放射線科 井隼孝司にcvカテーテルが抜去されており通常の抗凝固療法...

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中心静脈カテーテル 以下 CV カテーテル挿入して欧米ではInterventional Radiologist により施行 されることが本邦でもその合併症沙汰れる病院機能評価機構からガイドラインが制定画像誘導下挿入推奨される時代となっているまたDPC 導入などの医療経済的問題新規抗癌 開発などにより外来化学療法重要性まる中心静脈リザーバー 以下 CV リザーバー急速しつつある当院でも外来化学療法目的には上腕 アプローチによる CV リザーバーが第一選択となって いる今回中心静脈カテーテルの合併症である静脈血栓 する論文紹介する1. Gonsalves CF, Eschelman DJ, Sullivan KL, et al : Incidence of Central Vein Stenosis and Occlusion Following Upper Extremity PICC and Port Placement. Cardiovasc Intervent Radiol 26 : 123 - 127, 2003 はじめに Interventional Radiologist による末梢静脈穿刺によ CV カテーテル PICC挿入CV リザーバー留置従来方法安全かつ安価であり近年増加傾向ある当施設でも年間 1250 PICC 挿入200 ポート留置上肢からっているこれら静脈留置バイスの増加静脈造影による留置血管評価 った対象および方法 過去透析シャントや静脈留置カテーテルの既往なくたに PICC 挿入あるいは上肢からの CV リザー バー留置った154 静脈造影所見retrospective 検討した静脈造影留置前全例施行1993 以前はヨード造影剤使用していたがCO2 した非利よりアプローチカテーテル先端SVC あるいは SVC-RA 移行部とした留置後静脈造 はデバイスから施行のため評価鎖骨下静脈より 中枢とし末梢静脈評価していない中心静脈常所見留置カテーテルおよび留置期間との関連ついて検討した149 PICC 挿入くの症例4Fr のシ ングルルーメンを使用したがダブルルーメンは 7Fr あるいは 6Fr 使用5 5.2Fr のポートカテーテル システムを使用した結果 留置前静脈造影では 150 97正常であった 3 2中心静脈狭窄1 1閉塞めた初回静脈造影follow up 静脈造影期間3 54 平均 19.4 でありfollow up 静脈造影 にて 8 中心静脈閉塞10 狭窄めた置前狭窄めた 2 閉塞進展したまた留置 腕頭静脈狭窄していた 1 40から 90狭窄進行したSVC 閉塞していた 1 では閉塞 末梢側拡大したカテーテルでは 7Fr PICC した 38 114Fr PICC では 14 13心静脈異常めたポート留置った 5 では 異常めなかった留置目的して正常群異常群めな かった異常所見めたうちの 3 鎖骨下静脈らの CV カテーテル挿入などの潜在的助長因子存在 したためこの 3 初回静脈造影時異常めた 4 除外すると中心静脈狭窄あるいは閉塞率711/147となった経過中中心静脈異常所見 経過えた 15 のカテーテル留置期間4 424 平均 138 であったのに異常めず 経過えた 31 のカテーテル留置期間6 568 平均 68 であり有意差 p 0.03めたなお異常所見した症例臨床症状めなかった考察 PICC あるいは CV リザーバーに静脈血栓症3 38報告されているその機序については Virchow 血管壁障害炎症による上皮障害血流停 凝固能亢進などを推測している今回調査では 中心静脈デバイスの挿入による静脈血栓症頻度7であった今回2 腎疾患患者において中心静 デバイスの挿入により静脈血栓症惹起シャン 作成不可能となったためこのような末期腎障 害患者では上肢からの中心静脈デバイスの挿入るべきとえられ透析学会のガイドラインでも推奨れている今回検討では症例数なく静脈血栓 とカテーテルには相関めなかったがGrove らは 4Fr では 15Fr では 6.66Fr では 9.8めたと報告している留置期間静脈血栓症発生有意相関めたが少数例での検討である ため今後多数例での検討必要である2. Chaitowitz I, Heng R, Bell K : Managing Peripherally Inserted Central Cateter-related Venous Thrombosis : How I Do It. Australasian Radiology 50 : 132 - 135, 2006 労働者健康福祉機構 山陰労災病院 放射線科 井隼孝司 IVR 会誌編集委員9292

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Page 1: 放射線科 井隼孝司にCVカテーテルが抜去されており通常の抗凝固療法 と保存的処置が施行された。残る17例ではカテーテ ルはそのままであり,理学的所見およびドップラーに

 中心静脈カテーテル(以下CVカテーテル)の挿入に関して欧米では,Interventional Radiologistにより施行されることが多く,本邦でもその合併症が取り沙汰される中,病院機能評価機構からガイドラインが制定され,画像誘導下の挿入が推奨される時代となっている。また,DPCの導入などの医療経済的な問題や新規抗癌剤の開発などにより外来化学療法の重要性が高まる中,中心静脈リザーバー(以下CVリザーバー)は急速に普及しつつある。当院でも,外来化学療法目的には上腕アプローチによるCVリザーバーが第一選択となっている。 今回,中心静脈カテーテルの合併症である静脈血栓症に関する論文を紹介する。

1. Gonsalves CF, Eschelman DJ, Sullivan KL, et al : Incidence of Central Vein Stenosis and Occlusion

Following Upper Extremity PICC and Port Placement. Cardiovasc Intervent Radiol 26 : 123- 127, 2003

はじめに Interventional Radiologistによる末梢静脈穿刺によるCVカテーテル(PICC)挿入やCVリザーバー留置は,従来の方法と比べ安全かつ安価であり近年増加傾向にある。当施設でも年間1250例のPICC挿入と200件のポート留置を上肢から行っている。これら静脈留置デバイスの増加に伴い,静脈造影による留置血管の評価を行った。対象および方法 過去に透析シャントや静脈留置カテーテルの既往がなく,新たにPICC挿入あるいは上肢からのCVリザーバー留置を行った154例の静脈造影所見をretrospectiveに検討した。静脈造影は留置前に全例施行し,1993年以前はヨード造影剤を使用していたが,後にCO2に変更した。非利き腕よりアプローチ。カテーテル先端はSVCあるいはSVC-RA移行部とした。留置後の静脈造影はデバイスから施行のため,評価は鎖骨下静脈より中枢とし,末梢静脈は評価していない。中心静脈の異

常所見と留置カテーテル径および留置期間との関連について検討した。 149例に対しPICCを挿入し,多くの症例で4Frのシングルルーメンを使用したが,ダブルルーメンは7Frあるいは6Frを使用。5例に5.2Frのポートカテーテルシステムを使用した。結果 留置前の静脈造影では150例(97%)が正常であったが,3例(2%)に中心静脈狭窄を,1例(1%)に閉塞を認めた。初回静脈造影と follow up静脈造影の期間は3日~54ヵ月(平均19.4ヵ月)であり,follow up静脈造影にて8例に中心静脈閉塞を,10例に狭窄を認めた。留置前に狭窄を認めた2例は閉塞に進展した。また留置前に腕頭静脈狭窄を呈していた1例は40%から90%に狭窄が進行した。SVC閉塞を呈していた1例では閉塞が末梢側に拡大した。カテーテル別では7Fr PICCを留置した38例(11%)に,4Fr PICCでは14例(13%)に中心静脈の異常を認めた。ポート留置を行った5例では異常は認めなかった。 留置目的に関して,正常群と異常群に差は認めなかった。異常所見を認めたうちの3例は鎖骨下静脈からのCVカテーテル挿入などの潜在的助長因子が存在したため,この3例と初回静脈造影時に異常を認めた4例を除外すると,中心静脈の狭窄あるいは閉塞率は7%(11/147)となった。経過中に中心静脈に異常所見を認め経過を追えた15例のカテーテル留置期間は4~424日(平均138日)であったのに対し,異常を認めず経過を追えた31例のカテーテル留置期間は6~568日(平均68日)であり,有意差(p=0.03)を認めた。なお,異常所見を呈した症例で臨床症状は認めなかった。考察 PICCあるいはCVリザーバーに伴う静脈血栓症の頻度は3~38%と報告されている。その機序についてはVirchowは血管壁障害や炎症による上皮障害や血流停滞,凝固能亢進などを推測している。今回の調査では中心静脈デバイスの挿入による静脈血栓症の頻度は7%であった。今回,2例の腎疾患患者において,中心静脈デバイスの挿入により静脈血栓症を惹起し,シャント作成が不可能となったため,このような末期の腎障害患者では上肢からの中心静脈デバイスの挿入は避けるべきと考えられ,透析学会のガイドラインでも推奨されている。今回の検討では,症例数も少なく静脈血栓症とカテーテル径には相関を認めなかったが,Groveらは4Frでは1%,5Frでは6.6%,6Frでは9.8%と,相関を認めたと報告している。留置期間と静脈血栓症の発生に有意な相関を認めたが,少数例での検討であるため,今後多数例での検討が必要である。

2. Chaitowitz I , Heng R, Bel l K : Managing Peripherally Inserted Central Cateter-related Venous Thrombosis : How I Do It. Australasian Radiology 50 : 132-135, 2006

労働者健康福祉機構 山陰労災病院放射線科

井隼孝司(IVR会誌編集委員)

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Page 2: 放射線科 井隼孝司にCVカテーテルが抜去されており通常の抗凝固療法 と保存的処置が施行された。残る17例ではカテーテ ルはそのままであり,理学的所見およびドップラーに

はじめに 近年,Interventional Radiologistによる画像誘導下CVカテーテル留置が従来のブラインド留置に比べ安全かつ迅速であるとの報告が数多く認められる。またPICCは簡便,安全,迅速でメンテナンスも容易であることから化学療法や輸液ルートに用いられるようになった。画像誘導下CVカテーテル挿入はブラインド穿刺に比べ合併症発生率も低いが,PICCと言えども皆無ではない。主な合併症としては,1.感染,2.フィブリンシース,3.血栓症があげられるが,なかでも血栓症は最も重篤な合併症になり得るもので,腫脹や疼痛などの急激な上肢症状や場合によっては上大静脈症候群を来たし得る。血栓症と診断された場合,通常はカテーテル抜去に引き続き,全身的な抗凝固療法が施行されるが,今回われわれは迅速な血栓溶解による症状の軽減および合併症の予防を目的としたPICCルートを利用したカテーテル交換による局所線溶療法を試みたので報告する。対象および方法 当施設では2年半に1000例を越えるPICC,鎖骨下静脈・内頸静脈からのCVカテーテル留置を行ったが,そのうち20例に静脈血栓症を認めた。全例,挿入側上肢の腫脹,疼痛,機能障害を認めた。3例は受診時にCVカテーテルが抜去されており通常の抗凝固療法と保存的処置が施行された。残る17例ではカテーテルはそのままであり,理学的所見およびドップラーにて刺入部から進展する血栓を確認した。その中で12例はPICCに関連する血栓症であり,今回の対象とした。全例でカテーテル内腔は開存していた。 使用器具は0.018インチ260~300㎝ガイドワイヤー,5Frシース,Angiodynamics社製多側孔カテーテル,パルススプレーインフュージョンポンプ。 方法は次の通りである。1.静脈造影にて血栓の状態を確認。2.CVカテーテルを生食にてフラッシュ。3.ワイヤー先端を曲げてPICC(当施設ではグローションカテーテルを使用)のスリットを通す。なお,使用しているPICCの種類により手技を考慮する必要がある。

4.ワイヤーを下大静脈まで進める。5.PICCを慎重に抜去し,5Frシースに交換する。6.シースから静脈造影を行い,血栓による閉塞長を確認し,適切なカテーテルを選択する。

7.Over the wireにて多側孔カテーテルを血栓内に進め,側孔が血栓内となり,先端が血栓の遠位となるように位置の調整を行う。

8.先端孔閉塞のためのワイヤーを挿入。9.パルススプレーインフュージョンポンプあるいは通常の輸液ポンプにて線溶療法を開始する。パルススプレーでは通常0.3~0.5㎖/pulseで使用している。投与レジメンはウロキナーゼ200,000単位を2時間で

注入し,ヘパリンを3000~5000単位のボーラス投与と1000単位/時間のインフュージョンとした。

10.2時間後に静脈造影を施行し,血栓溶解が不十分であれば,ウロキナーゼ100,000単位を12時間で注入し,ヘパリン700~1000単位/時間を併用した。われわれはこのプロトコールで十分と考えるが,必要であればさらに追加も可能である。

11.完全な血栓溶解が施行された後の残存狭窄に対してはバルーンPTAを施行。線溶カテーテルが適切な位置にあり,ベッド上安静を遵守している限り,脳出血や肺梗塞,刺入部血腫などの合併症は認めていない。

結果およびフォローアップ 全例において24時間以内に造影上,完全な血栓の消退と臨床症状の消失を認めた。臨床上のアウトカム評価基準として,1.上肢の腫脹がないこと,2.疼痛や機能障害がないこと,3.内服などの追加治療が必要でないことを挙げたが,6~12ヵ月の電話によるフォローアップでは,2例は悪性腫瘍により死亡,10例は基準を満たす満足する結果が得られ,症状の再燃は認めなかった。結語 PICCに起因する中心静脈血栓症に対し,PICCルートを利用した多側孔カテーテルによる局所血栓溶解療法は安全かつ有効な治療法と考えられる。

コメント CVカテーテルに起因する静脈血栓症発生頻度に関する報告にはバラツキがあるが決して稀ではない。しかしながら臨床症状を呈することが少ないのは,本邦ではPICCなどの末梢静脈穿刺によるCVカテーテル留置自体の頻度が少なく,鎖骨下静脈穿刺では側副路形成を生じることが多いことが理由として考えられる。坪井らは末梢静脈からのCVリザーバー留置において0.9%に鎖骨下静脈血栓症発生を認めたが,血小板凝集抑制剤投与により,その67%に血栓の消退を認めたと報告している。自験例においてもその多くはカテーテル抜去と抗凝固療法にて症状は軽快することが多く,今回紹介した論文のように局所線溶療法まで必要かどうかは疑問である。また,留置カテーテルのルートを利用する場合,長期にわたる症例では慢性静脈炎による繊維化によると考えられるカテーテルの抜去困難例もわれわれは経験しており,必ずしもカテーテル交換による局所線溶療法は容易とは言えない症例も存在する。なお,CVカテーテルの合併症および対処法に関しては下記文献に reviewとしてよくまとめられている。

Teichgraeber UK, Gebauer B, Benter T, et al : Central Venous Access Catheters: Radiological Management of Complications. Cardiovasc Inter vent Radiol 26 : 321 -333, 2003

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