべき重要な問題

だった。（鶴岡市長皆川治）

最初の対策本部の際、教育長と教育部長に、

小中学校をどうするのかと聞いたところ、

「これから協議して決める」とのことだった。

私は、「この場で決めてください」と迫った。

他組織への要請の事例

東日本大震災・宮城県災害対策本部会議


土木部：「災害査定を簡素化してほしい」

■ 第15回災害対策本部会議（3月15日）

阿久津内閣府政務官：「簡素化は必ず行う。心配ない」

村井知事「決断が速く助かる。省庁の縦割りを超え、要望すべてを受け止めてくれる」と評価。

（河北新報 2011年5月1日）

■ 適切な課題設定：「何を、いつまでに」の共有• 膨大な課題のなかで、本当に必要な課題を選び出す。

• 目標管理型災害対応のプロセスに沿って「何を、いつまでに」を先回りして首長と共有し、決断を準備する。

■ 戦略的な課題設定：復旧・復興像の共有• 拡大・維持・縮小

■ 価値観の共有と言語化• 「なぜ」（why）それをしなければならない/してはなら

ないか

「補佐」の要点


C 人材育成・組織育成の指針設定

C-1 職員を育てるC-2 組織を鍛えるC-3 体制を整える

■ 過去の災害対応の検証報告書を読み込む• 佐用町「台風第9号災害検証報告書」

• 南三陸町・東北大学災害科学国際研究所「南三陸町東日本大震災職員初動対応等検証報告書」

• 常総市「平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書 ―わがこととして災害に備えるために― 」

• 茨城県「平成 27 年９月関東・東北豪雨災害対応に係る検証一覧」

• 益城町「平成28年熊本地震益城町による対応の検証報告書」

• 広島県「平成30年7月豪雨災害における初動・応急対応に関する検証結果」

• 倉敷市保健所「平成30年7月豪雨災害保健活動報告書」

• 君津市「令和元年9・10月の風水害に関する報告書」

• 総務省消防庁編「市町村長による危機管理の要諦事例集（H29-R1）」

■ 読むだけでなく、実際に聞きにゆく

C-1. 職員を育てる

災害対応経験の吸収

■ 職員を応援に出す• 相互応援協定先や近隣市町村に積極的に応援職員を派遣

• 個別業務のノウハウをまるごと吸収できる

• 災害対応全体の「空気感」を体得できる• 熊本県Y町（2020年7月九州豪雨で被災）：「熊本地震の際に災害廃棄物仮

置場に支援に行っていたから、今回自分のところが被災しても廃棄物に関して何をすれば良いかわかっていた」

• 過去の「応援受援」の絆は被災時に無類の強さを発揮する

C-1. 職員を育てる

災害対応経験の吸収

■ 多くの検証報告や事例で「全庁体制」の不全が指摘• 災害に全庁で挑むという意識が不足

• 結果、防災部署に業務が集中

■ 訓練・WSを通じて「全庁体制」意識をつくる• 庁内訓練やWSを通じて、防災部署以外の職員に課題や不安

を発見・共有させる

• 庁内各部署に改善の目標と方針を立てさせ、進捗管理する

C-2. 組織を鍛える

訓練を通じて「全庁体制」意識をつくる

■ モノ• 意思決定や補佐がどれだけ優れていても、モノ（消耗品、食料、燃料、

機材、車、通信装置…）が不足していては現場職員は戦えない

• 必要な物資・資機材は年々変化する

• 目標管理の考えを平時にも応用し、購入・備蓄・試用を！

■ つながり• 協定、結んだままになってませんか…？

• 応援受援は定期訓練（と実戦）でホンモノに

■ ルール• 職員の長時間勤務の規則、緊急参集、本部執務室の使い方など

• 細かい部分は現場ノウハウの塊。ぜひ部下をエキスパート研修に！

C-3. 体制を整える

モノ・つながり・ルール

よし、全てがOKだ…

4. まとめ

防災監／庁内防災エキスパートの最も大切な仕事

• 判断に迷ったら、「被災者は、何を不安に思っているか」と、被災者の立場になって考える。

• 次に、被災者のために、「本部長は、次に何をしようと考えているのか」

（次に何をするべきか）を予測し、組織全体に徹底させる。

• 災害時、防災監のやるべきことは膨大。全部自分で対応しようとすると、必ずパンクする。

• 災害対応は、個人プレーではなく、チームプレーである。

• 優秀な危機管理幹部職員とは、自分以外のメンバーを育てて、組織力を高めることが出来る人。

「幹部職員の仕事は、人と組織を動かすこと」

「自分が作業してはいけない」

防災監／庁内防災エキスパートの最も重要な仕事は、自分の代理が出来る人材を、平時に育てること。

目標管理型災害対応論...2020. 10. 27 人と防災未来センター...

Documents